目が覚めたら艦娘と深海棲艦がリアルに戦争してた件   作:Sh1Gr3

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第六鎮守府の艦娘たち②

 

 昼食を終え、腹も満たされたところで、俺を含めた一行は食堂を後にした。

 先の話の流れから皐月と不知火も加わり、四人で特にあてもなく廊下を進んでいく。

 

 「さて、次はどこ行きましょうかねえ……」

 

 ふと前を歩く漣が言葉を投げる。

 

 「どこか行きたいとことかあります?」

 

 「……そうですね」

 

 少しだけ黙考する。行きたいとこと言われても、思いつく限りでは寮か工廠しかないのだが。

 すると、後ろを歩く不知火の足が止まった。

 

 「不知火はここで」

 

 「ん?どったの?」

 

 疑問に思った漣が不知火に訊く。不知火は無表情のまま応えた。

 

 「島風を呼びに行きます」

 

 「あー」

 

 秒で納得した声をあげる漣。横から皐月がやや呆れた様相で口を開く。

 

 「また遅刻?」

 

 「いえ、されては困るので」

 

 三人の会話に耳を傾けるも、いまいち話が見えてこなかった。なんとなく理解できたのは、島風が時間にルーズだってことぐらい。

 

 (島風……)

 

 島風といえば、艦これの公式でも大きく紹介されている、いわば看板娘の一人だ。ほぼ全てのステータスにおいて他の駆逐艦娘を凌駕し、またそのあざといまでのデザインは、多くの提督を魅了しているといっても過言ではない。ちなみに俺もその中に含まれている。

 果たしてこの世界は、島風をどこまで再現しているのやら。個人的にはかなり気になるところである。

 

 「それじゃ、漣たちも一緒に行きますか。神城氏も島風ちゃんとはまだ会ってませんもんね」

 

 「おっけー」

 

 漣の一言に皐月と俺も頷き、結局行き先は島風がいるという屋外広場に決まった。

 広場へと向かうため、ひとまず棟の外に出る。九月の末とはいえ、まだまだ残暑の厳しさを感じる季節。ジリジリと照りつける太陽が実に鬱陶しい。

 目当ての屋外広場はさっきまでいた棟のすぐ側にあった。歩いて少しもしないうちに、目の前に開けた空間が広がる。

 その中に確かに、一人の少女らしき姿が視認できた。少女はどう見ても人ではないメカメカしい何かと、トラックを楽しそうに駆け回っている。

 

 (うわ、やば……)

 

 それを見て率直に出てきた感想が「やばい」だった。なぜなら、遠くからでも島風だと分かる要素が、全て一望できたからである。広場の中を進み、島風のもとに近づくほどそれは顕著に表れていた。

 やましい気持ちなど誓って皆無だが、この歳になって初めて目のやり場に困る、なんて体験をするとは思ってもみなかった。

 

 「島風」

 

 不知火がちょうど、トラックを一周し終えた島風に声をかける。島風はこちらの存在に気がつくと、「おうっ!?」と聞きなれた声をあげた。

 

 「あれ、みんなどうしたの?」

 

 「遠征の時間です。まったく、時間は守れとあれほど注意したでしょう」

 

 「えー、まだ時間じゃないよ?ほら」

 

 島風が棟に設置された時計を指差す。時計の針は十二時五十分を指し示していた。

 

 「十分前には集合と念を押しておいたはずですが」

 

 「私速いからそんな必要ないもーん」

 

 「……」

 

 いかにも島風らしい台詞だ。しかし、今の不知火相手にその態度は、色んな意味で冷や冷やしてしまう。不知火はキャラ的に感情を顔に出すタイプではないが、表情が見えないからこそ怖い。無表情以上に怖いものはないのである。

 

 「ねえ、この人は?」

 

 島風の目が不知火から俺に移る。近くに来られるとますます目のやり場に困って仕方がない。

 どう切り出そうか迷っていると、漣が横から紹介してくれた。

 

 「ついさっき着任したばかりの神城氏。こう見えて補佐官ですぞ」

 

 「補佐官?」

 

 さすが漣、俺は便乗して頭を下げる。するとさらに島風が接近してきた。

 

 「……」

 

 じーっ。黙ったまま、まるで品定めをするかのような目線を向けてくる島風。

 まさかここまで近づいてくるとは思わず、びっくりして身体がのけ反りそうになるのをこらえていたら。

 

