僕は、何処か非常に高い建物の中の階段を、駆け下りていた。
ビルやショッピングモールの階段は皆そうだが、階段のある場所は四方が壁に囲まれている。
僕がいたのも、階段だけしか無い部屋だった。
僕は薄暗く狭い部屋の中を、下へ下へと降りていた。
何かに駆り立てられていたのだろう。それが何かは分からなかったが。
もう何階も必死に駆け降り、背後から迫ってくる何かの存在感を強く感じ、もう駄目だと思ったその時。
僕はそいつに出会った。
フォウくんだ。
そう、あのフォウくん。FGOのマスコットキャラクターであるあの白い小動物だ。
まるで場違いだ。
なぜこんな場所に彼がいるのか。
いや、これは多分夢だ。だからゲームの中の存在が突然現れても、そこまでおかしくはないかも知れない。
僕はそう思いながら、しかし勢いのついた身体にブレーキをかける事が出来ず、彼に足を引っ掛けて盛大に転んでしまった。
彼はびくともしなかった。まるで石のようだった。
相当な速度で転んだはずなのに、全然痛くなかった。
そして立ち上がってフォウくんの方を見ると、そこはもう、建物の中ではなかった。階段も壁も、何処かに消えていた。
360度見渡す限りの真っ白な世界。そこに僕とフォウくんだけがいる。
僕が居たのは、そんな単純化された場所だった。
※※※※※
「フォウフォウ! フォウ! フォウフォウ!」
「ごめん、何言ってるか分かんない」
「フォウ…フォウフォウ!」
「さっぱり分かんない」
「フォウ! フォウフォウ!」
「日本語話してくれる?」
駄目だ。全然会話が通じない。
いや、通じてるかも知れない。だってfgoの誇るマスコットキャラクターだし。しかし彼の言ってる事をこちらは分からないのだ。
僕が途方に暮れていると、フォウくんは突然叫ぶのをやめた。そして横を向く。
彼の視線の先には四角い画面が有った。スマホやパソコンの画面を切り取って、この夢の中に貼り付けているようにも見えた。
その画面は、まさしくfgoのガチャの画面だった。タップ一つでサーヴァントか召喚されてくるあの画面だ。
「ガチャ…?」
「フォウ!」
フォウくんは嬉しそうに尻尾を振った。
「ガチャさせてくれるとか?」
「フォウ!」
彼はまたしても尻尾を振った。
なるほど、これはもしかすると、もしかするかも知れない。
これは俗に言う、神様転生とかそう言うパターンではなかろうか。
ちょっとおかしいとは思っていたのだ。
夢とは言え、なぜ突然彼が現れたのか。
今非常に明晰に思考出来ているのは何故か。
夢に出て来たフォウくんと意思疎通が取れないのもおかしい。それは彼が本物だからでは無いのか。
「転生させてくれるとか」
「フォウフォウ! フォウ! フォウ!」
彼は物凄い勢いで首を横に振った。違うと言う事か?
「でもガチャはさせてくれる」
「フォウ!」
「ガチャで出た能力、いやサーヴァントか。
サーヴァントの特殊能力を得られる?」
「…フォウ!」
彼は少し躊躇った。微妙に違うらしい。
いや、でもとにかく、ガチャした結果何か貰えるのは確実だろう。
これは凄い事じゃないか。概念礼装の中にも、かなり有用なものはある。愛の妙薬とか宝石剣とか。
あるいはひょっとして…サーヴァントが来ちゃったりして。
「サーヴァントがやって来る?」
「フォウ!」
「本当に?」
「フォウ!」
素晴らしい。僕はガッツポーズした。
フォウくんは横を向いた。いつの間にか、画面の内容が切り替わっていた。次の説明に移るらしい。
それもガチャの画面だった。しかし先程のストーリー召喚の画面ではなかった。
女性キャラピックアップ召喚(ジャンヌダルク)の画面だった。
「ジャンヌが貰える」
「フォウフォウ! フォウフォウ!」
「えー、じゃあ、女性キャラが貰える」
「フォウ!」
なるほど。
欲を言えばジャンヌと決まっていた方が良かった。彼女は聖杯大戦のメインヒロイン枠だ。
聖杯大戦の事はよく知らないが、メインヒロインなら性格も良いに違いないからだ。
しかし、贅沢は言うまい。女性キャラと決まっているだけ上等である。これ以上を望むとバチが当たるくらいだ。
サーヴァントが貰えても、それが例えばカリギュラとかメフィストフェレスとかだったら感動も萎えるだろう。
その点、女性キャラなら外れはない。いや外れはあるが、それでもfgoに出て来る女性キャラは皆例外なく可愛いのだ。
マスターとして彼女たちに、あんな事やこんな事を命令しちゃったりして。いや、彼女たちが嫌なら強制することは出来ないか。
しかし、近くで眺められるだけでも、僕の心はだいぶ癒されるはずだ。
いつの間にかフォウくんは、また横を向いていた。画面も切り替わっていた。
今度はガチャの画面ではない。と言うか、動画だ。そこには僕が映し出されていた。
パソコンの攻略サイトを見ながらクッキーを食べ、スマホを弄る僕の姿だ。
「攻略サイト」
「フォウフォウフォウ! フォウ!」
「パソコン」
「フォウフォウ! フォウ! フォウ!」
「僕の家」
「フォウフォウフォウフォウ!」
駄目だ。分からん。
その後しばらく、僕は彼と意思疎通を図ろうと格闘した。
無駄だった。そこから先に進まなかった。
体感で10分以上経ち、僕は彼の鳴き声にいい加減ウンザリして来て、そこでフォウくんも諦めたようだった。
彼は画面を仕舞うと、小さくお辞儀をして去って行った。