士道くんはどう狂三を攻略するのか!?
十香と折紙が参戦してからというもの、狂三は完全に除け者扱いを強いられていた。
―――理由は至ってシンプルだった。
「………おい鳶一折紙、いつまでシドーの腕にくっついているつもりだ?」
士道の左腕を占領している十香が士道の右腕にしがみ付く折紙を睨みつける。………しかし、折紙も負けてはいない。
「………あなたこそ士道から離れるべき。士道は私のもの」
「うがああああああああ!!私はシドーの嫁なのだ!!今すぐ離れんか!!」
離れる気が微塵もない折紙に十香がプンスカと暴れる。―――左に十香、右に折紙、そして後ろには狂三と美少女三人を侍らせているキングオブ女たらしの士道くん。
周りから見れば嫉妬の的になるだろう………
「―――士道さん、わたくしのことを忘れないでくださいましね」
「………大丈夫だ、忘れていないよ―――狂三、ここが保健室だ」
それから数分歩いた後、士道たちは保健室に到着する。
ガラララララッ………と扉を開けると、白衣を着た眠たそうにしている女性と保健室の養護教諭を担当している浜崎先生がいた。
「浜崎先生はともかく―――どうして令音さんが?」
士道が訊ねると、令音は士道に手招きをする。士道はそれに合わせて令音に耳を寄せる。
(………十香と鳶一折紙がシンのことを尾行していることに気付いて足止め役をしようと思ってね―――ここまでは比較的、順調にことは進んでいる。自分を信じて突き進むといい)
令音はどうやら十香と折紙の足止め役として『フラクシナス』から派遣されたようだ。
士道は令音の後押しの言葉に感謝の意を示す。
「いつもすみません令音さん………狂三、保健室は体調が優れない時や、怪我をした時のためにある―――って言うのは必要ないか」
「士道さん、わたくし小学一年生の子供ではありませんのよ?」
狂三もそこまでは必要なかったらしく、場所だけわかれば良かったらしく、ここにはもう用が無さそうにしていた。
「………狂三、最後は屋上に行こうか。この時間だと、夕日が綺麗に見えるぜ?」
士道は狂三に手を差し出し、一緒に行こうとアピールをする。狂三はその手を微笑みながら取る。
「士道さんは中々ロマンチストな方なのですね―――分かりましたわ」
士道と狂三が手を繋いだ瞬間に、士道に飢えた獣が二匹―――失礼、二人が鬼の形相で士道と狂三の手を引き離そうとするが、令音と浜崎先生が十香と折紙を押さえ込む。
「………十香は足を怪我しているようだね―――どれ、私が見てあげよう」
「鳶一さんは筋肉を痛めたとか………肉離れの可能性もありますし、念のため私が見ておきますね」
いきなり行動を妨害されたことに十香と折紙は押し通ろうともがく。
「―――必要ない、もう治ったぞ!」
「………私も手当の心配はない」
士道も二人を止めるかのように振り返って言う。
「十香、折紙。―――しっかりと見てもらえよ?俺は狂三と屋上に行ってくるから」
「………それでは十香さん、折紙さん。わたくし、失礼させていただきますわ」
士道は手を振り、狂三は礼儀正しく頭を下げた。
―――もちろん、妨害をもろに食らった二人は………•
「「しょぼーん………」」
十香と折紙は十分ほど保健室で足止めを食らっていた。
――◆――
士道と狂三は、令音と養護教諭の浜崎先生が十香と折紙の足止めをしている間にそそくさと屋上へと向かった。
―――令音の言っていたように、茜色の夕日が差した屋上の風景は絶景の一言だった。
「はぁ………すまんな狂三、十香と折紙が乱入してから全く話せなくて」
士道は申し訳なさそうに狂三に頭を下げる。狂三は手を横に振って考えを伝える。
「士道さん、わたくし気にしておりませんわ。―――そんなに畏まらないで下さいまし」
「―――そう言ってもらえると助かるよ………」
士道はホッと胸を撫で下ろした。―――深呼吸をした後、狂三に疑問に思っていたことを問う。
「………狂三、今日の自己紹介で言っていた『精霊』って一体なんのことだったんだ?」
士道の問いに狂三は口の端を吊り上げ、不敵な笑みを見せる。
「―――あらあら、士道さんったら意外と食えない人なのですね………士道さんは精霊のことを知っているのでしょう?」
「――――ッ!!」
狂三の言葉に士道は息を詰まらせる。………士道は雷に撃たれるような衝撃を受けていた。
『………この女は少なからず相棒のことを知っている。この女は一体どこで相棒のことを―――もし、相棒が生まれ変わったことまで知っているとなると、事は厄介なことになるかも知れん………』
ドライグの言葉を士道は肝に銘じていた。士道は狂三に訊く。
「―――なぜ俺が精霊のことを知っていると思うんだ?それに、何処で俺のことを知ったんだ?」
「………わたくし、士道さんのことなら
狂三は士道のことを何処で知ったかまでは口を割ろうとはしなかった。
狂三は一歩ずつ士道に近づこうと足を進める。
「わたくし、士道さんのことを知ってからずっと………ずううっっと恋い焦がれていましたのよ?―――それはもう、
ペロリと舌を出し、舌なめずりをする狂三。狂三と士道の距離がゼロになり、狂三は士道に体を預ける―――そして………
ドスンッ!
