A long day、 Nishimura Fleet   作:石狩晴海

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第三話

 広く、全方に水平線が望める海洋に二本の脚で立つ人影6つ。

 港と海峡の浄化作業を行うため、鎮守府から派遣された艦娘たちの別働隊だ。

 6つの艦影のうち、青い制服の4人が高雄型重巡洋艦の四姉妹である。

 一番艦『高雄』以外の三人は損傷度合いが中破以上のひどい状態だった。ここに来るまで敵艦隊数4を相手に大立ち回りした結果だ。中心の二人を守る陣形を敷いていたため護衛役の高雄姉妹に攻撃が集中、被弾してしまっていた。見返りに中央の戦艦二人が主砲を迷いなく斉射でき、予定より早く進撃できた。

 

 その甲斐あって彼女たち()()()()()今、()()()()()()()

 

「作戦成功です。みなさん、大丈夫ですか?」

 長い黒髪をポニーテールにしている大型戦艦の片方が僚艦たちを労う。笑顔を見せて気を抜けたような顔をしているが、電探機能を持つ簪のような頭部艤装と手持ちの番傘は稼働し続けていた。

「戦没、落伍共に無し。艦隊枠がいっぱいで”むっちゃん”たちが編成されてなかったのが幸いだったのかな」

 それとも艦隊枠数を見越しての采配か。横の旗艦をちらっと見るが、色々な波が激しい互いの妹に対して彼女は何も言わなかった。

 敵の攻撃で衣服を破かれ胸の肉鞠下半分を晒す二番艦の『愛宕』。ぷろんぷろん、盛大に双房を弾ませながら味方の超戦艦に笑い返した。

「いやいやー、私沈んじゃうかと思ったわよー。てーとくの指示通り旗艦をしなくて正解だったわー」

「編成が良かったんですよ。御蔭で進軍中の旗艦引き継ぎ作業もなかったですし」

 二人のやり取りを聞いた四番艦『鳥海』は、こっそりと溜息をついた。メガネの片側入った大きなひび割れが気になり眉を顰める。

「この程度で運命が変わるなんて。天の采配は、誰にも解らないということですね」

 栗田艦隊が本来なら行った作戦行動を、艦娘たちは艦隊編成の段階で回避していた。その結果が、この早期レイテ湾到達と高雄型の残存だ。

 スリガオ海峡夜戦に先駆けて行われたシブヤン海海戦。主力である栗田艦隊はここで大損害を受け、所属艦数隻を沈められている。

 出撃する艦隊を変更するだけで事足りるなら、厳しく警戒しなくても良いと思いがちだが。

 事はそんな簡単には運ばない。鎮守府でのドタバタ生活でも”そうしなければならない”状態に陥ることがある。些細な出来事で本当にやるしかなくなるのだから、過去のトラウマたちが戦場で顔出すのではという恐怖はとても大きい。

 今回のシブヤン海横断とて、艦隊の総力を結集し尽力した上での辛勝だ。途中で何度かあの時が再現される……、と思わせる場面もあった。思い出すだけでも背筋に冷や汗が浮かぶ。

 南を向いて三本骨の番傘をかざす戦艦少女は、左足のオーバーニーソックスの穴に人差し指を差し入れた。ここまでの戦闘で受けてしまった唯一の損傷だ。

「『戦艦』に限らず、艦娘ってホント辛いわね」

 素地のゴムをパチンと鳴らして弾く。そこに書かれた『非理法権天』の文字が、太股の動きに合わせて揺れた。

 全ては天が定める権威法典の理りに従う。

 これは信念の叫びだったのか、それとも足掻きの嘆きか。この言葉を自分に掲げてくれた人たちはもういない。文字通り天に届かず、道の中場で断たれて終わった『自分』には答えを出せない問い掛けだ。

 だから超戦艦と同調して艦隊に復帰した時、一番最初にあの人に聞いた。

『私たちは誰なのか?』

 自分は『彼女たち』の答えを見つけ出すことができるのだろうか。

 有り大抵にいえば不安だった。自分に世界最大の戦艦なんて重責が務まるのか。

 彼の答えは、何よりも雄弁な無表情だった。

 執務室の机に両肘を置き、軽く指を組んだ両手で顔の下半分を隠す。目に見える部分は、眉一本動かさず瞬き一つもせず。怒っているような、泣いているような、笑っているような、悲しんでいるような。

 そして間を空けて出された一言に、とても深い親愛を感じらた。

『自分を決められるのは自分だけだ。艦隊司令だろうが艦娘だろうが、この業に違いはない』

 変わらずの自分で良い。それは自らが下した選択。最後の最後で自分に命令できるのは、自分だけ。

 だから解った。

 提督は、艦隊のことを第一に考えている。わたしたちのことを想ってくれている。

「それでね。私たちの運命が彼女たちの記憶に引きづられているのなら、提督もそうなのかなって思ったの」

 艦娘たちが旧海軍艦の写身なら、鎮守府にて指揮を執るあの人は何を背負っているのだろうか。

 皆に知られないように歴史書や古い記録を持ち出しては、熱心に勉強しているようだった。それは古に連合司令部が背負った苦悩を追体験するということ。

 彼は自分たちと同じ想い(歴史)を背負ってくれている。

 深海棲艦への対処もそうだ。記録と違う編成の艦隊で穢れたちを塗りつぶせば良いというわけではない。浄化する艦娘の力量練度が足りなければ返り討ちにあってしまう。編成編成で司令官に掛かる責務はとても重たい。

「ビッグ7はどう思う?」

 少女の質問に、長身の相方は腕を組み目を閉じて黙したまま微動だにしなかった。湾港に入ってからずっとこの形を崩さない。

 それが彼と同じ答え方であることを察し、傘の少女は微笑んだ。

 さすが巨砲の覇者(オールドネイビー)。よくわかっている。

 高雄型三番艦『摩耶』が物怖じせずに苦笑を漏らす。

「はあー、さすが未来にワープ航法までするような()は考え方が違うねえ。あたしには只の場違いなあんちゃんにしか見えないぜ。面白いやつとは思うけどさ」

「昔と今は別ってことだよ。私たちも、提督も」

 喋っていてはっきりと思い出した。あれは南方海域強襲偵察で回収された『彼女』の断片を前にした時のこと。

 強制ではないと彼は言った。実際、同調前の自分は彼の命令に従う義務を負っていなかった。

 それでもわたしは進んで水原へと歩きだした。自分の意思で歩を進めた。

 ワタシは『彼女』に選ばれたんじゃない。望んで『彼女』と一つになったんだ。艦娘であることを、『戦艦』であることを悔いることなんてない。

「一人じゃだめでも、私たちは艦娘なのよ。戦隊組んで、艦隊を構成して、連合して挑めば良い。昔はダメだったかもしれないけど、今の私達には出来るんだから!」

 彼女が言う私達の範囲には、この支援艦隊だけでなく、全ての艦娘、装備や鎮守府運営に関わる妖精たち、なにより総司令官である提督も含まれているのが解る。

 摩耶たちが見る先には水平線しか見えないが、測量儀や電探を動かす超戦艦は何を読み取っているのだろうか。

 おそらく南方のスリガオ海峡では今まさに歴史通りか覆るのか、瀬戸際の戦いが行われている。

 超戦艦が自艦隊を労い鼓舞する理由は西村艦隊の援護だ。栗田艦隊の南下が難しいならば、自身単独での突入を具申しかねない雰囲気だ。

 ポニーテールの少女が思わせぶりな仕草を続けるが、艦隊を預かる旗艦は黙して動かない。深く思考の海に潜っているのか、吉凶の報を待っているのか。

 ぷろぷろ。小さなプロペラ音が艦隊に近づいてきた。レイテ湾到着時に偵察へと出していた水上機だ。

 艦隊の殿を務める高雄型一番艦『高雄』が戻ってきた零式水上機を拾い、報告する。

「北方に穢艦(えがん)の反応と痕跡を多数発見しました。航路痕から小沢艦隊が挟撃される可能性もあります」

 高雄の言葉に番傘の少女が渋面になる。戦艦少女の願いが遠退いてしまった。

「先程から回されている電探で何を見ているのか、お教えいただいてもよろしいでしょうか」

 ビシッと背筋を伸ばし礼儀正しい高雄。

 悩む少女は、探っていた状況を僚艦たちへ伝達する。

 集められた情報は最悪と言えた。

 航路痕がありながら海運管制に登録情報がない。それすなわちまともな船ではない証拠。その上艦娘たちに感知されるとすれば海賊船ではなく幽霊船の側、深海棲艦であろう。

 今回のレイテ沖海戦には4つの艦隊が動いている。スリガオ海峡浄化の主力を務める西村艦隊以外に、共同でレイテ湾を攻略する栗田艦隊。それに外洋に逃げる穢艦たちを狩る志摩艦隊と小沢艦隊。

 北方の侵攻役が栗田艦隊で、後詰が『瑞鶴』たち航空母艦で固められた小沢艦隊になる。レイテ湾という巣を壊され散り散りに逃げる深海棲艦たちを、航空機の航続距離を利用して個別に浄化するのが小沢艦隊の役目だ。島々によって海域が限定される南側には、高速の水雷戦隊を主軸に据えた志摩艦隊で対応する。戦況作りとしては基本を抑えた堅実な艦隊構成である。

 その前段階として、穢れの吹き溜まりを南側から追い立てる役割を担う西村艦隊。スリガオ海峡からレイテ湾へ押し上げられ、密集して動きが鈍った深海棲艦を大火力で吹き飛ばす栗田艦隊。

 予定だけを見れば完璧な作戦だ。

 だが現実は艦内厨房製造の氷菓子ほど甘くはない。

 レイテ湾の深海棲艦たちが予想よりも数多かった。集まったのか新たに産まれ落ちたのかわからないが、敵艦隊の数が増殖していた。

 次に栗田艦隊が到着するより先に数を増やした穢艦たちが北側へ出立していた。今回の小沢艦隊は囮役ではないのだが、なんの因果か似たような戦況に陥っていた。

 栗田艦隊がレイテ湾に突入完了した段階で、終局のサマール沖海戦は既に回避できている。ならばエンガノ岬の悲劇阻止に注力すべきなのだが、問題は北側のみではない。

 嘗ての雪辱を果たすために奮起した栗田艦隊はレイテ湾に巣くう深海棲艦の大部分を打倒したが、通信妨害によって連携を欠いた攻撃は戦況の混迷を促進させてしまった。

 北側と同じく、栗田艦隊の火砲より先にスリガオ海峡へと南下した敵艦隊も少数ながら存在する。

 シブヤン海で取り逃がした重巡以下の艦も、志摩艦隊が上手く捕捉できていればいいが、スリガオ海峡に再集結されては面倒なことになる。

 西村艦隊の旗艦『山城』との電信が途絶え詳しい状況は解らないが、南下した穢れの艦たちが交戦状態に移行していることは見えた。まず間違いなく西村艦隊との戦闘だろう。

 戦線が二分化している上に、南北別々で戦力不足を抱えることになってしまった。

「推察される戦力比を考えれば、援護しないとやられてしまうかもしれないわ」

 電探で探った情報から、ポニーテールの少女が戦闘結果を予測する。

 少女はどちらの艦隊を援護するとは言わなかった。対象に西村小沢両艦隊が当てはまるのは誰にでも解る。奇しくもレイテ沖海戦で悲運に見舞われた2つの艦隊だ。

 こうした歴史の強制力を見せ付けられると心が折れそうになる。どれだけ頑張って手を尽くしても、傷つき血と涙を流しても、定められた運命は変えられない。自分たちの行動は徒労だと言われているようで、手先足先に枷と錘が結ぶ付けられた気分になる。

 だからといって、負けるわけにはいかない。

 少女には夢がある。些細な願いだけど、譲れない想いがある。

 ”あの時”のメンバーで沖縄の観光旅行をする。みんな笑顔で楽しく南国バカンスを満喫する。

 辛かった時代もあったけど、今はこんなにも幸せだと。世界に、歴史に、大声で『ありがとう』と叫ぶ。

 そのための対価なら、いくらでも払ってあげる!

