頂きを夢見るイカ   作:オーレリア

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御待たせして申し訳ありません。
言い訳になりますが、リアルが忙しかった為に投稿が遅れてしまいました。

今回も一万字に達してしまいました。ある程度文字数を安定させたいものです。
それと主人公が普通入試をした点について無理矢理な設定かもしれませんのでお気を付け下さい。

後、この様な稚拙な小説に高評価、お気に入り登録をして頂き有り難う御座います。


第16話

 激動の雄英高校入学試験より一週間の時間が過ぎ去った。

 

 

 合否通知が来るまでのこの一週間の間に、彩人は試験中に見つかった課題の洗い出しと今後に向けて克服する為の訓練の日々を送っていた。

 

 試験を振り返って、色々と失敗もあったが実りの多い試験だったと彩人は実感している。特に、年齢のせいか第一線を退いているものの、後人を育成するため保健医となり今では雄英の屋台骨とも言われている自分の憧れのヒーロー、妙齢ヒロイン『リカバリーガール』に会えたことは大きな収穫だった。本当なら話し掛けたかったが、忙しそうに受験生たちを手当てして廻っていたので会話出来なかったのは少々悔やまれるが。

 

 

 筆記試験の方は、内容を何度か見直したが特に大きな間違えもケアレスミスも見当たらなく。順当に行けば最低でも上位には食い込めるはずだ、と覚えていた試験内容を共に採点していた八百万百がそう言ってくれていた。

 

 筆記に関しては彩人自身も問題ないと感じている。問題に感じていたのは実技試験の方だった。合格に必要なポイント数自体には何の不安も無い。なにせ一つの会場、それも八割を優に超えるであろうポイント数を一人で取り尽くしたからだ。流石にここまでして不合格は早々無いだろう。問題は最後の巨大仮想敵を倒す際の攻撃である。自分の事ながら派手にやり過ぎたと思っていた。

 

 

 本来ならば一撃で倒すつもりなんて無かった。倒れた際の衝撃も最低限にする為、最初の攻撃で仮想敵の動きをある程度制限し、ゆっくりと動きを止めさせる様に関節部等を攻撃、行動不能にする筈だった。

 

 それに、そうするなら赤ではなく他の色にするべきだった。その方が影響はより少なくなっていた筈だったのに。

 

 

 確かに試験でやったような一撃で仕留める攻撃は見映えが良いし、アメリカンなヒーローらしいとも言えるだろう。しかしそれでは駄目なのだ。

 

 ヒーローとは只格好良く戦い、人を助けるだけの仕事では無い。どんなに手間だったとしても被害を最小限に抑え、後の復興作業の事も考えて行動しなければならない。被害が少なければそれだけ怪我人などが少ない証拠でもあるし、その分だけ救出、復興活動に力を向ける事が出来る様になる。市街地で戦うのならそれを頭にいれておかなければならない、と識深教授達に良く言われていた。また、別の問題として市街地で敵と戦闘して、街に出した被害請求で頭を悩ますヒーロー達がいるという世知辛い事情もあった。

 

 実技試験ではそれを実行するつもりだった。しかし、実際は人生で初めての実技試験という場に舞い上がってしまっていたらしい。規模は相当抑えていたものの、それでも衝撃で尻餅を着いていた人もいた。もしかしたらそれが原因で怪我をする人が居たかもしれない。余りにも派手で、周りの事を考えない行動をしてしまったと反省する事になった。

 

 

 だからこそ、せめて入学前に少しでも改善しようと、普段以上の訓練を己に課しているのである

 

 

 

 

 

 

「電話でもお伝えいたしましたけれども、改めて合格おめでとうございます」

 

 ある日の午前中に合格通知が届き、合否が分かって直ぐ彩人は電話を通じて百に合格したことを伝えていた。その日の午後に直接伝えたかったのか、烏墨家へ百が訪ねてきた。

 

 

「ありがとう。でも態々今日直接訪ねに来ることなかったのに...」

 

「し、しょうがないじゃないですか。試験の様子はお聞きしていましたが実際に見たわけじゃありませんもの...。本当に合格したのかこの目で確かめたかったのですわ…」

 

