頂きを夢見るイカ   作:オーレリア

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大変お待たせ致しました。何度も宣言した投稿間隔より遅れてしまい申し訳ありません。

漸く主人公を入学させる事ができました。此処まで長かったです...。

拙作のクラスメイトなのですが、遺憾ながら私の好みで砂藤力道くんをA組から脱落させて頂く形になります。別に砂藤力道くんの事が嫌いと言う訳ではなく、寧ろ好きなのですが私の力量では全員を登場させる理由付けは難しかったです。

こんな稚拙な小説では御座いますが、高評価、お気に入り登録等誠に有り難う御座います。


中途半端な形で投稿してしまい申し訳ありませんでした。修正致しました。


第17話

 雄英高校の合格通知が届いた日から暫くの時間が過ぎた。

 

 卒業の直前には八百万百と烏墨彩人が高校最難関の雄英高校に合格した事を二人の母校である堀須磨中学校の教師達、特に校長は飛び上がらんばかりに喜んだ。そして二人が合格したと言う噂はあっという間に学校中に知れ渡り、卒業するまでは教室内で他のクラスだけでなく、何れ自分達も入試試験に挑むつもりなのか1、2年生の他学年の生徒達にまで囲まれ入学試験はどういう内容だったのか等の質問攻めに合う事になった。

 

 

 現在は既に堀須磨中学校を卒業し、後は雄英高校の登校日を待つばかりとなっている。

 

 そんなある日烏墨家親子は何度か来たことがある彩人の案内の下、とある大学の一室に訪れていた。

 

「本日は態々来ていただいて申し訳ない」

 

「いえいえ、先生が最近までお忙しいとの話は息子から聞いておりましたので」

 

「ええ、それに私達が直接お礼を伝えたかったものですから、我が儘を聞いて頂いた識深先生が気になさる必要は御座いません」

 

 三人は識深教授に促されるまま、備え付けられていたソファーに座る。そこは入って正面に窓があり、机とパソコンが置かれていて机の上にはファイルや資料が高く積み上げられていた。左右の壁を囲む様に設置された多くの棚には、これまた多くの様々な本や資料がところ狭しと並んでいる。

 

 甚兵衛達は十年もの間彩人の個性の制御訓練を指導していた識深教授に礼を言うために識深教授が在室している研究室に足を運んでいた。本当なら合格が知らされた後、直ぐにでも礼を言いに行きたかったのだが識深教授が研究が忙しいと言う理由で今の今まで引き延ばしになっていた。識深教授に謝られたが、寧ろこちらの方が謝りたい気持ちで一杯だった。

 

「先生方が居なければ息子はどうなっていたことか今でも考えるだけで恐ろしいです。先生には感謝してもしきれません」

 

「その上、息子は健やかに育つ処か雄英高校に首席で合格出来る迄に立派に成長しました。これも先生方が心を砕いて下さったお陰です」

 

「この10年間肉体面だけでなく様々な知識に至るまで僕を指導して下さって有り難うございます」

 

 そう言った後、彩人の父甚平と母の雨美は揃って頭を下げた。当然の事だが当事者である彩人も一緒に頭を下げている。

 

「頭を上げて下さい。感謝は受けとりますしそこ迄言ってくれるのは嬉しいのですが、私としても自身の研究の発展の為という下心が有ったのです。それに、ここまでの結果を出せる様になったのは彩人君の努力のお陰です。普通の子供は訓練処か食事制限に数日すら我慢する事は出来なかったでしょう。しかし、彼は応えてくれた。これは彩人君の素直さとご両親の教育の賜物と言っても良い」

 

 それに、と識深教授は一息ついて言葉を続けた。

 

「私としても今回の長期間に及ぶ個人への指導は自分の研究を見つめ直す事が出来、尚且つ新しい発見もあった実に得難い経験となりました。長らく『個性』を研究していましたが、この年になってこのような試みが出来るとは、当初はあなた方と出会うまでは夢にも思わなかったでしょう。感謝したいのは寧ろこちらの方です」

 

