士道はヒーローの務めを果たすことができるのか!?
更新が遅くなってしまい、大変申し訳ございません。
今回はかなり長めです!
※誤字を修正しました。
ウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ………
空間震警報が天宮市に響き渡り、士道は折紙の家を出て、急いで外の様子を見るために空へと飛び上がる。
「―――四糸乃………っ」
ドガアアアアッ!
遠くの空からは爆音が響き渡り、謎の光が点滅を繰り返していた。―――ASTが精霊『ハーミット』を………四糸乃への攻撃を開始したのだ。
士道のインカムに琴里からの通信が入る。
『―――士道、士道!聞こえているのなら返事をしなさい!』
琴里は慌てる様子で士道に着信を入れる。
―――琴里が慌てているのは、折紙のマンションに入った時から士道との通信が出来なくなり、通信の回復に『フラクシナス』のクルーたちは尽力していた。
士道はインカムを叩き、琴里の通信に応答する。
「聞こえているよ………琴里、俺は四糸乃を助けに行く」
『―――そう言うと思っていたわ………今からフラクシナスで回収をするから近くの建物の屋上に降りなさい』
琴里の指示に士道は思わず声を荒げる。
………四糸乃に危機が迫っているため、士道は気が気ではなかったのだ。
「な、何言ってんだ!ここから飛んで行った方が断然速い!『フラクシナス』に戻っていたら―――」
『まずは状況を確認しなさい!あの子は力は弱いけれど、紛れもない精霊よ。すぐに倒されるなんてことはないわ』
琴里の言葉に士道は黙って考え込む。何も考えずに死地に飛び込むのは得策と言えばそうではない。琴里の放った言葉には確かな利があった。
士道は舌打ちをし、しぶしぶながらも首を縦に振る。
「………了解した」
士道は近くのマンションの屋上へと着地し、そのまま『フラクシナス』へと回収された。
―――
「ううっ………」
ドガガガガガガガガガ!!!
精霊『ハーミット』こと四糸乃は一方的にASTの暴虐をその身に受けていた。
対精霊用のライフルを一斉掃射され、さらに対精霊用のミサイルでの集中砲火をただひたすらに耐えていた。
「―――きゃあッ!!」
ズドオオオオオオオオンンッッ!!
対精霊用に作られたロケットランチャーが四糸乃に命中し、四糸乃は地面へと叩きつけられ、道路に大きな穴ができる。
現場を指揮するASTの燎子一尉が隊員に指示を出す。
「一気に押しつぶすわよ!」
ズドドドドドドドドドドドッッ!!
ASTの猛攻撃に四糸乃は堪らず守護天使の名前を告げる!
「―――『
四糸乃が手のひらを地面に叩きつけたその時、地面から白い巨大なウサギが現界した。―――これが四糸乃の守護天使『氷結傀儡』だ。
ズビィィィィィィィィッッ!!
氷結傀儡は口から水色のビームを周囲に発射する。ASTの隊員は『
「―――くっ!」
折紙はこの光景に目を細め、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、他の隊員たちも「『
「怯むな!撃って撃って撃ちまくれェェェェェ!!」
燎子一尉の言葉にASTの隊員たちはライフルを一心不乱に掃射し続けた。
一度ビームを放った後は四糸乃は『
ライフルを掃射していた隊員の一人が異変に気付き、呟く。
「………寒い?」
隊員の言葉通り、戦闘フィールドは急激な気温の変化に建物が凍りつき、四糸乃の周りには冷気が舞っていた。四糸乃を中心に吹雪が広がり、それが氷の粒へと変化し、雨のように降り注いでいるのだ。
「―――みんな散って………」
これ以上戦闘を長引かさるのを危険と感じた折紙は巨大な砲門を持った対精霊用のバズーカを四糸乃をめがけて撃ち込む!
そしてそれは――――
ドゴオオオオオオオオオンンッッ!!
「きゃあああああ!!」
見事に四糸乃に命中し、四糸乃も『
怯んだ四糸乃と氷結傀儡にASTの魔の手が襲いかかる!
「今よ!一気に拘束するわ!みんな遅れないで!」
『了解ッ!!』
ASTたちは武器をライフルから特殊なランチャーのような武器へと変え、引き金を引く―――次の瞬間、光の網が放出され、動きを止めた四糸乃と『
ぐおおおおおおおおおおおおおおっっ!!