 彩人の言葉に百は恥ずかしそうに頬を染め返答した。彩人が合格したことを喜び、はしゃいでいるとハッキリ行動で示してしまった事に今更ながら気付いたらしい。言葉の最後の方は声がしぼむかのように小さくなってしまっている。

 

 

「んんっ!...そんな事よりその合格通知、見せていただいても宜しいですか?」

 

「露骨に逸らしたね。構わないけど、特別面白い内容じゃないよ?」

 

「いいんですの。それに最近になって今年は雄英高校に『オールマイト』が担任として赴任してくるとお聞きしましたわ。電話でもオールマイトが直々にビデオレターで合格を伝えてくれたと。でしたら、何か今後のためになるお言葉も仰ってるのではないか、と思い実際に拝聴してみたいのですわ」

 

 

 尤もらしい事をいってはいるが、実際の所は自分の想い人が不動のNo.1ヒーローであるオールマイトにどんな評価をされながら合格を伝えられたのか知りたい、と言うのが大部分を占めている。

 内容自体は、百はまだ知らない。が、態々ビデオレターで送ってきたのだ。唯合格したと伝えただけでは無い筈、と推測したが故の要求だった。

 

 

「でも、あんまり見せて回るものじゃ無いと思うんだけど…」

 

「人に見せる事で、失敗した記憶をより深く心に刻み込めますわ。それに会場内の誰よりも活躍したのでしょう?反省することは良いことですが、せめてそこは誇るべきだと思います。でないと他の方々が惨めになってしまいますわ」

 

「....確かに、言われてみればそうだよね」

 

 そうとは知らない彩人は、実技試験で失敗したと思っていたのでその結果を見せるのを戸惑ったが、積極的な百に押され、渋々とではあるが自室で見せる事になった。

 

 

 

 

 

 観賞会は彩人の一般人の視点では広大とも言える自室にて、二人で隣り合うように椅子に座り、女中の一人が用意してくれていた二人分のお茶やお茶菓子等がテーブルに並んでいる。

 

 女中が静かに部屋を出て扉を閉める直前悟らせないように、しかし慈愛と好奇心に満ち溢れた視線で彩人と百を見ていたのだが、興味が別の事に向いていた為に二人が気付くことはなかった。

 

 

『私が投影された!!!』

 

 映像はテーブルに置かれた手のひらサイズの小さな映像投射機から壁に向かって投影された。

 

 映像が映し出されるなり一人の男が、力の篭った大声で自らの存在をアピールしていた。筋骨隆々で、兎を彷彿とさせる特徴的な髪型をしている。更に影が出来るほど堀の深い男の顔が、投影された画面を大きく占領していた。服装はストライプのスーツと横縞模様のネクタイという着る者を選ぶ服装であるが、彼は違和感を感じさせることなく見事に着こなしている。迫力があるが威圧感を感じさせないどこか愛嬌すら漂わせたその人物こそ、先程八百万百が話題に出したトップヒーロー『オールマイト』その人である。

 

 

「本当にオールマイトが直々に雄英高校にいらしてるのですね...」

 

 映像を見た百は感嘆したように言葉を溢す。彩人には、その声色の中に嬉しそうな感情が混じっているような気がした。

 

 

「そう言えば、推薦の時は合格通知でオールマイトは出て来てなかったんだっけ?」

 

「ええ、私の時は校長先生御自らが直接合格を伝えて下さりましたわ。見劣りする、と言うわけではありませんが、そういった面では少々彩人さんが羨ましいですわね」

 

 

 二人が話している間にも何処かのバラエティ番組にある様なステージの中心で、オールマイトの口上は続いていく。

 

 

『前置きはさておき、肝心の試験結果だが....』

 

 トップヒーローであるが為にメディアにも多く出演しているためか、それとも元々エンターテイナーの気質があるからか、オールマイトの緊張感を煽るかの様な迫真の演技に、結果を知っている筈の百は思わず食い入るように映像を見た。

 

 

