目が覚めたら艦娘と深海棲艦がリアルに戦争してた件   作:Sh1Gr3

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E4-3が辛すぎて久方ぶりの更新です・・・

一応読み返しましたが、展開に矛盾点等ございましたら容赦なくご指摘ください。


協力者探し②

 

 協力者探しという目標が定まったとはいえ、事はそう上手く進まない。

 やらなければならないことは明白だ。この世界の『リアル艦これ』事情に詳しい人物と接近し、情報を得る。たったそれだけ。

 ではどうすれば、俺の望みを叶えてくれる人物に近づき、情報を得られるか。この手段の部分を、俺は寝る間を惜しんでずっと考えていた。

 

 「——城君」

 

 候補としては漣、皐月、夕張さんの三人。理由は消去法。

 まず塚原さんは即候補から外した。話の切り出し方が思いつかなかったし、ただでさえ忙しいのに、迷惑をかけたくない。

 次点で島風。島風は訊けばなんでも答えてくれるだろうが、なんというか協力者をお願いする気が湧かなかったので除外。

 上手く言葉に表せないが、彼女を信用していないとか、彼女の能力を疑ってとか、そういうわけでは断じてない。神に誓って。

 不知火と霞に限っては、込み入った話をできるほど友好関係が築けていないため、除外。悲しい理由ではあるが。

 以上の考えから、三人に絞った。

 問題は、この中の誰にどう話を切り出すかだが……。

 

 「神城君?」

 「! は、はい?」

 

 名前を呼ばれていたことに気が付き、瞬時に目を向ける。

 何度か呼んでいたのに俺が一向に気が付かなかったからか、塚原さんが心配そうな顔をして俺のことを見ていた。

 

 「大丈夫か?ぼーっとしていたようだが」

 「全然大丈夫です。すみません」

 

 午前の業務真っ最中の執務室。 

 最近は書類整理だけではなく、パソコンを使っての電子データの管理まで任されるようになった。

 もっとも、決められたフォルダに、ファイルをどんどん格納していくだけの簡単な作業である。

 

 「それで、話の続きなんだが」

 「はい、会議ですよね」

 「ああ。ほぼ一日、鎮守府を留守にする」

 

 塚原さんの言う会議とは、各鎮守府同士の情報共有や、海域攻略における作戦立案など、お偉いさんが集まって開かれる中々に重要なものらしい。

 このお偉いさんの中には、各鎮守府の提督も含まれている。

 

 「一人で行くんですか?」

 「そうだな……本来は補佐役として艦娘を同行させてもいいらしいんだが、あいにく今のうちにそんな余裕はないしな」

 

 確かに。一つの鎮守府に艦娘が六人というのは少なすぎる。

 

 「人、増やせないんですかね」

 

 これは最近知ったことなのだが、この鎮守府には艦娘を建造するための諸々が備わっていないらしい。

 詳細は不明だが、そのせいでこの鎮守府は常に人不足ならぬ艦娘不足に陥っている。まあもっとも、本土近海の哨戒や遠征が主なので、そこまで不足感は感じないのだが。

 

 「俺も神城君と同じ気持ちさ。少なくとも、嚮導役は必要だと思ってる」

 

 塚原さんの台詞に、俺は何も言わず頷く。

 嚮導役。簡単にいうと先生のようなものだ。ここでいう嚮導役とは、言うまでもなく艦娘のことを指す。

 俺も何度か艦娘(みんな)の訓練している様子を見てきたが、言われてみればこの鎮守府には嚮導役がいない。時折、この鎮守府で一番練度の高いと思われる漣が、皐月や島風にアドバイスをしているようだが、あれは嚮導役と言えるのだろうか。

 

 「話してみるが、難しいだろうな」

 

 塚原さんが手元の処理に目をやりながら言った。

 

 「どうも海域攻略が上手く進んでいないらしい。次の会議では、そこが主な議題となる」

 「まじすか……」

 

 絶賛攻略中の南西諸島海域。

 そこでは今まで見なかった赤いオーラをまとった戦艦や空母などが出現するようになり、その手強さに手を焼いているんだとか。

 そういえば、黄色いのが出るのもこの辺からだったっけ。

 

 (この分だと沖ノ島はだいぶ苦戦しそうだな)

 

 ゲームでも最初の鬼門とされている2の4——沖ノ島海域。

 俺もだいぶ苦戦した覚えがある。ゲームで苦戦するのだから、現実ではそれ以上に苦しいものと思っておいた方が良いだろう。

 

 「ま、暗い話ばかりじゃないけどな」

 