 この10年の間付き合ってくれてありがとう、そう識深教授は礼を述べた。感謝を伝えるために来た筈なのに当の本人の口から出た想像もしていなかった言葉に親子三人は驚き、次に先程以上に頭を下げ礼を述べた。顔を上げたときの彼らの表情は感動でうち震えている様に見え、母の雨美に至っては涙を流している。それはそうだろう、何せ十年にも渡り一個人に『個性』の制御訓練と体を作る為の指導に付き合い、様々な伝を使ってまで生活環境の改善や果ては訓練場を建設するに当たってのアドバイス、その費用の負担を軽減する方法の助言までしてもらっていたのだ。幾ら感謝を重ねても足りず、特に本人の彩人に至っては一生を掛けても返せるかも怪しい程の大恩があるし、実際にそう思っていた。

 

 

 その後、彼らは今までの出来事や最近のプライベートの話題で会話に花を咲かせた。会話している四人の中で、雨美と甚兵衛の二人は心配事が無くなり肩の荷が降りたのか、何時もより積極的に、しかしほんの少しだけ何処かのんびりと気が抜けた様な口調で話していた。

 

 会話は途切れること無く続き暫く時間が経った頃、名残惜しいがそろそろ帰るべきだと思い至った甚兵衛が話を締め括ろうと口を開いた。

 

「それで今後の事なのですが...」

 

「...ああ、そうでしたな。私もその事を話す積もりでしたがうっかり忘れておりました」

 

 もう年ですかな...、と識深教授が呟いた後、咳払いを一つして言葉を続けた。

 

「トップヒーローへの登竜門である雄英高校に入学したからには、私が指導する機会は大分減ることでしょう。劣っている積もりは毛頭ありませんが、あちらにもその道のプロフェッショナル達がいますからね。私とは別の視点で学べることは多いでしょう。...そこで個人的な頼みとして彩人君、にはあちらで学んで来て感じたことや思ったことをたまにで構わないから教えてほしいんだ」

 

「学んだ内容ではなく、感想を...ですか?」

 

 教授という立場から最高峰のヒーロー科はどういう指導をしているかが気になるのではないか、と思っていた為にこの申し出に彩人は疑問を抱いた。

 

「君にはこの10年間で私の知る知識や理論を教え込んできた。もう私が教えられることはあまり多くない。そんな君だからこそ、私の教え子と言う視点から彼ら若しくは私の教え方が君からしたらどのように写ったのかが知りたい。...君がずっと向上心を抱き続けて努力していたのを見て私も今のままじゃいけないと思うようになってね。指導者としてもっと効率の良い指導の仕方を模索できないかと思ったんだ。頼めるかな?」

 

「勿論です!」

 

 識深教授の言葉に彩人は少しでも恩を返せるチャンスであると思い、身を乗り出し少々食いぎみに了承した。

 

 

 その後、彩人達親子は戦大教授含む今まで指導に参加した方々に感謝を伝えに回った。恩師達の中には合格を祝って自分の作ったばかりの論文や文具等をプレゼントしてくれる人も居た。お世話になった恩師達は多く、最後に全員に伝え回り終えたのは雄英高校の初の登校日直前だった。その間は慌ただしかったがそれだけ多くの人に助けられ、支えられて生きてきたのだと実感でき、それに報いるために必ず立派なヒーローになって見せると彩人は心の中で改めて誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 忙しかった日々もあっという間に過ぎ、遂に夢への第一歩となる雄英高校の登校日がやって来た。まだ肌寒い空気が漂っているものの既に草木は緑に生い茂り、春の様相を見せつつあった。

 

 そんな中彩人は雄英高校の制服に身を包み、烏墨家の玄関口にてこれから登校しようとしていた。側には見送りの使用人だけでなく、息子の人生の門出を見送ろうと両親の雨美と甚兵衛の二人の姿もあった。

 

「大丈夫?忘れ物はない?ネクタイが少し曲がってるんじゃないかしら。それにハンカチや文具も...」

 

「雨美...心配し過ぎだぞ。もう少し堂々と見送ろうじゃないか」

 

「それは...そうなんだけれど」

 

 超人社会と呼ばれる現代では、一般的な感性を持つ多くの人々は雄英高校に通う事に憧れを持っている。それは貧富の差など関係は無く、通うことが出来ること自体がその人物の大きなステータスとなる程である。倍率も考えると我々の感性では東大を合格した以上の価値が有るだろう。

 