『合格だ!それも筆記は殆どが満点、実技に至っては何と歴代合格者の最高得点を倍以上突き放した595点と圧倒的!正に文句のつけ様の無い一位、それも2位に遥か大差をつけて首席での合格だ。おめでとう!!』

 

「彩人さん、彩人さん!合格ですって!おめでとうございま......あ」

 

 オールマイトのその言葉に喜びも露に片手を口元に添え、もう片方の手で彩人の方を揺らしながら彩人に合格していた事を伝え様とした百。しかし、言葉を言い切る直前になって、自分が何故この場に居るかを思い出したらしい。

 

「申し訳ありません。私、既に知っていた筈ですのにはしたない事を...」

 

「気にしないで。僕も改めて合格したんだなって実感できたし、百さんがそれほど喜んでくれると僕自身嬉しいから」

 

 だから気にしないで、と彩人は言葉を続ける。それを聞いた百は自分の失言に顔を赤くしていたが、彩人がさらりと発した言葉により、今度は別の意味で頬を赤くしていた。尚この発言は相手の事を考えたが故のものである為に他意は無い。

 

 

 

 このやり取りをしている間にオールマイトの演説は終わってしまい。それに気付いた二人は慌てて聞き逃していた所まで巻き戻した。

 

 

『君の得た敵ポイントは542点!これだけでも十分最高得点を得ている、が 実は今回の実技試験では受験者には伝えられていなかったもう一つ採点基準があった!実技試験の君の動きを見るにどうやら気付いていたようだが改めて説明させてもらうよ!』

 

『それは人を助ける事で得られる救助活動ポイント!それも採点基準は複数人の審査員による審査制!我々雄英が見ていたヒーローとなるのに必要不可欠な基礎能力!そのポイント53点が君に与えられた!』

 

『誰よりも早く駆けつけ、敵を倒し、他人に手を差しのべられる君こそ、我々雄英が求めている人物!改めて合格おめでとう!君が入学してくるのを楽しみに待っているよ!!』

 

 

 ここでメッセージは終わり、数秒の時間を空けてから投射機の再生も終了した。終わった後も余韻が残っているのか二人は暫し投射機を眺め、普段より深めに息を一つ吐いた。

 

 

「...テレビで見る機会は何度もありましたが、やはりビデオレターという形であっても自分に向けて語りかけられますと気迫、という物でしょうか。それが他の方々とはまるで違いますわね」

 

「友人達がオールマイトさんの事を画風が違うってよく例えていたけど、調べてみたら確かにアメリカンコミックに登場するキャラクターみたいっていうのがしっくり来るんだよね。それ程迫力が違ったよ」

 

 僕もいつかあんな風になりたいな、と彩人が呟いた言葉に百が反応した。その顔には悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。

 

「彩人さんが威厳を身に付けたいのでしたら、まず見た目から変えなければなりませんわね」

 

「え...?」

 

 今のままでも親しみやすさは十分ですが、と続けた百に彩人は大きく反応した。同時にこのまま話題が続いたら不味いと判断し、話題を変えようと試みた。

 

「いや、そういう意味じゃなくて、んー...そう!経験の差だよ!幾度も修羅場を潜り抜けてきたからああいう気迫が備わったんだよ。だから僕もこれからもっと頑張ってそう言うのを身に付けたいなって思ったんだよ」

 

「...確かに一理ありますわね」

 

「そうでしょ?」

 

 百が納得した様にうなずいた事で、安心して胸を撫で下ろす。その油断する瞬間を見計らっていた百は不意打ちを打つかのように言葉を続けた。

 

「でしたら、尚更見た目も拘らなければなりませんね」

 

「...ん?」

 

 急に意見を変えた百に、何で?とでも言いたそうな表情になった彩人に更に続けた。

 

「経験を積むのは大事なことですが、威厳や気迫を相手に伝えるにはそれ相応の見た目も必要ですわ」

 

「でも...」

 

「ギャップと言うものもありますがそれは初見だけです。しかも、それは時間が経てば自然と薄れるもの。継続的に威厳を保つには見た目の要素が必要不可欠ですわ」

 