『
そしてついに―――光の網が『
「………これで終わり!」
折紙の『ノーペイン』が四糸乃に迫ったその時―――『
ぐおおおおおおおおおおおおおおっっ!!
「………くっ!?」
突如猛吹雪の嵐が吹き荒れ、その吹雪が折紙を空へと吹き飛ばした。折紙のデバイスの左肩は雪で覆われていたが、折紙は左腕を払うことで雪を落とした。
その時、ASTの隊員たちは目の前の光景に衝撃を受ける。
「………うそ、なによ………これ?」
「吹雪の―――ドーム?」
「こ、こんなことが………」
ASTの隊員の目の前には、半径十数メートルほどの猛吹雪で形成されたドームが出来上がっていた。
しかも、氷の弾丸が無数に飛び交っており、まさに難攻不落の巨大な要塞が自分たちの目の前に立ちはだかっていた。
ASTのメンバーたちはこの状況にどうしようかと足踏みをしていた。
――――
「あいつら………ッ!あんな優しい子になんてことをッ!―――ふざけんなよッ!!」
琴里に回収され、『フラクシナス』へと強制送還された士道は艦内のモニターから四糸乃とASTの戦闘の様子を伺っていた。
士道は拳を強く握りしめ、歯を食いしばり、ただひたすらに耐えていた。
「―――あ、あれは………」
四糸乃が猛吹雪を操って生み出した巨大なドームを見て士道は開いた口が塞がらなくなっていた。
吹雪のドームを琴里がわかりやすく解説する。
「―――あれは一種の結界よ。全てを拒絶する絶対障壁………こうなった以上は諦めざるを得ないわね………シドー、四糸乃の攻略はまた今度―――ま、待ちなさいシドーッ!!」
士道は琴里が全てを話しきる前に艦内を飛び出そうとしていた士道を呼び止め、足を止める。
「………どこへ行くつもりなの?」
士道は振り返らずに一言だけ述べる。―――その一言だけで士道がどこへ行くかは簡単に理解できた。
「―――約束を果たしに行くだけだ………俺は四糸乃の――――ヒーローだからな」
その一言だけを告げると士道は走って艦内を飛び出したが、琴里は先回りして転移室の扉の前で両手を広げて士道の前に立ちはだかる。
「残念だけど行かせるわけにはいかないわ………自分から死にに行くような真似は妹として絶対にさせられない!」
両手を広げて立ちはだかる琴里に士道は不敵な笑みを浮かべて言う。
「………お前、俺がスナイパーライフルで脇腹をぶち抜かれた時は表情一つ変えることは無かったらしいじゃねえか。………まるで
「あの時とは状況が違うわ!四糸乃を助けるとなれば氷の刃が無数に降り注ぐあの結界の中に入らなければならないのよ!?しかも、霊力を感知されたら凍らされるわ!そうなれば回復もできないわ!」
士道は何かに勘付いたように顔を上げる。そして、琴里の肩に優しく触れる。
「―――なるほど、霊力ってことは、アレは精霊の力なんだな。………それを聞いて俺の迷いは吹っ飛んだぜ―――例え凍らされようが、氷の刃に全身を貫かれて死んでしまったとしても、俺は四糸乃を諦めることなんざ出来ねえ!」
全く足を止めようとしない士道に琴里は歯止めが効かなくなり、感情的になる!
「―――いい加減にしなさいッ!!」
琴里は士道に張り手を食らわせようとするが―――士道は琴里の手首を握ることで張り手を回避した。
………琴里は声を荒げて士道に言い聞かせるように叫ぶ。
「………どうして―――どうして自分の命を勘定に入れないのよ!?死んでしまったら………もうどうすることも出来ないじゃない………ッ!」
士道は琴里の手首から手を離し、心中を明かす。
「―――琴里、お前は耐えられるのか?」
士道の言葉に琴里は一本取られたのか、先ほどまで怒りで力が入っていた肩がスッと降りた。
「………え?」
「―――耐えられるのか?と聞いてるんだ………自分が絶対に守ると決めた女の子が泣いてるんだ。誰よりも優しい子が一方的に理不尽な目に遭っているんだ。その理不尽を受けても決してやり返そうとはせず、ただじっと耐えているんだぞ!?
