デート•ア•ライブ 〜転生の赤龍帝〜   作:勇者の挑戦

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前話は流石にやり過ぎたかな〜と少し反省しています。

シリアス限定にしようかなと思いましたが、重苦しい展開はどうも苦手でして•••••••••今回も一波乱あります。

後書きを修正しました。

※誤字を修正しました。


十話 緊急事態です!!

狂三とのデートを終え、士道は限界まで我慢していた十香と折紙に振り回されていた頃だった。

天宮市の上空一万五千メートルに位置する空中艦『フラクシナス』の解析部屋で難しい顔をしている白衣のポケットに何度も刺繍をした紫の熊人形を入れた女性がいる。

 

「………シン、今日は本当によくやってくれた。

………私たちは厄介ごとをいつもキミに託してばかりだ―――負担をかけて本当にすまない」

 

―――空中艦『フラクシナス』で解析官担当の村雨令音だ。令音は狂三とのデートで体力を使ったあげく、十香と折紙のデートにまで付き合わされることになった士道を見て、申し訳なさそうにしていた。

 

『―――令音、失礼するわよ』

 

解析部屋の扉を開けて、中へと入る赤い髪の小柄な少女―――士道の妹の琴里が解析部屋へと入る。

令音は座っている椅子を琴里の方に向け、視線を合わす。

 

「………琴里、これを見てほしい」

 

目にクマをつくり、眠たそうにしている『フラクシナス』一の美女でもある村雨令音が解析部屋のモニターを指差す。

令音は士道と真那のDNA鑑定をしていたらしく、その結果が出たようだ。その結果を見た琴里は胸がざわついていた。

 

「―――そう、真那が言っていたことは本当だったのね………でも、そんな子がどうしてASTに入隊をしているのかしら?」

 

「………そのことなのだが、少し訂正する必要がある」

 

「―――訂正ですって?」

 

「………彼女はもともとASTの隊員ではなく、DEMインダストリーから派遣された社員だ」

 

「―――DEM(デウス•エクス•マキナ)社ですって!?」

 

DEMインダストリー社とは、イギリスに本部がある世界屈指の大企業で、この国の人物でも知らない人はいないと言われるほどの有名企業だ。

電子機器、半導体、情報通信機器、医療機器などの製作が表の顔だが、裏の顔は世界中の軍や警察に顕現装置(リアライザ)を供給している色々と訳ありの企業だ。

おまけに魔術師(ウィザード)という特殊武装隊までをも有し、精霊を狩ることすら掲げているため、琴里たちが所属する『ラタトスク』とは面白くない関係にあたる。

 

「ますますわからないことだらけね………なぜ真那はDEMで魔術師(ウィザード)なんかやってるわけ?」

 

「………それについては私も詳しい理由はわかっていない。だが―――」

 

令音は珍しく、奥歯を噛み締めて拳を強く握り、憤りを露わにしていた。琴里はこんな令音を見ることは滅多になかった。

 

「何があったの?」

 

「………これを見てくれ」

 

令音はコンソールを動かし、画面に真那の身体の映像といくつかピックアップされた場所には、細かな数値が表示されている。それを見た琴里は絶句する。

 

「ちょ―――ッ!!これって!?」

 

「………キミの驚きは最もだ。真那の全身には、限界を超えた魔力処理が施されている―――異常な強さを得られる反面、これではあと十年ほどの寿命しか真那には残されていない」

 

―――よく、無償の奇跡は存在しないと言われることがある。兵藤一誠で例えるなら『白龍皇の籠手(ディバイディング•ギア)』や『覇龍(ジャガーノート•ドライブ)』がいい例だ。

歴代最強の白龍皇と謳われたヴァーリ•ルシファーに一泡吹かせるために手に入れたこの力は、発動するたびに寿命が縮まるという最悪なおまけが付いていたために、兵藤一誠の頃はその力を滅多なこと以外では使おうとはしなかった。『覇龍(ジャガーノート•ドライブ)』は言わずもがなだ。

………さらに、DEM社の顕現装置(リアライザ)は性能が未熟なため、それを補うために人間の脳に依存せざるを得ないのだ。

 

