デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜   作:勇者の挑戦

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※お詫び

次元の守護者との修行内容を書こうと思ったのですが、この話では書けませんでした。

ですので、修行は次回に回そうと思います!

期待に添えることが出来ず、本当に申し訳ございませんでした。

※内容を一部追加しました。


五話 するべきことはいつも一つ!

キーンコーンコーンコーン………

 

授業が終わり、お昼休みとなった。十香が笑顔で机をドッキングする。

 

「シドー、昼餉だ!」

 

「そうだな、飯にするか」

 

士道と十香の二人は仲良くお弁当箱を出し、昼食を摂る。士道と十香のお弁当は昨日のハンバーグの残りが主役のハンバーグ弁当だった。

 

「………しっかし、二人きりで弁当なんて久々だよな。桐生は部活で三時間目の休み時間に飯食ってたし、折紙は所用だと言って出て行ったし………なんか休日みたいだな」

 

十香が来禅高校に転入をした最初の数日は、士道と二人で昼食を済ませていた。殿町を始めに、それから折紙が強引に机をドッキングしたり、桐生藍華が「アタシも一緒に食べる」などと言って、メンバーに加わったりと、士道の昼食の時間は今では十分と賑やかになった。

…………しかし、十香は折紙と桐生藍華の名前が出たことになぜか不機嫌になっていた。

 

「―――シドー、嫁である私がいるというのに、他の女の話をするとは何事か?今はだな、私のことだけを考えていればよかろう」

 

プイッと顔をそらした十香ちゃん。………十香の気持ちも分からなくはない。二人っきりの時は自分だけを見て欲しいというのが乙女心というものだろう。

 

「ゴメンな十香。俺が十香の気持ちを察してあげられなかったよ。―――ほら、あ〜ん」

 

「あ〜ん!」

 

例え周りから視線を感じていようがこのバカップルは御構いなしのようだ。―――しかし、士道のクラスである二年四組では、士道と十香のカップルを見習って堂々と『あ〜ん』と食べさせあいをするカップルが続出している。

まさにバカップル効果と言ったところだろう。

 

「「ごちそうさまでした!!」」

 

士道と十香はご飯を食べ終わり、手を合わせて食後の礼をした。そして、士道は教室の扉に触れて外へと向かう。

 

「………シドー、何処へ行くのだ?」

 

十香が士道に訊ねる。―――十香はもう少し士道と話がしたかったのか、その表情はどこか儚げだった。

 

「琴里と令音さんのところだよ。―――ちょっと呼び出しを食らってな………午後の授業までには戻ってくるよ」

 

「そ、そうか…………」

 

士道は教室を出て、令音と琴里の待つ物理準備室へと足を進めた。

―――果たして、士道は何を見ることになるのか?

 

 

 

 

 

 

―――…………………

 

 

 

 

 

ガラララララッ………

 

物理準備室の扉を開けて、中へと入る。

 

「随分と遅かったじゃない士道」

 

物理準備室のモニターの前で椅子に座ってチュッパチャプスをなめている司令官の琴里が、入室してきた士道を一瞥する。

 

「…………そう言うべきではないさ。シンは十香の不安を少しでも減らしたかったのだろう…………だから十香と昼食を済ませてからここに来た―――違うかい?」

 

「令音さんには敵いませんね………恐れ入ります」

 

令音は士道の心を完全に読み取っていた。令音のことは士道の相棒であるドライグも頼りになると認めている。

令音は空中艦『フラクシナス』の中でも優秀な人材だ。

 

「…………それでは、本題に入ろう。これを見て欲しい」

 

カチカチッ………

 

令音が物理準備室のパソコンのマウスをクリックして、とある映像をモニターに映し出す。その映像は、住宅街の路地裏で青髪ポニーテールの少女真那と、とある少女が向かい合っていたからだ。

 

「あれは真那………と狂三か―――いや、それだけじゃない!折紙に―――ASTまでいやがる!!一体どうして!?」

 

「どうしても何も、精霊が現れたら駆除をするのがASTの仕事じゃない」

 

士道は喉から声を絞り出した。陸自の対精霊部隊が上空で待機し、全員が遠距離攻撃用のスナイパーライフルを構えていた。

 

「―――昨日って避難警報出てないだろ!?あの連中は、目的を達成するためなら、なりふり構わずって事かよ!万が一近隣住民に被害でも出たらどうするつもりなんだ?」

 

