他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第17話 「年越し」

小学生、それも低学年であれば、特別な事でもない限り夜は21時か遅くても22時には就寝するのが普通だ。だが大晦日については例外であることが多い。高町家も例に漏れず、大晦日は深夜0時でも子供が起きていることを許されていた。

 

「でも眠くなっちゃうから、先に寝ておくの!」

 

なのはさんはそう言ってお昼寝の準備に入っていた。私と一緒に翠屋のお手伝いを終えたアリシアちゃんも、一緒のベッドで寝るんだと言ってなのはさんの部屋に行っている。私は少し出歩きたい気分だったので、散歩に出かけることにした。

 

高町家を出るとまず翠屋の正面まで歩く。店内はそれほど混み合ってはいない状態だったが、大晦日の午後と言うことを考慮すれば、随分お客さんが入っている方だろう。

 

今夜、翠屋はオールナイト営業をする。ここから然程遠くないところに八束神社という神社があるのだが、ここに二年参りするお客さんに、温かい飲み物やトイレを提供するという名目なのだそうだ。お正月の三箇日もきっちり営業するとのこと。

 

そう聞くと大変そうにも思うのだが、実際にはちゃんとシフトを組んで平均的にスタッフが休めるようになっているらしい。桃子さんと松尾さんしかいないシェフ陣は思うように休めないようだが、この2人も年に1、2回は連休を貰うようにはしているようで、例えば桃子さんは毎年ゴールデンウィーク辺りに家族で温泉に行くのだとか。

 

店内の美由希さんと目が合う。にっこり笑って手を振られたので、こちらも軽く手を振り返した。その後は何となく桜台公園の方に向かった。長い階段を上り、池の畔を歩く。空は曇っていてお世辞にも良い天気とは言えなかったが、冷たい風と曇り空は何となく年末の雰囲気を醸し出しているような気がして笑みがこぼれた。

 

貸しボート小屋の近くに細い道があり、そこから先にある階段を下りると風芽丘と言う場所に出た。この地名には聞き覚えがあった。確かこの辺りに美由希さんや恭也さんが通っている高校があった筈だ。別に探す訳でもなく歩き回っていると、大きなガラス張りの建物が目に付いた。道路からは少し高くなった場所にあり、スロープ付きの階段で敷地に上がれるようになっていた。

 

「風芽丘…図書館? 公共の図書館にしては随分大きいなぁ…」

 

少し様子を見ようと思って階段を上がる。残念ながら大晦日は休館の様子だったが、窓から覗くと、長椅子に机が沢山並べられており、高い天井と広いスペースが開放的に感じられる作りになっていた。奥に見える書架も数が多く、吹き抜けになっている読書スペースの横にある階段やエレベーターで2階部分に当たる書架にもいけるようになっているようだ。

 

入口で確認すると、年始の開館は1月4日のようだ。蔵書の数も多そうなので、年が明けたら是非活用させて貰おうと思いながら、図書館を後にする。そのまま近くの住宅街を散策しているうちに、日が傾いてきた。住宅のブロック塀に貼られた住所プレートを見ると、いつの間にか風芽丘を出て、中丘町というところまで来てしまっていたようだ。今日は随分と歩いた気がする。

 

<ハーベスター、現在時刻は? >

 

疎らとはいえ、多少人もいたため念話を使ってハーベスターに語りかける。

 

<≪It is harf past four. I think you would better to go back home.≫>【16時半です。そろそろ帰宅された方が良いかと】

 

<そうだね。そろそろ帰ろうか>

 

お互い高町家を帰る場所として認識していることに改めて気づき、少し苦笑しながらも私は歩いてきた道を振り返った。少し入り組んだ住宅街の道は、初見ではなかなか見分けがつかなかった。

 

「えっと、どっちから来たんだっけ? 」

 

遠くに桜台と思われる高台が見えた。あちらの方に行けば見知った場所に出るに違いない。ただ、どこかで曲がってきたらしく、そちらの方向に伸びている道は無かった。

 

<ハーベスター、セットアップ。認識阻害魔法も忘れずにね>

 

<≪All right. Setup ready.≫>【了解。セットアップ完了】

 

バリアジャケットを展開した私は高機動飛翔の呪文で一気に桜台の方に向かって飛ぶことにした。

 

「……」

 

空中に舞い上がった瞬間、何故か道端にいた車椅子の少女と目が合った。明らかに驚いた表情でこちらを見ている。

 

