オーバーロード〜新たなる神々〜   作:HONEEEE

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本当はこっちが1話目の筈だったのですが…。


其の弐 爆撃の翼王

「えーーーっと…。……冗談?」

 

 鳥の囀る声が聴こえる。頭上では陽が照っているが、濃緑色の木の葉に遮られ、木漏れ日を作り出している。辺り一帯は生い茂る深い緑に囲まれ、一見にはジャングルとさして変わらない。

 

 その一角、草木が枯れ切り周りと隔てられた、明らかに不自然な場所があった。それは思わず目を逸らしたくなるほど、歪な場所。

 

 名を付けるとするならば、死に絶えた大地。

 

 そんな中心にポツンと、唯一生命を維持している、10メートルを超えるかと思われる巨大な木があった。

 

 まだ水々しく艶を誇る葉。

 光を求め、我先にと手を伸ばす枝々。

 それはまるで、枯れていった生命の分まで生きようとしている様で―

 

 ―――大樹の下、白い羽毛の衣でその身を包んだ人物は呟いた。

 

 その言葉に反応してか否か、()()()()()

 

 

 この地に飛ばされてから、早2時間が経過しようとしていた。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 朝露湿る、青い草の匂いが鼻孔をくすぐる。同時に、ほんのり暖かい柔らかい朝日に照らされ、脳がゆっくりと覚醒に向かっていく。これほど良い目覚めはないだろう。

 男は、心地良い鳥の声を聞きながら、ぐん、と伸びをした。

 

「あー。朝っぱらから最高の日だな。」

 

 今日は久々の休日、やりたい事はいくらでもある。昨日買ったばかりの期待の新作だって、今日の楽しみにと、とっておいたのだ。

 そう、『期待の新作』。何処かで聞き覚えのあるフレーズに、いつの日かの悪夢が頭を過ぎるが、頭を振り考えを追い払う。

 ちゃんと声優の欄は確認を取ったし、それにこんなに素晴らしい朝なのだから、わざわざ思い出す必要は無い、と。

 

「神様〜、素敵な朝をありがとう!」

 

 調子に乗って、信じてもいない神に感謝を告げる。毎日泥のように働いているのだ。たまには羽を伸ばしたっていいだろう。

 

「――ん……?」

 

 ふと違和感を感じ、首を傾げる。

 

 

 ――何か、日常とずれているような…。

 

 

 

「?草?」

「?…太陽?」

「?……鳥?」

 

 周りを見渡す。

 

「…………………。…………ドコデスカ?…ココ…。」

 

 先までの幸福感が嘘のように雲散霧消していく。残るのは憔悴のみ。まさに、知らぬが仏とはこの事である。

 

 自分がいたのは、全く見たことも無い、果てしなくただどこまでも広がる草原の中だった。ここが本当に地球ならば、深刻な大気汚染によって空はいつもどんよりと曇り、人間以外の生物も殆ど残っていないはずだ。体中を冷や汗が流れる感触が煩わしい。

 

「え〜〜っと…。どうしよう…。」

 

 目が覚めたらどこか分からない場所にいた。それも、現状を見るに恐らく地球ではない。改めて置かれた状況を考えると、激しい焦燥感に襲われる。昨日もいつもと変わらない日だったはずだ。宇宙人に拉致された様な覚えはない。

 

「何かするにしても、何がなんだか訳分かんねぇ…。」

 

 じっとりと汗で濡れた、うつ伏せのままだった姿勢を、反動をつけて起こす。そして立ち上がりざま、もう一度周囲を確認する。

 

「体には異常はな………」

 

 絶句した。

 己の身体中をくまなく覆う羽毛。背中から生えた一対の巨大な翼。思い通りに動く鉤爪の生えたその手足や、羽一枚一枚の細かさから、これが現実だと改めて理解させられる。その姿はもはや、人間を辞めたとしか思えないものだった。余りにもあんまりな事件に、失神しそうな衝撃を覚える。

 

「いつから...?」

 

 余りの焦りにガンガンと響き初めた頭痛の中、他の誰かに問いかける。だがこんな原っぱの中、そもそも会話の成り立つ第三者というものが存在する訳がない。もしいたら、余程の変人か、バードウォッチングでもしている奴だろう。だが、他人の目がないという事実が、この非常事態の中でペロロンチーノをかえって落ち着かせてくれた。