何かが倒れたような音が屋上に響き渡る。その音の正体は、士道と狂三が倒れた時に発生した音だった。
―――今、仰向けになって倒れる士道の視界内には、胸を掴んで一緒に倒れ込んだ狂三の姿が映っていた。
「お、おおおい!?く、狂三!お前一体何を!?」
いきなり押し倒された士道が、四つん這いになって上から見下ろしている狂三を見上げる。士道は狂三の行動にタジタジになっていた。
「………士道さん、このままわたくしに身を委ねて下さいまし」
「―――は、はあ!?」
狂三の言葉を聞いた士道は素っ頓狂な声をあげる。狂三は士道の手を自分の胸に当て、士道との距離をさらに縮める。
「お、おっぱい―――じゃなくて!!狂三、お前今なにをしてるか分かってんのか!?」
鼻血をドバッと勢いよく吹き出し、あたふたと慌てふためく士道を見て、狂三は士道の耳元で小さく囁く。
「―――士道さん、こう見えてわたくしも緊張しておりますのよ?あまり士道さんばかりがドキドキしないでくださいまし………」
トロンと恍惚とした表情を浮かべ、士道に迫る狂三。狂三が緊張をしているという事は、狂三の胸に手を当てさせられている士道は、狂三の胸の鼓動が手を通して確かに伝わっていた。
「く、狂三さん!俺も、その―――男だから………」
「士道さん、このままわたくしと―――と言いたいところですが、今日はこの辺にしておきましょうか………士道さん、アレをご覧になって下さいまし」
狂三が不意に士道から退き、ドアの方に指を指す―――そこには、霊力を放出させた大剣を片手に、霊装をフル装備した魔王が降臨していた。
―――降臨した魔王様が不機嫌だったことは、言うまでもなかった。
「………おい貴様ら!一体何をしているのだ!!」
魔王様こと、十香が自分を差し置いて士道にくっついていた狂三を見てプンスカと怒っている。
狂三がうまく十香を誤魔化そうと口を開く。
「………わたくしが転びそうになったところを士道さんが支えようとした結果ですわ―――士道さんの優しさに免じて怒りを鎮めて頂きたいのですが………」
狂三がなんとかこの場を収めようと十香に士道は悪くない為伝えるが、十香は聞く耳持たずだ。
「そ、そんな言葉が信じられるか!!とにかくシドーから離れんか!!」
―――狂三が何を言おうが十香は信じようとはしなかった。
結果としては、修羅場へと変化してしまったが、十香が士道を救ったことは間違いないだろう。
こうして、狂三の学校案内は終わり、来禅高校の正門に狂三と十香の二人で帰路につこうとしていた。
屋上で狂三と士道がくっついていたことが気に食わなかったのか、十香はずっと士道の腕にしがみついていた。
「がるるるるるるるるるっっ………」
十香はまるで両親の仇を見るように強烈な視線を狂三に向けていた。
狂三はその様子を見て、狂三は苦笑いをしていた。
「―――士道さん、今日は学校を案内していただき、ありがとうございましたわ」
狂三はぺこりと頭を下げて感謝を示す。士道は笑顔を見せる。
「ああ、また何か分からないことがあったら是非聞いてくれ。いつでも助け舟を出させてもらうぜ」
「士道さんは本当に優しいですわね。その時は頼りにさせてもらいますわ………それでは、ごきげんよう」
狂三は士道に手を振って帰って行った。
その時、十香と一緒にいたもう一人の少女がいないことに気付き、十香に問う。
「おい十香、そう言えば折紙はどこに行ったんだ、一緒じゃなかったのか?」
十香は完全に忘れていたらしく、あっ!と目と口を開ける。
「そう言えば―――いつのまにか消えていたぞ?シドーのことが気になり過ぎて鳶一折紙のことは気付かなかった」
想い人が心配で仕方なかったためか、保健室に一緒にいた折紙がその後どこへ行ったかは、一緒にいた十香ですら分からないようだ。
