目が覚めたら艦娘と深海棲艦がリアルに戦争してた件 作:Sh1Gr3
なんでもっと早く更新する気になれなかったのか・・・
提督室から退出し、俺は漣にばれない程度に大きく息を吐いた。それまで詰まっていたものが外へと一気に吐き出され、緊張も少しずつ解れていく。
(あー、めっちゃ緊張した……)
こんなドのつく素人が来て何を言われるか不安だったけど、いい人そうで安心した。歳も近いらしいし、一番心配だった人間関係は問題なさそうだ。
落ち着いたところで持参した荷物を再び手に取る。それから前に立つ漣へと目を向けた。
「とりあえず歩きますか。適当にぶらぶらする感じで」
「お願いします」
少女相手に敬語もどうかと自分でも思う。しかしながら今俺の目の前にいるのは漣、これは例外だ。いずれもっと砕けて話せる日がくる、そう思いたい。
漣について歩き、誰もいない廊下を進んでいく。首を上下左右に振り、鎮守府の内部をこうして見渡していると、自分が本当に着任したんだということを実感させられた。
「そういえばお昼って済みました?」
「いえ、まだ食べてないです」
「それじゃあ食堂から案内しますね。ついでにお昼も済ませちゃいましょう!」
携帯で時間を確認すると、ちょうど12時を回ろうとしていた。昼食を済ませるにはいい時間帯である。
特に拒否する理由もないので、俺は漣と一緒に昼食をとることにした。
「遠征から帰って来てまだ何も食べてなくてですね……もうお腹ペコペコなんですヨ」
「……」
見るからに相当疲れてるご様子。ゲームではいくら遠征を出しても疲労はつかないが、こっちではそうもいかないらしい。一見小さな差異に思えるも、俺にとっては考えさせられる話だった。
(他にも違うとこいっぱいあるんだろうな……)
いや、今考えるのはやめておこう。着任早々暗くては、漣たちにマイナスの印象を与えてしまう。ただでさえ自分でも認めるコミュ障だっていうのに、第一印象が最悪ではこの先やっていける自信がない。
「? どうかしました?」
何も喋らなかったせいか、くるりと身体を回転させ尋ねてくる漣。俺は慌てて首を横に振った。
「あっ、さては……」
すると突然、漣が自身の袖に鼻を当て始めた。右に左に、はたまた髪の毛にまで。
「うーん……もしかして臭います?」
「へ?」
想像の斜め上をいく問いかけに、思わず言葉を詰まらせてしまう。そしてすぐさま再度首を振った。
「そ、そんなことないですよ!」
これは誓って嘘ではない。事実、鼻を通るのは食堂から漂ってくる多種多様な食べ物の香りだけだ。
「ならよかったです。恥ずかしながら、遠征から帰って来てまだお風呂入ってないんですよね」
あははと漣は笑った。
対して俺はなんていい子なんだと心底感心した。遠征で疲れてるにもかかわらず、嫌な顔一つしないで鎮守府を案内してくれているのだ。漣の性格はゲームや二次創作で把握してはいたが、あくまでもここは三次元。性格の差異も当然検討していた。
それなのに、まさか容姿だけでなく性格まで完璧に再現するとは、こんな恐ろしい世界があっていいのだろうか。
(ほんとすげえなこの世界……)
感心し尽くしたところで前を歩く漣の足が止まった。眼前には開けた空間と、食堂への入り口である両扉が目に入る。
「ここが食堂です。さ、入りましょう」
「うっす」
食堂へ入るとより一層、空腹感を覚えさせる香りが鼻を突いた。さっきまでそれほど空腹でもなかったのに。
ちらっと周囲に目をやる。周りには時間も時間だからか、鎮守府の職員らしき人たちで賑わっていた。とはいっても、俺の通っていた大学の食堂とは異なり、混雑とは程遠い人数である。
そんな場の中で、俺の目は一際目立った外見の少女二人に止まった。
(ん?あれって……)
一人はこの鎮守府で最初に出会った艦娘、不知火だ。不知火は誰かと話をするわけでもなく、黙々と箸を進めている。
そしてもう一人、こちらの少女も艦娘だろう。近くで見なくとも、俺にはそれが分かった。
「あ、霞ちゃんとぬいぬいだ」
漣が俺と同じ方向を見て言った。
「なんだってあんなに離れて食べてるんですかねえ……一緒に食べればいいのに」
確かにそれは俺も同じことを疑問に思った。が、今はそれよりも、霞という名の少女の方が気になって仕方がない。
霞も無論、俺のよく知る艦娘。ゲームでは幾度となく世話になった。
(あれが霞か……)
ゲームではあまり気にならなかったものの、リアルで見るとかなり幼く目に映る。小学生と言われても納得するレベルだ。しかしどこか普通の小学生とは違い、妙に落ち着いた雰囲気を漂わせている。
と、背後で入口の扉が開いた。邪魔にならないよう端の方に避けるも、俺は入ってきた人物を見て驚きのあまり目を丸くした。