 

 少しだけマシになった頭をフル回転させ、記憶の片隅から情報を引っ張りだす。

 

「…この格好…それにこの景色……ユグドラシルじゃないか?」

 

 一昔前に流行った体感型ゲームだ。自分も例外ではなく、かなりはまり込んだDMMO-RPGの一つだった。しかし諸事情あって、数年間ログインしていない。だが、このグラフィックや世界観は、正にあのゲームだ。頭の片隅に仕舞われた懐かしい記憶を、必死に手繰り寄せる。

 

「……ペロロンチーノ、だったか。」

 

 鳥人(バードマン)、ペロロンチーノ。自分のアカウント名だ。ゲーム内の友達はもちろん、実の姉とも協力して創り上げたギルド、アインズ・ウール・ゴウン。その全盛期には――自分が遠距離攻撃特化という事もあり――「爆撃の翼王」の二つ名で呼ばれていたものだ。

 

 流石にそれだけで今の状況が全て説明できたとは思わないが、真偽は置いておいて、YUGGDRASIL2の噂も耳に挟んだことがある。

 

「先行配信でもやってんのかな...。まぁ多少遊んでもバチは当たらんだろ。」

 

 鳥人(バードマン)はそう呟くと、どこかに残る不安に蓋をして、気を紛らわすという意味でもその1歩を踏み出した。

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 憔悴が束の間の安堵に代わってから5分、ペロロンチーノは今度は絶望に陥っていた。

 

「なんで⁉…有り得ない…!」

 

 コンソールも出ない。

 GMコールも効かない。

 

 再びドン底に突き落とされた気分だ。

 気付くきっかけは単純だった。

 

 しばらく走って見たが、何時まで経っても――5分しか経っていないが――どこまでも同じ景色に嫌気が差し、高速で移動する方法を模索、自分の種族特殊技術(スキル)を使おうとするが、何も反応しない。

 

 ――そして今に至る、というわけである。

 

「くそ、考えてみれば始めっからおかしかったんだ!」

 

 風の感触、草の匂い。

 触覚、嗅覚。

 

「どっちも電脳法違反じゃんか!」

 

 電脳法とは、脳内ナノコンピューター網を用い、利用する際に適用される法律である。DMMO-RPGであるユグドラシルも当然、この規律のお世話となっており、一切の触覚、味覚、嗅覚はプレイする上でシャットアウトされていた。

 因みにこの法のおかげか、この手のゲームにおいて性風俗は殆ど流行らない。

 

「…ん、待てよ…。」

 

(もし『電脳法違反』だとしたら……この不可解な状況も説明出来る!)

 

 自分にしてはなかなか冴えた頭脳に感動を覚える。だが…

 

「俺がヤバイって事には変わりねーじゃん!」

 

 謎のゲームに強制参加、及び脱出不可能。

 身体がモンスター化、未知の星でサバイバル生活。

 どちらが良いか…究極の選択である。

 

「勘弁してくれよ…」

 

 会社を挙げての犯罪を犯す狂人がいるとは思えない。それに異世界転移なんてどこのオカルトだ。どんどん悪い方へと進みそうになる考えを、頭を振って追い払う。

 

(どっちにしろ、何も判断できる材料がない以上、手掛かりはこっちから探しに行くしかない、か。)

 

 焦る心を無理に落ち着かせたペロロンチーノは、その内心を表すかのように足早に歩き出す。人工物を発見できれば何かしらの手掛かりも見つかると信じて。

 

「誰か〜!いませんか〜!」

 

 小さくない声を発してみるも、それが気休めでしかない事は分かっている。

 

 ………

 

「あっついな〜…。」

 

 …………

 

「マジで暑い…」

 

 ……………………………

 

「何も見当たらん…。」

 

 …………………………………

 

「何でだ⁉何故ここまで何も無い⁉ここには草しか無いのかよ!」

 

 どれほど歩いただろうか。歩き出した頃は上り始めだった太陽も、今では真上で燦々と輝いている。いくら歩こうとも全く変化の無い景色に、ペロロンチーノの忍耐も限界だった。