 そう言って、塚原さんは書類から目を離した。

 

 「今攻略中の海域では、艤装を動かすのに必要な資源が確保できるそうだ」

 「! まじですか」

 

 言うまでもない。資源とは燃料や弾薬のことである。

 ただの石油やガソリンで動いてくれればまだ良かったのだが、そうはならなかったらしい。

 艤装を動かすのに必要な資源は、特殊な生成方法で生み出されている。ただ、これがとてもコスパが悪いそうで、関係者は日々頭を抱えているとのこと。

 資源を生成する施設は各方面に建てられていて、艦娘はその出来立てほやほやの資源を取りに行ったり、今回のように各海域に湧いて出た資源を調達しに行く。

 これがこの世界における『リアル艦これ』の遠征事情みたいだ。

 改めて思ったが、中々シビアな設定である。

 

 「解放できれば、もっと安全に資源が調達できるようになるだろう」

 「……そうですね」

 

 ふと思った。

 ここでオリョクルはいかがですか?と提案したらどうなるだろうか。

 比較的安全に資源が回収可能で、もしかしたら海域攻略も一緒に行えてしまう。

 まあ条件として潜水艦がいることと、ある程度、潜水艦娘の練度が高くないといけないのだが。

 ただ、俺もこの世界の練度事情は、漣や夕張さんを見て少しは把握している。改造前の夕張さんの練度で評価が『中』なのだ。お世辞にも高いとは言えない。

 それにどこまで艦種が揃っているのかも不明だし、そもそも黄色——フラグシップ級の存在を認知していない時点で、オリョクル以前の問題だと思われる。

 俺は小さく頭を振った。よくない傾向だ。

 協力者を得るという目標を達成できていないのに、やることが無限に頭の中に湧いてくる。ドキドキワクワクの毎日にいることは事実だが、実際に出撃している島風たちを見ると、そう楽観的にいられなくなる。

 だってこの世界では、()()の二文字がリアルに存在するのだから——。

 

 「というわけで、当日は神城君にここを任せる」

 

 塚原さんに言われ、俺ははっとして顔を上げた。

 

 「神城君もそのうち、一人で鎮守府を任されるようになるだろうし、今のうちに雰囲気だけでも体感して置いた方がいいからね」

 「いや、でも自分普通の大学生ですけど……」

 「元、だろう。それに関係ないさ、妖精などという非現実的な生物に気に入られた時点でな」

 「は、はあ」

 

 俺は防衛相で会った、やたらと饒舌な妖精のことを思い返す。

 実に複雑な気分だ。あんなにはっきり目に見えるし会話もできるのに、それができない人がいるなんて実感が湧かない。

 それに一日留守にするって、万が一何かあったらどうするつもりなのだろうか。今の自分では、というか自分では何の役にも立ちそうにないのだが。

 そんな俺の考えを読んだのか、塚原さんは小さく笑った。

 

 「心配ない。当日は哨戒も遠征の予定もないから、神城君のサポートは漣に後で頼んでおくよ」

 「……わかりました」

 

 まあいくら不安でも、ここまで来て撤退の二文字は許されない。いけるところまで進撃してやるんだ。

 

 (漣か……漣ならワンチャンあるかな)

 

 俺はディスプレイとキーボードとにらめっこしながら、再び頭の中で協力者についての思案を始めた。

 

 

 

 午後、訓練場近くの桟橋。

 この時間は哨戒や遠征がない艦娘たちの訓練の時間となっている。

 俺はというと、塚原さんの指示でみんなの訓練の様子と結果を報告書にまとめる時間。報告書といっても、内容的にはそう難しいものは要求されておらず、見たままを書いてほしいと言われている。

 桟橋には俺の他に、霞、皐月、不知火の三人の姿がある。三人とも既に艤装を着用しており、準備完了状態だ。

 

 「今日は何発当たるかなー」

 

 と皐月。俺がこの中で唯一、気楽に話せる艦娘だ。

 

 「見ててよ補佐官、今日こそ全弾命中させてみせるからさ」

 「うっす」

 

 そして皐月がいざ訓練場に向かって走り出そうとした時、霞が鼻で笑いながら言った。

 

 「そういうことは一発でも当ててから言いなさいよ」

 

 霞の馬鹿にしたような物言いに、皐月はむっとした表情を浮かべると、負けじと言い返す。

 

 「大丈夫だよ。今日は当たる気がするんだ」

 「当たる気がするって、実戦でもそう言うつもり?」

 

