亜久里は有名な大学を卒業しても中堅の会社で働いていた、そのことに対して不自由を感じているわけでもなかったのだが、慣れてしまえばただ毎日同じことの繰り返しは面白いとは思っていなかった
barに寄って帰る最中、次の日が休みということもあり、普段より多く飲んでいた
よく寄るbarだった為に、マスターから送ろうかと声をかけられていたが、亜久里は大丈夫だと答えた
20後半になってそれは恥ずかしいと思ってしまったのだった
だが、その日彼女はストーカーによって殺害された
亜久里が目を開けた場所は普通の部屋であったが、その場所が何処なのかは全く分からない
何があったのか思い出そうとすると妙な頭痛が彼女を襲った
「ってて…………」
部屋に設置されているテレビが急について、1人の男性が映り話始めた
「おや?起きた様子だね」
よっこいしょと言いながらテレビ画面から少しずつその男性が出てくる
「あっ……」
「あ?」
「ごめんね、ちょっと引っ掛かっちゃったから引っ張って貰えるかな」
彼女は少し戸惑いつつも今の現状を理解する為に男性を引っ張り出した
「いやぁごめんごめん」
「いえ、ところでここはどこですか?
何だか何があったのか全然思い出せないのですが」
「そりゃキミ数日前に死んだからね」
亜久里は男性の言っている言葉の意味が分からなかった
「ごめん、説明不足だったね
キミは飲んで帰る途中に殺されてしまったんだ
運命として決まっているのであれば、ここには来ないのだけど、こちらのミスで死なせてしまった」
「殺された?ミスで?」
「そそ、体があるように見えているけど、その姿は魂のようなものだ」
「そうですか、死ぬって全てが真っ暗でつまらないものかと思っていたのですが、随分と賑やかな感じですね
それとミスというのは……」
「あぁ、自分今300年くらいキミのいる地域を担当してる神なんだけど、キミは死なない予定だったんだよ
ストーカーに襲われて、ズタズタに刺されたっていうのが今回の原因なんだけど、本当はそうなる前に取り押さえられるはずだったんだ
ここ180年くらいそんなミスしなかったから油断していたんだよね」
「そうですか、とりあえずあたしは現世に戻れるんですか?」
「それは出来ない、オレらのミスと言っても死んだものは生き返らせてはいけないんだ
だから別の特典を用意している」
「特典?」
「そう、元いた世界に人として0からやり直すか、別の世界に今の記憶を継いで転生するか
因みに前者ならそれなりに裕福な家庭で幸せに過ごせることが出来るようにはする」
亜久里はガラスに映る自分の姿を見ながら聞いた
「後者であれば、何か特別な力とか貰えるのですか?」
「ふむ、今飛ばすとすれば……そうだね、無能力では行かせないから、ただ、どういう生活を強いられるかは自分次第になる」
「ならあたしは異世界を選びたい、それと夢の中で良いから両親に挨拶をさせてもらえますか?
一応先に死んじゃったわけだし、まだまともに親孝行も出来てないので」
「それくらいならお安いご用だけど、この空間のことは他言してはいけないから、それだけは注意してな」
亜久里はこくりと頷いて神様に夢の中へ飛ばしてもらった
テーブルに亜久里の両親が掛けていて、彼女は急いで駆け寄った
『お父さん、お母さん!』
『あ、亜久里か?』
『亜久里!!』
『ごめんなさい、こんなに早く死んでしまってごめんなさい』
『夢でも、元気な亜久里が見えて良かった』
『あぁ、本当にそう思う』
『うん、でもそんなに長い時間ここにはいれないの』
『そうか』
『そうよね、お母さん亜久里が天国に行く邪魔しちゃったかしら』
『ううん、どうしても言いたかったの
あたしを育ててくれて、ありがとうって神様が最後に言わさせてくれたんだよ、お父さんは無理しすぎないでね、お母さんもそうだからね、すぐに追いかけてきたりしたら、追い返してやるんだからね!
そろそろ時間だから、もう消えるよ』
亜久里の両親はボロボロに泣いていて、彼女も目に涙を溜めていた
『亜久里もあたし達の子でいてくれてありがとう』
『こう言うのは変だが、元気でやれよ』
最後にその言葉を聞いて、元の部屋に戻ってきた
「寝ている時間ならどれくらい使っても構わないのに、良かったのかい?」
「あれ以上話していたら、未練ばっかりになりそうですから」
亜久里は目を擦って涙を拭き取った
「それじゃ異世界についてざっと説明するよ、何てったってチュートリアルとかないからね
基本の能力値は少し高めで設定しておくから、言葉の理解も出来るようにはするけど、読み書きは頑張ってね
最後に持ち越せる力なんだけど……」
神様が出したのは複数の紙だった
そこには様々なことが詳しく書かれていて、全部読むのにかなりかかりそうではあったが、まるでチート級の能力ばかりだった
「魔法でも武器でも、特別なスキルでも、どれか1つだけ持っていけるから」
「まるでゲームですね」
「後者を選ぶことを神々の遊びとも言えるくらいだからね」
亜久里が選んだのは糸スキルだった
「面白いものを選んだね、他の神のとこの転生者は魔法系が多いと聞くけど、1番人気のないスキルを選ぶなんてね」
「魔法がなかった世界なので確かに魔法を使えるというのは面白そうだなとは思いましたけど、あたしはのんびり過ごしたいので戦闘系は無しの方向で行きます
なので魔法は使えないくらいの設定で構いませんよ」
神様はそれを聞いて笑い転げていた
「はーー、面白いね♪本当に
それじゃゲートを開くから、神童として生まれ変わるであろう自分で、第2の人生を楽しんでおいでよ」
眩い光が身体を包みまた何も見えなくなる
彼女が再び目を覚ますと誰かに抱っこされているようだった、目はまだよく見えないでいたのだが、1つだけ自覚することがあった
体を自由に動かすことが出来ない、何かを言っていることは理解できても上手く言葉を発することが出来ない
なにより体が何倍も小さくなっていると
転生後は赤ん坊からなのかと分かるのに時間はかからなかった