 今一度、意思を固め直す。

 戦艦の少女はエンガノ側へ抜けた深海棲艦の数が少ないことを願い、状況不利と見て解る西村艦隊の援護を行いたかった。しかし偵察の結果、小沢艦隊の危機を知ってしまった。

 高雄たちの損傷状態から栗田艦隊全体の継戦能力と航行速度も下がっている。たとえ目の前の海峡を早急に制圧しても、エンガノ沖での海戦に間に合わなくなる。

 北か、南か。どちらの援護に向かうのか決断をしなければならない。

 この状態での戦力分割は愚策かもしれない。だが、戦闘力で計れば自分は単艦でもやれる。

 黙したままの旗艦に決意を告げようとすると、間に愛宕が割って入り手を上げて押し留めてきた。

「そんなことをしても、沈む船が二番艦から一番艦に変わるだけよ。ここがどこだか忘れちゃだめ」

 唇に人差し指を当て、愛らしくウィンクする愛宕。

 鳥海もメガネの位置を直し同型二番艦に続く。

「先程ご自身で仰られた連携とは、真逆の行動を考えていませんでしたか?」

 左右から挟まれ、少女は言葉に詰まった。

 摩耶はにやにやと笑ってる。

「それぞれが勝手に動いちゃ、レイテ突入はできなかったよな」

 高雄が一歩前に出て、敬礼した。

「私達は艦隊です。あなたたちをここまで守ってきたのは、作戦を完遂させるためです。作戦中の艦隊への命令権は、提督が指定した作戦旗艦が持ちます」

 作戦のために守った。勝手させるためじゃない。

 艦隊の行動を決めるのは旗艦だ。あなたではない。

 一つ一つ、正しい言葉が重い。自分が作戦旗艦だったらと、虫の好いことを考える。彼はここまで見越して、史実で旗艦を務めた自分を外したのか。

 落ち込む少女を見て、姿勢を戻した高雄は柔らかく笑った。

「信じてください。私達も、ご自身も。こうして話し合えるからこそ、私たちは艦娘と呼ばれるのですから」

「そうそう。私たちは非情無情のバケモノなんかじゃないんだから」

「姉貴は怪獣だろ。直径幅の」

「摩耶ちゃんは作戦が終わったら一緒にお風呂に入りましょうねー。ゆっくりと長い時間を掛けてスキンシップよ」

「おうよ。みてみろ。最悪こうして殴り合えば解り合えるさ」

「それは姉さんたちだけです」

 四姉妹が笑い合う。吊られて戦艦少女も口元を綻ばせる。

「なんか、励まされちゃったね」

 自分の言葉を反芻する。

 話し合おう。信じよう。昔と今は同じではない。みんなが一つになれば、悲劇はきっと変えられる。

 自然と栗田艦隊の視線が旗艦に集まり、判断を待つ。

 それまで不動を貫いていた長身長髪の彼女が目を開いた。

「……高雄たちがここまで守ってくれた。ならば今度は私達が他の艦隊を助ける番だ」

 迫力は凄まじく、仁王立ちのままでありながら周囲の海面を波立たせる。

「救うのは一つだけではない。全てを賭して全てを救う。諦めるのは、沈むのは、なにもかも果て尽くしたその後だ!」

 彼女は珍しい経歴を持つ艦娘だ。なにしろモデル元の『本体』と会うことが出来る。

 『本体』は十全に力を発揮する場を得られず、8月15日の横須賀で苦汁を舐めることとなった戦艦だ。耐え難きを耐え忍び難きを忍び。大戦を生き延びた大戦艦は戦勝国側への賠償に引渡され、新型爆弾の標的艦として最後を迎える。その巨体はビキニの珊瑚を寝床と定め、今でも大洋の海底に横たわっている。

 世界七大戦艦の筆頭、唯一形を残す大艦巨砲主義の象徴。海洋の古強者は、誰にも看取られず深夜に一人沈むその時まで海上で威容を示し戦い続けた。

 不撓不屈を体現した『本体』と”直接面会”し魂を譲り受け引き継いた艦娘が、彼女だ。艦娘の特性にモデル元からの記憶継承があるが、彼女ほどごく自然に、そして完全に融合している例は数少ない。

「これより我が栗田艦隊は南方突入隊援護の為、艦砲射撃を行う!」

 旗艦の命令に戦艦少女は少し驚く。北側を見捨てるのなら、先ほどの宣言はなんだったのか。

「それでいいの?」

「あちらには切り札がある。いつ使うかは先輩なら(たが)えまい。後押しの援護なぞ一度で十分」

「なによ、それ。切り札なんて聞いてないわ」

 今度は別の意味で驚く。おそらく提督がスリガオ海峡突破の為に用意した仕掛けだろう。栗田艦隊所属の自分に知らせられていないのはわかるが、旗艦にだけ伝えられていたことに嫉妬する。自分が焦りに空回りしていたことを理解した戦艦少女は頬をふくらませた。帰ったら、教えてくれなかった仕返しにほっぺを抓ってやる。

 後輩の可愛らしい仕草に、旗艦がニヒルに笑い返した。

「言ったはずだ。最後の一滴まで力を絞り出すと。全力を果たすのは自分たちだけではない。信じてやろうではないか。超弩級戦艦の意地と誇りを」

 旗艦は少女の胸を軽く叩いた。手甲と胸がコーンと高い音を鳴らす。

 これはズルい。彼女に戦艦の矜持を掲げられては反論できない。

 続けて長身の大戦艦は高雄姉妹へ命令と飛ばす。

「砲撃後に全速反転、小沢艦隊への合流を目的に直線しつつ敵船影の再索敵に入る。切込み役は摩耶、お前だ」

「よし、まかせとけ」

 摩耶は右腕に装着している対空高射砲を魅せつけるようにガッツポーズする。左腕は先の戦闘でひどく負傷しており、応急処置として首から三角筋で吊るされていた。頭部にも包帯が巻かれた痛々しい姿だが、摩耶の戦意はいささかも衰えていない。

 発見した船影に対して密な索敵と同時に追撃戦もしくは同航戦を仕掛けるつもりだ。相手側の哨戒機に対しては、対空番長の異名を持つ摩耶が先頭に立たせることでこれを迎え撃ち無力化させる。

 鳥海が呆れ気味に嘆息する。

「結局、反転離脱することになりましたか。理由がはっきりしているので”謎”ではありませんが」

 ポニーテールの少女が頭の15m測距儀とレーダー傘をくるくると回す。

「わたしたちでも直線なら速力が稼げるから、絶対に間に合わせるわよ」

 高雄は観測機を回収して、乗組員の妖精さんを労いながら格納した。

「旗艦の全速は震災救助の時にバレちゃってますしね。隠すまでもないですか」

 そういえばそうだ。高雄と二人で笑い合う。

 返す返すも面白い。戦争をするための超大型兵器である彼女(オールドネイビー)は、いつだって、人々を守るため、命を救うために戦ってきた。

「全艦前進。砲撃準備、急げ!」

 旗艦の彼女が命令した。全員が待ってましたと同調する。

 摩耶が先行し、続く戦艦の二人もゆっくりと加速しながら続く。

 レイテ湾からスリガオ海峡へ入り口まで進み、艦隊が面舵を切る。射撃方向に左舷を晒し、砲門を一点に集中させた。

 少女は高揚した気分を表すように、レーダー傘を高く掲げる。囮役の自分たちが相手に良く見えるように、標的となる相手の姿が良く見えるように。

 果たして西村艦隊の旗艦を囲む穢れの大型艦数隻を捉えた。

「目標捕捉! さあ、世界最大の援護射撃よ。たとえ十里先の的にだって当ててみせるわ!」

「全門斉射、撃てーっ!!」

 旗艦の号令に、世界最強の暴火力が続く。

 

「46センチ三連装砲、全三基九門斉射。スリガオの暗闇を、薙ぎ払えっ!」

 

 砲口が咆哮を上げ、砲弾射出の衝撃波で彼女たち自慢の船体が軋み、膨大な力の放出は砲門側の海面を大きく真円に窪ませた。その直径は砲手の全長と比べても半分以上の大きさになる。

 人の認識が世界を隔てる垣根であるのなら、彼女たちの砲撃は正しく世界を砕く威力を持つ。

 世界最大。

 この定義に偽りなどない。

 一度ならず二度までも世界の限界を打ち破った爆音が、海原に響き轟いた。

 

▲*▲

 

「時雨、合図をしたら走りなさい」

 扶桑の言葉に時雨は顔を上げて驚く。

 穢れの水雷戦隊との砲撃中、敵軽巡へ級を扶桑の主砲が打ち砕いた瞬間だった。

 山城たちが敵大型艦を引き離した後、扶桑たち三人は残った深海棲艦たちとの砲雷撃戦を繰り広げてた。

 一時離脱した味方艦との合流を目指し西へ進もうとする扶桑たちと、阻害する深海棲艦。それぞれの思惑が、航路を複雑に絡ませ合う。

 保護曳航していた瑞雲たちをひとまず逃しはしたが、一番大きな枷が残っていて思うように進めないでいた。

 唇を噛み締めた扶桑が、時雨に告げる。

「足手まといが居ては、手遅れになってしまうわ。お願いされてくれないかしら……」

 超弩級戦艦の祈りにも似た言葉。

 散々な評価を受ける扶桑型戦艦だが、扶桑本人は努めて自虐を口にしない。それ以上に妹を気遣いすらしている。

 そんな扶桑が『足手まとい』と自らの卑下した。

 時雨は高角砲のグリップを潰さんばかりに握り込む。扶桑の悲しそうな笑顔が、純粋に悔しかった。

 確かに、自分たちが敵艦隊を振り切れないのは、只でさえ脚の遅い扶桑が片足を封じられているためだ。満潮に切れた鼻緒を繕ってもらったが、最初の魚雷で水上下駄自体にダメージが入ってたようだ。

 思うように動けない扶桑が穢艦たちに囲まれないよう、満潮と二人で庇う様に挟み、走り回って援護している。それこそ時雨たちが山城たちのもとに向かえない理由だった。

 駆逐艦一隻なら、簡単に抜け出せる程度の包囲戦。

 元々南側から上がってきた敵の水雷戦隊は、損傷艦で構成された残存部隊だ。おそらくシブヤン海で栗田艦隊に敗北した艦隊の生き残りが、レイテ湾までの迂回路としてスリガオ海峡を通ろうとしたために自然発生したものだろう。どれもが大なり小なり損傷を抱えていて脆くなっている。今も満潮の水雷撃で一隻の手負いの駆逐ロ級が撃沈した。

 囲う側の数が減れば突破も容易になる。殿を任せて先に進めと長身の戦艦は言う。時雨は承服しかねた。

 自分がここを離れては、昔と同じく二人を残すことになる。

「ダメだ。今度こそみんなで進むんだ」

 扶桑は上げている片足を軽く叩く。

「私がこんな状態だから、頼んでいるの。山城をお願いね、っと……」

 背中の巨大艤装が災いし大きくバランスを崩した。

 時雨は慌てて彼女に駆け寄るが、駆逐艦の肩を借りるまでもなく扶桑が姿勢を戻す。

「大丈夫よ。さすがに船体が裂かれたり、艦橋を彷徨わせる姿を二度も晒すつもりは無いわ」

 意外としっかりとした体幹で立つ扶桑を見上げる。

 わざと傾いて時雨を呼び寄せたのかと考えたが、戦艦の指は震えていた。

「現実をちゃんと受け止めないと、自分たちに何が出来るかさえわからなくなってしまう。積み上げてきた努力を、無駄にしてはいけないわ」

 扶桑と時雨は今まで準備をしてきた。いつかやってくるであろう、このスリガオの再現(悪夢)を乗り越えるために……。

 二人を周回円の中心にして、穢艦たちと牽制をし合う満潮が言う。

「努力ねえ。もしかして、その艤装で自分を『戦艦』に見立てて、二人のかわりに沈むつもりだったの?」

 時雨は僚艦の疑問に沈黙しか返せなかった。

 図星と読み取った満潮が立腹する。

「バカじゃないの! そんな考えをする方が恥ずかしいわよ」

 微笑む扶桑は髪飾りの一つを外すと、時雨の髪に付け替えた。

「でもそれだけじゃないから、あまり怒らないであげて」

 戦艦に庇われた駆逐艦は、自分の髪に手をやり困惑する。

「これは……?」

「最上に着けてはいけないでしょうから」

 扶桑は悪戯っぽく笑う。上品な微笑だ。

 『山城』は後方に続く『最上』を『扶桑』と誤認し、最後までスリガオ海峡の強行突破を指揮した。『扶桑』が最初の雷撃で落伍せずにいたのなら、その砲撃で敵艦隊に一矢報いたかもしれない。あの時『山城』の後続にいたのは損傷した『最上』と『時雨』だけで、反撃すら満足にできず引き返すことになる。

 この髪飾りは何を願ったものか。時雨が問いかける前に、持ち主が笑顔で告げる。

「もう一度、私を妹に会わせてくれないかしら?」

 呉と佐世保を代表する駆逐艦は、無事に帰港することからも市井に知られていた。

 帰ってくる。搭乗する艦が『雪風』『時雨』ならば、もう一度会うことが出来る。『幸運艦』とはそう言う船だ。

 時雨はスカートのポケットに手を差し入れ、小箱を握り締めた。

 髪飾りを自身に見立て、西村艦隊の旗艦に会わせてほしいと言うことか。

 二人を包囲せんとする穢れの艦たちが、機を見計らい魚雷を発射してきた。攻撃してきた深海棲艦は三隻。動きの鈍い扶桑が狙われる。

「長々と話し込む余裕はないわよ。さっさと決めなさい!」

 満潮が雷撃の打ち返しで、一隻だけ狙いを外させる。

 それでも2つの魚雷航跡が扶桑に向かってきた。

 時雨は咄嗟に扶桑を助けようと腰に組み付き押し出そうとした。

 一瞬、超弩級戦艦が微動だにしないことに驚き、自分の失策を理解する。

 出航前、満潮がどれだけ押しても山城は動かせなかった。今の時雨も同じである。単純に押しては効果がない。

 それなら扶桑に残された推力も利用して回頭させる。

 扶桑の腰を一度押した後、肩と手を取り身を反らす。

 二人はダンスを踊るようにして回転して、足元を魚雷がすり抜けていった。

「あら、ふふふ。さすが『佐世保の時雨』ね」

「偶然だよ。こんなの」

「そうかしら。あなたの機転が昔とは違う結果を引き出したのだと思うけど」

 笑う扶桑が言うとおり、敵魚雷が『時雨』の下を素通りし戦艦に命中したスリガオ海峡の戦い。原因理由は単純で、魚雷の深度設定が戦艦を標的にしていたから駆逐艦の『時雨』には反応しなかっただけのこと。

 些細ながら史実を覆したことに、踊る扶桑は子供のように高揚した微笑を浮かべた。

「ああ、まるで私まで幸運になったみたい……」

「確かにこれは運が良かったってことだよね」

 我ながらの幸運に呆れながら、時雨は心を決めた。

 歴戦の武勲艦と呼ばれても、数ある駆逐艦の一隻でしかない。激戦を生き延びたから『幸運艦』と呼ばれるが、全ての戦果を輝かしく誇ることは出来ない。

 『幸運』の根底には、人々の意思による必然の積み重ねがあった。艦を沈ませないように乗組員たちは決死の努力をしてきた。まさに血が滲み命を削る訓練をして、仲間たちの死を乗り越えてきた。

 『時雨』は無傷だった戦いを喧伝されたが、本当は作戦に出れば損傷することが常だった。『時雨』の修繕履歴は海軍の記録情報として目に見える形で残されている。乗組員名簿の中には負傷戦死者だっている。

 こんなありふれた型落ち駆逐艦のどこが『幸運艦』と呼べるのだろう。

 スリガオの生存も、度重なる修復と改修によっても対空・電探装備を追加されていた御蔭でもある。

 『佐世保の時雨』に関しては造られた栄誉に見えなくもない部分があるが、全ての戦歴が『幸運』だからで済まされるものではない。

 他と比べて被害が少なかった、海の上に長く浮かんでいられた。それだけの違いしかない。何度となく傷ついた経験から、いつ自分が『幸運』の向こう側に転げ落ちても不思議ではないことを知っている。現に『時雨』はあの夏の長い一日より先に、海上から姿を消していた。

