目が覚めたら艦娘と深海棲艦がリアルに戦争してた件   作:Sh1Gr3

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補佐官のお仕事③

 

 鎮守府に着任してから早数日。

 補佐官としての生活サイクルには徐々に慣れてきたし、艦娘たちとの仲もまずまず。最重要事項であるゲームとの差異の把握も、少しずつ進んでいる今日この頃。

 普段なら書類整理に勤しむ時間のはずが、俺は塚原さんに連れられ、初めて「作戦司令室」なる場所を訪れていた。

 

 「本当はもっと早くに案内するべきだったんだが、中々タイミングが掴めなくてな。後回しになっていた」

 

 「お、おお……」

 

 作戦司令室。

 文字通り、艦隊の指揮をとるための場所。その証拠に、部屋には通信機材はもとより、どこかの海域図の映ったモニターなどが設置されている。全体的に明るい雰囲気の提督室とは異なり、何やら重々しい空気に満ちた空間だ。

 

 「とはいえ、うちがここを使うことは滅多にないだろう」

 

 「え、そうなんすか?」

 

 「ああ。万が一その時が来たら、相当状況がよろしくないと思ってくれていい」

 

 「……まじすか」

 

 その心は、と疑問符を浮かべていると、塚原さんが続けて説明してくれた。

 

 「神城君も知っての通り、うちの役割は既に攻略の済んだ海域の哨戒と遠征が主になっている。そして攻略済みの海域は、深海棲艦と出くわす確率がずっと低い。これは遠征も同様だ」

 

 (へー、そうなのか)

 

 また一つ、ゲームとの差異が明らかになった。しっかり頭の中にねじ込んでおこう。

 

 「そして出くわすといっても、せいぜい軽巡クラスか駆逐クラスが少数。だから提督がわざわざ指揮をとる必要がないんだ」

 

 確かに、提督の仕事は何も艦隊の指揮をとるだけじゃない。ずっとここに張り付いていたら、他の仕事が回らなくなってしまうだろう。

 

 「艦娘は艦だった頃と違って、自分で考えて行動できるからな。ゆえに現場での指揮も、基本的には彼女たちに一任している」

 

 「な、なるほど」

 

 「しかし、どうしても有事の際ってのはやってくる。その時に艦娘(みんな)を導いてやるのが、俺たちの役目だ」

 

 「はあ……」

 

 と言われても、今の俺には正直ぴんとこない。なにせ、まだ具体的な艦隊指揮の方法も教わっていないのだ。

 ゲームではただ羅針盤を回して、進撃か撤退かを選択すれば良かった。でも現実がそんな甘いもののはずがない。それにこの世界の「出撃」について、ゲームとの差異の把握が全然進んでないのも大問題である。

 

 「そんなに心配しなくてもいいよ」

 

 と塚原さん。

 

 「神城君はもう充分、その役目を果たしてくれているからね」

 

 「へ?」

 

 意外な台詞に、思わず呆気にとられる俺氏。塚原さんはさらに続けた。

 

 「神城君のおかげで、島風は前よりもずっと人と話すようになった。今では単独行動もしなくなった上に、訓練にも一段と力を注いでいる」

 

 「いや、あれは別に俺のおかげじゃ……」

 

 「速いもの以外に関心を示さなかった彼女が、以前までとはえらい違いだよ」

 

 同感だ。これに関しては自分でも不思議に思う。

 どうして島風は、こんな大して足も速くないし体力もない俺なんかと、毎日飽きもせず走ってくれるのだろうか。

 

 「自分全く足とか速くないんすけどね。たぶんあれが素なんじゃないすか?」

 

 「うむ。そうかもしれないな」

 

 もはや日課となりつつある、島風との遊戯。

 最初はかけっこ勝負だったが、流石に勝ち目がなさすぎて途中から鬼ごっこに変更してもらった。これが案外はまったようで、皐月や漣、実は不知火も一回だけ参加したことがあったりする。

 

 「ひとえに導くといっても、それは艦娘を指揮することに限らない。あくまでも艦隊指揮は、提督業の中の一つってことだ」

 

 「……なんか難しいすね」

 

 「はは、そんな難しく考える必要はないさ。神城君は今のまま、変わらずみんなと接してくれればいい」

 

 「あ、うっす」

 

 正直ここまで評価されるほど、特別な何かをした記憶はないのだが。本当に今のままでいいのか疑問でしかない。

 

 「さて、話を戻そう」

 

