複数人で構成されたチーム。
それは俗に言う勇者パーティと呼ばれるものだった。
それが野営しているところにゼロが自ら傷を負い近づいていく。
「た、助けて…」
少年に気づいた1人が慌てて駆け寄ると傷の治療を始める。
そして周囲を警戒しながら意識を失った振りをするゼロをテントへと運び込んでいく。
そして寝静まった頃にゼロ、今はマオという名の少年が動き出す。
静かに気配を消し寝ている男の首を口を抑えながら掻っ切り殺す。
そして同じようにもう1人殺していく。
同時に他のテントに火を放つと、出てきた女性の首を奪った剣で切り落とし、もう1人の身体には深く剣を突き刺した。
少年とは思えない程の躊躇いのない純粋な殺意。
未だに息のある女性は傷を治療しようとするが、マオがその手をナイフで刺し地面と縫い合わせる。
「喚くなよ人間。ズタズタに顔切り落とすぞ?」
下卑た笑みを浮かべるマオにフェンリルは僅かに恐怖した。
本当にあのゼロなのかと疑ってしまうほどだ。
「あんたなかなかいい身体してるよな?悪ぃけど身体少し貸せよ。」
そう言って服を無理やり引き剥がしていくマオは、身動きの取れない深手を負った女性を目の前で犯した。
泣き続け苦しそうな女性をまるで道具のように。
満足すると悪びれた様子もなく心臓に剣を突き刺す。
絶命する女性を気にもせず身嗜みを整えると金品と装備を盗み火をさらに放ち全てを燃やしていく。
「せめて土の肥料くらいには役立てよ。あはははは!!」
絶句。
あまりにも信じ難い光景に絶句していた。
それからも次々と現れる勇者パーティにあの手この手で近づき、次々と殺しては奪いを繰り返すマオ。
嬲るように、屈辱的に、残虐な行為に既にフェンリルは茫然自失の様子だった。
出会った頃の自分よりも少し若いだろう。
恐らく12歳程の少年とは思えないほどであった。
そしてそんな事を繰り返していると、兵士の目も厳しくなり巡回の範囲も広がった。
その事に逆にマオは笑みを浮かべながら武器を構える。
「雑魚が群がった所で変わらねぇんだよ!」
そう言って茂みから飛び出すと兵士の1人を思い切り斬りつけ蹴り飛ばす。
怪我した兵士を抱えるもう1人を目の前の死にかけの兵士ごと剣を突き刺す。
何度も何度も、息絶えても何度も剣を狂ったように突き刺す。
「ァァァアアア!!気持ちいいぃぃぃ!!あははあはははは!!」
頭を抑えながら涙を流して喜ぶマオの姿は確実に狂っている。
兵士の上に座り込むと次を待つ。
巡回通り現れる兵士を尽く返り討ち、その死体をどんどん積み重ねていく。
「姉さん見ているかい!?俺は強くなったよ!これで喜んでくれるよね!?」
嬉しそうにくるくる回るマオにフェンリルは首を横に振る。
違う。
君のお姉さんはそんな事を望んでない!
それははっきり言える!
きっと今の君を見たら悲しんでしまう!
