目が覚めたら艦娘と深海棲艦がリアルに戦争してた件 作:Sh1Gr3
今回は霞のキャラ立てと、装備開発のお話になっております。
その翌日。
俺は全身の疲労感と筋肉痛によって、なんとも憂鬱な朝を迎えた。鳴り響く目覚まし時計に若干イラつきを覚えながら、身支度を手短に済まして提督室へとおもむく。
なぜデスクワーク中心の業務にもかかわらず、こんなに疲労困憊なのか。それは俺自身の運動不足も要因の一つだが、一番は彼女の溢れる元気っぷりにあるといっても過言ではないだろう。実のところ、昨日の業務は大半が肉体労働だったのだ。
「補佐官?どうしたの?」
筋肉痛に顔を歪めていたところ、島風が顔を覗き込んできた。
昨日はこの島風と一緒に、トラックやら鎮守府中を駆け回ったことで、今疲労感と筋肉痛に苛まれている。楽しかったけど、運動不足すぎて全くついていけなかった。なんとも情けない話である。
「あ、いや……なんでもないっす」
「いいんだよ、ご飯はゆっくり食べて。ちゃんと噛んで食べるの」
「うっす」
朝礼後、俺は島風に連れられて食堂にいた。朝礼が終わった瞬間、彼女に強く迫られ、断るにも断れなかったのだ。
見た目はド派手な女の子でも、島風も艦娘。その力は常人を遥かに凌ぐ。一度腕を強く掴まれれば、自力で引き離すのは不可能。俺は島風のなすがままに、食堂まで連行された。
他にも場の流れで漣と皐月、不知火も一緒のテーブルで朝食をとっている。
「珍しいですね」
前に座る漣が話に加わった。
「ご飯食べるのも速い島風ちゃんが、そんなこと言うなんて」
「いいの。だって速く食べすぎると身体に良くないんでしょ?」
「まあ、そのぶん胃に負担がかかりますからね」
「そんなのやだもん。食べるのが遅くても、他で速いから大丈夫!」
あくまでも速さが基準とは、いかにも島風らしい。あといい子、超いい子。
昨日も俺に気を使って自ら休憩しようと申し出たり、休憩中に水を持ってきてくれたりと、細かい気配りのできる子なのだ。少し強引な面もあるが、そこも島風らしさがあっていいだろう。
ふと顔を上げると、みんなの目が島風に集中していた。なんか心底意外そうなご様子。
「意外だなぁ……島風の台詞とは思えないや」
と皐月。そこに別方面からも声がした。
「なに猫被ってんのよ」
いかにも不機嫌そうな、トーンの低い声色。声を発したのは霞であった。
「散々人のこと遅い遅いって馬鹿にしておいて、よく平然とそんな嘘つけるわね」
「う、嘘じゃないもん!それに馬鹿にしてなんか……」
「はあ?じゃあずっと素で言ってたの?そっちの方が神経疑うんだけど」
なんだか雲行きが怪しくなってきた。一気に周囲の空気が通夜と化し、他の職員の方々の目線が痛い。どうにかしてこの場を収めなくてはと、俺は頭の中で手段を模索する。
しかし。
(なんも思いつかねー!)
その間にも、霞はさらにヒートアップ。その矛先はとうとう俺へと向けられた。
「あんたからも言ってやったら?」
「な、なにをでしょう」
「人間のあんたが島風と競争したところで、勝てるわけないでしょ。毎日強引に付き合わされて、内心迷惑してるんじゃないの」
「いや、そんなことは……」
霞の語気に押されて否定が弱くなる。そんなこと全く思ってないのに。
「私は大迷惑よ。航行時の単独行動、及び旗艦の命令無視。そんな子と一緒の艦隊なんて、命がいくつあっても足りないわ」
そう言って島風を睨む霞。島風は俯いたまま何も言わない。おそらく事実なのだろう。
「あのクズは使えないから、あんたから言っといて。もしそれでも聞かないなら、編成を変えるようにね」
言いたいことを言い終わったのか、霞はすたすたと厨房まで歩いていった。
テーブルの面々の反応は様々だった。漣はやれやれと首を振り、皐月は「怖かったー」と苦笑い。不知火に関しては何ら動じずお茶を啜ってるし、島風は下を向いたまま意気消沈。ただその手は、気が付けば俺の腕部分の裾を掴んでいた。
「霞ちゃんは相変わらずですなー」
呆れたような口調で漣が喋り始める。
「あんなにツンツンしてて、顔疲れないんですかね」
「言葉遣いには問題ありますが、言ってることは正しいです」
不知火が言う。彼女はもう食事を終えていた。
「単独行動と命令違反については、既に司令に報告済みです。もし今日も同じようなら、不知火も艦隊の再編成を進言するつもりでした」
「あれま」
「不本意ながら仕方ありません。万が一があってからでは遅いですから」
そして不知火は「お先に失礼します」と言ってから、席を後にした。
不知火が去ったのを皮切りに、皐月が口を開く。
「霞ってあんなに口悪かったっけ?」
「あれが平常運転ですヨ。今日はかなり機嫌悪かったみたいですけど」
