怪しいセミナーかしら?
連れてきたのは何も無い真っ白な空間。
突然移動した事にギルとブラッドは軽くパニックになっている。
そんな2人の前にステッキを持ったホロウが現れた。
「ここは精神世界。夢のようなものです。現実の世界では貴方方は寝ている状態でしょう。」
「そ、そうか。随分と変わった魔法なのだな。」
「いえ、魔法ではありません。これは私の持つ特殊能力のようなものですよ。」
そう言って指を鳴らすと目の前には世界のミニチュアが出現した。
精巧に造られたそれに感嘆の声を漏らすブラッド。
ギルも物珍しそうにそれに食い付いている。
「それでは講義を始めます。まず先程の抑止力。1つ聞きたいのですが、何故あなた達は他の領土を攻めないのですか?」
そのホロウの問いかけにブラッドが他の領土を指さしながら答える。
人間側は物量により敗北は目に見えている。
エルフ側は魔法に長け、村自体見つけることが困難であること。
ドワーフ側は鍛冶に長け、一人一人の戦闘力が桁違い。
竜人側は平和主義者だが、その力や知識は魔族側とは雲泥の差がある。
他の国も同じようで攻めるとしても、それだけ大きなデメリットを伴いメリットがほとんど無い。
そう説明するブラッドにホロウは聞いた。
「えぇそうですね。では何故ここは攻められました?」
ギルは目を伏せると拳を強く握りしめた。
その問に対する答えはあまりにも騎士らしい彼女には屈辱的だった。
「我々が弱い…からだ。」
「正解です。他の国に対し魔族側を攻めた所でデメリットが低い。だから人間如きに攻めいられたのです。」
では、とホロウは他国の領地を指さして話を続ける。
「他の国と手を組んだ場合、それぞれの知識が、強みが、その兵力の一端が私達の力となった場合、人間側は魔族領に果たして宣戦布告したでしょうか?」
その言葉にハッとした表情を浮かべる2人。
気づいたのだろ、抑止力という言葉の意味に。
「それが1つ。そして2つ目、それは供給と需要です。」
「それは今までもあったが?」
「いえ、それでは足りません。もし、領土だけは広いこの国で全員が作物を育てればどうなりますか?」
「それは…食料はまあ補って余りある程にはなります。」
「だが、それだけで国は成り立ちはしないであろう。」
「だからこそ、他国からそれを元に他を補うのです。」
ホロウの言ってる事にまたも2人は首を傾げる。
ホロウは今度は世界のミニチュアを壊すと、景色が商店街らしい場所に変わった。
「領土がなければ作物を育てる場所も、人が住む場所も、物を保管する場所も何もかも足りません。つまり、鍛冶に長けていようと、魔法に長けていようともそれは同じこと。人間側が餓死する数は月に1万人程らしいですよ?」
あまりにも驚愕の事実に2人は驚いていた。
こちらでは飢餓に苦しむものがいないためそれほど食の事情があまりにも壊滅的だということに驚いたのだ。
「そう、だからこそ人間側と同盟を組んで食を提供する代わりに、向こうには働き手や他の向こうで有り余るものを積極的に供給してもらう。これが需要と供給です。」
ギルはなるほどと頷いているがブラッドは未だに腑に落ちない様子だった。
「それでは他の国の物資に依存してしまうのではありませんか?」
「いえ、共存はあっても依存はありません。同盟における3つ目のメリット。それが種族間の行き来なのです。」
「それがメリットなのですか?」
「えぇ、では流通が捗り他の種族がこの街に永住するとしましょう。そうですねぇ、ドワーフの方が来たとして鍛冶職人になりますか?」
「いや、皆がというわけではないのでは?」
「えぇ、ですが100人移動してくれば1人くらい鍛冶をするものがいるのでは?」
「確かに…」
「種族間の往来は知識の交換、特色の提供なのですよ。例えばこちらの耕作技術を向こうの領土で行えばある程度食は改善されます。こちらに向こうの腕利きの鍛冶師が来れば装備の質も上がるでしょう。」
「そうか!そういうことか!!」
ギルは何かに気づいたのか大きな声をあげる。
何度も頷きながら同盟を結ぶことの大事さを知った。
ブラッドは何も分かっていない様子だった。
そんなブラッドにギルが説明する。
「確かに依存しがちだが、もし同盟が切れた場合その国の技術はこちらにある。ある程度供給出来るし、もし戦となった場合同族を殺すことになる。抵抗があるものからは反感を買い国としては成り立たなくなってしまう。つまり抑止力にもなるから国の上層部も無闇に戦争となることもなくなる。」
「Excellent!その通りでございます!なので共存なのです。」
「なるほど、技術の吸収とそれによる供給の確保。そして戦争における抑止力か。」
「そして4つ目、生活水準の上昇。魔法の知識を得れば、無駄なことを省き余計な手間を掛けずに効率的になるでしょう。加工技術の知識を得れば今の装備の質も上がり買い換えることも廃棄する量も減るでしょう。人が増えれば、それだけ人手も多くなり生産量も収入も増えるでしょう。」
「安定した生活を送れるということか。なるほどそれはいい事だな。」
「それなら村民の方々も、貧しい思いをしなくて済むな。」
「そういうことです。1+1が3にも4にもなるという事です。それが同盟におけるメリットなのです。」
加速していく景色で人が徐々に増えていくと周りの建物や景観が良くなっていく。
それに目を輝かせる2人は同盟を結んだあとの未来に期待を膨らませる。
「私の講義は以上です。手を取り合うこと、それは世界平和への一歩なのです。1人で出来ないことは2人で、それでもダメなら3人で。1人で出来ることなど限られています。」
そう言って指を鳴らすホロウは一礼する。
瞬間、2人の景色は城の天井となり勢いよく体を起き上がらせる。
そこは医務室の一角で、ホロウは簡易な椅子に腰掛け本を読んでいる。
「お戻りのようですね。それでは先程の話、忘れぬようにお願いしますよ。」
そう言って帽子を軽く持ち上げて挨拶すると部屋から出ていく。
2人はホロウの話を何度も頭で繰り返しながら同盟への理解を深めていった。
そしてそれを他の者へと伝えていき、徐々に同盟における反対勢力を小さくしていく。
その様子をホロウやハオから聞き、カイとリパーと一緒に皆の反応を見て決断した。
「そろそろ動くとするか。最初はどこにするか…」
「でしたら、ドワーフ領など如何でしょう?」
背後で優雅に紅茶を飲むホロウにゼロは振り返り理由を聞く。
「今、あの国は食糧難に陥ってます。元々土地的に鉱石が多く殆どが炭鉱、加工職のため食料の供給が追いつかなくなったのでしょう。ギリギリの所ですね。」
どうやって知ったのかは謎だが、ホロウが嘘をつくことはほとんどない。
賭け事やゲームでは逆に嘘をつくが。
詐欺師と呼ばれる意味も嘘をつくからなど小さな理由ではない。
だからこそゼロはホロウを信じる。
「ならドワーフ領だな。ホロウ、使者として手紙を向こうの国のトップに渡してくれ。方法はお前の好きに任せる。あまりこちらのイメージを悪くするなよ?」
「畏まりました。それではすぐにでも。」
ゼロは予め用意していた手紙の1つをホロウに手渡す。
それを懐にしまうとホロウは消えていった。
交渉の時が迫る。
ちょっと難しい話になったかな?
まあ個人の考えが10割なんだけどね笑
話としてはどうかと思うわ笑