「こんなの…お姉さんが不憫じゃないか…」
「貴方は害虫相手に涙を流しますか?今のゼロ、いえマオはそう人間を捉えています。」
次々と殺しては積み重ねていく人間の死体。
それが魔族領付近の人間領へと塔のように並んでいく。
それは魔族領でも問題となった。
人間のヘイトが全て魔族に向いてしまうからだ。
だから魔族側からも兵士が来たが、それさえもマオは手に掛けた。
それもそうだ。
自分の邪魔をするものはそれさえも許さない。
有象無象問わず自分に仇なす者は全て敵となった。
そして遂に、数年の時を経てマオの噂は彼にまで伝わった。
満月の夜。
彼はマオに会いにわざわざ赴いた。
その姿にフェンリルはどこか嬉しそうで複雑そうだ。
「お父…さん。ゼロを知ってたのはそう言うことだったんだね。」
「というと?」
「以前、お父さんはゼロの事を客人と言っていたんだ。」
「そんなことがあったのですね。」
魔王の存在にも恐れず少年は死体に腰掛けながら魔王を気だるげに見つめる。
死体の山から見下ろして。
「何の用だよおっさん。魔族に興味はねぇから帰れよ。」
「かなり凶悪な野犬がいると報告を受けた。気になったから見に来たが、どうやら野獣のようだ。」
「俺と殺るってのか?いつでもいいぜ?今日は人間も来ねぇから暇してたんだ。」
ギラギラとした瞳に溢れる殺気。
まるで人とは思えないほどの凶悪な笑みに魔王の表所も険しくなる。
「お前は何故こんなことを続けている?」
「さぁなぁ…もう理由なんて忘れた。」
マオは不思議そうに本気で今やってる事をなぜ始めたのか分からなくなっていた。
混乱するマオにホロウが一言呟いた。
「サイコパスと呼ばれるものです。」
「なんで戦ってるか分からないの?」
「彼の中の常識が今の日々になってるのですよ。もう姉の言葉も、親の愛も、誰かを好きになることもないでしょう。」
ホロウは「このままならですが」と付け加える。
「お前は誰かに愛された事はあるか?」
「愛?そんなもんで腹が膨れるかよ。」
「誰かから優しくされたか?」
「優しさねぇ?それで生きることが出来るのか?」
「生きることに価値はあるか?」
「価値なんてこの世界にすらねぇよ。もういいか?どうせ殺るんだろ?」
マオは死体の山を蹴ると思い切り魔王へと殴り掛かる。
咄嗟に取り出した剣の腹で止める魔王は数十m地面を滑りながら吹き飛んでいく。
「あはははは!やるなおっさん!!俺を…殺してみろよ!!」
そう言いながら数十の短剣を魔王へと投げ放つ。
魔力を纏わせ遠隔操作しながら魔王へと四方から飛んでいく。
「愛だの優しさだのと綺麗事ばかり!所詮この世は弱肉殲滅なんだよ!!」
短剣を弾く魔王の土手っ腹に鋭い蹴りが直撃して血反吐を吐く。
押されている魔王にフェンリルは心配しながらその行方を見ている。
その姿にホロウは心底感嘆した。
(魔王とゼロが生きてるのですから結果など見えているようなものなのですがねぇ…ほんとにゼロの言う通り美しいほどに真っ白な方です。)
「クソッタレな世界じゃなぁ!強者こそが法律なんだよ!!」
更に剣を両手に握り締めるとクロスに魔王を切り裂いた。
致命傷は避けているが、確実に押されているのは魔王の方だ。
その表情には焦りさえ浮かんで見える。
「てめぇが誰だかしらねぇが!弱いやつは黙って死んでりゃ楽なんだよ!!」
数百の剣が魔王の頭上から雨のように降り注ぐ。
圧倒的なまでの戦闘力、15の少年が保有するにはあまりにも大きすぎる力がここまで歪めてしまったのだろう。
そんな彼に身体から血を流す魔王は問う。
「なら何故、お前は泣いているんだ?」
無意識なのだろう。
マオが目元に手を添えると涙がとめどなくその手に伝う。
その事実にマオは混乱している。
「心の奥底では理解しているはずだ。お前の唱える自論は間違えていると。」
「うるせぇ!なんなんだ、なんなんだこれは!!」
「その涙は、お前が愛されていた証拠だ。」
「愛なんて要らねぇんだよ!!邪魔な感情だあぁぁぁ!!」
地面に思い切り両手を叩きつけ渾身の魔力を込めた。
地鳴りにも似た一撃に地面は割れ、死体の山が崩れていく。
両手から出血するがそんなことは気にもならず、寧ろ流れ落ちる涙が気になって仕方なかった。
「お姉さんは君にそんな事して欲しかった訳じゃない。真っ直ぐに胸を張って生きて欲しかったんだよ。」
フェンリルは混乱する彼に歩み寄っていく。
自然とその手はマオの頭へと伸びていく。
「僕は知ってるよ。ううん、知ることが出来た。君だって最初から愛されていなかった訳じゃない。沢山の愛が、優しさが君を追い詰めてしまったんだよ。」
そう、彼は愛されていた。
沢山の人達から。
村の人達だって最初から彼らへと憎悪を向けていたわけじゃない。
貧しいながらもとても暖かい村だった。
彼は優しかった。
人の為に涙できる程には。
その優しさのせいで彼は自分を見失ってしまった。
「だから思い出して?君のお姉さんが、最後になんて言って眠ったのかを。」
聞こえてはいないだろう。
フェンリルの声は届かないだろう。
これはマオの記憶。
だが、まるで聞いているかのようにマオはその場で黙り込んでいた。
フェンリル空気感半端ねえ笑