――◆――
「やれやれですわ………まさか順調に進んでいたと思っていれば最悪のタイミングで十香さんが乱入して来ますし………まあ、士道さんが押しに弱いということが分かっただけでも十分な収穫ですわ」
狂三は十香に良いところで邪魔されたことにため息を漏らしていた。
「―――ですが、これから毎日十香さんが士道さんとべったりされると………事は難しくなりますし、何か対策を考えなければなりませんわね―――っとと………」
狂三がブツブツと独り言を呟きながら歩いていた時、隣の路地から人が出て来てぶつかった。―――出て来た人はガラの悪い男だった。狂三は頭を下げて謝る。
「申し訳ありませんわ―――前を見ていなかったもので」
しかし、ぶつかられた男は狂三の行く手を塞ごうと立ちはだかる。
「おいオメェ、ぶつかったおいてそいつはねえじゃねえんか?」
男がそう述べると、路地から仲間が出てきて狂三を囲うように立つ。
「ふっふっふっ、ついてるゼェ。こいつは上玉じゃないか!」
「ハイッ!上玉ですね!」
男たちは狂三の体を舐め回すかのように見つめていた。そして狂三は何かを悟り、口を開く。
「………お兄さん方はもしかして―――わたくしと交わりたいのですの?」
妖しい笑みを浮かべて述べる狂三だったが………男の一人が露骨に嫌な顔を見せる。
「かあっ!気持ち悪りぃ!やだオメェ………」
他の二人も同じように狂三を見て気持ち悪がる。
「わかるゼェ………こういう自分が可愛い思って、上から物を言ってくるやつほど気持ち悪いものはないものだぜ………とっとと消えろ、俺たちの気が変わらないうちにな………」
「―――僕もそう思います。やっぱり二次元ですね!わかります!」
「「「二次元サイコーッ!二次元こそ至高!二次元こそ正義ッ!!」」」
「―――うわぁ………」
勝手に盛り上がる男どもを見て狂三がドン引きをする。―――柄が悪いがこいつらはキモオタの部類の男だったのだ。
男の一人が声を上げる。
「さっそく中断していた『グレイフィア•ルキフグスの全裸鑑賞会』を始める!後に続け者ども!」
「おう!」「ハイッ!」
男たちは路地に戻り、スマホのアプリを起動させていた。彼らは知りもしなかった―――自分たちが精霊を怒らせていたという事を。
「―――ん、なんだオメェまだいたのか?とっととけえれ!」
「消えろ!この俺に殺されないうちにな………」
「消え失せろッ!二度とそのツラ見せるなクソアマァ!」
―――プツンッ………
男どもは三者三様で狂三にシッシッと手を払う。―――その時、狂三の中で切れてはいけないものが切れていた。
男どもは全く力の正体に気付いていなかったが、狂三が解き放とうとしていた力は、この男どもを始末するには十分過ぎるほどのものだった。
「あなたたち良い度胸をしてますわねぇ!!ただの人間の分際でわたくしをここまで侮辱をしたのはあなた方が初めてですわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
狂三は額に青筋を浮かべ、キヒヒヒッ!と薄ら寒く、全てを凍てつかせるような笑みを浮かべる!
狂三が右手を突き上げると、男どもの体が石化したように動かなくなる。
「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「ふおおおおおおおおおッ!?」
「アアアアアアアアアッッ!?」
男どもは懸命にもがくが、無駄な努力だった。………とはいえ、これは自業自得だろう。自分たちが行ってきた事を考えれば当然の報いだろう。
「―――死んでくださいましッ!!」
狂三を侮辱した男どもが現世で聞くことができるのは、この言葉までだった。
―――そして………
バキッ!ボキッ!ベキッ!ドゴッ!グシャァッ!!
