目が覚めたら艦娘と深海棲艦がリアルに戦争してた件   作:Sh1Gr3

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第六鎮守府の艦娘たち③

 

 「うーん……」

 

 鏡を前にこうして唸り声をあげるのも、もう何度目だろうか。

 どの角度から見ても、自分にはミスマッチな制服と、似合わない自分自身に嫌気がさしてしまう。これ以上は埒があかないと諦め、ようやく鏡から目を離した。

 

 そんな鏡を前にして一体何をしてたのかというと、塚原さんに言われた通り、用意された制服に着替えていたのである。

 島風との競争後、漣の提案で次の行き先が工廠に決まったため、いったん寮に立ち寄り、着替えた方がいいだろうということになったのだ。

 

 寮は鎮守府敷地内の外れの方にあった。最近建てられたのか、見るからに清潔感に溢れていて、一人で住むには勿体ないとさえ思わせる。室内も案の定、俺にとっては充分すぎるぐらい広かった。

 

 「……もういいや」

 

 普段なら自分の服装にここまで気を使うことはないのだが、これから俺が会うのは夕張さんと明石さん。へんてこな格好を晒しては、何を思われるやら分かったものじゃない。

 漣たちを待たせているので、荷物の整理は後回しにして部屋を出る。階段を駆け下り二人のもとへ。

 外へ出ると、こちらに気づいた二人と目があった。

 

 「ふむ……どう思う?さっちー」

 

 「微妙だね。僕は司令官の方がかっこいいと思うな」

 

 風に乗って、前からなんとも耳の痛い二人の会話が聞こえてくる。こっちに聞こえないよう小声で喋っていたようだけど、俺は自分に対する話は地獄耳なのだ。

 

 (俺なんかと比べんなよ……)

 

 落ち込んだ気分のまま、工廠に向かって歩き出す。途中、漣が「なかなか似合ってますヨ」と言ってくれたのは、たぶんお世辞だろう。

 俺はせめてもの抵抗で上着を脱いだ。ほんの少しだけマシになった気がする。

 

 寮からしばらく歩いたところで、前方に赤茶けた建物が見えてきた。それは一棟だけではなく、何棟か並んでるのが分かる。建物の周りにはトラックが数台止まっており、作業服を着た男の人たちが中と外を慌ただしく行ったり来たりしていた。

 ここが工廠。艦娘を建造したり装備を開発したりと、鎮守府の砦ともいうべき場所。ここにあの夕張さんと明石さんがいるのかと思うと、自然と背筋が伸びた。

 

 ゲートで塚原さんからもらった身分証を提示する。初めてなので確認に手間取ったが、今度は「誰だよお前」という目線は向けられなかった。

 漣と皐月の後をついて歩き、作業をしている人たちの邪魔にならないよう進む。

 

 漣曰く、工廠はそれぞれのエリアによって役割が異なるようで、明石さんはその中でも、艤装を修復するためのエリアにいるらしい。だんだん近づくにつれて、それらしい機械的な音が響く。

 俺は改めて、自分の身なりにおかしなところがないかチェックした。

 

 「お、いたいた」

 

 「明石さーん!」

 

 前を歩く二人の足が止まる。皐月が名前を呼ぶと、すぐに奥の方から「はーい」という返事が返ってきた。

 目線の先には、セーラー服を着たピンク髪の女性が、今の俺ではよく分からない設備や器具を巧みにすり抜け、まっすぐこっちへ歩いてくる。

 

 「お二人とも、お疲れ様です」

 

 女性——明石さんが漣と皐月に視線を行き来させる。それから後ろ、俺の方に目を向けた。

 

 「おや、そちらの方は……」

 

 ごくりと唾を飲み込む。緊張と暑さのせいか、口の中が乾いて言葉がうまく出てこない。

 するとまたもや、漣が横から俺のことを説明してくれた。

 

 「あれですよ、補佐官の神城氏。ご主人様が今日着任するって言ってた」

 

