頂きを夢見るイカ   作:オーレリア

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ナメクジ更新ならぬナメクジ展開で申し訳ないです。

それでも見たいと思って下さる方がおりましたら宜しければ御観覧下さい。

産まれる前から自我を持つ子供が、引き離された母親を求めていたらこんな感じかなと思って書いてみました。



第3話

彼、『烏墨彩人』が生まれてからおよそ半年の月日が経過した。

 

 普通の赤ん坊なら既に各家庭で寝返りやお座りなどができている頃

 

 彼は今、病院の一室で生まれて初めて決意した目標が叶おうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 彼は過ごした半年の間に大きく成長した。

 

 ヒトの形態になった時の体つきは他の赤ん坊とそう変わらないながらも既に何歳も年上の子供と大差ないほどの筋肉量が彼の小さい体の中に詰まっていた。

 そして体も頑丈になり、今では水面から顔のほとんどを出すことができるほどにもなっている。

 水中でイカの形をしている時は既に泳ぐ速度も速くなり水槽の中を自由自在に泳ぐことが出来る様になるまでになっていた。

 あまりにも自由に泳ぎすぎて今では大人のベッドサイズの深い水槽に移されたほどだ。

 そして目も見えることになったことで、外の世界も見える様になり、強い好奇心が更に刺激されたことで周りの物やの人の行動、表情を観察する思考能力も成長していた。

 

 

 

 

 他ににも色々な事があった。

 

 突如水槽の色が変わるだけでなく、急激に温度が上昇したことがあったかと思えば今度は色が変わると同時に温度が急速に低下するという事があった時など病院内が騒然として大慌てで対処しようと躍起になったことがあったり

 

 

 彼がいる水槽を交換するときに彼はびっくりして思わずずっとイカ状態になり、なおかつ水槽の端の自分の体よりも小さな水たまりにいたために看護師が気付けず、赤ん坊が消えた!、もしくは流された!、とこれまた大騒ぎになることもあった。

 

 

 元気なのはいいことだけど、もうちょっとおとなしかったらなぁ…と病院の職員たちが思ったのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな病院内で騒ぎを起こしていた彼はそんなことなどつゆ知らず、彼は今日も元気に泳ぎ回っていた。

 

 今では目も見えるようになり、その様子を見ることで彼の外の世界に対する好奇心がますます膨れ上がっている。そんな彼だからこそ外の様子を水面から顔を出す練習をしながら観察するのは今では彼の楽しい日課となっている。

 騒ぎを知らず起こした時などは、その様子を見てちょっと面白かったと思ったほどだ。

 

 そして目が見えるようになり、人の姿などを認識できるようになった今、時折体を撫でてくれるあの暖かい手の持ち主を見たとき、彼は生まれて初めて母親という存在を本能と理性、両方で理解した。

 

 体を包むように撫でられ、そして去っていく母親の姿を見て彼は、益々外に出たいと言う願いが強くなっていた。

 

 ちなみにその場で父親にも撫でられたが、硬くゴツイ手にビックリして泣いてしまっていた。

 すぐに母にあやされ泣き止んだが、その際の父親の他の人ではあまり見ない表情(ショックを受けた表情)を彼は不思議そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 そして冒頭に戻り、今彼の側には母と父、見慣れた看護師と医師がいた。

 母と父の表情はひどく緊張で固まっている。彼は初めてみたその表情をじっと観察していた。

 

 「ここまで体の発達が早いとは思いませんでした。産まれてすぐとはいえ、恐らく外に出ようとしていたであろう行動がここまで良い結果を生むとは本当に予想外でした」

 

 医師はどこか嬉しそうに語っていた。やはり医師としては自分の担当した患者が無事に成長できた事が嬉しいのだろう。

 そして今度は真剣な表情に変わり、最後の確認として二人に

話し掛けた。

 

 「それでは、烏墨さん心の準備は宜しいでしょうか?この子の体調を考えまして10分以上はこの子の負担が大きくなってしまいますのでその点はご了承頂きます。」

 

 

 「大丈夫です。私達はこの瞬間をずっと待っていたんです。決してこの子に負担は与えません。誓ってもいい」

 