路地裏に肉がはじけるような音が響き渡ると―――そこには男どもの姿は無くなっていた。
その代わりに、路地の地面や壁には血が飛び散り、辺り一面が真っ赤に血塗られた空間が完成していた。
「―――チッ………警戒していたのに間に合いませんでしたか」
路地裏に武装をした小柄な青い髪を後ろで一本にくくった小柄な少女が足を運ぶ。狂三はその少女に親しい仲を想像させるように話しかける。
「―――まったく、これだから低俗な人間は困りますわよね………そうは思いませんか、
そう、その少女はとある企業からASTに派遣された士道の実妹と名乗る『崇宮真那』だった。
真那は無表情で吐き捨てるように狂三に言い放つ。
「気安く名前を呼ばねえでくれやがりますか『ナイトメア』、吐気しかしねえです」
「―――あらあら、そんなつれないことを………知らない仲ではないではありませんか」
「とりあえず黙れ」
真那が狂三を捉える目は殺すものの目をしていた。
―――そして………この人気のない路地裏は、狂三が屍を晒す場所へと変貌した。
――◆――
「………………•••」
狂三に学校を案内した後、士道は難しい表情をして考え事にふけっていた。―――相棒のドライグが士道に声をかける。
『―――そこの夜刀神十香には感謝をしとけよ相棒。あの小娘が来ていなければ、お前は捕食されていたかも知れんからな………』
ドライグは完全に心を奪われた士道とは違い、士道が危機に晒されていた事を感じ取っていた。
士道は油断をしていた自分に不甲斐なさを感じていた。
「………シドー、私に邪魔をされたことに腹を立てているのか?」
茜色に輝く夕日に照らされる帰り道、十香が申し訳なさそうに表情を陰らせて士道に訊く。
その様子を見た士道は、首を横に振って否定する。
「―――違えよ。むしろ十香には感謝してるぐらいだ。ありがとな十香、俺を助けに来てくれて………あと少しで狂三の魔眼にやられるところだったよ」
「そ、そうか………ならば良いのだが」
士道の言葉を聞いても、十香の表情が明るくなる事はなかった。―――ドライグに言われた事を十香は信じることができず、士道のいる屋上へと向かって行ったからだ。
士道は申し訳なさそうにしている十香に苦笑いをしながら、優しく頭に触れる。
「―――さて、助けてられたお礼に今日の晩飯は十香の大好きなハンバーグだ!たくさん作ってやるから好きなだけ食え!」
自分が好きなメニューを作ってくれるという報告に曇っていた十香の表情は一気に晴れた。
「おおっ!!それは本当かシドー!!」
バンザイをして喜ぶ十香と、士道のインカムを通して琴里も賛成のようだった。
『へぇ、いいじゃない!私もそれに賛成よ』
これで五河家の晩御飯はハンバーグに決定した。
士道たちは帰路についていた時、前方に青い髪のポニーテールに泣きぼくろが特徴の琴里と同じくらいの年頃の少女と目が合う。
少女は士道へと視線を向ける。
「―――鳶一………じゃなかった、
士道を見つめる少女の姿を見た士道は隣にいる十香に訊ねる。
「………十香、知り合いか?」
しかし、十香は首を横に振って否定をする。その少女は士道に歩み寄り、まるで親しい仲を想像させるように表情を明るくする。
「………に!」
少女は震える唇から言葉を出した。その言葉を聞いて士道、琴里、琴里の三人は復唱する。
「に?」
「に?」
『………•に?』
少女は次に発する言葉と同時に士道の首に両腕を回し、士道の胸へと飛び込む!
「―――にいさまああああああああっ!!」
少女は確かに士道のことを『兄様』と呼んだのだ。少女が放った言葉に士道たちは完全に思考が停止し………•
そして――――
『は………はあっ!?』
士道、十香、琴里の素っ頓狂な声が辺りに響き渡った。
★次回予告とおまけ
真那「兄様は義妹と実妹のどちら派でやがりますか!!」
士道「えっとその•••••俺は————」
次回「実妹来襲!」琴里VS真那を予定しています!
★おまけ
イッセー「ダダダダダダダダニィ!?義妹と実妹の妹々丼だと!?俺もいただきたいんだが!!」
ピポパ
ドライグ『———あ、もしもし警察か?中学生の少女二人を見て鼻血とヨダレを流している変態がいる———場所は駒王町の駒王学園、二年A組の兵藤一誠という男だ』
イッセー「国家に守られた武装集団に通報してんじゃねえええええええええ!!」