目が覚めたら艦娘と深海棲艦がリアルに戦争してた件   作:Sh1Gr3

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第二章 元大学生が鎮守府に着任しました
補佐官着任


 

 一週間後。

 俺は家まで迎えに来てくれた車に乗り込み、鎮守府へと出発した。

 

 この世界に来てから早一ヶ月、特に大変な道のりを辿ってきた記憶はないが、いよいよ鎮守府へ着任できると思うとどこか感慨深いものがある。

 

 だが決して、楽観視はしていない。鎮守府に着任するのはあくまでも最低条件であって、ここからがやっとスタートなのだ。俺はまだスタート地点に立ったにすぎない。これから先をどう立ち回るかによって、物事の進み具合が決まってくる。

 

 とりあえず最初は相浦さんに言われた通り、艦娘たちとコミュニケーションを取るところから始めようと思う。もちろん補佐官としての仕事も覚えながらだが。

 俺は頭の中で、第六鎮守府にいる艦娘たちのことを、再度思い浮かべた。

 

 (えっと……漣、不知火、霞、島風、皐月、夕張さん……)

 

 このメンバーに加え、一時的にではあるが明石さんまで異動していると、大淀さんから見せてもらった資料には書いてあった。間違いなくコミュ障を発揮するであろう、豪華なメンバーである。

 

 ここ一週間、彼女たちと会えるのを待ちわびていたが、いざそれが目の前まで近づくと、まともに話せるかどうか不安でしかない。

 あの大淀さんや鹿島さんを見るに、おそらく彼女たちもゲームと近しい姿で再現されていることだろう。そんな彼女たちと相対した時、果たして平静を保っていられるかどうか。

 

 俺はポケットの中の携帯を手に取り、ホーム画面を開く。相変わらず『艦これ』という名のアプリは目に入らなかった。少しぐらいゲーム上の艦娘を見られれば、気も紛れるというのに。

 

 仕方ないので携帯を閉じて、窓の外に目を向けた。なんら元の世界と変わらない東京湾が、水平線の向こうまで広がっている。本当に深海棲艦だなんて物騒なものが、存在してるのかってぐらいに穏やかだ。しかしこの至って平穏な海のどこかでは、実際に深海棲艦と戦ってる艦娘がいる。そう考えると、艦娘と会えることが楽しみだなんて、少し不謹慎な気がした。

 

 (いや、やめよやめよ。こんな時に考えることじゃないわ……)

 

 海を見ていたら何故か気分がブルーになったので、再び携帯を手に持った。とはいっても、艦これ以外に目立ったゲームもなく、適当にSNSを弄ったりする程度。こっちはこっちで艦これをきっかけに知り合った人たちは、初めから知り合ってなかったことになっているため、随分と寂しくなった。

 

 それなりに仲のよかった人も消えてしまったのは、この世界に来て感じたマイナスの部分である。まあ当然といえば当然なので、あまり文句は言えないのだが。

 しばらく携帯に集中していると、車は思っていたよりも早く高速道路から一般道に降りた。徐々に信号待ちが多くなり、少ししてまたスムーズに走るようになる。そこまで進むと周りには背の高い建物は見られなくなっていた。

 

 車は既に目的地の真ん前まで来ていたようで、前の方にはどう見ても周囲の雰囲気とマッチしない、近代的な建物が見える。車はそのまま門の前まで進んで停車した。

 運転手さんに到着を告げられ、俺は充分にお礼を言ってから車を降りる。トランクから持参した荷物を取り出し、改めて鎮守府の方に目を向けた。

 正面に「第六鎮守府」と書かれた看板がかかっている。どうやらここが第六鎮守府で間違いなさそうだ。

 

 「ふう……よし、行くか」

 

 一呼吸置き、出来るだけ緊張を振り払って門の前へ。そして「誰だよお前」と言わんばかりの顔をする警備のおじさんに身分証を見せ、着任の旨を伝える。すると今度はかなり驚いたようで、確認の作業はあっという間に済んだ。

 

 俺は警備のおじさん方に一礼し、鎮守府の敷地内へと足を踏み入れる。が、すぐに足が止まった。

 前方にピンク色の髪をした少女が一人、俺のことをじっと見据えながら立っていたからである。少女は俺と目が合うと、ぺこりと一礼した。

 

 「()()()()()ですね?」

 

 聞き慣れた声で少女が言う。リアルで聞くと見た目の幼さとのギャップが、より大きいものに思えた。

 俺も頭を下げて、少女の問いに頷いた。

 

 「あっ、は、はい。神城信吾です」

 

 動揺しすぎて特に尋ねられてもいない名前まで口にしてしまう。やはり初見で平静を保つのは、俺には無理なようだ。

 しかし少女は全く気にする様子もなく、びしっと敬礼した。

 

 「()()()()()()()()()()()()()です。ご指導ご鞭撻、よろしくです」

 

 「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 完璧だ。本当に不知火そのままではないか。一体どうなってるんだよこの世界は。

 心の中で健全な興奮と奮闘しながらも、なんとか顔に出さないよう努める。

 

