大晦日からずっと曇っていたが、元日の夕方からちらほらと雪が降り出した。
「積もると良いな~」
夕食の席でなのはさんが嬉しそうに言う。
「この程度の降り方だと難しいかもしれないな。あとは夜中にどれくらい降るか、っていうところか」
一足先に食べ終わった恭也さんが窓の所に行って、カーテンの隙間から外の様子を伺う。
「うっすら積もっているっていう感じだな。このままだと明日、道がべちゃべちゃになるかも知れないぞ」
「え~、それはヤダ」
「どうせなら一杯積もって欲しいよね!」
「でもみんな、明日はアリサちゃんやすずかちゃんと初詣に行くとか言ってなかったっけ? 積もり過ぎると出掛けられなくなるんじゃない? 八束神社でしょ? あそこの階段結構きついよ」
「さすがにそこまで積もることはそうそうないでしょうけど、いずれにしても長靴は用意しておいた方がいいでしょうね」
そんなお喋りをしながら夕食を終え、士郎さんと桃子さんは翠屋の方に戻って行った。恭也さんと美由希さんが揃って自宅にいるのは珍しいが、お正月期間中は営業しているとはいえ、そんなに忙しくはないのだそうだ。私達のお昼時のお手伝いも三箇日はお休みになっている。
「それに俺はもうそろそろ試験があるからね。勉強もしておかないと」
「大学受験でしたね。頑張って下さい」
「あぁ、ありがとう」
そう言って軽く笑うと、恭也さんは自室に戻った。
「あたしはちょっと読みかけの本があるから、部屋で読んでるね」
美由希さんもそう言うと居間を出て行った。その後、私はなのはさんやアリシアちゃんと一緒に窓辺に行って外の様子を覗いてみた。
「さっきよりちょっと降り方が強くなったかな? 」
「ねぇヴァニラちゃん。もしすっごく積もっちゃったら浮遊魔法で行くとか…」
「それはダメ」
なのはさんの提案をあっさり却下する。さすがに昨日の今日で、それも三箇日の神社で魔法を使うなど、とても想像できなかった。
「アリサさんやすずかさんなら万が一魔法のことを知っても、受け入れてくれそうな気はするけれど、でもみんながみんなそういう訳じゃないから。疑心暗鬼にかかった人達が攻撃してきたら、なのはさんはどう思う? 」
「ぅ…それはイヤかも」
「私だってイヤだよ。だから、出来るだけそういう状況にならないように努力しよう? 」
「うん…そうだね」
「まぁ、私も最近ちょっと気が緩んでて、それで昨日みたいなことになっちゃったわけだから、あまり偉そうなことは言えないんだけどね…」
少し自嘲気味に言う。
「あ、でもそうするとこの前言ってた攻撃魔法を教えてくれるのって…」
「うーん、残念だけどちょっと延期かな。さすがに道場の中でやる訳にもいかないから、どこか外でやろうと思っていたんだけど」
その時、何か考えるようにしていたアリシアちゃんも会話に加わってきた。
「ねぇ、ヴァニラちゃん。認識阻害って、一種の結界魔法だよね? あれってもっと強力に広範囲をカバーできないの? 」
「結界魔法かぁ、あれも結構適性がないと辛い魔法だからね。たぶん私がやると、封時結界を展開することは出来ても、せいぜい半径十数m位じゃないかな」
「そっか…模擬戦をやるには狭すぎるってことだよね」
「それってわたしでもダメなのかな? 」
なのはさんが軽く手を上げて聞いてきた。確かになのはさんほどの魔力量があって、結界魔法にも適性があれば、軽く海鳴一帯を覆うようなレベルの結界魔法を発動できるかも知れない。
「試しにやってみようか。広範囲をカバーできるように結界を展開してみて。ハーベスターはサポートをお願い」
≪All right. The magic circle for “Time-sealing Force Field” is extracted.≫【了解。『封時結界』の術式を展開します】