 胸の奥で渦巻く苦しみ怒り痛み嘆き憤りに、なによりも『時雨』が二度も体験した全てを失う極大の敗北感に、『幸運』なんていう便利な言葉で蓋をしたくない。

 だからこそ、今度こそ自分たちの手で勝利を掴むんだ。そのためなら駆逐艦『時雨』の『幸運』だって使ってやる。

 武勲艦の決意を読み取った扶桑が稼働する主砲を全て使い、深海棲艦たちに砲撃する。

 時雨を行かせるための牽制だ。

「さあ、行きなさい! 西村艦隊の命運、あなたの預けるわ」

「先にいくよ。すぐに追いかけて来てね」

 時雨は扶桑の手を離し、飛び出す。戦艦の排水量を錘にしての擬似的なカタパルト射出される。砲弾が届くより先に、急加速を受けた時雨の船体は先を進んでいた。

 駆け抜ける。白露型二番艦『佐世保の時雨』がスリガオ海峡を走る。

 それでも行く手を塞ごうと回り込む軽巡ト級と駆逐ロ級へ、行き掛けの駄賃とばかりに砲撃する。

「誰も沈ませないし、僕の邪魔はさせない」

 軽巡ト級は放たれた砲弾を避けるために蛇行、艦娘の駆逐艦に追いつけなくなった。駆逐ロ級は反撃をまともに受けてしまい、船首から海面下に沈んでゆく。

 せめて一矢と軽巡ト級は戦線離脱する時雨の背中に向けて主砲を構えるが、放たれた砲弾は全力でひた走る目標に届かなかった。

 僚艦の離脱を確認した満潮は、扶桑に船体を寄せる。

「頭数を減らすからには、ちゃんと勝算を残しているんでしょうね。これで考え無しだったり、歴史をなぞるだけなら怒るわよ」

 敵残存水雷戦隊は重巡リ級、雷巡チ級、軽巡ト級。どれも損傷が軽いものばかり。戦い方によってはダメージを抱える満潮扶桑のどちらかを撃沈できる火力を残している。

 突然、扶桑は満潮を背後から抱きしめた。

「ちょ、ちょっと何するのよ。重たいじゃない。脚が痛いからって寄りかからないでよ」

「そう言われても……。満潮だって右腕が折れているんじゃなくて?」

 戦艦の静かな追求に、満潮の眉間に皺が寄せられる。

 決して頭上に載せられた二つの脂肪塊が不愉快なわけではない。上半身の装束がほとんど吹き飛ばされているので柔らかい肌感触を直に感じるが、絶対に自軍戦力と比較してのぐぬぬという顔ではない。これは痛みを堪える表情だ。

 大戦力で分断されてからの満潮は、左腕の魚雷しか使っていなかった。右の主砲は構えられることがあっても使用されない。

 被弾からの復旧が終わっていないだけではなく、時折片腕を力なく垂らしていたことから状態を言い当てられた。先の戦闘後に掛けられた時雨の心配は、直球ど真ん中で当たっていたのだった。

「強がりも良いけれど、損傷報告はちゃんとしましょうね……」

「気付いていたのなら余計も余計よ。時雨を先行させたことも、私が満足に戦えないことも、どうやって対処するっていうの」

 時雨を追いかけるのを早々に諦めた軽巡ト級が再度転進して、扶桑と満潮を囲もうとする。

 二人は遅い脚で懸命に進みながら、出来る限り包囲網を組ませない様に転舵と砲撃を続ける。

 穢れの艦も扶桑たちを海底に誘おうと攻勢を強めた。砲弾が雨霰と降り注がせる。

 至近弾が立ち上らせる水柱と水滴に眼を顰める満潮は、この弾雨をどうしてくれようかと思案する。

 ……ふと、弾雨という言葉が気になった。

 どこで聞いたのか満潮が思い出す前に、扶桑から切り出してきた。

「そろそろ弾雨に止んでもらいましょう。そのために……」

 長身の美女が頬を染めて気恥ずかしそうに言う。

「プ……、プレゼントを、貰ってもいいかしら?」

「はぁっ!?」

 満潮は自分でも険悪と思う返答をした。目尻を吊り上げ高い声で不審感を態度に出す。

 危機的状況でなに乙女なことを口走るのよ、この欠陥戦艦は。自分から贈り物を要求するなんてはしたない。そんな古めかしい価値観を持っていそうで、口から甘い甘い間宮羊羹が出そうになる。

 もじもじと身を捻る扶桑を気持ち悪いと思いながらも、少しずつ満潮の中で言葉が繋がれてゆく。

 弾雨を止める。プレゼント。関連するとしたら、時雨から渡されたあの小箱のことか。

「右手では物を掴めないでしょ。私が取ってもいいかしら?」

「……好きにしたら」

 後ろからくっついてきたのはそのためか。片腕を負傷している満潮を援護する意味もあるだろうが、これが本命だったんだ。

 持ち主の了解を得て、扶桑が駆逐艦娘のスカートポケットから『遠征』用の小箱を取り出す。

 そのまま満潮の目の前に持ってくる。どうやら開けるのは満潮の役目ということらしい。

 心の底から呆れながら、満潮が小箱を開封した。

 大日本帝国海軍が独自に設計した超弩級戦艦の第一号。その手の平から光が溢れ出す。

 この小箱には、態々術式を使った空間圧縮で体積やら重量やらを減少軽減する仕組みが組み込まれているそうだ。『遠征』先で見つけたものを適当に放り込んでも嵩張らずに持ち帰ることができる。しかも内蔵量で外側の色が変わる機能付き。重量軽減で中身の予想が難しくても、小箱の色で判別できるようになっていた。

 とても便利な収納道具だが、それを今ここで広げる意味が満潮には解らない。

 ()して小箱の色は”内容量一杯を示す赤色”をしている。こんな所で大量のお小遣いを広げてどうするというのか。

 おそらく全てを知っている扶桑が、顕現光の中へ手を伸ばす。

 その時、満潮は深海棲艦たちの砲弾の中から直撃するものを見つけた。明確な観測データではなく、狙われた側の直感だ。小箱の顕現光で視界を遮られ、回避が遅れたのもある。

 まずい。駆逐艦は被弾の損傷が少ないことを願い、衝撃に備えて眼を閉じる。

 目前で、ごがんっと大きな着弾音。

 扶桑が満潮を庇ったようだが、時雨のように踊って立ち位置を入れ替えたわけではない。

 一体どうやって?

 恐る恐る瞼を押し上げる。

 敵の砲弾を弾いたのは、扶桑の船体ではなく左腕が握る変形五角形の黒い板だった。

 自分を覆い隠すほどの大きな板に、満潮が見たままの印象を口にする。

「これは楯、なの?」

「いいえ、()()()()よ」

 言って扶桑は、細く白い指で、力強く持ち手を握り直した。

 

◆*◆

 

 時雨が走る。

 山城と最上を追って北西へと進みながら、電探を稼働させ二人を位置を詳細に探す。

 単艦でこの場所を走っていると、どうしても艦の記憶が浮き出てきてしまう。

 だが、今の時雨は心穏やかにいられた。

 自分は一人じゃない。一人でいないために、走っている。

 山城へ渡す小箱を握り、『佐世保の時雨』は恐れることなく悪夢の一夜を振り返る。

 豪雨よりも激しい無数の砲弾を受け、至近弾の衝撃で何度も船体が浮き上がった。その度に海面に叩きつけられ、船内を撹拌させられた。折角増強した電探も、アンテナやメーターの類が軒並み破壊され使用不能になった。

 あの時のように計器類が吹っ飛んでなくて助かった。自分がどこに向かってるのか、方位と距離がはっきりと解る。

 落伍炎上する『扶桑』に照らされて敵陣に突撃したが、今の時雨の背を押す光は彼女の信頼だ。もう僚艦を焼く炎の熱に背筋を凍らせることもない。

 眼前を塞ぐ砦のような敵艦隊、永久に届かない遠い遠いレイテ湾。

 そんなものは、ない。このレイテ島に寄生する深海の穢れたちが、昔の記憶を模倣しているだけだ。

「『ぜったい、だいじょうぶ』……。うん、そうだよね」

 『呉の』の口癖をつぶやく。

 止まない雨はない。明けない夜もない。延々と続く水平線にだって、いつか港が姿を見せる。

 信じて走る。

 狭いスリガオ海峡。離れるといっても、遠くは無いはずだ。

 見れば、向かい左舷に艦影発見。最上が敵重巡を引き連れて逃げてきていた。

 涙の跡を拭いもせずに最上が大声を張り上げる。

「しぐれぇー! 山城さんがー!」

「わかってる! そのまま扶桑のところまで! 迎え撃てるから!」

「りょうかぁーいっ!」

 二人して叫び合う。

 時雨は進路を変更して最上と真正面に向き合った。機関最大、両舷全速、全力で突き進む。

 最上と擦れ違う瞬間に、ハイタッチ。言葉も合図も無しに決まった。

 そして高速の反航戦。時雨は砲弾と魚雷を発射。狙いも甘く、追撃妨害が目的の攻撃だった。

 穢れの重巡たちは、たかが一隻の駆逐艦に何ができると侮っていたのか、時雨に目もくれなかった。軽く蛇行や増減速をするだけで目立った対処をしない。

 作戦の途中で標的を分散させるのは下策だ。重巡リ級の判断が間違っていたわけではない。

 高速で向かい合う場合は、自分と相手の速度と進路を正確に予想しないと命中しない。向かってくる時雨を狙うより、追撃する最上を攻撃した方が命中させやすい。当たり前の判断である。

 しかし現実は非情である。穢艦は運が悪かった。『時雨』は運が良かった。

 最上を追走する三隻の重巡の内、一隻が盛大に艦首を持ち上げて横転した。時雨の魚雷がベストタイミングで舳先に着弾。高速航行の慣性も加わってバランスを保てず転覆轟沈した。

「あぁーっと、キミは巡り合わせが悪かったようだね」

 時雨本人も驚く、完全なラッキーヒットだった。

 離れてゆく最上が歓声を上げる。

「流石、佐世保の!」

「偶然だよ。そっちが注意を引いてくれたおかげさ」

 一言だけ交わして、二人は互いの背中も見ずに走り去った。

 

◆*◆

 

 戦艦三隻、空母三隻に護衛の軽巡と駆逐艦。多勢に囲まれた絶望的な状況でも山城の心は穏やかだった。

 山城が主砲を撃つ前に、深海棲艦たちの砲門が火を吹くのは明らかだ。それでも最後の最後まで戦えたことに多少なりとも充足感を覚えていた。

 スリガオ海峡で戦って散る。戦艦『山城』の最後として余分も不足もない幕引き。

 ねえさま、山城はあの天の海にてお待ちしております。

 再会を願って空を見上げた山城は、違和感を覚えた。

「あれは……?」

 見つけたのは北側の空から飛来する多数の砲弾。

 穢れの戦艦たちの砲弾ではない。もっと遠方から飛んで……。

 考えるより先に、音速を越えた砲弾が穢れの集合体に降り注ぐ。飛来音が着水の衝撃と重なって聞こえた。

 深海棲艦たちが不意打ちに驚く。直撃していないのに砲弾が当たるのだ。

 山城は知っている。これこそが海中に没してから水平弾道に切り替わる九一式徹甲弾。海中で弾頭尖型帽を外した砲弾は目標の船腹に突き刺さる。砲弾が水没しても弾道の先に標的があるのなら、命中させることができる。なによりも九一式の潜行命中で大穴が開くのは、相手の喫水下だ。

 この砲弾を装填出来るのは、強力な火砲を装備する戦艦のみ。

 砲弾が飛んできた方角を電探で遠見した山城は、水平線の向こう側、西村艦隊が目指すべきレイテ湾で反転離脱する艦娘たちを感知した。

 一回だけの砲撃支援。残りは自分やれということだろう。

「余計なことを……」

 折角の決意に水を差された気分だったが、気持ちとは別に山城の表情に険は無い。

 砲撃支援で被害を受けたのは後列の空母たちだ。

 一隻が撃沈。もう一隻は無事だったが、旗艦である赤い強化体は被弾し頭の甲板部分(帽子)を傾斜させている。艦載機を飛ばすにも、船体の復旧が必要だ。

 世界最大の支援砲弾を受けて、護衛にいた軽巡も一隻が消失。

 強固な装甲を持つ戦艦たちも無傷ではいられない。撃沈する戦艦こそなかったが、三隻とも小破以下の損傷を受けた。足並みを揃えることがむずくかしなり、艦隊行動や連携に支障が出る。

 一つの案が、山城の中で閃く。

 隊列を乱した戦艦たちの内部に入り込み、誤射を警戒させて主砲を封じる。数頼みの副砲で嬲られるだろうが、装甲が保つ間に一回は主砲が使える。ダメージコントール中で連携が計り辛い今がチャンスだ。一隻は巻き添えにする覚悟で進もうとした。

「待って、山城!」

 玉砕を止める声は、全力で疾走る駆逐艦『時雨』だ。

 山城の援護に現れた時雨は、小箱を背嚢の主砲に先詰めして打ち出す。

「これを使って!」

 山なりに飛ばされた赤い綴り模様の小箱が、穢艦の包囲を飛び越えて山城の元に届けられた。

 思わず受けて止めた山城は思い返す。別れ際に姉が言った『時雨を……』というのは、このことか。

 引き換えに時雨の引き止めは穢れの戦艦たちに攻撃の猶予を与えた。船体が損傷していても稼働する砲塔はある。山城が得た反撃の好機は、一転して再び窮地に変わる。

 二隻の戦艦ル級が両手の主砲で山城を撃った。 既に大破炎上している山城に止めとなる砲撃。

 だが撃沈の宣告は、山城が開いた小箱の顕現光によって弾き返される。

 狭処に押し込められていた物質が元の形に復元する際に放つ光。その中から黒く大きな板が現れる。

「あ、ああ……」

 山城の心に無数の感情がひしめき、言葉に詰まる。それでもおもむろに右手を伸ばして、出現した板を手に取った。

 戦艦『山城』が艤装することの出来なかった航空甲板。扶桑型の艦種転換改造は計画のみで終わった。歴史には存在しない装備だ。

 だが確かに、ずっしりと、重く、冷たく、しかし熱く、腕の内にある。

 これは未来への手形。過去とは違う『山城』の(かたち)