 「あー!」

 

 はっとした声とともに、明石さんが一歩前に出る。

 

 「初めまして、工作艦の明石です」

 

 「は、初めまして……神城です」

 

 目が宙を泳ぎそうになるのをこらえ、なんとか互いに自己紹介。明石さんを前によく頑張ったと、自分を褒めてやりたい気分になる。

 それほどに、俺の真ん前に立っている女性は明石さんであった。

 

 「大淀から色々と伺ってますよ。私自身は正式な着任ではありませんけど、これからよろしくお願いしますね」

 

 「いえ、こちらこそ。よろしくお願いします」

 

 そうだった。明石さんは工廠整備のため一時的に着任してるって、あの資料に書いてあったっけ。

 と、頭の中で防衛省でのことを思い返していたら。

 

 「あら、楽しそうね。私も混ぜてくれるかしら」

 

 突然、背後から聞き覚えのある声。その声は紛れもなく、俺のよく知る艦娘のもので間違いなかった。

 

 「ちょうどよかった。()()も挨拶しときなさいよ」

 

 背後の人物に対し、明石さんが言う。次第に足音が大きくなり、声の主は目の前に姿を現した。

 

 「こちら、補佐官の神城さん。今日着任したんだって」

 

 「あーっ!そういえば今日来るって言ってたわね」

 

 明石さんと似たような反応をする女性。彼女を前にして思わず息を呑んだ。

 身長は思いのほか低い。艦娘だから歳は関係ないだろうが、なんとなく高校生ぐらいの印象を受けた。

 

 「どうも初めまして!兵装実験軽巡、夕張です!」

 

 「か、神城です」

 

 震える声を振り絞り、なんとか頭を下げる。

 夕張さん。数多の艦娘の中で、個人的に好いている艦娘の一人。その彼女がこうして目の前に立っているのだ、声が震えるのも勘弁してほしい。

 

 「ああ、いいんですよ敬語なんて。私も堅苦しいのは苦手ですから」

 

 「はあ……」

 

 そんなこと言われても、今の俺にそこまでの度胸はない。もう少し慣れる時間が必要なのだ。

 

 「補佐官てさ、僕たちにも敬語だよね」

 

 と皐月。

 

 「僕ももっと砕けて話してもらった方がいいかなー」

 

 「……」

 

 何も言えず。そこへ漣も会話に加わった。

 

 「まあまあ、別にいいじゃないですか。そんなこと」

 

 漣がぽんと皐月の肩に手を置く。

 

 「人にはつっこまれたくないこともあるんですヨ。さつきちさんや」

 

 「そ、そうなの……?」

 

 そして漣は俺を見て、口の端をほんの少しだけ曲げた。

 

 (こ、こいつ、できる……)

 

 なんとも頼もしい子である。漣には俺がコミュ障属性持ちだってことも、全てお見通しのようだ。

 ふと明石さんが思い出したかのように言った。

 

 「あ、漣さんに皐月さん。お二人の艤装の修復、終わりましたよ」

 

 「おっと、忘れてた。それを聞くために工廠に来たんでした」

 

 「やったー!ありがとう明石さん!」

 

 そう言って、明石さんたちは奥の方へと姿を消した。場には俺と夕張さんだけが残される。

 色々ありすぎて呆然と突っ立っていると、夕張さんがどこからか丸椅子を引っ張ってきてくれた。

 

 「どうぞ、これに座ってください」

 

 「あっ、ありがとうございます」

 

 ちゃんと礼を言ってから椅子に座る。夕張さんももう一つの椅子に座った。

 

 「ふう……暑いですね、もう九月も終わりなのに」

 

 暑そうに上着をぱたつかせる夕張さん。俺は目のやり場に困りつつ相槌を打つ。

 いったい何回目のやり場に困れば気が済むのか。しかし、これも慣れればならない。いつまでも狼狽えていては、コミュニケーションどころではなくなってしまう。

 