 塚原さんがモニターの前まで歩いていく。俺もそれについて移動。

 

 「今日は哨戒中の第二艦隊で、機材の使い方や艦隊指揮がどんなものなのかを覚えてもらおうと思う」

 

 「はい、お願いします」

 

 俺はぐっと拳を力強く握った。

 この世界に来て約一ヶ月半。いよいよ本格的な、リアル艦隊これくしょんの始まりである。

 

 「こちら作戦司令室。聞こえるか?」

 

 通信機材と思われるものを手に取り、マイクに向かって呼びかける塚原さん。するとすぐに返事が返ってきた。

 

 『あ、司令官の声だ。聞こえてるよー』

 

 スピーカーから波の音と共に、皐月の声が聞こえてくる。

 通信機が正常に稼働してることを確認して、塚原さんは頷いた。

 

 「よし、問題なさそうだな」

 

 『こっちも問題ないよ。問題なさすぎて、これじゃ訓練と変わらないや』

 

 「油断は禁物だぞ。深海棲艦が出る可能性もゼロじゃない」

 

 『むしろ出てきてほしいね。僕もあいつら相手に、主砲とか撃ってみたいし』

 

 表情は見えないが、かなり張り切ってるご様子。そんな皐月が実戦未経験と知ったのは、つい最近のことである。

 提督でもないというのに、内心ハラハラして仕方がない。練度が数値化して見える俺には尚更だ。皐月には悪いけど、今は彼女とは真逆のことをお祈りさせてもらうとしよう。

 

 (出るなよ深海棲艦ども……まじで頼むよ)

 

 せめて俺が戦闘面における、ゲームとの差異を把握してからにしてください。お願いします。

 そう心の中で目一杯お祈りしていたら、今度は別の声が響いた。

 

 『ちょっと、また隊列から離れてるわよ!』

 

 霞の声だ。しかも何やらご立腹の様子。

 

 『っと、ごめんごめん』

 

 『これで何度目だと思ってるの?航行もまともに出来ないなんて、論外よ論外』

 

 『あ、あはは……』

 

 ちっとも笑えない。それどころか、余計に不安が増した。

 

 『あんたも少しは空気読みなさいよ。こんな編成にしておいて、こっちはいい迷惑なんだから』

 

 「哨戒は訓練も兼ねている。そういう言い方はよしてくれ」

 

 『艦列も組めないほど練度が低いのに、哨戒で訓練?はっ、とんだクズ思考ね』

 

 「実戦に勝る経験はないんでな。もしかしたら敵が出るかもしれない。そんな緊張感の中で航行していれば、普段の訓練よりも上達するスピードは早まるだろう」

 

 『だから……!』

 

 霞が何かを言いかける前に、塚原さんが付け加える。

 

 「もちろん、この編成は皐月だけじゃない。霞に旗艦を任せたのは、この編成でも旗艦が務まると思ったからだ。元の練度の高さを考慮してな。それに旗艦は、随伴よりも練度が上がりやすい」

 

 『っ……』

 

 急に言葉が返ってこなくなった。心地よい波の音だけが、スピーカーを通じて室内に響き渡る。

 

 「というわけで、三人とも。たとえ戦闘にならなくても決して油断しないようにな」

 

 『はーい!』

 

 『了解しました』

 

 『……ふん』

 

 皐月、不知火、霞の順で返答が返ってくる。塚原さんはここで一旦、マイクから距離を置いた。

 

 「とりあえず凌いだか……」

 

 「霞さんですか?」

 

 「ああ。なんとなくだが対応に慣れてきたよ」

 

 そう言って苦笑いを浮かべる塚原さん。

 塚原さんの台詞から察するに、俺の知らないところで色々あったのだろう。俺は霞とは未だに、会話らしい会話をしたことがないため、何も言われずに済んでいる。というのも、基本的には提督室にこもりっきりの日々を送っているので、関わる機会がないのだ。

 ちなみに「さん」付けで呼んでるのは霞だけではない。漣や皐月、島風にも人前では「さん」を付けて呼んでたりする。

 その後、俺は通信機の使い方を簡単に教わった。説明を聞いてる限りは、機械音痴の俺でも扱えそうで一安心。

 

 「この通信機にも、こいつと同様に妖精の細工が施されている」

 

 ふと塚原さんが、ポケットから携帯端末を取り出した。

 

 「そのおかげで、現場の艦娘とも連絡が取れるってわけだ」

 