ハーベスターをなのはさんに手渡すと、彼女の足元に大き目の魔法陣が展開された。それと共に結界が構築されるが、どうも様子がおかしい。少しずつ出力が落ちているような感じだった。と、次の瞬間とんでもない出力の結界が展開されたように思ったが、それは残念ながら一瞬で消えてしまった。
「…あれ? 」
「えーっと…ハーベスター? 今のは何? 」
≪Miss Nanoha has not got the aptitude for “Force Field”. However, she might be talented in momentary converging and discharging magical power.≫【なのはさんは結界系の魔法には然程適性は無いようですが、逆に瞬間的な魔力の集束及び放出に才能があるように見受けられます】
「えっと、それって…? 」
≪She absorbed her “Force Field” itself, and then exploded it.≫【彼女は自身が構築した結界の魔力を吸収し、その魔力で結界を破裂させました】
どうやら結界を広げようとした結果、制御に失敗して結界を広げるのではなく破裂させてしまったらしい。しかも破壊に使うエネルギーは結界そのものの魔力を循環させたというのだ。
「そんなの聞いたこと無いよ…」
術式は固定されているのだから、本来論理的に考えれば広げようと思っても破裂させるようなことにはならない筈。
「あ、でもヴァニラちゃん、もしそれが本当なら、集束砲とか使えるかも!」
アリシアちゃんが興奮したように言うが、集束砲といえばミッド式魔法の使い手でも特に花形と言われる砲撃魔導師、しかもその頂点を極めたような魔法であり、当然私は使えないし術式すら持っていない。
「将来的になのはさんは凄い魔導師になれると思う…でも残念だけど、それは私達が今直面している問題を解決できる能力じゃないんだよね…」
「あうぅ…」
「…えっと、元気出してね、なのはちゃん。その才能は本当に凄いものなんだから」
「ありがとう、アリシアちゃん」
取り敢えず、現状では模擬戦のように広いスペースを利用した練習は出来ないことが判ったのだった。
翌朝、目が醒めると家の外は銀世界だった。
「積もったね~」
なのはさんとアリシアちゃんが朝練前に庭に飛び出した。
「残念、3cmくらいかな」
「でもやっぱり雪っていいなぁ。なんだかわくわくするよ!」
家の前の道路は既に車や人が通った様子で、雪も殆ど残っていない状態だったが、庭に積もった雪はまだ綺麗なまま残っていた。
朝練を早々に切り上げると、早速なのはさんとアリシアちゃんは再び庭に出て雪だるまを作り始めた。
「朝ご飯食べたら出かける準備もしないといけないから程々にね」
「うん!」
「判ってるー」
母屋に戻りながらふと空を見上げると、昨日までとは打って変わって青空が広がっていた。3cm程度の積雪だと、夕方まで持たないかも知れない。遊んでおくなら今の内が良いだろう。私も母屋に戻るのをやめて、庭に出た。
「あ、ヴァニラちゃんも一緒に作る? 」
「うん、ちょっと気が変わったの。折角だから手伝わせて」
「もちろん!大きいの作ろうね!」
こうして私達は庭の雪殆ど全部を使って3段の大きな雪だるまを作った。朝ごはんの準備が出来て私達を呼びに来てくれた美由希さんも、少し羨ましそうに雪だるまを眺めていた。もしかしたら誘ってあげた方が良かったのかも知れない。
「今日は何を着て行こうか? 」
「そう言えばみんなでお洒落するって言ってたっけ」
「なのはさんは晴れ着持ってるの? 」
「ううん、実はわたしも持ってないんだ。必要なときは大抵レンタルしてたよ」