特に、脳波を強化する必要があり、天才とも謳われた折紙も例外ではなく、脳波を強化するために頭の中に小さな部品を埋め込んでいるのだ。

しかし、真那の場合は明らかにそのレベルを逸脱したほどのものだった。

彼女は人間の姿をした精霊と言っても過言ではない。

 

「もしこれを士道が知ってしまったら………」

 

琴里は胸が張り裂けそうな思いで、画面の数値を見ていた。令音も士道の性格を理解してか、琴里の肩にそっと手を置いた。

 

「………いくら優しいシンといっても、これを知ったら黙っていないだろうね―――恐らく、一人でDEMを壊滅させに向かうだろう………」

 

琴里と令音は既に終わりが近づき始めている真那をどうにか救うことは出来ないかということを必死に考え抜いた。

そして―――………真那と直接交渉をする日がやって来ようとは夢にも思ってもみなかった琴里と令音だった。

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

次の日の朝、士道はフラフラになりながらも学校を目指して登校する。

狂三とのデートだけでなく、その後に十香と折紙に振り回されて残りの体力もあるだけ搾り取られたが、十香に腕を引っ張られて、今日も登校させられている士道くんだった。

 

「―――やあ士道くん、随分と酷い顔をしているね………昨日はあまり眠れなかったのかい?」

 

来禅高校への通学途中、魔法使いの全身ローブを纏うことで顔を隠し、いかにも変な人を演出している守護者ソロモンが士道に声を掛ける。

 

「ソロモンさん、俺もう疲れました………土に帰りたいッス!!」

 

「―――冗談の気がまったくしないことは、その顔が証明しているね………とりあえずご苦労様とだけ言っておこう」

 

『赤龍帝』をやっている士道と言えど、一日に二度のデートを熟せる精神力は無い。ソロモンは士道の苦労を分かっているからこそ労いの言葉を掛けたのだ。

 

「―――むぅ、これでは私が除け者扱いされているような感じがして、いい気分がせんぞ………」

 

十香はムッとした表情を浮かべている。ご機嫌斜めといったところだ。

ソロモンは十香の方を見て、あたかも今気づきましたよというアピールをする。

 

「―――あ、十香ちゃんもいたんだね」

 

「『いたんだね』では無い!!私が士道の腕を引っ張っていたところを貴様も見ていただろう!!」

 

完全に自分が眼中にないことに十香は地団駄を踏んだ。ソロモンが現れたことに何か意味があると踏んだ士道は、十香を見る。

 

「―――十香、先に学校へと向かっててくれ。俺もすぐに後を追うからさ………」

 

士道は十香を先に学校へと向かわせようとしたが、『嫌だ!』と頭の上に文字を出すばかりに腕にしがみつかれる。

士道は困っていたが、ソロモンはその様子を見て微笑む。

 

「ハハハハハ、いやあ士道くんはよくモテるね。十香ちゃんがいても別に僕は構わないよ………むしろ今日に限っては、十香ちゃんも()()()()()()()()()()

 

ソロモンの意味深な発言に士道と十香は目を合わせる。いつもなら用があるのは基本的に士道だけなのだが、ソロモンは十香がいても構わず話し始めた。

 

「―――そろそろ『くるみん』が何か仕掛けて来そうな気がしてね………本来なら、僕もキミたちに協力したいところなのだが、今日の僕たちはとある存在の討滅があるんだ………その代わりと言ってはなんだけど、これを渡しておこう」

 

―――狂三のことを『くるみん』と可愛いあだ名をつけた物好きなソロモンのことは置いておこうか。

ソロモンは事情を説明すると、士道にあるものを手渡す。それは印鑑の入れ物のようなもので、手の平にすっぽり収まるような小物だった。

 

「―――これは?」

 

「それの使いどころは、キミが最も困った時が最善だろうと僕は思う―――簡単に言えば『切り札』って奴だよ。

その困った時が来るまでその入れ物の中身を見てはいけないよ?『切り札』は最後まで取っておくべきだからね」

 

―――してはいけないと言われたものほどその逆をしたくなるのが人間という生き物だ。それは士道とて例外ではない。

士道は中身が気になって仕方なかったが、制服のポケットへとしまい込んだ。

 

「―――分かりました。ソロモンさんも討伐を頑張って下さい」

 