 反論しようとした彩人は、しかし畳み掛けるように百が言葉を重ねた事で反論する機会を潰されてしまった。少し機が動転してしまったこともあり、頭に良い案も思い浮かばず、逃げ道が無くなった。 

 

 このまま、また以前された様な恥ずかしい髪型ならぬ触手型に変えられてしまうのか。と思ったところで、突如百がフフッと笑みを溢した。

 

 

「冗談です」

 

「…え?」

 

 思わずぽかんとした表情になった彩人の顔を見て、また百は笑った。

 

 

「ですから冗談と言ったんです」

 

「そ、そうなの…?」

 

「ええ、今のままでも彩人さんは十分魅力がありますわ」

 

 百の告白とも取れる内容に。そ、そうかな…、と手を頭の後ろに回し指で触手を弄り、視線を明後日の方向にさ迷わせた彩人は顔を赤くさせた。

 

 

「それに…、少しは気が紛れましたか?」

 

「…?どういう事?」

 

 百の質問に、何この事を聞かれたのか少し考えたが、突然話題が連続で転換し思考が混乱していた事もあり、思いつかなかった彩人は首を傾げつつ直ぐに聞き返した。

 

 

「試験を終えてからの彩人さんは、訓練中だけでなくプライベートでも常に何かを警戒するかの様に気を張っていましたわ」

 

「……」

 

 そう言った百の表情は真剣そのものだった。自分ではそういった自覚は無いつもりであったが、長年一緒に居た、この真面目な幼馴染みに言われたのだ。疑いの感情等持てる筈が無かった。

 

 

 一度ゆっくり、深く、深呼吸し改めて試験の時の事を脳裏に思い浮かべ、反芻する。その様子を百は静かに見守っていた。

 

 

 深く考えてみると今回の事は焦りからか、直そうとはしても何故そうなったのかを自己分析していなかった事に気がついた。そして、考えていく内に思考が一つの答えに行き着く。

 

 それは、自分の経験の薄さから来るものだった。それも肉体的な経験でなく精神的なものだと感じた。本当は違うのかもしれないが自分の中ではそれが一番しっくり来た。

 

 

「そっか…、自己分析はある程度出来るつもりだったけど、自分じゃ気付かないものなんだね。...考えてみれば、僕にとって初めて体験したやり直しの効かない実践だったんだ。それで失敗したから、また同じ事を起こしたくなくて焦ってたのかもしれない」

 

「きっとそうですわ。直すべき所は必ず直そうとするのは彩人さんの美徳ではありますが、今回はそれが裏目になってしまったようですね」

 

 ならばどうするべきか、と彩人の意識がまた思考に沈み込もうとした所で、百がパンっ!と手を叩き、気を引いた。

 

 

「こういう状況だからこそ、一度忘れて気持ちを切り替える事が今の彩人さんには必要ですわ!」

 

「...忘れる?」

 

「はい。今のまま考えても泥沼に嵌まってしまうだけですわ。ですから別の事をして新しい気持ちで望めば、良い方法も思い浮かびますわ」

 

「成る程...、知ってはいたけれどそういう方法は考えた事も無かったよ。じゃあ、何をしようか?」

 

 提示されたその提案に彩人は直ぐに乗ることにした。今まで努力さえすれば大概の事は出来る様になっていたが、試験以降いくら訓練を重ねても何処か手詰まりのような感覚があった。改めて考えてみても百の言葉は尤もだと感じたし、何よりこんな自分を心配してここまで言ってくれている。断る理由等何処にもなかった。

 

 

 その後はお茶を飲みつつとりとめの無い会話を楽しみ、烏墨家のペットである犬のコタロウと戯れたりと両親が帰る夕方近くまで、二人はのんびりとした時間を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 日が傾き始め百が帰って暫くして、両親である雨美と甚兵衛が付き人を伴って帰ってきた。

 

 午前中に彩人の雄英合格を聞いていた二人は、彩人に会うなり足早に駆け寄った。

 

 

「合格おめでとう!!」

 

「おかえうぐぅっ…!?」

 