 まるでお話にならないと言わんばかりの霞。

 俺の脳内に、黄色い警告用ランプが点灯する。これ以上は危険だと、ランプがチカチカ光る。

 

 「うるさいなー。そういう霞だって、僕と変わらないじゃんか」

 「どこがよ。ゼロとそれ以上とじゃ、比べるまでもないんだけど」

 「そうかな。それこそ、たまたま当たっただけかもしれないよ」

 「へえ……なら試してみる?正々堂々、一対一の勝負といこうじゃないの」

 「い、いいよ別に。望むところさ」

 

 少女たちの微笑ましいコミュニケーション、とは程遠い物騒なやり取りが目の前で繰り広げられている。脳内ランプはとっくに黄色から赤に変化しており、ランプとともに警告音が鳴り響く。

 これが普通の少女同士の喧嘩なら良いのだが、艦娘同士となると焦らずにはいられない。手に持つその主砲や魚雷は玩具ではないのだ、勝負だなんて危なっかしいたらありゃしない。

 俺は心の中でため息を吐くと、覚悟を決め、まあまあと二人の間に割って入ろうと歩み寄る。

 しかし、その出番は回ってこなかった。一足先に不知火が、二人の間に壁のように立ちはだかったからである。

 

 「いい加減にしてください。副指令の前です」

 

 こちらも見た目、幼い少女とは思わせないドスの効いた声色、そしてリアルに戦艦級の眼光。

 大の大人でもまともに目を合わせたら、固まって動けなくなるのではなかろうか。文字通り、蛇に睨まれた蛙みたいに。

 だがそんな不知火の眼光を前にして、霞は我知らん顔としている。皐月はというと、いつの間にか俺の後ろに隠れるようにして立っていた。

 しばらくこの均衡状態が続いたが、やがて「ふん」とつまらなそうに鼻を鳴らすと、霞は訓練場へと降りて行った。

 場はそれまでの緊張感と重々しい空気から解放され、俺は大きく息を吐いた。

 客観的に見たら霞が最初に煽ったのが悪いが、皐月も結構煽りスキルが高いらしい。当然、俺もあれ以上状況を悪くさせる気はなかったが、不知火が止めに入ってくれて助かった。

 

 「はぁぁ……どうなることかと思ったよ」

 

 後ろで皐月が安堵の言葉を漏らす。

 対して不知火は、俺に向かって唐突に頭を下げた。

 

 「申し訳ありませんでした。もっと早く止めに入るべきだったのですが……不知火の落ち度です」  

 「いや、全然大丈夫す。むしろ助かりました」

 

 不知火は真面目だ。俺からしたら超がついても足りないぐらいに。

 補佐官なんて肩書きはついてるけど、俺自身は不知火に頭を下げられるほど大した人間ではないのだ。

 それだけに心が痛む。本当はもっと友達感覚で接することができれば良いのだが……。

 

 「ほら、補佐官もこう言ってるし。気にしない気にしない」

 

 すっかり本来の調子を取り戻した皐月が、不知火に言った。

 それを聞いた不知火の視線が、さっきほどではないが鋭くなる。

 

 「あなたは気にしてください。そもそも、皐月が言い返さなければ良かっただけの話です」

 「僕のせいなの?!」

 

 驚きの声を上げる皐月。不知火が続ける。

 

 「霞の性格はもう理解しているでしょう。反撃した時点でお相子なのです」

 「えぇぇ……それちょっと理不尽過ぎない?」

 

 と、皐月の目がこっちに移る。

 

 「補佐官はどう思う?今の僕が悪いのかな」

 「ど、どうなんすかね……」

 

 客観的に見れば霞が悪いのが明白だが、ここでどちらか一方に加担するわけにもいかない。

 強いて言うなら七対三ぐらいだろうか。皐月も反撃してたし。

 

 「さあ、行きますよ。だいぶ時間を無駄にしてしまいました」

 「納得いかないなあ……」

 

 不知火はこっちを見て一礼すると、ぶつぶつと呟く皐月を引き連れ、訓練場へと降りて行った。

 訓練場を見ると、早くも霞が航行訓練を行っている。水面に何本か立てられたポールを、じぐざくと駆け抜ける訓練だ。

 スケートで想像してみたが、あんな動き逆立ちしてもできないだろうなと思った。やろうと思えば最後、全身痣だらけの悲惨な未来が待っていることだろう。

 しかし、霞は不規則な間隔で立てられたポールの間を、淀みない動きで滑り抜けていく。一往復、二往復と終えてもポールにかする気配すらない。

 俺は早速、今見た霞の見事なまでの航行訓練について、報告書にまとめる。まるで流麗なダンスを踊っているようでした、という文言が浮かんだが、表現が気持ち悪いので頭の中から消却。何往復したとか、ポールにあたりませんでしたとか、事実だけをつらつらと記載していく。