「うん。いい返事だ。最後にこんなアドバイスをしておこう―――士道くん、何をやっても分かり合えない相手は確かに存在する。でも、幾度となく立ちはだかる困難を超えてきたキミに乗り越えられない壁なんてない………キミがこれまで口説き落としてきた少女たちと精霊ちゃんがその証さ。

………キミが理想と描くハッピーエンドだけを目指して突き進めばいい。キミの相棒が太鼓判を押すように、僕が見てきた歴代の赤龍帝の中でも、キミは最高の存在だ」

 

「………な、なんか後味が悪い褒め方をしますね!?―――別に良いですよ、そんなに無理して褒めなくたって!俺はどうせその辺に溢れる女たらしですよ!」

 

ソロモンのアドバイスを聞いた士道は口を尖らせていた。心にグッと響くものもあれば、完全に貶されているものもあったからだ。

 

「―――じゃあ僕はこれにて失礼しようかな。士道くん、今日は気を緩めないことだ………あ、十香ちゃんも士道くんのことをよろしく頼むよ〜?」

 

「私はついでかッ!?」

 

ソロモンには十香は完全に士道の従者扱いをされていた。

士道はソロモンの忠告をしっかりと胸に刻み込み、目的地へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

―――………………

 

 

 

 

 

「ちぃ〜っす狂三。今日もマイ女神さまと言ったところだな!」

 

校内の下駄箱で上履きに履き替えている狂三を見つけていきなりペテン師にメタもる士道くん。当然外野は、白い目で士道くんを見ながら手で口を隠しヒソヒソと陰口を言うが、彼はそんな小さなことはアウトオブ眼中だ。

 

「………士道さん、少しはTPOを考えることをオススメしますわよ?」

 

「いやいや、俺の気持ちにTPOなんざ関係ねえ!俺のマイ女神さま信仰は、すでにオーバーキャパシティだぜ?」

 

色々と意味のわからないことを平気で話す士道くん。彼は本気で時崎狂三と向き合っているのだが、これは考えものだろう。

 

「………士道さん、『マイ女神さま』はやめて下さいまし!!わたくし女神などではありませんわ!」

 

狂三はマイ女神さまと呼ばれるのが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしてモジモジとしていた。

しかし狂三はコホンッと咳き込んだは後、士道を見つめる。

 

「その、士道さん………わたくし、士道さんに確認したいことがありますの」

 

「―――なんだい『くるみん』?くるみんのためなら俺は全裸にだってなってやるぞ☆」

 

――――お巡りさん、こちらです!ここに変態がいます!!

マイ女神さまがダメならソロモンが出した『くるみん』と呼ぶ士道くん。またまた顔からボンッ!と熱を放出させる狂三ちゃんだった。

………ちなみに混沌が満ち溢れそうになっているこの下駄箱にいた生徒は、士道、狂三、十香の三人だけだった。他の生徒はこの空間に耐えることができず、口を両手で塞ぎながら全力で逃亡していた。

 

「ああ、もう!!調子が狂いますわ………」

 

「ごめんごめん、それで確認したいことってなんだよ?」

 

「―――昨日の真那さんと出くわした時に、わたくしに言ったことは()()………なんですの?」

 

「―――ああ。俺が言ったことは全て本心だ」

 

狂三の問いに士道は間髪入れずに肯定した。士道の答えに嘘偽りが全くないことを感じ取った狂三は士道に背中を向ける。

 

「そうですの………でも、それがどこまで貫けるかを試して差し上げますわ」

 

狂三はそれだけを言い残すと、教室へと向かった。ソロモンの言った通り、狂三は何か事を起こそうとしていることを士道も悟っていた。

―――ここに人類を超越せし変態と最悪の精霊のガチンコバトルのシナリオは完成しつつあった。

 

キーンコーンカーンコーン………

 

教室に入り、ホームルームの時間となった。

ホームルームの時間となって入ってくるのは、担任のタマちゃん先生なのだが、今日は副担任の令音だった。

 

「………おはようみんな。シンはとりあえず国語辞典に見せかけた秘蔵アルバムを片付けるんだ」

 

教室に入るなり士道の行動を看破する令音。―――実際に士道は鼻にティッシュを突っ込み、鼻の下を伸ばしながら国語辞典を見つめていたのだ。

誰が見ても、士道が見ているのは国語辞典ではないということは明らかだった。

 

