他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

10 / 83
第10話 「事件」

「うーん、やっぱり荷物持ちとして恭ちゃんにも来て貰うんだったなぁ」

 

「何か色々とすみません」

 

美由希さんが大量の荷物を抱えながらぼやいている。返答する私も、アリシアちゃんもなのはさんも、みんな一杯の荷物を抱えていた。尤も体格差があるので、殆ど美由希さんが持ってくれているのだけれど。

 

今日は土曜日。美由希さんとなのはさんが付き添ってくれて、海鳴市の隣、遠見市というところにある大き目のショッピングモールまで、アリシアちゃんと私の生活必需品を買い出しに来ているのだ。

 

「急ぎじゃないものは配送して貰っているから、これでも今日明日で使うものだけだよ、お姉ちゃん。それにお兄ちゃんは今日翠屋でお手伝いだし」

 

なのはさんが言う通り、今私達が持っている荷物の倍以上の量を、既に配送依頼済みである。私達の年頃だとすぐに成長して、折角買った服が着られなくなるかもしれないことや、いつミッドチルダに帰ることになるか判らない状態であることなどから、服は買ったとしても3着くらいかと思っていたのだが、美由希さんは何故か私とアリシアちゃんにそれぞれ10着ずつ程度の服を買っていた。

 

「美由希さん、やっぱりそのゴスロリドレスは配送お願いした方がいいんじゃないですか? 一番かさばってるじゃないですか」

 

「ダメよ。配送にしたら明日までに届くかも判らないじゃない。これだけは今夜のうちに絶対着てもらわなくちゃ」

 

どうやら美由希さんは私とアリシアちゃんを着せ替え人形にしたいらしい。ゴスロリドレスだけでなく、もう11月だと言うのに何故か水着まで用意されていた。さすがにそちらは配送分の中だけれど。私は苦笑しながら美由希さんの荷物から一番重そうな箱が入った手提げを手にした。それと同時に少しだけ魔法で身体を強化する。

 

「私はまだ余裕がありますし、もともと私とアリシアちゃんのための買いものなのですから、これは私が持ちますね」

 

「え…でもそれは…? ? 」

 

私は「気の流れ」と言ったようなものは良く判らないのだが、士郎さんや恭也さんが言うには、どうも身体強化の魔法を使うと筋力や耐久力などがこれ以上ないくらいに効率よく運用されるようになり、それが「気の流れ」とやらで何となく判ってしまうのだそうだ。

 

今回は美由希さんにも判らないように、通常の10分の1程度の強化に留めている。これなら荷物持ちには十分で、しかも恭也さんでも違和感を抱かないレベルであることが、今朝方本人に協力して貰った上で検証済みだ。

 

「へー、ヴァニラちゃんって意外と力持ち? 」

 

なのはさんがキラキラした目で尋ねてくる。

 

「まぁ、並み以上には自信があるかな。すずかさんに勝てるかどうかは判らないけど」

 

「いいなぁ…わたし、運動音痴だから」

 

「え? そうなの? 」

 

わざと惚けてはみたものの、運動を苦手とする原因が制御されていない彼女の魔力であることは明らかだった。制御されていない魔力は放置しておいても命の危険などは無いが、それを意識しない限り、その力が強ければ強いほど身体機能の感覚を狂わせる。逆にちゃんと制御出来さえすれば、なのはさんレベルの魔力の持ち主は私以上に体育が得意になる筈だった。

 

(でもこの世界で生活するなのはさんには、魔法のことは伝えない方がいいよね)

 

それはなのはさん自身のためだと思う。

 

「っていうか、運動音痴なのと力がないのは違うんじゃない? 」

 

アリシアちゃんが的確なツッコミを入れてきた。なのはさんは一瞬考えるような素振りを見せた後、「あぁ、そっか」と笑っていた。

 

 

 

朝から色々なお店を回って生活必需品を買い揃えてきたが、ふと気付けば既に13時半になろうとしていた。

 

「ちょっと遅くなっちゃったけど、そろそろお昼にしようか。ここの1階にフードコートがあった筈だし」

 

「賛成~私お腹ぺこぺこ~」

 

美由希さんの提案に真っ先にアリシアちゃんが乗って、私達はフードコートで食事をすることにした。フードコートには複数の店舗がテナント形式で入っており、店舗に囲まれる形で食事をするスペースがある。

 

「なのはちゃんは何食べるの? 」

 

「うーん、今日はちょっと涼しいから、何か温かい物がいいな…あ、釜揚げうどん美味しそう」

 

「あ、じゃぁ私もそれにするよ。ヴァニラちゃんは? 」

 

