頂きを夢見るイカ   作:オーレリア

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大変お待たせして申し訳ありません。

投稿が遅れた上に文章が非常に長くなってしまいました。文も安定していないと思われるかもしれません。内容もまたやりすぎてしまいました。

反応次第では変更も加えるかと思います。



第18話

『個性把握テストぉ!?』

 

 体操着に着替えた一年A組の面々は集合させられた広大なグラウンドにて、担任の相澤消太が宣言した言葉を驚愕と共に雄叫びのような声で反芻する。

 

「入学式は?!ガイダンスは?!」

 

 これから行われる筈と思っていた学校特有の行事を楽しみにしていた女子生徒の一人が、恐らくこの場にいる生徒全員が思っていたであろう気持ちを言葉に乗せて代弁した。

 

 その女子生徒の疑問も尤もだった。何せこの場にいるのは1年A組のみであり、自分達以外の教師や生徒の姿が一切無かったのだから。

 

「本当にヒーローになる気ならそんな悠長な行事に出る暇なんか無いよ」

 

 しかし、そんな疑問は相澤の言葉により黙らされてしまった。だが、相澤の言葉も尤もだった。『ヒーロー』と言えども個人毎にその内容は敵の捕縛から救助活動等様々なものがあり、当然自分達の適正が何か分からない今はそれらほぼ全てに対応出来るように学んでいかなければならない。それも在学中のたった3年以内にだ。

 

 ”既にヒーローになる為の授業は始まっている”その事を全員が理解したのだろう。流石何千人もの中で数少ない合格を勝ち取った者達と言うべきか、皆気を引き締めた様な表情を浮かべている。

 

「雄英は自由な校風が売り文句だ。当然それは”教師側”も然り。そこでお互いの自己紹介も兼ねての個性把握テストだ」

 

「皆一度は中学でやった事があるだろ個性禁止の体力テスト、あれは個性で溢れた今の社会じゃ余りにも不合理すぎる。それでも国は頑なに画一的な記録を取ろうとしている。...まあ文部科学省の怠慢だよ」

 

 相澤はグランドに並んでいる生徒達を一瞥し、一人の生徒に目をやった。

 

「今期の一年首席は...烏墨、お前だったな。先ずはデモンストレーションとしてお前からやってもらう。中学の時ソフトボール投げ何メートルだった?」

 

 ”首席”、その言葉を聞いた生徒達から小さいざわめきが伝播した。更に何処かから「首席だとぉ...!」、と怒気を孕んだ怨嗟の声も聞こえてくる。流石にこの状況は彩人には少しばかり居心地が悪かったらしく顔をひきつらせた。しかし、当の元凶の相澤はそんな様子を気にした素振りもなく「どうなんだ」と催促する始末である。

 

 この相澤の問いは、普通であればなんなく答えられるものだ。が少々事情が異なる彩人にはある意味で答え辛いものだった。

 

「...無いです」

 

「そうか。.....何?」

 

 やや時間を置いて出てきた彩人の言葉に一瞬思考が止まり、思わず聞き返した。相澤の目が若干であるが見開いているように見える。

 

「ですから記録が無いです。異形型の『個性』と言うのもあって中学校のグラウンドでは敷地を飛び越えてしまってました。ですので記録がありません」

 

「...どこか広い場所で改めてやらなかったのか?」

 

「すみません...。場所が無かったのと家の都合で忙しくてしていませんでした」

 

 事実である。訓練場でも出来ないわけではなかったが訓練場すら飛び越える可能性と『個性』の制御をより完璧に近づけるのにそんな意味のないことに時間を費やすのは無駄だと識深教授達に言われていた為今まで行うことはなかった。

 

「......分かった。ならお前は例外として『個性』無しで投げて良い。最初に個性無し、次に個性ありの順だ」

 

「ありがとうございます!」

 

ーーやった!一度何処まで投げられるかやってみたかったんだ。

 

 相澤の措置に彩人は嬉しそうな声色を混ぜた返事をした。内心では試してみたかったらしく、傍目からはテンションが上がっている様にも見える。

 

 

 

 ソフトボール投げ用のサークルの中に彩人は足を踏み入れる。正面には扇状に広がったラインが何十メートルにも渡って続いていた。一定以上の距離にはラインは引かれていないが、その代わりボールは高性能なGPS機能が内蔵されており、投げた位置から地面につくまで何メートル飛んでいったのか正確に計測できる特別製だ。