―――しかし、令音にもそれは言えることだった。士道のクラスメイトの山吹亜衣が手を挙げて令音に問う。

 

「村雨先生、それは出席簿じゃなくて、眠る時に聞くサウンドトラックのCDですよね?」

 

「………おや?私としたことが、こんなミスをするとは」

 

―――やる気の片鱗すら感じられない令音なのはいつも通りだった。今度は殿町が令音に訊ねる。

 

「村雨先生、どうしてタマちゃん先生ではなく村雨先生が今日のホームルームの先生なんですか?」

 

殿町が思っていたことは、クラスメイト全員が思っていることだった。令音は眠そうにあくびをしながら答える。

 

「………岡峰先生は一昨日、教卓に踵落としを決めた時に、踵の骨を骨折してしまってね。

………今日は整骨院に行ってから学校に来ると連絡があった」

 

令音の説明に、頭に角を生やしてヤンキーモード全開で暴れているタマちゃん先生の姿が思い浮かんだ二年四組の生徒たちだった。

―――こうして午前の授業が始まり、特に何も起きることなく放課後を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

士道が授業を受けていた頃、『KEEP OUT!!!!!』幾重にもテープを貼られた工事現場に、琴里はある人物から呼び出しを受けて、そこへと足を運んでいた。

 

「………確かここのはずよね」

 

琴里が階段を降りていくと、士道と同じ青い髪を持ち、ポニーテールの小柄な少女が、瓦礫の上に座っていた。

 

「はぁはぁ………兄様の裸………もはや芸術でやがります!!早く真那を兄様の虜にしてくださいぃぃ………」

 

その少女はスマホの画面に夢中になっていた。

―――いや、夢中になっていたどころではない!鼻の下を伸ばし、鼻血を垂れ流しながらスマホの画面に魅入っている!

その姿はまさに、士道の女性バージョンと言うにふさわしい姿に他ならない!!

怪訝に思った琴里は気配を消して背後から近寄り、少女が座る瓦礫の上から、スマホの画面を見る。

スマホの画面を見た琴里は激昂する!!

 

「―――はあ!?なんであなたが士道の上半身裸の写真を持ってんのよ!?ていうか何、変態は血縁を超えるとでも言うの!?」

 

「うわっ、何奴!?」

 

いきなり背後から現れた琴里に、その少女は瓦礫から飛び降り、半身で構える!

その少女は士道の実妹の真那だった。―――士道のスケベは真那にまで受け継がれてしまっていたのだ。

 

「まさか―――どうして()()()()()まで立派に引き継がれているのよ!?―――まさか、こいつらの両親が変態だったために士道もこいつも変態ってわけなの!?」

 

「失礼でやがりますね!!真那は変態ではありませんよ!?」

 

「―――実の兄の上半身裸の写真を見て鼻血を流すわ、下品な妄想を浮かべるわで劣情丸出しじゃない!!これを変態と称さずになんとすればいいのよ!?」

 

「失礼千万でやがります!!真那は兄様のような真性のドスケベ野郎ではなく、ムッツリスケベでやがります!!」

 

「一緒じゃあああああああああああ!!」

 

全力で真那にツッコミを入れる琴里。『フラクシナス』でも数少ないツッコミ役だ。

兄がダメダメなら基本的にその下は完璧な部類が多いのだが、士道と真那の兄妹は例外のようだ。

 

「―――いや、別に如何わしい気持ちはねえのですよ!?この写真に残された兄様の手掛かりを見つめていた時、ふと思いました―――兄様がこれからどのように成長していくのかと………そして、十年近く時が経ち、再開したら兄様が真那好みのガッチリとした体格のイケメンになっていやがりましたのですよ!?

これで劣情を抱かない妹は妹を名乗る資格はねえのでごぜえます!!」

 

「やかましいわ!!私は十年も前からずっと士道のことを愛しているのよ!?アンタの劣情なんか、私の思いの足下にも及ばないわ!!」

 

琴里が珍しく人前で士道への想いを口にしていた。あとで司令室で顔を真っ赤にして体育座りをする様子が伺えるが、今はどうでもいいだろう。

 

「―――あなたが兄様をそこまで思っているなら、なぜ兄様を『ラタトスク』機関のような精霊の懐柔を目論むゴミクズ組織に加入させてやがるのですか?

