目が覚めたら艦娘と深海棲艦がリアルに戦争してた件 作:Sh1Gr3
下手な事を口走ってはいけない、と俺は思った。
こんなところで躓いていたら、せっかく並行世界に来た意味がない。この世界でただ普通の生活を送るぐらいなら、もう一度コンクリの壁の下敷きになって元の世界に戻った方がましだ。今すぐ戻ってまだ開催されているであろう夏イベの続きをやってた方が、充分有意義だと胸を張って言える。
俺は心の内で自身にそう言い聞かせ、これから始まる話に備えた。決して、決して間抜けな受け答えになってはならない。
最初にこの沈黙を破ったのは宗川さんだった。
「神城さんは現在、大学三年生です。卒業まであと一年以上の時間が残されています。ですがこちら側で働く以上、当然大学はやめてもらわねばなりません。それでも構いませんか?」
「は、はい。大丈夫です」
即答した。これに関しては数日前から覚悟してたし、今更なんの問題もなかった。
宗川さんの表情が少しだけ険しくなる。
「ありがとうございます。残念ながらこの国が今置かれている状況は、テレビや新聞で報道されているほど決してよいものとは言えません。素質があるとはいえ、一般市民の中から人手を募らねばならないほどに」
またしても現実を突きつけられる。宗川さんは続けて言った。
「確かに神城さんのような、素質のある方が名乗りを上げてくれるのは喜ばしいことなのですが……もしこちら側で働くことになれば、これまでのような日常は送れなくなるやもしれません」
「これまでの……」
「はい。そこで一つ確認しておきます」
さっきよりも真剣な顔つきに変わる宗川さん。俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「それでも、神城さんの
しばしの沈黙。
今度は即答できなかった。いや、即答できる空気ではなかった、と言った方が正しい。
この状況、明らかに問われていた。俺がこの先、本当にやっていける人間なのかどうかを。
言うまでもないことだが、現実はゲームのように甘くはない。それでも自分に妖精を視認できる素質があるのなら、少しは自分にもアニメの主人公のような補正がかかってるのかもしれない、そう楽観視していた。
万が一俺の持つ『艦これ』の知識が役に立たなくなった場合を考えると、少し怖くもなったがそんなのは二の次だった。とりあえず俺がこの世界でできること、それを確認するためにここへ来たのだから。
「大丈夫だ兄ちゃん」
それまで静かにしていた妖精が、不意に口を開いた。
「隠してるつもりだろうが、うちにはわかるぜ。兄ちゃんは他の人間とは少し違うってな」
小さな妖精の目がまっすぐに俺を捉えていた。思わず痒くもない頬に爪を立てる。
「へへっ、妖精の勘てやつだ。気にしないでくれ」
宗川さんと大淀さんも、その瞬間は黙って妖精に視線を集中していた。
どうやら妖精は、俺がこの世界の人間じゃないことすら気付いているらしい。妖精さん、恐るべし。
俺は再び宗川さんと目を合わし、できる限り力を込めて返答した。
「はい。変わらないです」
また部屋の中が静かになる。妖精だけが「そうこなくっちゃ」と楽しそうに笑っていた。
「……わかりました。話を戻します」
少ししてから、宗川さんまた真面目な口調で話し始めた。だが心なしか、さっきより表情が柔らかくなった気がする。
俺はバレない程度に深呼吸して、それから話に集中した。
「我々が素質のある人間を募っていると言う話は、先ほどから再三してきましたね」
「は、はい」
いわゆる「はいはい」マシーンと化す。緊張で震える声は無視。
「その中でも、特に我々が募っているのが『提督』と呼ばれる艦娘を指揮する人物です」
提督というワードに、自然と体がびくっと反応する。俺はわざと問い返すようにして小さく呟いた。
「指揮……?」
宗川さんが頷く。
「テレビや新聞では情報規制のため報道されていませんが、艦娘は『提督』の指揮の下で、日々深海棲艦と戦っているのです」
なるほど。だから深海棲艦のニュースは簡単に見つかっても、艦娘のことに触れてるものはほとんど見当たらなかったのか。
俺は心の中で納得した。
「ところで神城さんは、艦娘についてどこまで理解していますか?」
「えっ……」
不意打ちに近しい台詞が飛んでくる。こういった面接の場において「えっ」なんて聞き返しは、ご法度だというのに。
(でも流石に全部知ってますよ、とは言えないよな……)
脳内で自問自答の作業に入る。ここは慎重に応えを選ばねばならない局面だ。
しかしそれでも困った。
この世界の艦娘は情報規制のせいで、自衛隊に属する深海棲艦にやたら強い部隊、とでしか一般的に認知されていないのだ。そのため、艦娘という名の由来さえわからない人が大半であった。
