「ひぃう!!」
あまりの高所からのダイブに変な声をあげるフェンリルを笑いながら、ゼロはみんなが集まっている壊れた一角の大広間へと降り立つ。
魔法陣から解き放たれたフェンリルの姿に喜ぶギルに涙ぐむブラッド。
その光景に満足そうな3人の元に場違いな姿の2人が現れた。
2人の姿にギルやブラッドは戦闘態勢、フェンリルに至っては悲鳴を上げてゼロの後ろへと隠れる。
「おいおい…随分な歓迎だなぁ?」
「折角仕事してきたのにー。」
全身返り血で真っ赤なカイとリパーだ。
リパーに関しては武器まで持っているから尚更だろう。
俺でも初対面なら警戒する。
「鏡見ろよ。同じこと言えたら頭のネジ狂ってるわ。」
「心配しなくても彼らも私たちの仲間ですよ。」
詐欺師の言葉に警戒を解く2人だが、フェンリルに関しては未だにビクビクしている。
カイから攻撃したきたのが人間の勇者である事を聞き、その問題解決の報告を知るとゼロは考えていた作戦を開始する。
物量で攻めてくる人間に有効な手段、それを向こうの世界で常に考え戦争を終わらせる事を目的として探っていた事もある。
そして見つけたのだ。
というより身に付いたのだ。
「フェル。協力してもらうよ?君の存在が鍵なんだ。」
そう言ってゼロはフェンリルの頭を撫でながらこれからすることについて説明し、それぞれへと役割を言い渡すと直ぐに行動に移した。
亡き魔王とフェンリルへの忠誠を秘めた穏健派の魔族への城への呼びかけをギルとブラッドが。
魔王の指示を聞かず独自の軍を持って行動し、人間と争いを続ける強硬派の説得または無力化をカイとリパーが。
魔王城の修復と更なる改装をホロウとハオが担当することになった。
フェンリルとゼロは、ギル達の呼びかけにより一目顔を見ようとする魔族の挨拶回りに追われた。
数々の贈り物を受け取りそれぞれの名前を名簿に記載していく。
所々、フェンリルを狙う者も紛れていたがゼロが行動を起こす前に穏健派に処理された。
穏健派の強さが異常だ。
強硬派など穏健派へのフェンリルの一言で恐らく直ぐに無力化出来るのではとさえ考えるほどだ。
敵に回すと恐ろしいが、仲間であればかなり心強い。
ゼロも自分について説明しようとするがその必要は無かった。
手の甲の紋章でフェンリルの夫という事は理解したようだ。
それに、魔族のために命懸けの戦いで人間軍を圧倒した英傑として魔族の間では有名らしい。
殆どの穏健派が知っていた事に気恥しい感じはあった。
それに英傑と呼ばれるほど大したことをしたつもりもない。
勝手に自分がした事だからと。
そう説明するもどうでもいいと言わんばかりに握手を交わし、感謝の言葉をそれぞれが述べていく。
そして着々と、ゼロの存在を広め全ての過程が終わった頃、ゼロは直ぐに作戦を第二段階へと移行し、少しだけ休みを取ることにした。
これで魔族側の動きはかなり減り、とある場所ひとつに人間の軍は集まりつつあった。
そして大事な彼女のサポートも忘れない。
様々な魔族との交流に気疲れしているのだろう。
ソファで居眠りするフェンリルをベッドまで運ぶ。
「襲うなよ?そんな下衆にも劣る奴に育てた覚えはないぞ?」
ゼロの影から静かに現れるハオを横目で睨みつける。
「そんな事するかよ。てかお前は俺の親か。」
そんなツッコミを静かに交わして部屋を出る。
そしてゼロのメンバー4人が、魔王城の周辺地図を広げて囲むようにそれを見る。
「この城は立地がいい。攻めいるならこの場所、必ずやここを通らなければ城には辿り着かぬ。」
「少人数なら崖からでもいいでょう。ですが軍となるとねぇ?」
「警戒すべきはここだ。勇者とやらはここから来た痕跡がある。」
「面倒だよねぇー。周りの崖少し斬って埋める?」
第二段階、何の憂いもなく魔王城を離れるための下準備。
この作戦はゼロが一時的に城を出てしまうため、城に残していくフェンリルに万が一が出ないための措置だ。
何人かの魔族とブラッドは置いていくがそれでも念には念をいれる。