「ASTはあの精霊を始末できる自信があったんじゃない?いや、確信と言った方が良さそうね。―――見て見なさい、戦闘態勢に入ったわ」

 

真那が対精霊用の武装『CR―ユニット』に身を包むと、狂三もそれに合わせるように腕を天に掲げ、黒い何かが狂三の体を包み込む―――頭部を覆うヘッドドレス、胴部を締め上げるコルセットに、装飾が多いフリルとレースで飾られたスカート、そして髪は二つくくりにされていた。

その姿は―――まさに、霊装を纏った精霊そのものだった。

 

「ッ!!―――嘘、だろ…………」

 

ズビィィィィィィィッ!と言う音が響き渡ると同時に狂三の胸部に風穴が開き、狂三は地面に倒れた。

―――音の正体は真那が放ったあらゆるものを貫通するプラズマビームだった。

狂三はもう一度立ち上がるが、真那は無慈悲にも同じ箇所にプラズマビームを掃射し狂三を完全に倒した。

その時間は両手で数えられるほどの秒数だった。

士道はこの光景に自分の目を疑うことしか出来なかった。

 

「―――ッ!!真那の野郎、なんてことをッ!!」

 

ザシュッ!グシャアッ!ビシィッ!バリッ!

 

肉が切り刻まれる音が物理準備室に響き渡る。

―――真那が狂三の体を光の刃でズタズタに斬り裂いたからだ。首、腕、足、そして胴とまるで紙を切るように、無表情で淡々と行ったからだ。真那は最後に狂三の体を()()()()()()()()()で肉体を燃やし、消滅させた。士道はこれを見てただ拳を握りしめていた。士道の手からは血が流れ出るほど強く握られていた。

令音は士道の様子を見て優しく声をかける。

 

「………シン、落ち着くんだ。キミが何に対して感情を抑制しているのかは私にも痛いほど分かる。―――誰よりも優しいキミだ。こんな光景を見せられて黙っていられるほど、薄情な人間じゃないことは理解しているつもりだ」

 

「令音さん………驚かせてしまい、申し訳ありません」

 

令音の言葉に、士道はその身に纏っていた赤いオーラを消した。士道から放たれるオーラが消えたことを確認すると、令音と琴里はホッと胸をなでおろす。

 

『………しかし、これが現実だとするのであれば、今朝しれっと他人事のように登校してきた時崎狂三は一体何者なのだ?

―――あの小娘は精霊だ。()()()()()()()()()の力でも持っているとしたら説明が効くがな』

 

―――ドライグが士道の左手の甲から光を点滅させて琴里と令音に訊ねる。確かに、ドライグの言う通りだ。彼女は士道の実妹である崇宮真那に殺害された。

しかし、その狂三が今朝遅刻はしたものの、真那にやられた外傷も綺麗さっぱり消えており、特に変わった様子はなく登校してきたからだ。

 

「…………私たちもなぜ狂三が生存しているかは分かっていません。………精霊という種族は天災とも呼ぶべき理不尽な存在です。ドライグさんが仰られるように、狂三が何か特殊な力を持っているとしか私たちも理解していません」

 

「………一ついいかな?『赤い龍』ア•ドライ•ゴッホ」

 

琴里は複雑な表情でモニターを見つめていたが、令音は手を挙げて令音に問う。

 

『―――何が聞きたい?村雨令音』

 

「………あなたは先程、『不死ではなく不死身の力』と言った。不死と不死身は一緒ではないのかい?」

 

『確かに「不死と不死身」は意味としては“死なない”と言う意味だ。しかし、『不死と不死身』がそれぞれに意味することは()()()()()()()()()()()

 

ドライグの解答に令音だけでなく、琴里も頭を混乱させていた。その様子を見たドライグは分かりやすい簡単な例を挙げる。

 

『―――お前らの頭でも分かるように言うなら、相棒が「不死」で時崎狂三が「不死身」だ。

―――相棒の場合は、スナイパーライフルに脇腹をぶち抜かれた時や、氷の刃に全身を貫かれた四糸乃救出の時も、相棒はまだ()()()()()()()()()。理由は簡単だ()()()()あの焔が相棒の体を修復したからだ―――いつからかは知らんが、あの焔を宿した時から相棒の体は、死ぬことのない体になっている』

 