 

「太陽はアホみたいに強いし、風だってほっとんど吹かねぇし!」

 

 ギラギラと輝く太陽を睨みつけ、罵る。元の世界では大気汚染も深刻な問題ではあるが、この状況では、あの淀んだ雲のお陰で人類は助かっているのではないかとさえ思えてくる。

 

「怒鳴っても仕方ないか…。取り敢えず、日陰探そう…日陰を…。」

 

 そう喘ぎ、容赦ない照り付けから逃れようとより遠くへと目を凝らす。――と、急激に視界がズームした。

 

「おわっ⁉…なんだ…?」

 

 慌てて頭を振る。もう一度辺りを見渡すと、視界は通常通りに戻っていた。

 

「今のは…視界拡大…?…『鷹の目(ホーク・アイ)』か!」

 

 『鷹の目(ホーク・アイ)』は、ユグドラシルにおいて、鳥人(バードマン)他ビースト系の種族5レベルで取得出来る種族特殊技術(スキル)だ。視界拡大の効果があるため、遠距離からの攻撃にはかなり役立ってくれた覚えがある。

 

 ――ペロロンチーノとしての特殊技術(スキル)は使えるようだ。だがそれなら……

 

「俺、マジで飛べんじゃね?」

 

 自分の背後にくっついている羽。今までは重い荷物―というかコイツがマジで重い―程度の認識しかなかったが、現金なもので何だか光り輝いて見えてきた。早速羽ばたこうと試みる。

 

 ユグドラシルの頃もその羽で宙を舞っていたが、それはあくまで設定上「空中移動」が可能であっただけで、己の器官の一部として「飛翔」していたわけではない。

 

「ん〜、と…こう、か…?」

 

 それらしき所に力を入れると翼は微妙にピクピクとは動くものの、とても「飛ぶ」という行為には至らない。

 やがて耐久上限を超える力を受け続けた筋繊維は、痙攣を始め、結果激痛が走る。俗に言う、吊る、というやつだ。

 と言うより、今まで自分にくっついたものを突然動かせと言う方が無理難題だろう。

 

「ハァ〜!無理!」

 

 しばらく頑張っていたが、成功の兆しが見えて来ない事を直感し、一気に溜めていた息を吐く。仕方なく飛行の練習は道中にと諦め、再び遠くに目を凝らす。

 

(…んで…こうか!)

 

 見事、『鷹の目(ホーク・アイ)』の再発動に成功すると、先程同様に視界が拡大される。

 

「なんかないかな〜……っと!」

 

 適当に向けた視線の先には小さく見える、鬱蒼と生い茂る木々。

 

「よっしゃ!取り敢えずあそこで休憩しよう。」

 

(大体こっから1km弱ってとこかな。)

 

 目的地までの大体の距離を見極めたペロロンチーノは、駆け足で森へと向かう。

 

「ほい、到着っと。」

 

 ほぼ全速力で走って来たペロロンチーノは、全く疲れた様子も見せずにお目当ての日陰――木の根本に座り込んだ。

 

「あぁ、暑い暑い。結局これといった目印も無し、か。」

 

 ここに来るまでの間、一応周りに気を配りながら走ってきたが、一切の人工物は見つけられなかった。データ資料でしか見たことがなかった大自然を前に、初めこそ感動したものの、それしかないとなれば飽きもする。

 

 しばらくゴロゴロしていたペロロンチーノだったが、ふと思いついた案を口にする。

 

「はぁ。いっその事、この森でも散策してみるか…?」

 

 呟き、背後に広がる深緑の迷宮を肩越しに見やる。足場の悪い地形の中、真っ直ぐ歩ける保証はないが、方角如何に関しては、何故か妙に自信がある。とはいえ何の対策もなしに視界の悪い場所へ行くのは得策ではない。しかし―

 

「じっとしてても埒が明かない、か。」

 

 足場も視界も開けてはいないが、注意していれば足場の悪い地面でも転ける事は無い。ペロロンチーノは一歩一歩慎重に足を進める。

 ブーツ越しに足にじわじわと伝わる土の感触。現実世界(リアル)では味わえない新鮮な体験に心躍る。

 ゴツゴツと飛び出た木の根。鼻孔に薫る土の匂い。

 森の中はまた森の中で楽しいものだ。先程までの草原の様子とは違い、少しではあるが小動物もチラホラと顔を見せている。

 

