オーバーロード〜新たなる神々〜   作:HONEEEE

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其の伍 一騎討ち

 斬、と空気を断つ。その音を聞く度に、鼓動が高鳴るのを感じる。

 

 一合、二合と刃を混じえ、次なる攻撃に移るべく全身の神経を集中させる。

 

 再び唸る空気を、身を反らして避ける。それと同時に、攻撃によって若干体勢を崩した敵を、渾身の力を込めて殴り付ける。

 

 流れるように己のありとあらゆる技を試す。

 これは実験だが、真は芸術でもある。

 倒すことに重きを置くのではなく、次へ繋げる事へと集中する。

 

 自分のものとなった圧倒的なチカラ。

 

昂る感情を抑え、再び踊りかかる。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「男の浪漫、いいですね。それじゃあ、戦ってみます?」

 

 突如モモンガから声が掛かる。その台詞の唐突さと物騒さに、武人建御雷は僅かながら慄く。

 

「……自分の強さを掴んだからっていきなり宣戦布告(PvP)か……。戦闘狂め……。」

 

 冗談めかした武人建御雷の言葉に、モモンガも笑いながら答える。

 

「俺は戦いませんよ!どのみち武御雷さんみたいな熟練戦士職相手じゃ、一気に詰められて終了です。……そうじゃなくて、剣を振る相手が藁人形じゃつまらないでしょう?」

 

「まぁ、確かにそれもそうだが。」

 

「それに建御雷さん、30レベル位の雑魚じゃ満足いく手応えないでしょう?」

 

「……確かに特殊技術(スキル)こみの戦闘なら70レベル相当の体力は欲しいな。」

 

 攻撃力重視でビルドを組んでいる武人建御雷からすれば、50レベル以下の敵など相手では無い。ソロとはいえ、最低でも60レベル位の平均的な体力を持っていなければ、特殊技術(スキル)の初コンボに耐えられないだろう。

 つまり体力多めのタコ殴りに出来るサンドバッグをくれ、と言ったつもりだったのだが……。

 

「そうですね。それじゃあ……〈|根源の火精霊召喚《サモン・プライマル・ファイヤーエレメンタル》〉」

 

 モモンガの言葉に合わせ、突き付けられたスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに組み込まれた宝玉の一つ、紅い珠がその力を発揮せんと光り輝く。

 すると、唯一残っていた未だ破壊されていない藁人形を中心に炎の豪風が巻き起こる。それに伴い、炭と化していた人形達は問答無用とばかりに四散させられる。

 熱風が過ぎ去った後、そこに居たのは人型をとる異様な巨体だった。

 

 根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)

 YUGGDRASILの精霊(エレメンタル)種において、根源(プライマル)は、アイテムで召喚出来る中では最高位のものだ。その中でも火精霊はその名の通り火に関する特殊技術(スキル)を数多く保有している。それに加え、存在するだけで周囲に火炎の継続ダメージを負わせる能力を持つ、精霊にしては珍しい物理攻撃系のモンスターとして有名だ。

 そんなモンスターを前にし、武人建御雷は思わず顔が引きつる。

 

「…結構ガチな奴出してくるな…。」

 

 半巨人(ネフィリム)の種族そのものは物理防御値に対し、魔法防御値が高いとは言えない。武人建御雷もその装備によって防御値をかなり上げてはいるが、やはり魔法に対しては完全耐性からは程遠い所だ。

 しかも所持している装備から、相性が悪くないが良くもない火属性を選択してくる辺り、モモンガの悪戯心(?)が滲み出ている。

 

(…継続ダメージは鎧でカット出来る。第六位階以下の魔法も特殊技術(スキル)で無効化。第七位階以上で警戒するとしたら、〈獄炎(ヘルフレイム)〉位か…。武器は俺が持ってるこれしか無いからな…。)

 

「あれ、これどうやって動かせばいいんだ?」

 

 どうやって倒そうかとあれこれ思案していると、モモンガが不思議そうな声を上げる。

 

「どうした?」

 

