石で造られた長い螺旋階段、所々に火は灯されているが暗く乾いた足音が響き渡る。
登り終えると長い廊下、それも壁はなく一歩間違えたら下へ転落死するほど高い場所だ。
風はさほどないが突風が吹けば洒落にならない。
その先にある豪華な装飾の鉄扉を思い切り蹴り吹き飛ばす。
中には少女と下卑た笑身を浮かべる豚。
正確には魔族の類がそこにいた。
「人間風情がここまで来たか。」
豚が人語を話すなと思いそう返そうとすると、
「逃げて…はやく…」
掠れた声で涙を流しながら自分の身より他人の心配をし始める少女に、自分の種族の浅ましさや強欲さに嫌気がさす。
「私は!今!魔王となるのだ!!」
「喚くなよ、豚如きが。」
そう吐き捨てるとゆっくりと少女に歩み寄りながら問いかける。
彼女、魔王にとっては究極の選択を。
「お前の持つ魔王としての力、魔族の王たるその力とお前が望む自分の中の世界。選ぶならどっちだ?」
その問いかけに彼女は目を閉じて答える。
静かに叶わないその願いを。
「こんな力要らない…僕はただ…平和に過ごしたかった…」
「ふはははは!!無駄なことだ!歴代の魔王としての力を引き継いだ時点で戦いから身を引くなど無駄なことだ!!」
豚が歩み寄る青年へと視線を移すと、背後に周りどこから取り出したか剣を大きく振り上げる。
「さらばだ愚かな人間。」
振り下ろされた剣に少女は目を背ける。
好都合だ。
この豚の無惨な姿を見ずにすむ。
まずは剣を指で弾き破壊する。
驚く豚の顔が醜悪なので顔面を掴み地面へと叩きつける。
存外に丈夫な豚に舌打ちしながら拳を叩き落とす。
豚の頭から聞こえてはいけないなにかが聞こえる。
気にせず蹴りを放つと下半身だけが埋まった上半身を残して扉の外へと飛んでいく。
(ちょっと刺激が強すぎるか?)
そう思い埋まった上半身を引きずり出し下半身と同じように外へと蹴り捨てる。
抉れた地面と大量の出血痕はあるがさっきよりはまだマシだと言い聞かせ少女の方へと向き直る。
「もう一度聞く、その力全て失ってもお前は自分の希望を選ぶか?例え無力な存在になったとしてもだ。」
「あ、あれ?君、なんで生きて…」
あの豚に殺られると?
魔王の力を取り込んだかなんだか知らないが、吸収出来る容量がゴミ過ぎる。
魔王としての力の1割も吸収出来てないのにキャパオーバーとか危険視すらしない。
あんなのに殺られるのは勇者とかもてはやされてる凡人くらいだ。
「答えろ。お前は何を望む?」
少し答えを急くように威圧しながら尋ねる青年に、少女は肩をビクッと跳ねさせながら魔力の渦の中で答える。
「ぼ、僕はただ平和に過ごしたいだけなんだ!」
「ならば俺が叶えてやる。」
そう言って渦へと手を差すと魔力の余波が暴れ壁や天井が損壊していく。
慌てて少女はそんな自殺行為にも等しい事を止める。
「ダメだ!この魔力は僕でも制御出来ない!君の手が…えっ?」
「舐めるなよ?魔王の力を、この程度の力如きに屈するほど俺は鍛えていない!」
そう言って両手で渦を引き裂くと、部屋を木っ端微塵にした渦は他の城の外装をメチャクチャにして消えていく。
部屋は僅かな地面を残して粉々だ。
少女は青年を見上げると唖然としている様子だ。
それもそうだろう。
魔族の頂点に立つ程の、支配さえする力を凌駕した青年。
それを成し遂げてしまったのだから。
彼女の目には魔力の渦で吹き飛んだ黒い手袋から露になったその手。
と言うより、その手の甲についている赤い紋章が目に映る。
それが涙で霞んでいく。
「言ったろ?俺は出来ない約束はしないって。お前を幸せにするって。」
その言葉に彼女の目からはとめどなく大粒の涙がこぼれ落ち、大声でまるで子供のように声を上げる。
そんな彼女を青年は優しく抱きしめながら落ち着かせる為に背中を撫でる。
「5年も待たせた。本当にすまん。」
その言葉に彼女は青年の背中に手を回し、胸に顔を埋めたまま首を横に振るう。
ぎゅっと回された腕に力が込められる。
「それでも君は僕との約束を守ってくれた。…こんなに嬉しいことはないよ…」
「5年前の続きを言わせてくれ。」
そう言って青年は彼女を少し話すと真っ直ぐと目を見つめ掌を、紋章のついた方を差し出す。
その行為に彼女はどこか嬉しそうに少しだけ頬を朱に染める。
「例え世界を敵に回しても、お前を幸せにしてやる。だから俺と結婚してくれないか?魔王…いや、フェンリル。」
フェンリルと呼ばれた少女はもじもじとしながら、そっと青年の掌に自分の掌を重ね合わせる。
青年の紋章が赤く輝きを放つと、フェンリルの手の甲にも同じ紋章が浮かび上がる。
魔族の婚姻の儀だ。
「うん!僕を幸せにしてね!ゼロ!!」
彼、青年の名を呼ぶとフェンリルの紋章も輝きを放つ。
無事に婚姻の儀が終わり、彼らは今この場で夫婦となったのだ。
その光は魔王城から眩い程に放たれた。
次回、果たすべき約束!