………俺は四糸乃と約束したんだ―――『俺がお前のヒーローになってやる』ってな!!だから―――俺には結果が無惨な死であったとしても、四糸乃を救う義務があるんだ………」
士道の覚悟は揺るぎないものだった。士道は立ちはだかる琴里を強引にその場から退かし、転移室の扉を開ける。
「………どうしてそこまで他人が大切なのよッ!?―――私にはシドーがどうして自分の命を賭してまで四糸乃を救おうとするのかわからないッ!!」
琴里は眉根を寄せ、目を強く握りしめるように閉じて肩を震わせていたが、士道は足を進めた。
「―――そもそも、自分の命を勘定に入れているようじゃあ、何も守れやしない。―――俺は十香や四糸乃に出会った時から決めてたんだよ………何を犠牲にしてでも『精霊たちを救ってみせる』てな―――だから俺は逃げない!必ず俺は四糸乃と一緒に帰ってくる!!」
士道はその言葉だけを残して転移室へと入った。
「どうして………どうしてなのよ―――おにーちゃん………っ」
琴里はただ呆然と涙を流していたが、令音が優しく琴里に寄り添う。
「………琴里、シンなら大丈夫さ。シンにはドライグがいる。赤き龍の帝王と呼ばれた最強のドラゴンがシンには宿っている―――それに、妹が兄の無事を祈らないのは間違っていると私は思うが?」
令音の言葉に琴里は我に帰り、涙をぬぐっていつもの司令官モードの琴里へと戻る。
「―――そうよね………ごめんなさい。士道、必ず無事に帰って来て………」
琴里と令音は士道が無事に帰ってくることを願っていた。彼女たちにとって五河士道という存在は言葉では言い表せないほど大切な存在だから。
―――
転移装置の部屋の中へ入った時、士道の視界内には黒髪の少女の姿があり、その少女は、転移装置の前で立っていたのだ。
………その少女を見て士道は苦笑いをしていた。
「―――用意周到だな………琴里のやつ、まさか十香まで待機させているなんてな」
「………………………」
転移装置の前に立っていた少女は十香だった。
十香は何も言おうとはせず、沈黙を貫いていた。士道は十香を無視して通り過ぎようとした時、足を止められた。
「―――腕を離せ十香………俺は四糸乃を―――この前のデパートで会った少女を助けに行く義務があるんだ」
「………………………」
無言で腕を掴む十香に士道はただ前だけを見つめて言った。しかし、十香は離すどころか士道の腕を掴む力を強めた。
「………琴里に俺を止める最終手段としてここにいろと言われたと思うけど、こんなところで俺は止まってられないんだ―――離す気がないなら、俺はアスカロンで自分の腕を斬り落としてでも四糸乃を救出しに行くぞ?」
「―――あの女が精霊だからか?」
十香の問いに士道は、一瞬だけ目を大きく開いたが、すぐに元に戻って理由を告げる。
「………それもあるけど、別に誰かを助けることに
士道の言葉を聞いた十香は顔を上げていた。―――その表情はまるで、晴れ渡った青空を思わせるような笑顔だった。
「―――シドーはいつでもシドーだ………例え今日死ぬかも知れなくとも、いつも誰かのことを思っている………私に手を差し伸べてくれたのは、そんなお前だったな」
「………十香?」
十香はスーッと息を吐くと―――光に包まれ、姿が少し変わっていた。
………その姿は士道が封印したはずの精霊の力だ。今の十香は、完璧ではないが霊装を纏っていた。
「―――お、おい!?どうなってんだ!?どうして霊装を………」
士道はこの光景に目を疑い、勝手に口が開くほど驚いていた。十香は士道に手を差し出す。
「―――シドーがあの娘を救いに行くなら、私がお前に協力をしない理由はない!………私も手を貸すぞ、シドー」
協力を申し出る十香に士道は待ったをかける。
「―――ダメだ、危険だ!たとえ霊装を纏ったとしてもそれは―――」
士道が最後まで言う前に左手の甲に緑色の円状の光が現れ、点滅を始める。
『相棒、残念ながら諦めた方が良いぞ?この夜刀神十香は言っても聞かないぞ?この小娘の顔を見てみろ、さっきまでの相棒と同じ顔をしているぞ?―――それに、今の夜刀神十香は十分に戦力になる。………ASTの連中の足止めくらいなら容易くできるだろう』
ドライグの言葉に士道はぐぅの一言も返すことが出来なかった。―――ドライグの言う通り、今の十香には何を言ってもここに留めることは不可能だと士道も踏んだからだ。
「ドライグもこう言ってることだし私もシドーに協力するぞ。………私は言ったぞシドー『私はいつでもお前の味方だ』と」
十香はえっへんと胸を張っている。ついに士道も諦め、十香と手を繋いで転移装置へと乗る。