今ドライグが話した内容は『不死と不死身』の前者である『不死』を意味する士道のことだった。

次にドライグは後者の例、『不死身』を意味する時崎狂三について話し始める。

 

『次は時崎狂三だ。あの小娘は昨日の夕方に一度完全な死を迎えている。肉体をバラバラにされ、最後に体を消滅させたからな―――しかし、今朝何も変わらない様子でしれっと登校してきたのだ…………そう、あの小娘は()()()()()()のだ。つまり、あの小娘は()()()()()()()()()()()()と言うことだ―――俺から言わせて貰えば、相手にするなら「不死」よりも「不死身」の敵の方がずっとやりづらいだろう。相棒のように優しい心の持ち主だと殺すたびに心が摩耗し、そのうち心が崩壊するだろうからな…………』

 

琴里と令音もドライグの言葉を聞いてようやく『不死と不死身』の違いを理解したようだ。

しかし、ドライグの説明を聞いた士道は今までと変わらず、前だけを見つめていた。

 

「………とは言っても俺がやることは変わらないさ。俺が狂三を救えば良いだけだろ?狂三が生きている以上は俺のやるべきことは変わらない。俺が狂三を攻略すれば真那にも、AST達も狂三に手を出せなくなるからな」

 

『確かにその通りだが、相棒はあの女に狙われている。昨日、食われそうになったことをもう忘れたのか?』

 

「………俺は二天龍の赤龍帝だ。例え狙われているとしても、救うべき存在を目の前にして逃げるなんて真似はできねえよ。そうなりゃ、歴代の先輩達にいいように笑い話のネタにされるだけだからな………狙われていることを利用して、逆に狂三をデレさせてやる!」

 

士道の覚悟は揺るぎないものだった。士道の心の中は狂三を絶対に救いたい。そして、真那にこれ以上狂三を殺すような真似を絶対にさせないという強い想いで満ちていた。

その覚悟を聞いた琴里は、待ってましたと言わないばかりに士道の背中を押す。

 

「よく言ったわ!それでこそ私のおにーちゃんよ!明日は開校記念日で休みだから、デートをするにはもってこいだわ」

 

琴里の言う通り、明日は開校記念日で学校は休みとなっている。狂三とデートをするにはこの上ないチャンスだった。

 

「―――よし、そうとなれば作戦タイムだ!待ってろよ狂三!俺が絶対に、お前のその綺麗な体を拝んでやるぜ!!ぐへへへへへへへへへへへへへへへへッ!や、ヤベェ!妄想が………妄想が止まらねえぞおおおおおおおおおッ!!」

 

『うおおおおおおおおんん!!うわあああああ!!うおおおおおおおおんん!!』

 

完全にラスボスを彷彿とさせる醜悪な笑みを見せる主人公の士道くん。―――女性からしたら彼は倒すべくラスボスのような存在だろう。

相棒がこんなドスケベならば、ドライグも大泣きする以外に、自分の感情を表現する方法はないだろう。―――狂三の恥ずかしい姿を妄想している士道をさらに乗せるように令音が提案をする。

 

「………シン、もしキミが狂三の霊力封印に成功した暁には、私がキミの背中を流してあげよう。シンは女性の裸が大好きなのだろう?」

 

「―――この五河士道、全身全霊を以って時崎狂三の霊力の封印することを誓います」

 

『ゴボボボボボボボボボボボボボボ………………』

 

令音の言葉に、士道は間髪入れずに跪いて宣言をした。ドライグはついに精神が限界になり、泡を吹いて気絶をしてしまった。

 

「結局はそれがお目当てか!このおっぱいドラゴンッ!!」

 

「―――アジ•ダハーカッッ!!」

 

ドガッ!!

 

結局はスケベなことしか考えていなかった士道に琴里は顎に膝蹴りを食らわせ、士道を宙に浮かせた。

―――士道は琴里と令音の二人と明日のプランを念入りに話し合い、作戦を立てていた。

 

一通りのデートプランが決まった士道は物理準備室の扉を開け、教室へと向かった。

 

「―――あ、もう15:30か…………やべぇ、午後の授業全部サボっちまったな。…………まあ、良いってことよ」

 

すでに放課後になる時間だった。士道は全力疾走で教室まで戻った。タマちゃんが来る三秒前に、なんとか教室に戻ることができた五河士道くんなのであった。

 

 

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

「………あらあら、こんな所にわたくしを呼び出して一体どうしたんですの?わたくし、まだお昼を食べてないのですが………」

 