 「もちろんです。自分の愛しい子供に自分の都合を押し付ける等絶対に致しません。」

 

 

 両親である二人は、医師以上に真剣な表情で医師の質問に答えた。産まれた時から我が子を抱く所かほんの少しの時間触れる事しか出来なかった。親としてはこれ程辛い事もない。

 しかし、今度は触れるだけじゃない、自分の腕の中に自分の子供を迎え入れる事ができる。やっと親として当たり前の事を我が子にしてやれる。

 そう思えばこそ親としての責任、子供の安全を守ること等当たり前過ぎて頭に無かったほどだ。

 

 

 「その言葉を聞けて安心しました。それではこの子…烏墨彩人さんの面会を始めます。」

 

 

 医師が二人の答えに満足そうに頷くと看護師と向き合い彼を両親に引き合わせるべく行動した。

 

 まず、水槽に柔らかいクッションのようなものを沈めた。すぐに彼…彩人がクッションの上に移動した。

 何度も陸上に慣れる様に練習としてこの作業を行ったが、数度繰り返しただけで彼はすぐに自分からクッションの上に移動する様になっていた。

 

 ……急に外の空気を吸い続けるのは苦しいろうに…

 

 医師と看護師はその健気な行動に、強く、賢い子だと思いながらクッションの上にきちんと移動した事を確認し、彼を水槽から引き上げた。

 

 

 

 彼の姿は現代社会風に言えばイカの異形型だろうか。彼の手や足の指には爪が無く、他の同年齢の赤ん坊と比べて少しだけ手足が大きかった。

 目の周りには隈の様なものがあり、目の間でそれが細くではあるが繋がっている。

 そして最も目を引くのは、頭部にあるイカの足の様な髪の毛に当たる部分だった。

 尖った耳が横に伸び、頭から左右対になるように2本の伸びた身長と殆ど同じぐらいの、イカに例えると触腕に近い大きな触手の様なものがある。

 後頭部には左右の触手程太くも長くも無いが、凡そ腰位の長さの触手があった。

 両手両足と触手を合わせて計10本、触腕もあることからやはりイカの異形型と見て間違いなかった。

 

 

 

 彼を引き上げた後、看護師が彼の体に付いた液体をゆっくりとしかし丁寧に柔らかいタオルケットで拭き取り、今度は先程のタオルケットより厚めの布で体を包み込み、彼に振動を与えないようにこれまたゆっくりと彼の父と母に近付き、最初に青い平べったい触手の様な髪を持つ女性、母…鳥墨雨美に手渡した。

 

「烏墨さん…どうぞ抱いて上げてください」

 

 

 壊れ物を扱うように恐る恐る息子を受け取った雨美は、感触を確かめる様に暫くじっと抱いた後、ゆっくりと彼の頭を撫でた。

 ぷにぷにとした独特な感触を感じた所で、雨美は我慢できず、しかし彼には決して当たらない様にして彼女が堪えていた涙が決壊した。

 

「あ、あぁ……漸く…漸くこの子を抱くことが出来たのね……っ!」

 

 感動で胸が張り裂けそうだった。毎回、自分が息子に触れている時、息子は離れたくないとばかりに手にしがみついていた。離れた後も何度も追い掛けるように水面から出ようとしていたのを見ていた。

 その度に自分が母親として何一つ出来なかったことが情けなかったし、許せなかった。

 それでも自分のもとに来ようとして、その努力が今実った事とが、親としてとても誇らしかった。

 

 

 

 そして母親と同じく彩人もまた歓喜の最中にいた。今まで撫でて貰っていた時とは全く違う守られてる、包まれている様な圧倒的な安心感が今の彼を支配していた。

 このまま眠ってしまいたいと思いと、もっとこの幸せを噛み締めていたいという思いが相反し、せめぎあっていた。

 

 

 

 

 

 暫く抱いた後、彼女はまだ名残惜しかったが今度は、青い肌に口に大きな牙を生やした巨漢、父親…烏墨甚兵衛『うずみじんべい』に彼を看護師と同じ様に手渡した。

 

「…………」

 