確かに年々大きくなる時期の子供に晴れ着を用意するのはさすがに勿体ないだろう。アリサさんやすずかさんは持っているようなことを言っていたが、あの2人は例外である。
「じゃぁ、晴れ着に負けないくらいかわいい服を選ばないと」
「じゃーん!ヴァニラちゃん、なのはちゃん、これなんてどう? 」
アリシアちゃんが以前美由希さんに買って貰った、子供用メイド服にしか見えない黒のゴスロリドレスを着てきた。ツインテールに纏めた金髪にボンネットが映える。足元はボーダー柄のニットレギンス、アウターにはポンポン付きのコート。ファーがふんだんにあしらわれており、見た目にも暖かそうだ。
「ばっちり。アリシアちゃんはそれで決まりかな? 」
なのはさんも絶賛して、アリシアちゃんの服は確定した。問題なのは、アリシアちゃんがここまで派手な格好になると、なのはさんや私もある程度頑張らないと地味に見えてしまうことだろうか。
なのはさんは散々迷った挙句、ピンクのトップスに青のミニスカートを合わせたなのはさんらしいコーディネートに落ち着いた。膝上丈のソックスはアリシアちゃんとおそろいのボーダー柄だ。アウターには白いファーコートを選択した。アリシアちゃんほどの派手さはないものの、かわいらしさでは十分お洒落をしたといえる。
「私はクリスマスの時に着た服で」
「「却下」」
あの白いジャンパースカートはお気に入りなのだが、2人には速攻で却下されてしまった。
「前回と同じじゃ、インパクトがないよ!」
アリシアちゃんが頬をぷうと膨らませる。
「ほらほらヴァニラちゃん、このブラウンのティアードスカートだったら、こっちの白いカーディガンコートが合うよ。これだけだと寒いから中にこっちのピンクの…」
「っていうか、美由希さん、いつからいたんですか? 」
「ちょっと前。ノックしたけど何か熱中してるみたいだったからね。勝手に入らせてもらっちゃった」
いつの間にか美由希さんが隣にいて、私に服を勧めていた。
「お姉ちゃん、何か用事があった? 」
「あぁ、とーさんから頼まれてね。これ」
美由希さんはそう言うと傍らに置いてあった2つの箱を示した。開けてみると、そこには聖祥の制服が入っていた。
「そっか、3学期からはヴァニラちゃんもアリシアちゃんも聖祥に来るんだよね」
なのはさんが嬉しそうに言う。
「最初はとーさんが持って来ようとしてたみたいだけど、みんなが着替えてるみたいだから遠慮したんだって。で、あたしにお鉢が回ってきたって訳」
「ありがとうございます。折角だから着てみようかな…あ!」
「どうしたの? ヴァニラちゃん」
「お披露目だったらインパクトあるよね? 」
「あぁ、そっか」
結局私は聖祥の制服を着て、アウターには茶色のダッフルコートを選んだ。お洒落という訳では無いが、折角だからアリサさんとすずかさんにも制服姿を見せてあげよう。美由希さんに見送られて、私達は家を出ることにした。
気にしていた足元はそれほど酷くない状態で、多少雨が降った後のような感じだった。ただ水たまりは至る所にあったので、念のため履いてきた長靴は結構役に立っている。
「待ち合わせ場所は八束神社の石段前でいいんだっけ? 」
「そう。すずかちゃんはアリサちゃん家の車で一緒に来るって言ってたから」
参道の近くまで行くと、色々な屋台が並んでいた。アリシアちゃんが目を輝かせる。
「うわぁ~これもお祭りだぁ」
三箇日を過ぎると屋台も殆ど無くなるのだろうが、まだ参拝客も多く屋台からも美味しそうな匂いが漂ってくる。
「夏も縁日とかで屋台がいっぱい出るんだよ。おすすめはたこ焼きと焼きそばかな」
「あ、あれ良い匂い!なのはちゃん、あれ何? 」
「あぁ、ベビーカステラだね。あれも美味しいよ」
