目が覚めたら艦娘と深海棲艦がリアルに戦争してた件 作:Sh1Gr3
チュートリアルが思いの外早く終わったため、残りの時間は鎮守府への配属手続きに費やされた。
手続きといってもそう複雑なものではなく、大淀さんから手渡された数枚の書類に、指示通りの内容を記入していくだけの簡単な作業である。それゆえに、俺は相浦さんたちの会話を聞きながら、持参したペンを走らせていた。
「そうか、第六鎮守府か……私が呼ばれたのは、うちに来るからだとばかり思っていたよ」
相浦さんが口惜しそうに呟く。
「神城君のような好青年は、うちではさぞかし人気者になれただろうな」
「は、はあ……」
適当に愛想笑いを浮かべ、相槌を打つ。
俺はこれを聞いて、着任先が新設されたばかりの鎮守府でよかったと心から思った。確かに艦娘とのコミュニケーションは願ってもないことだが、別に自分は好青年でもないし、人気者になりたいとも思っていない。それにいきなり大所帯に着任とあっては、とてもじゃないが俺の心臓がもたないだろう。
「あなたを呼んだのは、会議でこちらまで赴くと聞いていたからです」
手元の書類に目を向けながら、大淀さんが言った。
「そもそも、なんのために私は呼ばれたんだ?」
根本的な疑問を述べる相浦さん。大淀さんは書類から一旦目を離し、相浦さんに視線を移した。
「これから着任される神城さんに、あなたの口から何かあればと思いまして」
「何かって言われてもな……彼はまだ提督として着任するわけではないんだろう?」
「ええ。ですが現役の提督にしか答えられない疑問や、着任するにあたっての不安もあるでしょう。その点に関しては私や妖精さんが答えるよりも、相浦提督の方が適任だと判断しました」
「……それもそうか」
大淀さんの台詞に、相浦さんは納得したご様子。
俺自身も聞いてみたいことはあったので、今日ここに相浦さんが来てくれたことには感謝しかない。
「疑問や不安、ですか。あなたからは微塵もそんなもの感じませんけどね」
こう言ったのは妖精さん。相変わらず俺にだけ聞こえる程度の声量で喋っていた。
「ただ単に何も考えてないだけなのか、それとも他に余裕でいられる理由があるのか……」
鋭い。さすが妖精さんと心の中で讃えておこう。
「ぜひあなたとは一度、ゆっくりお話してみたいものです」
望むところだ。もし今後その機会がきたら、遠慮なく疑問をぶつけさせてもらうとしよう。
含み笑いを浮かべる妖精をよそに、俺はペンを机の上に置いた。あらかた書類の必要事項を記入し終えたので、最後に記入漏れや間違いがないか確認の作業に入る。充分に見直して、それから終わったことを告げた。
「あっ、終わりました」
するとすぐに大淀さんがやってきたので、そのまま書類を手渡した。
「お預かりします」
大淀さんはぱらぱらと書類をめくって、本当に不備がないか確かめていく。それも終わると、書類を丁寧に封筒にしまった。
「お疲れさまでした。これで着任の手続きは完了です」
「は、はいっ」
「次から実際に鎮守府へ赴いてもらって、着任という形になります。かなり急ではありますが、どうかご容赦ください」
「あ、大丈夫です」
俺が頷くと、大淀さんはさらに説明を続けた。
「生活用品や備品類はこちらで手配しますが、他に必要だと思う物がございましたら、当日までにまとめておいてください。一週間後のヒトマルマルマルに、こちらからご自宅までお迎えにあがります」
「あっ、はい。分かりました」
これにも頷いた。いささか待遇が良すぎる気もしたが、やってくれるというのだから素直にお言葉に甘えさせてもらおう。
「私からは以上です」
大淀さんはそう言うと、相浦さんに視線をやった。
「相浦提督からは何かありますか?」
「……そうだな」
少しの間、黙考する相浦さん。やがてまっすぐ俺を見据えて言った。
「私が言うのもなんだが、仕事のことは心配いらない。補佐官といっても、メインは提督のサポートだからな。現地の提督の指示通りに動けばいい」
「は、はい」
「それよりも、まずは艦娘や妖精さんとコミュニケーションを取ることだ。君もいずれ提督になるのなら、これだけは欠かせないぞ」
「コミュニケーション……」
「そうだ。まあ妖精さんと会話のできる君なら、問題ないだろうがな」
「……」
これに関してはすんなり頷けなかった。
艦娘にもよるだろうが、最初はコミュ障を発揮する可能性が高い。大淀さんには徐々に慣れてきてはいるものの、未だにほとんど目を合わせて話せていないので、たぶん重症である。
「そういえば、第六鎮守府の艦娘は誰がいたんだったか」
相浦さんが大淀さんに訊いた。これは俺もずっと気になっていたことなので、今まで以上に聞き耳をたてる。
「確か別の鎮守府から何人か異動したはずだが」
「はい。今は六人の艦娘が所属しています」
大淀さんは手元の資料を一枚、相浦さんに渡した。
「所属艦娘のリストです」
「ふむ……な、なかなか個性的なメンバーだな」
資料を見終わると、相浦さんは微妙な苦笑いを浮かべた。
「しかしまあ、神城君なら大丈夫だろう。まだ若いしな」
そして最後に、相浦さんは俺を見て「頑張ってくれ」と激励した。
いったいその資料には、誰の名前が書かれているのやら。一人ぐらい見えないかと思ったが、いかんせん視力の低下が著しい。
「……気になりますか?」
必死に資料に目を向ける俺を見て、大淀さんが訊いてきた。
「え?あ、いえ……」
次にどう答えようか戸惑っている最中、大淀さんは所属艦娘の書かれた資料を差し出した。
