「あんた……何者だよ。」
静かに少年は問う。
魔王は剣を仕舞うと名乗った。
自分が魔王で一児の父であるという事を。
そして母、魔王にとっての妻が子供を産むと同時に亡くなった事を。
魔王の力に耐えられないそうだ。
母親の愛情を知らないようだ。
「はっ、いいじゃねえか。知らねえ方がいい事もある。」
そう言ってマオは立ち上がる。
「愛が憎しみに変わる瞬間なんて、味わった時点で狂っちまうよ。」
そしてそのまま、魔王に背を向け崩れた死体を置いてその場から去っていった。
魔王はそんな彼に言葉を投げかける。
「お前にも、愛する者が出来ることを願う。」
魔王の言葉が聞こえてかマオは軽く手を上げて姿を消した。
それからマオは人間の街で行われた勇者大会に顔を出した。
どれほどの人間が集まってるのか気になったからだ。
だが、相手にもならなかった。
あの魔王の方が断然骨がある奴だった。
一撃で折れる首の骨、まるで止まって見える剣さばき、人間など取るに足らない存在になった瞬間だった。
「こんなにちっぽけな奴らに俺は全て奪われたのか。」
怒りよりも呆れがこみ上げ相手するのも馬鹿らしくなった。
だから全て捨てた。
人間としての矜持も、人として生きることも。
名前も生まれも全て捨てた。
そしてゼロはただフラフラと魔族領へとその身を捨てた。
「お兄ちゃん大丈夫?」
行き倒れている所を少年に声を掛けられた。
鬱陶しい、放っておいて欲しいがそうもいかないようだ。
大人が駆け寄ってくると台車に載せてどこかへと運ばれていく。
(静かに死なせてくれよ…)
そんな事を考えていると村に着いたのだろう。
無理矢理降ろされると家に連れていかれ椅子に座らせられる。
人間を見たことないのか、多くの村人が物珍しさに集まった。
「人間がこんな所に何の用だ?」
「しっかりしろよ?ほら腹減ってるんだろ?これでも食え。」
「それにしても運がいいな!ここらは魔物も出るから食われるところだったぞ?」
あははと笑い声を上げる村人の中を割って1人の女性が料理を運んでくる。
野菜を使ったクリームスープにパンがひとつ。
「さぁお食べ?簡単なものしか出せなくて悪いねぇ?」
ニコニコとそう言ってスプーンを握らせられる。
ほんとに放っておいて欲しいのにお節介な魔族だった。
スープを1口掬って飲むとパンを齧る。
味も薄くパンなんて何の味もしない。
1人の少年の食事量なんて賄える筈がない。
美味しいとさえ思えない。
そんな料理に自然と涙を流している。
驚いた村人達など気にもせず、マオはガツガツと料理に食らいつく。
それを優しげな表情で見守る村の魔族たち。
「何かあったのか知らないけど、生きてりゃきっといい事あるよ!」
「そうだぞ?どうあるかより、どう生きるかが人生なんだ。」
忘れていた感情、これが温もりかと俯き涙を流しながら拳を握りしめる。
そんなマオに小さな少年がパンを差し出してくる。
「兄ちゃん大きいから足りないだろ?俺の1個やるよ!」
マオはその少年を抱きしめた。
優しさが今のマオにはキツかった。
直視出来ないほど眩しかった。
これ以上は溶けてしまいそうなほど甘美な時間だった。
「ありがとう………ありがとう………!!」
マオはそう感謝しながら、村の人達に土下座する。
そしてこの村に受けた恩を一生かけて返していこうと誓った。
「俺はゼロ、人間をやめた人間だ。」
こうしてゼロが出来上がった。
「いかがですか?シリアルキラーを見た感想は?」
あえてきつい言い方をするホロウ。
そのことに大してフェンリルは怒りもせずただ一言、ありがとうとだけ告げた。
「これは僕には話したくない過去だよ。どれだけ親しくても、信頼されても、この過去を僕は知ることが出来なかったと思う。」
フェンリルはそう言って幸せそうに流れていく村でのゼロを見ながら目を細める。
眩しいくらいにゼロの笑顔が輝いていた。
その姿にフェンリルはまた恋に落ちる。
「だからありがとうホロウさん、最初は意地悪な人だと思ったけどこんな素敵な光景を見せられたらね。」
そうはにかんで笑うフェンリルの顔が、ホロウには記憶の中で楽しそうなゼロと重なって見える。
やれやれと言った風に両手をわざとらしく広げて、「参りました」と告げてホロウは敗北を認めた。
「流石はゼロの惚れた女性。器が違うみたいですね。」
「ううん、前のゼロに会う前の僕ならきっとゼロを拒絶してた。」
でもねとフェンリルは後ろに手を組んで村の中を歩いていく。
今は亡き平和な村の中を懐かしむように。
その後ろを静かにホロウもついていく。
「この村があったから、この村でゼロと過ごしたから僕は成長できたんだって思うんだ!
だからね!
僕はまたゼロに恋しちゃったんだ!
全部知っても彼が好き!
だって彼は僕の王子様なんだから!」
挫ける時もあった。
挫折する時も、落ち込んでいる時もあった。
そんな時、彼はどこからとも無く現れて僕の支えになってくれた。
それを再認識出来た。
それだけで過去のゼロなんてどうでも良くなってくる。
「恋は盲目、確かにその通りのようです。」
ホロウはシルクハットを目深く被ると指を鳴らした。
「ではこれは私からのメンタルケアです。」
そう言って景色が変わった。
場所は変わって大きな桜色の葉を満開に輝かせる大木の下。
ホロウは桜と呼んでいた。
その下でホロウ達五人で食事をしている。
話はどうやらゼロの想い人の様だ。
カイとリパーが興味津々で聞いてくる。
ホロウとハオもどこか楽しそうだ。
「彼女は俺にとっては太陽さ。眩し過ぎる。例えこの身が焦がされても俺は本望さ。」
「ほぅ、お主がそこまで惚れた女か。」
「惚れた。それが愛だと気付いたのは別れる時さ。無性に離れたくなくなった。抱きしめて繋ぎ留めたいとさえ思った。」
「ヒュー。言うじゃねぇか!」
「俺がまた闇に堕ちそうな時、彼女の優しさに救われた。」
「まあ僕だったら皆殺しかな。腐った人間なんで。」
「それでも俺が俺で居られるのは彼女のお陰さ。」
「それで帰れたらどうするのですか?」
「プロポーズさ!もし断られて他に好きなやつが居ても俺は彼女が幸せならそれを死んでも守り抜く!」
歓声が上がり楽しそうに会食は続く。
長い間待たせてる事を指摘され落ち込むゼロ、冷やかされて顔を赤くするゼロなど自分が知ることが出来なかったゼロの姿がそこにはあった。
「好きなんだフェルが。」
その呟きにフェンリルは嬉しそうに答える。
「僕も好きだよゼロ。」
桜の木の下でそうまるで見つめあってるかのように呟いたその言葉に徐々に視界が白く染まっていった。
ゼロぇ…
リア充やな…
てか甘すぎてやばたん…