「うん、私も同じものでいい」

 

「なあに? みんな釜揚げうどんなの? じゃぁあたしもうどんにしようかな」

 

といった感じでメニューはあっさり決まり、昼食はみんなで釜揚げうどんを頂いた。この手のフードコートで食べる食事としては、かなり美味しい方だったと思う。

 

「さて、と。衣類と生活必需品は概ね揃ったかな。他に何か買い忘れてるものあったっけ? 」

 

「文房具とかは? 2人共もうすぐ編入試験受けるんでしょ? 」

 

なのはさんの思いつきで文房具売り場を兼ねた本屋にも寄ることになった。

ちなみに聖祥で使う教科書の類は、編入試験終了後に学内の購買部で購入するらしい。それまでの予習はなのはさんの教科書を見せてもらっているが、概ね問題はなさそうだった。いくつか忘れてしまっている箇所もあるけれど、伊達に一度医大まで進学していた訳では無い。

 

「なのは、今学校でどんな文房具使ってるの? 」

 

「えっとね、筆記用具でしょ、定規、分度器、コンパス、絵の具とか。あとははさみかな」

 

「わ、懐かしいなぁ。分度器なんて中学以降で使った記憶ないよ」

 

美由希さんがよさそうなものをピックアップし、私とアリシアちゃんに確認を取りながら買い物かごに入れていく。絵の具や彫刻刀といった工作用具は必要になった時に改めて購入することにし、基本的な筆記用具のみ購入することになったのだが、レジのところで少し問題が発生した。

 

「大変申し訳ございません。ただいまカードリーダーが故障しておりまして、現金のみのお支払いとなってしまうのですが」

 

「あら、そうなんだ…困ったなぁ、今丁度持ち合わせが少なくて。近くにATMとか、あります? 」

 

「お客様がご利用頂いているカードの銀行でしたらモール内の第3棟にATMがありますが、ここからだと道路を挟んで向かいにある、遠見支店の方が近いですね。今日は第1土曜日なので、15時までなら窓口も開いていますよ」

 

「そっか。ありがとう」

 

現在時刻は14時半。親切に教えてくれた店員さんにお礼を言い、私達は銀行に向かった。

 

 

 

銀行は閉店間際だったせいか、私達の他にはATM利用のお客さん達が数人いる程度だった。

 

「じゃぁちょっとお金降ろしてくるから、みんなはこの辺に座って待っててね」

 

「はーい」

 

アリシアちゃんは椅子に座るとお昼前に買ってもらったコップなどの小物類を取り出した。なのはさんは横からそれを覗き込んでいる。

 

「うん、やっぱりこれかわいいね。買って貰ってよかった」

 

「わたしのと色違いのお揃いなんだよ。気に入って貰えて嬉しいな」

 

そんな話をしていると、いきなり間近で「バン!」という破裂音が聞こえた。相当に大きな音で何が起きたのか判らなかった。周りの人たちも同じだったようで、一瞬あたりが静まり返り、全員の視線が音のした方向に向けられる。

 

そこには帽子を被り、サングラスにマスクという、見るからに怪しい2人組がいた。手にしているのは、TVや映画でしか見たことのない武器。それが何を意味するのかを理解するよりも早く、1人が叫ぶ。

 

「騒ぐな!全員その場にしゃがんで、そのまま動くな。店員はシャッターを閉めろ!非常ベルは鳴らすんじゃねぇぞ!!」

 

声からすると男性のようだ。私達以外にも数人いたお客さん達はみんなその言葉で状況を把握したようで、怯えた感じではあったものの特にパニックを起こすこともなくその場にしゃがみ込んだ。

 

「銀行…強盗…? 」

 

なのはさんがポツリと呟く。アリシアちゃんはよく判っていない様子だったため、ひとまず私がなのはさんと一緒にその場にしゃがませた。

 

「静かにしてね。今はこのまま動かないで」

 

私が小声で囁くと、緊迫した空気を感じ取ったのかアリシアちゃんは無言で頷いた。

 

シャッターが閉まると店員さんもお客さんも一カ所に集められ、2人組の片割れが1人ずつ手足を縛り、携帯端末などを取り上げていく。縛られたのは店員さんが4人、お客さんが私達を含めて8人。その中には私達と同年代くらいの、プラチナブロンドの女の子もいた。見たところ犯人は2人だけのようだが、見張りをしていた方の犯人が妙に落ち着いた様子を見せているのが気にかかる。もう1人に縛るのを任せたまま、余所見すらしていることがあるのだ。

 

(特に注意を払う必要がない、とか。だとしたら他にも仲間がいる? )