 荒れ狂う海上で命の天秤を水平に抑え、西村艦隊の撃沈を否定する屈強な浮き板だ。

 航空甲板からわらっと妖精たちが湧き出して来て、大破撃沈寸前の山城の応急対応を始めた。応対要員の追加によって艦上火災が勢いを弱めだす。

 復調する山城を再び水底(みなぞこ)へ落としめようと、穢れの戦艦たちが砲撃を続けてきた。

 山城の状態は救助を受けて立て直し始めただけで、囲まれている窮地は変わらない。

 どう凌ぐのかと考える前に、あるものが目にとまった。

 航空甲板の裏側で一人の妖精が蹲り耳を塞ぐ仕草をしていた。

 意図を察して命令する。

「総員、対衝撃防御」

 『航空戦艦』の指示に、その甲板長妖精が深く頷いた。即座に部下たちへ命令を伝達する。

 山城は海面にしゃがみ込み、航空甲板に身体を隠す。敵から見えるのは、航空甲板と大きな艤装だけになった。

 ”航空戦艦化によって減少したバイタルパート”を活かして集中防御する。亀が甲羅に引きこもるように、柔らかい部分を鋼鉄の艤装で覆い隠す。

 これが答えだ。

 深海棲艦の戦艦種三隻が一斉に砲撃する。

 何度目かになる砲弾の雨。しかし今度は損傷を大きくすることなく敵砲撃に耐えた。

 楯となった航空甲板と、この瞬間にも山城の維持に奔走するダメコン妖精たち。身を低くしたのも効果があったのだろうか。そして何より……。

 時雨の砲撃が、一隻の戦艦ル級を痛打していた。

「人を無視するのは、あまり歓心しないね」

 駆逐艦から妨害で艦橋被弾、正確な砲撃が出来なかった。

 山城に航空甲板を渡した時雨は面舵を切った。あえて山城と合流せずに、敵艦隊を挟み込む位置を目指していた。たった二隻では満足に陣形を組めない。それならばいっその事と、思い切った考えだ。

 駆逐艦単騎なのに大胆な行動ね。

 山城は僚艦の行動に呆れるやら、恐れるやら。『戦艦』である山城ですら相手戦力に打ちのめされたのだ。単艦の『駆逐艦』が狙われれば一溜まりもないはず。

 こうした時雨の思い切りの良さに、あの『狂犬』と同型だということを実感する。

 何はともあれ、防御できたのならやることは一つ。

 今こそ『戦艦』の本分を果たす。

 山城は今一度自分の腕で砲身を支え、叫んだ。

「主砲、発射準備。目標、敵戦艦! 撃てー!!」

 『戦艦』とは、圧倒的な砲火力を用い敵を撃滅する海戦の王者だ。航空機で艦艇を撃沈させる用法が判明したあの時代には、もはや過去の産物だったのだろう。それでも『山城』には、かの勇猛果敢な者(ドレッドノート)を始点とする大型戦艦の過渡期に建造された誇りがある。この力は決して無駄ではない。

 半壊した山城の艤装で発砲可能な砲身は左1、右3。そのうち右一つを自分の手で持ち上げている。

 火を吹いた砲身に右腕が痺れる。指先が痛い。爪が内出血で赤黒く変色したかもしれない。それでも気迫と意地で砲撃を成功させる。

 一発の砲弾が時雨の攻撃に首を捻っていた戦艦ル級に直撃。胴に風穴を開け、爆破炎上して倒れた。

 戦艦ル級の撃破を見て、片腕を使って帽子を支える強化体の空母ヲ級と、同じく赤い戦艦ル級が目配せする。

 赤光の二隻は山城たちに背を向けて北上を始めた。護衛役の軽巡へ級、駆逐ニ級も後に続く。

 山城は艦隊の損耗を鑑みての一時離脱と推察する。戦力を再編成し、艦隊を立て直すつもりだろう。

 易くはさせじと追撃戦を決める前に、山城と時雨には門番が立ちはだかった。

 損傷の無い空母ヲ級が航空機を残し、一隻の戦艦ル級が殿となって二人を阻む。思考が浅い深海棲艦だが、最低限の活動はする。艦娘たちの思惑を挫くべく動いてくる。

 山城は仕方なしに航空甲板を構え、時雨に命令する。

「遊撃はもういいわ。こちらに来なさい」

 対空迎撃の機銃範囲を重ねて、さらに水上機を出して防御を固める。二隻では効果が薄い陣形だが、直掩(ちょくえん)の艦載機があるのなら固まった方が有利だ。

 しかし何事も上手くいくとは限らない。

「どうすれば出せるのよ! もうっ」

 大楯の航空甲板に痛みで震える指を差し入れてあれこれと触るが、艦載機が取り出せない。渡されたばかりで慣熟していない艤装に、山城が苦戦する。

 時雨も高角砲を構えて山城に急接近。

「とにかく機銃で迎撃しよう。今は楯として割り切らないと」

 仕方なく時雨の進言を受け入れた。

 逸る山城と時雨だが、二人が揃う前に敵の艦載機が到達した。個別に狙い撃つ。狙いは時雨。

「引き撃ちなら……」

 山城へと向かいながら、時雨は穢れの艦載機たちを引きつけ撃ち落とそうとする。

 幸いに時雨は雷撃機落としを得意とする駆逐艦だ。とはいえ成功率は芳しくないし、今の相手には爆撃機も混じっている。

 それでも運勝負なら負けないと気を張る時雨の頭上に、水上偵察爆撃機瑞雲の二小隊が飛来し守りに入った。

 山城が発艦できたのかと目を向けると、作戦旗艦は突然現れた瑞雲たちに驚いていた。

 なるほど。これはあの人の艦載機か。

 納得して安堵した時雨は、丁寧に照準を定め穢れの航空機に牽制の発砲。

 穢れに対抗する艦載機は駆逐艦と連係し、時雨を味方の戦艦が固辞する対空機銃圏にまで守り通した。

 集まった二人に戦艦ル級が近接し砲撃しようとしたところを、遠距離からの砲弾が撃ち貫ぬく。巨大な水柱を上げて大型の深海棲艦が沈んだ。

「この瑞雲はいったいどこから……」

 山城はこと成り行きに呆然とした。空を飛ぶ真新しい瑞雲たちを眺める。

 最上の艦載機は、もうほとんど残っていなかったはずだ。自分の航空甲板は機構が閉じたままで動かせていない。

 答えは時雨が教えてくれた。

「山城が持っているものは、向こうにもあるんだよ」

 南を指す指を追って視線を動かす。

 この忌まわしく狭いスリガオ海峡を、最上と満潮に支えられながらやってくる最愛の姉が見えた。その左腕に山城と同じ黒い大楯の航空甲板を下げ、三人の頭上を瑞雲たちが飛び回っていた。

 

◆*◆

 

 スリガオ海峡の中場。レイテ島南部の東海岸側で、危機的な状況を脱し再集結した西村艦隊。

 満身創痍で片軸を失っている山城だが、跳ねるように前に出て同型一番艦に飛びついた。

「扶桑姉さま……!」

「よく無事でいてくれたわ。本当に良かった……」

 傷だらけで涙する妹を、扶桑は剥き出しの乳房で受け止めた。

 山城は豊満な感触を顔全体で堪能して安心する。危機を切り抜けた安堵感が加算され、涙が止まらない。背中に腕を回して泣き縋る。

 泣き声は、強く抱き返されることでより広く響く。

 そして応急隊員たちの活躍で艤装の火災が収まるのと同期するように、小さく啜り泣きに変わっていった。

 航空巡洋艦『最上』がはにかみながら、感動対面中の『山城』の顔を覗き込む。

「山城さん、山城さん」

 姉に甘える戦艦はお邪魔虫を睨みつけたが、最上は少しだけ怯みはしても引き下がらなかった。

「みんなが揃ったから、指揮系統の明確にして欲しいんだけどさ」

「……別にどうでもいいでしょ、そんなこと」

「いやいや、よくないって! 山城さんが居るんだから、ちゃんと旗艦を務めてよ」

 姉の大きな胸でふてくされた顔を隠す山城に、最上が首と手を振って抗議する。

 二人のやり取りから察した扶桑が、妹が片足の水上下駄を失っているのを見て慈母の笑みを浮かべた。抱きついてくる山城の頭を丁寧にあやす。

「魚雷で損傷して、あの電文を出したのね」

「……はい」

「自分を見捨てろだなんて悲しいことを言わないで」

「………………」

「私から大切な妹を失わせないで、ね」

 姉の手に髪を梳かれながら、山城は言葉に詰まる。

 一時は沈むことも覚悟した。姉と一緒にいられないことを悔やんだ。

 こうして(じか)にぬくもりを感じていると、手放さないで良かったと思う。

 だから、

「……はい。短慮を起こして、すみませんでした」

 思ったことを言葉にした。

 扶桑は何も言わず山城を抱き返す。妹の顔を隠して出した謝罪を、咎めることもなく、同意するわけでもなく、自然体で受け入れる。

 時雨が呟く。扶桑たち二人を通して遠くを見て、柔らかい微笑を浮かべている。

「よかった……」

 悟ったような物言いに、顔を赤くしている満潮が突っかかる。

「こんな恥ずかしい場面の、どこがいいっていうのよ」

 半裸の姉妹が抱き合って胸の膨らみを揺らし押し付け撓ませている。美しいかもしれないが、恥ずかしさの方が大きい。少なくとも破れた右肩のブラウスを捲れないように手で抑える朝潮型三番艦は、肌や下着を他人に晒すのに躊躇する。

 しかし白露型二番艦の返答は別の方向性を持っていた。

「だって最後の命令を出した『戦艦』の『山城』は轟沈したけど、僕たちの山城はここにいるからさ……。僕たちは勝てたんだ。このスリガオ海峡で行われた悪夢の夜戦に……」

「あんたのセリフも大概恥ずかしいわね」

 満潮が半眼で睨めつけるが、時雨は意に介さず笑っている。どうも僚艦との感覚がずれている気がしてならない。

 とはいえ納得できるところもある。

「でも確かに、誰も沈まないでここまで来られた。もう全滅の心配は無いわね」

 言って満潮も笑う。少女らしく愛くるしい笑顔で、再編成された西村艦隊の勝利を祝う。

「いいえ、まだよ」

 駆逐艦たちの勝利宣言を否定した山城が、目元を拭い扶桑から身を離して自立する。それでも姉の手を握ったままの山城。甘え癖の抜けない妹に扶桑が寄り添う。

 満潮は作戦旗艦の姿を少し情けないと思いつつも、支えてくれる姉妹がいることに免じて悪態を飲み込んだ。

 一度鼻筋を通して深呼吸した山城が、僚艦たちを見据える。

「私たち西村艦隊の目的は、スリガオ海峡に具現化した穢れの殲滅と浄化です。先に栗田艦隊がレイテ湾を攻略しているのに、残存勢力に”巣”を再建されては意味がないわ」

 先程の戦闘で一艦隊分の穢艦たちが北に離脱した。それも大型艦が半数を絞める強力な編成をした強襲艦隊である。野放しにしては、またいつ原因不明の海難事故を起こされるか解らない。

「それとも、ここで撤退したいのかしら?」

 艦隊旗艦が、所属艦たちを顔を見る。

 最上は深く考えていなかった。

「それじゃさっそくレイテ湾に行こうよ。ああ、みんなの状態を確認するのが先かな」

 いつもの慌て様に間の抜け様。深刻な状況も、彼女の前では平素と変わりない。

 満潮は眉をひそめた。

「ちゃんと最後までいける作戦や計画はあるんでしょうね。ここまで来て任務失敗なんて嫌よ」

 ツンツンした態度は心配の裏返し。損傷落伍撃沈者を出すことを嫌っているのは見て解る。

 時雨は、笑顔でいた。

「山城が約束を守ってくれるなら。僕も、守るよ。絶対に」

 信頼を向けてくる駆逐艦の髪に、光る飾りを見つける。よく見知ったものだ。

 姉に振り返ると、少しだけ手を握り返された。微笑む扶桑の顔には”怒らないで”と書かれている。

 ちょっと剥れる。さすがにそこまで嫉妬深くないですー。

 山城は姉の手を離し、扶桑が懸念の感嘆詞を出す間もなく時雨の前に立った。

「お礼を言うのはこちらよ。御蔭で思い出せたわ」

 今一度『戦艦』の誇りを魂に刻むこと出来た。

 お礼として、自分の髪から飾りを一つ外し時雨の横に付け足す。

 驚く時雨と扶桑を見て、すこし心が晴れる。

 よし。やはり扶桑姉さまとわたしはどこでもいっしょが一番よ。

 西村艦隊旗艦、扶桑型二番艦が胸を張り、号令を発した。

 

「残る深海棲艦を掃討する。西村艦隊、最後の戦いよ!」

 

▲*▲

 

 比律賓諸島群の中央東側に、比較的地表面積が大きな島がある。

 レイテ島だ。

 周辺の小島たちと囲む南側の海洋をスリガオ海峡と呼び。その北に大きく拓いたレイテ湾がある。

 空撮写真でレイテ湾を見ると、東側に口を開いた三日月にも見える。スリガオ海峡との連結が無ければという、注釈が付けられるが。

 そのスリガオ海峡とレイテ湾の境界線に、暗い影が集まっていた。既に日は島の西側に掛かりはじめている。

 影が濃く長く伸びる時刻だが、この影たちには形があった。海面に映された平面の存在ではなく、自らの(船体)立ち(浮かび)、他の艦艇にも悲劇惨劇の最後を遣わさんとしている。座礁、転覆、沈没。海難事故での畏れをはじめ、炎上、撃沈、轟沈などの戦没艦の怨念も吸い上げ、異形の艦船へと組み立てられた深海棲艦。

 穢れの存在一個艦隊が、レイテ湾とスリガオ海峡の海路を塞いでいる。

 意図的に要所を抑えているわけではない。基本的に深海棲艦は、腹を空かせた(けもの)のごとく海上を回遊して船舶を襲撃するが、この艦隊はスリガオから曳いてきた所だ。

 旗艦を務める空母ヲ級赤色強化体(エリート)の指示で、反攻を強めた艦娘たちとの戦闘を一時離脱した。わずかながらに思考機能を有する強化体ならではの判断だった。

 赤い空母ヲ級が算段した結果は、自軍の勝利。体勢を整えれば虫の息になっている艦娘如き負けはしない。自分以外の深海棲艦は沈められるが、艦娘たちも海底へと誘える。

 今一度自艦隊の戦力を確認する。

 肩幅よりも大きな帽子を被る大型の穢艦、空母ヲ級が自分を含めて二隻。脅威の砲弾投射重量を持つ戦艦ル級が一隻。重巡、軽巡、駆逐艦がそれぞれ一隻。損傷軽微の艦もいるが、この小休止で復旧されている。

 対する相手艦隊で無傷なのは駆逐艦一隻のみ。他の艦娘は軒並み中破で戦力減退している。

 戦力差は明白。勝利を確信した空母ヲ級の無表情を、ずり下がった帽子が隠した。

 あの艦砲支援砲撃を受けてから、僅かにでも動くたびに頭上の飛行甲板が傾いて視界を遮ってくる。その度に仕方なく片手で持ち上げ支える。鬱陶しいことこの上ない。

 帽子の縁を持ち上げて遮られていた視界を直した場所に、陣形を組んで北上してくる艦娘たちの艦隊が見えた。

 さすがに多少の応急処置はしてきたようだが、艤装の損傷は酷く、衣装は剥がされ、半数は巻きつけられた包帯を晒していた。

 艦娘たちは半死半生の(てい)だったが、嘲りや哀れみよりも違和感を覚えた。

 あれは、なんだ?