「ヴァニラちゃん~」
「はいはい。じゃぁ一袋買って、みんなで食べようね」
なのはさんが事前に屋台が出ているであろうことを教えてくれていたので、貯めていたお小遣いから少しだけ持ってきていたのだ。屋台でベビーカステラを紙袋に入れて貰い、3人で一緒に食べる。
「美味しいね~」
「うん…美味しいけどちょっと熱い」
「これはアツアツなのが美味しいんだよ」
アリシアちゃんはベビーカステラを真ん中あたりで割って、ふーふーと息を吹きかけている。
「あー、いたいた。なのはーヴァニラーアリシアー」
アリサさんの声が聞こえたのでそちらを見ると、すずかさんと2人、晴れ着姿で歩いてくるのが見えた。
「みんな明けましておめでとう。ごめんね、渋滞が酷くて、その先から歩いてきたんだよ」
「あけましておめでとう、アリサちゃん、すずかちゃん」
「2人共キレイ~」
「アリシアもかわいく決めてきてるじゃない。で、ヴァニラ。あんたそのコートの下…もしかして」
スカートの裾がコートから出ていたのでばれてしまったようだった。
「うん、初披露だよ。聖祥の制服。お洒落とはちょっと違うんだけど」
「まぁ、これはこれでいいわね。3学期が始まったらいつもこの格好だけど」
「でもすっごくよく似合ってるよ!」
「ありがとう。着てきた甲斐があったかな」
みんなで暫くお互いの服装を褒め合った後、まずはお参りとおみくじを済ませようということになり、私達は神社の方に向かって移動することにした。晴れ着だと足元が悪い時は大変だろうと思って見て見ると、2人共普通の草履とは違うスリッパのようなフードがついているものを履いていた。裏面も滑り止めのゴムがついているのだとか。おかげでみんな問題なく石段を登って行くことが出来た。
「あんた達、元旦は何してたの? 」
「特に何もしてないかな。年賀状を仕分けて、TV観て」
アリサさんの問いに、なのはさんがにゃははと笑いながら答える。
「呑気でいいわね…」
聞けばアリサさんはご両親のお仕事の関係で挨拶回りを一緒にやっていたらしい。
「そういえば、遠見市の砂夜浜町に、旧華族の西洞院(にしのとういん)家ってのがあるんだけど、そこにあたし達より1つ年上の女の子がいてね。すずかあたりとは話が合いそうなお嬢様だったわ」
「そうなんだ。是非お話ししてみたいな」
「西洞院家ってあれだよね、家紋がアゲハチョウの」
「何でなのはがそんなこと知ってるのよ? まぁ、そうなんだけど」
「この前図書館で家紋図鑑みてて、珍しいなぁって思ってたから」
「家紋に蝶をあしらうのは平家の末裔なんだって。他にも南天蝶とか撫子蝶とかの家紋もあるみたい」
「へ~すずかちゃん詳しいね」
「ところで、その西洞院さんのお嬢さんの名前は何ていうの? 」
「多紀さん。西洞院多紀(にしのとういん・たき)さんよ」
そんな話をしているうちに神社の境内に到着した。鳥居をくぐると空気が変わった気がする。そのまま手水舎に向かい、一礼。
「えっと、これは何をするところ? 」
「あぁ、アリシアちゃんは初めてだよね? ヴァニラちゃんは知ってる? 」
「うん、知識としては」
すずかさんが実際にやりながらアリシアちゃんに作法を教えてくれる。記憶力のいいアリシアちゃんは一度見てやり方を覚えてしまったようで、続けてお浄めを行った。
「えっとまず左手、それから右手、で、左手で口を漱いでもう一回左手…」
「うん、あと最後に柄も浄めてね。これからお参りするけれどそっちの作法も教えておくね。」
二礼、二拍、一礼の手順をアリシアちゃんが覚えると、いよいよ本殿に参拝する。
「なんか、みんなガラガラ鳴らしているよ? 」
「あぁ、鈴ね。鳴らすタイミングは特に決まってないと思うけど、あたしは大抵お賽銭を入れて、鈴を鳴らした後に拝礼してるわね」