「直ぐに行動するぞ。ホロウは魔王城周辺の崖の点検を。怪しい部分はカイに地形を変えてもらえ。ハオは強硬派の敗残兵をこちらに引き入れてくれ。そしてリパー。最終段階に移行する前に人間軍の下見頼む。隠密にな。」
ゼロの指示にそれぞれが動くとそれを止める。
この作戦はゼロ個人の為のものだ。
彼らにメリットはほとんど無いにも関わらず、嫌な顔ひとつせず指示を的確にこなしてくれる。
そんな彼らにゼロは少しばかり申し訳なさを感じていた。
「すまないな。お前達には迷惑をかける。ありがとう。」
その言葉に4人は満足そうに頷くと親指を立てて、
『仲間だろ?』
そう全員が告げると部屋を出ていった。
本当に感謝してもしきれない。
恵まれていると感じながらゼロは嬉しそうに笑みを浮かべ、最終段階へと向け最終調整を始める。
最終段階、ギルに頼み全軍を城の前へと配置させる。
全魔族が集合する圧巻の景色の向こうに人間軍が進行してきている。
先陣に立つゼロは黒いコートに銀の仮面、そして大きな高台に立ち見渡す。
準備は整った。
隣に立つハオと頷き合うと静かに息を吐く。
魔族はただ黙って息を呑むと静まり返る。
ハオが巨大な魔方陣をゼロの背後に展開するとゼロは語る。
「諸君、初めましての者やそうでない者もいるだろう。
私が亡き魔王あとの後継者である今の魔王だ。
納得しない者もいるだろう、人間が魔王などと不愉快に思う者もいるだろう。
何故ならば、人間は今魔族領へと侵攻してきている許しがたき敵だからだ。
理不尽に全てを奪われた者もいるだろう。
不条理な現実に打ちひしがれた者もいるだろう。
耐え難き苦痛を味わった、激しい怒りに身を焦がした。
理由は様々だろう。
だが私は思う!!
だからどうした、と
私が君たちに何かしたか?
いいや何も!
良くも悪くも私は何もしていない!!
王たる者が何もしないで王を語るなどただの傀儡と変わらん。
王とは!
民草の理想や願いが形となす存在だ!!
ならば示そう!
我が貴殿らの魔王たる器であるか!
人間が魔へと身を変えるその様をその眼で確かめるといい!!」
演説が終わると空気が、大気が震えんばかりの雄叫びがこだまする。
踏みしめる大地は揺れ、砂漠のような熱気が包んだ。
「覚悟しろ人間ども、私は甘くはないぞ!耐えられるものなら耐えてみせよ!!」
魔方陣に手をかざすと魔力をありったけ込める。
空になっても構わない。
この一撃こそ今後を左右する大事なもの。
最終段階なのだ。
このためにずっと調整してきた。
魔力をコントロールしてきた。
だからこそ失敗出来ない。
「刮目せよ!」
放たれた規格外の魔力の塊に空気が凍りつき、着弾した刹那に大気を光を飲み込むほどの威力が炸裂。
人間軍の6割が消滅し、残りも威力の余波で隊列が乱れ逃走兵まで出てきた。
阿鼻叫喚の人間に対し魔族は割れんばかりの大歓声を上げている。
「殲滅せよ!1人も生きて逃すな!根絶やしにするのだ!!」
そう剣を構えるゼロの言葉にギルが先陣を切って突撃する。
「魔王様が作ったチャンスを無駄にするな!全軍突撃!!」
恐ろしいほどに興奮している魔族たちが武器を持って大軍で押し寄せる。
圧倒的な物量差。
それに危険な奴はカイとリパーに始末するようホロウと共に間者として紛れている。
問題があるとすれば今の自分だ。
魔力を全て使った。
今も気力でなんとか立っている。
「しっかりせよゼロよ。」
倒れそうになるのをハオが支えると景色が変わる。
どうやら城の中へと戻ってきたようだ。
「しばらく休め。我が指揮を取る。」
「悪い…後は頼むよ…」
そう言ってゼロは意識を手放した。
ゼロを肩に担ぎハオは城の中を歩いていく。
はいはいはい!
ゼロさん強ぇー!
って訳でもないんですよ。
意識さよならと引き換えですしねー
あの一撃で人間側の総人口の3割以上減ったから、今後領土必要ないんだよね。
つまり戦争する意味がない。
となると次に起こす行動は………