「でもあの言い方はちょっとなー。補佐官、完全にとばっちりじゃん」
「それな。全然関係ないのに」
けらけらと笑う漣。ふと裾を掴む島風の手が強くなる。
「ねえ、補佐官……」
「ん?」
「私とかけっこするの、迷惑だった?」
島風が震えた声で訊いてくる。
「私、補佐官のこと馬鹿にしてた……?」
今にも泣き出しそうな声色。この問いかけだけは、さっきのような醜態を晒すわけにいかない。
俺は島風を見て、率直な気持ちを述べた。
「いや、全然。むしろ誘ってくれてありがたいすよ」
「本当に?迷惑じゃないの?」
「迷惑なわけないじゃないすか。迷惑だったら普通に言ってますよ」
「……そっか。よかった……えへへ」
ようやく島風の表情に笑顔が戻った。やっぱり島風は、笑って走ってる姿が一番似合ってると思うんです。
(はあ……よかった)
「かーっ!イケメンかよ神城氏!」
「補佐官、今度僕とも遊んでよ!」
よくわからないタイミングで、急に盛り上がり出す前二人。周りの人たちの目が痛い。
「まあ単独行動うんたらに関しては、少し気をつけた方がいいかもしれませんね」
漣が島風に向かって言った。
「自分も危ないですし」
「うん……頑張る」
しかし島風は、台詞とは裏腹にいかにも自信なさげであった。一体どうしたというのか。
「?何か心配事でも?」
「……」
漣の疑問に黙ったまま頷く島風。一呼吸おいて、島風はその疑問に答えた。
「その、みんなと合わせるのが難しくて……すぐ前に出ちゃうの」
みんな。同じ艦隊にいる不知火と霞のことだろう。
「それで注意されるんだけど、全然上手くいかなくて」
「ふむ。つまり艦隊運動が苦手ってことですか」
「私が悪いって分かってる。でも、難しいんだもん……」
「わかりみ。漣も最初は苦労しましたからねえ」
さすが漣、このコミュ力の高さである。隣の皐月もうんうんと同調していた。
「僕なんてそれより酷いよ。いつの間にか周りに合わせるって思考が飛んじゃうんだ」
「そ、そうなの……?」
「いやあ、やっぱ訓練しないとダメだね」
はっはっはと皐月は笑った。次いで漣の目が俺へと向く。
「神城氏、このことご主人様に言っといてくださいよ?」
「え?」
「ほら、単独行動したくてしたんじゃないってこと」
「あ、はい」
つくづく頭が下がる。漣ってこんなに頼り甲斐があったのかと、心の中で感動が生まれた。
「島風ちゃんや、今度漣が航行テクを伝授したげますからね」
「うん、ありがとう!」
これで全て解決、と思いきや。皐月がそういえばと小首を傾げた。
「なんで霞はあんなに怒ってたんだろうね?」
「さあ……漣にもさっぱりですな」
「それも私が悪いの」
すると島風が、またも二人の疑問に答えた。
「艦隊運動もまともにできないのかって言われて、つい……」
「あー、それで心にもないことを言ってしまったと」
漣の言葉に小さく頷く島風。要するに、蓋を開けてみれば単なる喧嘩だったのである。
「なるほどねー。二人の喧嘩なら、僕たちが口出しするのもあれかな」
「ま、そのうち地も固まりますヨ。霞ちゃんも鬼じゃないですし」
不安そうな島風を横目に、俺は隅の方に座る霞に目をやった。
(あんな端っこで……こっち来ればいいのに)
霞は食堂の誰もいないスペースで、静かに朝食を摂っていた。
本当は今すぐにでも、霞の隣に座るか呼ぶかしたいところだが、いかんせんコミュ障という高い壁に阻まれる。まだ着任から三日目とはいえ、こういう時に仲を取り繕うことが、補佐官である俺の役目のはずなのに。
(こんなんで提督になれんのかねえ……)
俺は心の中で大きなため息を吐き、朝食の最後の一口を口へ放り込んだ。
その日の業務は、デスクワークもさることながら、それ以上に俺の関心を寄せるものがあった。
俺は今、塚原さんと一緒に工廠に来ている。朝礼で明石さんから「装備の開発が可能になった」という報告を受けて、本当に可能なのか確かめに来たのだ。
「装備の開発も、提督の重要な役割の一つだ」
開発の前に、塚原さんが説明してくれる。
「実際に開発するのは妖精だが、妖精は提督の指示がないと動かない。だから提督には、妖精との意思疎通スキルが求められる」
「な、なるほど」
妖精は能動的には動かない。この世界に存在する妖精の特徴の一つだろうと愚考した。
「まあ中には、自由気ままに行動する妖精もいるが……あれは例外だな」
「あっ……」
「その反応から察するに、神城君も見たか」
俺はこれまで見てきた妖精を思い返す。どう考えても、当てはまるのはあの妖精たちしかいない。
「人のことを希少種と言っておきながら、自分たちも希少種というオチだ。あまり笑えないな」
「塚原さんも言われたんですか?」
「ああ。酷く馬鹿にされた気分だったよ」