 一通り書き終わり、訓練場に視線を戻すと、三人とも砲撃訓練を行うところであった。

 まず霞が前に進み出る。さっきまであんな激しい動きをしていたというのに、平然としている。

 そして狙いを定めると、手に持った12.7cm砲が火を噴き、遠くで水柱が上がった。そのまま何発か撃ち続け、いくらもしないうちに砲弾が的に命中した。命中弾は二発だ。

 こちらも報告書に結果をまとめる。弾数的にも余裕ありそうだったし、流石としか言いようがない。

 訓練用の的は全部で五つ設置されている。残弾を気にしつつ、充分に弾を残した状態で全ての的を射抜ければパーフェクト。四つでほぼ完ぺき、三つでも文句なしといった基準。

 ちなみに一つでも安定して当てられるようになれば実戦レベルだとか。

 霞と不知火の二人は、平均して三発は命中させるので、文句なしレベルに到達するかしないかといった、高いラインに位置している。練度は二人とも、夕張さんと同じ『中』だ。

 もっとも、数値化して見える俺にとっては、改造できる練度に到達できてない時点で『低』と判断したいところなのだが。

 一方の皐月はというと、一発も命中弾を得られないまま弾が尽きて終了、もしくは一発当たって万々歳が今の彼女の砲撃スキルといってもいいだろう。練度も『低』と評価されている。

 もしあのまま霞と皐月のタイマンが始まっていたら……。

 物騒な想像を頭の中から消し去り、三人の訓練を見ることに集中する。

 続く不知火の砲撃は、霞と同じで二つの的に命中した。お見事と感心しつつ、報告書に記載。

 不知火と霞の練度は数値上もほぼ同じなので、これぐらいの練度になると誰でもあんな当てられるようになるのだろうか。それならば、皐月もそのうちなんとでもなりそうだが。

 最後はその皐月の番。12cm単装砲を構え、前に進み出た。

 

 「僕の砲雷撃戦、始めるよ!」

 

 お決まりの掛け声とともに、砲弾が発射される。

 どん、どん、どんと打ち上げ花火が連続で上がるかのような豪快な砲撃音と、着弾するたびに舞い上がる水柱。何度見ても壮観な光景である。

 しかし肝心の砲弾はというと、左にいったり右にいったり、はたまた明後日の方向に飛んでいったりと、まとまりがない。

 彼女の訓練はもう何度か見ているが、報告書に命中弾ゼロを記載する回数の方が遥かに多い気がする。

 一生懸命撃っている彼女の姿を見ると、中々に心が痛んだが、嘘を書くわけにもいかないので致し方なかった。

 砲撃音が止み、的を目視で確認すると綺麗に五つ並んだままだった。命中弾ゼロだ。

 俺は報告書を書こうと、訓練場から目を離す。その直前、皐月が何やらこちらに向かって来るのが見えた。

 

 「ねえ補佐官!」

 

 声を掛けられ、報告書を書いていた手が止まる。声の方を見ると、近くの水面に皐月が立っていた。

 俺はペンをポケットにしまい、皐月の下に駆け寄る。

 

 「どうしたんすか?」

 

 何かあったのかと慌てて問い返す。

 すると、皐月は意外なことを口にした。

 

 「全然当たらないんだよ。どうしたらいいかな?」

 「……へ?」

 

 予想外の皐月の言葉に、思わず情けない声が漏れた。

 一体急にどうしたというのだ。今までそんなこと、聞かれもしなかったのに。

 

 「いやさ、言われっぱなしは悔しいじゃん。だから一発でもまぐれじゃなくて、実力で当てたってところを見せたいんだよ」

 

 主砲を握る手に、ぐっと力を込めて話す皐月。

 負けず嫌いの人の気持ちを考えると、あれだけ言われれば確かに腹が立ちそうだ。

 

 「補佐官て最近、僕が訓練してる時はずっとここにいるからさ。だから僕の悪いところ、何か知ってるかなって……」

 「……」

 

 言葉が出てこなかった。

 確かに訓練は見てきたけど、どこが悪いとかまで考えて見てなかったのだ。

 せいぜい「今日は調子よさそうだなー」とか「訓練大変そうだなー」とか内心思ってただけで、肝心の内容までは深く考えてこなかったのである。

 だから今、非常に困っている。皐月の疑問に、なんて返してあげたらいいか分からない。

 返答に困っていると、皐月は申し訳なさそうに言った。

 