 最初に父親の甚兵衛が、正面から強く抱き締める。彩人の倍近い身長と太い腕で巨体に見合う強い力は、容易くその小さな体躯を持ち上げ、その細い腰を鯖折りの如く折り曲げる。

 

 

「あなたは私達自慢の息子よ!」

 

「んn....!」

 

 次に、追い付いた母の雨美は後ろから頭をかき抱いた。頭は正面を向いていた為に、今度は首が90度近くの角度まで背中側に折り曲がる。本来であれば即死しても可笑しくないだろう。

 

 手足が空中にぶらんと垂れ下がっている様子も加わり、端から見れば大勢の使用人達の目の前で両親による息子の殺人現場が作られている様であるが、使用人達に特に焦っている様子は見られない。寧ろ微笑ましいものを見るような目で三人の行動を見守っていた。

 

 事実、彼ら使用人達にとってこの光景は然程珍しい光景では無い。彩人の身体があまり丈夫ではなかった頃は激しいスキンシップ等は出来なかったが、個性制御訓練が本格化するにつれて身体能力だけでなく身体の耐久性も上がっていき、今では常人以上に丈夫な身体を内外共に手に入れている。運動能力は高かったとはいえ、今までは柔らかな身体を持つ息子に二人の両親は壊れ物を扱うように細心の注意を払いながら接してきた。触れる度に、この身体では将来がどんな事になるのかと不安で一杯だった。その心配が無くなった時の両親の心境は筆舌に尽くしがたいものだろう。

 

 現在は昔以上に何かとアグレッシブにスキンシップを取るようになっている。今行われている強烈な抱擁もその一つだ。

 

 

「お楽しみの所申し訳ありません。旦那様方、そろそろお止めになった方が宜しいかと」

 

 抱きつかれている為に彩人の表情は見えないが、苦しそうな様子は見られない。しかし、二人が何時まで経っても動こうとする気配が無かった為痺れを切らしたのか、側にいた燕尾服姿を着た白髪の髪を纏めている執事然とした使用人の一人がやんわりと声を掛けた。

 

 父の甚兵衛は話し掛けられた事で気付き、持ち上げていた彩人の身体を降ろした。

 

 

「もう!抱きつくのは良いけど僕以外には危ないからやらないでよ?」

 

「ああ、すまない。嬉しさのあまりつい強く抱きついてしまった様だ。…改めて言おう本当によくやった。お前は我が家の自慢の息子だ」

 

「ええ、それに話で聞いたわ。なんでも過去最高点で尚且つ主席で合格だって。中々出来る事じゃないわ」

 

 今日はお祝いしなくちゃね、と母の雨美は呟いた。よほど嬉しいのだろう。二人の表情は笑顔のままだった。特に雨美は目に涙を浮かべてさえいる。

 

 

 その後は彩人の合格を祝いながら食事をした。食事では彩人の好物である烏賊を使った料理が多く並べられていた。普段から食事も訓練の一環であると識深教授達に言われ、10年近く徹底した栄養管理を続けていた彩人にとってこれが何より嬉しいサプライズだった。今は慣れたとは言え、好物の烏賊が滅多に食べられ無かった為に幼い頃訓練後で空腹だった時自分の触腕を食べ物の烏賊と勘違いしてかぶり付いた事があるくらいである。

 因みにその時は痛みで大泣きしてしまい、周りを困惑させてしまった。その記憶は今は彩人の忘れたい黒歴史の一つとなっている。

 

 

「そう言えば、もう識深教授達には合格した事を伝えたのか?」

 

 もしそうでないなら私達も一緒に御礼をしに行きたいのだが、と食事を終え食後のお茶を飲みながら家族で団欒していた時に甚兵衛は彩人にそう言葉を投げ掛けた。

 

 

「一応、電話で連絡したんだけど今研究で忙しくて暫く時間が取れないって言われたよ。月末には時間が取れるそうだから何か用事があるなら月末辺りで頼む、だそうだよ」

 

「そうか…。先生方には長い間お世話になったからな。出来れば早く御礼がしたかったんだが無理はさせられないな…」

 

「そうね、先生達には幾ら感謝してもし足りない位だもの…。御礼を考える時間が出来たと思いましょう」

 