「召喚獣の使役ってどうやるのかな〜って思いまして。」

 

「ん、それなら適任が居るじゃねぇか。」

 

 そう言って示すのは双子の姉。多数の魔獣を従えるテイマーの彼女ならば、適当なアドバイスをくれるだろう。

 と、そこは流石階層守護者。自分へと意識が向けられているのを理解したのだろう、既に手招きで呼べる位に近付いていた。

 

「アウラ、ちょっといいか?」

 

「はい!どうかしたんですか?」

 

「お前は魔獣とどうやってコミュニケーションをとってるんだ?」

 

 うーん、と考える素振りをするアウラ。数秒の後、おずおずと口を開く。

 

「特にこれと言うものはないんですけど、何となく気持ちが分かるんですよね。それで念じて、やって欲しい事を伝える、みたいな感じです。」

 

「なるほどな。だとさ、モモンガさん。」

 

 結果、得られたのは何とも漠然とした回答だったが、まぁ物は試しだ。やってみろ、と手で急かす。

 

「……建御雷さんを攻撃しろ。」

 

 と、その瞬間。

 

「ごはっ!」

 

 すんでの所で刀の鞘を間に挟み、直接的なダメージは防いだものの、衝撃に耐えられず二転、三転と地面を転がる。

 

「武人建御雷様!大丈夫ですか!?」

 

「……クソッタレが……。」

 

「ヤバ、建御雷さん怒らせた……。」

 

 完全な不意打ちに、そこそこの怒りを感じながらゆらりと立ち上がる。

 戦闘開始だ。

 

「デカブツが。掛かってこいよ、叩き潰してやる。〈ナイト・チャレンジ〉」

 

 1vs1の時は特に意味はない―ヘイト値によって威力が変わる攻撃もあるが、武人建御雷は持っていない―が、ユグドラシルと同じ様な流れを作る為に、ヘイト上昇値が二乗になるスキルを使用する。いわゆるルーティーン、と言う奴だ。

 ところがその甲斐あってか、様子見のつもりか立ち止まっていた根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)は、唸りを上げて猛進を開始する。

 

 己の得物を正眼に構え、半身で突っ込んでくる精霊を見つめる。刀が羽のように軽く感じられるのは、肉体の筋力が優れているからか。

 

(あの速度でまともに殴られたら生きてられる気がしないんだが…。)

 

 半巨人(ネフィリム)の体は大丈夫なのかも知れないが、人間としての精神は今にも腰を抜かしそうだ。

 だが、そんなみっともない事出来る筈もない。

 

(これは示威行為(デモンストレーション)…それに、今の俺は武人建御雷、アインズ・ウール・ゴウンのサムライだ。集中しろ…。)

 

 そんなことを考えている間にも、根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)は歩を止めることなく、すぐ目前にまで迫ってきている。

 

 精霊が右拳を引き、撃ち出す。

 フェイントも何もない、ただその体躯に物を言わせただけの単純な正拳突き。

 しかし、そこに込められた力は尋常ではない。

 武人建御雷が数瞬前に立っていた空間を、豪風を伴った圧倒的な力が通り過ぎる。

 

(スピードは想定内。だが力はユグドラシルと比べて大分派手に感じるな。)

 

 ユグドラシルでは、直接風を起こすようなアイテムや攻撃をしない限りは、風は吹いたりしない。たとえあったとしても、触覚が制限されている中では無用の長物だっただろう。

 流れるような動きで右に回り込むと、体勢を崩した精霊に向かって、浅く切りつける。だがその動きを予想していたのか、思いの外機敏な動きで回避される。

 

「ほぅ、なかなかやるな。」

 

 愚鈍な突進から、単なるでくの坊かと思っていたがどうもそうでは無い様だ。

 まるでプレイヤーを相手にしている様な感覚に、武人建御雷は警戒レベルを1段階引き上げ、次なる攻撃に備える。

 精霊が再び突進を敢行するのに合わせ、取ったのは居合の型。振り下ろされた特大サイズの拳を、突き出した刀の柄で受け――

 

(軽い!)