「私は鈴を鳴らしてからお賽銭かな。拝礼はアリサちゃんと一緒」
「わたしはあんまり意識したことなかったかも」
みんな意見はバラバラだったが、特に問題ないだろうということでそのまま参拝した。アリシアちゃんはアリサさん方式を採ったようだった。後で何を願ったのか聞いてみると、「みんなで楽しく過ごせるように」との答えがあった。ちなみに私は「ミッドチルダに戻る方法が見つかるように」だったのだが。
「さてと、お参りも済ませたし、おみくじいくわよ!」
「お守りも頂かないとだよ、アリサちゃん」
アリサさんとなのはさんが元気に先導して授与所へ向かう。と、急になのはさんが足を止めた。
「ごめん、みんなちょっと先に行ってて」
そう言って境内の隅に走っていく。少し気になって様子を見ると、なのはさんは丁度転んでしまったらしい巫女さんを助け起こしていた。その後笑顔で会話をしているところを見ると、顔なじみなのかも知れない。
程なくして戻ってきたなのはさんが言うには、先程の巫女さんは風芽丘学園の2年生で恭也さんの後輩なのだそうだ。
「神咲那美さんっていうんだよ」
「あぁ、そうなんだ。ところで大丈夫だったの? …その、転んじゃって」
「うん、慣れてるから大丈夫なんだって」
「え…慣れ…? 」
地面が濡れているところにたくさんの人が通った後だから巫女服が汚れてしまったんじゃないかと思ったのだが、なのはさんからの答えはよく判らないものだった。
(まぁ、いいか)
取り敢えずあまり深く考えないことにした。
授与所ではまずみんなでおみくじを引いた。
「わ、みんな大吉なんてついてるね!今年は良いことがいっぱいありそう」
「えーっと、これって良いの? 」
「最高の運勢ってことよ」
アリシアちゃんも嬉しそうに大吉のおみくじを見つめている。ちなみに私のおみくじも大吉ではあったのだが…
(願望:初め思うに任せぬが、後自然に成る。待ち人:すぐには来ず。旅行:遠地に行き利多し…)
他にも「堪えなさい、忍びなさい」といった内容の文章が羅列されている。
「何難しい顔してんのよ」
アリサさんが私の手元を覗き込む。
「何だか、大吉は大吉なんだけれど、最初の内はダメみたい」
「何言ってるのよ。こんなの、時期が明記されてるわけじゃないんだから、自分の都合のいいように解釈すればいいじゃない。例えばこれ」
アリサさんが「待ち人:すぐには来ず」を指し示す。
「あんたにとって、『すぐ』ってどのくらいなのよ? 」
「えっと、2、3日中とか…? 」
「だったら1週間後だったら来るかも知れないじゃない」
「…そう言うものかな? 」
「そう言うものよ」
そう言うとアリサさんはにっこりと微笑んだ。私もつられて笑う。
「なぁに? どうしたのー? 」
「もしかしたら、私のおみくじってすごくいい結果だったのかもって思って」
何しろ、待ってさえいれば自然に願いが叶うのだから。「堪えなさい、忍びなさい」だって、考えようによっては「焦らず、気長に待て」とも受け取れる。
「一部、ちょっと意味不明なところもあるけれどね」
アリサさんが示した場所には『縁談:滞りなく進む』と書いてあった。
授与所でお守りや破魔矢などを頂いた後、参道の屋台を回ろうということになったので境内を後にした。
「あ、射的があるじゃない。ちょっとあれやってみるわ」
アリサさんが射的の屋台に駆け寄る。私達が見守る中、アリサさんはコルク銃の狙いをつけ、景品めがけて発射した。最初の1発は外れてしまったが、次の1発は景品を掠め、最後の一発は見事に景品をはじき飛ばした。
「やったぁ、アリサちゃん、おめでとう!」
「まぁ、ざっとこんなものよ」
(射的…狙って、弾いて、飛ばして…行けるかも…!)