 「あ、こんな椅子に座らせておいてなんですけど、今お時間大丈夫でした?」

 

 「はい、自分は全然」

 

 即答する。既にこの鎮守府の艦娘全員に挨拶を済ませたので、むしろ時間を持て余してるくらいだ。

 

 「よかった。任務関係で来たわけじゃないんですね」

 

 「今日は何もしなくていいみたいなんで。挨拶回りも兼ねて色々と見て回ってます」

 

 「なるほど、それで工廠を……ごめんなさい、こっちから挨拶に行けなくて」

 

 うつむいて申し訳なさそうな顔をする夕張さん。俺は慌てて首を振った。

 

 「いや、全然大丈夫ですよ!ほんと気にしないでください」

 

 急いで喋ったせいか早口気味になる。補佐官にあるまじき態度と台詞だろうが、そんなものは俺の知ったことではない。

 と、ここで明石さんたちが戻ってきた。

 

 「じゃーん!どうですか神城氏、漣たちのこの姿」

 

 「どう?かっこいいでしょ?」

 

 真っ先に漣と皐月が声をかけてくる。なんだなんだと目をやると、二人の姿はさっきまでと異なっていた。

 

 (あれは……)

 

 キラキラと黒光りする何かを、二人とも全身に身につけている。手には主砲を、足には魚雷発射管を。主砲だけを見せてくれた大淀さんとは違い、二人は艤装の全てを装備していた。

 この世界に来て初めて間近で艤装を見たけど、目にしただけでも分かる重量感と質感。ただのおもちゃでないことは明白だった。

 二人を見て明石さんが言う。

 

 「提督から許可はもらってるから、不安ならあとで試運転してね」

 

 「はーい!」

 

 皐月が元気良く手を挙げる。漣も頷いていた。

 

 「……いいなあ、試運転」

 

 ぽつりと呟く夕張さん。

 

 「私も色々試したい装備いっぱいあるんだけど……」

 

 「あなたはダメです」

 

 しかしそれも、明石さんにバッサリと切り捨てられた。がっくりと言わんばかりに肩を落とす夕張さんが、横目に映る。

 そういえばこの世界の装備の仕組みすら、俺はまだ何一つ把握してないんだった。

 

 「それじゃ、ぼちぼち行きますか」

 

 「あ、はい」

 

 漣に言われ、丸椅子から立ち上がる。

 が、その時だった。漣の背部艤装の方に、さっきまではなかった何かが見えた気がした。

 

 (ん?なんだ?)

 

 両の目を擦ってもう一度見る。俺の目が狂ってなければ、確かにそれは数字。二桁の算用数字が宙に浮いて見える。

 とうとうおかしくなったのかと、額に手をやったのも束の間。俺の脳裏にある単語がよぎった。

 

 (練度……練度だろこれ。絶対にそうだ)

 

 確証はなかったが、なんとなくそう直感した。

 練度とは、艦娘がどれぐらい強いかどうかを表すための数字で、簡単に言えばレベルのことだ。レベルは高ければ高いほどその艦娘が強いことを示し、低いほどまだまだ未熟という意味で用いられる。

 でも練度が数字で目に見えるなんて話は、研修でも聞かされなかった。まだそこまで説明する必要がないと判断したのか、あるいは。

 

 (じゃあ皐月も……)

 

 同じように皐月の背部艤装に目を向ける。すると漣と同様、今度は一桁の数字が見えた。

 

 「?どうかした?」

 

 「あ、いや、なんでもないです」

 

 これは一刻も早く確かめる必要がありそうだ。念のため、さりげなく塚原さんにも訊いてみよう。

 それにしても、いざ冷静に考えてみたら、俺にはまだまだ足りてない知識が多すぎる。その辺りの情報収集も、今後の課題になりそうだな……。

 

 

 

 

 

 




やっとひと段落……

テンポ悪くて本当にごめんなさい()
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