苦笑する塚原さん。あの妖精どもめ、次会う時はコミュ障なんて発揮するものか。普通にタメ語で話してやる。そう心の内で決心し、工廠の中を進んでいく。
今日訪れるのは、装備を開発するためのエリアだ。そこは他のエリアと違って広いスペースが確保されており、周りには大きさは違えど、見慣れた緑色のドラム缶や、光を反射して煌めく鉱石などが積んである。
「おっ、来ましたね。お待ちしてましたよ」
開発エリアでは既に、夕張さんが待機していた。後ろには明石さんと、何体かの妖精の姿も見える。
塚原さんはこほんと咳払いをして、それから前に出た。
「装備開発の件なんだが」
「ふふ、わかっておりますとも。不肖この夕張が、開発のサポートをさせていただきます」
「あ、ああ……頼む」
あの塚原さんが気圧されている、というより引いている。それほど夕張さんから、装備開発に対する熱意が伝わってきた。
「何を開発しましょうか。魚雷?電探?」
「今日は試しだ。ごく簡単なものでいい」
「えー、チャレンジしないんですか?」
「資材も限られてるんだ。レシピの模索は舞鶴や佐世保に任せておけばいい」
「むう……仕方ありませんね。なら最低値でいきましょう」
さらに歩を進め、いよいよ装備開発という段階。塚原さんが妖精に何を開発したいか、資材をどれだけ使うのかを伝えていき、それを聞いた妖精が指示通りに資材を運ぶ。
俺もこれには目を丸くしたが、妖精が資材に触れた瞬間、その資材がぽんと消え失せた。そして重々しい機材や器具に囲まれた、ちょうど真ん中のスペースに移動。何をするのかと思えば、これまた一瞬で消えた資材が出現した。
(すっげ……)
壮大なマジックショーでも見せられてる気分だ。もはや言葉が出ない。
「神城君、こっちだよ」
ふと塚原さんに呼ばれ、俺は駆け寄った。
「提督の役目は妖精を動かすだけじゃない。頭の中で開発したい装備を、具体的に思い浮かべる必要がある」
「は、はあ……」
「主砲なら主砲、魚雷なら魚雷。それをイメージするんだ」
塚原さんが夕張さんと妖精に、アイコンタクトを送る。両者はいつの間にか、それぞれ先端の尖ったホースのようなものを持っていた。よく見ると、それは目の前の機材に繋がっている。
「あれ何持ってるんですか?」
「開発に要する機材だよ。俺たちは気にしなくていい」
そして目の前の機材に視線を移した。
「これから開発するのは魚雷だ。全ての準備が整ったらこのボタンを押す」
機材の下の方の、開発開始というボタンを指差した。
「夕張、準備はいいか?」
「いつでもどうぞー」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。ここまではゲームと然程大差はない。開発の仕方は複雑化してるものの、レシピや最低値なんてワードが存在するなんて、正直マジックショーよりもどきっとした。
「いくよ神城君。大きな音と衝撃に備えて」
「は、はい!」
塚原さんに言われ、一旦思考を停止する。耳を塞ぎ、身体に力を入れて、これから訪れる未知の体験に備える。
「よし、開発開始だ」
ぽちっ。塚原さんが開発開始のボタンを押した。
その直後。
ホースの先端から青白い稲妻が、資材に向かって走る。資材は稲妻を受けて、真っ白い光に包まれた。
(うわ、眩しい……)
何が起きたのかわからず、とりあえず収まるまで目を瞑ることにした。
少しして光も落ち着き、視界が晴れる。俺はどうなったと期待を込めて目を向けたが、なんとそこには何も存在していなかった。
「あちゃー、失敗ですか」
と夕張さん。どうやら何も開発できなかったらしい。
「最低値ではこんなものだろう。機材の動作確認ができただけでも、今日はよしとするさ」
「いやいや、次こそいけますよ提督!まだ諦めるには早いですって!」
「明石、引き続き工廠の整備を頼む」
「はいはーい」
「ちょ、無視ですか?!」
まるでコントのような三人のやり取りを尻目に、俺はさっき止めた頭をフル稼働させた。
この世界の装備開発事情は、限りなくゲームに近しい。それが今のマジックショーで明らかになった。レシピや最低値といった発言からも、裏付けは取れる。
しかし、全てが同じと決めつけるのは早計だろう。実際に俺自身が開発に携わってみないことには、なんとも言えない。
「神城君、戻るよ」
「っと、今行きます!」
いずれ機会があれば試してみよう。俺の知ってる知識を活かして、絶対に役立つ装備を開発してみせる。
そんな不必要な闘志を燃やした俺は、島風の件の報告を完全に失念。慌てて思い出した頃には、既に地が固まった後だった。
ちなみに忘れてたことが漣にバレて、廊下で盛大なタックルをくらったことは内緒の話。
今回も長い・・・
できれば3000字程度で収めたいけど、文章考えるって難しいですね()