士道が物理準備室に向かった頃に、もう一つのやりとりが行われていた。

太陽が中天に登る頃だが、電気が付いてなくカーテンが閉められた部屋だと、外とは真逆で暗闇に覆われている。

そんな音楽室に精霊を名乗る狂三ともう一人の少女がいた。もう一人の少女が狂三に問いただす。

 

「―――あなたは昨日死んだはず………どうして生きている?」

 

もう一人の少女はASTに所属する鳶一折紙こと折紙だ。折紙は今朝からずっと噛み合わない矛盾を狂三に問いつけた。

すると、狂三の眉がピクリと動き、折紙の言葉の意味を理解して口を開く。

 

「―――ああ、ああ。…………あなたはもしかして昨日真那さんと一緒にいた方ですの?」

 

「―――っ!!」

 

折紙は狂三が答えた言葉を聞いた時だった。

折紙の全身に悪寒が走り、折紙は慌ててその場から飛び退く!

折紙の体は危険信号を送ったのだ。

 

 

 

しかし―――……………

 

 

 

「はっ―――これは…………っ」

 

飛び退いた折紙だったが、足元から飛び出した無数の腕が折紙の足首を掴み、折紙を動けなくする。

飛び出した腕は、さらに折紙の腕や首を掴んでそのまま後方の壁へと貼り付けにした。

折紙は懸命にもがくが、それは無駄な努力となった、

 

「きひ、きひひひひひっ!なんとも無様ですわねぇ―――わたくしとの接触を図るために、人目につかない真っ暗な場所を選び、自ら危険な罠に飛び込むなんて……………素晴らしい自己犠牲の精神ですわねぇ」

 

「……………………」

 

折紙は悔しさの余り、歯をギリギリと鳴らしていた。

狂三が精霊だと分かっていたにも関わらず、これと言った対策をせずにまんまと罠にハマってしまったからだ………

折紙は締められている首から声を絞り出す。

 

「あ、あなたは……………一体何が目的なの…………うっ!」

 

首を絞める力が強くなり、折紙は苦悶の声を漏らす。折紙の言葉を聞いた狂三は口の端を釣り上げ、身の毛もよだつ笑みを見せる。

 

「………一度学校に行ってみたかったというのも嘘ではありませんが、わたくしの一番の目的は―――貴方が想いを寄せる士道さんの力を手に入れることですわ」

 

「―――ッ!!」

 

狂三の狙いが士道だと聞いた折紙は呆然とした。―――士道を助けなくては…………士道を守らなければ………と。

今までは明らかに違う反応を見せた折紙に狂三の笑みはさらに醜悪さを増し、折紙にとってはこれ以上は見るに耐えないものだった。

 

「わたくし、知っていますわよ?十香さんと同じく折紙さんが士道さんに劣情を抱いていることを…………ですので、十香さんと折紙さんをこうして身動きが取れなくしてから目の前で滅茶苦茶に犯すというシチュエーションも良いですわねぇ!―――だあぁい好きな人が目の前でわたくしのものになる所を何もできずただ見ている事しかできないという無力さと絶望を噛みしめるなんて………どれほど魅力的な体験なんでしょう?

―――ああ、ああ!!想像しただけでゾクゾクしますわぁ!」

 

「―――!!―――!!」

 

狂三の言葉に折紙が押さえつけていた感情が解放された。

彼女は怒り狂って大暴れをするが、口を塞がれて無数の腕は腰と脇にも絡みつき、再び壁に貼り付けにされる。

口を塞がれているため、折紙は塞がれている手の中で音を立てて怒りを露わにする事しかできなかった。

 

「きひ、きひひひ、きひひひひひひひっ!折紙さんの今の顔はたまりませんわぁ〜!深い絶望の中を這いつくばるようですわぁ。―――今の折紙さんの顔を士道さんが見たらどう思うのでしょうか?」

 

「ッ!?―――ゲホッ、ゲホッ…………」

 

狂三は折紙を玩具のように弄んでいた。折紙は悔しさのあまり、目が潤っていた。

折紙を弄ぶことに満足した狂三は縛っていた折紙の体を解放した。折紙は床に両膝をつき、苦しそうに咳き込んだ。

 

「さて、わたくしはこれで失礼させていただきますわ。折紙さん、せいぜい足掻いて下さいましね?―――まあ、無駄な努力でしょうけど…………」

 