 「副司令。到着早々で申し訳ないのですが、司令がお待ちしています」

 

 と不知火。俺ははっと我に帰った。

  

 「どうぞこちらへ」 

 

 「あ、はいっ」

 

 そうだ、すっかり忘れていた。まずは提督さんに会って着任の報告をしなければ。

 とりあえず一旦落ち着くために、深呼吸する。まだ他に六人も艦娘がいるというのに、初っ端からこれでは先が思いやられて仕方ない。

 

 「……副司令?」

 

 そんな俺の様子を疑問に思った不知火が、首を傾げて見つめていた。

 

 「あっ、すみません!今行きます!」

 

 結局ちっとも落ち着けないまま、俺は不知火の案内で鎮守府内を進んで行った。

 

 

 不知火の案内で、俺は鎮守府の中を歩いて行く。

 案内といっても特に不知火と言葉を交わすわけではなく、俺も不知火も無言で歩いているのが現状である。本来なら俺から色々と質問したりして、会話を弾ませなければいけないのだが、いかんせんリアル不知火を目の前にしてしまうと、それも難易度が高かった。

 建物の入り口からいくらか歩いたところで、不知火の足が止まる。案の定なんの会話もないまま、提督室までやって来た。

 

 「ここが提督室です」

 

 提督室を前にして、初めて不知火が口を開いた。

 

 「少しお待ちを」

 

 「あ、はい」

 

 そして扉をノックする不知火。すると直ぐに中から「どうぞ」という声が聞こえてきた。

 不知火が先に部屋に入り、俺もその後に続く。

 

 「失礼します。司令、神城副司令をお連れしました」

 

 「……来たか」

 

 司令と呼ばれる男性が、デスクから顔を上げてこっちに視線を移す。

 男性は真っ白な提督服に身を包んでいて、相浦さんほどではないにしろ、それなりにがたいのいい好青年であった。たぶん歳も俺とそこまで変わらないだろう。

 俺はとりあえず安心した。よかった、相浦さんみたいな厳つい人じゃなくて。

 

 「それでは、不知火はこれで」

 

 「ああ、ありがとう」

 

 早々に不知火が提督室を後にする。部屋には俺と提督さんの二人だけになった。

 眼前の男性は扉が閉まると、椅子から立ち上がった。

 

 「さて、まずは自己紹介からしておこうか」

 

 「あ、はいっ」

 

 自然と背筋が伸びる。先に男性から名乗った。

 

 「提督の塚原(つかはら)です。よろしく」

 

 「か、神城です。よろしくお願いします」

 

 俺も遅れて頭を下げる。歳は然程変わらなそうなのに、漂うオーラがまるで違って見えた。

 

 「あー、そんなにかしこまらなくてもいいよ」

 

 塚原さんが手をひらひらさせて言う。

 

 「提督なんて偉そうに名乗ってるけど、単に妖精が見えて多少の意思疎通が図れる。たったこれだけで選ばれた若輩者だからね。歳だって神城君とそう変わらない」

 

 「いや、そんな……」

 

 「本当はもっと階級の高い人間がやるべきなんだが、そういう人間に限って妖精が見えないらしい」

 

 「あ、そうなんですか」

 

 「らしいよ。俺も詳しくは知らんが」

 

 俺は妖精の言葉を思い返す。

 確かに大人は妖精の存在なんて、おいそれと信じないだろうなと思った。あの毒舌な妖精の言葉を借りれば、逆に信じてる奴の方が希少種なのである。

 

 「適当にかけてくれ。色々と説明しなきゃならないこともあるから」

 

 「はい、失礼します」

 

 かしこまって目の前に置かれたソファーに腰を下ろす。塚原さんはデスクの上で何やらごそごそとやっていたが、それも終わると俺の前の席に座った。

 

 「まずは神城君にこれを」

 

 そう言って塚原さんは、手に持った物をテーブルの上に置き始めた。端から免許証サイズの身分証、おそらく寮の鍵、最後に携帯端末が並べられる。

 

 「これが神城君の身分証で、こっちが部屋の鍵だ。寮に制服も用意してある」

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 「今日いきなり仕事を手伝ってくれとは言わないから、後でゆっくり身の回りの整理を進めて欲しい。もし生活用品で足りない物があれば、申請してくれれば直ぐ手配する」

 

 「えっ、今日は仕事いいんですか?」

 

 思わず聞き返す。塚原さんは頷いて、

 

 「俺も着任したばかりで、結構ドタバタしててね。恥ずかしい話、まだ神城君に仕事を回せる状態じゃないんだ」

 

 苦笑いを浮かべて喋る塚原さん。

 そういえばこの鎮守府は、新設されたばかりって話だったっけ。今の今まですっかり失念していた。

 

 「だから今日は鎮守府を見て回ったり、艦娘たちに顔見せするなりして時間を潰してもらえると助かる。一応みんなには、神城君のことは今日来ると伝えてあるからな」

 

 「わ、分かりました……」

 

 それから塚原さんは、携帯端末に目を向けた。

 

 「あとこいつも渡しておくよ」

 