「分かった―――だが、絶対に無理はしないこと!まずいと思ったら絶対に逃げること………これだけは絶対に守ってくれ」
士道は十香に最終確認を取るが、その前にドライグから鋭いツッコミが返ってきた。
『―――相棒、お前が言うなよ………』
ドライグの言葉を聞いて十香も士道に言う。
「ドライグの言う通りだ!私もシドーにそれを一番理解してもらいたいと思っている」
十香とドライグの言葉に士道は「………善処します」と恥ずかしそうに答えていた。
そして―――作戦はここに開幕の火蓋が切って落とされた。
―――◆―――
「―――全く、面倒なことをしてくれたわね………」
現場のASTの隊員たちの指揮を執っている燎子は吹雪で形成された巨大なドームを目の前にして額に手を当てていた。
「………テリトリーを高めて強行突入しようものならその魔力を感知し霊力を強化して防御してるでしょうし、かと言ってテリトリーを解除して突っ込めば氷の弾丸を全身に喰らう………このCRユニットのワイヤリングスーツの防弾性だと氷の弾丸を防ぎきる事は不可能………」
燎子の言う通りASTの隊員たちは氷の要塞を前に攻めることができずただ時間だけが刻々と過ぎて行く。―――だが、いつまでもASTが黙っているわけではない。
ドガアアアッ!!
折紙が何かを思いつき、テリトリーを強化して建物の一角を破壊し、その破壊した部分をテリトリーで持ち上げる。
「ちょ、ちょっと折紙!?あなた一体何をするつもりなの!!」
「………物量で押し潰せばいいまでのこと。まずはこれで小手調べ」
折紙は飛び上がり、破壊した建物の一部を上空から吹雪のドームへと投げつけたが―――
ヒュン――――ズザザザザザッ!!
折紙が投げつけた建物の一部は何者かの斬撃によって全て切り刻まれ、地面へと落ちた。
折紙は自分の攻撃が塞がれたことを怪訝に思い、辺りを見渡す。
折紙の視界内には、ある人物が映っていた。その人物はホッと胸をなでおろしていた。
「―――間一髪であったが、塞がせてもらったぞ」
「………っ!―――夜刀神十香っ」
折紙はレーザーブレード『ノーペイン』を引き抜き、いきなり現れた十香へと斬りかかる!
十香と折紙は空中で剣の舞のように凄まじい剣戟の応酬を繰り広げていた。
十香と折紙は鍔迫り合いになった時に十香が口を開く。
「………貴様らに士道の邪魔はさせんぞ!」
「………どうしてあなたが?」
折紙は士道の名前が出てきたことに一瞬戸惑ったが、戦闘中だと割り切り、再び十香との戦闘に集中する。
十香が現れた時に燎子が隊員たちに指示を出す。
「―――総員、目標を『ハーミット』から『プリンセス』に変更!先に『プリンセス』から始末にかかるわ!」
『了解ッ!!』
ASTの隊員たちは飛び上がり、十香を討滅するために折紙に加勢しようと戦闘に加わる。それを見た十香は折紙たちから逃げるように空を飛んだ。
折紙はすぐに十香を追いかけ、燎子はそれを見て隊員たちに指示を出した。
「総員、追撃をしなさい!ASTの誇りにかけてこの戦闘でプリンセスを完全に討滅するわよ!」
折紙を含むASTの隊員たちは十香の追撃を開始した。
―――
「………十香も頑張ってるんだ。俺も自分の務めを果たさねえとな!」
十香がASTたちの気を引いてくれたおかげで四糸乃が囚われている吹雪のドームの周りには完全に気配は無かった。
『………相棒、ソロモンとヘラクレスとの二日間の修行は肉体を激しく痛めた挙句、禁手に至ることは出来なかった―――しかし、全くもって収穫がなかったわけではない。
―――あの対価となる腕輪なしで、未完成の禁手が発動可能になった』
ドライグの言葉に士道は不適な笑みを浮かべていたが、すぐに笑みを終えて詳しく訊く。
「………そうか――――それで、鎧を纏っていられる時間は?」
………現実を教えることも優しさだと思ったドライグは険しい声で士道に伝える。
『………
「―――なるほど、まあ十秒だけでもあの鎧があれば安心できる。………十秒経つ前に四糸乃の所まで行くだけだからな」
本来の士道なら一分ほど鎧を纏っていられるほどには成長したが、修行で倒れてから二日が経過してもまだ士道の体からダメージは抜けきっていない。そのことを案じてドライグは十秒だけだと伝えたのだ。
「―――さあ行こうぜドライグ!これは『救う』ための戦いだッ!!」
『ああッ!赤龍帝の真価を示す時が来たッ!俺も全力でお前を支えてやる!だからただひたすらに突っ走れ!』
士道は左腕を天を貫くように突き上げる!それと同時に『
「―――輝け!