狂三は暗闇がかかった音楽室の扉を開け、光がある校内の廊下へと出て行った。

 

「―――士道…………っ」

 

折紙は拳を握りしめ、歯を噛み締めていた。狂三によって折紙の心は深刻なダメージを負った。

しかし、折紙は狂三から士道を守ると決めて、立ち上がった。

それが例えどれだけの地獄を見ることになっても、折紙は逃げないことを決めていた。

 

 

 

 

――◆――

 

 

 

 

士道が物理準備室のドアを開けて教室に向かった時間から少し戻り、時刻は14:40。

一日の最後の授業が始まる時間だ。今日はたまたま先生が体調不良で早退し、この時間はたまたま自習となった。

隣の席を心配そうに眺めている美少女がいた。

 

「―――シドー…………」

 

精霊『プリンセス』こと十香だ。

十香は『午後の授業には戻る』と言った士道が全く帰ってこないことが心配で心配で仕方なかったのだ。

 

「どうしたの十香ちゃん、五河とケンカでもしちゃった?」

 

士道の前の席に座っている桐生藍華が十香の顔を覗き込んだ。十香は首を横に振り、話し始める。

 

「………そうではないのだ。シドーが令音の所に行ってから帰って来ないのだ。シドーに何かあったのかと思うとなぜかこう―――胸が潰れそうになるのだ………」

 

十香にとって五河士道という人物は心の拠り所となっている。十香が士道に好意を抱いているという事実もあるが、それ以上に人間の世界に来て右も左も分からなかった自分に、笑顔で手を差し伸べて幸せな生活を送らせてくれた恩人でもあり大切なパートナーだからだ。

心配の余り十香は瞳が潤っていたが、桐生が優しく十香の頭に触れる。

 

「―――五河のことなら心配無いわよ。アイツは十香ちゃんとの約束破ったりしない。それでも帰って来れなかったってことは何か外せない用事があっただけよ。自分の大切な家族にこんな顔をさせて帰って来ないはずなんてないわよ。

………それに、十香ちゃんが信じてあげなきゃ、一体誰が五河を信じてあげるのよ」

 

「桐生…………すまない、本当にその通りだ。―――私はどうしてこう心配性なのか…………この前ドライグに釘を刺されたばかりなのにな。また何か言われるかもしれん………」

 

十香は目をこすり、溜まっていた雫を拭った。

確かに十香は士道のことが気になって仕方がない。だが、桐生藍華が言ったように、士道が戻って来ることを待つことにした。

 

しかし―――事態はこれで収束するかと思われたが、水面下でとんでもないことが始まろうとしていた。

 

「………けどまあ、こんな美少女に涙ぐませるなんて言語道断ね―――みんなもそう思うでしょ?」

 

桐生藍華の言葉にクラスメイト達も聞いていたのか、静寂が訪れていた二年四組が、祭りの騒ぎを彷彿とさせるように盛り上がりをみせる。

 

「そうだそうだ!五河の野郎、十香ちゃんを泣かせるなんて最低な野郎だ!」

 

「何かキッツイお仕置きが必要ね!」

 

「―――ここは、お詫びのキス以外ないでしょう!」

 

「マジ引くわ〜」

 

ガヤガヤガヤガヤと騒ぎ立つ二年四組。本来なら教員が「お前ら授業中じゃ!静かにせんかいこのボケがッ!!」などのお灸を据えにやって来る筈なのだが、一組と二組は体育の授業でいない。また、三組は美術の時間のため移動教室のため三組は誰一人としていない。

そのため彼らはやりたい放題できるということだ。

 

「―――決まりね。アンタたち、放課後『ごめんなさいのキス大作戦』を決行するわよ!」

 

『おーっ!!!!!!』

 

クラスに戻ればとんでもない罠が待ち構えていることも知らずに、令音と琴里の二人で狂三とのデート大作戦を考えていた士道くんなのであった。

 

 

 

 

 

―――……………

 

 

 

 

 

ジーーーーーーーーーーッ……………

 

「―――うっ!?」

 

クラスメイトたち全員の視線が自分に集まっていることに、士道は思わず込み上がってきたものを吐き出すような声を出した。

それも当然だ。教室に入るなり全員にじっと見つめられれば誰だってこうなるだろう。

 

「ッ!!」

 

教室入り、自分の席に戻ろうとした士道だったが自分の胸を目掛けて走ってくる少女がいた―――十香だ。

すぐに士道は十香の心中を察し、優しく十香を抱きしめた。

 