 

「思いっきり行け」

 

「分かりました」

 

 相澤に言われ、軽く腕を振り回すことで準備運動を終えた彩人は投球モーションに入る。ボールを持った手を後ろ手に回し、直後に全身を使って鞭のごとくしならせる事で腕を加速させつつ振り切った。

 

 彩人の体には骨が無い。しかし骨の代わりが果たせる程の強靭かつしなやかな筋肉が体を支えている。だからこそそれを最大限に生かす為、体全体を鞭のようにしならせ勢いよく投げ飛ばしたのだ。

 

 何かが破裂する様な音と共に風切り音を響かせつつ投げ飛ばしたボールはすさまじい勢いで飛んでいった。全員がボールを目で追う事数秒後、結果が出たらしい。相澤が手に持っていた端末の画面をクラスメイト達に見せ付けた。

 

 

 結果は『420.8m』

 

「はあ!?420!!マジかよ!?」

 

「成る程...確かにあれほど投げられるのならば学校では記録が出来ないのも頷ける」

 

「素の身体能力でアレなんだ...」

 

 とてもでは無いが力が有るようにも増強型の個性持ちにも見えなかった彩人の見た目で、少しばかり懐疑的な視線を送っていたクラスメイト達もこの結果に驚きで目を向いた。

 

 

ーー成る程、自身の身体的特徴を上手く生かし、この場で最も適したフォームで投げている。師の教えが良いのが良く分かる。個人で鍛えてただけじゃこうは行かない。

 

「...よし、次は個性ありでやれ。時間が押してるから早くな」

 

 相澤が感心したように黙り込み、彩人を見るもそれは一瞬の事。生徒達にその様子を気付かれることもなく直ぐに彩人に次を促した。

 

 言われた彩人は「はい!」と返事すると同時に遠投用のサークルの中で立ち止まり、自身の体の色を変色させた。橙色をしていた特徴的な頭の触手や目の光彩が黒色に変化していく。突然の急激な変化に約一名を除いた周囲のクラスメイト達が今度は一体何だと目を丸くした。

 

 変化を終えた彩人は先程と同じように投球モーションに入る。ボールを持った手を振りかぶる所までは先程と全く同じだ。

 

 そして次の瞬間には彼らの目には既に手にボールはなく、振り切った体勢で体を静止させた状態の彩人の姿が映っていた。

 

「...は?」

 

 クラスメイト達の誰かが思わず声を漏らした直後に周囲を吹き飛ばさんとする強風が吹き荒れた。巻き上がる砂埃を防ぐために腕で顔を隠し、風で体勢を崩さない様に踏ん張ることで抵抗する。

 

 目で追えないような速度で行われた彩人の投球は単純なものである。ボールを持った掌の裏からインクを噴出させる事で腕を加速させ、腕とボールが遠くに飛ばすのに最適な角度に到達した瞬間に今度は掌からもインクを放出することでボールを飛ばしただけである。ただそれを高速で、尚且つ最適な動きで行うと言うのは精密な動きとタイミング、適した出力が要求される為非常に難易度の高いものだ。

 

ーー初めてやったから制御が甘かった。まさかこんなに砂煙が舞うなんて...。ぐぅ...目が開けられない。

 

 当の本人は砂煙の舞うグラウンドの中心で身動きが取れなくなっていたが。

 

 風が弱まった後恐らくボールが飛んでいったであろう方角を皆が見たが、当然ながらあれ程の勢いと強風を伴ったボールが今さら見えるはずがない。自然と砂煙から解放された彩人とクラスメイト達の視線が端末で飛距離を計測している相澤に集中する。先程よりも遠くに飛んでいったからだろうか、時間を置いて先程のように端末に記された計測結果を周囲に見せつけた。

 

「…先ずは、現在の自分達に出来る最大限を知ること。そこからだ」

 

 今度の結果は『3604.2m』ここまで来ると最早、ボール投げと言うよりは大砲の射程距離を計測しているような結果が画面に表示されていた。

 

「おおお!!すげぇまさかのキロ単位!」

 

「というか何したのか全然見えなかった...」

 

「当然の結果ですわね」

 

