希望ーのあーさーだー
目を覚ますとそこは自分のベッドの上だった。
ゼロが少し離れた位置で下を向きながら椅子に座っている。
ぼんやりとする意識の中で彼の名前を呼んだ。
「マオ…」
その言葉にゼロは驚いたように顔を上げ、どこか苛立ちを見せながら拳を握りしめると立ち上がる。
「大丈夫そうだな。俺はそろそろ出る。しっかり休んでくれ。」
まるで逃げるかのように矢継ぎ早に言葉をかけるゼロにフェンリルは嬉しそうに笑う。
その様子にドアノブに手を掛けて立ち止まる。
「お前もガッカリしたろ?こんな上っ面の人間で。」
自嘲気味にそう吐き捨てるゼロ。
いつかは伝えなければならないことが今かもっと先かの違いだと、そう自分に言い聞かせ答えを聞く前に出ていこうとする。
確実に引かれていると思っていたからだ。
「ううん。良かったと思ってるよ。」
その言葉にまたも扉を開けた状態で立ち止まり今度は振り返る。
上体を起こしたフェンリルは優しく微笑んでいる。
同情も哀れみもないただただ優しい表情だ。
「馬鹿な…俺の過去は許されるもんじゃない…見たんだろ俺の過去を!!」
声を荒らげるゼロにフェンリルはホロウの名前を呼ぶ。
するとどこからとも無く現れるとゼロを近くに呼んでほしいと頼む。
紳士的に返事するとホロウはゼロの背中を押していく。
「賭けは私の負けですからね。それではいつでもお呼びくださいマイロード。」
「うん、でもプライバシーは守ってね!」
「もちろんです。入浴や睡眠、行為の最中など「お前を肉片に変えて異次元に放り込む。」事になってしまうので。」
ゼロの威圧的な言葉に少し冷や汗を流したホロウは失礼と一言断って消えていった。
フェンリルはゼロの手を掴むとそのままベッドへと引きずり込み、ギュッとゼロの頭を胸に抱く。
「知れて良かった。君が背負った辛さも病みも知ることが出来た。これで本当の夫婦だね。」
フェンリルの言葉にゼロは人間の結婚する時の宣誓を思い出していた。
どこで聞いたのか…ホロウか。
「僕はゼロの事をまた好きになったよ。過去を乗り越えた強い人なんだねゼロは。」
「俺は…お前の親父を殺そうとしたんだぞ?」
「関係ないよ。死んでないじゃないか。」
「沢山の人を魔族を殺した。」
「それと同じくらい沢山の人達を救ったじゃないか。」
「本当に俺でいいのか?こんな真っ黒な俺で…」
「ゼロがいい。ゼロじゃないとやだよ僕は…」
お互いが抱きしめる強さを強める。
そしてどちらからともなくキ唇を重ねた。
「優しくしてね…怖いことしないでね?」
「………保障は出来ないな。」
「無理矢理する?」
「フェルにそんな事したくない。」
「ゼロになら無理矢理されるのも……いいかな。」
「……………やっぱ保障出来ないわ。」
しばらくフェンリルの部屋のある階層から上下3階が立ち入り禁止になると、ハオとホロウは紅茶を啜りながら中庭でリパーとギルの剣技を見つめる。
ギルは本気で打ち込んでいるがリパーは片手間程度でそれを全て受け切っている。
「どうやら丸く収まったか。」
「そのようですねぇ。」
「ヒヤヒヤしたぞ。フェンリルが倒れた時など、お前を殺す勢いだったからな。」
「慌ててフェンリルさんの所へ逃げましたよ。」
「全く、存在すらも詐欺の様な奴だ。」
暫く優雅に過ごしているとカイが往診から戻ってきて席に座る。
スっと紅茶をホロウが差し出すとそれを一気に飲み干す。
「怪我人はこれで大丈夫だ。ったく医者はいねぇのかよ。」
「魔族は治癒魔法は専門外ですから少ないのですよ。」
「俺は壊す方が得意なんだがなぁ。」
「何を言う、お前の治癒魔法は我の出会った中で最高のものだ。」
ハオの褒め言葉をあまり嬉しくなさそうに机に突っ伏して手を上げて答えるカイ。
平和な時間な過ぎていく。
「おや?何やらゼロが慌ててますね?少し見てきます。」
「いいのか?流石にマズいと思うぞ?」
そう警告するハオだったが既に姿はなく、代わりに窓ガラスが割れる音とぐしゃっと地面に叩きつけられた人の姿がハオの前に広がった。
カイとハオは呆れてため息を吐くと、人であったろう目の前の肉を摘み治癒魔法を掛ける。
「酷い目に会いました。」
「「自業自得。」」
「ちょっと誰か相手変わってー!!」
「まだだリパーよ!!まだ負けていない!!」
「この人めっちゃ負けず嫌いー!!」
平和な時間が過ぎていく。
結論、フェンリルが事のあと恥ずかしさのあまり気を失った。
しばらくして人間側と魔族側の協議の末、不可侵条約を結ぶこととなった。
人間側に一切関知しない代わりに魔族側へも一切関知しないという事。
協力も敵対もしないという事だ。
次は滅ぼすとゼロ自ら魔法をチラつかせ脅迫までした結果だ。
そして、条約を結んだあとは戦争の尻拭いだ。
土地を耕し、緑を育み、村を作る。
ハオの完璧とも言える政策のお陰で魔族側は国として何とか立て直すことが出来た。
あれからフェンリルとゼロは田を耕し、農作業や復旧作業にも積極的に活動していった。
そしてその度に来る苦情をホロウが処理していた。
『いちゃつくなら他所でやって欲しい。』
そんな抗議文が圧倒的に多かった。
流石にこれにはホロウも参っていた。
そしてあんな賭けをした事を後悔していた。
そしてカイは魔王城の近くの城下町に医院を設立し、怪我人の治療はもちろんの事ながら魔族を生徒に取り、治癒魔法以外の治療の仕方をレクチャーしていた。
医療技術がない魔族側からしたらとてもありがたい事だ。
まだまだ経験や知識は少ないが、簡単な怪我くらいならカイ以外でも治せるくらいには知識を与えた。
リパーはギルに目をつけられてそのまま剣術指南役になった。
最初は抜け出そうとしたが、その度にギルに見つかり引きずられていくのが今では日課のようだ。
嫌々ではあるのだろうがら1度講義が始まればリパーは分かりやすく実演も織り交ぜ丁寧に教えていく。
なんだかんだリパー本人も楽しそうだ。
ハオは相変わらず国政で忙しいようだ。
常に難しい資料に眉を寄せている。
ゼロも時々顔を出しては一緒に考えるが、そこはフェンリルの方が得意なのかゼロよりもいい事を言うのでそちらを採用する。
流石は魔王の娘。
民を1番に考えられる最高の領主だ。
なんだかんだで国がしっかりと機能し始めた今日。
フェンリルとゼロはこの日を建国記念日にすることを宣誓し、新しい国が出来上がった瞬間だったら!
平和が1番!