「あっ、漣!もう、どこ行ってたのさー」
「おお、さつきちさんや。グッドタイミングですぞ」
「ん?なにが?」
何やら二人で会話が弾んでいる最中、俺の目はしばらく瞬きをすることを忘れていた。
初見だったからというのもあるけれど、いきなり目の前に金髪金目の少女が現れたら、誰でも俺と同じ反応になるんじゃなかろうか。
睦月型駆逐艦、皐月。今まで出会ってきた艦娘の中で、一番インパクトのある艦娘である。
「あれ、このお兄さんは?知り合い?」
金髪の少女、皐月が漣に尋ねた。漣が頷いてそれに応える。
「補佐官の神城氏。ご主人様が今日来るって言ってたでしょ?」
「あー!言ってたねそういえば」
皐月の目が俺の目を捉える。思わず目を逸らしそうになるも、なんとか踏みとどまった。
「ふーん……なんか全然、補佐官て感じしないね」
「それは漣も思った」
まあ、そう思われても仕方ない。ただ妖精が見えるってだけで選ばれた、ごく普通の一般人ですから。
「補佐官の神城です。よ、よろしくお願いします」
「睦月型五番艦の皐月だよ。よろしくね」
名乗りとともに、びしっと敬礼する皐月。身体は小さくとも、やはり雰囲気は不思議と大人っぽい。
それにしても、この世界の再現度の高さにはとことん驚かされる。違和感がゼロと言われれば嘘になるが、それもそのうち慣れるだろう。
自己紹介も終わり、三人で空いているテーブルへと移動する。場の流れで皐月とも一緒に昼飯を食べることになった。
「いやー、よかったよ。一緒にお昼ご飯食べる人誰もいなくてさ」
「いるじゃないですか。あそことあそこに」
漣が不知火と霞に視線を行き来させる。
「むりむり、絶対話続かないもん。それにどっちに行けって言うのさ」
「うっ……中々難しい質問ですね」
答えが出ず肩をすくめる漣。実に難しい問いかけである。
俺としては三人で食べるが正解だと思うけど、今はまだそれを口にする度胸はない。
「ほ、ほら、そんなことより何食べるか早く決めないと!時間は有限ですからね!」
そう言って漣は椅子から立ち上がった。次いで俺と皐月も席を立つ。
「ちなみに漣たちはここのメニュー全部無料ですけど、神城氏はちゃんとお金払わないと食べられないので。あしからず」
「あ、はい」
知らなかった。だがそれを聞いて同時に安心する。無料で食事ができるということは、この世界の艦娘たちがちゃんと良い待遇で迎えられていることの証明だからだ。
俺はポケットの中から財布を取り出し、厨房とは逆方向にある食券機へと足を進める。途中周りから「誰だよお前」という目線を向けられたような気がしたが、おそらく気のせいではないだろう。
(はあ……早く着替えてえ……)
心の中でため息を吐きながら、食券機の前で財布の中身とメニューを確認していく。
さて、何を食べようか。あまり財布に余裕もないため、コスパのいいものを選びたいところだが。
(麺類……いや、トンカツ定食でもいいな……あー、カレーもあり)
実に優柔不断な男である。俺自身、自覚してるのに治せないぐらいだから相当重症だろう。
候補の中ではトンカツ定食がやや高いものの、そこまで大差はない。あとは今の気分でボタンを押すだけ。
「……カレーにするか」
厳正な審査の結果、俺はカレーのボタンを押した。食券機が機械的な音を発して、カレーライスの食券が出てくる。
ふと厨房の方に目をやると、漣と皐月は既に料理を受け取るところであった。待たせては悪いので早足で厨房へ向かう。
「結局何にしたんですか?随分悩んでたみたいですけど」
「カレーにしました」
とりわけカレーが食べたかったわけでもないが、今日が金曜日ということもあってなんとなくカレーを選んだ。
「僕もカレー。やっぱ金曜日はカレーだよね」
と皐月。どうやら金曜日がカレーの日というのは本当だったらしい。
厨房から注文したカレーを受け取って、さっき決めた席に座りなおす。
「いただきまーす!」
そして漣の「いただきます」を合図に、有意義な昼食の時間が始まった。
「そういえばさ、なんで二人は一緒にいたの?」
皐月が最初に話を切り出した。即座に漣が返答する。
「ご主人様に鎮守府を案内するよう頼まれたからですヨ」
「案内?それで食堂に来たの?」
「その通り。神城氏と親睦を深めるためにね」
「ふーん……」
漣と皐月の目線が俺に集中する。親睦なんて大袈裟だろうが、正直今のこの状況は非常にありがたい。
「じゃあ僕もついて行こうかな。暇だし」
「あれ、さっちーこの後フリーだっけ?」
「うん。今日は午前中の遠征だけで終わりだよ」
「……ということは」
漣の手が空中で止まる。その目は俺ではなく、霞と不知火の方に向いていた。