『Welsh Dragon Over Booster!!!!!!!!!!!』
カッ―――ドオオオオオオオオオオッッ!!
士道の強い想いに応えるように強く激しくはあるが、同時に優しい赤いオーラが天を貫く!そしてオーラが払われた時には、士道は赤い龍を模した鎧を纏っていた。
「――――行くぞドライグ!!」
『おう!!征くは絶対零度の決死行、飛び越える踏み台として不足は無い!』
士道とドライグはお姫様を捉える難攻不落の巨大要塞へと果敢に挑んだ。
―――
「四糸乃おおおおおおおおおおッッ!!」
ドガガガガガガガガガガガガ!!
士道はただ四糸乃だけを目指して絶対零度の地獄の嵐の中を爆走していた。
吹雪のドームの中は琴里が懸念した通り、氷の刃が嵐のように吹き荒れていた。士道はアスカロンで迫り来る氷の刃を斬り裂き一歩また一歩と前進していく!
「――――強靭ッ!!無敵ッ!!最強ッ!!」
『――――おい!?』
氷の弾丸をアスカロンで斬り裂き、小さな霰ようなものを受けながら進む士道。しかし、士道の赤い鎧には霰のような粒では一切傷が付いていない!!
――――まさにセリフ通りと言ったところだ!!
「………ぐっ!!―――おおおおおおおおおおッッ!!粉砕ッ!玉砕ッ!大喝采だあああああッッ!!」
『―――確かにそうなっている状況だが、それは他作品ネタだぞ相棒!?』
ドガッ!ピシッ!ドシュ!
………しかし、全てを斬り裂くことは叶わず、斬り裂き損ねた氷の刃が士道に襲いかかる!
鎧を破壊し、肉体をえぐるように刃が貫き、今まで感じたことのないような激痛が士道の全身を支配する!
―――だが、士道は一度も膝をつくことは無かった。無我夢中にアスカロンを振り回してゴールを目指した。
………ドライグのツッコミはいつも通り冴え渡っており、士道に『
「オオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
龍が咆哮を上げるように士道も雄叫びを上げて嵐の中を文字通りの命懸けで駆け抜けた。
―――全ては四糸乃を救うために………
自分を犠牲にしてまでヒロインを助けようとただがむしゃらに突き進む士道の姿は―――誇り高き龍の姿そのものだった。
―――
「………う、ふぇ………ぇ………っ」
結界のど真ん中で守護天使『氷結傀儡』の背にうずくまりながら泣いている四糸乃の姿があった。
「よしのん………よし、のん………っ」
………四糸乃は涙に濡れた声で、自分の支えだった存在の名前を呼んだ。
しかし、四糸乃は分かっていた………絶対に答えてくれないと。
………………だが――――
『―――なんだぁ?』
「………………?」
よしのんとは思えないようなヘンテコな声が響き渡る。
―――しかし、この声を四糸乃は聞いたことがあったため、顔を上げて辺りをキョロキョロと見渡す。
………声の主はドライグだったと言うのは突っ込まないでいただきたい。
「――――!!………よしのん………っ!?」
四糸乃の視界内には彼女がいつも大切にしていた存在が捉えることができていた。
そして、よしのんを左腕につけて一緒に現れた人物を見て四糸乃は恐怖しそうになったが、すぐに止めたのだ。
「………し、士道………さんっ!」
「………四糸乃、約束守りに来たぜっ………」
鎧の兜は完全に破壊され、赤い龍を模した全身鎧もほぼ全ての部位にヒビが入り、血だらけになっているが、よしのんを手につけて現れた人物は四糸乃のヒーローの士道だった。
ドサッ………
「―――!士道………さんッ!」
鎧が赤い粒子となって消え去り、いきなり倒れ込んだ士道を見た四糸乃は、
『
「ヒーローは遅れてやってくる―――と言いたいところだが、すまない四糸乃………遅くなり過ぎた。―――でも、この通りよしのんはちゃんと見つけ出して来たぞ?」
士道は仰向けになってよしのんを口をパクパクとさせたり、よしのんの手を動かしたりして、四糸乃によしのんを見せていた。