まともな武器も顕現装置(リアライザ)すら持たさせずに………あなたは兄様を都合の良い実験体だとでも言いたいのでやがりますか?」

 

真那は先程までの変態モードをOFFにし、琴里に何かを投げる。真那が琴里に投げたものは、士道がこの前無くしたインカムだった。

真那は鋭い視線を琴里に向け、拳を握りしめ怒りを露わにしていた。

そんな真那を琴里は鼻で笑う。

 

「―――ハッ、アンタが所属するDEMインダストリーのような悪徳企業にゴミクズ組織呼ばわりされるなんて『ラタトスク』も落ちたものね………」

 

「なっ―――何処でそれをッ!?」

 

琴里が憎しげに言い放った言葉に真那は心臓を鷲掴みにされていた。真那がDEMインダストリーからASTへと派遣された社員だと言うことを看破されたことに真那は動揺を隠せなかった。

 

「舐めないでもらえるかしら?それに、士道には顕現装置(リアライザ)なんざとは比べるにも値しない強力な『切り札』を持っているわ。それこそ、全世界を崩壊させるほどのものをね」

 

「………………………」

 

琴里の言葉に真那は何も言えなくなった。しかし、真那にはどうしても否定しなければいけないことがあった。

それは――――

 

「兄様のことは置いておきますが、DEMインダストリーを悪徳企業呼ばわりをするのは、ちょっと聞き捨てならねえですね。

あそこは記憶を無くした真那に生きる意味を与えてくれやがりました………あなたが悪徳企業呼ばわりする権利はねえのでやがりますよ?」

 

真那の言葉に琴里の眉がピクリと動く。その時、琴里は真那について分からないことが、今の一言で全てが一本の線で繋がり始めていた。

 

「―――アンタまさか、()()記憶は消去されて………」

 

「………?言いたいことがあるならはっきりと言いやがったらどうなのですか?」

 

真那は核心的なことを述べて戦慄を始めた琴里を見て、怪訝に思っていた。琴里はツカツカと足を進めて真那の両肩を掴む。

 

「………あなたさえ良ければ『ラタトスク』に来ない?朝昼晩の三食の飯と寝床を用意するわよ?」

 

「―――はあ!?何を言ってやがるのですか!?」

 

琴里のいきなりの勧誘攻撃に、真那はキョトンとしていた。琴里は真那に指をさし、自分にとっては嫌で仕方がない条件だろうが平気で口にする。

 

「………あなたのような強力な人材は『ラタトスク』は大歓迎よ。今なら追加で、士道とのお風呂と添い寝も漏れなく付いてくるわ」

 

「―――真那はDEMを辞めて、今日から『ラタトスク』にお世話になろうと思います!!」

 

•••••••••••••••••••••

 

琴里の提示した条件に、一秒の時間にも満たない一瞬のうちに真那は琴里の条件を喜んで呑んだ。真那は士道と一緒の生活がよっぽど嬉しかったのか、ルンルン気分ではしゃいでいる!!

―――先ほどの『DEMは生きる意味を与えてくれた』と言うセリフはなんだったのかと、琴里は考えていた。

呆気ないほど簡単に勧誘できた琴里は完全に呆気にとられていたが、その空気を元の緊張が張り詰めた空気に戻すように二人に着信が入る!

 

「―――神無月じゃない、一体どうかしたって言うの?」

 

『司令、来禅高校の上空に凄まじい霊波反応が検出されました!』

 

「………なんですって!?」

 

どうやら真那にも似たような着信が入ったらしく、二人は目を見合わせていた。

 

「―――私は来禅高校に向かいます。兄様に危険が迫ってやがります!兄様の救出は私にお任せ下さい!」

 

「ええ、お願いするわ!」

 

真那は来禅高校に向かうことになり、琴里は真那によろしく頼むとお願いした。

事態は思わぬ展開を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーコーンカーンこーんッッ………

 

全ての授業が終わったと伝える終了の鐘が鳴り響く。士道は窓を見つめてボソッと呟く。

 

