目が覚めたら艦娘と深海棲艦がリアルに戦争してた件 作:Sh1Gr3
提督室で騒ぐ艦娘たちの様子を、主人公視点からうすーく書いただけの話になってます()
提督。
それは素質のある人間にしか務まらない、いわば選ばれし者の呼称である。
では補佐官とはなにか。
提督の仕事を間近でサポートする、最も提督に近しい人物のことを指す。
両者とも深海棲艦の脅威から、艦娘と共に人類を影から守る、極めて重要な職務といっても誤りではないだろう。
ゆえに、その業務は多忙の一言に尽きる。休日なんて、なくて当たり前なのだ。
「すまんな……せっかくの休日だというのに」
机上の書類に目を向けながら、塚原さんが申し訳なさそうに言った。
「明日か明後日には必ず代休を取れるようにするから」
「いえ、全然大丈夫ですよ。特にやることもないんで」
微妙な笑みを浮かべつつ、俺も渡された書類を整理していく。
俺が鎮守府に着任してから、迎えた初めての休みの日。本来、補佐官の俺は非番なのだが、提督業というのは月末が決まって忙しくなるらしい。日々の業務をこなすことはもちろん、ゲームのマンスリー任務のように、月一で提出しなければならない書類やノルマがあるのだそう。同じ例として日曜日もあげられる。
そんな中、補佐官の俺が呑気に休んでるわけにもいかない。仕事ができるかどうかは別として、喜んで休日出勤の要請に頷かせてもらった。
「むしろ俺なんかがいて、足手
「足手纏いなもんか」
塚原さんの口調が少し強まる。
「事務仕事に加え、神城君には艦娘たちのことも見てもらってるんだ。本当に助かってるよ」
「あ、まじすか。ならよかったです」
俺が見てるというより、遊ばれてる感の方が否めないけど。漣然り、島風も然り。
「正直、デスクワークと艦娘の相手を同時にこなすのは無理があったからな」
「てか俺より絶対、塚原さんの方が疲れてますよね」
「疲れてない、と言ったら嘘になるが……艦娘たちはもっと疲れてるだろうからな。俺が弱音を吐くわけにもいくまい」
「そ、そうっすね……確かに」
あまりの台詞のイケメンさに、思わず言葉を詰まらせてしまう俺氏。いかに自分の脳内がお花畑かを痛感させられた。
何が休日だ、何が日曜日だ。そんなもの、世の中のブラック企業に勤めてる皆様にくれてやれ。俺はいらんぞ。
そう自身を奮い立たせていると、塚原さんが意外なことを口にした。
「まあ、休みの件は俺と神城君とでシフトを組めば解決するからな。そこまで悲観しなくてもいいよ」
「……えっ?」
「そうすれば、互いに効率良く休みも取れる。神城君も提督になるなら、いい経験にもなるだろう」
「それはそうですけど……」
塚原さんの言う通りだ。俺は補佐官になるためにここに来たんじゃない。提督として必要な知識を養うために来たんだ。
とはいっても、近くで塚原さんの働きっぷりを見ていたら「いっそ補佐官のままでも」なんて考えがたまに脳裏を
別に提督になるのが嫌なわけではない。ただ、現実の提督業の荷の重さに耐えられるか不安になるのだ。俺なんかが塚原さんや相浦さんのように、リアル鎮守府を運営できるかどうか。
「はは、いずれだよいずれ。俺も人に偉そうなこと言えるほど、まだ自分の仕事に慣れてないからな」
「はあ……」
それでまだ慣れてないのかと、心の中でツッコミを入れた矢先。扉がノックされた。
塚原さんが「どうぞ」と言った後、扉が開く。部屋に入ってきたのは漣であった。
漣は入ってくるなり、覇気のある声で堂々と言い放った。
「トリックorトリート!お菓子くれなきゃイタズラしちゃうゾ」
しーんと静まり返る提督室。漣だけが期待の眼差しで、こちらの反応を伺っていた。
(そういや、今日ハロウィンだったか)
気付けばもう十月の三十一日。
日本ではあまり風習はないものの、とある街中ではドンチャン騒ぎと聞く。ネットで見かけたが、深海棲艦の影響なんて微塵も感じさせない盛り上がりようだった。
「ちょ、無視ですか?!本当にイタズラしちゃいますよ?!」
特に反応を見せない俺と塚原さんに、とうとう漣が声をあげた。心なしか、顔が赤くなってるような気もする。
そんな漣に対して、塚原さんの対応は至って冷静だった。
「そこのテーブルの上に置いてある」
机上の書類から目を離すことなく、塚原さんが言う。
「好きなだけ持っていけ」
「むう……なんか冷めてますね。他にお菓子をくれた人たちは、もっと対応に優しさが溢れてましたヨ」
漣はしぶしぶとテーブルまで歩いて、そのままソファーに腰を下ろした。
どうやら色んな所でお菓子を集め回ってるらしい。俺は他の職員の方々の温かい対応に、感心を通り越して感動を覚えた。
「ご主人様、漣の他にも誰かお菓子もらいに来ました?」
「いや、来ていない」
「よっしキタコレ。この勝負、漣の勝ち確ですわ」
謎に勝利宣言する漣。気付けばテーブルの上のお菓子は空っぽになっていた。