 まず陣形がおかしい。単横陣ではあるのだが間隔が狭い。いや、狭いどころではない。全員で手を繋いでいる。列の中央に居るボロボロの戦艦を他の艦娘たちが支えている。

 なによりも、艦娘たちの表情には意思があり闘志があった。

 砲撃支援した味方艦隊は既にレイテ湾を離脱していて、自分たちの状態は良いと言えるものではない。だというのに、なぜそんな顔で絶望へと進むことができるのだ。

 強化体の空母ヲ級は西村艦隊の出方を読み切れず、麾下穢艦への指示を滞らせた。

 その隙が、合図となる。

 作戦旗艦戦艦『山城』が西日に赤く照らされながら声を張る。

「西村艦隊、戦闘始め!」

 旗艦の号令に従い、艦娘全員で宣言した。

 

「「 我らは、 希望(レイテ)へ 到るため、 」」

 

 空母ヲ級は敵の意図を悟って驚いた。

 なんだと? バカな、自滅するつもりか!?

 

「「 いまこそ 夜戦に 突入す!! 」」

 

 西村艦隊が己の魂に映る風景を解き放ち、世界に訪れる夜の帳をいち早く引き出す。スリガオ海峡の夕焼けが夜天へと塗り換わった。

 空母ヲ級の混乱が深まる。

 『姫』のお言葉によれば、やつらは可能な限り『夜戦』を避けてくるはずだ。『夜戦』が発生しない故に、航空戦力を割りさけると仰られていた。

 なぜならこの場所での『夜戦』は、大敗を想起させ撃沈に繋がってしまう。虎穴に要らずんば、という程度の話ではない。

 一体何をするつもりだ!?

 

 穢れの旗艦を当惑は画策されたものか、それとも無策の挺身か。

 悲願レイテ突入を目的にした、西村艦隊によるスリガオ海峡夜戦が始まった。

 

▲*▲

 

 開幕『夜戦』。

 発案者は、まさかの満潮だった。皮肉屋で慎重論者の彼女には珍しい。最終作戦を問われ口ごもる戦艦姉妹を罵倒しながらの、思い切った提案だった。

 損傷艦を抱える西村艦隊が打撃力を出すには、能力の環境変応を利用するしかない。戦闘開始から『夜戦』に入れば、ある程度の優位性を持って挑むことが出来る。中破による攻撃力減衰もカバー出来る。

 当然問題もある。むしろ山積みだ。

 時雨はもう誰も沈まないといったが、それはこれ以上進軍しない場合に限る。

 況して『西村艦隊』が『スリガオ海峡』で『夜戦』を挑むのだ。艦の記憶による艦隊全滅の再現がいつどこで再発するか解らない。

 それでも満潮は進言した。

 夜戦には航空機の抑制させる効果もある。赤光強化体には効果が薄いが、もう一隻いる空母ヲ級の艦載機を封じる事が出来る。

 大型艦一隻の足止めだけでは割に合わないと思われがちだが、新たに扶桑と山城が瑞雲を装備したとはいえ、西村艦隊の制空能力は低いままだ。偵察爆撃水上機の制空能力を過信してはいけない。

 また相手の方が艦隊所属数で一つ多い。手数的数で西村艦隊側が不利だった。

 だから山城はやると決めた。

 姉と繋いだ手を握って二人で前に出る。他の三人は逆楔陣形になり、西村艦隊は最後尾に最上を据えた変形複縦陣に移行する。

 片軸同士の山城と扶桑だが、姉妹支え合う双胴戦艦の形で航行する。ここまでは艦隊全員で手を繋ぎ曳航してもらった。全てはこの場で余力全てを出し尽くすためだ。

「いくわよ、山城」

「はい、扶桑姉さま!」

 返事をして戦艦『扶桑』に抱きついた。再会時ほどの感情的な抱擁ではないが、しっかりと背中に腕を廻す。抱き合いはしたが、扶桑型姉妹の進行方向は敵艦隊に向いていた。そのまま一つの戦艦となって、穢れの艦隊たちへと進んでゆく。

 深海棲艦は最前衛に戦艦ル級。中央に二隻の空母ヲ級を配する輪陣形。空母運用の基本形だ。

 先制で山城の右砲塔が発砲した。稼働可能な三門の砲門から砲弾と噴煙を吐き出す。

 砲弾の一つが穢艦側の先頭に立つ戦艦ル級に命中するが、『夜戦』の影響が薄い戦艦『山城』の砲撃では押し切れない。両腕の分厚い装甲に阻まれ中破寸前で終わる。

 赤い戦艦ル級eliteが反撃のチャンスを得て歪に笑う。脚の故障を二人で補ったが、艤装の破損までは手が回っていない。山城の右砲塔が正面を向いているので、扶桑は故障した左艤装を敵艦隊に見せていることになる。このままでは砲撃できず、扶桑と山城が戦艦ル級の的になるだけだ。

 混乱から立ち直った穢れの旗艦空母が夜間艦載機を発進させた。狙いは戦艦姉妹ではなく、後方の駆逐艦たちだ。後は沈むだけの扶桑と山城は随伴艦たちに任せておけばよい。

 狙われた時雨が、両手に構える対空両用砲を夜空に突き上げる。

「無策に真っ直ぐ来るなんて、失望だよ」

 『雷撃機落とし』『デストロイヤーバスタースレイヤー(駆逐艦殺し返し)』そして『佐世保の幸運艦』。時雨は異名も数多い。どれも渡りが悪く広く知られていない呼び名だが、駆逐艦『時雨』の底力は否定できるものではない。的確な対空砲撃と回避行動で穢れの艦載機たちを寄せ付けなかった。

 今度は夜間爆撃を凌いだ西村艦隊に戦艦ル級が砲門を向けた。正面から向かってくる扶桑型戦艦が撃沈される光景が目に浮かぶ。

 発砲の轟音と、着弾の破砕音。

 予測と違い、撃ったのは扶桑で、損傷したのは戦艦ル級。

 魚雷回避で時雨と扶桑が行ったステップターンを、今度は山城と行っていた。パートナーが違うだけではない。旋回の目的は回避ではなく、照準と砲撃だ。

 砲撃の反動も使って姉妹の位置が入れ替わり、扶桑の稼働砲塔が正面を捉えていた。

 戦艦ル級は二度の攻撃を受けても赤色強化体(エリート)故の頑強さで堪えた。

 だが、姉妹二人は抱き合ったまま、まさに踊るように回り続け使用できる右側兵装を深海棲艦へと向け直す。踊る姉妹で二回づつ、連続して四回の砲撃を降り注がせた。

 山城が破損した左側砲塔を、扶桑の砲が肩代わりする。折れかけた扶桑を山城が支える。比翼の鳥。扶桑の龍樹に、創世伝説の女禍と伏義。二人で一つの存在。姉を抱きしめる山城は、自分たちは最初からこの形だと言いたかった。

 超弩級戦艦姉妹の連続砲撃に、さしもの戦艦ル級も海中に沈んでゆく。

 続いて満潮が魚雷を撃ち出し、時雨も高角砲で追い打つ。

「一気に押し切るわ! 外すんじゃないわよ」

「了解。いくよ」

 駆逐艦二人は、脇に控える重巡リ級と軽巡へ級を攻撃した。

 これが夜戦奇襲第二の目的。脅威となる戦艦ル級を始め、取り巻きを先制攻撃で沈黙させる。撃沈させなくてもよい。砲撃できないまでの損傷を与えられれば中破組の生存確立がぐっと上がる。

 結果、重巡リ級が大破で残存したが敵軽巡を落とせただけで上出来だ。

 輪形陣の欠けた部分を補うために前に出てきた駆逐ニ級が、遅い援護射撃を放つが西村艦隊の誰にも当たらなかった。

 なぜか最後尾で気も漫ろな最上の砲撃も同様に終わる。

 ここで『夜戦』の展開が終了し、擬似的な夜明けが訪れる。暖かな朝日ではなく、時は逆巻き夕暮れの冷たい光が戦場のスリガオ海峡を照らす。

 出来るのなら動けない空母ヲ級を仕留めるまで『夜戦』を続けていたかったが、『夜戦』展開能力は最初から限定的な力だ。完全にコントロールできるものではない。西村艦隊の終焉を考えれば、『夜戦』を長引かせるより旨味だけをさらってゆくのが上策だ。これでいい。

 赤い光を放つ空母ヲ級が、予想外の逆襲に憤る。沈み掛けの艦隊にここまでやられて、黙ってはいられない。

 随伴艦の空母ヲ級に指示して、茜色の空へと艦載機と飛ばす。

 正規空母二隻分の航空戦力だ。艦娘どもはどうにかして偵察機を補充したようだが、すり減っている制空能力を多少補強しようと構わずすり潰してやる。

 穢れの艦載機に対抗するため、回転を止めた扶桑姉妹が大型甲板を掲げる。艦隊後方の最上は目を閉じて佇むだけだった。

 航空戦艦へと変わった扶桑型から少数の水上機が発進する。新しい瑞雲だったが、空母ヲ級たちが放った数の半数程度だ。

 やはり巡洋艦の艦載機は底を付いている。付け焼き刃の水上機など全て撃ち落とす。

 両艦隊の艦載機が茜色の空で向かい合う。

 数を比べれば深海棲艦側が圧倒的だ。特に赤く発光する強化体の艦載機が、拙く飛ぶ水上機を蹴散らす。自軍の支援を受けた爆撃雷撃機が制空権を失くした西村艦隊を攻撃範囲に捉えた。

 扶桑と山城が対空砲火を始めるが焼け石に水。艦載機の動きを止められない様からすれば、急流に松明を投げ入れるのと同じ。後方からも時雨が高角砲の援護砲撃を行うが、これも蟷螂の斧。

 一寸の虫が振るう斧とて、まったくの徒労ではない。重ねられた対空策に穢れの艦載機は少しずつ撃ち落とされてゆく。ただ西村艦隊の先頭に立つ戦艦二人の命運を覆すほどの力がなかっただけだ。

 帽子を支える空母ヲ級が爆雷撃を思考指示する瞬間、自分が、真横から、爆撃された。

 穢れの爆撃機たちは統制を失い、命中弾を出せなかった。必殺の武装を失った航空機たちは西村艦隊の対空砲火を避けながら反転帰投する。

 怒る赤色の敵旗艦は、またずり落ちた帽子甲板を持ち上げて空を見上げる。どこからか現れた4機の瑞雲が夕焼けの空を舞っていた。

 馬鹿な! 空母も居ない。飛行場もない。それなのにどうして航空機が増える?

 理由は、空母ヲ級から一番遠くに浮かぶ艦娘にあった。

 西村艦隊の最後尾でずっと俯いていた最上が顔を上げた。左腕の機械式航空甲板を頭上に翳して誇る。

「ボクはただの巡洋艦じゃない。艦載機運用能力を強化された航空巡洋艦さ!」

 『夜戦』を先に持ってきた最後の理由。それが最上の航空戦力を微量でも回復させる時間稼ぎ。

 西村艦隊に残された戦力では相手の砲雷撃か航空戦力か、『夜戦』でどちらを抑えこむのか選択しなければ為らなかった。

 狙うのなら敵正規空母の方が見込みがあった。武装を黙らせるという視点で語れば、航空母艦たちの飛行甲板はそのまま弱点でもあるのだから。

 逆に分厚い装甲に覆われた穢れの戦艦を確実に落とすには、こちらの戦艦が二隻掛かりで挑む必要があった。その分他の戦力が残ってしまう。頭数が足りない西村艦隊には悩ましい問題だ。

 仮に『夜戦』で空母ヲ級たちを沈めても、残った戦艦ル級に対抗する手段が無い。運頼みのラッキーヒットを願って砲雷撃戦に入るのは論外だ。並の幸運量を保有していても、損傷している誰かが撃沈してしまうだろう。

 逆に戦艦ル級を倒しても、『夜戦』が明けた段階で空母ヲ級の航空爆撃が来るのは解り切っていた。

 どちらを撰び、どうやって作戦を補強するか。

 最終突入決行前、悩みに悩む西村艦隊で、ただ一人楽観している艦娘は言った。

『航空戦力対策なら、なんとかなるよ』

 改装航空巡洋艦最上型一番艦『最上』。彼女が提案した作戦は単純だった。

 ずばり、残り物を掻き集める。

 最上は戦闘開始から今まで、スリガオ海峡に散った己の艦載機を呼び掛けていた。

 艦娘側の艦載機は深海棲艦ほど強力な精神接続を持っていない。とはいえ根本を同じくするだけに、母艦を務める艦娘との繋がりが全く無いわけではない。

 明確な数までは解らないが、数機の瑞雲がいまだ健在であることを最上は感じていた。その弱く細い蜘蛛の糸を手繰るように、スリガオ海峡のどこかに残っている自分の瑞雲たちにお願いした。

 海原を滑走路に出来る水上機は、海洋で羽根を休めることが出来る。燃料が残っていれば、再び飛べる。撃墜されていなければ、復帰することが出来る。

 ボクたちが夢にまで見た湾港まで、あと少しなんだ。お願い。力を貸して……!