<ハーベスター、認識阻害魔法、かけてるよね? >

 

<≪Definitely. No one, who has not got Linker Core, can recognize you, master.≫>【間違いなくかけています。リンカーコアを持たない人はマスターを認識出来ない筈です】

 

一瞬、私でなく何か他の物を見ているのではないかと思い、思わずあたりを見回したが、特に少女の気を引くような物は無かった。彼女は明らかに私を見ている。

 

<不味いかも…ハーベスター、ブリッツ・アクションでそこの木陰に移動しよう!>

 

<≪Sure. “Blitz Action”.≫>【了解。『ブリッツ・アクション』】

 

恐らく、彼女の目には私が急に消えたように見えた筈だ。木の陰からそっとさっきの少女を窺うと、私のことを見失ったらしくきょろきょろとしている。見たところ、私やなのはさん達と同じくらいの年齢に見えた。私を見ていたということは、あの車椅子の少女にもリンカーコアがあるのだろう。ただ魔力量はそんなに多くないのか、この距離からだと全く魔力を確認出来なかった。

 

しばらくすると少女は首を傾げるようにしてその場を去って行った。私はふっと息をつくと、今度は十分に注意しながら飛翔し、桜台公園の池の畔に降り立った。

 

<何が管理外世界よ…魔導師の宝庫なんじゃないの? >

 

<≪It is not good to raise an objection to me.≫>【私に文句を言われても…】

 

<あぁ、ごめんハーベスター。ただの愚痴だから聞き流して>

 

気のせいだと思ってくれていればいいのだが、念のため暫くの間、中丘町や風芽丘の方には行かない方がいいかもしれない。折角見つけた大きめの図書館に通うのを諦めることがとても残念だったが、これは完全に私が油断していたことが原因で、自業自得だった。

 

(!まさかとは思うけど)

 

転入前に秘密がばれてしまった転校生が朝教室に入ると、その秘密を知った相手がいる、などというのはコメディーでは定番だろう。さっきの少女は車椅子に乗っていたが、聖祥小学校がバリアフリーだった場合、同じクラスにいると言う可能性は全く否定できなかった。

 

(帰ったらなのはさんに確認しておこう…)

 

バリアジャケットを解除し、認識阻害魔法を解くと、私はよく見知った階段をとぼとぼと降りて行った。

 

 

 

高町家に戻ると、丁度桃子さんがご飯の支度をしているところだった。

 

「あら、お帰りなさい。丁度良かったわ。なのは達を起こして来てくれるかしら? 」

 

「判りました」

 

どうやらなのはさんもアリシアちゃんも、まだ寝ていたようだ。2階に上がり、なのはさんの部屋のドアを軽くノックするが返事がないため、そっとドアを開けてみた。カーテンも閉じられており、部屋の中は暗かったが、廊下の電気が差し込むとベッドの上で幸せそうに眠っている2人の顔が見える。と、次の瞬間アリシアちゃんが顔を顰めた。

 

「うぅ…ん、溶ける…」

 

恐らく廊下の電気が眩しかったのだろう。それにしても溶けるだなんて、ヴァンパイアになった夢でも見ているのだろうか。

 

「なのはさん、アリシアちゃん、そろそろ起きて。もうすぐご飯になるよ」

 

声をかけるとまずアリシアちゃんが目を開ける。

 

「あ…ヴァニラちゃん、おはよう…」

 

「もう17時過ぎてるけどね」

 

「そっか、お昼寝してたんだっけ」

 

そう言いながらアリシアちゃんが身体を起こすとベッドが軋み、それで目が覚めたのか、なのはさんも同じように寝ぼけ眼で「おはよう」と言った。

 

「じゃぁ、ちゃんと起きて着替えたら顔も洗って来てね。私は桃子さんのお手伝いしてくるから」

 

2人にそう告げると、私は階段を降りた。今の様子だとはっきりした回答は期待できないので、確認は後回しにする。そのまま居間に戻り、配膳のお手伝いをしているとなのはさんが降りてきた。

 

「改めておはよう、なのはさん。アリシアちゃんは? 」

 

「おはよー。髪留め忘れたってお部屋に戻ったよ。すぐ来ると思う…ってもう来たね」

 

パタパタと階段を降りてきたアリシアちゃんは、クリスマスに貰った髪留めでツインテールにしていた。最近はこの髪型がお気に入りのようで、お風呂に入るときと寝る時以外はずっとこのヘアスタイルだ。