 

魔力光が漏れないように縛られた両手をお尻の下に回し、スカートで覆う。一つだけサーチャーを生成して、気づかれないようにエリアサーチをかけてみるが、建物の中にいる人間はどうやらこの場にいるのが全員のようで、他には誰も見つけることが出来なかった。

 

「こら、ガキ!動くなっつってんだろうが!」

 

さすがにサーチャーはばれていないだろうが、もぞもぞと動いていたのが見咎められてしまったようだ。

 

「す…すみません、トイレに行きたくて」

 

「はぁ? 知らねぇよ。その辺で垂れ流してろ」

 

子供とはいえ、女の子に対してなんという言い様。少しむっとしたが、敢えて逆らわずに黙っておくことにした。ところが、私の代わりに美由希さんが犯人に抗議した。

 

「ちょっと!相手は子供でしょう? お手洗いくらい行かせてあげればいいじゃない!」

 

「ダメだ!いくらガキとはいえ、監視なしでこの場を離れさせるわけにはいかん。見ての通り、俺達は2人組だ。別行動を取らせるにゃ手が足りねぇ」

 

犯人の返答に不自然さを感じる。わざわざ2人組であることを暴露して強調しているようにしか聞こえなかった。すると、私達から少し離れたところで縛られていたプラチナブロンドの女の子がいきなり声を上げた。

 

「そうやって態々強調すると、却って不自然なのです。自分達は2人組じゃないぞって言っているようなものですよ。まうりーのには全部まるっとお見通しなのです」

 

「っ、このガキ…!」

 

犯人の意識が女の子の方を向く。改めて見ると、髪がプラチナブロンドなだけでなく、双眸も深みのある青。「マウリーノ」と言う名前のようだし、アリサさんと同じように帰化した両親の子なのかもしれない。その時、わずかだが美由希さんがギリっと歯噛みしたように思った。

 

犯人が目の前に立っても、「マウリーノ」さんは毅然と犯人を見つめている。

 

「あんたはわざと2人組であることを強調したのでしょう。そうすることのメリットがどこにあるのか。恐らく、ここで縛られている人質の中の誰かが共犯者なのです。人質を全員解放したら身を守る盾がなくなる。かといって逃走時まで人質を連れていたら足手まといになるし、後々の対応にも困る。だったら人質と思わせつつ、実は仲間という人物がいればいい。ですよね? 」

 

「黙れ!クソガキ!」

 

犯人が彼女に銃口を向ける。まさかそこまで露骨な行動に出るとは思わなかったが、恐らく図星を突かれて頭に血が上ってしまっているのだろう。

 

(助けなくちゃ)

 

だが、衆人環視の状況で魔法を行使する訳にもいかず、一瞬判断に迷う。と、その瞬間、私の視界から美由希さんが消えた。

 

「え!? 」

 

気がつけば、既に美由希さんは私達を縛った男を一撃で昏倒させ、更には「マウリーノ」さんに銃を突きつけていた男から銃を叩き落としてその腕を捻り上げていた。

 

「お姉ちゃん、凄い」

 

なのはさんが感嘆の声を漏らす。その時、美由希さんのほぼ真後ろで縛られていた筈の男性がいきなり立ち上がった。その手に銃が握られているのを見た瞬間、私の頭は真っ白になり、考えるよりも先に叫んでいた。

 

「ハーベスター!」

 

<≪“Blitz Action”.≫>【ブリッツ・アクション】

 

私の身体は瞬時に銃を構えた男性の足元に移動する。だが両手両足を縛られた状態では上手くバランスが取れず、そのまま転がって男性の足を払う形になってしまった。幸い男性は引き金を引くことなく銃を取り落とし、その場にひっくり返る。私は慌ててその男性に覆いかぶさって行動を阻害しようとしたが、男性は倒れた拍子に頭でも打ったのか、意識を失っていることに気が付き、ホッと息を吐いた。

 

<ハーベスター、極小の魔力刃で手の縄を切ってくれる? >

 

<≪All right. I have done it.≫>【了解、切れました】

 

最初に叫んだ時も律義に念話で返してくれたハーベスターに感謝の言葉をかけつつ足の縄をほどき、そのまま他の縛られた人達の縄もほどいていく。そう言えば美由希さんは自力で縄抜けをしたようだ。改めてすごい人なのだな、と思う。

 

気絶した男2人と美由希さんに取り押さえられた男1人を全員で縛り上げ、銀行の人が警察に通報した。ふと足元にさっきの男が落とした拳銃があるのに気付き拾い上げようとすると、先ほどの少女の声が聞こえた。

 