「頭にあるあの特徴的な触手の形と色が変わった所を見るに、軟体動物の烏賊に近い『個性』何だろうけど見た目以上にパワーがあるみたいだ。それに最初の時の異様にしなった腕を見るに骨が無いか若しくは柔らかいのかも。それだと接近戦はだいぶ変則的になりそうだ。とすると....」

 

「俺も早くやりてぇ!」

 

 差し出された驚異的な結果に、最初の『個性』無しの時より遥かに盛り上がるクラスメイト達。口々に話しているが共通するのは”面白そう”、”自分もやってみたい”という内容が殆だった。現代社会でヒーロー資格を持たない一般人は基本的に、私有地を除く公共の場での『個性』の使用を法律で禁じられていた。だからこそ誰しも思うこと、”『個性』を自由に使ってなにがしかの結果を出してみたい”という欲求を持つ者は少なくない。まだ多感な年頃である彼らは特にその思いが強いことだろう。それをこの場で言葉に出した、出してしまった。

 

 ここはヒーロー科だ。一時的であろうが思わず興奮して言った言葉でもそんな軽はずみで言って良いことでは無い。特に会話の所々に合理的であるかどうか溢す程に合理主義者である相澤がそれを聞き流す筈がなかった。

 

「......”面白そう”...か。お前達はこの学校でヒーローになるための3年間、そんな腹積もりで過ごすつもりなのか?」

 

 その声は小さかった為に気付いた者は多くは無かったが、何人かの脳裏に”怒られる!”という思いが過った。しかし、次に発した言葉の内容は入学間もない彼らにとって想像だに出来ず、尚且つ度肝を抜かれるものだった。

 

「よし、トータル成績最下位だった者はヒーローになる見込み無しと判断して、除籍処分にしよう」

 

 

 数瞬後、グラウンドに彼ら生徒達の絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

ーーえ?まさか2年生のクラスが1年生のクラスに対して1クラス分しかなかったのってもしかして...。

 

 始業前に学内を探索していた彩人の思考がその考えに至り、冷や汗を垂らす。あの時はただ単に二年生になると授業内容の関係でクラスが離れるようになるか若しくは探索不足だったと思っていたが、この教師が宣言したように去年も同じことをして1クラス分除籍させた可能性が濃厚になった。発破を掛けただけと思いたいが事前にそれを匂わせるものを見てしまっただけに否定できる要素がない。

 

「最下位除籍って...!」

 

「まだ入学初日ですよ!?例えそうじゃなかったとしてもいくらなんでも理不尽すぎる!」

 

 当然の事だがそのあんまりな宣言に生徒達は苦言を呈した。只でさえ何千人ものライバル達からやっとの事合格を勝ち取り、これから憧れのヒーローになるために頑張ろうという初日にこれだ。そう言いたくなるのも無理は無いだろう。

 

 だが、相澤は撤回などしなかった。そんな悠長なこと言っている場合では無いと生徒達に発破を掛けた。

 

「理不尽...?お前ら、ヒーローが関わるものに理不尽が無いものがあると思ってんのか?自然災害、大事故、突如暴れる敵、今の世には理不尽に溢れている。それに対抗するのがヒーローだ。これからお前らが嫌と言うほどに体験し、乗り越えていかなければならないものでもある。…だからこれから俺達雄英は、全力でお前達に理不尽と言う苦難を与え続ける」

 

 ”Plus Ultra”だ。全力で乗り越えてこい

 

 続けた相澤の言葉に生徒達全員の表情が、ある者は不安や焦りで彩られ、ある者は反骨精神で笑みが浮かび、又ある者は真剣なものになる。同時にこれからの学校生活に対する不安感も彼らの脳裏に添えられて、最初の試練である『個性把握テスト』が始まった。

 

 

 

 

 

 ソフトボール投げを最初にやるのかと思えば最初に行われたのは50m走だった。何故かと相澤に聞けば、さっきのはあくまでデモンストレーションで最も『個性』を生かしやすく、分かりやすい種目だった為にやらせただけらしい。

 

 どうやら順番は基本的に出席番号順で決められているらしく、彩人の出席番号は5番とわりと最初の方だった。

 

ーー飯田くんの個性は足に関係しているものなのか。確かに制服の時、足に不自然な膨らみがあるなとは思っていたけど。

 