 

「グッ…!」

 

 つまり叩き付けはフェイントで、本命はその後。

 

 慌てて引き戻した刀はギリギリ間に合い、横から来た反対の腕を弾く。なんとか初撃同様、ダメージを緩和する事に成功した。だがやはり、伝わってくる衝撃は消し切れず、腕に痺れを残していく。

 

(ちくしょー…。完全に腕が鈍ってるな…。)

 

 全盛期であれば予測は愚か、転じて攻撃も出来たであろう一撃を受けてしまった事に、苛立ちを覚える。

 だが少しずつではあるが、感覚を取り戻している事も確かだ。

 

「そろそろ――」

 

 言いかけて、心配はしてくれているらしいギルドマスターの声が重なる。

 

「――防戦一方ですけど大丈夫ですか?必要なら支援魔法かけますよ!」

 

「大丈夫だ!問題ない!……こっからが本番だ。」

 

 かなり大振りの攻撃を弾かれた為か、態勢を崩していた根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)

 その巨体が完全に姿勢を整えたのを確認し、武人建御雷は刀を腰に佩いたまま走り出す。

 先程とは変わり、今度は精霊が待ちの姿勢だ。

 

(……一瞬置いて……ココだ!)

 

 相手の間合いに入った瞬間、袈裟斬りとばかりに斜めに振り降ろされた拳を、懐に入り込むことで回避する。よもや接近してくるとは思っていなかったであろう精霊の動きは、鈍い。

 今のは近接戦に慣れた者しか出来ない、見事な回避だろう、と口には出さないが自負する。

 

「〈四方八方〉」

 

 すれ違いざまに、連続した斬撃ダメージを与える特殊技術(スキル)を使用し、そのまま後ろに切り抜く。ぶっつけ本番の特殊技術(スキル)使用ではあったが、筆舌に尽くし難い素晴らしい感覚だ。使った瞬間の、湧き上がる力と高揚感。

 

(この力……マジで俺のものなのか……。これなら……!)

 

「〈不動明王撃(アチャラナータ)・不動羂索〉!」

 

 確かな自信と共に、振り返りつつ膝をついた精霊に対し、切り札とも言える五大明王撃のコンボの初手を叩き込む。

 発動と同時に、巨大な影が根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)を覆う。

 

「こうして見ると凄ぇ迫力だな……。」

 

 武人建御雷の十倍はあろうかという巨体をもつ不動明王が出現した。するとその手に納められていた羂索がひとりでに動き、精霊を縛る。

 

 ニつある|不動明王撃のうち、〈不動羂索〉は敵の回避率を著しく減少させる技だ。カルマ値が低い程効果があるこの技は、本来仲間に対象のカルマ値を弄ってもらってから使うのだが、無いものを嘆いても仕方がない。

 

 現に、精霊の動きは目に見えて落ちている。

 

「おお……。見ていろ、アウラ、マーレ。ここからが建御雷さんの切り札だ。」

 

 どこかから聞こえるそんな声に笑みを零すと、間髪を入れず次なる攻撃に移る。

 

「〈降三世明王撃(トライローキヴィジャヤ)〉」

 

 不動明王とは似て非なる明王、降三世明王が出現する。保持しているのは、その巨体に見合った巨大な戦槍だ。

 

「こおぉああ!」

 

 刀を全力で振り下ろし――空を斬る。

 するとそれを合図に、降三世明王は槍を構え――

 豪風が巻き起こった。

 

「派手過ぎるだろ……。」

 

 突き出された槍は、動きの鈍った根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)を貫通し、背後の地面にクレーターを作るまでに至っていた。

 事の犯人降三世明王は、役目は果たしたと言わんばかりにその巨体を虚空に消す。

 

「これがゲームと現実との差、か……。」

 

 ユグドラシルでは個体が対象の技の影響で、フィールドに変化を及ぼす、などという事は無かった。だが確かに現実ではそうは行かないだろう。当たる当たらないに関わらず、殴れば凹むし切れば削れる。