 当然、本人だけでなく自分の子供を合格させられた両親である甚兵衛と雨美も、子供を持つ大人達の羨望の的になる。どんな教育をしているのかと、子供の教育に熱心な傾向の多い母親達に質問攻めにあっていた。雨美は今更ながら心配になったのだ。今までは健やかに育つようにという意識が強かったのだが、落ち着いて考えると自分の息子は学生の中でも最も激しい生存競争の中に飛び込むのだ。勿論誇らしい事では有るが無事にやっていけるのか不安になってしまうのも無理もない話だった。

 

「大丈夫だよ」

 

 不安そうにしていた雨美にそう返したのは彩人だった。

 

「今まで頑張ってきたんだ。もしかしたら...いや、きっと躓くことも有るかもしれないけどそんな時はもっと頑張ればいいだけのことだよ。僕は努力することが一番得意だから。だから大丈夫」

 

「...そうね。分かったわ」

 

「ああ、...そろそろ行くといい。早く行きたくてうずうずしてるのが分かるぞ」

 

 バレちゃった?、と少しおどける様に答えた彩人は直ぐに”行ってきます”、と二人と使用人達に声を掛け烏墨家を後にした。

 

 

「行ったか...」

 

「...」

 

「...雨美?どうした?」

 

「今まで彩人の体の成長が喜ばしいと思っていて事実その通りなのだけど、...今の彩人の言葉で精神的にもいつの間にか成長したんだなぁって思って少し感動しちゃった」

 

「...そうだな「男子三日会わざれば刮目して見よ」と言うが、言葉通り子供とはいつの間にか成長しているものなんだな」

 

 二人は暫く彩人が出ていった方を見つめ、子供が成長していた実感の余韻に浸っていた。

 

 

 

 

 

ーー試験の時はそれほど見て回る時間的余裕は無かったけど、じっくりと見てみるとやっぱり広いな。それにこんなに広大なのにゴミ一つ無い。隅々まで管理が行き届いてる。

 

 現在、雄英高校に到着した彩人は自分のクラスであるA組に向かうがてら校内を散策していた。元々そのつもりで早く登校していた為、時間にはまだまだ余裕があった。

 

 そうして校内を見て改めて思うのは、流石国内最高峰の高校と謳われるだけあって凄まじいスケールの大きな学校だと言うことだ。

 

 本校舎の壁全面を覆う一枚一枚が大きな強化ガラスには汚れ一つ見当たらず、広大な敷地に植えられている芝生や植木は綺麗に切り揃えられている。校舎内を見てみても異形型の『個性』持ちの生徒でも広々と歩くことが出来る様、横幅が非常に広く、扉も全長6メートルはあろうかという大きさだ。しかし、教室の広さ自体は普通なのか一部屋毎の間隔はそれほど大きくはなかった。その分部屋数が非常に多く、校門から一年A組の教室への道のりは遠くなってしまっている。そんな校舎内は掃除が行き届いており、廊下も反射する程にピカピカに磨かれていた。

 

 これ等を維持するだけでも大変だろうにその他様々な施設もあると言うのだからもはや笑うしかないだろう。

 

 

 

 全てを周り終えたわけではないが、そろそろA組の教室内にも生徒が来てるかもしれないと一度散策を終え、教室に向かい一年A組教室前に入学試験で印象に残った見覚えのある男子生徒の姿が見えた。

 

 折角なので彼が教室内に入る前に挨拶しておこうと彩人は声を掛けた。

 

「おはよう、僕は烏墨彩人。君もA組なんだよね?これから宜しく」

 

「!、おはよう。ぼ...俺は聡明中学校出身、飯田天哉だ。宜しく頼む。...?、すまないが烏墨君と俺は会ったことがあっただろうか?俺は君を知らないが君は俺の事を知っている口ぶりだったんだが...」

 

 君の見た目で忘れるなんてことは無い筈なんだが...、と答えたのは制服を一切の着崩れが無い様に綺麗に着こなしている眼鏡を掛けた飯田天哉という男子生徒だった。彼のことはあの大勢の受験生達の前で、試験官のプレゼント・マイクにハッキリと疑問点を率先して質問していたのが印象に強く残っていたのでよく覚えていた。

 

「え?...あ、ゴメン。僕は入試試験の時、君が試験官に積極的に質問していたから覚えていただけで、飯田君とはまだ話したことは無かったよ」

 