 目の前では彩人の一つ前相澤に呼ばれ、飯田と蛙吹梅雨と言う長い髪を背中で独特な結び方をしている猫背ぎみの女子生徒が走っていた。特に飯田は両足の脹ら脛がまるで車のエンジンの様になっている為に、見た目通り走ることに特化した『個性』だからか三秒台と言う驚異的な記録を出している。しかし、記録を出していた飯田の表情はどこか不本意そうだった。思ったような記録が出ていないのか、若しくは車のように最初から最高速で走るのは難しいのかもしれないと彩人は感じていた。

 

 女子生徒の方は四つん這いになって両足を同時に地面を蹴ることで、蛙が飛び跳ねるように走っていた。普通であればそんな走り方をすれば逆に遅くなりそうなものだが、実際は五秒台と見た目とは裏腹に速いものだった。

 

ーー蛙吹さんは見た目と動き方からして蛙の異形型なのかな。成る程、ああいった異形型特有の身体的特徴を生かすのも『個性』の使い方に含まれるのか。

 

 クラスメイト達は各々の『個性』を活かして記録を作っている。彩人がクラスメイト達の『個性』を予想しながら観察していると、と相澤に名を呼ばれる。そろそろ呼ばれるだろうと思っていた彩人は直ぐに50m走用のレーンに向かった。

 

 

 

「あっ、さっきのすごい記録出した人!先生に名前呼ばれたから知ってると思うけど私、麗日お茶子よろしくね!」

 

「此方こそよろしく。お互い大変なことになっちゃったね」

 

「ホントだよね。まさか登校初日からこんなことになるなんて思わなかった!」

 

 隣のレーンから声を掛けてきたのは茶髪で元気そうな印象を与える麗日お茶子と言う女子生徒だった。見た目通り快活な性格なのか、彼女はレーンに着くなり彩人に早速とばかりに話しかけて来た。

 

 お互いに手早く自己紹介を済ませ、相澤に睨まれる前に二人ともスタートラインに立つ。同時に麗日は着ている運動着や靴に何やら手を付け始めた。よく見ると麗日の掌には肉球らしきものがあり、その部位を運動着に触れさせている様に見える。

 

ーー触れることで発動するタイプの『個性』かな?でも服に触わるって事は自分以外、若しくは無機物に作用するタイプかも。この手の『個性』は発動するまで初見じゃ予想できないんだよね。...と僕も見てないで準備しなくちゃ。…色は今回全部黒のままで良いかな。

 

 スタートラインから二歩ほど下がり、足を前後に開き、頭の触腕と手の平を後方に向ける。後はスタートの合図を待つだけだ。

 

 「スタート!」と言う合図とほぼ同時にインクを放出する。今度は先ほどのボール投げよりは遥かに砂煙と衝撃が小さく、周囲に被害を及ぼす事は無かった。

 

 驚異的な加速により景色が一瞬にして引き伸ばされる。常人であれば周囲を認識することすら難しい加速力であるが彩人にとっては見慣れた景色だった。あっという間にゴールラインを越え、通りすぎたと同時に前方にインクを放出させ急制動を掛ける。慣性の法則により体に強力な負荷が掛かるが、内蔵などの体内器官迄が丈夫に発達している体には大した影響は出ていない。

 

 結果は『0秒75』

 

「すっげぇ!今度は0秒台!」

 

「くっ!自分の得意分野でもこれか...さすが最高峰、レベルが高い!」

 

 周りが囃し立てる中、彩人はもう一人の走者である麗日に視線を見やる。驚いたように此方を見ながら全力で走っている麗日お茶子の姿が見えた。スタート前に何らかの『個性』を使おうとしていた筈だが、パッと見では特に目立つような変化は無い。

 

ーー良かった。麗日さんが特に転びそうだった様子もない。ちゃんと周囲に影響が出ないように制御できてる。...やっぱりさっきのは出力をもっと絞るべきだったな。それと...。

 

 数秒後にゴールした麗日が中学時代の記録を更新したのだろう。7秒台半ばというの記録を出して喜んでいる様子を見た彩人が思ったこと。それは...。

 

ーーやっぱり僕、足遅いんだなぁ。

 

 中学時代の素の50m走の記録は9秒後半。それもギリギリでの9秒台である。反射神経は兎も角、瞬発力に乏しく踏ん張りが利かないこの体ではそれでも驚異的だと事情を知る人達からは言われているが、それでも周りの殆どの人よりも遅いと言う事実はやはり悔しいものがある。

 