 そんな調子でしばらく歩いていると、辺りの雰囲気が一変する。どうやら先までよりも古い木が増えたようだ。森の中心に近づいた、ということだろう。

 未知に対するワクワク感に、ユグドラシル時代のダンジョン攻略の記憶が蘇ってくる。――すると突如、他とは一線を画した大樹を発見した。

 

「ほぉ〜。デカイ木だな〜。」

 

 全長は30メートルにはなろうかという代物。日本にも屋久杉と称される巨大な木の亡骸が南の島にあったが、この木は未だ生命を維持している。

 

 ペロロンチーノは木の下まで歩み寄り、その幹をまじまじと見つめた。上の方まで侵食した苔とくすんだ焦げ茶色の分厚い樹皮は、重ねて来た歳を感じさせる。

 

「あの〜」

 

「ぅわっ!誰⁉」

 

 唐突にかけられた声に対し、間髪を入れず誰何する。だが返事は無く、ただ静寂だけが舞い降りる。

 ホラー映画さながらのあまりの不気味さに、思わず身構えながら辺りを見渡す――すると、木の陰からこちらを伺う、2つの目玉があった。

 

「ぅわっ!何⁉」

 

 驚愕からか、扱いがより粗雑になったペロロンチーノ。臨戦態勢を取る彼の様子をうかがいながらそっと近付く少女に、ペロロンチーノは見覚えがあった。

 

(全体的に緑がかった肌と、長く尖った耳…。森精霊(ドライアード)だろうな。)

 

「こんにちは?…で良いのかな?ドライアード、ちゃん…?」

 

 案外直ぐに立ち直ったペロロンチーノだが、自分から話しかけているくせにやたらと語尾に疑問符がつく。

 

「あ…私の名前は、ピニスン・ポール・ペルリア。…もしかして、あたしの事、覚えてない…?」

 

森精霊(ドライアード)が個体名を…?あぁ、イベント系のNPCみたいなもんか。)

 

「も、勿論覚えているよ。ペロリア君。」

 

 咄嗟に出てきた嘘は天啓とでも言うべきか。

 

「あぁ、良かった。いきなりだけど、かなり切羽詰まっているから率直に言うね。実はこの間退治してもらった魔樹についてなんだけど、本体がもう目覚めようとしているんだ…。」

 

(魔樹...。植物系のモンスター...?さっぱり話が分からん...。俺が以前退治したと言うが、100%別人だよな…。しかしああ言ってしまった以上、ここは貫き通すしかないか。)

 

 ちょっと一言嘘を言っただけで、いきなり面倒事に巻き込まれ、頭を抱えたくなる。

 

「何!もう動き出すだと!ふ〜む、どうするべきか…」

 

 考え込むふりをし、俯きながらこっそり森精霊(ドライアード)の顔色を伺う。自分では取るべき行動はおろか、置かれている状況すら理解できない。

 

「前に来てくれた人達を呼んで、またやっつけてもらえたらな〜…なんて。」

 

(正体不明の敵とは戦いたくないなぁ…。ていうか前に来た人達って誰だよ…。もしかして皆も異世界(こっち)に来てるのか?巧くそっちに誘導できれば…)

 

「えー、そ、俺の仲間達とは現在連絡が付かないんだよね…。で!だ。君の方から彼らに連絡を取ることは出来ないかな?」

 

 自分の恐るべき対人スキルに感動しながら、ペロロンチーノはある一つの事に気が付く。 

 

(この世界、魔法という物は存在しているのか?いや、待て。俺の所持物は何処に行った⁉)

 

 最強装備こそギルドマスターに預けたものの、それ以外の装備は持ったままのはずだ。現在の防御力は丸裸同然。それに溜め込んでいた大量の巻物(スクロール)が無いとなると、致命的な弱体化は免れない。

習得していないとはいえ、魔法が存在しないとなると、今後取るべき行動が全く変わってくるだろう。

 

「…う〜ん。それは申し訳無いけどできないなぁ。流石に私も魔法は使えないから…。」

 