その様子を見た四糸乃は、目を丸くして大泣きを始めた。
「う、うえぇぇぇ………」
「―――ご、ゴハァッ!!」
いきなり四糸乃に泣かれた士道は―――四糸乃を泣かせてしまった罪悪感から、精神に五十万ポイントのダメージを受けた。士道は血を吐いて失神した。
―――三十分後………
「あ、あの………ゴメン、なさい………」
四糸乃は士道が血を吐いて失神させたことに頭を下げて謝っていた。
士道は女の子に泣かれると凄まじいダメージを受ける。―――これは子供の味方であるおっぱいドラゴンゆえの士道の苦悩だ。
「………だ、大丈夫だ!―――ほら、よしのんだ」
まだ士道の精神は完全には回復しておらず、今でも口から血を吹き出している………何をもって大丈夫だと言えるのかわからない士道くんだったが、よしのんを四糸乃に返すことに成功した。
「………あり、がとう………ございます………よしのんを、助けて………くれて」
四糸乃は涙を流しながらも笑顔で士道に感謝の言葉を述べた。この時の四糸乃の笑顔は士道にとっては忘れられないものだった。
「―――四糸乃、お礼なら俺にキスをしてくれ!」
「………キス、ですか………?」
士道は膝をついて四糸乃にキスを求めた。四糸乃はどうすれば良いのかわからず、首を横に傾げていた。
………言うまでもなく、士道の言葉に相棒のドライグはドン引きだった。
『………うわあっ、某アニメのエロ男爵なみにキモい。最低最悪なヒーローへと成り下がったな………』
(―――うるせー!俺だって見返りを求めるなんて真似はしたかねえよ!でもよ、キスしねえと精霊の力を封印できないんだからよ!)
『………おげえええええええええ』
ドライグは拒絶反応を見せていたが、これは士道は無視をした。四糸乃は士道に訊く。
「………士道、さん………キス、って………なん、ですか?」
「あ、ああ!ええっと………唇と唇を合わせ―――」
四糸乃は士道が伝えた言葉通りに実行した。四糸乃がいきなり口づけをしたことに士道はびっくりして尻餅をつく。
「………よ、四糸乃さん!?」
「ち、違い………ましたか?」
四糸乃は可愛く首を傾げていた。士道も「………違わないけど―――」と反応に困っていたが、四糸乃は涙を拭いて士道に近くに座り込む。
「―――士道、さんの………言葉なら、信じます………」
四糸乃は恥ずかしそうにモジモジとしながら両手を合わせていたが、士道は笑っていた。笑っていた。………そして―――
「―――どうやら、始まったみたいだな………」
四糸乃の体は光に包まれ、纏っている礼装と近くに座り込んでいだ『
「………こ、これは―――」
四糸乃は一糸纏わぬ姿になり、『
―――空を覆っていた暗雲は払われ、凍り付いていた天宮の街もすっかりと元どおりになっていた。
「―――暖かい、です………」
四糸乃は刺してくる日差しに声を漏らしていた。士道は四糸乃の頭を優しく撫でる。
「………ああ、この世界は誰にとっても暖かいんだよ。これからも俺が四糸乃のヒーローでいてやる。この暖かい世界で四糸乃がいつまでも笑っていられるようにな―――さあ、帰ろうか」
士道は四糸乃に優しく手を差し出した。―――四糸乃は笑顔を見せて士道の手を握った。
「………はい、ありがとう、ございます」
四糸乃の笑顔はこれから傷つきながらも、理想を成し遂げようと前に進む士道にとって大きな癒しとなるだろう。
士道は四糸乃の手を取り、途中で十香と合流して『フラクシナス』へと帰投したのであった。
士道が四糸乃を救出してから一週間ほど経った頃だった。
五河家の隣には、誰がどのようにして建築したかはわからないが、巨大なマンションが建設されており士道は目が飛び出させ、大声で叫ぶ。
「―――な、なんじゃこりゃああああああああ!!!!」
『………あの時に似ているな、三大勢力の会談が終了した後の、冥界に修行に行く前の時によく似ている―――相棒が眠っている間に家が大豪邸へと変貌を遂げていたあの時にな』
ドライグは士道が兵藤一誠の記憶を懐かしそうに思い返していた。