 三人とも、特に両親である甚兵衛と雨美は残念そうな表情を浮かべた。日常生活を送ることすら難しいと言われたことすらあった彩人を日本最高峰の雄英高校に、それも首席で合格出来るまでに育て上げてくれたのだ。親としてはこれ程嬉しいことは無い。

 

 その後は雨美が言った通りに家族でどう識深教授達にお礼をするべきかの話題で盛り上がった。この話し合っている時間は彩人にとってはこれからの事を話し合うという認識であり事実その通りなのだが、甚兵衛と雨美にとっては息子の将来が明るい事を実感出来る、何よりも安心感に満たされた時間となった。

 

 

 

 

 

 

「実技総合成績出ました」

 

 約一週間程前、雄英高校入試試験から翌日までに遡る。

 とある会議室内では雄英高校教師陣のほぼ全員が集まり席に着いていた。上映中の映画の如く暗い室内に映し出される複数のモニター。それらの映像には今年受けた受験生達の実技試験での結果だけでなく、各会場内で行われた試験中の様子まで写し出されていた。

 

 成績表の中でも教師陣が真っ先に視線を向けたのは、上位合格者の中でも異彩を放つ3名の試験結果だった。

 

 

「まさか救助ポイント0で2位を取る受験生が出るとはなぁ」

 

「一部の仮想敵は標的を発見次第襲いかかる様プログラムされているとはいえ、試験後半になってもあれだけ派手な『個性』で鈍ること無く引き付け撃退し続けられるというのは学生にしては驚異的なタフネスだ」

 

 教師の一人が派手と評した『個性』の持ち主...爆豪勝己が会場内で戦っている様子がモニターに流される。その受験生は掌から爆発を生じさせ、仮想敵を次々に撃破していた。

 

 

「反対に敵ポイント0で8位の緑谷出久、最初は現れる仮想敵に怯え逃げる、状況を上手く判断出来ずに慌てふためく、正直最後の身を賭して受験生を仮想敵から助けなければとてもじゃないが合格は絶望的だった」

 

「ああ、だがそんな状態でも咄嗟に助けるという行動が真っ先に出た。『個性』が制御出来ていないとはいえヒーローの本質とも言える意思が彼にはある可能性がある。だからポイントが与えられた」

 

「それにアレに立ち向かった生徒は過去何人か居たけど、ぶっ飛ばして尚且つ倒す生徒は久しく見てなかったね。それが今年は二人も出るだなんて驚きだよ」

 

 興奮して思わずYEAHH!!って叫んじゃったぜ、と審査員の一人でもあったプレゼント・マイクが言葉を溢す。しばらく二人の合格者の話題で盛り上がっていたがそこは全国でも最高峰の教師達、長々と引き伸ばす様な事はせず直ぐにもう一人の合格者に焦点が当てられた。寧ろ教師達にとってこれが一番の問題なのだろう、呻くような声と共に皆の表情が難しい若しくは悩ましいものになっている。

 

「そして過去最高記録を遥かにぶっちぎって1位になった烏墨彩人...か」

 

「スタートが遅れたのは受験生達の自業自得とはいえ、流石にアレには同情するぜ...」

 

 モニターに今度は彩人の映像が映し出される。移動速度が速すぎる為にカメラの視点が目まぐるしく変化して非常に見辛いが、辛うじて仮想敵を撃破している様子が教師達には見てとれた。

 

「スタートと同時に会場上空へ移動し観察、その後その驚異的な加速力で他の受験生達が辿り着く前に仮想敵を強襲、全滅、離脱を繰り返す事で殆どのポイントを独占...か。考えるだけなら簡単だが実際に行うには高速で移動、制圧できるだけの「個性」と、それを可能にする為の相当な訓練と制御技術が必要だ。噂では聞いていたがそれだけのものをあの年で既に身に付けていると言うことか」

 

「最後なんてアレを一撃で倒す威力。周囲に殆ど影響を及ぼさない制御技術共に学生とは思えない程に見事なものだった」

 