「いや、謝らなくていい。それにしても俺と同じぐらいに早く学校に来ている同級生がいるとは思わなかった」

 

 誰よりも早く学校に来るつもりで来ていたのだが...、と飯田は少し残念そうな顔で呟いた。この呟きを聞いて改めて彼、飯田天哉は見た目だけで無く、内面も真面目な性格であると彩人は判断した。

 

「僕は先に学校内がどうなっているか実際に目で見たかったから早く来ていただけだよ。まだ全部は見て回れなかったけどね」

 

 その言葉に飯田は目を見開いた。彼はジェスチャーの様に話していることを体全体でも表現している為、その驚き方はまるで盲点だったとハッキリ分かる程だった。

 

「そうか!この最高峰の雄英高校で過ごす学生ならば内部構造も早期に把握しなければならないのか!確かに構造図を見ただけではこの広い校舎と敷地全てを把握するなんて不可能だ。迅速な行動をするならば己の目で見て確認しなければ!ありがとう烏墨君、俺も早速見て回ってくる!」

 

 そんなつもりは無く、ただ見て回りたかっただけのだが好意的な解釈を凄まじい勢いで捲し立て、こうしてはいられないとばかりにはや歩きでどこかに行こうとしていた飯田に彩人は待ったを掛けた。

 

「待って!確かに時間には余裕があるかもしれないけど、ここ本当に広いから今から行っても少ししか見れないから今日の放課後か若しくは明日にした方が良いよ」

 

 それに誰よりも早く教室に来たかったんでしょ?、と飯田に声を掛けると今度はピタリと動きを止め、こちらに戻って来た。

 

「そうだった!...だが君の方が早く来ていたそうじゃないか。だったら君が先に入るべきだろう」

 

ーー自分の方が先に入りたいだろうに、ただ真面目なだけじゃなくて徹底的に公正さも求めるのか。これは俗に言うバカ真面目という奴なのだろうか?

 

 思わずそんなことを思ってしまう位には飯田の真面目っぷりに感嘆してしまった。

 

「別に気にしないから良いよ。僕は本当に見て回りたかっただけだったから」

 

「...本当にいいのか?遠慮無く入るぞ?」

 

「いいからほら、早くしないと他の生徒達も来ちゃうよ」

 

「あ、ああ有り難う」

 

 飯田は未だに良いのか?と目で訴えているが彩人に押され、教室の巨大なドアに手を掛けた。

 

 

 

 

 飯田を先頭として入った教室にはまだ始業の時間には余裕があったお陰か生徒達の姿はまだ無かった。

 

 教室内は外の様子とは違い、割りと一般的な教室だった。それぞれの机の上にクラスメイトになる生徒達のネームプレートが乗っている以外は特に変わったところは無い。自分の席を探すと廊下側の一番後ろ、5番と書いてある場所にあった。すぐそばで飯田も自分の席を見つけていた。どうやら彼の一つ後ろの席のだったようだ。

 

「思ったより普通の教室なんだね」

 

「そうだな。だが、だからこそ俺たちが学生だと意識させられるな」

 

 その後鞄などの荷物を置き飯田と少しの間会話をした後、席に着いて暫く待っていると、ちらほらと他のクラスメイト達が入ってきた。しかし、一応挨拶はしたもののまだ緊張感が残っているのかあまり会話しようとはしていなかった。時々、彩人の顔を”おっ”とした表情で見るものの、足元を見て直ぐにがっかりしたように視線を逸らす一部のクラスメイトがいた位である。その内のブドウの房の様な髪型をした生徒は露骨に”なんだ男か”と呟いていたが、彩人はこれを苦笑いで流している。非常に失礼なのだが、寧ろここまで露骨だと却って新鮮に感じていた。

 

 彼らが席に着いてそのすぐ後に彩人の幼馴染みである八百万百が入ってきた。彼女が教室内に入ってすぐに彩人の姿を目に止めるといそいそと近づいてきた。

 

「彩人さんおはようございます。同じクラスで良かったですわ」

 

「おはよう百さん。本当に良かったよ。雄英でも一緒に頑張ろう」

 

「此方こそ宜しくお願い致しますわ」

 