 広範囲距離無制限での思念なので強制権を持つ命令には出来なかった。だから、必死に祈り願った。

 結果、西村艦隊の空を助ける僅かながらの力が舞い戻ってきたが、喜ぶ間もなく僅かながらの好機が隙になった。

 包帯を巻いたの右腕に顔を顰める満潮が、巡洋の僚艦に怒鳴った。

「なにやってるのよ! 自分も守りなさい!」

 穢れの正規空母は二隻ある。数機の瑞雲では片方の手勢と拮抗するだけで精一杯だった。

 通常の空母ヲ級が操る雷撃機が西村艦隊の複縦陣を迂回気味に周り、最後尾の最上を狙う。

 一応の艦載機対策として扶桑と山城を前面に出し全力砲撃させることで、艦隊全体への対空効果も付随させていたが、相手の数が多すぎる。対処し切れなかった一機の雷撃機が最上への攻撃を開始した。

 ここで艦娘と穢れの艦載機の間に割り込む機体が現れた。南から現れたそれは、最上の頭上を通り単身戦いへ挑んでゆく。

 最上には解る。だから驚いた。

「キミは……!」

 最後に駆け付けた瑞雲は、スリガオ海峡の入り口で北西側へと偵察に出た機体。『最上』がこの戦場で最初に発進させたあの偵察機だ。スリガオ海峡南西に潜んでいた敵航空戦力を発見した後、追撃を必死に振り切り生存。残り燃料を考えて一度着水していた。

 母艦に戻ろうにも最上が艦隊戦闘に入ってしまい連絡が取れず、半ば漂流する形になった。敵戦力に発見されれば、一機だけの水上機なんて霧一粒より儚い。それでも最上からの指示を辛抱強く待っていた。

 だからこうして、母艦の危機に駆けつけることが出来た。

 最上の上空を通過する瞬間、パイロット妖精が笑顔でサムズアップする。

『まかせて』

 航空巡洋艦にだけ聞こえる声がした。

 水上偵察爆撃機『瑞雲』と、穢艦の雷撃機の戦いが始まった。

 最初にコースを変えたのは瑞雲だ。本来は相手の後ろに付いてドッグファイトを演じたいが、瑞雲は戦闘機ではないため旋回能力が足りない。なにより雷撃機が攻撃高度まで下がっている。追い縋るのは難しい。現状で機体は限界近くまで軽い。出発時に持っていた爆撃弾は最初の逃走時に投棄したし、燃料だって残量僅かである。それでも力及ばず、やり方を間違えれば敵の首筋に噛み付く前に振り切られ雷撃が成功されてしまう。

 瑞雲は目的を最小限に絞り混んでいた。雷撃の攻撃可能範囲が『最上』の予想進路上から外れればいい。絶対に母艦『最上』を死守する。

 騎士たちの騎乗槍試合のように向かい合って突撃する。高度を落とし深海棲艦の雷撃機が理想とする飛行経路を、真逆から突き進む。

 攻撃のチャンスは一度。それは穢れの航空機も同じだ。高速で擦れ違うので、機銃の有効射程に入っている時間はとても短い。

 仮に穢艦側が激突チキンレースを避けて飛行経路を変更すれば、今度は雷撃弾の命中率が下がる。それだけではなく無防備な横腹を瑞雲に晒すことにもなる。もはや相手も度胸試しに付き合うしかなくなっていた。

 穢れの艦載機の機体下部、チェーン駆動のミニガンが回転を始める。大戦時の技術レベルから装備を再現している艦娘側には、羨ましいほどの先鋭装備だ。兵装の優位性を使って、有効射程外でも構わず牽制射撃してきた。

 瑞雲のパイロットは、ゆるい楕円の顔を引き締め目標を睨みつける。

 相手は大型艦に付随する装備の一つで、自分たちとは違って自律性が薄い。何かしらの考えを持って、射程外牽制をしているんじゃない。向かってくる相手に受動で反応しているだけだ。

 それなら!

 瑞雲は、急降下爆撃用のダイブブレーキを水平飛行で使った。浮き具と機体を繋ぐ支柱が外装を広げて空気を受け止める。急激に失速して高度が落ち、つんのめるように機首を下げた瑞雲の頭上をチェーンガンの弾丸が通過する。

 弾丸を避けた瑞雲は、水上脚を海面に叩きつけるように落ちて、もう一度飛び上がる。フローターの底が破裂する音が聞こえたが、今は無視。

 海面から夕焼けの空を仰いだ先に、敵の雷撃機が爆弾を抱える腹を見せていた。

 上昇しながら左に捻り込み、機銃を連射。弾丸が敵雷撃機の右腹にハニカム模様を描く。旋回能力が低い瑞雲では機体を左90度に傾けるのが精一杯で、とても相手との衝突が避けられない。水上脚が穴の空いた敵とぶち当たる。

 既に損傷していたフローターは、支柱を残して脱落。不幸中の幸いに、水上脚が壊れた御蔭で回復不可能な程バランスを崩さずに済んだ。

 一方深海棲艦の航空機は、水上機の蹴りによって機体の右半分を破砕され墜落していった。

 防衛に成功した瑞雲だが、自身も墜落寸前だった。なんとか機体を平行に戻し海面スレスレで復帰した時には、旋回のしすぎ進路方向に母艦の『最上』が見えた。

 今から『最上』を避けようにも、無茶をし過ぎた機体では旋回も上昇もできない。それどころか水上脚を失くした影響で飛行速度が落ちている。海上に支柱を接触させては、跳ね上がる。

 水上脚がないから着水も出来ない。欠片よりも小さい残りの力を機首を引き上げることに使うが、損壊激しい瑞雲は言うことを聞いてくれない。このままでは母艦に衝突してしまう。

 常日頃から衝突禁止をスローガンにしている母艦にぶつかるわけにはいかない。操舵を諦め、水柱を跳ね上げ墜落着水。

 最後と思われた瞬間に、妖精がコックピットから跳び出した。

 とおぉぉぉぅっ!

 中空に緩い弧を描きながら、手足をばたばと振って姿勢を保とうとする。

 最上は慌てて腕を伸ばしパイロット妖精を拾った。

 母艦の手の平に転がった妖精は、疲れ果てて上手く動かない腕を持ち上げ、ぷるぷる震える敬礼。復帰と帰還を報告する。

「ありがとう。すごく助かったよ」

 『最上』も敬礼を返して、小さな撃墜王(エース)をそっと背中の艦橋に収めた。これで最上の航空戦力は本当に失われた。あとは砲雷撃で殴り合うだけだ。主砲を握り直して前進、駆逐艦たちと居並ぶ。

 赤い空母ヲ級は訝る。死に損ないの艦隊に航空爆撃の効果が減ぜられた。今の爆撃でどうしてわずかにでも損傷をしていない。予測通りに運ばないことに、焦燥が募る。

 憤る旗艦に対して、随伴の正規空母が移動を促してくる。移動の目的を理解して、穢れの空母が動き出す。空母ヲ級たちは扶桑型の左側面へ向けて、脚を速める。

 前衛に立つ二人の戦艦は、中破しており砲撃能力が下がっている。特に左舷の艤装が壊滅的だ。そこを利用して故障砲塔側の位置と同調すればいい。多少の攻撃はされるだろうが、自分たちの装甲でも防げる。大したことはない。

 周り込んでくる敵艦を見て、扶桑の右手に握られている大盾型の航空甲板を背中に懸架した。あけた両手で妹の腰に手を掛ける。

 姉の行動に山城が驚く。

「何をするのですか?」

「空母たちは任せるわ。残りの残存艦はこの扶桑が仕留めます」

 言った扶桑は、もう一度だけ山城と一緒になって踊る。

 妹と最後の踊りは、それぞれが戦いに赴くための儀式だった。手を離した二人はお互いの重量をカウンターにして、扶桑は前へ、山城は味方艦へと近づく。

 敵前に進む扶桑が、非常に珍しい行動を取った。敵重巡リ級に対しての挑発だ。

「いらっしゃい。戦果の首級(しるし)はここよ」

 腕を広げ諸肌を見せた扶桑が行き脚を速めた。不調の脚に鞭打って、傷負った船体を押し進める。

「確かに私たち扶桑型は、何かもが足りないのだけれど……」

 重装甲ではあるが艦内構造から冗長になった重要保護区画が災いし、戦艦としては防御力が低い。なぜなら速力を得るため出来る限り装甲を削ったからだ。それでいて早足を手に入れたわけではなかった。扶桑型は弱点が多く、速力も無い。得るものを失い全体の能力バランスが崩壊していた。

 目玉である六基十二門の大型主砲も、同期斉射できるのは半分以下。特に船体中央部にある第三第四砲塔は、使える仰角と方角が限定されている。無闇に発砲すると間近にある自身の艦橋や他の艤装を破壊しかねない。多数の砲塔がまったくの無駄ではないが、厳しい枷と見られても仕方が無い。

 あのレイテ沖海戦、スリガオ海峡夜戦に扶桑型が投入されたのも戦力が足りなくなったから仕方なくだ。

 兵の錬度は十分にあった。士気だって低いことはない。それでも戦場から離れた本土で練習艦同然の扱いだった戦艦は、圧倒的戦力に為す術もなく沈んでしまった。

 昔を思い返した扶桑だが、心まで引きずられているわけでなかった。哀愁と悲願を胸に眼前の敵を見据えている。

「私は帝国製超弩級戦艦の壱号艦『扶桑』。その誇り、見失いはしないわ! 西村艦隊の本当の力、見せてあげる!」

 怯む必要はない。今この場で、西村艦隊として戦えているのだから。魂を引き継ぎ艦娘となっているが、悪夢の海峡に後一歩で終わりを告げられるところまで来ている。ここで勇まぬ道理はない。

 扶桑が選んだ一手は、穢れの旗艦の後を追う重巡リ級と駆逐ニ級を留置き、沈めること。

 開幕の『夜戦』で艦数では逆転できている。さらに扶桑一人で随伴艦を落とせば、砲撃される回数を減らせる。特に重巡洋艦と駆逐艦は雷撃能力を持っているため、浮かばせ続ければ手数を増やされてしまう。なにより敵艦隊の手数を半死半生の自分に集中させる意味でも、単艦で前進する意味がある。

 扶桑は力を込めた右足先に痒さにも似た痛みを感じたが、目も向けず前へと進み続ける。満潮が直してくれた若草色の鼻緒に、扶桑の足指が食い込み血を滲み始めていた。

 この程度、大丈夫。まだ保てる。満潮のリボンタイは傷ついた自分をよく支えてくれた。

 ……そうだ。お返しを考えねければ。

 時雨には髪飾りを渡したのだから、彼女にはリボンがいいかもしれない。団子に詰めている髪を少し解いて、大きめのリボンを結べばきっと可愛くなる。

 そのためにも、この場を押し切る。沈むために進むのではない。明日の楽しみを手にするための前進だ。

 接近する超弩級戦艦の圧力を無視しきれず、穢れの重巡が腕の主砲を持ち上げた。

 好機を見切り、扶桑型一番艦は発砲した。背負う砲門を背に向けて、全門同時発射。

 半裸の長身が爆発的な反作用で加速する。長い黒髪が棚引き、一息で重巡リ級へと接舷させた。代償に腰から肩甲骨に掛けての背中全体が軋み上げ、背骨が鑢掛けされたような痛みを伝えてくる。

 主砲の同時発射で自分が傷つくのは解っている。ならば損傷以上の効果が出るように使うだけだ。砲撃回数を重ね標準精度を下げている主砲なら、命中を願うよりも緊急動力として使う方がいい。

 穢れの重巡が構える腕の砲口は、より内側に入った扶桑に向けられない。

 西村艦隊の超弩級戦艦は素早く平手を振り上げ、緩やかに撫で下ろす。

 山城が古式の格闘術を使うのとは違い、扶桑の手足を送るのは『舞い』の動きだった。戦いの為の技ではない。扶桑自身が覚えている技能を転用して扱っているだけに、殺気や気迫が薄い打撃である。

 重巡リ級は、はっきりと見える手の平に速度が遅く攻撃にも為らないと思った。接近したのをいいことに接射を仕掛け直そうとする。密着状態なら大破した自分の攻撃でも戦艦を撃ち抜ける。

 侮ってはいけない。扶桑の白い細腕に掛けられた力は莫大である。

 手の平を置かれた重巡リ級の肩は、最初の一瞬だけ無事だった。

 すぐに重巡の身体を海中に押し込まんと超圧力を与え始める。穢れの艦の骨が砕け、肉を潰し、それでも止まらず超弩級戦艦の掌が下げられ続ける。

 扶桑の全重量に加えて、舞いにより砲塔加速の力も加えられた一撃が、穢れを強引に水底へと返し導く。

 振り下ろされた掌打が本当に遅かったわけではない。直前までの動作との速度差が激しかっただけだ。なにより降ろされ始めてから最後まで、手の平の速さは一定だった。まるで重巡リ級の船体などなかったように振るわれた一撃が、文字通り存在を消し去る。