よし、魔法はあるんだ。…んん!では少し待っていてくれないか?」

 

 そう言うとペロロンチーノは近くの木陰に逃げ込む。

 

「危ね〜、素が出た。とはいえ、魔法の存在は確認できたな。えっと、次はっと。」

 

 現在の持ち物はあるのか無いのか。もしあるなら何処にあるのか。それ如何で今後の動きは大きく変わる。もし転移直後の場所周辺にあったら最悪だが、不思議と帰り道は記憶出来ている為、心配は無いだろう。――だが…

 

(可能性は一つずつでも潰しておいた方がいいよな。)

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 救世主たる鳥人(バードマン)の変わり様に、ピニスン・ポール・ペルリアは心底驚いた。

 

 以前――正確な数字は遠い昔のことなので忘れた――この羽の生えた人が来たときは、凄く立派な鎧を身に纏い、持っていた武器も強さはイマイチピンと来なかったものの、目の玉が飛び出る程綺麗なものだった。

 それなのに、現れたばかりのこの鳥人(バードマン)は、防御力の有りそうな物は一切何も身に着けておらず、その上素手という有様だった。元の装備はどうしたのだろう、仲間はどこへ行ったのだろう、そういった心配が心中で渦巻く。

 

「よっ!!お待たせ。」

 

「ギャッ!」

 

 思考の渦に沈んでいた者に、意識外からの不意打ちはクリティカルだ。それは森精霊(ドライアード)とて例外ではない。

 

「いきなり脅かす?普通!」

 

 なんの前触れもなしに背後から声を掛けてきた鳥を、涙目で睨む。意図的で無かったのならここまで怒りはしないが、相手は悪戯が成功した子供特有のニヤニヤとした笑みを浮かべている。故意であったのは確実だ。

 

「ごめんごめん。」

 

「どうして再会早々そういうことするかなぁ!」

 

「挨拶みたいなもんだよ。」

 

 ああ言えばこう言う即座の返答。今置かれているシチュエーションをあろう事か楽しんでいるようだ。加えて、どう言及してものらりくらりと逃げて行きそうな予感に、追撃は無意味と判断したピニスンは改めてその服装に目をやる。

 

 先程迄は、ほとんど丸裸同然の格好だった。だが、今はどうだろう。

 流れる様な群青のサーコート、顔全体を覆い隠す漆黒の兜、同じく真っ黒な――何で作られたかは分からない――革鎧など、様々な装備で身を固めていた。それに加え、その手には数多くの宝石を嵌め込んだ、骨製の弓を握っている。どれを取っても明らかに、先の装備より良いものだ。

 

「まぁ、それはおいといて、問題の魔樹は、どこに居るの?」

 

 静寂を何と勘違いしたか、人の非難をさり気無くスルーしたような気がするが、この際は置いておこう。

 

「もっと森の深いとこなんだけどね…。木々の枯れ切った所があるんだ。多分その近くに…。」

 

「ん、じゃ案内お願い。」

 

 これまた散歩しに行く、とでも言うような軽いノリで即答した鳥に、ピニスンは狂気なモノを見る目を向ける。

 

「あんた…前に自分が一部と戦って苦戦したの覚えてないの?今度は本体が目覚めるんだよ?」

 

「う、あ〜…ちょっと下見に、ね?」

 

 下見程度でもかの魔樹であれば…、と思わないでもないが、この鳥の実力は既に己が目でしかと知っている。そのため、数秒の逡巡の末、妥協するに至る。――魔樹を刺激しない、と厳しく念押しした上で。

 

「はいはい。OK。了解。」

 

 やっぱりこいつ信用できない。

 

 背後に()救世主を引き連れ、ピニスン・ポール・ペルリアは変わり果てた森の中を進む。

 

 端からすれば、一般人からしてみれば、昔と何も変わりない森だろう。

 しかし、森精霊(ドライアード)の寿命、そして種族的な森との繋がりによって、まるで敵地(アウェー)に来たかのような錯覚を覚える。

 

「大丈夫か?」

 

 鳥人(バードマン)の気遣いに、自分が苦渋の面で歩いている事に気付かされる。

 

「ああ、うん。大丈夫。」

 

「そうか。」

 

