「いい加減機嫌を直して飯を食うクマ」
「……要らない」
一人部屋なのだと思っていたのだが、案内された部屋には球磨姉ぇと多摩姉ぇ、木曾が居た。鎮守府に慣れるまでは姉妹と同じ部屋で生活をすると言うのがこの鎮守府の決まりみたいだけど、北上さんと一緒に暮らすことができたかもしれないという未来があったのでは?と自分で考え再び大きな溜息をついた。
「多摩のを少し分けてあげるにゃー」
「多摩はちゃんと肉も食えクマ」
「俺のも分けてやるよ」
「木曾も大井に野菜を押し付けるなクマ」
「3人は気楽そうで良いですねぇ……。 って、少し味が濃すぎじゃないです?」
このままだと多摩姉ぇと木曾の分まで食べさせられる事になりそうだと諦めて料理に口を付けるが、塩辛いと言うか醤油と言うか取り合えず味が濃い事に驚いた。
「……ん? そうクマ? じゃあ姉ちゃんのと交換するクマ」
「く、球磨姉ぇが料理失敗するなんて珍しいな」
「クマも木から落ちるってやつにゃ?」
交換しても一緒に作ったのなら同じでは?と思ったが、球磨姉ぇのお皿に盛られた料理を食べてみると先ほどのような味の濃さは無く至って普通の味付けだった。てっきり一緒に作っているのだと思ったけど、几帳面にも一人分ずつ作ったのだろうか。
「大井は午後から演習の予定が入ってるから少し塩を多めにしたクマ」
「そうですか。 それでもこんなのばかり食べてたら味覚がおかしくなってしまいますよ?」
「多摩もそう思うにゃ」
「さ、最近は暑いし汗もかくからな! 水分補給も大事だってよく言われてたよな!」
姉妹の団欒も悪くは無いと思う。だからこそここに居ない私の姉であり親友である北上さんの姿が無い事実が胸を締め付ける。きっと北上さんなら表情には出さないけど、騒いでる私達を見て心の中では誰よりも楽しんでいるのだと思う。
「それじゃあ後は片付けて置くから、木曾は大井を演習場に案内してやってくれクマ」
「あぁ。 大井姉ぇ行こうぜ」
「多摩は遠征に行ってくるにゃ~」
取り留めのない話をしながらの昼食は終わり、私は木曾の後ろを歩いて演習場へと向かう。色々と考えてみたのだけど今は北上さんの事よりも自分自身をどうにかしようという結論に至った。あの時見た北上さんの艤装は重雷装巡洋艦の物だったし、今のただの軽巡である私に失望したという可能性もあると思う。
「よし! 決めた!」
「な、何だよ。 急にでかい声出して」
「頑張って北上さんの練度に追いつきます!」
「……確か北上姉ぇの練度って99だったはずだけど」
「例え時間がかかってもやるのよ!」
予想よりも北上さんの練度が高い事に驚いたけど、だからと言って諦める理由にはならない。今はきっと相手にして貰えないかもしれないけど、北上さんの横に並んでも恥ずかしくない私を目指して頑張っていこうと思う。
「へぇ、なんだか面白い事言ってるねぇ。 練度上げたいなら私も付き合ってあげようか?」
「き、北上姉ぇ……」
「北上さんっ……!」
艤装を装着した北上さんが笑顔で私の肩に手を乗せてくれた。やっぱりこの前の出来事は何かの間違いで、北上さんも私の事を必要としてくれているんだと思い目頭が熱くなってしまう。
「木曾さぁ。 今日は出撃も遠征も予定入って無いよね?」
「あぁ。 提督には大井姉ぇの面倒を見てやれって言われてる」
「じゃあさ、少しの間を誰も通さないで居てもらえるかな?」
「き、北上さん……? 痛っ!」
私の肩に置いている北上さんの手に力が入っているのが分かる。徐々にその力は増して行き、私が痛みに顔を顰めて振りほどくまで続けられた。それはこれからの私に期待しているというよりも、敵意に近い感覚だと思った。
「練度上げたいなら相手の練度も高い方が良いでしょ? 相手側の子には話つけておいたから、私と2人で演習しよっか。 良いよね? 大井っち?」
「え、えぇ……。 北上さんがそう言ってくださるのなら……」
「提督はその事を知ってるのか……?」
「まさか、あの人がそんなの許す訳無いでしょ。 気に入らないなら木曾も大井っち側に入って一緒にやる?」
北上さんは笑顔が一瞬だけ崩れるのが見えた。ほんの一瞬だったけれど、背筋が凍ったかのような嫌な感覚に襲われる。この感情が何かを知っているのだけれど、私は北上さんにこんな感情を抱く事は無い、誤魔化す心とは別に身体は目の前の彼女の事を『怖い』と認識してしまっていた。
「お、俺だって今は北上姉ぇと同じ雷巡なんだ! いつまでも俺を舐めるなよっ……!」
「そういうのは震えてる膝を隠して言ってくれるかなぁ? 折角カッコいいマントがあるんだからさぁ~」
「き、木曾は関係無いですよね!? わ、私に話があるのならお付き合いしますし、練度上げに付き合って頂けるのであれば私は大丈夫です!」
北上さんが何を考えて居るのかは分からないけれど、この場で木曾にまで何かあってしまうのはまずい気がした。それに2人きりで話せば何か解決の糸口を見つける事ができるのかもしれないと思った───。