第一次僕戦争   作:まなぶくん

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第1話 バーサーカー

翌朝。

二階から降りて居間に行くと、人間大サイズのゴキブリが冷蔵庫を漁っているのが見えた。

 

いや、訂正しよう。

あれはゴキブリではない。全身を覆う真っ黒いパーカーとアルトリア顔から来る食欲旺盛と言うイメージが、彼女をそう見せているだけだ。

 

謎のヒロインXオルタ。

謎のヒロインXを打倒するため、あるいは彼女を乗り越えるため、はるばるサーヴァントユニヴァースからカルデアに来訪したサーヴァントだ。

ガチャした覚えもないのに、彼女は既にそこに居た。

 

「あ、マスターさん、おはようございます。冷蔵庫の中の甘味を、漁らせて貰っています」

 

彼女は、とても自然にそう言った。

 

 

※※※※※

 

 

「本当に、謎のヒロインXオルタなんだね」

「だからそう言ってるじゃないですか」

「いやその、僕たちの世界では君たちは、空想上にしか存在しないから」

「マスターさんって一般人ですからね。魔術は秘匿される物ですので当然です」

「そう言う意味じゃないんだけどなぁ…」

 

彼女は真顔のまま首を傾げた。そしてどうでも良い事と思ったのか、スプーンでハチミツを掬って口に入れた。

旅行のお土産や特売セールの戦利品として、家族の皆がごく稀に買って来るハチミツ。しかし我が家には、食パンにマーガリン以外の何かを付けて食べると言う文化が無かった。つまり、買えば買うだけ溜め込まれる事になるのだ。

 

探したところなんと4瓶ものハチミツが、収納棚の奥に眠っていたのだった。

冷蔵庫の中の甘味を食べ尽くし、粉砂糖に手を出そうとした彼女を止めるため、僕は彼女にハチミツを差し出したのだった。

 

今は彼女に甘味を与えて話を聞いている最中である。対面して座ると分かるがやはり、彼女は美少女だ。

流石はstay nightのメインヒロイン(のネタ時空におけるオルタ化した姿)だ。

 

「君って本当に僕のサーヴァント?」

「流石の私でも、それ、傷付きます」

「あ、いや、ごめん。

でも、魔力が吸われてるような感覚は無いんだ。それに令呪も見当たらない。どう言う事か分かる?」

「ふむ…」

 

えっちゃんは、スプーンを咥えたまま思考の海の中に沈んだ。

少しして自分の頰を抓ったり、僕の手をペシペシと軽く叩いたりして、また考え込む。

5匙目のハチミツが口の中に消えた頃、彼女は口を開いた。

 

「魔力供給は、マスターさんから行われています。けど何故か、その量はごく僅かで済んでいます。

ほとんど無いと言っても良いくらいですね。私が100人居てもまだ大丈夫でしょう。

令呪はマスターさんの心の中にあるみたいです」

「心の中ってどこですか」

「さあ」

 

魔力消費量が非常に少ないと言うのはまぁ分かる。フォウくんのお陰だろう。

サーヴァントをくれると言ったのに、それを維持する魔力が無いのでは片手落ちだ。貧乏人が維持費の高いスポーツカーを貰うような物である。

 

しかし、令呪が無いのか。

彼女は世にも珍しい文系のバーサーカーと言う設定だが、それでもバーサーカーなのである。

百歩譲って、これが他の英霊ならまだ良かった。けどバーサーカーと付き合うなら令呪は欲しい。

 

「君って僕に召喚されたの」

「マスターさんに召喚された覚えしか有りませんが」

 

僕はそんな覚えは無い。フォウくんが勝手に召喚してくれたのかも知れない。

あの動画は、召喚方法を伝えようとしていたのかも知れないと今更気が付いた。

 

「何を対価に召喚されたか分かる?

聖晶石か、純粋な魔力か。

と言うか、他のサーヴァントって召喚出来るのかな」

「それは…回答を拒否します。マスターさん、聞かないで下さい」

 

えっちゃんは下を向いて、さらにハチミツをスプーンで掬って口の中に入れた。

少し悲しそうな表情をしている。

 

どうする。彼女は嫌がってるぞ。

男として、いやマスターとしての判断が今問われている。

心の中にあるとか言う令呪で命令してみるか。

あるいは聞かずに済ませるか。

 

…聞かずに済ませよう。

嫌がってるんだ、無理に聞くべき事じゃない。

彼女が暴走した時の保険として、もう1人召喚したいのは事実だ。

けれど、召喚出来たとして、そのサーヴァントが僕の言う事を聞いてくれる保証も無い。次は酒呑童子が来るかも知れない。

 

「分かった。聞かない。

じゃあ話は変わるけど、その、君が今の勢いでうちの甘いものを食べると、多分今日か明日には無くなっちゃうと思うんだ」

「あ、私働きますよ」

「働く?」

「アルバイトです。ケーキ屋さんでアルバイトして自力で生計を立てます」

 

マジか。こいつ多分、僕なんかより100倍しっかりしてるぞ。

腐ってもアーサー王と言う事か。

 

けど、生計?

 

「それだけ甘い物が食べたいって事だね」

「それも有りますけど、人間生きていくにはお金が必要ですから。私はサーヴァントですけど。

マスターさんの家に居候する訳にもいきません。家賃とか稼ぐ必要が有ります」

「霊体化すれば良いんじゃ」

「霊体化は嫌です。幽霊みたいになるくらいなら働きます」

 

本当にしっかりとしているサーヴァントだ。fgoでは和菓子を齧っているイメージしか無かったのだが。

 

「じゃ、早速今からバイト先を探して来ます。落ち着いたら連絡しますね」

 

そう言って彼女はスプーンを置いた。丁度ハチミツ1瓶が空になったところだった。

 

え?もしかして今から別行動?

いや確かに僕は一介の大学生だから、僕に頼れないと言うのは分かる。分かるよ。

けどもっとこう、ほら、親交を深めたりとか色々あるんじゃないの?

と言うか、サーヴァントと一緒に暮らせなければプレゼントの意味が無いんじゃ…。

 

僕が社会人だったら良かったのか?

甲斐性を持っていなければ引き留められないのは、サーヴァントも一緒だと…。

フォウくん…。

 

そそくさと去っていく謎のヒロインXオルタ。

僕は彼女に、何の言葉もかける事が出来ないのだった。

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