After The BLEACH 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
「ちょっ、親父、いきなりなんだよ」
僕は少しおどけて振る舞う。
親父が刃を振っている姿は、もう10年は見ていない。
そんな親父の唐突な行動に、馬鹿馬鹿しくなる。
しかし、警戒は怠れない。
霊圧が、気配が、身のこなしが、言動が、全てが、本気である。
これが…………親父?
目の前にいる狂ったオレンジ髪の少し老けかけてきた男が、僕の知っている黒崎一護であるならば、それは親父で間違いないのだろうが……
俺は警戒を解かず、横目で母さんと苺花を確認する。
母さんは少し困り顔で、どうしたらいいかまよっている……
苺花は…………駄目だ、この程度の霊圧に当てられて、警戒の針が振り切れてる。
3分と持たなさそう……だな。
「おいおい一護よ、私の娘を困らせるでない」
親父の斬魄刀の峰に手を当て、刀を下げるように振る舞うルキアさん。
それに対し、親父は少し笑ったあとに、
「十三番隊の隊長様の娘さんが、この程度の霊圧に当てられる、なんて大丈夫かぁ?」
そこで気づいた。
あ、茶番か。
あの人を斜め上から妙にイラッとくる顔で見下ろす顔は、いつもふざける時に出す顔で、昔はこの顔に散々腹を立ててきた。
…………根が負けず嫌いだから仕方が無いんだよ。
自分にそんな意味の無い言い訳を放ちつつ、僕は刀に手をかける。
「お、やる気か?」
「あぁ……親父がその気なら…………」
刀を握る………フリをする。
おそらく流れとしては、このまま苺花が飛び出して、それを母さんが止めに入って終わり、という感じだろう。
戦わなくていいなら……刀を握らなくていいなら……この声を早く止めることが出来るなら、大歓迎だ。
「ほう…………それは、私を……十三番隊を侮辱すると捉えてもいいのだな?」
「…………あら?」
と、思っていたのだが、意外や意外、ルキアさんが予想以上にキレていて、これは止めなければいけないと、本能が叫んでいる。
親父に視線を飛ばすと、あらぁ?、と言わんばかりの阿呆面を表情に出している。
そんな阿呆面に隣にいる母さんは思わず笑っていて、止めろよ……と心の中で思いながらも、霊圧を、鋭く、細くして、親父に向ける。
「っ?!」
「ほう……無言は是と捉えるぞぉ……」
ゆらゆらと親父から距離を取り、刀を構えようとするルキアさん。
対する親父は、少し寂しげな顔をして、僕の方を向いて首を横に振った。
…………まぁ、そうだよな。
僕は刀を握るフリすら辞める。
あとは2人の喧嘩だ。
僕は隣の疲労している苺花に、後ろから近寄り、その長いポニーテールを引っ張る。
「いだっ?!
なにすんのバカズイ!」
「おぉ、珍しく言われたな、それ」
僕は正気に戻った苺花に少し感心しながらも、アレアレ、と指さす。
「えっ」
「お前が親父に全神経集中している内に、ルキアさん、ブチ切れてやり合うつもりだぞ」
「いやいやいやいや!母さんの斬魄刀は駄目だって!」
「ふーん、そういえば見たことなかったな」
「ま、まぁあんたの修行は基本的に母さんの隊は受け持ってなかったから、分かんないのは普通だけど……聞いたことないの?」
「聞いたこと?」
苺花はえっ、と顔を少し引き釣らせた。
「いやいや、最も美しいとされた斬魄刀の……」
「舞え『袖白雪』」
霊圧が、冷えた。
こんな表現は珍しいとは思うが、確かにそう感じた。
そして現れたのは、柄から切っ先まで、それこそ苺花の斬魄刀の変化後のように、真っ白な斬魄刀があった。
俺はその斬魄刀の放つ霊圧に若干嫌な予感がしてきた。
「もしかして、ルキアさんって…………」
「氷雪系の斬魄刀…………」
そんなもんもろに影響出るじゃねぇかよっ!?