 

「おはよー。今夜はお蕎麦食べるんだよね? 」

 

「あ、お蕎麦はもうちょっと後だね。除夜の鐘を聞きながらだから、23時30分頃かな。あ、お母さん、今年も年越し蕎麦、お店の方で食べても大丈夫? 」

 

「ええ、奥のテーブル席は使っていいわよ。でも0時半までね」

 

「うん!ありがとう」

 

2人共、もうすっかり目は醒めたようだった。一緒に配膳の準備をしながらなのはさんに聞いてみる。

 

「なのはさん、聖祥ってバリアフリーなの? 」

 

「え? うん、確かバリアフリーだって聞いているけど…どうしたの? 急に」

 

「今日ね、私達と同じくらいの年頃で車椅子に乗った女の子を見かけたから。もしかして聖祥の子かなって思って」

 

「ふーん…でもわたし学校で車椅子の子は見たこと無いよ。ヴァニラちゃん、その子どこで見たの? 」

 

「中丘町の方。今日ちょっと散歩していた時に見かけたんだけど」

 

「中丘町の方から聖祥に通っている子もいるみたいだけど、普通は公立の小学校に行くんじゃないかしら。あのあたりなら中丘にも風芽丘にも小学校があった筈だし」

 

横で聞いていた桃子さんが教えてくれる。そうか、海鳴に住んでいる人全てが聖祥に通う訳では無いということを失念していた。根本的な問題は解決していないものの、それだけでも少しは気が楽になった。

 

「ところでどうしてその子のことが気になったの? 」

 

なのはさんが聞いてくる。一瞬迷ったのだが、もしかするとなのはさん自身もあの少女にエンカウントする可能性があることも考慮し、事態を説明することにした。

 

「…その、もしかすると魔法使っているところを見られたかも知れなくて」

 

「え…それってまずいんじゃないの? 認識阻害は? 」

 

「もちろんかけてたよ。だからその子にもリンカーコアがあるんだと思う…ただ魔力はそんなに大きくないんじゃないかな? 距離もあったけれど、全然魔力を感じなかったから」

 

「そっか…お友達になれるといいんだけどなぁ」

 

「まだその子がどんな子なのかが全く判っていないから、今はまだ接触しない方が良いと思うの。一瞬だったから、見間違いだとでも思ってくれていればいいんだけど、警戒するに越したことはないから」

 

「うん、判った。具体的にはどうすればいいかな? 」

 

「中丘町や風芽丘周辺では魔法を使わないように注意してくれればいいかな。私は姿を見られているから、あまりあっちの方にはいかないようにするけど」

 

取り敢えずほとぼりが冷めるまでは消極策で行くしかない。

 

「私達は魔法のことはよく判らないけれど、困ったことがあればいつでも相談してね。さて、ご飯の支度も出来たし、誰か翠屋に行ってくれるかしら? 」

 

「はーい、私行ってくる」

 

桃子さんのお願いにアリシアちゃんが元気よく答えて翠屋に向かう。

 

「桃子さん、ありがとうございます」

 

「いいのよ、私達は家族なんだから」

 

少しお礼を言うタイミングが遅れてしまったが、桃子さんはすぐに私の意図を酌んでくれた。

 

 

 

夜食に年越し蕎麦を食べることもあって、夕食の量は然程多くなかった。士郎さん達が翠屋に戻り、洗い物を終わらせると、なのはさんがTVをつけた。チャンネルは某国営放送で、大晦日の代名詞ともいうべき歌番組が丁度始まるところだった。

 

「最近裏番組で面白いのも増えてきたけど、やっぱり大晦日はこれかな」

 

なのはさんはにゃははと笑いながらそう言った。事前に番組の概要をなのはさんから聞いていたアリシアちゃんも楽しそうに画面を見つめている。

 

「そういえば、クリスマスの時にアリサちゃんが言っていた『演歌』もやると思うよ」

 

「えっと、辛くて悲しい歌だっけ? 」

 

「うーん、全部が全部じゃなくて、そういうシチュエーションが多いっていうだけなんだけどね」

 

始まって暫くは新人やアイドル歌手の舞台が続く。正直、アリシアちゃんの方が上手いのではないかと思うような歌手もいれば、アイドルとは思えないほど確り歌い上げる歌手もいる。

 

「あ、次の人から、少し演歌が続くかも」

 

なのはさんが言う通り、そこから何曲か演歌が続いた。

 