 ただ、一度こうなってしまってはもうヤケだ。

 

「〈大威徳明王撃(ヤマーンタカ)〉〈軍荼利明王撃(グンダリー)〉」

 

 大威徳明王がやはり巨大な棍棒で、潰そうとするかの如く苛烈に精霊を叩きのめす。

 軍荼利明王はその手に従える蛇をけしかけ、不動明王撃の効果が切れた精霊を再び封じ込める。

 

 ことが終わり煙が晴れたそこには、なだらかだった筈の大地に倒れたまま、移動阻害によって身動きが取れなくなっている根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)がいた。

 

「……何か……虐めの首謀者の気分だ……。」

 

 いくら実験とはいえ、多数の明王で袋叩きにした事に申し訳ない気分になりながら、五大明王撃最後の一撃を発動させる。

 

「〈金剛夜叉明王撃(ヴァジュラヤクシャ)〉」

 

 今回出現したのは、これまでの明王達とは風格を違えた一回り大きな明王。その手に持つのは例に漏れず巨大な金剛杵。だがそれもただの金属の棒であるはずがなく、雷撃を纏った一際攻撃的な金棒だ。

 

「終了だな。」

 

 存在を確認した武人建御雷は再び刀を振るう。

 同時に金剛夜叉明王も、刀の軌道をトレースしたかのようにその得物を横薙ぎに殴りつける。金剛杵の衝撃によって大きくノックバックを受けた根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)に、雷撃が纏わりつき更なるダメージを与える。

 しかしそれだけでは終わらない。

 

 さらに、精霊を取り囲むように再び不動明王、降三世明王、大威徳明王、軍荼利明王が出現する。五体の明王達が仁王立ちで囲む様は正に圧巻。睨みつけるような形相を崩す事なく、それぞれが虚空から鎖を取り出すと、その一端を精霊に投げつける。

 これが俗に言う五大明王コンボの真骨頂、行動の完全阻害である。これは移動阻害に対する完全耐性をも突き抜けることが出来、その間に莫大なダメージを与えることができる、という技だ。

 

「〈風斬〉〈四方八方〉〈スマイト・フロスト・バーン〉」

 

 五大明王コンボによって完全に動きを止められた精霊に対し、再詠唱時間(リキャストタイム)の長い大技を叩き込む。

 先程使った〈四方八方〉に加え、攻撃の威力及び速度が上昇する〈風斬〉、攻撃に氷の属性を付与し、なおかつ追加の属性ダメージを与える〈スマイト・フロスト・バーン〉を使用する。

 本来ならばここに、効果対象が多い程攻撃力が上がる〈羅刹〉や弱体効果(デバフ)を付与する特殊技術(スキル)を上乗せするのだが、根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)の残体力的に考えて、もう今は必要ないだろう。

 

 ゴオオオォ――と音を立てて火柱が立つ。

 数刻の後、それが消えた後には何も残っていなかった。

 

「お見事です。建御雷さん。」

 

「ホントにカッコ良かったです!」

 

「す、凄かったです!」 

 

 戦闘態勢を解き、観戦者達のもとへ歩み寄ると、口々に賞賛の声が掛けられる。

 

「おう、ありがとよ!」

 

「一応ポーション使っといて下さい。効くかどうかの確認も兼ねて。」

 

 そう言って手渡されるのは血のような色をした、下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)。ユグドラシルにて、序盤の内からかなりお世話になる、一般的な治癒の薬だ。だが、武人建御雷はある事に疑問を抱く。

 

「何でモモンガさんが下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)なんて持ってるんだ?アンデッドにとっては毒だろうに。」

 

 武人建御雷が負の属性を持つものによってダメージを受けるように、負の生命であるアンデッドは、治癒の力でダメージを受ける。――因みにアンデッドが回復を図るときには負属性の魔法やアイテムを自身に施す――従ってモモンガには不要なアイテムの筈だ。

 