 扶桑よりも高く立ち上る水柱が、重巡リ級の墓標となった。

 急激な接近に驚いた駆逐ニ級が飛び掛ってくる。

 残心を狙った突撃は、振り返った戦艦の手刀一振りに両断された。横に立つ穢れの水柱ごと切り裂く。

 腕を振り切った形で止まり、鋼鉄で造られた扶桑の樹がぐらりと揺らぐ。

 最後の全門砲火で船殻が限界を迎えていた。最初の魚雷損傷から不調だった右脚の水上下駄も、格闘動作を支え終えると同時に割れて壊れた。

 全ての力を出し尽くし、戦艦『扶桑』ついに落伍。

「後は、頼みましたよ……」

「扶桑姉さま! ……っ。西村艦隊、全艦砲撃! 敵飛行甲板を撃ち砕きなさい!」

 海面へと倒れる姉に山城が悲鳴を上げそうになるが、唇を噛み締めて号令し直す。

 扶桑が身を挺して造ってくれた有利な状況を逃してはならない。それに扶桑は完全に沈んだわけではない。海面に倒れているがまだ自力で浮かんでいる。追撃させなければ助けられる。

 そのためにも敵の航空戦力をいち早く封じる必要があった。穢れの空母たちが艦載機の整備装填を終える前に、大きな帽子型飛行甲板を吹き飛ばせば、この辛い戦いも終わりだ。

 動ける全員で果敢に攻撃する。山城も一門だけ使える左砲身から砲火を放った。

 砲炎と水煙が空母ヲ級たちの姿を曇らせる。

 目標が霞み、西村艦隊が一度砲撃を止めた。静まった夕暮れの海域で、戦果を祈る。

 視界が晴れた時、穢れの正規空母二隻はそれぞれの艦載機を吐き出しているところだった。

 祈りが通じなかった。結果を見て時雨が悔やむ。

「押し切れなかった……」

 こうなったら航空機を掻い潜って直接魚雷を打ち込む他無い。

 進もうとした時雨の前に、満潮が被さった。

 止めないで欲しいと言うより先に、半身振り返った駆逐艦が口端を釣り上げて笑う。

「やるなら、二人同時よ」

 どうやら同じことを考えていたようだ。時雨も小さく頷き返す。

 満潮は今回の作戦で良い所がない自分に苛立ちを持っていた。最初の魚雷から扶桑を守れなかったことに始まり、さっきの『夜戦』でも敵の重巡洋艦を自分が落とせていれば扶桑が落伍することもなかった。

 おそらく当の扶桑は気にするなと微笑む。護衛の駆逐艦として不足の無い働きをしたと労うだろう。しかしこのままでは自分が自分を許せないのだ。突撃は趣味ではないが、勝利のためならなんでもやってやる。

 飛翔してくる穢れの艦載機を睨み、満潮と時雨は反撃の水雷撃を用意した。

 突然寄ってきた山城が手を差し出して、駆逐艦二人の腕を掴むと残り全ての力を使って引き寄せる。

「旗艦の私を無視して好き勝手に決めるんじゃないわよ」

 満潮と時雨を抱きしめると、彼女たちの頭を抑え覆い被さった。

「山城っ!?」

「ちょ、ちょっと苦し……!」

「爆撃をやり過ごしたいなら黙ってなさい」

 強い口調の山城は、二人を抱えたまま残弾打ち尽くす勢いで対空機銃を放ち始めた。

 山城の意図を理解する。西村艦隊の旗艦は僚艦の行動を否定していない。自らを楯にして反撃の瞬間まで時雨たちを庇うつもりだ。

 驚く駆逐艦たちを見て、山城は苦笑した。

「勘違いしないでよね。これは姉さまを狙わせないためよ。囮をするなら数で固まっているほうが都合が良いだけ」

 思惑通り、深海棲艦の艦載機たちが山城に折よく喰い付いてきた。山城は自由に動ける最後の所属艦に命令を発する。

「最上は砲撃を続けなさい!」

「了解さ。がんがんいくよ」

 最上が一人だけ陣形を外れた。三人を狙う航空機をやり過ごし敵空母の側面に回り込む。

「船数が逆転したってことを、もっと理解するべきだったね!」

 航空巡洋艦が杖を構える空母ヲ級たちへ砲弾を叩き込む。本来空母の穢艦を守るべき護衛艦や直掩機が居ない。最上の砲撃が吸い込まれるように随伴の空母ヲ級へと命中する。

 西村艦隊が『夜戦』から戦闘を始めた理由が、如実に現れた結果だ。

 帆船時代の昔から戦闘艦は砲門の数がそのまま戦力だった。どれだけ時代が移ろおうと手数を使った正攻法は戦闘の基本。

 空母が山城たちを狙う間に、余力となる最上が相手を仕留める。損傷していても最上の火力は十分に残されていた。重巡洋艦の本分、戦艦の補力として力を存分に見せ付ける。

 山城へと爆撃していた艦載機の一部が墜落してゆく。操る空母ヲ級の撃破に成功した証だ。

 これで深海棲艦側は赤い旗艦を残すのみとなった。

 突如、赤い強化体が手持ちの杖を振り上げ最上へと投げる。槍投げのような突き刺さんばかりの勢いだ。

「ええっ!?」

 予想外の豪投に最上が驚く。大型空母だけに物を飛ばす力は強いのかもしれない。

 投げられた杖は不運にも頭に当たった。気絶し航行する力を失った航空巡洋艦が、脱力したように倒れる。

 僚艦の沈黙を見て、満潮が眉を吊り上げて叫ぶ。

「ドジ踏んでるんじゃないわよ! 最上、聞こえてる!」

「呼びかけても無理だね。多分、あの倒れ方は意識が飛んでいる。ヘタをすると扶桑より最上の方が危ないかも」

「二人共黙って! 爆撃は続いているのよ」

 飛来する穢れの航空機に対して、山城が対空機銃を撃ち続ける。

 杖を飛ばした空母ヲ級eliteは、両手を上げて艦載機の思念操作を補強した。

 西村艦隊の旗艦を狙い、複数の投下爆弾が落とされる。

 一発が背中の艤装に命中する。満潮を抑える右腕の大楯にも着弾して振動する。

「……ぐっぅ」

 山城は歯を食いしばり悲鳴を押し留める。何度も攻撃された艤装は半壊どころか穴だらけで、体中どこもかしこも激痛が反響していた。いつもの山城なら「痛い!」と泣き叫んだだろう。今だって堪え切れない涙が頬を伝わり、腕の中の駆逐艦たちに零している。

 だが、今日は……。このスリガオ海峡だけは、そんな弱みなんて見せられない。

 あと少しでレイテ湾だ。敵艦もあと一隻だ。絶対に、耐えてみせる。

 追加の爆撃が山城の身体だけでなく意識も揺さぶる。白化しそうになった視界に、時雨に渡した髪飾りが見えた。錦糸で編まれた(ふさ)が二つ並んで揺れている。

(まるで姉さまと私が踊っているよう……)

 先程まで抱き合っていた感触を反芻するように、腕に力を込めた。

「囮ならもういいよ。離して」

「ちょっと、あんたまで気絶するんじゃないわよ」

 駆逐艦二人に肩を叩かれて、山城はようやく爆撃が収まっていることを知る。

 爆撃音を聞き過ぎたからか耳が遠く、満潮たちの声がよく聞こえていなかったが、薄れゆく意識の中で二人を庇った理由だけが残っていた。満足に砲撃できない自分に変わって決定打となる火力を持つ駆逐艦を保持し、帝国海軍が誇る酸素魚雷にて敵大型空母を撃沈せしめる。

 山城はやり遂げました、姉さま……。

 あとは託すだけだ。最後の命令を出す作戦旗艦は陰惨に笑う。

「さあ、お行きなさい。我が西村艦隊の水雷部隊(ロングランス)。これ勝たなきゃ、一生どころか未来永劫恨んでやるわ……」

 渋面の満潮と時雨は、二人係りで気絶した山城の船体を支え海上に寝かせた。

「山城が言うと冗談に聞こえないから嫌ね」

「間違いなく本気だよ。呪われないためにも、絶対勝とう」

 西村艦隊の駆逐艦たちは、眼前の敵を見据えた。

 爆撃弾を撃ち尽くした航空機が穢れの母艦に戻っている。対空能力が確かでない駆逐艦には、相手が再装填するまでに決着を付けなければならない。

 満潮が包帯が巻かれた右手を上げて、時雨に見せる。

「そういえば、謝ってなかったわね。でも、意地だけは最後まで張らせてもらうわ」

「ぜんぜん反省してないじゃないか」

 先に跳び出した満潮の後に、呆れ顔の時雨が続く。

 酸素魚雷は長距離射程でも機能するが、命中率は高くない。確実を期すなら接近での水雷撃を狙うべきだ。

 対する空母ヲ級も時間を稼ぐために移動し始める。魚雷を警戒して帽子の縁に装備されている副砲で攻撃しながら、満潮たちの動向に注意を払っている。副砲の反動でずれる帽子を支えながらの、ゆっくりとした挙動だった。

 満潮は、勝機を見た。

(高雄たちには文句を言いたかったけど、これでちゃらにしてあげるっ)

 後ろ手で時雨に手信号を送り、痛む右腕を構える。

 敵空母は損傷した駆逐艦の砲程度では怯まない。あくまで自分が倒される可能性があるのは魚雷だけだと踏んでいた。

 引っかかった!

 満潮が取舵30度、後続の時雨が面舵30度。満潮の右舷を空母ヲ級に見せる航路で、時雨が逆側。二隻で挟んで魚雷を十字砲火。わかりやすい戦術だ。

 相手が赤い光を纏う強化体でなければ、このまま雷撃して終わりだっただろう。

 空母ヲ級は満潮の右腕万全ではないことを見抜いていた。右舷攻撃能力を失っている満潮に接近してゆく。航空機が使えずとも、空母ヲ級の体格なら駆逐艦娘一人程度、素手で仕留められる。

 組み敷かれそうになった満潮は、笑っていた。傷ついた右腕は牽制と誘導のために態と見せつけたのだ。こっちに来てくれなければ困る。

 引きつけ役の満潮は、さらに取舵で左に傾斜。空母ヲ級から離れようとする。これは狙った動きだ。

 仕掛けは、満潮と時雨の中間を進む3つ目の航跡。音静かで微かにしか見えない魚影。別れる直前の時雨が満潮の影に隠れて発射した酸素魚雷だった。

 満潮に組み易いと近づけば、この魚雷の罠が発動する。満潮はただ逃げているのではなく、魚雷が命中するように誘導する役割も持っていたのだ。

 だが、今度は空母ヲ級が笑い返した。無表情の深海棲艦には考えられない粘性の高い嘲笑だった。

 大型空母が突如振り返り、自分を狙い撃とうとしていた時雨に逆襲の砲撃。

 時雨は直撃弾を受けてしまい大きく姿勢を崩す。

「くっ、この僕としたことが……」

 罠として放たれた酸素魚雷は急な舵切りをした穢れの空母に命中せず、明後日の方角へと泳いでゆく。

 読み勝った。これで艦娘たちを沈められる。戦艦二隻を含んだ金星(Sランク)だ。

 穢艦は怨嗟が詰まった心の中で喝采を上げた。その身体は、時雨を撃つ為に砲台であり飛行甲板でもある巨大な帽子を()()()支えていた。動きを止めていた。

 

「馬鹿ね! こっちも本命よ!」

 

 満潮が敵空母の背中に向けて捻り込むように魚雷を叩きつける。

 逆腕の左で全力を出すために、逆手持ちにして身体全体で旋回する。体重を載せて、倒れ込みながら魚雷の信管を叩き込む。

「スリガオの地獄を案内してくれて、ありがとう。お礼の倍返しよ!」

 傾く飛行甲板を支えていた空母には、満潮の姿が見えていなかった。

 一度敵艦から離れようとした挙動は、左腕の動作を隠し急旋回するための布石。小型の船体を活かした操舵で翻り、必殺の魚雷を突き刺した。

 驚きと怒りに血相を歪ませた穢れの大型空母は、再度向き直り間近に来た満潮へと腕を伸ばした。

 当然支えを失った帽子型の飛行甲板がずり落ち、空母ヲ級の視界が遮られた。

 傷ついた時雨も、傾いた穢れの飛行甲板が作る死角を利用した接近、手持ちで魚雷を打ち込む。

「今度こそ、さようならさ……」

 

 駆逐艦二人が距離を離すと同時に、酸素魚雷の信管が動作し爆発。深海棲艦の大型空母を海底の水泡へと帰した。

 

「やるなら二人で、って。ちゃんと最初に言ってたでしょ」

 満潮が大きく肩を竦めて、やれやれと溜息をついた。

 

▲*▲

 

 

 山城が目を覚ますと、そこに美しい女神がいた。星空の天幕を背負い儚くも慈愛に満ちた微笑みを浮かべている。

 自分が女神を見上げているのは、砂浜に横たわり彼女の膝を枕にしているからだ。

 ここは天国かしら?