「どうだった? アリシアちゃん」

 

「うーん、歌ってる人は上手いと思うんだけど、曲自体は暗い感じであまり好きじゃないかも」

 

「まぁ、それは個人の好みだから仕方ないよね」

 

「でも、面白い歌い方だよね。普通あんなに声震えないよ? 」

 

「こぶしとかビブラートとかかな。演歌歌手ってそう言う歌い方するよね」

 

アリシアちゃんは演歌の歌い方自体には多少興味を持ったようで、TVを見ながらあうあうと発声の物まねをしていた。

 

やがて番組も終盤に差し掛かり、残り数曲というところで美由希さんが迎えに来てくれた。

 

「そろそろみんなで年越し蕎麦を食べるよ。ヴァニラちゃんもアリシアちゃんも、お腹大丈夫? 」

 

「うん、夕食軽めだったから、お蕎麦くらいなら」

 

コートを着込んで翠屋に移動する。深夜にも関わらず、通りには人が大勢いた。

 

「すごい人だね。こんな夜遅い時間なのに」

 

「みんな八束神社に二年参りに行くんだよ」

 

アリシアちゃんの感想に美由希さんが答えてくれる。アリシアちゃんは「これもお祭りみたいだね!」と言って笑った。近くのお寺からは鐘の音が聞こえてきた。

 

翠屋はさすがに満席とまではいかないまでも、深夜とは思えないほどの盛況ぶりだった。普段はつけていない店内のモニターではさっきまで例の歌番組が流されていたが、私達が奥のテーブル席でお蕎麦を頂いているうちに番組は終わってしまい、今は各地の年越しの様子を映し出している。

 

モニターだけでなく、お店の外からも響いてくる除夜の鐘の音が心地良く感じる。

 

「ヴァニラちゃん、お蕎麦まだ残ってるけど、これ0時前に食べ終わるんだよ? 」

 

「あれ? そうなの? 年越しっていうくらいだから、てっきり年越しをしながら食べるものだと思ってた」

 

「年が明けてから食べるのは逆に縁起が悪いそうだよ。まぁ、ヴァニラちゃんやアリシアちゃんは知らなくて当然か」

 

なのはさんと士郎さんに言われて思わず赤面する。

 

(ごめんなさい、元日本人ですが、知りませんでした)

 

アリシアちゃんと2人して慌ててお蕎麦を平らげると、程なくしてカウントダウンが始まった。0になった瞬間、モニターが鮮やかな花火を映し出し、お店の外からは港に停泊しているのであろう船舶の汽笛の音が聞こえてきた。

 

「「「「「「「あけましておめでとうございます」」」」」」」

 

店内で一斉に挨拶が行われるのと同時に、予め各テーブルに1つずつ配られていたクラッカーがあちこちでパンパンと音を立てた。

 

「あ、これ私がやってもいい? 」

 

「うん、いいよ。思いっきりバーンとやっちゃって」

 

美由希さんの許可を得たアリシアちゃんが嬉しそうにクラッカーを構え、紐を引っ張った。パンという景気のいい音と共に色鮮やかな紙テープが飛び出す。

 

「お祭りだね~」

 

「そうだね~」

 

アリシアちゃんとなのはさんが笑い合っていると、士郎さんが甘酒を持ってきてくれた。

 

「あけましておめでとうございます、士郎さん」

 

「あぁ、おめでとう。今年もよろしくね」

 

「あ、士郎パパ、それなあに? 」

 

「これは甘酒っていうんだ。お酒って名前がついているけれどアルコールは入っていないから子供でも飲んでいいんだよ」

 

士郎さんは人数分のお猪口に甘酒を注ぐと他のテーブルのお客さんにも甘酒を振る舞いに行った。

 

「あったかくて美味しい」

 

なのはさんがまず口をつけて感想を言った。若干猫舌気味のアリシアちゃんはフーフーと息を吹きかけている。私も一口飲んでみたのだが、そこでぷっつりと意識が途切れてしまった。

 

 

 

=====

 

目が醒めると、そこは私とアリシアちゃんの部屋だった。何故か私の両脇にアリシアちゃんとなのはさんが一緒になって寝ていた。記憶を辿ると、翠屋で甘酒を飲んだところまでは覚えているのだが、それ以降の記憶は全く無かった。

 

(でもちゃんとパジャマに着替えてる…みんなが着替えさせてくれたのかな? )

 