「いえ、俺貧乏性でして。売ろうに売れないんですよね、こういう消費系のアイテム。それに,

他の人にはちゃんと回復薬として働きますし。」

 

「それ、物凄い量あるんじゃ……?」

 

 序盤から入手出来る薬を捨ても使いもせずにとっている、それが本当だとすれば、総数はどれ程のものか。

 

下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)だけで、一万回死にかけても問題は無いです。」

 

 微笑んで発せられたセリフにひとしきり笑ったあと、ようやく先程の戦闘が一応実験も兼ねていたという事を思い出す。

 

「あ、そうそう。特殊技術(スキル)は最高だったぜ。」

 

「と言うと?」

 

「なんと言うかなぁ……。隠れてた力が湧き出て来た、みたいな感じか?」

 

「ああ、分かります。魔法を使用する時、俺も似た感情になりますよ。」

 

 現実世界(リアル)では持ち得ぬ力に、二人の上位者が、冷めやらぬ興奮に身を任せ話し込んでいると、アウラがおずおずと疑念の声を上げる。

 

「あの、モモンガ様も、武人建御雷様も、昔から魔法や特殊技術(スキル)は使えていましたよね……?」

 

 冷や汗が背中を伝う。双子の守護者を、完全に仲間(ギルドメンバー)と見做して話をしていた。事前に、アウラとマーレに対する示威行為であると伝えられたにも関わらず――。

 思わずモモンガを横目で盗み見ると、失策の為震えているようにも見えてくる。誤魔化そうと慌てて台詞を考えるも、焦った頭は空回りするばかりで何も浮かばない。だがそんな中モモンガは、いとも冷静に告げる。

 

「ああ、詳細は各守護者達が集まった時に伝える。今は、我々は未曾有の危機に晒されている、とだけ言っておこう。」

 

「え、えぇえ!そ、それって大丈夫なんですか?」

 

 予想だにしていなかった事実を告げられ、マーレが大慌てで叫ぶと、アウラも驚愕に彩られた顔で何度も頷く。だがモモンガは努めて優しい声を作ると、双子に言い聞かせるように話す。

 

「ああ。安心しろ。私達がいる()は、このナザリックに被害は及ばせない。」

 

 それを聞くと、二人は安堵と同時に不思議な表情を浮かべる。一方武人建御雷は、言葉少ない会話の中でも絶妙な布石を打つモモンガの話術に、驚愕を隠しきれないでいた。

 

「だから心配する必要は無いぞ、アウラ、マーレ。」

 

「あたし達、()()()なのに……。何も出来ないなんて……。」

 

「そう畏まるな。お前達守護者は仲間達の遺した宝。傷を付けられてたまるものか。」

 

 シモベとしての責任を感じているらしいアウラ達に対し、モモンガはどこまでも優しく語りかける。

 

「待て、誰か来たぞ。」

 

 一部始終を、モモンガさんって案外子供の扱いに長けているんだな~、などと思いながら聞いていた武人建御雷。しかし、自身のアイテムの効果でこの円形劇場(アンフィテアトルム)に転移してくる存在を知覚したため、念を入れて会話に割って入る。

 

「転移魔法なら……シャルティアですね。」

 

 先程の無邪気な様子とは一変、吐き捨てるような冷たい口調でアウラが呟く。

 それとほぼ同時。テンションの落差に瞠目する暇もなく、モモンガから然程離れない距離。そこにのっぺりという擬態語が相応しい、楕円の下半分を切り取ったような闇が出現する。

 そこからするりと出てきたのは、正に美の結晶と言っても過言ではない、可憐な少女だ。

 

「ご機嫌麗しゅう、モモンガ様。それに――武人建御雷様!お帰りになりんしたんでありんすね!」

 

「お前もな、シャルティア。」

 

「おう!帰ってきたぜ。」

 

 体をくねらせながらモモンガに近づくその姿は、見た目の年齢とはそぐわず、ちぐはぐで可愛らしささえある。だがそれでも、女性経験の少ないであろうモモンガには十分だったのか、骸骨の頭部を若干引いている。

 

