目が覚めたら艦娘と深海棲艦がリアルに戦争してた件   作:Sh1Gr3

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とりあえず次には繋がりました

 

 「ふう……」

 

 第一会議室を出た俺は、それまで溜まっていた諸々を吐き出すように、静かに大きく息を吐いた。 

 なんとか次へ繋げることができたという安心感と、凄まじい緊張の反動による倦怠感で、心は落ち着いても体は妙に重い。たかが二時間ほど話をしただけで、こんなにも疲労が溜まるなんて。

 

 「でかいため息だな。もっと喜んだらどうだ?」

 

 足元から声が聞こえる。一緒になって部屋から出てきた妖精の声だ。

 

 「うちは嬉しいよ。これから兄ちゃんと仲良くやっていけると思うと」

 

 ひたすら一人で喋り続ける妖精。そのちっぽけな図体で、よくそんな大きな声が出せるなと感心してしまう。

 

 「なんだよ、つれないなあ」

 

 俺の態度が気に障ったのか、妖精がむっとした様相の声をあげる。

 

 次の瞬間。

 

 妖精はそれまで立っていた床から、空中に飛び上がった。

 

 「わっ……!」

 

 驚いて後ろへ退くも、視界に妖精の姿は確認できない。

 まさか妖精にここまで機敏な動きができたとは。あの形でこの俊敏さは反則だろう。

 

 「悪いな兄ちゃん、肩貸してもらうぜ」

 

 いきなり耳元から声がした。次いで肩になにかが触れる感触。

 

 「っ?!」

 

 ギリギリ声には出さなかったものの、心の中では盛大に悲鳴をあげる大学生。

 さっきよりも体全体がびくっと震えた。

 

 「ははは、いい眺めだ。兄ちゃん背高いな」

 

 未だ呆然としている俺とは裏腹に、楽しげに辺りを見回す妖精。一旦意識すると肩の上の感覚が妖精が動く度に変化して、微妙なくすぐったさを覚える。

 

 「そら、行った行った。門まで送ってやるよ」

 

 どうやらこのまま進めと、そういうことらしい。

 

 (まじかよ……)

 

 妖精の動く気配はない。このまま行くしかないようだ。

 俺はしぶしぶと、どこかぎこちない足取りで歩き始めた。

 

 ガチャ。

 

 と、歩き出した途端、背後で扉の開く音が耳に入った。その音を聞いて瞬間的に振り返る。

 出てきた人物は大淀さんであった。

 

 「あっ……」

 

 思わず声が漏れる。既に振り返ってしまったため、帰ろうにも帰れなくなってしまった。

 大淀さんと目が合う。彼女は頭を下げてから、こっちに歩み寄った。

 

 「へへ、まさか大淀と同じ目線で話せる日が来るとはな。いい気分だ」

 

 と妖精。

 大淀さんは一瞬妖精に目を向けるも、すぐに俺を見て言った。

 

 「先ほどはお疲れさまでした」

 

 「あ、いえ……」

 

 反射的に頭を下げる。目と目を合わせて会話するのは当然の礼儀だが、今の俺にはとてもできそうにない。

 ちなみに、これを世間一般ではコミュ障と呼ぶ。

 

 「よっ、大淀」

 

 妖精が話しかける。そんな妖精に対し、大淀さんはやや呆れたような表情を浮かべた。

 

 「随分と気に入られてしまったようですね」

 

 「あ、まあ……」

 

 気に入られるのは嬉しいけど、人をびっくりさせるのは勘弁してほしい。心臓に悪すぎる。

 最初は俺がびびり過ぎなだけという線も考えた。でもどう考えも、妖精なんて非現実的な生物が急に肩の上に現れたら、誰だってひっくり返るという結論に至った。

 

 「初めてです。妖精さんがここまで人と関わろうとするのは」

 

 「はあ……」

 

 若干複雑な気持ちになりながら苦笑い。

 大淀さんの台詞に、妖精が反論じみた口調で言う。

 

 「別にそんなことはない。うちと気の合う人間が少ないってだけさ」

 

 「神城さんとは気が合ったと?」

 

 「まあな」

 

 妖精は自信ありげに応えた。

 でも正直、なんでこんなに気に入られてるか未だに謎である。

 

 「……そうですか」

 

 少しして大淀さんが呟いた。心なしか、今までよりも言葉に暖かさを感じる。

 再度、彼女の視線が俺に移った。

 

 「門までお送りします」

 

 「え?あ、いや、ここで大丈夫ですよ!」

 