「今のところは狂三に動きは無しか………」

 

士道は午前、午後と狂三の様子を観察していたが、特に怪しい行動を起こそうとはせず、いつもの自然体だった。

その時、士道のインカムに『フラクシナス』から令音の通信が入る。

 

『時崎狂三の下校はまだ確認されていない。まだ校内にいるはずだ』

 

その言葉に士道も目を瞑り、周囲の気配を探ると、屋上に狂三の気配があることを察知することが出来た。

士道は神速を発動を出来るようになってからというもの、明鏡止水を極める一歩手前まで来ていたのだ。

それ故に気配察知も数ヶ月ほど前に比べると、別人の域に達していた。

 

「………シドー、また狂三のことを考えておるのか?」

 

想い人をジト目で見つめる十香ちゃん。

狂三が転校して来てからというもの、嫁(希望)の十香ちゃんはずっとこの調子だ。

デートをした昨日だけでなく、今日までも士道は狂三、狂三、そして狂三だからだ。十香が面白くないと感じるのも理解できる。

 

「そんな顔すんなよ十香。焼きそばパン買って来てやるからさ」

 

「―――おお!!それはありがたい!私は小腹が空いていたのだ!」

 

エサ一つでご機嫌になる十香ちゃん。士道は十香の頭を撫でると、教室を出て購買を目指して走り出した。

士道が階段を降りようとした―――その時だった!!

 

「―――ッ!?こ、これは!?」

 

急に体が重くなり、士道は慌てて足を止める。士道が辺りを見渡すと、空気が淀んでおり高校内が不気味な空間へと変貌していた。

 

『………これは固有結界の類だな。「他者封印•鮮血神殿(ブラッドフォート•アンドロメダ)」が一番この状況を説明するに相応しいだろう』

 

ドライグが述べた通り、生徒たちの殆どが廊下に倒れていたのだ。士道は特に影響は無いが、これは危険な状況に変わりないことを示していた。

 

『―――相棒、籠手を出して力を高めておけ。この結界は出来る限りすぐに破壊すべきだ。いつ犠牲者が出てもおかしくない』

 

「わ、分かった!!」

 

士道は赤龍帝の籠手を左腕に纏い、力の倍加を始める。士道は屋上を目指して走り始めると、十香が苦しそうに地面に座り込んでいる姿が目に入る。

 

「―――十香、大丈夫か!?」

 

「シドー!!良かったお前が無事なのは何よりも嬉しいぞ………」

 

こんな状況だが、十香は自分の身の安全よりも士道のことが気になって仕方がなかったのだろう。士道の無事に十香はホッと胸を撫で下ろしていた。

 

「十香、俺はこの元凶を止めなきゃならない―――だからここで待っていてくれるか?」

 

「ダメだ!またシドーは一人でそんな危険なことをしようと言うのか!?」

 

「―――俺しかこの状況を打破出来ねえんだよ。十香、お前が待っていてくれるなら、俺はいつもの百倍………いや千倍の力を出せる!だから十香、俺を待っていてくれないか?」

 

十香は士道の服の袖を掴んだまま離そうとはしなかったが、士道に一言だけ伝える。

 

「………シドー、絶対に死ぬな!もしシドーが死んでしまったら―――泣いて泣いて泣きじゃくってやるからな!」

 

士道は十香の言葉を聞くと、ニカッと笑い優しく頭に触れた。

 

「―――ああ、俺は絶対に死なねえ!この元凶を止めて、四糸乃と琴里と一緒に今日も晩飯を食べような?」

 

「ああ、絶対の絶対の絶対だからな!!」

 

十香の言葉を聞くと、士道は屋上を目指して全力で駆けた。そして―――屋上の扉を蹴破ると、そこにいたのは霊装を纏った最悪の精霊『ナイトメア』だった。

 

「………お待ちしておりましたわ、士道さん」

 

目の前の最悪の精霊を前に士道は視線を鋭くし、一言だけ告げる。

 

「―――狂三、俺がお前を救ってやる!!」




次回と次次回でこの章もフィナーレを迎えます。

次回「最高の赤龍帝VS最悪の精霊!!前編」

ソロモン「次回は僕の渡した『切り札』に注目!?」

————いいえ、なんでもありません

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