(アイツ、死体愛好癖(ネクロフィリア)も盛ってたのか…。それより、シャルティアの目が一番怖いんだが……。)

 

 まるで蛇が獲物に狙いを定めているような、そんな雰囲気を宿した目だ。モモンガを一心に見据え、逃さない様にロックオンしているようにも見えてくる。実際そうならないのは、本人が必死に抑えている為か、はたまた自分がいるので遠慮しているのか。

 

「くさ……。」

 

 シャルティアとすれ違った瞬間、アウラが呟く。アンデッドである為、屍臭でもするのかと思ったが、その理由はシャルティアが近くに来た時に分かる。

 

(きっつい香水使ってんな……。)

 

 創造主(ペロロンチーノ)は何をしたかったんだ、と頭を抱えたくなるが、それも無理は無いだろう。

 エロゲー・イズ・マイライフを豪語する男が自分の趣味思考をこれでもかと注ぎ込み、そうして創られたのがこのダメ美少女、シャルティア・ブラッドフォールンなのだから。

 だが、次に続いた、アンデッドだから腐ってるんじゃない?と言う発言は、シャルティアも見逃す事が出来なかったようだ。

 

「それは不味いでありんしょう。モモンガ様もアンデッドなのだから。」

 

「いや、モモンガさん骸骨だから体臭とか無いだろ……。」

 

 自分の腕を持ち上げ、臭いを嗅いでいるモモンガを見て、思わず突っ込んでしまう。しかしアウラの反論は、更に斜め上を行く。

 

「はぁ?モモンガ様が単なるアンデッドなわけ無いじゃん。多分(スーパー)アンデッドとか(ゴッド)アンデッドだと思うけど。」

 

 あぁ、とかうん、とか納得の声が聞こえる中、再び突っ込もうとするが、第三者の乱入によって止められる。

 

「オォ!武人建御雷様ッ!」

 

 人では無い者が無理矢理人を真似た様な声。その発生源は――

 

「…よう!久しぶりだな、コキュートス。元気だったか?」

 

「ハッ!日々、鍛錬ヲ積ミ重ネテ参リマシタ。」

 

 ゴオォ、と吐く息は極寒の冷気を以て、ダイヤモンドダストを作り出す。

 自分と同じ、武人というコンセプトで創り出した階層守護者、コキュートス。第五階層、氷河の護り手だ。蟻と蟷螂を融合させたような体の背には、あたかも氷山のような突起が複数並んでいる。人の首ほどはあろうかという四本の太い腕は、二本で白銀のハルバード、残りの二本で、それぞれメイスとブロードソードを保持していた。

  

「そうか。それは良い事だ。何事も続けていくのは大事な事だからな。」

 

「ハッ!」

 

 守護者達の声は設定出来るものではない。だが、全員が想像と似た声を発する事に、武人建御雷は一人苦笑する。脳内声優なるものについて語っていたのは、たしかペロロンチーノだったか。

 そんな事を考えている間にも、来訪者は続々とやってくる。

 

「皆様、お待たせ致しました…ッ!武人建御雷様!御帰還なされたのですか!」

 

「おう!デミウルゴスか。…ウルベルトの創ったまんまだな。昔を思い出すぜ。」

 

「よく来た、デミウルゴス。それにアルベド。」

 

 頂点たるモモンガからの労いに、興奮冷めやらぬデミウルゴスも一時的に冷静さを取り戻し、アルベドと共に並ぶ。

 

「至高の御方の命令とあらば、即座に。」

 

「有難う御座います。ですが、労われる程の事はしておりません。」

 

「そうか…。」

 

 全階層を渡り歩いたのだから、そこそこの仕事ではあるだろうと思うが、モモンガも了承の言葉以外言いそうにないので、コメントは自重する。

 

 全員が揃った事で、守護者達の雰囲気が一変する。

 何事かと身構える武人建御雷とモモンガ。

 そんな中、アルベドのみが一歩前に出る。

 

「では皆、至高の御方々に忠誠の儀を。」

 

 




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