 「ごめんね、急に変なこと聞いちゃって」

 「あ、いや……大丈夫す」

 

 なんて情けない奴なんだと、自分に対する怒りをなんとか抑え込み、必死で回答を模索する。その甲斐あってか、皐月に関するあることを思い出した。

 俺は「そういえば」と、話を切り出す。

 

 「皐月さん、前に深海棲艦倒したって言ってましたよね?」

 

 それは忘れもしない、俺がここに来て初めて、艦娘の実戦を目の当たりにした日のことだ。

 あの時の哨戒の報告書は俺も読んだが、戦果報告の欄に、皐月が駆逐イ級を撃沈した旨が書かれていたのだ。

 皐月が頷く。

 

 「うん。でもあれも偶々だったかも……」

 

 自信なさそうに俯く皐月。俺はあり得ないと言わんばかりに答えた。

 

 「直接見てないんで分からないですけど、相手も動いてるんすよね?」

 「そりゃそうだよ、深海棲艦だもん。止まってくれるわけないよ」

 「でも俺的には、動いてる的に当てる方が難しい気がするんすけど」

 

 当然の理屈だ。止まってる的と左右に動く的とでは、狙いやすさは段違いだろう。

 それに実戦ともなれば、皐月自身も激しく動くだろうし、海上なので波も風もある。そんな中で動き回る深海棲艦に砲弾を命中させるのは、相当難しいはずだ。

 すると、皐月はうつむいたまま驚くべきことを口にした。

 

 「ううん、僕的にはそっちの方がやりやすいんだよ」

 「え、そうなんすか……?」

 

 思わず聞き返してしまった。感覚は個々によるだろうが、これはもしかしなくても逸材なのでは。

 皐月がまた頷いた。

 

 「訓練だと的も止まってるし、僕も止まって撃つからさ。なんか上手く狙えなくて」

 「……なるほど」

 

 普通は逆だと思うが、感覚は人それぞれだ。皐月の場合、動いて撃つ方が狙いやすいのだろう。

 であればと、俺は頭に浮かんだ文字の羅列をそのまま口にした。

 

 「じゃあ、もういっそ動いて撃てばいいんじゃないすか?」

 「えっ?」

 

 俺の言葉が予想外だったのか、面を食らったかのような反応をする皐月。

 だが実際のところ、訓練に止まって撃たなきゃいけないなんてルールは存在しない。たぶん。

 だったら、別に動いて撃っても構わないだろう。まさに逆転の発想ってやつだ。

 

 「いや、でも……そんなことしていいのかな?怒られない?」

 「たぶん大丈夫じゃないすか。それに動きながら当てられた方が凄いっすよ」

 「うーん……」

 

 しばしの間、皐月は葛藤するように唸っていたが、次に顔を上げた時にはすっかり元の皐月に戻っていた。

 

 「分かった、それでやってみるよ!」

 

 再び訓練場へと駆け出す皐月。

 海上に降りる直前、皐月はこちらへ振り返ると、

 

 「ありがとう補佐官!」

 

 感謝の言葉を残し、霞と不知火の元へと向かって行った。

 あんなアドバイスで大丈夫かなと、不安な気持ちを抱きつつ、心の中でエールを送る。

 ほどなくして、皐月は霞と不知火の元へ到着。二人から何やら言われてるようだが、訓練が再開された。

 皐月が真っすぐ、的に向かって主砲を構える。そして砲弾を放つ前に、その場から航行運動を始めた。

 これには霞と不知火も面を食らったようで、霞の「何やってんのよ!」という怒声が聞こえてくる。

 だが、皐月はお構いなしに左右へ展開。その間も、砲口は真っすぐ標的である的へ向いている。

 やがて、一発の砲弾が的を目掛けて発射された。

 砲弾は綺麗な弧を描き、そのまま的へと吸い込まれていくかのようにして目標に到達。水柱とともに、砕け散った的が宙を舞った。

 

 「おお、当たった!まじか!」

 

 まさか本当にあんな動き回りながら当てるとは。しかも初弾で。

 霞も同じことを思ったのか、目を見開いて砕け散った的を呆然と眺めている。

 皐月は更にもう一発、続けて砲撃。これも見事、別の的に命中した。

 もしかしてこのまま三発目もと思いきや、弾が尽きたようで砲撃が終了。皐月は航行を辞めると、満足そうにこっちを見て手を振った。

 