 他の高校とは違い、所々にお洒落なデザインが施されている雄英高校の制服に身を包んだ百は大人びた雰囲気と合間って、とても似合っていた。そんな彩人と話している百の表情は端から見ても嬉しそうに見える。一部の方向から中学校時代によくぶつけられていた嫉妬に近い視線が背中に突き刺さっている様に感じたが、彩人はこれはいつものことだと流すことにした。

 

 クラスメイトへの挨拶を済ませ、荷物を置いた百と暫く二人での会話を楽しんでいると、ふと試験結果の話題にいつの間にか繋がった。

 

「結局、その推薦入試一位だった人は合格を蹴ったって話だっけ?」

 

「そうらしいですわ。一体何があったんでしょう?単純に雄英高校に魅力を感じなくなったとは考えにくいですが...」

 

「何か事情があったとしか思えないかなぁ。そういえば推薦入試と一般入試の試験の内容がまるで違うみたいだけどお互いの首席のどちらが学年代表になるんだろうね?」

 

「それは...どうなるんでしょう?単純に総合成績で決まるんでしたら歴代最高得点を上回ったという彩人さんが首席ということになるんじゃないでし...」

 

 直後、ガラッと大きな音を立てて教室の扉が開かれたことで二人の会話が中断された。

 

 廊下から入ってきたのは、その金髪をどうやって支えているのか分からないほどに全方位に尖らせ、制服を気崩した目付きの鋭い男子生徒だった。彼は周囲をまるで威圧するかのように睨み付け、自分の席を確認するとドカリと勢いよく座り、片足を机の上に乗せた。端から見てもヒーローを目指している人間とは見えない程に傍若無人...いやどうみても不良のレッテルを張られているチンピラにしか見えなかった。

 

「...どなたでしょうか?この場にいるような人間の風体とは思えませんが...」

 

「うん...。正にテレビドラマで見るような不良って感じの見た目だね」

 

 百は彼の品格を疑う様な態度に嫌悪感で眉根を寄せ、彩人は驚きと戸惑いを合わせたような表情で彼を見やる。二人はテレビなどの情報媒体以外で不良と言うものを見たことがなかった。二人ともお嬢様とお坊っちゃまとも言える立場であった為に、そういった人種が存在しない学校で教育を受けてきている。つまり初めて本物の不良を見たと二人は思っているのだ。実際は少しばかり違うのだが...、唯、例え第三者がこの会話を聞いていたとしても彼が不良、若しくはチンピラではないとフォローするのは難しかっただろう。其ほどまでに彼の態度はそうとしか見えなかった。

 

 そしてそんなクラスメイトの態度を見過ごせない人物がいた。勿論と言うべきか、飯田天哉である。彼は彩人が少ない会話でもバカ真面目であると表せる程に真面目な人物だ。例え大勢の人の前でも注意できる胆力があるのだから、如何に高圧的な雰囲気を周囲に撒き散らしている生徒であろうと臆するはずが無かった。

 

「!...んだてめぇ」

 

 飯田が近づいて来るのに気付いた彼は、擬音が付くならばギロリと音がなりそうなほどに彼を睨み付けた。気の弱い人はそれだけで怖じ気づきそうだ。

 

「机に足をかけるんじゃない!君には高校の品格を守っている先輩方や苦労して机を製造して下さっている制作者方に感謝の気持ちが無いのか!」

 

「思う分けねーだろ。どこ中だよ端役が!」

 

ーーますます不良にしか見えないなぁ。本当にヒーロー志望なのだろうか?

 

 思わず彩人がそう思ってしまうくらいには、彼の言動や態度はぶっ飛んでいた。

 

 なんと言うべきか、周囲の人を思って注意する飯田も流石だが、初対面の人間にあれだけの啖呵を切ることが出来る爆発頭の彼もある意味ではさすがと言うべきか。あまりにも聞くに堪えない応酬に百などは視界にすら入れないように努めて無視しようとしている。

 

 

 だが、そんなやり取りは騒いでいる二人が教室の入り口から新たなクラスメイトが入ろうとしているのに気づいた事で直ぐに収まった。

 

 そのままおずおずと入ってきたのは試験会場で飯田に注意されていたソバカスの生徒だった。彼に気付いた飯田は皆にしていた挨拶を交わそうと近づき、反対に爆発頭の生徒は突っかかるのでは無く警戒するかのようにソバカスの生徒を睨み付けつつ静かに席に座った。今度は足をかけるようなことはせず普通に座っている。

