頂きを夢見るイカ   作:オーレリア

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前話から日が空いてしまい申し訳ありません。

 リアルが忙しくなった為、投稿間隔がこれからも遅くなるかと思います。
 それでもせめて週一ペースで投稿出来るよう頑張りたいと思います。




第11話

 ゴウッ!と風を切るような音をたてながら巨大な右拳が振るわれる。それは体格の小さな彩人と比べると潰されてしまうかのような圧迫感がある程だ。

 

 

「…んぐッ!」

 

 

それを彩人は腕を交差させた状態で受け止めた。真上から振り下ろされた拳がぶつかると同時に交差させた腕がたわみ足元に向かって伝播し、ズンッと音を立てて地面がひび割れた。体全体を使って衝撃を地面へと逃がしたのだ。

 それでも、衝突した衝撃は逃がせても体にかかる圧力そのものは防げない。その上、相手との体格差と体重差は明白だった。現に力だけなら抵抗できているが、足が地面にめり込み始めている。それを拳を側面にずらし、転がることで回避した。

 

 

「攻撃は真正面から受け止めるな!手で触れることで発動する個性だったらどうする!」

 

 

 しかし、拳の主には今の彩人の一連の行動は気に入らないものだったらしい。再び先程と同じように右拳が振るわれる。

 

「フっ!」

 

 

 それを彩人は拳の主の言う通りに今度は真正面から受け止める様なことはせず左側に避け、その拳の側面に左の触腕を張り付ける。そのまま拳の動きに合わせ頭ごと体を回転させる事で、相手の拳のスピードを加えた右の触腕を相手の脇腹に叩きつけた。

 

 

「良いカウンターだ…。だが、頭の触手でそれをやるのはあまりオススメしないぞ。坊主が幾ら丈夫で骨が無いつっても相手の『個性』によっちゃあそのまま頭が捻れちまうからな」

 

 

 しかし、彩人の渾身のカウンターは相手の左掌に防がれていた。それに気付いた彩人は急いで触腕を引き戻そうとしたが、そのまま相手の左手に触腕を握られた。

 一瞬の判断が命取りの状況で自分の動きを制限されたことで、この時彩人はひどく焦っていた。どうにかしなければ、と必死に握られた腕を振りほどこうともがいている。

 

 

「ほらどうした!防がれたなら次の行動に移れ、考えることを止めるな!相手は悠長に待っちゃくれねぇぞ!」

 

 

 拳の主の言葉通り、彩人を掴んだ状態で彩人ごと左腕を振り上げ、そのまま振り下ろした。

 

 身体が遠心力により、まるで引き伸ばされてしまうかのように引っ張られ、視界いっぱいに広がり迫ってくる地面を見た彩人は今度は激突した時の痛みをイメージして恐怖で体がこわばった。

 

 叩きつけられる!と彩人が思った瞬間、変化が起こった。

 

 彩人の体が一瞬にして全身が橙色に染まり縮んだのだ。そこから彩人の触腕を掴んでいた手からまるで水のような流体を掴んでしまっていたかのようにすり抜けた。

 すり抜けたものの正体は、三角の頭に大きな一対の目、隈取のようなものが目の周りを覆い、小さな触手が八本とそれを挟むかのように大きな触手が二本ある。見た目ではまるでアメリカンチックにデフォルメされたイカのようだった。

 

 

「ぅわあっ!」

 

 

 拳の主はこの突然の変化に驚いた。彩人を地面に叩きつけるつもりなど無く、実際は激突する寸前で怪我をしないように止めるつもりだった。

 その筈であった為に、突如手からすり抜けた事で加減を間違えて潰してしまったのではないかと焦ったのだ。

 

 

「おい坊主!大丈夫か?怪我はないか!?」

 

 

 イカ形態になり、すり抜け離れた所でヒト形態に戻った彩人に拳の主…ヒーロー『デステゴロ』が話し掛けてきた。

 

 

「はい、デステゴロさん大丈夫です。…すみません、怖くなって『個性』を使ってしまいました」

 

 

