仕方なしにゼロはフェンリルを抱える。
いわゆるお姫様抱っこというもので。
「こ、これはちょっと恥ずかしいかな…」
「黙らっしゃい。腰抜けてるんだから背負ったらお前の腕に負担かかるだろ。」
そう言って黙らせると1匹の狼がゼロの前に現れた。
先程までゼロと一緒に森を走っていた狼だ。
「おー!問題は解決した!教えてくれてサンキューな!」
そう言って彼女を抱えたまましゃがみこみ狼の頭を優しく撫でる。
物凄く気持ちよさそうにしているのがフェンリルの目から見ても分かった。
この狼がいなければ今頃彼女がどうなっていたかは大体想像がつく。
「君が教えてくれたんだね。ありがとう、お陰で僕は助かったよ。」
そう言ってフェンリルも狼の頭を優しく撫でる。
大人しい狼なのか彼女さえ受け入れ、尻尾がはち切れんばかりに振るっている。
「そんじゃあ行くか。ウルフ!また問題があれば教えてくれ!」
その言葉に返事をするようにウルフと呼ばれた狼は遠吠えで2人を見送った。
なかなか賢いもんだ。
森を駆け巡りながら村に着くと何やら騎士装束の者と村人が集まり騒がしくしている。
何事かと思って近づくと1人の兵士がゼロ達に気づき、村の子供が大きな声でフェンリルの正体を叫んだ。
「あー!!魔王の娘さん!!」
「な、何だって!?」
あまりに驚きの事実にゼロは目を見開いてフェンリルを見る。
事実なのだろう、少し恥ずかしげに頬を掻くフェンリルは気恥ずかしそうに苦笑いを浮かべている。
ゆっくりと地面に降ろすと兵士の1人にゼロから引き剥がされ、複数の兵士が代わりにゼロを囲み武器を手に取る。
「貴様!人間が魔族領に何の用だ!!」
「待って!彼は…」
「おいおい随分な挨拶だなぁ?俺はこの村で生活してるんだぜ?ちゃんと税金だって払ってる。だよなおやっさん?」
そう言って囲まれた兵士の隙間から顔を覗かせるゼロに、おやっさんは頷き彼がこの村で仕事していることを告げる。
どれだけ彼がこの村に貢献したかもしっかり報告してだ。
が、それでも兵士は武器を納めようとせず村人にまで武器を構える者もいた。
その行動に少しだけゼロの眉が釣り上がる。
「おいおい、俺だけならまだしもなんで善良な市民にまで剣を向ける。相手が違うだろ?」
「黙れ人間、この村には魔族領を脅かし人間のスパイとしての疑惑がある。全員尋問だ。」
「魔族も人間と同じか。呆れたな。」
その言葉に兵士が剣を突きつけると、ゼロの姿はその兵士の横へと移動していた。
ゼロに気づいた時には突きつけられた剣が鍔元からへし折られている。
「俺に武器を向けるのは勝手だが、人間と知りながら俺を迎え入れてくれた村人にまで手を出してみろ。例え魔王だろうと容赦しない。」
「貴様!その言葉死を持って償うがいい!!」
「やめて!彼は僕を助けてくれた恩人なんだ!」
そう叫ぶフェンリルだが、囲んでいた兵士が一気にゼロに襲いかかってくる。
面倒なことになったと思いながら、ゼロはため息と一緒に襲ってくる兵士を一撃で無力化していく。
堅牢な鎧なのだろうがお構い無しに粉々に打ち砕いて。
「馬鹿な!!?銀で造られた鎧だぞ!!」
「その銀は誰が掘る?誰が加工する?その費用は何から出来ている?そんな事も分からずに村人達に武器を突きつけたのか?」
そう言って最後の1人に向かって折れた剣の柄を投げ渡す。
圧倒的な力量差にその兵士は迂闊には動けなかった。
「くっ!我々がいるから下民は安全に過ごせるんだ!!」
民衆を軽んじるその発言、自分の地位の奢り、その理不尽な発言にゼロは大きな溜息を再度吐く。
刹那、兵士の鎧も武器も全て破壊され丸裸になった。
ゼロはその兵士の後ろに駆け抜け一瞬で全てを破壊したのだ。
ゆっくりと振り返るゼロに兵士は恐怖した。
絶対に勝てないと。
「てめぇがそれを着ける資格はねぇ。ほら守ってやってんだろ?早く俺を倒せよ。」
そう言って1歩ずつ兵士に歩み寄りながら問う。
「まさか鎧がないから怖いとか言わないよな?