 

ーー何だろう?同じ中学の人なのかな。それにしては随分と態度がよそよそしい感じだけど...。何にせよ彼は無事合格できたんだ。試験説明の時酷い表情だったからなぁ。良かった。

 

 

 

 

 その後、ビクビクとした態度のソバカスの生徒と飯田が一方的に会話し、次に新たに入って来た知り合いらしい女子生徒と盛り上がっていた。ふと彩人がそろそろ教師が時間かな、と教室の外を見ると何故か廊下にキャンプなどで使われる寝袋の一部らしきものが目に入った。

 

ーー...え?何...アレ

 

 その上姿はまるで芋虫の様なのに動きは尺取り虫の如く動いており、よく見ると寝袋からはボサボサとした髪がはみ出している。そして髪の元を辿れば当然顔があるのだがその顔も問題だった。

 

 お世辞にも整えられている様には見えない伸びた髭、疲れきった目は充血している。もし公園にいたらホームレスと見間違えてしまうこと請け合いな男が一年A組の教室前で動きを止めていた。

 

「お友達ごっこがしたいなら他所の学校に行け」

 

 男が発した言葉にクラス全員が気付き注目した。…男は横になったままだが。

 

「ここは…ヒーロー科だぞ」

 

ーーここ...ヒーロー科だよね?

 

 ゼリー飲料を飲みながら尤もなことを言っているが、とてもではないが説得力が感じられない。思わず彩人が疑ってしまう程には怪しさ満点であった。

 

 

 

「はい、静かになるまでに八秒掛かりました。君たちは合理性に欠けるね」

 

 寝袋を脱ぎ、教壇の前に立った男の自己紹介によると彼は相澤消太と名乗るこの一年A組の担任教師らしい。クラスのほぼ全員が彼が先生且つ担任であることに衝撃を受けていた。どうでも良いことではあるが寝袋に入ったまま遠くにある教室に移動するのは合理的なのだろうか?どう考えてもそちらの方が時間とエネルギー両方の消費が多そうではないだろうか。

 

「早速だが、コレ来てグラウンドに出ろ」

 

 寝袋から取り出したのは、正面から見れば『UA』の文字に見える独特なデザインの雄英高校のジャージだった。入学初日とは思えない指示にクラス一同面食らってしまっている。

 

「...これから全員分のジャージを配る。配られたら女子は更衣室に案内するからそこで着替えろ。いいか?二度は言わない。着替えたら10分以内にグラウンドに集合しろ」

 

 相澤先生はそう言って直ぐに各員にジャージを渡し、女子を引き連れ教室を出ていった。同時に男子だけ取り残された教室にはどよめきが広がっていた。

 

ーー前途多難だなぁ。これからどうなるんだろう?

 

 考えてもしょうがないか、と彩人は手渡された体操服に手を掛けた。...体操服は教室に予め用意されていたので、相澤先生が懐に温めていた服で着替える必要がなかったのは幸いと言えるのだろうか。

 

 何はともあれ、この瞬間から雄英高校での彩人のヒーローアカデミアが始まったのは間違いなかった。




読了有り難う御座います。

話の進みが非常に遅く、文章量も安定せず申し訳ありません。直そうとはしていますがなかなか難しいです。

念のために主人公のインクの特徴をざっとですがご説明いたします。


緑のインク・粘着力、粘性が強く衝撃を吸収する
赤のインク・刺激を受ける度に温度が上昇
青のインク・触れている部分から温度を奪い、外気に放出
黄のインク・刺激を受けると電気が発生
白のインク・固形化する。純色に近いほど固まる速度が早くなる
黒のインク・体外に出た瞬間から爆発的に揮発する
オレンジのインク・五分経つとあっという間に蒸発する。それ以外に効果は無く、原作のインクリング達のインクに近い

限界突破によりインクの容量と効果が上昇する。同時に器たる肉体も幾分か強化される。


となります。因みに普段限界突破する際は、オレンジのインクで限界まで吐き出す→インクに潜り補充→インクが消えたらまた吐き出す、を繰り返しています。それを主人公は凡そ十年前から毎日続けております。
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