第一次僕戦争   作:まなぶくん

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第6話 上 アルターエゴ

ゾクゾクするような快感が、頬に、首に、肩に、そして右腕から右の手の甲に流れた。

余りの刺激の強さに、僕はそれだけで精を放ってしまった。

 

目を開けて弾かれるように上体を起こす。ベッドの傍らに、妖艶な美女がいた。

呼吸を落ち着けようと息を深く吸い込むと、淫靡な香りが喉の奥をくすぐる。その深呼吸は逆に、僕の心臓の鼓動をひどく早めたのだった。

 

太陽が光を放つのと同じように、彼女は性的な魅力を放っていた。

 

豊満な胸、くびれた腰、そして形の整った尻。

fateでも屈指のプロポーションと言うのは、こうして見ると、伊達では無いのが良く分かった。

 

白とピンクの薄い法衣は、服としての役割をほとんど果たしていなかった。胸の上に乗ったリボンの結び目を解けば、全てが露わになってしまうはずだ。

この服は身体を隠すためではなく、脱ぐと言う一手間を行為の前に設けるためにあるのだろう。

 

しかし、その薄布の合間からは、みずみずしくハリのある健康的な肌が覗いている。

その肌は法衣の有様とは真逆の事を…すなわち、この身には穢れの一つすら無いのだと言うことを、強く訴えかけて来ていた。

 

そして、それら全てを合わせた物より大きなインパクトを放つ、堂々と伸びた二本のツノ。

それは、かつて自らの欲のために生命全てを滅ぼしかけたと言う、彼女の在り方を象徴するものだ。

 

恐れていた事が起こった。

 

殺生院キアラだ。

アルターエゴの皮を被った人類悪が、僕の部屋に召喚されていた。

 

 

※※※※※

 

 

彼女は自身の右手から視線を外し、僕を見た。彼女は微笑した。

 

「マスター。召喚して頂いて、ありがとうございます。

貴方様のその身、その心を、この私に委ねては頂けませんか?

私は貴方様に、喜びの気持ちを感じて頂きたいのです」

 

その言葉は、僕の心を蕩けさせた。

僕は、頷いてしまったのだろう。

彼女は突然僕を抱き寄せると、僕の唇を熱く奪うのだった。

 

唾液が流しこまれる。僕はそれを飲んだ。それは蜜の味がした。

 

彼女のキスは情熱的かと思えば優しくなり、温かいと思ったら冷たくなった。

僕は彼女を喜ばせようと、必死で彼女の舌遣いに応えた。

彼女と触れ合っている部分から身体が熱を持ち始め、その熱、いやその衝動はすぐに身体全体に広がった。

 

僕の視界からは彼女以外の全てが消え失せ、僕は彼女から乱暴に法衣を取り去った。

彼女が僕のパジャマを力づくで引き裂くと、僕はとうとう彼女に襲い掛かった。

その瞬間も、彼女は微笑を浮かべていた。

 

僕は、そうして、男になったのだった。

 

 

※※※※※

 

 

どれだけの時間が経っただろうか。

僕達は少しの暇も挟まずに、身体を重ね続けていた。

 

「マスター…貴方は私のものです」

「ああ。僕は君のものだ」

「ははは、うふふ、うふふふ。ああ愉快ですこと。

マスター、気付いていらっしゃいますか?

先程から貴方様は、オウムのように私の言葉を繰り返すばかりですよ。

ああ…ああ…!

何て可愛らしいこと」

「キアラ、愛している。ずっとそばに居てくれ」

「ふふふ。ええ。ええ、もちろん。

そこまで慕って頂いては、私も…」

 

キアラはそこで言葉を止めた。

その表情は強張り、僕を抱きしめる手も硬くなっていた。

 

「どうした、キアラ。何か有ったのか」

 

キアラは僕の唇に軽くキスを落とすと、微笑んで言った。

 

「部屋に虫が入り込んだようですね。潰して参ります。

少々お待ち下さいませ」

「いや、待て、キアラ。虫なんかどうでも良いだろう」

「マスター、申し訳ありません。直ぐに済みますので」

 

彼女は僕をもう一度ギュっと抱きしめると、体を起こして僕から離れた。

僕も彼女を追うように上体を起こす…いや、起こせなかった。全身の筋肉が疲労を訴えており、また非常に空腹である事に気が付いたからだ。

 

僕が頑張って上体を起こすと、キアラでない別の少女が部屋に居るのが見えた。キアラは、彼女から僕を庇うように立ち塞がっている。

黒いドレスを来て大きな槍を持った、金髪の少女だ。左手の周囲には靄のような物があった。

誰だ? …エレシュキガルか?

