目が覚めたら艦娘と深海棲艦がリアルに戦争してた件   作:Sh1Gr3

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チュートリアル

 

 四日後。

 俺はより詳細な『リアル艦これ』事情を聞くために、再び防衛省を訪れていた。

 

 「ふむふむ……あなたが新しい()()さんですか」

 

 机の上を行ったり来たりしながら、目の前の妖精が口を開いた。同時にまるで品定めをするかのような目線を向けてくる。たとえ身体は小さくても、その目線は異様に鋭い。

 

 「いえ、正確には提督ではありません」

 

 横から大淀さんが訂正するようにして言う。

 

 「最初は補佐官として、既に着任されている提督の補佐をしてもらいます。神城さんご自身が提督として着任するのは、まだ当分先の話です」

 

 「おや、そうでしたか」

 

 だがそんな二人のやり取りは、あまり耳に入ってこなかった。この妖精が手元から吊るしている()()()に、自然と目が惹きつけられたからである。

 

 (なんだあれ……猫?)

 

 目を凝らして見ると、そのなにかは猫のぬいぐるみのようだった。全体的にのぺっとしており、妖精が歩くたびに身体中がぶらんぶらんと揺れている。

 妖精自体は茶髪のおさげを黄色いリボンで留めていて、若葉マークの描かれた白い帽子とセーラー服姿が妙に凛々しい。

 俺にはこの妖精の風貌に見覚えがあった。

 妖精は目先に立ち止まると、ぺこりと一礼した。

 

 「初めまして。私これから着任される提督さん方に、提督業について色々と教授しております。名前は……まあ気軽に妖精さんとでもお呼びください」

 

 「あ、初めまして……神城信吾です」

 

 次いで頭を下げる。「名前は」の後で少し言い淀んだ気がしたが、そこを突っ込む勇気はない。

 ふと妖精は悪戯な笑みを浮かべた。

 

 「なるほど。面白い方だという話は本当だったみたいですね」

 

 「へっ?」

 

 「ああ、こちらの話です。お気になさらず」

 

 やけに含みのある言い方をする。そう言われると逆に気になって仕方がない。

 妖精はこほん、と咳払いをしてから続けた。

 

 「さて。それでは早速、チュートリアルを始めましょうか」

 

 「……チュートリアル?」

 

 思わず呟くように聞き返した。

 まさか彼女の口から、その言葉を耳にすることになるとは。確かに艦これでは彼女がその役を担っていた。この世界でもそれは変わらないということなのか。

 すると妖精が首を傾げながら言った。

 

 「?もしかして余計なお世話でしたか?」

 

 「あ、いや、そんなことないですよ!」

 

 慌てて首を横に振る。予想外の台詞に、大淀さんは怪訝そうな表情をした。

 

 「どういう意味ですか?」

 

 「いえ、別に深い意味はありません。ただの戯れですよ」

 

 「戯れ……?」

 

 「はい。なんとなく彼の顔に、そう書いてある気がしたので」

 

 二人の視線が集中する。俺は肩をすくめた。

 それにしても、ただの戯れなんかで確信をついてくる妖精さん。恐るべし。

 

 「ところで、もう一人の提督さんはまだ来られないのですか?」

 

 妖精が大淀さんに訊く。大淀さんは時間を確認してから応えた。

 

 「それが、会議が少し長引いているようでして……終わるまでもうしばらくかかりそうです」

 

 本来であればここに現役の提督さんが来てくれるはずが、会議の影響で遅れるとのことであった。

 

 「了解しました。まあ彼がいなくても、別段問題はありません」

 

 「……」

 

 意外と辛口な妖精さん。

 大淀さんは無言でメガネに手をやった。どうやら否定はしないご様子。

 

 「では彼が来る前に、チュートリアルを終わらせましょうか」

 

 これには大淀さんも頷いて、手に持った紙を数枚俺の目の前に置いた。

 

 「どうぞ」

 

 「あっ、ありがとうございます」

 

 早速置かれた紙に目をやる。一番最初に表紙の『作戦要綱』という文字が目に入った。

 

 「まず第一に、艦娘と深海棲艦についてです。さすがに名前はご存知ですよね?」

 

 「あ、はい。一応……」

 

 知ってるといえば知っているが、果たして俺の知るものであるかどうか。

 

 「深海棲艦というのは、ある日突如として出現した謎の生命体です。正体は未だに分かっていません」

 

 俺は妖精の話を聞きながら、紙に書かれた文面を黙読した。

 深海棲艦。不意に海の中から現れ、奴らの武装が軍艦のそれと類似していることから、そう名付けられたらしい。紙にはご丁寧に、今まで出現した深海棲艦の種類と特徴まで、細かく記載されている。

 

 (うわ、再現度たっか……)

 

 奴らの見た目は俺の想像以上にエイリアンであった。確かにゲームで登場する奴らの特徴は備わっているのだが、リアルだとそれがずっと異形なものとして目に映る。気味が悪いというか、素直にキモイ。

 対して人型である戦艦や空母は、その外見の再現度には驚かされたものの、瞳に光が全く感じられず、マネキン人形のような印象を受けた。戦艦ル級や空母ヲ級がそれに当たる。

 

 「どうです。気味が悪いでしょう?」

 

 「……そうですね」

 

 苦笑いを浮かべながら返答した。妖精はさらにページをめくるよう促す。

 

 「そんな深海棲艦と日々戦っているのが、艦娘と呼ばれる存在です」

 

 艦娘。それはかつて、日本が所有していた軍艦の魂を秘めた娘たち。艤装と呼ばれる特殊な兵装をまとい、深海棲艦と互角に戦える不思議な存在。以下、艦娘のことがつらつらと詳細に語られている。

 

 (……同じだ。ゲームと)

 

 資料にざっと目を通して、俺は少し安堵した。この世界の艦娘と深海棲艦は、見た目は多少違へどゲームと何ら変わりない。これなら俺の持つ艦これの知識を充分に活かすことができるだろう。

 説明がひと段落して、妖精が俺に訊いてくる。

 

 「どうでしょう。艦娘と深海棲艦のこと、少しは理解できました?」

 

 「まあ……たぶん大丈夫です」

 

 俺はわざと曖昧な感じで返した。

 妖精がくすりとする。

 

 「多分、ですか。本当に面白い方ですね」

 

 (どこが……?)

 

 自分では全くそうは思わないが、目先の妖精はその後のチュートリアルもどこか楽しげだった。

 

 

 

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