「どうぞ。先に名前だけでも把握しておけば、後で顔と一致させるのも少しは楽になるでしょう」
「あっ、ありがとうございます……」
若干躊躇いの素振りを見せてから、差し出された資料を受け取った。
資料には確かに、第六鎮守府に所属する艦娘の艦種から名前まで、詳細に記載されている。
(うわ、すげえ……)
にやけそうになるのを必死でこらえる。あまり夢中になってしまうと、妖精や大淀さんに怪しまれる恐れがあるので、ぱっと見て資料を返した。
「他に何か訊いておきたいことなどありませんか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
とりあえずこの場で得られる情報は全て把握した。まだまだ知りたいことはあるけど、残りはまた機会をうかがってから訊くとしよう。
「では、今日はこれでお開きにましょう」
終わった。それまでの緊張が一気に解かれ、俺は周りに気付かれないよう大きく息を吐いた。
着任まであと一週間。今の俺には長く感じるが、荷物をまとめたり親に事情を話したりと、やることはそれなりにある。そうだ、あと大学の方もなんとかしなければ。
俺は持ってきたバッグの中に筆箱を投げ入れ、簡単に帰り支度を整える。それから席を立って頭を下げた。
「今日はありがとうございました」
「いや、礼を言うのはこっちだよ」
と相浦さん。
「人手不足とはいえ、まだ大学生である君をこんな非日常の中に巻き込んでしまったこと、本当に申し訳なく思ってる」
「いえそんな。自分から望んだことなので」
「……すごいな。私なんかよりよほど肝が据わってるよ」
相浦さんが俺を見て、感心したような口振りで言った。大淀さんが部屋の扉を開ける。
「ちなみに神城さんは、私が艦娘だと知っても少しも驚きませんでしたよ」
「ははは、やるな神城君。私はしばらくの間、言葉を失ったというのに」
俺は今回も適当に相槌を打ちながら、部屋から出た。
窓の外はまだまだ明るい。今日ここに来たのが昼過ぎぐらいだったので、九月の半ばといえど陽が沈むにはいくらかかかるだろう。携帯で時間を確認すると、チュートリアルが始まってからまだ三時間も経っていなかった。
ふと前を歩く大淀さんが、相浦さんに訊いた。
「そういえば、会議の方は大丈夫なのですか?」
「代わりを頼んで出てきたからな。問題ない」
相浦さんが断言する。と、そこへ。
「あっ、提督さん!やっと見つけましたよ!」
大淀さんたちのさらに前方から、聞き覚えのある女性の声がした。
「もう、どこ行ってたんですか!いきなり後を頼むだなんて、酷いですよ!」
女性は相浦さんに対し、怒りを爆発させていた。相浦さんがなんとかなだめにかかるも、なかなか収まりそうにない。
そんな状況下にもかかわらず、俺は怒り狂う女性に目を奪われていた。
(あの人……)
目に入った瞬間、俺は確信した。彼女もまた、大淀さんと同じ艦娘だと。
声からして間違いないのだが、銀髪のツインテールに、胸の赤いリボンが印象的な正装姿の艦娘といったら、あの人しかいない。
「分かった、私が悪かった。だからこの場はこれで勘弁してくれ、
鹿島。無論、俺のよく知る艦娘の一人である。
それにしても、あの鹿島さんを現実でここまで再現するなんて。この世界の再現度には心底驚かされる。
「まったく……大変だったんですからね?次からはちゃんと、前もって言ってください」
「ああ、すまなかった」
どうやら収拾がついたらしい。この様子だと鹿島さんは、相浦さんの秘書艦で間違いなさそうだ。
俺と同じように一歩引いたところから、大淀さんが言った。
「気は済みましたか?」
心なしか口振りに威圧感を感じる。大淀さんは無表情だが、肩の上の妖精は見るからに呆れていた。
「あ、すみません。私としたことが……」
「ここは防衛省です。少しは自重してください」
大淀さんはそれ以上は叱責せず、再び歩き始めた。
「神城さん、行きましょう」
「あ、はい」
相浦さんと鹿島さんに一礼して、大淀さんの後に続く。
後ろから俺が誰なのか、相浦さんに尋ねる鹿島さんの声が聞こえたが、振り返らずに歩いた。
「やれやれ。女性のヒステリーは耳が痛いですね」
二人と充分離れてから、妖精が呆れた口調を崩さず喋った。
「あなたもそう思いませんか?」
「え?あ、いや……」
急に話を振られたので、気の利いた台詞が出てこない。それにあれはヒステリーじゃなくて、単に怒ってただけだろう。
今度はこちらを振り向くことなく、大淀さんが口を開いた。
「悪い方ではありませんよ。あれでもすごく優秀な艦娘です」
「あっ、そうなんですか」
「……少々お転婆なところが玉に瑕ですが」
しばしの間を置いて、大淀さんは付け加えるように呟いた。妖精も「うんうん」と頷いている。
どうもこの世界の鹿島さんは、ゲームとはやや性格が異なるみたいだ。それとも元々、鹿島さんはお転婆キャラなのか。この辺りのキャラ設定は、いつか艦これの公式に問い合わせてみたいところである。
頭の中でそんなことを考えながら、防衛省の正門まで戻ってきた。大淀さんは立ち止まると、俺の方を向いて言った。
「それではまた、一週間後に」
「は、はいっ!」
俺は大淀さんと、ついでに妖精にも頭を下げる。その際、妖精と目が合った。
「次会った時はもっと、あなたのこと教えてもらいますからね」
妖精の目が光る。俺はその台詞に無言のまま頷いて、防衛省を後にした。
すみません、更新遅くなりました・・・
※主人公の喋り始めに「あ」とか「あっ」が目立ちますが、そういうキャラだと思って目をつむっていただけますと幸いです()