 

「…から…れ…!」

「ふふふ。貴女こそ、マスターから離れて頂けませんか。マスターの心は、既に私のものです。

マスターの視界から出て行って下さい」

「…けな…!」

 

エレシュキガルらしき少女が、左拳をギュっと握りしめた。

彼女の左手の靄が大きくなる。その靄は、糸のようにキアラの胸に伸びていた。エネルギー吸収の靄だろう。

 

まずい。

エネルギーを吸収されたマルタは倒れ込んだし、警官達は長時間気絶したのだ。キアラだって無事では済まないはずだ。

先程表情が強張ったのは、これが理由か。

 

「キアラ、僕に何か出来る事はないか」

 

キアラは笑ったようだった。

 

「ええ、それなら、彼女に令呪を使って頂けませんか」

 

令呪? 彼女は僕のサーヴァントなのか?

 

エレシュキガルは怯えた表情を浮かべると、口をパクパクと開けた。

 

「…ぼえ…い…!」

 

そうして彼女は消えた。霊体化したのだろう。

 

「消えちゃったね」

「しかし、まだ油断は出来ません」

「でも、大丈夫でしょ? だってキアラだし」

 

殺生院キアラ。月の裏の聖杯戦争におけるラスボスの1人である。fate世界最強と呼ぶ人もいるような存在だ。

もちろんfgoの彼女は分霊であり、その力も普通のサーヴァントの規格に収まるものでしかない。しかしながら、何というか妙な安心感が有るのだ彼女には。

彼女に熱く抱擁され、その存在感に圧倒されたが故にそう感じるのかも知れないが。

 

それに、彼女の元になっているのは恐らく、僕の性欲だ。

人間の三大欲求の一つに数えられるそれは、他のほとんど全ての感情より強いのではないか。少なくとも僕は、性的な事を考えると他の事はあまり考えられなくなるし。

 

僕は立ち上がり、出来るだけの笑顔を作って彼女に手を伸ばした。

 

「キアラ、だからその。

ね、もう良いでしょ?

一緒に、えっとその、遊ぼうよ」

「マスター…」

 

キアラは僕の手首を掴んだ。快感が波となって、手首から足先、頭の天辺まで伝わった。

 

「マスター。私もこの様なこと、申したくはありません。しかし、私と貴方様の将来のためなのです。お聞き下さい」

「分かった。何でもする。何でも言ってくれ」

 

僕は手を引っ込めた。

彼女は笑ってベッドに腰掛け、彼女の横を手でポンポンと叩く。

僕がそこに座ると、彼女はもたれ掛かってきた。彼女の温かさが伝わってきた。

 

「令呪を使って、あの虫を成仏させて下さい」

「エレシュキガルの事だね」

「そうです。彼女の持つ力は、私とは相性が悪いのです。

地力の差が有りますから、1対1なら互角です。しかし万が一と言うこともあります」

 

彼女は、僕のサーヴァントなのか?

僕は自分の記憶を探り、そして、エレシュキガルが刑部姫を殺した記憶や、あるいは彼女と並んで大学の授業を受けた記憶を探り当てた。

 

これは本当に、僕の記憶なのか。

いや、確かに僕は、エレシュキガルを召喚した。そう言う記憶はあるのだ。

しかし、何と言うか、実感が全く湧かなかった。

 

「エレシュキガルに僕の令呪が効くとは思えないんだけど」

「マスターは私のことを…」

「ああ。何よりも大切に思っているよ」

「では、貴方様以外にも、英霊を召喚している人間がいると言うことですね」

 