 優しい所もあるな、そもそも前にあった時はこんな奴だったかと、他愛もない事を考えながら歩く。少しの気晴らしというより、そうでもしていないと気が滅入る。心無しか周囲から敵対的な目線まで感じて来るようだ。

 

「そろそろだと思うんだけど――」

 

 その時、森の悲鳴がより一層強くなった。目的地はすぐそこだ。

 

 視界が()()、目的の場所がその姿を現した。

 先程とは打って変わって緑の欠けた土地。

 森の中心部に近いはずのそこには植物らしい植物が一切無く、ただ荒れた地面が続いていた。

 

「ここだよ。この何処かに、魔樹はいる。」

 

 緊張の面持ちでピニスンが言う。

 

「一定の期間毎に一部が起きて、この辺を荒らし回ってるんだ。」

 

「なるほど。このいっぱいあるデコボコは木を引っこ抜いた跡って訳だ。」

 

 そう言い指差すペロロンチーノの先には、巨大な蟻塚のようなものが複数に渡って鎮座していた。

 

(周りに残骸が無いってことは…木でも食うのか?でも何故……地中か。)

 

 敵の居場所をなんとなく悟ったペロロンチーノは、冷静に次に取るべき行動を模索する。

 

(逃げ…たくはないな。折角の自分の力を知るチャンスだ。でももしヤバいのが来たら…)

 

「そん時は逃げりゃいいか。ありったけの逃走用アイテムは持ってるしな。」

 

 魔樹という呼び名から察するに、敵は恐らくトレント。刺突にまあまあの耐性を持っていたとしても、敏捷性を犠牲に、体力にステータスを振られたモンスターに苦戦するほど弱くはない。それに、敵がもし同格の100レベルだったとしても、この地形、この装備ならかなり善戦出来る自信がある。森での戦いは弓兵(アーチャー)職業(クラス)的には不利だが、それを補って余りある別な職業(クラス)や、アイテムもある。

 覚悟を決めたペロロンチーノは、とあるスキルを発動させ、真上に弓を放った後、ピニスンに向かい直る。

 

「ちょいと離れててもらえるか?そこにいると少々危険だからな。」

 

「え、ちょ、ちょっと待って。一体何したっていうの?」

 

 慌てふためくピニスンに、まぁ当然の反応だな、とペロロンチーノは冷静に思う。とはいえ、今更考えを変える気も無いし、もう手遅れだ。

 

 刹那。

 ドガガガッという爆音が大地を削った。

 

 己のスキル、"レインアロー【天河の一射】"が起こした惨状を見つめ、ペロロンチーノは自分の力に嗤う。

 地形が先程と逆だ。多数の蟻塚があった土地は、余す所なく蟻地獄へと変化している。

 

「あ…え…。」

 

 後ろで森精霊(ドライアード)が絶句しているが、ペロロンチーノの注意は既に其処には無い。

 冷徹な視線を送る先、大地を割り、ゆっくりと地中から姿を見せるものがいた。

 

「あ……あぁ…。」

 

 再びピニスンが言葉を失ったかの様に喘いでいるが、先程のものが呆然だとするなら、今度は絶望だろうか。

 

「おっと………。マジか……。」

 

 想像していたのは、せいぜい10mのトレント上位種だ。これには流石のペロロンチーノも言葉を失う。

 

 ずるずると現れているその頭頂部の大きさから考えて、ざっと100m超の巨木が地面に埋まっているなど、誰が想像出来ようか。圧倒的なその巨体に、ただ立ち尽くすペロロンチーノ。

 

 完全に〈〈生えた〉〉後、300mの枝―と言うより最早触手だ―を振り回し、周辺の木を根こそぎ口にする。

 

「草食……な訳無いよな…。」

 

 ペロロンチーノの呟きに応えるかのように、口から牙を覗かせた木の怪物は、()()を上げる。

 

 

 戦いの幕は開かれた。

 

 

 

 




独自設定
超速のザイトルクワエ戦

 スキル
  "レインアロー【天河の一射】"
   アウラのスキルですが、同じ弓持ちなので

 装備
  ペロロンチーノの装備
   一応偵察という名目なので、隠密系重視の装備です。ただし、万が一を考えて早着替えの効果あり。
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