 「ねえねえ、あなた速い?」

 

 「へ?」

 

 島風はまるで予想してなかったことを訊いてきた。もっとも、彼女らしさの溢れる質問なのだが。

 

 「いや、俺は全然速く……」

 

 「私と勝負しよ!このトラック一周、どっちが速く走れるか競争するの!」

 

 「えっ」

 

 色々と戸惑いを隠せない俺氏。なんだなんだ、どうしてこうなった。

 

 「そこまでです。遠征の時間まであと……」

 

 「ほら!はやくはやくーっ!」

 

 「わ、ちょ……!」

 

 不知火の制止も一歩及ばず。腕を強く引っ張られ、島風のなすがまま状態に。

 結局俺は、島風と勝ち目0%のかけっこ勝負をすることになってしまった。

 

 

 トラックのスタート地点に立つ。横では競争相手の島風が、やる気満々の様相で立っている。

 開始の合図を今か今かと、ピョンピョン飛び跳ねながら待つ島風。跳ねるたびに「おうっ、おうっ!」とお馴染みの声が耳に入る。

 

 (そんなにやる気出さなくても……)

 

 島風とは対照的に、こっちは早くも負けムード全開で合図を待つ。島風といってもただの女の子、大の男が負けるなんて恥ずかしい。何も知らない人はそう思うかもしれない。

 だが俺は知っている。艦娘の身体能力はたとえ艤装を身につけていなくても、常人を遥かに凌ぐということを。つまり、俺なんかが勝てるわけないのだ。

 

 「頑張れ神城氏〜、負けるなー」

 

 「ファイトだよ補佐官!」

 

 横から漣と皐月の声援が聞こえてくる。でも何故だろう、嬉しいけど嬉しくない。

 

 「……」

 

 それから無表情のままだんまりの不知火が怖い。表情は変わってないけど、たぶん怒ってるんだろうなと推察した。

 ちらと時計に目をやる。遠征の時間まであと七分強。こんな勝負、早く終わらせなければ。

 

 「それじゃ連装砲ちゃん、合図よろしくね!」

 

 「キュイ!」

 

 島風の言葉で三体の黒い物体うち、一体がスタート地点横に立つ。島風だけではなく連装砲ちゃんまで再現しにかかるとは、語彙力の乏しい俺には、もはやすごい以外の感想が出てこない。

 

 「お兄さん、準備はいい?」

 

 「う、うっす」

 

 全然大丈夫じゃないけど、とりあえずやるしかなさそうだ。軽く深呼吸をしてから、スタートの合図に備える。

 トラックの長さはおそらく200mぐらい。果たして今の俺に、全力のまま完走できるだけの体力が残っているかどうか。

 

 「位置についてー!よーい……」

 

 そして。

 ドン、と連装砲ちゃんが雲一つない空に空砲を放った。

 

 (っ……!)

 

 合図と同時にスタートを切る。フライングすれすれの最高のスタートダッシュだ。

 

 「わっ、お兄さんはっやーい!」

 

 右斜め後方から、感心したかのような島風の声。観戦中の漣たちからも「おおっ」と驚きの声があがる。

 不幸中の幸いというべきか、スタートは島風よりも速かったらしい。もしこれが200m走ではなく3m走なら、俺の勝利で終わっていたのに。

 

 「でも、スピードなら私も負けませんよー!」

 

 びゅん。

 突然吹いてきた横風に体勢が崩れそうになる。

 その直後。

 

 「……は?」

 

 目の前の光景に、俺は自身の両目を疑った。

 なんと横風は島風が俺の横を走り抜けた際に吹いたもので、当の本人は既に遥か前方を走っていたのである。

 

 (はあ?!)