 疑問は瞬時に霧散した。女神の正体はよく見知った姉の扶桑型一番艦だった。

 現実に引き戻された山城は凝り固まっていた喉を開き吸気する。細く高い音を鳴らして身動ぎすると、胸からバリバリと糊で塗り固められたような硬直が剥がれ落ちる。夜になるまで寝ていた対価は思ったよりも大きかった。

 軽く咳き込みながら質問する。

「扶桑姉さま……、私は……」

「提督のお守りが効いたようね。気分はどう?」

 姉の手が山城の髪を包む様に梳く。

 首を捻ると砂浜に二枚の大盾型航空甲板と扶桑型の艤装が置かれていた。周囲には無数の小人たちが蠢いている。応急処置対応の妖精たちだ。修復材を担いで忙しそうに走り回っている。

 山城が目を覚ますまでには、身体も診ていられたのだろう。身体のそこかしこに包帯が巻かれ絆創膏や湿布が貼られていた。お蔭で戦いで受けた痛みも、今はほとんど感じない。

「大丈夫です。手当をありがとうございます」

「お礼なら、あの子たちへ言ってあげて」

 扶桑が応急修理要員たちを示す。

 二頭身ほどの小人が、装備の穴に角材を押し当て小さな玄能で釘打ちする。それだけで金属製の装甲が復活するのだから、謎すぎる技術力だった。さすが鎮守府七不思議に数えられる妖精たちである。当然艦娘たちが召している衣装も、こうした手順で修繕される。彼女らは山城たちよりも更に超常側の存在だ。現代科学や物理法則の尺度で推し量ろうとしてはいけない。

 ぼーっと妖精たちの眺めていた山城だが、一番気になることを切り出した。

「作戦は、どうなりましたか……?」

「レイテ湾の浄化を確認して任務を達成、作戦は完了したわ。私たちの勝利よ」

 本当は姉の答えを聞くまでもなく、こうして二人が装備を降ろして休んでいることから察していた事項だ。

 それでも気になったのは、勝利、という状態の実感が沸かないからだ。

 自分でも卑屈過ぎると思うが、根っからの下向き思考をすぐにかえられるものではない。

 姉からの言葉を受けて、ああそうなんだと頭の表層だけが反応した。心は未だ夢見心地で揺蕩っている。

 艤装に群がる応急妖精たちの数を見ると、自分の分だけではなく扶桑にも応対要員が渡されていることが解った。

 姉と提督が、こんな仕込みをしていたなんて……。

 航空甲板に仕込まれた応急修理要員たちの活躍で、扶桑も山城も撃沈を免れた。

 深海棲艦たちがスリガオ海峡夜戦を再現させるには、まず戦艦『扶桑』を落伍撃沈する必要がある。

 だから、対抗手段として計画のみで頓挫した航空戦艦の甲板を用意し、二人を純粋な戦艦から少しだけ存在をスライドさせる。用心深く念押しで応急対応の妖精たちを潜ませていた。

 もう昔のように感じる司令室での伝達。あの時には既に突破の光明が刺していたのだ。

 西村艦隊の様子から、知っていたのは扶桑と時雨だけだろう。

「……ひどいです、姉さま。山城に黙っているなんて」

 拗ねる妹に、いたづらっぽく笑った扶桑は自分の航空甲板を手に取り、内部から一枚の詠み札を取り出した。俳句などに使う長細い色紙には、当然詩が書かれている。

 山城は、姉が勧めるに従って黙読した。

 

  最上淵

  時雨に満潮

  折れ扶桑

  山城(くだ)

  無手の礫湾

 

 ぱっと、意識が鮮明になる。

 読み手の名前に『山城』最後の提督、西村祥治中将の名が書かれているが、彼がこんな詩を詠んだとは見たことも聞いたこともない。

 なにより、この内容はどう見ても今回の作戦を指している。丁寧にも添えられた日付は、あの夜戦の日だ。悪趣味すぎる。

 誰が書いたと考えるが、これも答えがひとつしかないことに気がつく。

 あの胡散臭い優男か……。

 妹の変化を見て、扶桑が札を翻す。

「言ってしまえば、山城は受け取ってくれないかもしれないじゃない」

 裏面に返歌が書かれていた。

 

  最上川

  時雨に満潮

  似て扶桑

  山城見やる

  葉々の碧湾

 

 扶桑が持つ詩札の先で夜空が白み始めた。レイテ湾に朝日が昇る。どうやら自分はずいぶんと寝こけていたらしい。

「……裏面の詩は、昔の夜戦に対して現在の私達、艦娘による西村艦隊を暗示祈願しているのですね」

 拗ねる妹を、よくできましたと扶桑が褒める。

「確かに私たちは『彼女』たちの記憶を継承しているわ。能力さえ引き継いでいる。でも過去の出来事はそこで完結しているの。私達は先に進むことができる。どんなに困難が続いても、日は必ず登ってくる……」

 円形に広がるレイテ湾に朝日が降り注ぐ。寄せる波々に光が反射して、まるで大きな樹を飾る青葉の揺らめきのようだった。

 姉の背景が、星空から大樹の木漏れ日に変わる。

 その姿は、まさに東方に浮かぶ霊樹の巨木。大海すら葉とする伝承の存在がここに居る。

 そうか。山城は理解した。自分は失うだけ瓦礫だらけの場所を越えて、明日の日に輝く湾港を見つけたんだ。

 胸の奥底、身体の部位ではなく心の在処から、何かが溢れてくる。

 裏詩が示す通り、ここが終着点だった。

 終わったのだ。あの絶望と慟哭のスリガオ海峡夜戦を、西村艦隊は突破した。

 

 勝利、したんだ……。

 

 抑えきれなくなった感情が、嗚咽となって、涙滴となって表現される。

「姉さま、ねえさま、ねえさまぁー!! やりました。山城は、勝ちましたぁー!!」

 山城は胸の内が収まるまで叫び、神聖な大樹にすがり泣き続けた。

「哨戒に出ている時雨が救援艦隊を連れて戻ってくるわ。そんなに泣いていてはみんなに笑われるわよ」

 宥めも聞き取れず、一人の少女が自身の勝利に酔い涙する。

 姉も目元に光を溜めて、最後まで待とうと腰を落ち着けた。

 

 悪夢の海峡を超えた先、希望の港湾に暁が差し込む。

 満身創痍ながら過去を乗り越えた戦艦『山城』。

 彼女は充足感に身を浸し、明日への水平線に初めての勝利を刻んだ。

 

▲*▲

 

 司令室兼執務室の扉が、ノックからの流れ作業で開かれる。返事を待たないのは、もう慣れた。

「西村艦隊が作戦を完了したそうです」

 秘書艦を務める高速戦艦が、あっけらかんと報告する。

「状態は大破3に中破2。全艦艇に激しい損傷が認められますが、喪失艦はありません。後詰の志摩艦隊により応急処置および曳航を行います」

「救援艦隊だが……」

「旗艦の那智と曙には十分以上に気をつけるように言ってあります。最上の対処は他の艦に任せるようにも伝えました。さすがに気にしすぎですよ」

「どうも前職の癖が抜けなくてね」

 部屋の主は、無理やり苦汁を飲まされた顔をした。

 彼は穢れの集合態である深海棲艦に対処するために、陰陽庁から海軍に派遣異動されらた外様。所謂、陰陽師である。

 その腕は確かで、必要とあれば神主、神父、牧師、僧侶、道士、風水師、霊媒師どころか錬金術師にさえ化けてみせると言ってのける逸材だが、提督業など経験があるはずもない。戦略指示どころか、個人レベルの戦闘でさえ素人である。

 そんな部外者も良い処の人間が、特設鎮守府の司令官に収まっているのには理由がある。

 海上とはいえ船という隔離閉鎖空間で生活する水兵たちは、筋を通すために様々な簡易儀式をおこなった。海に関わる者は現担ぎに重きを置く風潮があるのだ。

 こうした航海関係と、神秘性をごった煮する陰陽道とは相性が良い。なにより陰陽師の本業は事物や単語の関連付けである。現担ぎなどお手の物だ。

 手探りながらも着実に成果を重ねてきた彼だが、ここにきて決断を迫られていた。

 秘書官が煌めき立つ。

「これまでの深海棲艦は、歴史再現をすることであたしたちを沈めようとしてきました。逆に鎮守府の方針として、史実に反する作戦を決することで勝利してきたのです。これはすごいことですよ」

 戦史に疎い司令官の指揮が、逆の効果を生んだ結果だ。

 故に、起こり得なかった可能性に勝利を掴んできた鎮守府に対して、深海棲艦がその方針を変換してきた。

 今回レイテ湾への突入が成功したのは、深海棲艦たちが歴史から外れ艦種差で訴えてくるとの読みが当たったからだ。

 鎮守府は敵泊地を陥落させ、南方海域に点在する"巣"への漸減作戦も成功している。深海棲艦に首脳部があるのなら、逆襲を画策してくるはずだ。

 資料によると、レイテ沖海戦では多くの艦艇が航空機によって沈められている。だが攻撃してきた航空機には、艦載機以外のものが含まれている。

 出処はレイテ島を含む周辺諸島にある飛行場だ。

 そして、この地上航空戦力を海に縛られる穢艦たちは再現できない。空母の数を増やすことで対応するのなら、相応の対策で迎え撃たなければならない。

 明確な指針を以って各艦隊を編成し対応策を施したから、勝利を掴み取ることが出来た。栗田艦隊には、所属を高雄型に絞り対空改装を施された『摩耶』を押し立てる。西村艦隊には、所属戦艦二人に幻に終わった航空甲板の艤装を持たせた。

 それでも穢れの艦艇たちが地上へ侵攻し飛行基地を作成していれば、こちらが負けていたかのかも知れない。

 提督は苦笑する。”たられば”は戦況分析に使ってはいけないと思い出し想像を止める。

 秘書艦が卓上に広がれている書類を覗き見する。

「次は艦隊南進での海域奪還作戦ですか。それなら作戦名は天一号でしょうか? 捷一号は今回終了しましたし」

「もう計画素案は首脳部に送ってあるんだ。当然名称もね」

 手早く書類を引き出しに逃がしつつ、どうやって誤魔化そうか考える。

 彼はこの秘書艦が苦手だった。どうも性格的な相性がよろしくない。なんでもかんでも明るい雰囲気に押されてしまう。

 ひとまず内定を受けた事項を流して、それとなく鎮守府内部の調整に役立ってもらおう。

「天は2つと無い。かといって星一号はまだまだ未来の作戦だ。残りを考えて、地号にしようかとも悩んだが、俺たちにはぴったりのがあったよ」

 人差し指と中指を広げて立てる。

 Vサイン。あの時代にイギリス首相を務めた人物が広めたキャッチコピー。

 自分の手を同じ形にして首を傾ける秘書艦に、最後まで説明してやる。

「人二号(ひとにごう)。俺たちを見守ってくれる天は、空と海の2つ。なにより俺たちは一人じゃない」

 艦娘たちが見上げるのは空を覆う星の海であり、渡り駆ける水草原を天に写したものでもある。

 天は2つと無いと言った傍から、この反し様である。

 だが、そんなことなど気にもせず、秘書艦は天邪鬼な提督に笑い掛けた。

「もしかして『人に業』も掛けてますか?」

「韻を踏むなら『人に恋う』でもあるよ。『人』に『二』を引っ繰り被せて『天』の文字。人が二人寄り添えば、それはもう『けん』を凌ぐ『天』なんだよ」

 上下逆さにしたVサインの付け根に、もう一方の手で作ったVサインを横に重ねる。出来上がった『天』を見ながら、秘書艦の首はさらに角度を深める。

 これが『天』なら、彼が言う『けん』とはなんだ?

 好の逆の『嫌』?

 より強い物が存在する『剣』?

 

 悩む秘書へ、司令官が左足を人差し指で小突いてみせる。

 

 秘書艦はひらめき、納得した。

 なるほど。あの押しかけ弟子の旗なのですね。あれには権より天を示す言葉が書かれている。

 この司令官、生半可な詩人(ポエマー)ではない。特濃の気障者だ。このあたりは言葉遊びを生業にする陰陽師ならではといったところか。

「提督は時雨と仲いいですもんね」

「内なる”声”が聞こえるほどじゃないから、まだまださ」

 仕切りに感心する秘書艦に西村艦隊以外の状況も教えて欲しいと頼むと、さっそくと部屋を飛び出していった。

 ……実に事務向きではない秘書だと思う。

 一人残された執務室で、椅子に深く座りなおして鎮守府の今後を考える。

 歴史追従の作戦にもネタがつき始めている。おそらく近いうちに変換点を迎えるだろう。

 それは史実には起こりえなかった戦い、嘗ての軍令部が望んだ形。今度はこちらが迎え撃つ側になる。

 

 大 洋 横 断

  艦 隊 決 戦。

 

 文字通りの総力戦。

 今度の戦いには、歴史的な補助を期待できない。自分たちの力だけで戦わなくてはならない。

 だがそれを見越して、これまで準備をしてきた。

 提督がどこでもない虚空を睨む。白手袋の指が軋みを上げて組み合う。

 決意をする。

 戦いは、まだまだ続く。

 どんな手を使っても、必ず、勝つ。

 見据えるのは未来。目指すのは、許されているは、誰一人として欠ける事の無い完全勝利のみ。

 

 自分はそのために、ここに座している。

 

◇*◇

西村艦隊の長い一日 了




間を開けて、後書かれる。

 白露型駆逐艦二番艦『時雨』の艤装が、同型艦と違ってガ○キャノンしているのはなぜだ?
 この作品は、そんなどうしようもない疑問から始まりました。

 艦隊これくしょんは、登場する艦娘のデザインが細部にまで練りこまれていることが特徴です。
 天竜と木曾の眼帯ネタや、正規空母たちが中破した時の甲板損傷箇所。大和を改造すると副兵装のグラフィックが変化してロングソックスに文字が入るといった具合に。
 そこで時雨の艤装が特徴的なのは、扶桑姉妹への感情からなのでは思いました。
『佐世保の時雨』が語る『僕だけは忘れないから』という言葉。
 時雨は、あの『雪風』と同格扱いされたほどの幸運艦です。他の陽炎型と衣装を別にする雪風と同じく、時雨の艤装もそういった経緯で変更されたと考えました。
 そうして時雨を中心に西村艦隊のことを知ってゆくなかで、ゲーム中にある任務が出てきました。
 艦娘で西村艦隊を再現して出撃、指定マップのボスを倒すという任務です。
 本作で書いたように、史実に記されている結末は艦隊全滅。唯一残ったのは駆逐艦の時雨のみという壮絶な戦いでした。
 ですが、史実とは違いゲームでの彼女たちはこれを超えることができる。
 暁の水平線に勝利を刻み、希望の港に辿り着ける。鎮守府に帰ることが出来る。
 任務を達成した時、感慨深い気持ちになり、自然と本作の構成と資料集めに取り掛かっていました。

 あと、ゲームでの満潮は泣いていいと思う。ハブられ具合が半端ないよね。
 西村艦隊任務で埋まる枠の中に駆逐艦が重なると難易度が上がるから、ゲーム的なバランスから枠を開けられたのかなと思う。

 書いている最中に時雨に改二が実装されて、嬉しかったです。
 色々な人が改二の髪飾りを『形見』とかいうけど、ゲーム中の扶桑姉妹は提督が沈めない限り健在ですぞー。姉妹と時雨の境遇を考えると、解らないでもない解釈だけどさ。

 それでは、今回はこれにて。
 また、どこかでお目にかかれることを願いまして。


◇*◇

文字数:
第一話、13998文字
第二話、39010文字
第三話、39975文字
*投稿ページの自動計算の転記。

◇*◇
嘘予告
http://www.tinami.com/view/416892
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