 「そうもいきません。私は妖精さんが暴走しないよう、見張り役の任を仰せつかっていますので」

 

 台詞と共に、メガネをくいっと上げ直す大淀さん。耳元で妖精の「暴走ってなんだよ」という不満そうな声が聞こえてくる。

 大淀さんは気にする様子もなく続けた。

 

 「神城さんも、先ほどの話でなにか訊いておきたいことがあればどうぞ。私でよければお答えしますよ」

 

 「あっ……ありがとうございます」

 

 正門までの短い距離の中、俺は大淀さんの申し出に素直に甘えることにした。とはいっても、なにを訊こうまだ決めてないのだが。

 俺は頭の中で先の話を思い返した。

 知りたいことは山ほどある。俺の持つ『艦これ』の知識と、この世界の事情にどこまで差異があるのか、とか。

 だが今それを口にしたら色々とややこしくなりそうだ。今はまだ口にすべき時じゃないだろう。

 

 (うーん、なに訊こうかな……)

 

 なにも思いつかない。どこまで訊いていいのか、そのさじ加減が難しくて言葉が出てこない。

 せっかく大淀さんと話ができる貴重な時間だというのに、やはり俺はコミュ障なのか。断じて認めたくないけど。 

 

 「あ、あの」

 

 半ばやけくそ気味に声を発した。別段、訊きたいことがあるわけでもないのに。

 

 「はい、なんでしょう」

 

 大淀さんの歩くペースが少し遅くなる。ちゃんと俺の話を聞こうとする姿勢が伺えて、少し嬉しくなった。

 

 「えっと、さっきの艤装……で合ってましたっけ」

 

 「ええ」

 

 「あれってどうやって出したんですか……?」

 

 これはもっともな疑問だろう。特におかしな質問でもないはず。

 少ししてから応えが返ってきた。

 

 「詳しく説明すると長くなってしまうのですが……簡単に言うと、あの艤装も私自身なんです。普段は自身の内側にしまっていて、出撃時になると先ほどのように外側へ顕現させます」

 

 要するにこの世界の艦娘は、艤装を自由に出し入れできるってことか。便利だな。

 

 「ただ海上でないと全ては顕現できないので、先ほど神城さんにお見せできた艤装は、全体のほんの一部にすぎません」

 

 「あー、主砲だけでしたもんね」

 

 「おや、よくお分かりになりましたね。あれが主砲だと」

 

 心底意外そうな声をあげる大淀さん。歩くペースがさらに遅くなった。

 

 「あ、いや、なんか真ん中に穴が空いてたんで……なんとなくそう思っただけです」

 

 「……なるほど。中々の洞察力ですね」

 

 やった、大淀さんに褒められた。これは素直に喜んでおこう。

 

 「なんだ兄ちゃん、案外博識じゃないか。やっぱただの素人ってわけでもなさそうだな」

 

 妖精の視線が突き刺さる。大淀さんも少しだけこっちに振り向いた。

 当の俺はというと、とりあえず頭を掻いて知らないふり。

 

 「うちの勘は結構当たるんだぜ?なあ大淀」

 

 「否定はしません」

 

 後ろからでも、大淀さんがメガネを上げ直したのがわかった。

 妖精が意味深に俺の肩をぽんぽんと叩く。

 

 「いや……」

 

 この二人、妙に連携がとれてないか。そのうち何も言わなくても、この世界の人間じゃないことがバレそうで怖い。まあ隠してるわけでもないし、別にバレても問題ないのだが。

 そう開き直っているうちに、冷房の効いた心地よい空気から、むわっとした空気に一変した。

 九月に入ったとはいえ、まだまだ残暑の厳しさを感じる。空を見上げると、陽もまだまだ沈みそうになかった。

 これからこの暑さの中帰るのかと思うと、自然と気分が落ち込んでしまう。でも早いところ帰って、今日のことを両親にも話さなければ。

 そのまま重い足取りで、防衛省の敷地から外へ出る。俺は改めて大淀さんに頭を下げた。

 

 「では四日後に」

 

 「はい、失礼します」

 

 次ここへ来るのは四日後だ。宗川さん曰く、その日に色々と詳しい説明の場を設けてくれるらしい。

 ちらっと肩の上の妖精に目をやる。早くどいてくれという意を込めて。

 やがてそれが伝わったのか、妖精は軽快な動きで大淀さんの肩の上に跳ねてみせた。

 

 「またな兄ちゃん」

 

 俺は妖精にも、感心半分呆れ半分といった具合でついでに一礼する。そして早々に人生初の防衛省を後にした。

 

 

 

 




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