 次々とクラスメイト達が走り、中には走力とは関係の無い『個性』を持っている人は普通に走っていた。それでも大抵は陸上部並みの好記録を出している。殆どのクラスメイト達が羨む記録を出した筈だが、彩人の心境は実に微妙なものであった。

 

 

 

 握力測定

 

 こちらは異形型の『個性』である彩人にとっては得意分野と言えるだろう。元々鍛えれば鍛えるほどにインク容量と共にその器である肉体も強化される体だ。『個性』の都合上、瞬発力の伸びはあまり良くないが純粋な力であれば、限界突破を割りと気軽に何度も行えるということもあって既に並みの強化型を凌駕するほどの力を素で発揮できる。

 

 ミチリ...ギシ...と握っている部分から音が鳴るほどに握力計を強く握りしめる。出た結果は『1837kg』上々の結果に彩人は満足そうに頷いた。

 

ーーうん、すごく持ちやすいからか前よりも良い記録が出た。さすが雄英、良い機材を使ってる。

 

 続いて反対の手でも計り、同じような記録が出せたことにまた満足していると、何名かのクラスメイト達が話しかけてきた。どうやら派手な『個性』で好記録を出し続けている彩人が今度はどんな記録を出したのか気になったらしい。

 

「なあ、烏墨...だったよな?握力測定どうだった?...うおっ!1t超えかよホントすげぇな!あっ俺ァ切島鋭次郎、宜しくな!」

 

「力持ちだねー!私、芦戸三奈!ちなみに私達同じ中学なんだ」

 

 声をかけてきたのは赤い髪を刺々しく四方に跳ねさせた体格の良い男子『切島鋭次郎』と、頭に角のようなものを生やしピンク色の髪と紫に近い肌の元気一杯といった印象を与える女子生徒『芦戸三奈』の二人だった。最初から信じていないのかそれとも気にしていないのか、どちらにせよこの最下位は除籍という緊張感のある状況下でも気軽に話しかけられるこの二人は胆が座っていると言えよう。

 

「宜しく。僕も今あっちにいる八百万百さんと同じ中学なんだ。彼女共々仲良くしてくれると嬉しいな」

 

 彩人が指し示した方向に二人は視線を移す。少し離れた位置に並んで握力測定の順番を待っていた八百万百がいた。側には既に『個性』で作り出したであろう万力がある。視線に気づいた百は二人に軽く会釈することで返事を返した。その淀み無い動作には気品に満ち溢れており、それだけで彼女が周りとは生まれが違うのだと認識させられる。

 

「あそこにいる女子か。勿論だ。何せこれから一緒に切磋琢磨する仲間だからな!仲良くするに越したことはねぇぜ!」

 

「スゴイねー、まさにお嬢様って感じだよー!あっモチロン私もだよ。同じ数少ない女子だもん当然だよー!」

 

「有り難う。兎に角今はこの状況を乗りきらないとね。頑張ろう」

 

 おうっ!と切島は気合いの入った返事を返してくれたところで切島に順番が回ってきた為、また今度話をしようと約束を取り付け解散することになった。

 

 

 

 立ち幅跳び

 

 体全体からインクを放出できるという『個性』上、学校側に注文して靴の足裏部分からでもインクを放出出来る様に運動靴には設計されている。今回はそれを活かして足から放出することで空中に浮き、頭の触腕で方向を調整して移動するというホバー移動に近い手法を取った。足だけでも空中移動するのには大して問題はないが、立ち幅跳びという一度宙に浮けば平面移動のみで事足りるためによりこの方法を採用した。

 

 スタートラインから2Mほど浮き上がり、空中を滑るように移動する。周囲は彩人が空中を飛んでいることにテンションが上がり盛り上がっている中、相澤はその様子をじっと見ている。その状態がしばらく経った所で相澤から声が掛かった。

 

「おい烏墨。それは何時まで続けられる?それと何処までの範囲なら飛べる?」

 

「...ただ飛んで移動するだけなら集中力さえ途切れなければ数時間は飛んでも支障はありません。範囲に関しては航空法に違反しない高さまでしか飛んでいないので不明です」

 

 飛びながらであるが相澤の質問に対して数瞬考え、そう答えた。インクの消費量のみで考えれば、ただ飛ぶだけであれば低燃費と言うこともあって何時間でも飛べるからだ。

 