「前半の時点で7割近くの仮想敵が最初に会場全域を強襲することで撃破されています。結果、あの会場では彼以外に合格者は出ませんでした。その後仮想敵を倒しつつ他の受験生をサポートや救助、それも単に仮想敵を吹き飛ばすのではなく黄色い液体で行動不能にしている事から、明らかに他人を巻き込まない様に意識しています」

 

「後半では敵ポイント以上に積極的に救助の為に動いている事から察するに、救助ポイントの存在に気付いていた節がある。試験の内容を考察出来る洞察力もあるようだ」

 

「校長、本当に彼を推薦させなくて宜しかったのですか?これ程の能力の持ち主を通常の入試試験に参加させるのは不味かったのでは...」

 

 何名かの教師達の意見としては、既に戦闘力だけで見れば並みのプロヒーローを凌駕していそうな彩人を普通の学生達に交じらせてしまうのは問題ではないか、と言うものだ。

 彼らの中には、己のヒーローとしての伝で烏墨彩人という学生の話を、実際に問題の人物に指導したことがあるプロヒーローから聞いたことがある者達が何人か居た。それ故の発言だった。

 

 

「校長も聞いたことがあるはずです。凡そ10年前に出来た愛知県●●市の巨大訓練場の話を。

 調べた所、彼は幼少の頃から高名な識深教授、戦大教授の指導を受け。更に詳しい内容は不明ですが幾人かのプロヒーローからも指導を受けております。最近では彼らプロヒーローが自ら彼と模擬戦するために直接指名することもあるとか。その中にはウイングヒーロー『ホークス』等の実力者もおります。既に学生らしからぬ力と知識を持っていたことは想像に難くなかった筈です」

 

 一人の教師の少々責める様な意味が含まれていた言葉に、熊の様にもネズミにも見える人物...この雄英高校校長を勤めている根津校長がまあまあと宥めるように返答した。

 

「まあ確かに疑問に思うのも当然さ。我々としても本来であれば彼が推薦されるものだと思っていたからね。まさか彼以外が推薦されるとは予想外だった。しかし、だからと言って特例で推薦するなんて出来ない。ここは国が管理する国立雄英高校だからね。」

 

 君も理由が分からない訳じゃ無いだろう?。と根津校長が先程発言した教師に問いかけると、ええ...、と罰が悪そうに返事を返す。

 

「彼は確かに実力は有るのだろう。この映像を見る限りでは真正面からの戦闘では下手なプロヒーローよりも上回っているかもしれない」

 

 だが、と根津校長は一度言葉を区切る。

 

「結果として彼は周りの学生達よりも実力があっただけさ。誰かに推薦された訳でも、周りに分かる範囲で何かを成し遂げた訳でもない、現時点では唯の学生さ。結果を残していなければ例え事実であろうと所詮噂話の域を出ない。そんな彼に我々が噂に踊らされて推薦なんてしてしまったら国家機関としての信用を失ってしまう。それはあまりにもナンセンスだ」

 

「...おっしゃる通りです」

 

 根津校長の言葉に苦言を呈した教師は机の上で失言をしたと思い、項垂れる。だが、しかし...、と根津校長が続けた事により顔を上げた。

 

「君が問題視したのは決して間違ってはいない。今回起こったことは、一つの学校から一人までしか推薦されないシステムを構築していた我々の怠慢が招いたことさ。今後、そう言うところを見直す必要があるね。さ、審査の続きをしよう続けよう。何時までも一人の生徒にかまけてたら会議が終わらないからね」

 

「...有り難う御座います。では次の合格者ですが...」

 

 

 その後会議は予定よりも少々遅れたものの、問題なく進んでいった。




読了有り難う御座います。


 主人公の点数は原作で一会場に付きバス1台のみだったので、人数を約20~30名とし、彼等が得られる敵ポイントを平均約20点位と仮定して、その合計の約8割以上の点数を主人公の点数といたしました。

設定上、中々Splatoon要素が出せなくて歯痒いです。

それと、先日のフェスは久し振りの「きのことたけのこ」がテーマだったので楽しかったです。たけのこで参戦してやられまくりましたが。

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