目が覚めたら艦娘と深海棲艦がリアルに戦争してた件 作:Sh1Gr3
妖精によるチュートリアルは実に分かりやすいもので、提督さんが来る前に、俺はこの世界の艦娘と深海棲艦の知識を大方抑えることができた。
少なくともこの説明の中では、俺の懸念するゲームとの差異は見当たらなかった。まあもっとも、チュートリアルと言うぐらいなので、本当に基本的なことしか説明されていないのだが。
例えば、艦娘は軍艦の力を持った存在で、艤装を使って深海棲艦と戦う。その際、提督の存在が必要不可欠で、指揮を執る提督がいなければ艦娘は通常の力を発揮できない。そして彼女らは軍艦と同様、艦種ごとにその役割が異なり、艦娘になってもそれは変わらない。とか。
一方で深海棲艦は、いつどのように出現するのかは不明。だが一度出現したらどんどん増殖していき、最終的にはその海域を我が物顔で占領するらしい。その上、通常兵器では決定的なダメージは与えられないという、艦これの創作物でよく耳にする設定つき。俺が言うのもなんだが、非常にタチが悪い。
「以上が艦娘と深海棲艦についてです」
妖精の話が終わる。俺は分かったような顔で、何度か頷いてみせた。
横から大淀さんがフォローしてくれる。
「いきなりこのような話をされても、全てを理解するのは難しいでしょう」
「は、はい」
「ゆっくりで構いません。着任までになんとなく我々や深海棲艦に対して、そのようなイメージを定着していただけたらと思います」
「あっ、分かりました……」
着任と言われて、俺は一つ気になった。俺の着任先は一体どこになるのだろうか。県外は仕方ないにしろ、海外泊地は流石に勘弁してほしいんだけど。
「だいぶ駆け足になってしまいましたが、何か質問があればどうぞ」
と妖精。
俺は早速、今気になったことを大淀さんに訊いた。
「あの、俺の着任先ってどこになるんでしょうか……?」
俺の問いに、大淀さんはハッキリと返答してくれた。
「予定では第六鎮守府と呼ばれる、つい先日新設されたばかりの鎮守府です」
「第六鎮守府……」
「はい。千葉県の館山に位置しています」
「わっ、結構近いですね」
俺はほっとした。館山の正確な場所までは知らないが、千葉県ならいつでも帰ってこれる。
そう肩をなでおろした途端、部屋の扉がノックされた。
なにかを言う前に扉が開く。入ってきたのは全身真っ白な服を着た、見るからに体格のいい男性であった。
「すまない、遅くなった」
彼は暑そうに上着をぱたぱたさせ、扉を閉めた。
大淀さんはメガネに手をやると、男性に対して鋭い目を向ける。
「随分長い会議でしたね。予定ではもうとっくに終わっているはずですが」
「何事も予定通りとはいかないものだ。きりがないから途中で抜けてきてやった」
男性は「やれやれ」といった口調で喋っていた。見た目の厳つさとは裏腹に、口振りからは意外とフランクさを感じる。
「彼が?」
「ええ。神城信吾さんです」
ため息混じりに頷く大淀さん。俺は反射的に席を立った。
「あっ、神城信吾です。よろしくお願いします」
「第一鎮守府で提督をしてる
相対するとよりいっそう精悍に感じる。俺はかしこまって頭を下げた。
「ああ、そうかしこまらなくていいよ。座ってくれ」
「は、はいっ」
言われた通り座り直す。相浦さんも机を挟んで、俺の向かい側の席に腰を下ろした。
「悪かったね遅れて。本当はもっと早くに来れるはずだったんだが」
「あ、いえ。全然大丈夫です」
むしろ忙しいのにもかかわらず、俺なんかのために貴重な時間を割いてくれて申し訳なく思う。
「おっ、妖精さん」
相浦さんが机の上の妖精を見て言う。妖精はぺこり一礼し、俺にだけ聞こえる程度の声量で呟いた。
「見た目はああでも、我々を『妖精さん』と呼べる程度の愛嬌は持ち合わせてるんですよね」
「……」
これに関しては完全にスルー。この妖精、可愛い形をしてても言うことは全て直球勝負だから怖い。
相浦さんの視線が戻る。
「神城君は妖精さんと、ちゃんとした会話ができるらしいね」