「あまり人の仕事の邪魔はするなよ。ほどほどにしておけ」
「わかってますって。いけそうな人にしか声かけてませんから」
漣は持参したバスケットにお菓子を詰め込み、ソファーから立ち上がる。そして軽い足取りで俺の前まで歩み寄った。
「神城氏、トリックorトリート!お菓子かイタズラか、お好きな方を選ぶがいいですゾ」
(うわ、来た……)
流石に来ないだろ、と思ってたら来てしまった。嬉しいような嬉しくないような、複雑な気分である。
しかし残念なことに、俺の手元に持ち合わせてるお菓子はゼロ。用意なんてしてるわけがない。
「……俺いま何も持ってないんすよね」
「ほう?では神城氏は、イタズラがご所望と」
「いや違いますって」
にやにやして訊いてくる辺り、間違いなく確信犯である。俺が何も持ってないことを知った上で、反応を楽しんでいるのだ。
「あはは、実にいい反応ですね。さすが神城氏!」
俺の反応が望み通りだったのか、漣は満足気に笑った。何故だろう、まったく褒められた気がしない。
すると、また扉がノックされた。
「おっ、来ましたかね」
と漣。誰が来たのか心当たりのある様子。
一旦机から顔を上げ、塚原さんが入室を促す。扉が開いて、今度は意外にも皐月と不知火が入ってきた。
「失礼します!え、えっと……なんだっけ?」
「トリックorトリートです。いったい何度言えば覚えるのですか」
「あ、それだ。トリックorトリート!」
どうやら二人も漣と同じように、お菓子をもらいに来たらしい。皐月はともかく、不知火はそういうキャラじゃないと思ってたが。
「残念!一足遅かったですな」
漣がドヤ顔混じりで二人に言った。
「ここにあるお菓子は全て、漣がいただいちゃいましたヨ」
「えっ、嘘?!」
驚愕の声をあげる皐月。対して不知火は、平然とした面持ちで塚原さんの前に歩いていった。
「旗艦報告書です。今提出してもよろしいでしょうか」
「ああ、ありがとう。そこに置いといてくれ」
「はい」
なんだ、俺の勘違いだった。不知火はお菓子をもらいに来たわけじゃなくて、単に報告書を出しに来たんだ。
(だよな。びっくりした)
創作物ならまだしも、現実の不知火はクールもクール。ハロウィンを満喫するとは到底思えない。
と思いきや、ふと漣が皐月と不知火に訊いた。
「二人とも、お菓子どれぐらい集まった?」
「全然だよ。まだポケットに入りきるぐらい」
皐月が集めたお菓子を手に乗せる。バスケットに詰めていた漣と比べたら、確かに全然だった。
「へえ、意外と集まるものですね」
「みんな優しいからねー。わざわざ買ってくれた人もいたし」
そんな人もいるのかと、二人の会話を聞いていて内心ドキッとした。俺だけ何もないなんて、流石にカッコ悪すぎるのでは。
「ぬいぬいは?」
次いで漣の視線が不知火に移る。まさか不知火が?と、俺もつられて目を移した。
不知火は何も言わずに、ポケットの中から飴玉を一つ取って見せた。
「まだこれだけです」
「お、おお……なんとも美味しそうな飴玉ですな」
不知火の重苦しい口振りに、たじろぐ漣。不知火は続けて言った。
「やはり止めにしませんか。人からの厚意を勝負事に利用しようなんて、不謹慎が過ぎるかと」
「そんな最もらしいこと言って、単に自信がないだけでは?」
「いえ、そうは言ってません」
即否定する不知火。若干語気が強まったような。
「とりま、ここのお菓子は回収済みですので。次行きましょ次」
漣を先頭に、提督室を後にしようとする。が、そこへまたしても来客が訪れた。
「はあ……次から次へと」
今の今まで傍観に徹していた塚原さんが、ため息と同時に頭を抱える。今回はノックの後、すぐに扉が開いた。
「しつれいしまーす!」
はつらつとした声と共に、そこには島風の姿があった。
「ん?みんなどうしたの?」
変に人数の揃った室内を見て、島風が首を傾げる。
ちなみに提督室には、基本的に艦娘しか人が来ない。その艦娘でさえ、報告書や何か用事がある際にしか立ち寄らないので、今日みたいに朝礼以外で人が揃うのは珍しいと言える。
「あら、ドア開いてる」
「提督ー!トリックorマテリアル、なんちゃって」
さらに追い討ちをかけるかのごとく、明石さんと夕張さんが合流。提督室はより一層賑やかになった。
こんな状況下では、書類仕事に集中できるわけもなく。塚原さんはついに書類から目を離した。
「お前たち、提督室をなんだと思ってる。騒ぐなら外でやれ」
「ふふ、やっぱりみんな考えることは同じなのねえ」
「何言ってんの。どうせ資材目的のくせに」
不敵な笑みを浮かべる夕張さんと、呆れた表情を見せる明石さん。塚原さんはまた深いため息を吐いた。
結局、提督室の盛り上がりはその後もしばらく続いた。
その結果。
十月の三十一日、ハロウィン。この日を境に、理由なしによる提督室での長居は、一切禁止になったのだった。
霞出せなくてごめんなさい。
たぶん次回で登場します。たぶん・・・