 「補佐官ー!僕やったよー!」

 

 皐月の嬉しそうな気持ちが伝わってくる。俺も見てたよと、右手を挙げて合図した。

 本来であれば、弾が尽きる前に命中弾を得なければならないのだが、今回ばかりはそういうのは無しで報告書を書く必要がありそうだ。

 俺はポケットからペンを取り出し、皐月に関する報告書をまとめる。

 訓練はその後も続けられ、戻ってきた皐月の練度を密かに確認すると、訓練前のそれよりも確実に上回っていた。

 

 

 その日の夜。

 補佐官としての仕事も完了し、俺は少し開けたフリースペースのような場所にいた。

 本当は自室に戻って休みたかったのだが、訓練の報告書が上手くまとまらなかったので、ここで仕上げることにしたのだ。

 

 「なんて書くかな……」

 

 今までの報告書はただ結果を書いているだけだったが、それでは全然足りないということが今日分かった。

 これはゲームではなく現実なのだ。そして訓練しているのは、この世界に実在する艦娘。

 であれば、もっと具体的に何が足りなくて、どこを伸ばせば良いのか?それぞれの短所、長所などもっと深く考える必要がある。

 塚原さんからは、内容について特にとやかく言われたことはなかったが、今後はその辺りも精査して報告書をまとめようと決意した。

 決意したのだが。

 

 「……むっず」

 

 難しい。さっきから一向にペンが進まない。

 というか、どういう感覚で航行したり砲撃したりしてるのか分からないと、何が足りないとか書けるわけないのではなかろうか。

 例えば、スポーツだってそうだ。俺は一応、高校まで野球をやっていたので、野球のことならある程度アドバイスできる。それは経験が自分の身体に染みついているからだ。

 では艦娘の訓練はどうか。そんなの経験したことがないので、分からないというのが本音だ。

 第一、どういう原理で航行したり砲撃してるのか分からないのに、その上、自衛官でもない俺にそんなご立派な報告書を書けというのが無理な話なのだ。ゲームと現実はいい加減、区別しなければならない。

 と、ここで当然といえば当然の結論に至った。

 

 「やっぱ艦娘の訓練は艦娘に任せるしかないだろ」

 

 そうなると、やはり嚮導艦が必要になってくる。できれば軽巡の人が好ましい。夕張さんも軽巡だが、彼女は自身の練度があまり高くないので、まだ無理だと思われる。

 俺は思った。誰でもいいから、練度高めの軽巡が来てくれればいいのに。特に神通さんとか。

 完全に自分の世界に入ってしまっていたせいか、俺は背後に人がいるのに気が付かなかった。

 

 「なーにぶつぶつ言ってるんですか」

 

 突然の声に、びっくりして振り返る。後ろにいたのは漣だった。

 

 「何してるんです?食堂では姿が見えませんでしたが」

 

 そう言って、すぐ傍へ移動してくる漣。

 俺はペンを持ち、いかにも仕事してる風を装った。

 

 「ちょっと作業が残ってるんで、それ片付けてるとこっす」

 

 漣の目が報告書へと移る。そしてつまらなそうに言った。

 

 「そんなの適当に書いちゃえばいいんですヨ。ぱぱぱっと」

 「いや、そういうわけにもいかないすよ……」

 

 さっきまでの決意を、お構いなしに揺さぶってくる漣。それからどういうわけか、漣は向かいの席へ腰を下ろした。

 なんだなんだと戸惑っていると、

 

 「真面目ですねえ、神城氏は」

 

 半ば呆れた様相で言われてしまった。

 俺だってさっさと終わらせたいけど、こればかりは今後のためにも必要なのだ。今までのようにぱぱぱっと済ませるわけにもいかない。

 

 「何を悩んでるんです?」

 

 漣が報告書を覗き込んでくる。

 

 「まあちょっと、色々っす」

 「色々とは」

 「えっ……」

 

 漣の厳しい追及が俺を襲う。返答に困っている間も、漣の目はじっと俺の目を捉えていた。

 やがて俺は観念したとばかりに、訓練時の皐月の一件と、報告書の内容について話した。

 

 「ただ、あまりに色々知らなすぎるんで……どうしようかなって感じっす」

 

 書きたいが、自身の知識不足のことも付け加えた。

 一通りの話を終えると、漣は感心したように言った。

 

 「神城氏って、つい先日まで学生さんだったんですよね?」

 「そうっすね。一応」

 「にしては、肝が据わってるというかなんというか……普通そこまで考えようとしないですよ」

 「ま、まじっすか」

 