士道は背伸びをしてマンションを見上げていたが、琴里は士道に言う。
「………これがこの前に言った精霊専用の特殊住居よ。他のマンションとは違って強度は数千倍を誇り、ドラゴンのブレスにも耐えられるほどのラタトスク印の最高級マンションよ」
琴里は胸を張っているが、士道は「………今度耐久度を試してみようかな」と物騒なことを呟いていた。
『………四糸乃が泣くぞ相棒?』
「―――うん、やめるべきだな」
士道はすぐに首を横に振って物騒な考えを忘れ去った。そしてもう一つの疑問を琴里に問う。
「………ていうか、こんなマンションいつ建てたんだよ?全く気付かなかったぞ?」
「そりゃあ企業秘密よ。―――でも、精霊被害の対策としての復興部隊の仕事の速さもこんなものよ?………まあ、凡人の士道が分からないのも無理もないけどね」
「―――便利な世の中になったよなぁ………」
士道がため息を吐きながら出来上がったマンションを見上げていた。その時―――青いワンピースを着て、頭には白いキャスケットをかぶり、パペットを手に持った少女が士道の近くへと歩いてきた。
「………おっ、四糸乃とよしのんじゃないか!―――今日からここに住むのか?」
四糸乃は士道の言葉に首を縦に振る。
四糸乃は少し緊張気味だが、よしのんは相変わらず軽いノリで士道に話す。
「………は、はい。よろしく………お願いします」
『いんやぁ、この前はありがとね士道くん。お陰で四糸乃と再開できたし、お礼を言おうと思ってね………』
よしのんの言葉に四糸乃も「ありがとう、ございました………」と頭を下げる。よしのんは『よく出来ました』と四糸乃の頭を撫でていた。
「お礼なんて必要ないさ。俺は自分が決めたことを成し遂げただけだよ。―――暇な時は俺の家に来いよ。話し相手にもなるし、ご馳走も用意してやるよ」
「………はい!」
『ありがとね士道くん』
四糸乃とよしのんはマンションへ向かって歩いて行った。
それを確認した士道も一旦部屋へと戻ろうと家に入る。
「―――ムフフフフフフフフ!俺も今日から向こうのマンションに住もうっと!十香や四糸乃とキャッキャウフフの生活が俺を待っているんだ!!」
士道は光の速さで部屋へと入り、荷物をまとめて再びマンションに向かおうと部屋の扉を開けるが―――
「………盛り上がっているところゴメンなんだけど、士道はもちろんこの家に住むのよ?あのマンションは十香と四糸乃たち精霊専用なの。―――ああ、これでもう我慢するこもないわ!これから毎日こき使ってあげるからね士道♪」
扉を開けると、琴里が絶対に行かせないと立ち塞がっており、琴里はチュパチャップスを食べながら士道にウインクをする。
「―――えーと………俺も隣の家に住みたいんだけど………」
「うんダメよ。今日からまた兄妹水入らずの生活に戻るのよ。―――嬉しいでしょ、おにーちゃん!」
琴里は満面の笑みを士道に見せるが………
士道は血の涙を流して雄叫びを上げる。
「―――ふっざけんなあああああああああああああ!!!!!!」
十香と四糸乃は隣の家だが、士道が家を出ることは叶わなかった。
しかし、会えないわけではない。だが、エッチなイベントが少なくなることに士道は精神的に大きな傷を負ったのだ。
しかし、これからはより賑やかになるに違いない。十香も四糸乃もご飯は一緒に食べると士道は約束していたからだ。
こうして新たな日常が始まろうとしていた。
まだ士道はバランスブレイカーには至れていません。
現時点では赤龍帝の鎧を纏った原作九章のイッセーには士道は勝てません。
次回から狂三キラーに入る———前に番外編を考えています。
万由里をヒロインに加えてハーレム強化を図りたいですが、ネタが思いつきません!
予定のほか文字数が多くなってしまったため、イッセー消滅後のDxD世界の様子は美九編の最後に書くことにしました。
美九編終了後にDxD世界で激闘を繰り広げるオリ章へと入るのでそちらの方がいいかなと思ったからです。