 

 凄まじく速い、速すぎる。まだスタートから五秒と経っていないのに、島風はもうトラックの半分を走り抜けている。

 やがて島風は、文字通りあっという間に200mのトラックを一周し終えた。

 

 「ゴール!」

 

 二体の連装砲ちゃんが持つゴールテープを切り、この競争において島風の勝利が確定した。分かってはいたけど、まさか艦娘の身体能力がここまで凄まじいとは。他の人が見たら大騒ぎだろう。

 息も絶え絶えに最終コーナーへと突入する。島風に負けたのはこの際おいといて、それよりも自身の体力の低下が著しいことに焦りを感じた。

 

 「ほらあ、遅れてるぞー!」

 

 「あとちょっと、頑張れ補佐官ーっ!」

 

 ゴールから大声で声援を送ってくる漣と皐月。さらに島風が切ったテープとは別に、連装砲ちゃんが新しいゴールテープを持って俺の到着を待っていた。

 

 (やめてくれ……こっちが恥ずかしい……)

 

 島風に遅れること数十秒。顔から火が出そうなほどの羞恥心とともに、何年ぶりかの200m走をようやく走り終えた。

 

 「やべえ、きっつ……」

 

 大学生になってからというもの、ろくに運動もせず、休みの日には家に引きこもる毎日。体力が下がるのも当たり前の話である。

 対して島風は余裕も余裕、疲れの色など微塵も見えなかった。

 

 「ねえ、どう?私速かったでしょ?」

 

 膝に手をついて息を整えていたところ、島風が駆け寄って来た。その表情は実に満足げだ。あまりにも力の差がありすぎて落胆させてしまわないか不安だったけど、どうやら杞憂だったらしい。

 俺は少しほっとすると、絶え絶えの息のままなんとか頷いた。

 

 「やっぱり?そうよね、だって速いもん!」

 

 ふふん、と胸を張る島風。ゲームでMVPボイスを喋る時はいつも、こんな感じで言ってるんだろうなとか想像してしまう。

 

 「でもお兄さんも速かったよ!走っててすっごく楽しかった」

 

 「はあ……」

 

 速い要素などどこにも見当たらないように思えるが、何はともあれ満足してくれたのならよかった。

 すると途端に、島風がはっとして時計を見上げる。

 

 「あっ、いけない。私もう行かなくちゃ」

 

 つられて時計を見ると、一時まで残り二分を切ろうとしているところだった。

 

 「またかけっこしようね!次は負けませんから!」

 

 そう言い残し、島風は連装砲ちゃんと一緒に広場を去って行った。

 やれやれ、もうなにがなんだか。この次はもう少し落ち着いて話がしたいものである。

 

 「……では、不知火も失礼します」

 

 ぺこりと一礼してから、不知火も広場を後にしようとする。

 俺のせいで遠征の時間ギリギリになってしまったのだ。怒ってないように見えても、内心では腹を立ててるかもしれない。

 ここで何か気の利く言葉でもあればいいものの、疲れてるせいか何も思い浮かばなかった。

 

 「うは、めっちゃ疲れてるじゃないですか」

 

 「大丈夫?顔真っ青だけど」

 

 未だ肩で息をする俺を見て、漣と皐月が声をかけてきた。心配してくれるのはありがたいけど、俺なんかのことよりもっと気になることがある。

 

 「遠征の時間、大丈夫ですかね……」

 

 不知火と島風の他に霞もいるのだ。霞だって絶対に時間には厳しいはず。遅刻しようものなら、一体どんな罵声を浴びせられるやら。

 そんな俺の不安をよそに、漣は手をひらひらさせながら言った。

 

 「問題ないですヨ。ああなった島風ちゃんは、霞ちゃんにも止められませんからね」

 

 「はあ……そうなんですか」

 

 漣がそう言うならと、心の中で自分を納得させる。やっと息も整ってきた。

 

 「それにしても、やっぱり島風は速いね」

 

 と皐月。

 

 「あれだけ速かったら砲弾も魚雷も全部避けられるのかな」

 

 「どうだろうね。速ければ何でもできるってわけでもないし」

 

 「分かんないよ。砲弾とか全部止まって見えるかも」

 

 「……そいつは魅力的ですな」

 

 確かに魅力的な話である。

 そういえばゲームの方では、缶とタービンを組み合わせて速力を上げることもできたっけ。この世界でもそれは可能なのだろうか。

 

 「僕もこれから毎日走ろっかなー。漣も一緒にどう?」

 

 「いや、漣は今のままで充分満足してますゆえ。誘うなら神城氏でどうぞ」

 

 「ああ、いいねそれ」

 

 漣の言葉に即首肯する皐月。

 しかし、頭の中で速力調整のことを考えていた俺には、二人の話はほとんど耳に入っていなかった。

 

 

 

 

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