 返答した彩人は頭を下げ、言葉では謝ってはいたが、その表情は歯を食い縛っており、悔しそうだった。

 今、彩人、デステゴロが行っていたのは近接格闘訓練、それも『個性』を使用しないと言う、現在の個性が飛び交う超人社会では珍しいものだった。

 ただし彩人は触腕のみ有り、デステゴロは増強型の為、ある程度の手加減をして行うものであるが。

 

 

ーー幾ら動けなくて怖かったとはいえ、『個性』無しの訓練の筈なのに使ってしまった。もっとやりようが有った筈なのに。

 

ーー上手くいったカウンターを防がれたからって驚いて考えるのを止めるなんて。

 

 

ーーもっとちゃんと相手を見て、どう行動するかを観察すれば良かった。

 

 

 彩人の悔しさの源は遥格上の相手に何度も負け続け、その度に自分の足りない所を指摘され続ける自分自身の不甲斐なさにあった。

 

 別に今更自身の欠点を指摘される事の忌避観等、生まれた時点で欠点を克服するのが当たり前だった彩人にとっては無いも同然だ。

 しかし、訓練とはいえ戦闘で負けると言うこと自体に悔しさを一切抱くことが無いかと言われると嘘になる。

 それも自分の動きは読まれ通じることもなく、あまつさえ駄目だった所を指摘され続けるのだ。

 その上、指摘されたところを何度直し、そこから先程の様に多少発展させカウンター等の裏をかこうとしても、今だ己の攻撃が通じない。

 それを何度も繰り返せば悔しさが募ってしまうのも頷ける話である。

 自分には何処までも足りない所があるのだと嫌でも実感せざるを得なかったのだ。

 

 

「お、おい坊主本当に大丈夫か?今日の所はもうこの辺にしても良いんだぞ?」

 

 

「いえ、大丈夫です。それよりも、もう一度お願いします!」

 

 

ーー自分には足りない所が多い…でも全部克服したら確実に強くなれる!

 

 

 悔しさはある。それでも頑張り続ければ自分はもっと強くなれるし、憧れているヒーロー達に近付ける。その一心で彩人は再びデステゴロに挑みかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった?彩人君の様子は」

 

 

 解析用のモニターに囲まれた解析室に来たデステゴロに、先程撮影した戦闘訓練の映像を彩人への教材にするべく編集していた戦大教授が話し掛けた。

 識深教授は彩人にマイク越しに次の訓練の指示を出している為、気づいていない。

 

 因みに現在彩人は戦闘訓練が終わったら直ぐ様『個性』の制御訓練に取り掛かっている。

 疲れきっているのか身体が少しふらついている。しかし、心身ともに疲れきっている時こそ制御が緩くなりやすく難しい。だからこそ、どんな時でも制御出来る様にするのにはもってこいな状況なのだ。

 

 

「やはり子供だからか経験が乏しく簡単なフェイントや誘導に引っ掛かり安いですね。しかし、あの年齢であそこまで動けるのは驚異の一言です。

 引っ掛かり安いとは言っても一度教えれば直ぐに覚え、あまつさえそこから動きを発展させカウンターを即興で行える。手加減をしているとはいえ、俺がそこそこの威力はある方であると自負しているパンチを受け止め、地面へ受け流せる技術と身体能力。

 そして何より、何度やられても諦めない、ひたすらに強くなろうと努力し、改善し続けようとする向上心。

 正直、あれで『個性』をろくに使っていないなんてあまり信じられないほどです」

 

 

 一体あの子供は何者なんです?と戦大教授達に話し掛けた。

 問い掛けたデステゴロの表情には驚愕と戦慄の二つが浮かび上がっていた。

 

 

ーー幼くとも既に驚異的な能力を持つあの子供が更に経験を積み重ね、力を蓄え続けたらどうなるのか

 

 

 デステゴロの脳裏には、自分達の様なヒーローに憧れている彩人への期待感と子供だからこそ、未来が不透明である事への不安感の両方が募っていた。

 

 

 

「詳しくは言えないが、あの子は自分の『個性』に振り回されても、努力してここまで辿り着いた健気な子供だよ」

 

 

 そんな考えに至っていたデステゴロの問い掛けに答えたのは戦大教授では無く、先程まで彩人に訓練の指示を出していた識深教授だった。

 

