第一次僕戦争   作:まなぶくん

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第2話 ルーラー

ピピピピピピ ピピピピピピ

 

眠たさを感じながらも、僕は枕元の目覚まし時計を押した。

今日は一限から授業がある。しかも必修の授業で落とせない。どれだけ眠くても我慢して起きる必要が有った。

 

一日が始まる。

もしかしてえっちゃんが起こしに来てくれたりしないかな、と儚い希望を抱きつつ目を開ける。

もう何日も期待し、その度に裏切られて来た希望だ。そろそろ諦めた方が良いかも知れない。

 

ベッドから体を起こし、横を見ると、ベッドの脇に痴女が正座していた。

肌色面積が多かった。

 

一瞬、見間違いかとゴシゴシと目を擦る。

しかしその儀式を行っても、その奇跡の人は消えない。

間違いない。二体目のサーヴァントが召喚されたのだ。

 

「マスターおはよう。よく起きられたわね。

ヒヤヒヤしたわよ全く」

「あ、ありがとう。一つ言って良い?」

「何?」

「何で水着なの?

もしかして、もしかして、誘ってる?

誘われてるよねこれ?」

 

瞬間、彼女の顔から笑みが消えた。

彼女の大喝が部屋一杯に響く。

 

「あんたがそう言うサーヴァントとして召喚したんでしょうがゴラーー!!」

「ひっ…」

 

彼女…水着マルタ…は、怒りの拳をベッドに叩きつけた。

その拳はベッドの分厚いマットレスを突き抜け、その下の木枠を粉砕した。

バキッと大きな音がしたが、それでもその音は、ゴジラのような彼女の叫びに比べればまだ小さかったのだった。

 

 

※※※※※

 

 

「でも、僕だって男だし。そう言う物だと思うじゃん。誤解されたくないならせめて第1再臨の姿で来て欲しかったと言うか」

「で、最後の言葉はそれで良いのね?」

「すみません! すみませんでした! 本当に申し訳なく思っています!

この通りです!」

 

殴ルーラーがまるで不良のように拳に息を吐きかけ始めたので、僕は正座を崩して土下座に移行した。

ちなみにこれは、本日3度目の土下座である。

 

「私があのような姿になったのは不可抗力です。そこに私の意思は介在していません。

神に全てを捧げたこの私が、あなたに身体を許すとでも?」

「分かりました、申し訳ありませんでした」

 

土下座のまま謝罪の言葉を述べる。

どうしよう。時間だけが過ぎていく。

これもう絶対遅刻するんじゃないか?

 

その時、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。

誰だろう。近所の人が回覧板を持って来たとかだろうか?

 

「頭を上げてよろしい。けど正座のまま待機すること。あなたは性根の矯正が必要です」

「はい、分かりました…」

 

正直なところ、すぐにでも大学に行かせて欲しい。しかし、それを彼女に面と向かって言う勇気は無かった。

それだけ彼女が怖かったのだ。彼女からは殺気を感じた。

 

「失礼しますね」

「貴女…もしかしてサーヴァント?」

「はい。マルタさんより先に召喚されたサーヴァントです。ちょっとマスターさんに一言物申したくてですね」

「待ちなさい」

「私に命令出来るのは、マスターさんだけでして」

 

玄関からこちらに誰かがやって来る。

いや、この声とこの調子。そして会話の内容からして、彼女に違いない。

 

我らがヒロインえっちゃんだ…!

僕は不覚にも泣いてしまった。

彼女なら、水着マルタにも勝てるかも知れない。

と言うか、彼女は僕の身の危険を察知して、別居先からはるばる駆けつけて来てくれたのではないだろうか?

 

「マスターさん、なぜ正座などしているのです。なぜ泣いているのです」

「えっちゃん、来てくれてありがとう」

「…私はマスターさんのサーヴァントですから」

 

えっちゃんは、謎のヒロインXオルタから、謎のヒーローXオルタに改名した方が良いのではないだろうか。

これはまるで、キングコングに囚われたお姫様を助け出す騎士そのものではないか。

 

「あんたの好きにはさせないわ。それ以上マスターに近づかないで貰える?」

「ふふふ。マスターさんが最初に召喚したのは、私なんですよ…?」

 

水着マルタがえっちゃんを追ってやって来る。笑顔で睨み合う2人。

火花か何かが散った様子を、僕は幻視した。

 

今がチャンスだ。

今なら大学に行ける。

 

僕は立ち上がろうとしたが、足が痺れて転んでしまう。

それが全てを決めた。

 