 俺は頭の中で考える。

 仮に俺が艦これの知識がない状態でここに来た場合、同じ行動を取ろうとするだろうか。情けないがいまいち自信がない。

 それにみんなのことも、事前に容姿や性格を把握していなかったら、こんなに早く馴染めていなかった気がする。特に霞と不知火なんか、下手したらトラウマになってたかもしれない。

 そんなことを考えていると、漣は付け加えるようにして言った。

 

 「ご主人様だって、訓練のことはそんな深く考えてないんじゃないですかね。基本どこの鎮守府もですけど、艦娘のことは艦娘にって感じですし」

 「……そうなんすね」

 

 適当に相槌を打ちながら、やっぱりと俺は思った。

 今度の会議で嚮導艦の件が上手く通るようにと、心の中で祈る。

 

 「といっても、この鎮守府には嚮導艦がいませんからねえ……」

 

 どこか遠い目をして漣が言う。俺は冗談交じりで提案した。

 

 「漣さんがやればいいじゃないすか。練度も一番高いですし」

 「いやいやいや、無理ですヨ。練度だって、ぬいぬいや霞ちゃんと同じ『中』判定ですよ?」

 

 無理無理と言わんばかりに、漣は首を横に振った。

 

 「それに、そういうの漣のキャラじゃないですし」

 

 あははと誤魔化す様にして笑う漣。しかしそう言われては、この話は終わらざるを得ない。

 俺は再び、手元の報告書に視線を戻した。漣の目も報告書に移る。

 

 「それにしても、さつきちが初弾命中を連続でやってのけるとは。何か悪いものでも食べたんですかね」

 

 酷い言われようだ。まあ、普段から皐月の訓練を見ていれば、そう思うのも無理ないかもしれないが。

 

 「でも皐月さんも前にイ級倒してますからね」

 「ああ、そういえば。漣は遠征でいなかったですけど」

 「俺はいきなりすぎて、心臓飛び出るかと思いましたわ……」

 

 嫌な記憶だ。たかがはぐれイ級との戦闘だというのに、心臓が鷲掴みされたような感覚を覚えた。

 前線で戦ってる提督は、あんな思いを毎日しているのだろうか。とてもじゃないが、俺は耐えられそうにない。

 

 「大丈夫ですヨ。イ級程度なら、さつきちでも一人でやれますって」

 「……そうっすよね」

 「まあ、軽巡クラスが混じってくると危ないですけど」

 

 軽巡クラスというと、ホヘト級あたりだろうか。ツ級や鬼、姫級はまだ登場していないはずなので、数はかなり絞られる。

 さり気なく聞いてみると、漣はまた感心した様相で俺を見た。

 

 「よく覚えてますね」

 「いろは歌なんで……」

 

 俺がそう言うと、漣は指で数えながら、

 

 「チ級は雷巡なので、確かに軽巡はト級までですね。駆逐艦は確か……ハ級まででしたっけ?」

 「いや、今のとこはたぶんニ級までっす」

 「あー、忘れてました。さすが、詳しいですね」

 

 あまり嬉しくないが、誉め言葉として受け取っておこう。

 漣は更に指を数えて問いかけてきた。

 

 「いろは歌ってことは、そのうちタ級とかレ級とか出てくるんですかね?」

 「……」

 

 俺は少し考える。

 怪訝に思われるかもしれないが、少し攻めてみるか。

 軽く咳ばらいをし、漣の疑問に頷いた。

 

 「そのうち出てくると思いますよ。()()()()とか()()()()()も」

 「黄色いのとか青いの?」

 

 漣が首を傾げる。当然の反応だ。今のところ、赤のエリートまでしか確認されていないのだから。

 俺はちらと周りに目をやる。広いスペースだというのに、時間も時間だからか俺と漣以外の姿は見えない。

 充分に確認してから、漣に訊いた。

 

 「漣さん、まだ時間大丈夫すか?」

 「えっ……別に大丈夫ですけど」

 

 訝しげな表情を浮かべる漣。そりゃそうだ、これだけちらちら周りを見てたら普通に怪しい。

 だがこれから話すことは、塚原さんや他の艦娘にはあまり知られたくないのだ。どう思われようと、この確認は必要だった。

 俺は小さく深呼吸した。どこから切り出そうか、どこまで話そうか、短い時間で吟味する。

 そして一言、結論から先に言うことにした。

 

 「さっきの話の続きで、ちょっと協力してほしいことがするんすけど……」

 「ほう」

 

 協力のお願いをした途端、漣はニヤリと口の端を吊り上げた。

 

