それを知る事になる。
「魔王様!ご無事ですか!?」
鉄の扉が勢いよく開かれるとそこにはギルと未だに賊が捕まえられないからかフェンリルが連れられて来た。
そこで黒いコートを靡かせる銀の仮面を付けた青年が佇んでいるのを見て全員が警戒態勢を取る。
「よせ、私の客人だ。それより賊はそこの者が葬った。」
魔王自らの言葉にその場にいた者が、賊の排除を知り安堵し青年に敬礼をする。
青年は何のつもりかと魔王を見つめる。
「私は客人の相手で忙しい。全員この場を去れ。」
その言葉にギルは目の前の青年が気になりつつも仕方なくフェンリルを連れて出ていく。
まだ精神的にも幼い。
親の死に目になんてとてもじゃないが耐えられない。
それに加え力が一気に流れ込むなんて考えただけで悲惨なことになることは一目瞭然。
「短すぎる…彼女には酷な問題だ…!」
「ふっ。何をそんなに私の娘を気にする?なんだお前まさか惚れたのか?」
「さぁな…惚れたのかもな。俺みたいな真っ黒な奴には彼女が眩しすぎる。」
「なるほど…お前も相当な修羅場を潜ってきたか。」
魔王はそう言いながら指で弾いた黒塗りの重厚な鍵を青年に渡す。
僅かに魔王としての血脈の反応が見て取れる。
「この城の地下深くに聖域がある。代々守ってきたそうだ。」
「なぜ俺に?踏破しろと?」
「どうするかは自由だ。どうやらここの聖域が最初に造られたものらしい。」
「解読できたのかあの文字を!!」
「何十代と世代を変えてやっと一文をな。」
そう言って魔王は疲れたように椅子に肘を立て目を閉じる。
青年は鍵を一瞥し立ち去ろうとするのを魔王の言葉に止められる。
「僅かしか残されていない時間に娘の本当の意味での笑顔が見れて良かった。これもあの村の人間が、ゼロという人間のお陰だろうか。」
青年はその言葉に何も答えない。
と言うよりも、なんと答えていいか分からない。
「帰ってくるといつもあいつの話だ。全く、親としては複雑な気持ちだが………娘を頼みたい。」
そう言って眠りにつく魔王に答えは返さず青年は城を出ていく。
人間が戦争を仕掛けてくるとなると、辺鄙な村が先に狙われる可能性がある。
自分が住んでいる村の危機に焦りさえ感じていた。
銀の仮面を外し行き場のない怒りにただ震えた。
僕は1人で彼に会いに行った。
気づいていたからだ。
あそこにいたのが彼だということに。
顔や体格は隠せても、仕草や癖なんかは治せない。
だからこそ早く伝えたかった。
眠る父の傍らに落ちていた宣戦布告の紙。
その日付が今日だと言うことに。
なのに現実は甘くなかった
間に合わなかった。
それは一瞬のことで永遠の時にさえ感じた。
綺麗だったあの場所は今では地獄絵図だ。
炎に包まれ次々と殺されていく村の人達。
焼ける死体の匂いが酷くその場で嗚咽してしまう。
遠くで悲鳴が聞こえても恐怖で足がすくみ動くことも出来ず、ただ殺されるのを見ているだけ。
本当に無力だった。
そんな中で1人だけ果敢に戦いを繰り広げる黒い影。
お父さんの客人と言われていた人だ。
僕が知らず知らずに恋をしたあの人間。
叶うことなどないと泣いた日もあった。
そんな彼、ゼロが1人で善戦していた。
「かはっ!クソ!烏合の衆共が!!」
至る所に傷を作り、返り血と自分の血で真っ赤に染まる黒いコート。
なんとか退けたが、少し後ろからさらに部隊が迫ってきている。
「ゼロ!!」
咄嗟に叫び彼へと駆け寄る。
このままだと彼は死んでしまう。
早く避難させなければいけない。
「なっ!?フェル!!ここは危険だ!早く逃げろ!」
「ゼロを置いていけない!君も早く逃げるんだ!」
「ウルフにギルへ書状を運ばせた!増援が来るまで少しでも時間を稼ぐ!!」
「どうして…どうして君がそこまでするのさ!君は人間じゃないか!どうして…どうして……僕達魔族に優しくするんだ…」
フェンリルはゼロにしがみついたまま離れない。
その服を血で染めようと気にする素振りも見せない。
恐怖で震えている身体をそっと抱きしめる。
「種族は関係ない。俺は自分がやりたいと思ったことをしているだけだ。村人の何人かは避難させることが出来た。だがこのままだと追いつかれて危険だ。俺はこの村に救われたんだ。行き場のない俺を優しく迎えて美味い飯も食えた。その恩を返したいだけさ。」
そう言って空を覆う程の火矢を咆哮で吹き飛ばす。
「行け!早くギルを呼んでくるんだ!自分に出来ることをしろ!!」
そう言って突き飛ばすとゼロは天高く飛び上がり地面に拳を叩きつけ、砂塵と共に部隊の1部を吹き飛ばした。
戦う彼を見てフェンリルは急いで駆け出しギルの元へと向かった。
(このままだと間に合わない!早く彼の危機を伝えないと!)
そう思い道を外れた山の中へと入り最短ルートを選ぶ。
木々をかき分け急いで向かっていると、大きな魔物にぶつかりその場に倒れ込む。
擦りむけた膝から血が滲むが、魔物との遭遇にフェンリルは絶望していた。
(こんな時に…どうしよう…このままじゃ…)
助からない。
そう思った時だった。
小さな影が茂みから出てくるとフェンリルの傷を舐めとっている。
大きな魔物が月の光に照らされると、その正体はこの前助けた親子の魔物だった。
「知ってるか?魔物だって感情があるし知性はある。真摯に接すれば伝わるんだ。」
ゼロがそう言いながら数多くの魔物に囲まれている姿を思い出す。
自分一人では無理なら、どんなものにでも縋る。
彼のためならどんな事でもする。
「助けて!!僕をギルの所まで連れて行って欲しいんだ!!このままだと彼が!ゼロが死んじゃう!お願い助けて!!」
そう叫びながら大きな魔物へと抱きつき助けを懇願する。
すると魔物は子供を咥えるとフェンリルにそれを渡し、フェンリルを続けて咥えると背中へと乗せる。
その意味に気づいたフェンリルは、
「ありがとう!!」
そう感謝の声を上げ指を差す方へと魔物は木々を薙ぎ倒しながら森を駆け抜けていく。
まあ終わらんよね。
ちょっと長すぎるな〜