えっちゃんが僕の事を振り返った隙に、殴ルーラーが距離を詰めてえっちゃんに軽く腹パンを入れる。

えっちゃんは一発でダウンした。

えっちゃんは弱かった。

 

「正座って言ったはずだけどぉ…?」

 

手や指の関節をコキコキと鳴らしながら迫ってくる水着姿の雌ゴリラ。

どうしよう。えっちゃんがあんなに弱いとは思わなかった。

 

「大学の授業があるんだ」

「フン、正しい生き方を知らない人間には、正しいことなんて何も学べないわ」

「いや、でも、単位が」

「はぁ…。

ヤコブ様、モーセ様、お許し下さい。マルタ、拳を解きっ!?」

 

バトル開始の掛け声が始まってもう駄目かと思われたその時、マルタは急に苦悶の表情を浮かべて床に倒れ込んだ。

 

見ると、同じく床に倒れ込んだえっちゃんの手から、白い靄のような物がマルタの腹部まで伸びていた。

フォースの力だろう。今この時だけは、彼女に豊富に詰め込まれたパクリ設定に感謝だ。

 

「何の、これしき…!」

「マスターさん、行って下さい。ここは私が食い止めます」

「大丈夫なのか?

いやそうだ、令呪をもって命じる、謎の…」

「マスターさんは今、令呪を使えないと思います。大丈夫です。私と彼女なら互角ですから」

 

令呪を使えない!? 何だよちくしょう!

 

「分かった、恩に着る」

 

そうして僕は、自分の部屋へと駆け出すのだった。

 

 

※※※※※

 

 

「ただいまー…」

 

玄関の鍵を開け、家に居るかも知れない聖女マルタを刺激しないよう、そっとドアを開ける。

本当は帰りたく無かった。夜9時くらいまで大学の図書館で勉強していたかった。

しかし、それだと家にサーヴァントがいる事が家族にバレてしまう可能性があるのである。

だから僕は、授業が終わったらすぐ家に帰って来たのだった。

 

何も返事はない。

もしかして聖女マルタは家にはいないのではと言う希望も見えて来た。

殴り合いの喧嘩をした2人に女同士の友情が芽生え、彼女はえっちゃんの住むマンションに転がり込んでいるのだ。きっとそうだ。

 

二階に上がり、部屋のドアを開ける。

聖女マルタが一人で、ベッドに正座をしている様子が目に入った。

えっちゃんの黒いパーカーを着ていたが、水着の他にはそれだけしか着ていなかったので、逆にエロかった。

 

「あー、マルタさん」

「お帰りなさいマスター。朝はごめんなさいね」

「落ち着いた?」

「ええ、落ち着いたわ。その、マスターの服を借りてもいいかしら」

「良いよ」

 

箪笥の中から使ってない下着や洋服を取り出し、彼女に渡した。

 

彼女は着替えながら言った。

 

「その、えっちゃんはアルバイトをして自活しているらしいわね」

「うん、そうだよ」

「私もそうするわ。マスターと離れて暮らした方が良いと思うの」

 

確かにその方が良いだろう。彼女と一つ屋根の下で暮らしていくには、いくつ命が有っても足りない気がする。

 

「そうだね。あんまり人に暴力を振るったら駄目だよ」

「…保証はしかねるわ」

「え!?」

「だって、世の中は醜い物で溢れかえっているじゃない! 醜く、穢らわしく、悍ましいもので!

それに目を瞑ることなんて私、出来ないわ」

「でも、暴力を振るうと警察に捕まっちゃうよ」

「それは、分かってるわ。だから出来る限り自制するの。マスターから離れるのもその一環」

 

なんかそれだと、僕が汚物か何かって事になりませんかね。

僕ってそこまで性根がねじ曲がっているのか…?

 

「マスター。召喚してくれて、ありがとう。

私には辛い世の中だろうけど、それでも私、何とか生きてみる。

そしてマスターに危険が迫った時には、えっちゃんみたいに駆け付けるわ」

「あ、ああ。頑張ってね」

「私、警察官になるわ。そして世界の平和を守るの」

「あ、ああ…」

「もう他のサーヴァントは召喚しないでね」

 

いや、せっかくサーヴァント召喚システムを貰ったんだから、誰か一人くらいは僕に身体を許してくれるような娘を召喚したいんだけど。

だって、物凄い美少女のサーヴァントを二人も召喚したのに、彼女達とは握手すら出来てないんだよ?

 

いやまあ、マルタさんが怖いからそんな事は言えないけど。

 

そうして僕たちは別れの言葉を交わし、水着マルタはやはり僕の元から去っていった。

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