「あ、はい」
「驚いたよ。俺の周りでは見える奴ですら少ないってのに」
俺は前会った妖精が言ってたことを思い出した。確かにそのようなことを言ってた気がする。
「まあ、我々妖精は人の心に敏感ですからね。見えない人間はそれだけ心が毒されてるってことでしょう」
妖精が付け加えるように言った。相変わらずの辛口である。
しかしこれで、見える人間と見えない人間の差は理解できた。だから前会った妖精も目の前の彼女も、俺がこの世界の人間じゃないことを薄々感じ取れたんだ。
相浦さんは再び目の前の妖精に目をやった。
「会話できる人間はもっと少ない。俺も一応できるんだが、彼らの言葉はどうも片言のように聞こえてね。恥ずかしながら完璧ではないんだ」
「そ、そうなんですか……」
これはどう捉えればいいのだろうか。会話できることを素直に喜べばいいのか、それとも。
「貴方はそれだけ単純な人間だということですよ」
三たび妖精さんの辛口コメントが突き刺さる。明らかに俺に対しての台詞だ。
「私たち妖精の存在を信じて疑わない。こうして平然と言葉を発していることすらも、当たり前のように受け入れる。そんな人間は希少種です」
(希少種って……)
遠回しに馬鹿にされたような気がした。だがそれも、相浦さんの話でプラマイゼロになる。
「この人手不足の中で君のような人間が名乗りを上げてくれるのは、我々としても非常にありがたい」
「あ、いえ……」
「しかし君はまだ大学生だ。素質があるとはいえ、何も無理してこちら側へ来る必要はない」
相浦さんの表情が険しいものへと変わる。
「私が言うのもなんだが、提督業ってのは君の想像以上に厳しいぞ。特に精神的にな」
「提督業ではありません。補佐官です」
不意にそれまで無言だった大淀さんの、鋭いツッコミが入った。メガネをくいっとやる姿が流石によく似合う。
「そ、そうだったな。だがいずれ、彼も提督として着任するんだろう?」
「ええ。まだ当分先の話ですが」
「なら今のうちに、この仕事の厳しさというのをだな……」
「余計なことはしないでください。威圧的な話し方も控えるようお願いします」
大淀さんはぴしゃりと言い放った。この感じだと、怒らせたら怖いのは大淀さんで間違いないなさそうだ。
その証拠に、相浦さんの表情から険しさが消えている。
「す、すまん。君の覚悟は既に宗川さんから聞いてるよ」
「あっ……はい」
覚悟。そんな大層なものでもないけど、俺の持つ知識を少しでも役立てたいって思いは今も変わらない。
相浦さんは少し間を置いて、続けた。
「これからよろしく頼む。何か困ったことがあれば遠慮なく言ってくれな」
「あ、ありがとうございます!」
と、いい感じの雰囲気が流れているところに、大淀さんが横から口を開く。
「相浦提督、神城さんの着任先は第六鎮守府です」
「……えっ?」
しーんと静まり返る室内。
俺は相浦さんと大淀さんの両方に、視線を行き来させた。相浦さんの様子から察するに、どうやら自分の下に来るものだと思ってたらしい。
大淀さんはさらに言う。
「あなたに補佐官は必要ないでしょう。それに第六鎮守府の方が、仕事量も少なくて済みます」
「いや、それはそうだが……神城君のためを思うなら、忙しい場所に身を置いてこそ——」
「既に決まったことですので」
「あっ、はい」
なんとも面白い光景である。大淀さんに頭が上がらない相浦さんも面白いけど、こうやって俺の目の前で、実際の提督と艦娘のやり取りが行われていると思うと、なんか感慨深いものがある。
相浦さんは開き直ったようにして、俺に言った。
「と、いうわけだ。頑張ってくれ神城君」
「あ、ありがとうございます……」
とりあえずお礼を言っておく。
俺は第六鎮守府の提督も、相浦さんみたいな人がいいなと思った。見た目が厳ついかはともかく、人としてしっかりしてるって意味で。
次の次辺りで着任したい・・・
この見るからにテンポの悪い展開は、作者の文才の問題です。どうかご容赦の方を()