月日は5年よりもう少し前の日、魔王としてではなく魔王の娘として街を訪れたフェンリルと出会った日。
俺は人間だ。
魔族でも、エルフでも、獣人でもない。
ただの人間。
まあちょっとワケありで魔族領に住んでいる。
年は18と少し、銀髪で長身であり見た目は少し目つきが悪いがイケメンな方だろう。
魔力はかなりの量保有してるし、圧倒的な力で身体能力で魔法を使わずに大会で勝利。
勇者としての称号を得た。
が、そもそも人間嫌いな俺は勇者としての役割を放棄し、地位も金も捨て名前も捨てた。
だからこそゼロと名乗っている。
「おーいゼロー。さっさと仕事引き上げるぞー。」
「はいはい、魔王の娘が来るんだろ?はぁ〜憂鬱…」
どうせ貴族とやらは民衆を軽んじる。
人あっての国なのに自分達が特別だと勘違いする老害を何度排除しようとしたことか。
魔王の娘が来るとあってか、小さな村はまるでお祭り騒ぎのようだ。
そこまで大した用事ではないと思う。
どちらかと言えば、家畜小屋の屋根の修理の方が最重要事項だと思ってる。
(まあおやっさんには世話になってるし、どうせ直ぐに帰るだろうなぁ…)
そう思い村を見渡す。
この村には本当に何も無い。
民家がちらほら見えるのと、綺麗な水が流れる小川、そして広大な農場と綺麗な森。
自然溢れるその場所がゼロが身を置く最もな理由だ。
鍬やスコップなど道具類を片付けていると、1匹の狼がゼロのズボンをくいくいと引っ張る。
1週間ほど前に森で助けた魔物の狼だ。
「ん?どうした?」
ゼロが気づくと少し離れじっとこちらを見つめる狼。
どうやらついてきて欲しいみたいだ。
「おやっさん、森でなんかあったみたいだ。ちっと行ってくる。」
「ん?その狼は…分かった。気をつけて行ってこい。」
ゼロは走る狼の後ろをピッタリついて行く。
森の魔物や動物が少し騒がしい。
何か問題があるとしたら誰かが自然にちょっかい出したのだろう。
(よろしい、ちょっくら誅罰だ。)
そんな事を考えていると、森の木々が遠くで何本か倒れ葉が揺らめくのを見た。
ゼロはそこへと一直線に狼の頭を撫で追い越していく。
「サンキュー、先に行く!」
木を蹴り器用に木々の間を縫っていく。
そして目的の問題が見えた。
息を切らせながら必死に腕の中にいる小さな魔物を抱えて走る。
怪我をしたこの子はどう見ても衰弱している。
このままだと危ない。
「待ってて!今安全なとこで治療するから!」
後ろを向くと体長10mくらいの大きな魔物が血走った目で追いかけてくる。
あまりの恐怖に腕が震えるが、それでもこの子だけは助けると決意して逃げ続ける。
今日は視察という事で護衛の数名と城を出た。
無機質な景色と違い自然豊かなこの地方の景色に感動した。
そしていつもより興奮してしまい、好奇心に負け森の中にこっそりと逃げ込み探検を始めた。
そこまでは良かった。
少ししたら引き返そうとさえ思っていた。
だが目の前で怪我をし複数の鳥の魔物に囲まれていたこの子を見つけ助けようとした結果、とんでもなく凶暴な魔物に追い掛けられる結果となった。
(はぁはぁ…もうだめ…せ、せめてこの子だけでも…)
「落ち着けおらー。」
突然そんな声が聞こえてくると、後ろの魔物に鎖が巻き付きその動きを封じた。
咄嗟に振り返ると1人の青年が魔物の動きを封じていたのだ。
「に、人間!なんでここに!?」
「あーそういうのいいわ。それよりお前には2つの道が用意されてる。」
指を2本突き出してそう言って問いかける人間の青年に腰を抜かし尻餅をつく。
人間は利己的で手段を選ばない野蛮な生き物だと父から聞いた事がある。
他種族の中でもその強欲さと傲慢さは目に余るとさえ言っていた。
「その子を俺に返し誅罰か、抵抗して誅罰されるかだ。」
「どっちにしろ僕は誅罰されるの!?」
「そりゃあこいつの子供を連れ去ったんだしなぁ。」
あれ親だったの!?
どおりで必死な形相をする訳だ。
子供が怪我してるし連れ去られるかもしれないと思えばそうなる。
「ごめんね。ちょっと待ってね。」
魔物の親にそう言って子供の怪我の治療をする。
回復系の魔法を唱えると怪我が少しずつ治っていく。
すっかり元気になった魔物の子は親に甘えるような鳴き声で擦り寄る。
鎖が外されると2匹は仲良さげに森の奥へと去っていく。
時たまこちらを見て頭を下げるような仕草をする2匹に軽く手を振り返す。
さて、問題はこれで解決したな。
親の子への愛情はいいものだ。
人間よりよっぽど人間らしい魔物だったな。
「さて、帰るか。お前も気をつけて帰れよ。」
「えっ?誅罰されないの?」
「なんだされたいのか?ドMかお前は?」
「ち、違うよ!!君が言ったんじゃないか!!」
そういえばそんな事言ったな。
でもあの子を助けようとしていたわけだから別にいいだろう。
流石の俺もそこまで鬼じゃない。
「あんた名前は?俺はゼロ。あー今は訳あって近くの村で居候してんだ。」
「えっ?人間が魔族に?」
「世話になってる。みんな気のいい人だからな。」
そう言って逃げてる最中は必死で気づかなかったのだろう、葉っぱや枝で切った小さな切り傷を優しく撫でて治療するゼロ。
「僕はフェンリル。よろしくゼロ。」
そう言ってゼロの差し出した手を掴み立ち上がるフェンリル。
だが直ぐに地面にへたり込む。
「あ、あはは。恥ずかしい話腰を抜かしてしまったみたいだ…」
フェンリルは申し訳なさそうに恥ずかしがりながら上目遣いで
「君の村まで…は、運んでくれない?」
(こいつ狙ってやってるのか?……いや天然か。)
少しドキッとしたのは彼のみが知る。
はい魔王との出会いですね
次で過去編は最後にしたいなぁー