キアラは遠い目をした。

考え込んでいるのか。あるいは彼女のスキルの千里眼を使っているのかも知れない。

 

キアラは突然、腹を抱えて笑い出した。

 

「ふふふ。ふふふははは。あははは…」

「大丈夫かキアラ」

「ああ…マスター。大丈夫です。

私は今、貴方様の愛の深さに喜びを覚えていたのですよ。

それにしても、何と可愛らしい」

「ありがとう」

 

キアラは僕に抱き着いて、耳元で囁いた。

 

「貴方様は、私に魅了され過ぎてしまったのですね。

エレシュキガルは、正真正銘、貴方様のサーヴァントです。ただ、貴方様がそれを忘れているだけのこと。

ふふふ。貴方様は、私以外の女性のことを、全て忘れていらっしゃいますね。

他にサーヴァントを何騎召喚したか、思い出せますか?」

 

僕は記憶を探った。

何も出て来なかった。

 

「すまない。何も思い出せない」

「そうですか。仕方ありません」

「そ、その、令呪を使ってみるよ。とりあえず、あいつは消滅させておいた方が良いよな。

令呪をもって命じる…」

 

僕が目を瞑って令呪を発動させようとすると、キアラの唇が僕の唇を塞いだ。

そしてしばらく、心の洗われるような一時が続いた。

 

5分ほど経っただろうか。彼女は口を離した。

 

「マスター、令呪は必要ありません。

いえ、ここで彼女を成仏させるのは、愚かなことです。

彼女には、他にサーヴァントが何騎いるのか、そしてそれが誰なのか、聞く必要が有りますから」

「なるほど。大好きだ、キアラ」

 

僕はそう言って、彼女の身体に手を回した。今度は彼女も拒まなかった。

 

再び唇と唇を重ね合わせようとしたその時。

黒いパーカーの少女が降って来た。

 

「クロ…!」

 

パーカーの少女の赤い剣はキアラの角に当たり、それを通り抜けて僕の右手首より先を切り飛ばした。

 

キアラは大きく震えたが、大きなダメージは無いようだ。

と言うか、僕の腕が…!

僕の手首が焼けるように熱い。あり得ないくらい熱い。

 

「…ひとつ! …ロス・カリ…!」

 

僕はキアラの後ろに回していた手を引っ込め、ベッドから立ち上がろうとはしていた。

しかし、痛みと足の疲労から、すぐに行動する事は出来なかったのだ。

僕を庇って、キアラが背後から横一文字に斬撃を受ける。

 

血の一滴も飛び散らなかったが、彼女がダメージを負っている事は顔色から分かった。

 

僕は何とか立ち上がり、ベッドから離れて僕の右手を見る。

切断面が炭化していた。

 

恐怖とショックで後ずさり、箪笥に後ろ向きにぶつかって座り込んだ。

腰が抜けて立てなかった。

目の前では少女とキアラの戦いが行われており、キアラが優勢なようだったが、その激しさに驚いたと言うのもある。

 

僕が何も出来ず彼女達の戦闘を眺めていると、右手に激痛が走った。

僕の右手が、エレシュキガルに掴まれていた。

 

「お前は…!」

「…きに…たかしら!?」

「手を離せ! 令呪を使うぞ!」

 

彼女は手を離し、悲しそうな顔をして呟いた。

 

「しょう…どったっ…って…」

「他のサーヴァントの名前を吐け。さもなければ令呪を使う」

 

彼女は首を振り、目を抑えた。彼女は泣いていた。

 

その時キアラとパーカーの少女の戦っている方から、黒いボールが飛んで来た。

いや、ボールではない。それは箪笥にぶつかって潰れ、その半分以上が床に落ちたのだから。

粘土だろうか。

 

エレシュキガルはそれを見、ベッドの方を見、そして最後に僕を見た。

 

「…んなさ…」

 

彼女は何か言葉を発した後、右手に持つ槍の腹を僕に叩き付けた。

令呪を使う暇も無かった。

 

痛みに苦しんでもがいている僕の口が、彼女に無理やりこじ開けられる。

彼女はあの黒い粘土を、僕の口の中に放り込んだ。

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