Happy material ~ほほえみは、光る風の中~   作:千雨推し

2 / 2
なぜエヴァンジェリンが、それまでのネギに
対する師弟の関係から

愛情を感じるにまで至ったかの
導入の1です。
 
二人の関係が変化していないようで
しているような

もやもやとしたモノを感じて貰えると
嬉しいです。


Op.2 疲弊

「ぼうや、入るぞ。」

「とは言っても、もう入ってるがな。」

 

 

「どうぞ・・」

 

 

 

マスターが酒瓶一つと

ボトムの広いワイングラスを2つ

 

肩口辺りにふわふわと中空に漂わせながら

入ってきた。

 

 

 

ここはマスターの寝室だ。

 

 

 

ヨルダと対峙したあの瞬間から

既に1ヶ月が経とうとしていた。

 

 

 

「付き合え、それなりに上等なヤツだ」

「えぇ。いいですね...」

 

 

 

ベッドの上で半身を起こした状態の、僕の膝の辺りに

マスターがゆっくりと腰掛けた。

 

 

 

あの日

 

どうやってこの家まで辿り着いたのかは、思い出せない。

酷く雨が降っていた事だけは、よく覚えている。

 

 

 

 

「ん・・・」

「いただきます」

 

 

 

なみなみとグラスに注がれた、深い紅玉色の

ワインの波を、暫く見つめる。

 

 

 

 

 

苦い

 

 

 

そういえば嘗て、オスティアの街角のカフェで

フェイトと初めて面と向かって話した時に

 

 

 

アイツの飲む珈琲を泥水と罵ったっけ。

 

 

 

当時の僕は、珈琲がただ苦いと

感じるからなのか、嫌いだった。

 

 

 

僕自身が大人になったのか、同じ様に苦いだけだと思っていた

お酒が、何時の間にか人並みには飲めるようになっていた。

 

 

だが、この苦味が不甲斐の無い自分に

罰でも与えているかの様に感じる。

 

 

 

痛みの様な酒の刺激と共に

今の僕には丁度いい

 

 

 

 

「酒は好かんか?」

「好きでも嫌いでもない、ですね...」

 

「ただ...」

「ん?」

 

「香りが、この熟れた葡萄の香りは

 何故か懐かしいような気がするんです・・」

 

 

 

ラカンさんは昔、父さんとよく飲み比べをしてたらしいけど

父さんは、お酒が好きだったのかな。

 

 

 

「フフン。ヤツのルーツが何人だったかはいま一つハッキリせんが

 やはりお前の中には幾分か、イギリスの血が入ってるようだな」

「その感想は、立派な酒飲みの血筋だ」

 

 

 

 

後からマスターに聞いた話だけど

 

あの日、僕は

ひとしきり啼いた後、倒れるように眠り

 

一週間近く眼を醒まさなかったそうだ。

 

 

 

闇の魔法(マギア・エレベア)を自らの

意志で受け入れ

半ば無理やり、人間ではなくなった僕は

 

 

 

魔素の侵食の影響からか、極限まで体力と

魔法力を使い果たすと

 

ラカンさんとの修行で初めてマギア・エレベアを

身に取り込んだ時の様に

 

 

自己の治癒力に任せるだけでは

体力の回復にひどく時間が

かかってしまうらしい

 

 

あの時は、昏睡する僕の面倒を数日に渡って

見続けてくれた千雨さんに

気が済むまで愚痴を聞かされたっけ。

 

 

 

 

 

「・・またか」

「え・・?」

 

 

唐突にマスターが、吐き捨てる様に

不機嫌な問いかけをする

 

 

 

「流石に血の繋がった親子だ、ナギも貴様も

 性格以外は鏡に映した様に同じだ!」

「ま、マスター・・?」

 

 

 

 

ガチャン

 

 

 

 

不意にマスターが立ち上がり

落ち割れたグラスがキラキラと光り

 

 

床に紅いワインの血溜りがゆるゆると広がっていった

 

 

 

[続く]

 

 

 

 

 

 




エヴァ様が激昂したり感情を表に出す時は
必ずナギが関わっている話なんですよね。
 
そんな分かりやすいエヴァ様の色々な面を
 
個人的な解釈で、次回もSSで書いていこうと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。