 

「あの子があそこまで努力しなければ、まだ人間らしい生活が出来なかった。それ程までに生きるのが辛い『個性』だった。

 だからこそあの子は人間らしく生きるために努力して来たんだ。今のあの子はその努力が形になってきているだけだ。

 今はその延長でヒーロー等に憧れているから努力しているがな。

 それに私達大人がきちんと導いていけば、間違いなんてそうそう起こらないよ」

 

 

 だから君の心配は杞憂だ。と識深教授は言葉を続けた。デステゴロが心配していたことを見抜いていた。それ故の発言だった。

 

 

「…そうでしたか。子供相手に疑ってしまい申し訳ありません」

 

 

 そう言ってデステゴロは二人に頭を下げた。現代社会では強力な『個性』や才能を持つ者が力に溺れてそのまま(ヴィラン)になり犯罪に走ってしまうケースが良くある。

 彩人のあまりにも子供離れした能力にこの子がもしそうなってしまったら…と思わず考えてしまっていた。

 

 

「気にしなくて良い。ヒーロー飽和社会と揶揄されては居るが、今だにヒーローが必要とされる程に犯罪に手を染める者は多い。

 君がそう考えるのは私達も理解しているつもりだ」

 

 

「その通りだ。それに礼が遅れた。今回彩人君との訓練に協力してくれて感謝する。

 今回の様な訓練をする場合、特にデステゴロ君の様な近接戦闘を得意とする者とやる方が効率が良かったから尚更だ」

 

 

 二人の教授はそうデステゴロからの謝罪を受け取り、今度は逆にデステゴロへ感謝の言葉を送った。

 今回の訓練は戦大教授がデステゴロを呼んだことで行われたものだった。

 現在の訓練所からは、デステゴロの所属する事務所とは離れた場所にあったのだが、戦大教授がどうにか来れないかと無理を言って頼んだのだ。

 

 

「いえ、俺も先生方の講義にはとても助かってたんです。だから、今回の頼みはそのお礼も兼ねて来させてもらったんです。」

 

 

 デステゴロの言葉は逆に御礼を言われたことで少々照れたように頬を指で掻いた。

 そして次の瞬間に真剣な表情になった。

 

 

(ヴィラン)を相手にするときには相手の個性だけでなく人質にされた救助対象の個性の事も考えなくてはならない。その上、戦闘では一瞬、一瞬が命取りだ。ちょっとでも判断が遅れたら取り返しのつかない事になる何て事はざらにある。

 ヒーローの中でも近接戦が主体の俺達は、尚更素早く的確な判断力が問われる。そんな中でも先生方の講義や論文は正に金言ですから」  

 

 

 デステゴロの言葉にはヒーローとして時に自分の身を呈してでも人の命を守って来たという自負と重さがあった。

 ヒーローは常に危険と隣り合わせなのだと教授二人に改めて理解させる程の迫力というものがあったのだ。

 

 

 それを聞いた二人の教授は誇らしげだった。自分達が調べ、研究した結果が人々の為になっているのだと実感できる機会等そうそう無い。こうして改めて他人から礼を言われると嬉しくなったのだ。

 

 

「そう言って貰えると研究者冥利に尽きると言うものだ」

 

 

「ああ、全くだ。そうだ、先程の訓練で他になにか気付いたことなどは無かったか?

 出来ればその意見を参考にさせて貰いたいのだが」

 

 

 そうして今度は三人での意見交換会が始まった。教授二人は自分達の知識を、デステゴロは今までの経験則から話し合った。その日以降、彩人の戦闘訓練が本格化し、様々なヒーロー達に指導され、戦術面での未来のヒーローを育てる基盤が作られていった。




読了有り難う御座います。

 デステゴロですが、『個性』が分からなかったので想像で書いております。

 原作開始までは、申し訳無いですが、時間軸や場面が飛び飛びになってしまいます。
 何時になるか自分でも分かりませんが、いずれリメイクという形でそういった所を書き直す可能性もございます。

 後、こんな稚拙な小説に高評価や感想を下さり、有り難う御座います。
 
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