「―――ゴメンな十香。午後の授業には戻るって言ったのに戻ることが出来なかった…………本当にゴメン」

 

「シドー………」

 

士道の胸から顔を上げた十香は本当に寂しく思っていたのか、目に涙を溜めていた。

その時いやらしい笑みを浮かべながら二人だけの空間に近づく怪しい影があった。

 

「―――さあ五河、男を見せる時が来たわよ♪」

 

怪しい影こと桐生藍華が士道の肩をポンと叩く。士道はジト目で桐生藍華を見る。

 

「…………俺に何をしろっていうんだよ?」

 

「―――え、そりゃ十香ちゃんにゴメンなさいのチューでしょ?逆にそれ以外に何かすることってあるの?」

 

いやらしい笑みを消して真顔で士道に伝える桐生藍華。この女は、自分のスマホを取り出し動画を撮る準備をしているのだ。

 

しかし!士道の味方は誰もいない。外野もみんな『キース!キース!キース!キース!』と手を叩いてお祭り気分になっているからだ。

どのようにしてこの状況が作られたかを悟った士道は桐生藍華に詰め寄る!

 

「―――こ、この野郎!仕組みやがったな!!」

 

士道の言葉をもろともせずに桐生藍華は士道が慌てふためく様子を見て楽しむようにケラケラと笑っている!

―――この女まさに悪魔だ!

 

「十香ちゃんを心配させるアンタが悪いのよ。―――ほら、さっさとぶちゅうううってしちゃいなさいよ♪ホームルームの時間になってタマちゃんが来たらややこしくなるじゃない」

 

「とりあえずお前はそのスマホを片付けろ!ていうかお前らもムービー撮ってんじゃねえええええええ!!」

 

クラスメイトたちは全員がスマホを出し、士道と十香の熱いラブシーンを心待ちにしている!!

十香が恥ずかしそうに目をそらして消え入りそうな声を出す。

 

「は、早くせんかバカモノ………」

 

『………相棒、覚悟を決めろ。ここで逃げたら末代の恥になるぞ?』

 

周りに味方はいなかった。相棒のドライグですらこれだった。士道は覚悟を決め、十香の両肩を掴む!

 

「―――ああもう!!わかったよ!じゃあ行くぞ十香ッ!」

 

士道が決心をして十香とキスをしようとした時―――二人の唇は何者かの手で覆われた。

 

「―――こんな公衆の場で一体何をしようとしているの?」

 

「お、折紙!?」

 

そう、折紙だ。そして、それだけではない。担任のタマちゃんが既に教室内に入って来ており、怒号が響き渡る。

 

「何をさせようとしとるんじゃおんどれがッ!!神聖な教室をなんだと思っとるんじゃあ!!桐生さん!!それから五河くんと夜刀神さんにこんな恥ずかしい事をやらせようとした奴らは全員居残りじゃボケェッ!!全員生徒指導室行きじゃゴラァッ!!」

 

タマちゃんはキレるとヤンキーになるのだ。タマちゃんは元不良で、高校時代は手のつけられない札付きの問題児だったとか言う噂がある。

…………噂が現実となったが、桐生は慌てて事情を説明する。

 

「タマちゃん先生、これには訳があります―――五河が十香ちゃんとの約束を―――」

 

ドガアアアアッ!!

 

桐生の言葉を遮るかのようにタマちゃんは教卓に強烈なカカト落とし!

命中した場所は物の見事に粉砕されており、辺りに破片が飛び散っていた。

 

「やかましいわこのボケがッ!!それで謝罪としとの公開キスを求めるなんざ神が許してもアタイが許さんわああああああっ!!彼氏がいないアタイの前で、他人にイチャコラを強要する野郎は制裁じゃゴラアッ!!お前らの根性をアタイが叩き直したらあッ!!」

 

―――こうして、主犯の桐生藍華を含めた士道と十香、して狂三と折紙以外のクラスメイトは、生徒指導室行きが決定した。

 

『そ、そんなぁ〜』

 

悪いことをすれば、必ず報復があると昔から言い伝えられているが、桐生藍華とクラスメイトたちにも、このことはいい薬となったことだろう。

 




五河士道はどこまでいってもおっぱいドラゴンです。

タマちゃんのヤンキーモードはこれからもちょこちょこと出てくると思います。

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