「...分かった、もういい。これ以上は時間の無駄だ。烏墨、降りてこい」

 

 相澤に言われた通りにグラウンドに降り立つ、彩人が相澤に視線を向けると何やら測定するための端末を操作している。今までの測定では見られなかった行動だ。先程までの話の流れからして、恐らく手動で記録を入力しているのだろう。

 

 数秒間端末を操作していた相澤が画面をこちらに見せる。その内容は体力測定ではまずお目にかかることが出来ない『∞』、最早数字ではなく記号として表示されていた。

 

「無限!!?」

 

「体力測定でそんなん出るとか初めて見たぞ!!」

 

 あり得ない大記録に周囲は何度目とも知れぬ驚愕と共に沸いた。彩人は口頭での自己申告でその扱いで良いのだろうかと疑問に思ったが、相澤に早く次の種目に行け、と促された為にそれで良いのなら良いかと己を納得させて次の測定に向かった。

 

  

 

 反復横跳び

 

 瞬発力が主になるこの種目は50M走以上に彩人に苦手とする科目だった。しかし『個性』を使えるのなら話は変わる。

 

 触腕と腕からの噴射で体に勢いを付け、足からも放出することで素早くライン上を移動する。こういった素早く且つ細かい動作は、どんな状況でも素早く対応出来るようになるという点で重点的に鍛えられていた為に慣れたものである。

 

 結果は『151回』

 

「うん...凄いんだけどね...」

 

「確かに凄いけど動きがね...」

 

 またも好記録が出たのだが、周囲の反応は今までと少々異なっていた。どうやら残像を伴うほどのバタバタした動きがシュールすぎて反応に困っているようだった。

 

 

 

 

 ソフトボール投げ

 

 今度は先程以上に出力を絞ることで無駄が無くなり最初より幾分か飛距離を伸ばすことが出来た。

 

 最初以上に記録が出たことにクラスメイト達は感嘆とした声を上げたが、次に投げた麗日がボールを無重力状態にさせて投げたことで二人目の『∞』の記録を出したことでさらに沸いた。

 

 その後も次々と順番が過ぎ、とある男子生徒の順が廻った所で皆の注目が集まった。

 

 その男子生徒は特に目立つような記録を打ち立てたわけではない。寧ろその逆、平均若しくは平均以下の記録しか出せていないからこそ、彼が除籍の対象になってしまうのではないかと同情の視線が集まりつつあったのだ。

 

 本人である『緑谷出久』もその自覚があるのか今にも死にそうなほどに顔色が悪い。周囲の会話を聞いて総合すると、どうやら彼は今に至るまで一度も『個性』を使っていないらしい。しかしどうやら知り合いらしい一人の柄の悪い生徒、『爆豪勝己』の言によれば彼は『無個性』だという。だが何名かは彼の『個性』見たことがあると言っている。

 

 これは実際に見て確認するしかない。と彩人は耳を傾けるのをやめ、緑谷に視線を移した。

 

 

 

 紆余曲折あったが彼の結果は『705.3M』それも指一本のみでこの記録である。初めてヒーローらしい記録が出せたからか周囲は今まで以上に盛り上がった。

 

 記録を出した後も爆豪が緑谷に突撃し、それを相澤が捕縛するという一幕があったものの特に問題なく身体測定は進行した。

 

 ”オールマイト並みのパワーじゃね!?”とクラスメイト達が興奮冷めやらぬテンションで盛り上がっている中、彩人は先程の一部始終を見て考え込んでいた。

 

ーーさっきの話からまとめると彼は後天的に『個性』に目覚めたって事なのかな。それも知り合いの人が知らなかったと言うことは目覚めたのはごく最近なのか。

 

ーーそこから体を鍛えたってことなのかな。筋肉の付き具合とは裏腹に身体測定の際の動きが微妙にぎこちなかったし、運動慣れした人の動きにはあまり感じなかった。元無個性だったのならあの気弱そうな性格なのも頷ける。中学時代は大変だったんだろうな。

 

「指一本犠牲にしていますがそれでもあの力、増強型の『個性』だとは思いますが驚異的な強化率ですわね」

 

「うん...そうだね」

 

「彩人さん?」

 

「...!、ごめんちょっと考え込んでた」

 

 どうやら百が話しかけるまで考えることに没頭してしまったらしい。あまりよくない傾向だ。気を付けなければ、と自分い言い聞かせ百に謝罪した。

 