「あんた、それに触らない方がいーです。それはロシアのTT-1930/33、通称トカレフっていう銃です。安全装置が付いていませんから、下手に触ると暴発しますよ。さっき落ちた時に暴発しなかったのも奇跡みたいなもんです」

 

「え…そうなんですか。ありがとうございます。詳しいんですね…えっと…マウリーノさんでいいのでしょうか? 」

 

「別に…兄がこういった銃が好きで、色々教えてくれるのですよ。それに現場に手を加えず保存するのは捜査の鉄則です。ちなみに、まうりーのはざんてー的なまうぞーの呼び名です。本名はちゃんと別にありますよ。『大泉舞羽』(おおいずみ・まう)です。こんな見た目ですが、れっきとした日本人なのです」

 

「そうでしたか。改めてありがとうございます、大泉さん。私はヴァニラ・H(アッシュ)です。えっと、ご家族の方と一緒では? 」

 

「まうのすけは一人でここに来ています。後ほどショッピングモールで兄と待ち合わせなのです」

 

そんな話をしていると、なのはさんとアリシアちゃんが私のところへやってきた。

 

「ヴァニラちゃん、凄かったね。あっという間に男の人を倒しちゃうなんて」

 

「そっちの貴女もカッコ良かったよ。本物の探偵さんみたいだった。えっと、わたし、なのは。高町なのはっていうの。よろしくね」

 

「まうまうの本名はさっきそちらの方にも教えましたが、大泉舞羽です。ただ、名前は好きに呼んでくれていいです。まぁ…よろしく、なのです」

 

「あ、私はアリシア・テスタロッサだよ。よろしくね」

 

なし崩し的に自己紹介を済ませると、間もなく警察がやってきて犯人達は拘束された。被害者はそれぞれ別に事情聴取を受けたのだが、美由希さんと私達子供組は大泉さんも含めて一緒に聴取された。それによると大泉さんは遠見市、砂夜浜町の小学校に通う2年生であることが判った。

 

その後、大泉さんと私は仲良く警察の人から拳骨を貰い、お互い涙目になりながら、もう危ない事はしないと約束させられた上で解放された。ちなみに美由希さんはお咎めなしだった。

 

後から聞いた話では、美由希さんも犯人の意図に気付いてはいたものの、1人とは限らない犯人グループの他のメンバーを特定できなかったため、大泉さんが犯人を挑発し始めた時は相当に焦ったらしい。まぁ、結果オーライだった、とは言っていた。

 

 

 

「砂夜浜町だと、普段はあまり会えないよね」

 

「お互い違う学校に通っているのですし、それは仕方ないのです。まぁ、機会があればまた会えるでしょう」

 

「そうだね。じゃぁまたね、舞羽ちゃん」

 

「お兄さんにもよろしく」

 

警察から解放され、大泉さんと一緒にショッピングモールに戻った私達はひとまず下ろした現金で文房具を購入し、その後兄との待ち合わせ場所に向かうという大泉さんと別れた。事情聴取で時間を取られてしまい、時刻は既に19時を回っていたが、桃子さんには事前に連絡を入れて、夕食の時間を遅らせて貰ってある。

 

「さて、じゃぁあたし達も帰ろうか。あぁ、それからヴァニラちゃん、今夜ちょっとお話したいんだけど」

 

「…お話ですか」

 

「うん。O☆HA☆NA☆SHIだよ」

 

何だかニュアンス的にとても恐ろしい気がする。そう言えばさっき、みんなの目の前で魔法を使ってしまった。なのはさんはたぶん理解していないだろうが、事情聴取の際に美由希さんが迷うことなく「偶々隣にいた」私が男の足を払った、と説明していたことから、状況を正しく認識している可能性が高い。何故なら私は「偶々隣にいた」のではなく、普通なら絶対に届かない位置から瞬間的に移動したのだから。

 

「そ…そういえば美由希さん、あの時のスピードすごかったですね。あれはどういう…」

 

「うん、それも含めて今夜お話したいんだよね。アリシアちゃんも、良かったら同席してくれるかな? 」

 

「うん? いいよー」

 

「あ、それならわたしも一緒に」

 

恐らく理解できていないだけのアリシアちゃんを含め、私に味方はいなかった。こうして私は護送される囚人のような気持ちでみんなと電車に乗り、海鳴市へと帰った。

 




まうまうを登場させてしまいました。。
R18ゲームのキャラです。。でも本作品では別にエッチなことはありません。。
小学生としてゲスト出演ですし。。
そして遠見市に砂夜浜町があることになりました。。

っていうか、強盗犯がおまぬけすぎです。。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。