After The BLEACH 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
水の中から顔を出したような感覚と共に、一勇は意識を取り戻す。
目の前にはリルカがいる。
「あんた、なんかした?」
「…………まぁ」
一勇はぶっきらぼうに答える。
「なんかしたってことは、逆らう意思がある、って捉えてもいいの?」
「逆らう、ってのはリルカさんにですか?」
リルカの霊圧が高まる。
一勇はその様子を察して、霊圧を同等まで引き上げる。
「あんた……やる気なの……?」
一勇は何も答えない。
その様子に、リルカは痺れを切らしたのか、大声で命じる。
「意識を失いなさい!」
しかし、一勇の瞳は一向に閉じることも無く、その場に倒れることも無い。
「…………ふぅ」
だが、リルカは何かが終わったかのように息を吐き、近くにあったパステルカラーの椅子に座る。
「ったく、一護……ほんとにあんたは……」
リルカが手を振ると、一勇の体から桃色の光が飛び出る。
一勇の
一勇はリルカが自分の足元を見つめていることになんら発言することは無く、無言で歩き始める。
音もなく歩く様は、まるで幽霊であるかのように不気味に見える。
リルカは依然として、先程まで一勇がいた場所の地面を見ている。
まるでその場所に、意識を失った一勇が倒れているのを見るかのようで、
今リルカの後ろにいる一勇の姿が、一切見えていないようで、
一勇は、ゆったりとした動作で、リルカの背中に触れた瞬間、
「あ"ぅ"っ……」
ビクリとリルカは身体をはね上げ、その場に倒れる。
リルカの目はまだ同じところを見つめ続けている。
「リルカさん、知らされてなかったんですね」
一勇はリルカの様子を見て、憐れんだ表情を浮かべる。
リルカが完全に意識を失い、倒れ伏せると、一勇は一言、
「砕けろ、鏡花水月」
いつの間にか一勇の腰には、鞘から抜けた刀があった。
「っ?!」
一勇の霊圧……。
いつもより大きいその霊圧に、あたしはチャドさんから距離を取る。
あたしの体はボロボロで、チャドさんは傷一つない。
成長しているのを実感しながらの戦いだったが、唐突な気配にあたしは戦いの手を休めざるを得なかった。
「リルカ……」
チャドさんも、一勇の霊圧がする方を見て、寂しそうな顔をした。
「……向かってきている?」
しばらく動かなかった一勇の霊圧に、唐突に動きが出た。
こちらに向かってきている。
あたしは特に始解すらしていないので、霊圧が分かるほどには高まっていない。
チャドさんも両腕の変質は解いているので、分かるわけはない。
なのに、一勇の霊圧はたしかにこちらに向かってきている。
「苺花」
「っ……はい!」
チャドさんから一言だけ声をかけられる。
チャドさんは一勇の来る方に体を向け、ファイティングポーズを取る。
「見ていろ」
吹き出る殺意。
チャドさんの……殺意……。
後ろにいるだけなのに感じられるこの霊圧の高まり……。
一方、一勇の霊圧は乱れることなくこちらに向かってくる。
意味がわからない。
これじゃあまるで、
「一勇を殺すつもりですか?!」
「そのつもりだ」
両腕の変質は一瞬で終わり、
ゆっくりと左腕を引く。
あと数秒で一勇はここにたどり着く。
なのに、未だに一勇の霊圧は、
一点の揺らぎなく、
乱すことなく、
同じ速度で向かってきている。
「魔人の一撃(ラ・ムエルテ)」
そして一勇が視認できると思った瞬間、その一撃は放たれ……
ない。
あたしは思わずチャドさんの方を見る。
チャドさんは、悔しそうに一勇の方を見ている。
あたしはチャドさんの表情の意味が分からず、視線の先を見る。
「一勇っ?!」
そこには、死覇装をまとい、いつもとは微妙に形の違う斬魄刀を持つ一勇と、
その一勇の肩に乗せられているリルカさん。
確かに、あんな状況で大技を打ったとしても、巻き込んでしまうかもしれない。
まぁ、一勇のことだから、リルカさんを気絶させちゃって、運んできてくれたのだろう、と考えていると、
言いようのない感覚に襲われる。
「チャドさんっ!
逃げてっ!」
咄嗟に出た言葉。
しかしチャドさんは、知っていたかのように、戦闘態勢を解かない。
一勇はそんなチャドさんに対して、リルカさんを担いだまま突進していく。
「一勇っ!」
その言葉と共に、一勇はリルカさんに隠れるように、チャドさんを間合いに入れる。
そしてリルカさんの体の横から、斬魄刀を突き出す。
「ふんっ!」
チャドさんは気合いの込めた右腕で、その斬魄刀を受け止める。
が、その瞬間一勇はチャドさんに向かってリルカさんを投げる。
チャドさんは投げられたリルカさんを受け止める。
が、その瞬間、チャドさんの首には刀が添えられていた。
「チャドさん、やる気なの?」
いつの間にかチャドさんの後ろにいた一勇は、問いかけていた。
「…………」
「父さんからは、なんて?」
一勇の質問に、チャドさんはしばらく黙ってから、
「一護からは、2人を見極めて欲しい、と」
「…………親父はそれでどうしろと?」
「本当に一護を追わせてもいいと思ったら、行かせろ」
「そう親父が言っていたのか?」
一勇の口調は、聞いたことの無いくらいに平坦な口調だった。
「それで、チャドさんはどう思ったの?」
「…………まだ決めかねている」
「ふーん……」
一勇はチャドさんの首から斬魄刀を離す。
「苺花はどうなの?」
「……行かせてもいい、と感じた」
チャドさんはその行動で、リルカさんを静かに地面に寝かせる。
あたしは不用意にリルカさんを回収しに行こうと決められない。
あの二人の間に大きな霊圧の衝突を感じられる。
あたしが無闇に入ろうとした途端、戦いの火花は上がるだろう。
「僕は…………」
一勇が少し考え込むようなポーズをする。
「じゃあ、僕はチャドさんをボコボコにしたらいいですかね?」
まるでコンビニに行ってくる、と言うような気軽さでそんなことを言った。
チャドさんは動じない。
「そうすれば、あのクソ親父の顔面を一発殴れますからね」
斬魄刀を担ぐ一勇から、やる気は感じられない。
ただ、全く揺らぐことのない霊圧が、ここまで来ると不気味に感じてきた。
「あ、その前に」
一勇は何かを思い出したかのように、その場から消え、
「おやすみ」
耳元から聞こえた一勇の声に、私の視界は唐突に暗くなり、意識を失った。