「彩人さんがそこまで考え込むのは珍しいですわね。それほど緑谷さんの『個性』は珍しかったと言うことでしょうか?」

 

 その質問は彩人が考えていたのとは少し違う、があくまでも考えていたことは憶測にすぎない。それを話してしまうのは憚られたので質問に沿った返答を返すことにした。

 

「確かにあそこまで大きな反動がある『個性』は珍しいね。あれだともし日常生活で暴発してしまったら本人共々大変なことになるから」

 

「そうですわね。そう考えますとここ雄英で『個性』の制御技術を学べるのはあの方にとって大きな収穫ですわね」

 

 百の言うことは尤もだ。あれほどのピーキーな『個性』生半可な訓練では制御するは難しいはずだ。そう考えれば最高峰である雄英に入学できたのは最高の結果と言えよう。

 

「そう言えば、握力測定の時どなたかと一緒に私の方を指し示していましたがあれは何だったのですか?」

 

「ああ、あれは百さんとも一緒に仲良くして欲しい。って意味だったんだ。この状況でも気にせずに話しかけられる人達だから凄い度胸があるよ。きっと百さんも仲良くできると思うんだ」

 

 それを聞いた百は嬉しそうに顔を綻ばせた。初日だからこそクラスメイト達とは早く仲良くしたいと思うのは当然で、この話は渡りに船だったからだ。

 

 その後、百がソフトボール投げの順が来たことで会話は中断され、二人は一時別れることになった。

 

 因みに百はソフトボール投げで大砲を創造し28kmの大台を記録した。その際彩人に向かって、ドヤァとでも形容できるような百の表情が強く印象に残った。今回の数少ない彩人以上の記録を出せたことが嬉しかったらしい。

 

 

 

 

 長座対前屈

 

 先ず普通に計測する。結果は『81cm』体の柔らかさに関しては邪魔になる骨が無い軟体系の『個性』の特権と言えるものだろう。ただ身長が低いこともあってこの記録自体はあまり突出していると感じにくい。

 

 二回目の記録では前々から気になっていたことを試してみることにした。

 

 頭を足にベッタリとくっ付ける。ここまでは普通だが、次に頭の触腕を腕に見立てて思いっきり前方に伸ばした。触腕は腕以上に長く、また体勢からして頭からの方がより長く伸ばすことができる。それを長座対前屈で出来ないかと常々思っていたのだ。

 

 記録していた相澤の反応を窺ってみると、特に何かを言う訳でもなく記録していた。どうやら問題ないらしい。

 

 最終的な結果は『112cm』,30cm以上記録を伸ばすことが出来た。

 

 そんなのアリかよ!と何名かが驚く中、異様な視線を感じてその方向を見ると、彩人よりも背の低いブドウの様な頭をした男子生徒がいた。やや離れた所にいるために何を言っているかは聞こえなかったが視力が良いために、異様に真剣な目でこちらを特に頭の触手部分を凝視しているのが見えてしまった。

 

 理由は良く分からなかったが何故か軽い悪寒がしたため、そそくさとその場を離れることにした。

 

 

 

 上体起こし

 

 頭の触腕を膝に張り付かせ後頭部からインクを放出することで頭を持ち上げ、触腕で持ち上がった体を地面へ押し出すというのを繰り返す。記録は『72回』と中学時代よりは大きく記録を伸ばすことは出来た。

 

 尚、これ以上の記録を出せたのは百と先程彩人を凝視していた『峰田実』と言う男子生徒だった。負けじと百はバネを、峰田は頭部にあるボール状のものを体の前後にくっ付けることでスーパーボールの如く体を跳ねさせていた。

 

 唯、気合いが入りすぎたのか終わった後は両者とも顔色が悪くなっていた。脳が強く揺さぶられたことで気分が悪くなったのではと推測される。

 

 

 

 持久走

 

 A組全員で1500mの距離を同時に走るらしい。確かにこの広大なグラウンドは数十人が走ったところで狭い故の接触等の進路妨害は起こりそうもない。時間短縮にもなり合理主義の相澤らしいやり方だろう。

 

「当然だが故意の妨害は無しだ。それ以外は内側のラインから出なければ何をしてもいい」

 