 俺も端末に視線をやる。側から見てもごく普通の携帯端末に見えるが、なにかこれを使わなければならない理由でもあるのだろうか。

 疑問に思っていると、塚原さんが説明してくれた。

 

 「この端末は妖精の手が加わってるらしくてな。絶対に外部に情報が漏れない特注品だそうだ」

 

 「あ、妖精の……」

 

 なるほど。妖精が絡んでるとあれば、頷くより他はない。

 

 「だから今後はこの端末を使ってくれ」

 

 「分かりました」

 

 俺は即首肯して、テーブルの上の品々をポケットに突っ込んだ。

 

 「そうだな……あとはここでの仕事内容について、軽く話しておこうか」

 

 塚原さんはしばしの間、黙考してから言った。

 仕事内容。相浦さんは心配ないと言ってたけど、実際の提督の補佐がそんな甘いもののわけがない。せめてド素人の俺でも、ついていける内容ならいいのだが。

 

 「そんな心配しなくてもいいよ。仕事といっても、最初はデスクワークを中心に、徐々に覚えていってもらうから」

 

 不安が顔に出てしまったのか、塚原さんがフランクな口振りで言う。そして「それより」と付け加えた。

 

 「神城君には艦娘の()()()()()()をお願いすることが多くなるかもしれない」

 

 「?メンタルケアですか……?」

 

 聞き慣れない言葉に、俺は首を傾げた。メンタルケアだなんて大層なこと、俺にできるわけないのだが。

 しかし塚原さんは、メンタルケアについて話を続けた。

 

 「要は艦娘たちと真摯に向き合えってことだな。俺も努力はしてるんだが、いかんせん書類仕事のせいで手が回らなくなる時がある」

 

 「は、はい」

 

 視界の隅でデスクを捉える。デスクの上には確かに、遠目からでも分かるほどの書類が積み重ねられていた。それを見ると、やはり現実の提督業はゲームのように甘くはないんだなと実感させられる。現実は画面を前にして、マウスをかちかちやっていれば全部解決というわけにもいかないのだ。

 

 「その時は神城君、艦娘たちの話を聞いてやってくれ。それだけでも彼女らのメンタルケアになる」

 

 塚原さんは真剣だった。

 俺も即答とまではいかないが、塚原さんの目をしっかり見て返答する。

 

 「あっ、はい。俺にできる範囲であれば……」

 

 ここで「任せてください!」と胸を張れない辺り、自身の小心者っぷりを感じた。それでも塚原さんは満足そうだったので、俺はほっと肩をなでおろす。

 と、ここで部屋の扉がノックされた。俺と塚原さんは思わず顔を見合わせる。

 

 「いいタイミングだな」

 

 「ですね」

 

 互いに笑みを浮かべ扉の方を向く。塚原さんが入室を促した。

 すると扉が開いて、これまたド派手な髪色をした少女が入ってくる。

 

 「失礼しまっす!って、ありゃ?もしかしてお話中でした?」

 

 少女は扉を背に立ち止まると、俺と塚原さんとに目線を行き来させた。

 

 「いや、ちょうど終わったところだ」

 

 と塚原さん。

 それを聞いて、少女は塚原さんに歩み寄る。そして手に持った紙を差し出した。

 

 「ならよかったです。出撃の報告書、書き終わったんで持ってきましたぞ」

 

 「うむ、もらおう」

 

 「いやあ、疲れた疲れた。あとお腹減った」

 

 腕をだらんとさせ、いかにも抑揚のない声をあげる少女。

 この少女もまた、俺のよく知る艦娘であった。

 

 「あれ、そういえばこのお兄さんはどなたです?」

 

 少女が塚原さんに訊く。塚原さんは受け取った書類に目を通しながら答えた。

 

 「前から話してただろう。今日、補佐官として着任した神城君だ」

 

 「あー!」

 

 少女ははっとして俺の方を見る。そしてそれまでの抑揚のなさが嘘のように、びしっとした姿勢で敬礼した。

 

 「どうも初めまして!()()()()()()()()です!」

 

 「あっ、初めまして。神城信吾です」

 

 漣の敬礼に、俺も一礼して返す。

 ソファーから立つと漣との身長差が、思っていた以上にあることに驚いた。

 

 「うわっ、背高いですね。巨人か何かですか?」

 

 「いや……」

 

 いきなりよく分からないボケをかましてくる辺り、さすが漣である。ちなみに俺の身長は180ちょっとなので、巨人と呼ばれるにはまだまだ足りない。

 塚原さんが遠征の報告書から目を離す。少しばかり躊躇った後、漣を見て言った。

 

 「漣、もし都合がよければでいいんだが」

 

 「はいはい、なんでしょう」

 

 「神城君に鎮守府を案内してやってくれないか。本当は俺がやるべきなんだが、あいにく今日は立て込んでてな……」

 

 「なんだ、そんなことですか。いいですヨ、任されました!」

 

 漣が胸を張って答える。それから俺の方に向き直った。

 

 「それじゃ行きましょうか」

 

 「うっす」

 

 俺は改めて塚原さんに頭を下げる。そして持ってきた荷物を手に取り、提督室から出た。

 

 

 

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