 「それで、漣に何をご所望で?」

 

 漣が笑みを崩さないまま訊いてくる。

 緊張のせいか、頬と背中に冷や汗が流れる。でも、ここまできたら後には引けない。

 俺は覚悟を決め、また小さく咳ばらいをして喉の調子を整える。それから、これまで考えてきた協力者のことを打ち明けた。

 

 

 誰もいなくなったフリースペース。

 どの時間帯でも、誰かしらいたり通ったりするのだが、夜九時を回るとぱたっと人気がなくなる。

 漣は神城との話が終わった後も、この場に居座っていた。なんとなく、動く気になれなかったのだ。頭の中では、先の神城との話を思い返している。

 神城信吾——自衛官でもその手の学校の出でもない、妖精が見えるだけの一般人。それなのにどうして、提督や漣にも知り得ない情報を知っているのか。

 装備開発のこと、艤装のこと、おまけに深海棲艦のことまで。彼は本当にただの学生だったのだろうか。ストレートに訊いてみたが「今日はもう遅いので」とはぐらかされてしまった。

 神城の言う協力者の件は、面白そうなので了承した。最初は半信半疑で彼の話を聞いていたが、彼の話が嘘でも本当でも、漣自身彼のことを気に入っている節があるし、提督ではなく艦娘である自分にお願いしてくる辺り、中々に分かっていると漣は思った。

 漣はニヤリと笑みを浮かべると、ぐっと伸びをした。そして、誰もいない空間に声を発した。

 

 「盗み聞きはよろしくないですぞ」

 

 すると漣の声に反応するようにして、柱の向こうから少女が一人姿を現す。

 漣は少女の姿を見て、意外だという口振りで言った。

 

 「おや、霞ちゃんでしたか。どうしたんです?こんな時間に」

 「別に、偶々通りかかっただけよ」

 「その割には、随分と長くいたみたいですけど」

 

 漣の指摘に、そっぽを向く霞。

 事実、神城が協力者の話をし始めた時から霞はここにいた。自室に戻ろうとした矢先、偶然にも神城の姿が目に入ったので、訓練の時に皐月に何を吹き込んだのか訊こうとしたのである。そこで協力者の話が始ったため、咄嗟に身を隠したのだった。

 漣は続けて問いかける。

 

 「今の神城氏の話、聞いてました?」

 「……さあね」

 「聞いてたんですね」

 

 霞の曖昧な返事に、漣は聞いてたなと確信する。

 そして更に問いかけた。

 

 「霞ちゃんはどう思います?神城氏のこと」

 「どう思うって、何がよ」

 「神城氏って何者なのかなーと。さっき訊いたんですけど、上手くはぐらかされちゃいまして」

 「知らない。興味ないし」

 「ならどうして聞いてたんですか?隠れてまで」

 「……」

 

 霞からの返答は得られない。黙ったまま柱に背を預けている。

 漣もそれ以上は追及しなかった。霞の性格は理解しているつもりだ、偶々通りかかった奴が興味がないのにこの場に長居するわけがない。

 要するに、霞も多少なりとも気になっているのだ。彼のことが。それは漣にとって、意外なことだった。

 なにせ霞は、艦娘とも提督とも一定の距離感がある。その距離を霞から埋めようとはしないし、こちらからのアプローチにも関心を示さない。

 そんな霞が、彼に興味を持った。彼女にとって、今の話にはそれだけの価値があったのだろうか。いや、あるいは……。

 ちらっと霞に目をやる。ちょうど柱から背を離すところであった。

 何も言わず立ち去ろうとする霞。漣はその背中に声をかけた。

 

 「そういえば今の話、他言無用らしいので。そこのところお願いしますね」

 

 漣の声に反応することなく、霞は柱の向こうに消えていった。

 今度こそ、誰もいなくなったフリースペース。漣はやれやれと言わんばかりに首を振った。

 

 「まったく、不器用な子ですなあ」

 

 あれは筋金入りだ。もしかしたら()()()()()かもしれない。

 ふと壁の時計を見ると、夜の十時を回ろうとしていた。よっこらせと席を立ち、そのまま寮の方へと足を進める。

 その足取りは異様に軽い。途中からスキップも混じり、軽快な足取りでフリースペースを後にする。

 そんな漣の頭の中では、やはり先の神城との話が思い返されていた。

 

 

 




やたらと長くなってしまいましたが
協力者は漣、君に決めた!

作者はこの中なら漣が一番わかってくれそうだなと判断しましたが
皆さんはどうでしょうか・・・?
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