 シンプルとは言え変則的なルールであるために軽い説明を相澤から受け、計測用の機械からの『スタート!』合図と共に皆は一斉に走り出す。最初に先頭を切ったのは走ることに特化した『個性』を持つ飯田だ。その後ろに数名の高い身体能力を持っていたり『個性』を応用させた生徒が続いていく。

 

 彩人は皆がスタートラインを通りすぎたのを見計らい立ち幅跳びと同じように2m程空中に浮き上がり、そのまま触腕と手のひらから噴射することで加速する。

 

 あっという間に団子状になっていた集団を上空から追い抜き、最後に先頭を独走していた飯田も追い抜いた。そのまま速度を維持した状態で飛び続け、ゴールした。集団を追い抜く際に”分かってたけどやっぱあれズリぃ!”との声もあったが。

 

 結果として彩人が大差をつけて一位になり、二位が飯田、三位が百となった。百は少々時間が掛かったものの、バイクを創造したことで途中から走者をごぼう抜きにした。残念ながら大差をつけて走っていた飯田に追い付くことは出来なかったようだ。

 

 

 

 全ての種目を終え、順位を発表するために生徒全員が一ヶ所に集められた。当然だが生徒達の前にいる相澤に注目が集まる。

 

「トータルはそれぞれの種目の評価点を合計したものになる。口頭で結果を言うのは時間の無駄なので、モニターによる一括開示で発表する」

 

 相澤の話を聞いた反応は様々だったが、特に顕著だったのは指を犠牲にしてまで記録を作った緑谷だった。彼は只でさえ平均以下の記録が大半だったのにソフトボール投げ以降の種目は指の痛みのせいか殆どが最下位だった。今までの記録を総合すれば彼が総合点最下位なのは想像に難くない。

 

 治療できれば良かったのだが、相澤にせめて応急手当だけでもと名乗り出たのだが、相澤は”自己責任だ”といって取り合ってくれなかった。

 

 相澤がモニターを生徒達に見せる。全員が自分の順位は何位だ?と目を凝らして確認をしようとした直後、モニターはブン、と音を立てて消えた。

 

「ちなみに最下位除籍はウソな」

 

 その台詞で大多数の生徒が体を強ばらせて固まった。あまりに突然のことに思考が止まる。

 

「君らの最大限を引き出すための合理的虚偽だ」

 

 ハッと相澤は小バカにするように鼻で笑った。

 

 

.........

 

 

『...はーーーー!!??』

 

 いきなりの前言撤回宣言に殆どの生徒が目を丸くして雄叫びのごとく声を張り上げた。特に除籍対象だと信じきっていた緑谷の表情は筆舌に尽くしがたいものになっている。

 

「あんなのウソに決まっているじゃないですか。少し考えれば分かりますわ」

 

 少数であるが百のようにまずあり得ないと思っていた生徒、若しくは上位確実だと自信があった生徒達は冷静だ。彩人は叫ぶほどでは無いが目を見開いていた。

 

「そゆこと。これにて今日は終わりだ。教室にカリキュラムの資料があるから目を通しておくように。明日からもっと過酷だからな」

 

 あっさりと解散を促した相澤はそのまま背を向けて校舎に戻っていた。どうやら本当に初日はこれで終了らしい。

 

ーー見間違え...だったのかな。演技には見えなかったけど、でもヒーローは状況に応じた演技することも技術の内って聞くし...放課後確認するしかないか。

 

 あまりにも個性的な教師が担任になったな。と同時に初日でこの有り様でこのまま雄英でやっていけるのか不安に駆られてしまう彩人であった。

 

 

 因みに総合上位は 一位烏墨彩人、二位八百万百、三位轟焦凍、四位爆豪勝己、となった。それを見た百が”次は負けませんわよ!”と彩人に突きつけるように宣言したのは余談である。

 

 

 

 もう一つ余談であるが、放課後に百と一緒に二年のクラスを確認しに行ったが、2クラス目が見つからず職員室にて相澤とは別の教師に確認を取った所、本当に1クラス分除籍処分となっていた事が判明して二人揃って顔を青ざめることになった。




読了有り難う御座います。


握力に関してだけは、人間が余裕を持って振り回せるのが1~2キロ程と握力の数十分の一と仮定すると、100キロ近いブキを何分も振り回せるインクリングは最低でも1tは軽く超えるものと考えました。

次回から漸くスプラトゥーンらしくなると思います。
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