まさか剣がないから戦えないとか言わないよな?
まさか勝てないから逃げるとは言わないよな?
まさか民を守れないとか言わないよな?」
その一言一言に兵士は戦慄しまるでゆっくりと心臓を握りつぶらせていくような錯覚を感じていた。
さっきまで戦いを止めようとして叫んでたフェンリルも、ゼロの身を案じていた村人も唾を飲み言葉を発することが出来ずにいる。
それほどの威圧がゼロから放たれていた。
「く、このぉ!!!」
そんなゼロに倒れていた兵士が目を覚ましたのか、クロスボウの引き金を引く。
飛んでいくクロスボウの矢を見てゼロは慌てて村人の方へ移動すると、小さな男の子の前でその矢を止めた。
自分の左腕を犠牲にして。
「ぜ、ゼロにい…!!」
「大丈夫か?危なかったな…」
そう言って矢をゆっくりと引き抜くとそれを真っ二つに握り潰し地面に捨てる。
フェンリルが慌てて駆け寄り治療しようとするのを一睨みして退ける。
我慢の限界だ。
「テメェらに生きる資格はねぇ。」
恐ろしいほどの殺意に怯み上がる兵士だったがその時、
「そこまでだ!!何をしている貴様ら!!」
そう声がこだますると1人の女性が兵士とゼロの間に割って入ってきた。
丸裸の魔族が隊長と零した言葉を聞き、ゼロはその女騎士を睨みつける。
「てめぇが親玉か。どういう教育してんだこの雑魚どもは。」
ゼロのその言葉に目の前の女騎士は状況を自分の目で確認し始める。
フェンリルが何かいう頃には彼女の中で答えが纏まったのだろう。
頭を下げ謝罪の言葉を述べた。
「部下が失礼した。状況を見るにこちらに問題があったようだ。申し訳ないがここは穏便に済ませては貰えないだろうか?」
そう彼女が言った事に兵士が驚き何故謝罪するのか反論するが殴り飛ばされ地面に倒れ込む。
隊長からは怒気が溢れ、僅かに筋肉が膨張するのを感じた。
「黙れ!!大方お前らが勝手なことをしたのだろう!この村は数少ない税金をしっかりと納める優良市民だ!それに怪我まで負わせるとは何事か!!」
「し、しかし相手は人間です!!」
あの豚はマジで八つ裂きにしてやりてぇな。
そんな事をゼロが考えていると豚は再度殴り飛ばされ今度は数十m吹き飛んで気を失った。
スカッとしたぜ。
「馬鹿者が!!見掛けや生まれで判断するなど!愚の骨頂!!貴様は侮る人間よりも劣る!!!」
いやぁかっこいいなぁこの隊長。
この人にだったら俺命預けてもいいわ。
てか、人間側にもこんな人が1人でもいたらなぁ。
みんな自分の利益や足の引っ張り合いで険悪だったしな。
「済まなかった。私はギル。ギル=バートだ。」
「俺はゼロ、そこの箱入り娘に言っとけ。城より自然は恐ろしいってな。」
ギルがフェンリルの方を見ると服が汚れ所々が破れていることから森に入ったことは明確。
恐らく彼が姫を助けたのだろう。
姫が彼に手の傷の治療をしようとしているが、彼はそれを断っているようだ。
村人もゼロと名乗った彼の身を案じている。
(余程、この村で信頼されているのだろう。)
不思議と惹き付けられる彼を目にギルは自称気味に笑った。
カリスマ性が自分と違いすぎると。
終わらなかった笑
そして豚という言葉でお気づきかな?