 自分の息子を抱いた甚兵衛は、子供を抱き目と目があった瞬間固まった。

 抱く直前迄は漸く息子を抱けると喜んでいたが、いざ息子を抱くと想像と全く違うあまりの小ささと柔らかさ、抱けた事に対する喜びでどうすればいいか分からず、混乱のあまりに思考も止まってしまっていた。

 

「……?、あなた?」

 

「っ!…ああ、すまない少し呆然としていたようだ」

 

 暫く経っても動かない夫に疑問に思ったのだろう。雨美は甚兵衛に話し掛けた。

 

 妻に話し掛けられた事で再起動した甚兵衛は少しだけ慌てた様子で息子を見た。

 息子…彩人は今だにじっと甚兵衛を見ていた。全く動かない甚兵衛の様子をが珍しかったのだろう。

 

 甚兵衛は先程の妻の行動を意識しながらゆっくりと彩人の頭を撫でた。以前触れられたことのあるゴツゴツした硬い手だったが、水中と陸上ではまた感触が違うのだろう、彩人はビクリと体を震わせ表情が少し引きつった。

 

 その様子を見た甚兵衛は以前触った時泣かれた事を思い出したのだろう。また泣かれてしまうのかと以前と同じショックを受けた表情をした。

 

 しかし彩人は甚兵衛の表情を見て今度は引きつり掛けた表情を戻し少しの間その顔をじっと見たかと思うと布でくるまれた体をモゾモゾと動かし始めた。

 

 甚兵衛は急に変わった息子に驚き、息子の様子を見てみると何やら手を動かしているのに気付いた。

 そしてタオルにくるまれた手を出させると手を握られた。

 

 それは骨がない為に関節があることを証明するシワすらない小さな手だった。しかしこの手は自分の息子であると実感させられる赤ん坊特有の体温の高い手だった。

 尚且つ息子から触れられたという事実と相まって甚兵衛は感動のあまりに涙が零れた。

 

 

 

ーー実はこの彩人の一連の行動は、何度か見た泣いた他の赤ん坊をあやす看護師達の行動を真似しようとしたものだったのだがそれを知るのは本人のみである。 

 

 

 

 また少しして、雨美と甚兵衛は彩人を抱きながらは話し合っていた。

 

「彩人は雨美の個性を受け継いだみたいだが大分かわってるなぁ」

 

「確かにそうねぇ、私も『個性』は『イカ』ではあるけれども随分と違うみたいね」

 

「俺にはあんまり似なかったみたいだしなぁ…」

 

「それは仕方ないわよ。『異形系個性』の見た目を両方受け継ぐのは難しいもの。…あっでも力が強いのと泳ぎが上手なのはあなた譲りじゃないかしら」

 

「そっそうか!」

 

 やはり父親としては息子は自分に似て欲しかったのだろう。少し残念そうな様子ではあったが妻に自分との共通点を指摘され嬉しそうに笑った。

 

「それとこの子の将来を考えると色々と大変ね。先生から聞いた話しだとこの子『個性』で結構やらかしてるみたいだし」

 

「まぁ、生まれたばかりだからな。それに生まれてすぐ『個性』が使えるのは将来が有望っていう証しでもあるぞ」

 

 もしかしたらヒーローになれるかもしれないな!と甚兵衛はおどけたように仄めかした。

 

「もうっ!これ以上この子が危険なことに会うなんて考えるだけでも怖いこと言わないで」

 

「そっそうだったな…すまない」

 

甚兵衛は自分が不用意な発言をしたことに気付き素直に謝った。改めて考えると自分でも恐ろしかったからだ。

 

「許します。…でもこの子にその道に進みたいって言われたら反対したいけど……難しいわね」

 

 生まれた直後からあなたそっくりで一途みたいだしね。と続けて言われた甚兵衛は恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 

「まぁ、兎に角元気に成長して欲しいってのが一番の願いだな」

 

 

 雨美はそれが一番ね、と頷くと甚兵衛と一緒になって息子…彩人を見詰めるのだった。

 




読了有り難う御座います。

主人公の両親は姿だけですが『侵略!イカ娘』の大人っぽくなったイカ娘と
『ONE PIECE』のジンベエ親分の若い頃をイメージしております。

次話から漸く年単位で時間を飛ばすようになります。
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