 「細工……」

 

 俺は先日知った衝撃的な事実を、頭の中で思い返した。何かというと、それは深海棲艦が出現した際の影響である。

 深海棲艦が海域に出現すると、それが起因してか周囲に特殊な磁場が発生するそうだ。その磁場はあらゆる物に、多大な悪影響を与えるとされている。

 例えば、人々の交通手段として使われる飛行機や船。もし磁場の範囲内を通ってしまえば、その瞬間、あらゆる機器類の機能が狂ったように障害を起こし、機体や船体は操縦不能に陥ってしまうらしい。

 そして更に恐ろしいのは、磁場は自然現象にも影響を与えてしまうということ。分かりやすい例としては、艦これでいうところの「渦潮マス」。これは磁場の影響で渦潮が発生しており、艦娘でなければ普通に航行することすら、ままならないという。

 このように、深海棲艦が出現することで、実は色々な方面で計り知れないほどの悪影響を受けていたりする。これらの事実を初めて知った時は、「大丈夫かよこの世界……」と結構動揺したのは内緒の話だ。

 

 「神城君?」

 

 「あ、いえ。なんでもないです」

 

 まあもっとも、今のところは元の世界と変わらない平穏な日常を送れている。それは日々深海棲艦と戦う艦娘と、提督たちのおかげだということは言うまでもないだろう。あとは各国のお偉いさん方とか。

 

 「ちなみにだが、妖精の細工は通信機だけに留まらない」

 

 塚原さんが眼前のモニターに視線を移す。そしてモニター付近のキーボードを操作し始めた。

 

 「このモニターも特別製でな。どういう仕組みかは相変わらず謎だが、出撃している艦娘たちの状況を表示することができる」

 

 途端に画面が切り替わった。今まで映っていた海域図とは別のものと、画面左側に矢印のような動くマーク。そのマークの近くに、霞たち三人の名前が映し出される。

 

 「いま映ってるのは、第二艦隊が出撃している海域の地図と、三人がどこを航行してるかの位置情報だ」

 

 (おー、すっげ)

 

 ぱっと見た感じ、感覚的にはゲームとさほど大差ない。まあゲームのように分かりやすく航路に線は引かれてないし、当然敵の出る位置にマスなんて表示されてないけど。でもよく見たら、なんとなくマップに見覚えがある気もする。

 この画面をあえて例えるなら、ブラウザ版とアーケード版を上手い具合に合体させた、とでも表現すれば的を射てると思う。なんか頭の中がこんがらがってきた……。

 一体どこまでがゲームと同じなのか。さっさと把握してスッキリしたいものである。

 

 (そういえば、この世界でも羅針盤って回すんかな)

 

 不意に脳裏をよぎる「羅針盤」の三文字。別に忘れてたわけではないが、訊く機会もなかったので頭の奥に押し込んでいた。

 いい機会だ。このタイミングなら、訊き方を誤らなければ変に思われることもないだろう。

 

 「あの、塚原さん——」

 

 と、呼びかけたその時。

 警鐘か警報か、そんな雰囲気の音が室内に鳴り響いた。

 

 「え、えっ?!」

 

 「遭遇したか」

 

 情けなくとも慌てる俺をよそに、塚原さんが呟く。その表情はいつもと変わらず、至って冷静だった。

 

 「今のは敵艦隊と遭遇した際に鳴る、報のようなものだ。気にしないでいい」

 

 (嘘やん!まじで出やがった)

 

 必死のお祈りも力及ばず。深海棲艦どもめ、少しは空気を読んで欲しいものだ。

 気を取り直してモニターに目をやる。モニターには新しく、接敵した深海棲艦の情報が表示されていた。そして接敵した部分が、見慣れたマスのように赤く塗られる。

 

 「右側に今映ったものが、接敵している深海棲艦の情報だ」

 

 「あ、はい」

 

 「イ級が二体。現在確認されている深海棲艦の中では、もっとも弱い種類にあたる」

 

 塚原さんが説明してくれた。どうやら、イ級が弱いのはこっちの世界でも同じらしい。

 だが悪い意味でリアルに再現されてるせいか、この世界の深海棲艦は見た目がかなりアレだ。そんな奴らと戦うなんて、俺の心中は決して穏やかではなかった。

 

 (流石に大丈夫だよな……)

 