僕は悩ましい顔をしている親父を睨みながらも、どうするか考える。
母さんに頼る?いや、それでも影響は免れない……なら…………。
僕は斬魄刀に手を掛け……ようとして、母さんに止められた。
「お父さんに任せてみて」
「母さん……」
そこには、唇に指を当てて、ウインクをする母さんの姿があった。
「…………母さん、その年でそのポーズはちょっと…………」
「なぬっ?!、お母さんまだまだ若いと思ってたのにショック?!」
「いや、織姫さんは綺麗ですよ?!」
僕はちょっともやもやした気持ちになりながら、母さんにケチをつけてしまった。
二人が僕の一言で騒ぎ始めてしまうとあれなので、謝りながら静かにさせようとしていると、
ッッッ!
鳴った。
刀のぶつかりあいの音が、鳴った。
しかし、目にも止まらぬ、剣戟が行われ、
音が置き去りにされた。
その音は二人の霊圧に当てられて、消え去った……?
そんな馬鹿なことがあるかよ、と苦笑いしながらも、お互いの位置を交換するように打ち合った後の二人をみる。
「おー、追いつけるのか、ルキア」
「お主も老いていなかったようだな」
2人の顔は、笑っていた。
まるで、俺と苺花がくだらない言い合いをする時のように。
なんだかそれに、俺は幼いルキアさんと、親父の姿が見えた気がした。
「っ…………気のせいか」
「さ、次に行こっか」
パン、と鳴り響いた母さんの手拍子に、その場にいる全員が母さんの方を見る。
ルキアさんと親父なんて二人揃って呆けてこちらを見ているので、なかなか面白かった。
「それから、俺は死神になったんだ」
「ルキアから仕事を押し付けられて、虚退治に駆けずり回って」
「それはお主が私の力の全部をとるからだろう?」
「いや、それ俺のせいじゃないだろ?」
「いーや、お主のせいだ!」
「まぁまぁ二人とも、そのネタ昔から何回やってるの?」
前を歩く親父を挟んで、ルキアさんと母さんが歩いて、話し始める。
僕と苺花はその言葉に耳を傾けていた。
後ろから見る、3人の姿は、なんだか妙に懐かしい感じがしたから。
「それで、ここ」
着いたのは、俺らの通っている高校……空座第一高等学校だった。
そこには、休日の朝早くだと言うのにも関わらず、部活に勤しんでいる学生達の姿があった。
「ここ…………なんで?」
「それは、私に関係するから」
母さんが後ろを振り返り、僕達の方を見て話す。
ここが……母さんの…………?
俺は母さんに何があったのかを、知らない。
親父共々、昔のことを避ける風潮があったのだ。
「ま、取り敢えず入ろうか」
「えっ?中に学生いるけど?」
「あぁ…………今は、こんなのがあるんだよ」
親父がすんなり学校の中に入ろうとしているのを俺は止めるが、親父は、さっき俺らを死神の状態にさせた木札を取り出し、校門の前に突き出す。
そして、それを鍵を捻るようにすると、空気が、変わる。
「入ってくれ」
そこに現れたのは、扉。
なんというか、言うなれば、和風どこでもドア、という感じのものがいきなり現れる。
障子張りの扉、と言うのだろうか、それがいきなり虚空に現れるのは、奇妙な光景だった。
そこに親父は入ってくれ、と言うと、僕以外のみんなはすんなりと中に入っていく。
「え、そんな疑問なく入れるの?」
「何言ってんだよ、一勇以外は入ったことがあるぞ」
「えっ」
…………しばらく考えて、気づく。
こんな物あれば、昔からいる母さんとルキアさんは知っているだろうし、この地域の管理の一端をになっている苺花が知らないということはないのか、と俺は少し仲間はずれ感を味わいつつも、その扉の中に入っていった。
人一人として誰もいない、空座第一高等学校が、扉を抜けた先にはあった。