俺はどう返せばいいのか迷ってしまう。ここで俺の知る艦娘の知識を披露するのも悪くないが、もしゲームと現実で差異があった場合、収拾がつかなくなる恐れがある。それに悲しいことに、俺にそんな度胸はなかった。
仕方ないので、この世界における知識の範囲で応えることにした。
「自衛隊の中の一部隊ってことは聞いたんですけど……それ以上はわかんないです」
「確かに。世間一般的にはその認識が正しい」
宗川さんは「ですが」と続けた。
「信じられないでしょうが、艦娘は普通の人とは少し異なる人員で構成されています」
ここで彼は初めて大淀さんの方を見た。まるでそれが合図かのように、大淀さんが口を開く。
「改めまして、
そう言って頭を下げる大淀さん。俺も慌てて頭を下げた。
「彼女もまた艦娘の一人です。艦種は軽巡洋艦」
横から宗川さんが説明してくれる。加えて、衝撃的なことを言ってのけた。
「艦娘とは、読んで字のごとく。艦の力を秘めた人間、そういう意味でつけられました」
いや、まあ存じ上げておりますとも。言わないけど。
「艦娘は深海棲艦や妖精と同様、ある日突然現れました。理由は未だわかっていません」
俺は無言で首を縦に振る。
「深海棲艦相手に我々の持つ兵器では、決定的なダメージは与えられませんでした。現状、艦娘だけが奴らに対抗しうる唯一の存在です」
(へえ……)
これも創作物ではよくある設定だった。それにしても、こんな話他の人が聞いても意味不明だろうな。
すると彼は大淀さんに目線を移した。
「とはいえ、実際に目で見ないことには実感も湧かないでしょう。大淀」
「はい」
大淀さんは席から立つと、少し離れた位置に移動した。そして目の前の何もない空間に手をかざす。
その直後。
彼女の左腕から、灰色っぽい色をした
「えっ……?」
これには俺も目を丸くした。
それまで何も持ってなかったはずの手に、確かに握られている鉄の塊。中央から伸びる二本の棒は、その真ん中に穴が空いていて、なにかを射出するにはぴったりの形状となっていた。
「これが艤装です。今は海上ではないので、全ては顕現できませんが……」
と大淀さん。俺は興奮と驚きの面持ちで艤装を眺めていた。
艤装。それは艦娘が艦娘たりうるものの呼称。艦娘は自身の艤装を駆使して深海棲艦と戦う。
俺の目に映るそれは、確かに大淀さんの持つ主砲であった。
「どうでしょう。彼女が艦娘だとわかっていただけましたか?」
「あ、はい」
「それはよかった」
そりゃあね。眼前であんなことされたら、誰だって否が応でも信じるしかなくなるってもんだ。
「少し話を戻しますが、我々は大淀たち艦娘の力を借りて深海棲艦と戦っています。にもかかわらず、戦況はそれほど思わしくない」
「……」
「それはなぜか。艦娘を正しい方向へと導く事ができる指揮官が不足しているからです」
要するに、俺のよく知る『提督』が足りないってわけだ。
だが本当に、そんな一般人から募らねばならないほど足りないのだろうか?
この国には元の世界と同じく、自衛隊という組織がある。別に一般人から集めなくとも、自衛隊だけでなんとかならないものなのか。
さりげなく宗川さんに質問してみると、あっさり首を振られてしまった。
「当然、最重要事項は深海棲艦の排除です。しかし、それだけに集中し過ぎては他が疎かになってしまいます。誠に残念ながら、問題は深海棲艦だけではないのです」
現実世界の厳しさを突きつけられる大学生。己の勉強不足を露呈する羽目になってしまった。
「もちろん、我々も全力を尽くしてはいます。ただ先ほども言ったように人数が足りないのです。艦娘を正しく導くことのできる人間が」
「案外いないもんなんだよなー。うちらが見える人間てさ」
横から妖精が、やれやれといった口調で口を挟んだ。
「兄ちゃんみたいに話までできる奴は特に珍しい。よほどメルヘンチックな性格をしてるのか、それともただ単純なのか……」
ふん、余計なお世話だ。視線を宗川さんに戻す。
「残念なことに、妖精の言う通りです。おそらく神城さんには、ゆくゆくは『提督』として艦娘を導いてもらうことになると思います」
(まじかよ……)
思わず息を呑んだ。尚も話は続く。
「さて、そこで最後の確認です。以上の話を踏まえて、それでも決意に変わりはありませんか?」
少しだけ考えた。といっても、時間ではほんの一瞬だ。
こんなの訊かれるまでもない。大淀さんの艤装と妖精の後押しを受けてからは、緊張はしてるものの不思議と強気でいられた。
「はい、大丈夫です!」
放たれた言葉は、今日一番の力強さを誇っていた。
書き終わってから色々と不備が見つかるのどうにかしたい(切実)
それと未だに大淀さんしか艦娘登場させられなくてごめんなさい・・・