恐らく部屋まで運んでくれたのは美由希さんか恭也さんだろう。折角の年越しに迷惑をかけてしまったことを申し訳なく思う。時計を見ると5時少し前だった。今ではすっかり慣れてしまった朝の張りつめた空気が、恭也さん達が朝練をしているであろうことを教えてくれる。

 

(元旦からやってるんだ…)

 

ちなみになのはさんの朝連は、今日はお休みである。元々前夜に夜更かしをすることが決まっていたので、朝はゆっくりさせてあげようと思ったのだ。そう言えば昨夜帰宅してからお風呂に入ろうと思っていたのに、眠ってしまったことでそれは叶わなかった。

 

(軽くシャワーでも浴びてこようかな)

 

なのはさんとアリシアちゃんを起こさないようにそっとベッドから抜けだすと、私は着替えを持ってお風呂場に向かった。

 

少し温度を熱めに設定してシャワーヘッドから噴き出すお湯を一身に浴びるのは、起き抜けの身体には心地良かった。更に温度の低いお湯と交互に浴びる。実はこれは「琴の頃」からの癖だ。

 

(あの頃は冷え症だったからなぁ…)

 

温冷浴と言って、自律神経の調整や血流改善などに効果があると言われる方法なのだが、高血圧の人や心臓疾患を持っている人は逆に脳梗塞や心筋梗塞などの可能性もあるため注意が必要な療法でもある。尤もヴァニラになってからは健康上の問題は全く無い。ただ個人的に気持ちがいいので続けているようなものだった。結局軽く浴びるだけのつもりが、確り髪まで洗ってしまった。

 

シャワーを終えて身体を拭き、ドライヤーで髪を乾かしていると、ふと昨日の車椅子の少女のことを思い出した。ショートヘアの少女は大きな瞳を更に見開いて私のことを見ていた。その後私を見失ってきょろきょろとし、最後に首を傾げながらどこかへと去って行った。別段大騒ぎをすることもなく、周りの人に確認もしなかったところを見ると、見間違いか幻と思ってくれた可能性もあるのだが、楽観視は出来ないだろう。

 

「車椅子だから行動範囲も限られるとは思うけれど…やっぱり注意が必要だよね」

 

「何? 何の注意が必要なの? 」

 

独り言のつもりが、いきなり美由希さんに声をかけられてビックリした。

 

「あ…美由希さん、おはようございます。昨夜はすみませんでした」

 

「気にしなくていいよ。まぁ、最初にパタッと倒れちゃった時はびっくりしたけど。それにしても甘酒飲んで寝ちゃうなんて初めてだよ。よっぽど疲れてたんじゃないの? 」

 

「そうかもしれませんね。なのはさん達と一緒にお昼寝しておけばよかったのですが」

 

そうしておけば、車椅子の少女と出会うことも無かっただろうに、と一瞬思う。

 

矢張り翠屋で寝てしまった私を部屋まで連れて行ってくれて、おまけに着替えさせてくれたのは美由希さんだったのだそうだ。朝練を終えてシャワーを浴びに来たという美由希さんに改めてお礼を言うと、私は前日の少女のことを説明した。

 

「うーん、思うんだけど、そんなに気にしなくていいんじゃないかなぁ? 」

 

「そうでしょうか? 」

 

「だって相手は子供なんでしょう? よっぽどはっきりした証拠でも出さない限り、無条件に大人が信用するとは思えないしね」

 

美由希さんにそう言われると、また少しだけ気分が楽になった。

 

「ありがとうございます。あまり気にしすぎないようにはしますね」

 

「そうだね。まぁ、エンカウント率を上げないようにするのは正解かもしれないけど。じゃぁあたしはシャワー浴びてくるね」

 

そう言って服を脱ぐと、美由希さんはお風呂場に入って行った。

 

(本当にスタイル良いよなぁ、美由希さん…)

 

ペタペタと自分の胸を触った後で少し虚しくなってしまい、そそくさと服を着ると私は部屋に戻った。

 

なのはさんとアリシアちゃんがまだ寝ていたことは言うまでもない。

 




とある少女の大晦日の日記にはこう書かれていたという。。

「今日は妖精さんを見てしもた!
 今まで足が不自由なことを悲観しとったけど、
 なんや元気をもらったような気がする。
 きっと神様がちょっとだけサービスしてくれたんや!
 これは私だけの秘密や」

信じるか信じないかは、あなた次第。。
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