 いやいや、落ち着け俺。相手はたかがイ級だ。イ級ごときでこんなハラハラしてたら、この先身がもたないぞ。

 キリキリと痛む胃を抑え、モニターを見つめる。ゲームだと秒で瞬殺できる相手だからか、戦闘が終わるまでの時間がえらい長く感じた。

 一体目のイ級の反応が消えたのは、接敵して少し経ってからのこと。

 

 「問題なさそうだな」

 

 モニターを見て塚原さんが言った。さすが提督、この状況でも余裕のある表情を崩さない。

 もし俺が提督だったら、ここまで冷静にいられただろうか。たぶん無理だろうなと、心の内で虚しい自問自答を繰り返す。

 そして程なく二体目の反応も消え、戦闘は終了した。こちらには目立った被害もなく、ゲームでいうところのS勝利ともいえる結果だった。

 

 (はあ……よかった)

 

 モニターから目を離し、俺はほっと胸をなで下ろす。何もしていないのに精神的に疲れた。

 

 「ふむ。俺が口を出すまでもなかったな」

 

 と塚原さん。

 

 「すまない神城君、いきなりで驚いただろう」

 

 「そうっすね……正直だいぶビビりました」

 

 「はは、無理もない。俺も予想外だった」

 

 塚原さんが再び通信機を手に取る。

 

 「こちら作戦司令室。聞こえたら応答してくれ」

 

 『あっ、司令官!』

 

 今度も皐月が真っ先に返答した。その声からは、喜びの感情がうかがえる。

 

 『ねえ聞いてよ!僕の主砲であいつらやっつけたんだ!』

 

 興奮気味に喋る皐月。姿は見えないが、かなり嬉しそうだ。

 

 「ああ、よくやった。霞、受けた損害は?」

 

 『……損害?』

 

 少しの間の後、霞が口を開く。そして鼻で笑いながら応えた。

 

 『たかがイ級ごとき、そんなのなしに決まってるでしょ。分かりきったこと訊かないで』

 

 ぷつん。通信終了。

 あの口調から察するに、霞の方から通信を切ったらしい。

 

 『あー……ごめん司令官、正確には一体だけだったよ。僕が沈めたの』

 

 『申し訳ありません司令』

 

 ここで初めて、不知火の声がスピーカーから聞こえてきた。

 

 『霞には後ほど、不知火から強く言って聞かせておきますので』

 

 「気にするな。察せなかった俺も悪い」

 

 『ですが……』

 

 「それよりも、引き続き警戒を怠らないでくれ。三人ともな」

 

 さすが塚原さん、霞の冷たい態度なんか意にも介していない模様。

 

 『うん、了解!』

 

 『了解しました』

 

 通信が終わる。塚原さんは通信機をデスクの上に置いて、小さく息を吐いた。

 

 「指揮なんて偉そうに言っておきながら、結局俺の出る幕はなかったな」

 

 「いえ、もうこの空気だけで充分すわ……」

 

 「本来なら艦娘の被害状況を確認して、進撃するか撤退するかを判断するんだ。艦娘に現場の指揮を一任するとは言ったが、それだけは提督の役目になってる」

 

 「はあ、なるほど」

 

 ここはゲームと同じ、と楽観視するのはよろしくないだろう。役目は同じだろうけど、それに伴う責任と緊張感はゲームの比ではないとこの時間で重々理解できた。

 すると、塚原さんが思い出したかのように言う。

 

 「いや、もう一つ大事な役目があった。今回は攻略済みの海域ということで、出番はなかったが……」

 

 「え、まだあるんですか?」

 

 何故だか俺はどきっとした。頭の中で危険信号が一斉に点滅しだす。

 今まで訊くに訊けなかったそれを、まさか塚原さんの口から耳にすることに、

 

 「ああ。()()()を回すというのも、提督の重要な役割の一つだ」

 

 「……」

 

 なってしまった。なんて不幸で残酷な事実。今日ばかりは扶桑姉妹に負けないぐらい、憂鬱に呟ける自信がある。

 羅針盤。数多の提督をドロ沼に引きずり込んできた、艦これの闇の一つ。その設定すらも、この世界は再現してしまうというのか。

 

 (いやいや……てかどうやって再現してるんだよ)

 

 「?どうかしたのか?」

 

 「な、なんでもないっす」

 

 俺の認識が甘かった。

 どういう仕組みか謎でしかないが、どうやらこちらの世界でも、俺は羅針盤の沼からは解放されないみたいだ……。

 

 

 

 




羅針盤は回すもの・・・

追) 誤字報告、感謝します。
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