つられて俺も二人の方を見る。霞も不知火も食事を終えて、席を立とうとしているところであった。
「確か霞と不知火、あと島風が午後番だったような」
「あちゃー……」
がっくし、と言わんばかりに額に手をやる漣。一体なにが「あちゃー」だというのか。
気になって仕方がないので、俺は一旦スプーンをトレーの上に置いた。
「あの、二人とも仲悪いんですか?」
この二人というのは、言うまでもなく霞と不知火のことである。
「まあ仲が悪いというかなんというか……ねえ?」
なんとも含みのある言い方をする。というか、一緒に昼飯を食べてない時点でお察しなのだが。
「普通だと思うよ。たまに言い合いにはなるけどね」
カレーを頬張りながら皐月が言う。
「ほら、霞も不知火も自分から引くタイプじゃないから」
確かに。それはなんとなく分かる気がした。
「あっ、ぬいぬい〜」
漣が不知火に声をかける。いつの間にか近くまで来ていたようで、不知火は俺に気がつくとぺこりと頭を下げた。
その様子を見て、漣の視線が俺へと移る。
「神城氏、ぬいぬいと顔見知りだったんですか?」
「まあ……ここに来た時に提督室まで案内してもらいました」
「なるほど。道理でぬいぬいを見ても動じないわけだ」
漣の台詞に俺は肩をすくめた。動じないだなんて、そんな言葉とは程遠いほど緊張したし、興奮したからである。
途端に不知火が怪訝な表情を浮かべた。
「どういう意味ですかそれ」
心なしか、さっき話した時より声に迫力がある気がした。目つきも鋭さを増している。
さすが不知火、戦艦クラスの眼光はリアルでも健在のようだ。もっとも、ただの少女が睨んでもここまでの迫力は生まれない。この迫力は本物の不知火だからこそ、出せるものなのである。
(この分なら霞も……)
視線を霞の方へ向ける。霞はちょうどトレーの上の食器を片付けているところだった。
少ししてそれも終えると、彼女は扉に向かって歩き出した。
「おーい、霞ー」
今度は皐月が声をかける。霞の顔がしっかりと視認できるぐらいの距離。
「霞もこっち来て挨拶しなよー」
「……」
霞の足が止まる。遠目では分からなかったけど、灰色の頭髪に黄色っぽい瞳の彼女は、近くで見たら中々にアレだ。皐月ほどではないにしろ、こんな小学生はまずいないだろう。
帰ろうとしたところに声がかかったからか、霞はどこか不機嫌そうな表情をしている。
「……なによ、挨拶って」
うんざりしたような口振りの霞。漣が横から付け加えた。
「ほら、補佐官の神城氏。ご主人様が今日来るって言ってたじゃん」
「補佐官?」
霞は意外そうな声をあげつつ、少しだけ視線を移した。目と目が合ったので俺から先に頭を下げる。
「か、神城です。よろしくお願いします」
「補佐官、ねえ……まるでそうは見えないけど」
漣や皐月と同じ反応だ。しかしそれをはっきりと口にする辺り、霞らしさが滲み出ている。
そこへ不知火が一歩前に出た。
「霞、失礼ですよ」
見た目の幼さとは裏腹に、ドスの効いた声色。それを聞いて、漣と皐月の肩が一瞬震えるのを視界の隅で捉えた。
まったく、その身体のどこからそんな声が出てくるのか。
「何ですかその態度は。それが上官に対する正しい態度だとでも?」
「さあね」
場に緊迫した空気が流れ始めた。一触即発、とまではいかないにしろ、見てるこっちがハラハラして仕方がない。
不知火の足がさらに一歩、前に進んだ。
「霞……」
「あー、こわ。あんたよくそんな低い声が出せるわね」
怖いと言いつつ平然とした態度を崩さないのも、彼女らしさを感じる。
やがて霞はつまらなそうに鼻を鳴らすと、「霞よ。以上」とだけ言い残して食堂から出て行った。
扉が閉まるのを確認し、漣と皐月が交互に口を開く。
「今のはやばかったですね。もう少しで一線超えそうな雰囲気でしたよ」
「殴り合いでも始まるんじゃないかと思った」
俺は「まさか」と苦笑いを浮かべた。でもすぐにこの二人なら、と考えを改める。
「申し訳ありませんでした。霞には後でよく言って聞かせておきますので、今日のところはどうか」
謝罪の言葉と相まって、深々と頭を下げる不知火。
俺は直ぐに全然気にしてない旨を伝えたが、どうも納得のいかない顔をしている。
(まあ最初だし。こんなものでしょ)
数いるツンデレ艦娘の中でも、霞はかなり当たりの強いキャラだ。だからリアルでもいきなり仲良くなれるなんて、そんな楽観視は当然していない。むしろ初見でクズ呼ばわりされなかっただけでも、ありがたいぐらいである。
(あとは島風と夕張さん、明石さんか……)
まだ顔見せできていない三人。俺は頭の中で彼女たちのことを考えながら、残ったカレーを口へと運んだ。
次話は近々投稿します(予定)