私が考えていたのは模擬戦の代替としてこれが使えないかと言うことだった。以前、プレシアさんに教えて貰っていた頃から魔法の練習と言えば対人戦が殆どだったため失念していたが、別に模擬戦だけが練習方法ではない。ボールでも石でも空き缶でも、何か標的になるものがあれば誘導弾の制御練習になるだろうし、それなら然程広い範囲の結界も必要ない。
「? ヴァニラちゃん、どうしたの? 」
「うん、ちょっと新しい練習方法思いついたかも」
「それって、なのはちゃんの? 」
アリシアちゃんは矢張り鋭い。私は頷いた。上手く行くかどうか、早速今夜にでも試してみようと思う。
「ヴァニラー、アリシアー、次行くわよ~」
アリサさんは既に別の屋台に移動しようとしていた。慌てて後を追う。それから暫くの間、私達は屋台巡りを堪能したのだった。
=====
その日の夜、夕食の後片付けを終えた私はなのはさんとアリシアちゃんを連れて庭に出ていた。雪だるまは多少融けたものの、まだ確り形を残していた。
「えっと、昨夜と同じ感じでいいのかな? 」
「昨夜は無理に結界の範囲を広げようとしたからおかしくなっちゃったけど、あまり広さは意識しないで、術式の通りに発動させてみて」
「うん、判った」
ハーベスターをなのはさんに渡して結界を発動させてもらうと、私が発動させるよりも気持ち大きいサイズの封時結界が出来上がった。結界ごと移動することは出来ないが、リンカーコアを持っていない人は結界の存在を認識できないし、術者が意図的に取り込まない限り侵入することも出来ない。
「あれ? アリシアちゃんがいないよ? 」
「アリシアちゃんにはリンカーコアが無いからね。意図的に取り込んであげないと入ってこれないんだ。じゃぁ一度結界を解除して、今度はアリシアちゃんも一緒にいるところをイメージしてやってみて」
「うん!」
二度目の試行ではちゃんとアリシアちゃんも一緒の結界内に取り込むことが出来た。
「これが封時結界…通常の空間から一部だけを切り取って、時間の流れをずらす…簡単に言えば、一時的にパラレルワールドを作り出す魔法」
「うーん、なんだかよく判らないよ? 」
「例を挙げた方が判りやすいかな? 例えばここに雪だるまがあるよね」
朝に3人で作った雪だるまを示した。なのはさんが頷く。
「これを結界内で壊しても、本来の空間とは流れている時間がずれているから、結界を解いたら『壊されていない』状態になるの」
「それでも壊しちゃうのはかわいそうだからやめよう? 」
アリシアちゃんの意見で実際に雪だるまを壊すことはしなかった。
「じゃぁ、この中でなら魔法の練習をしても大丈夫なんだよね? 」
「そうなんだけど、結界ごとの移動は出来ないから範囲が限られちゃうんだ。だからこの中で出来そうな練習を考えてみたんだけど」
私はポケットから適当な大きさの石を取り出した。今日神社から帰ってくる途中で拾っておいたのだ。
「プラズマ・シューター」
誘導弾を2つ作成して待機させると、私は石を上に放り投げた。そして石が落ちてくる前に誘導弾で下部を掠めるようにして弾き、石が落ちてしまわないようにする。サッカー選手が良くやっているリフティングのようなものだ。
「4回、5回、次」
2つ目のシューターを同時に動かして交互に石を弾く。
「12回、13回…あれっ? 」
一瞬操作を誤って、石を落してしまった。
「やっぱり慣らしていかないとダメだね」
「うん、でも面白そう!私にもやらせて!」
「初めてだから、まずは1つだけでやってみて」
大はしゃぎするなのはさんにプラズマ・シューターの基本術式を渡して誘導弾を作成して貰う。
「いっくよ~」
桜色のシューターが石を弾く。なのはさんの隣でアリシアちゃんがその回数を数えていた。それを見ながら、「琴の頃」に医大で聞いた戦前のテニスプレイヤーの話を思い出す。
(コントロール、コンビネーション、コンセントレーション、コンフィデンスだったかな)
テニスで勝つために重要な4Cなのだそうだが、外科手術でも重要な事ばかりだと聞いた記憶がある。今にして思えば、何をするにしても重要な事柄だったのだろう。
魔法で言えば確かにコントロールは大事だし、誘導弾だけじゃなく直射タイプを織り交ぜたコンビネーションも役に立つだろう。集中力については言うに及ばず、自信もつけることによってより飛躍できる。本当に昔の人は上手いことを言うものだ。
「13回、14回、15…あっ!? 」
アリシアちゃんの悲鳴と共にカウントが止まる。なのはさんは誤って石を弾くのではなく、貫通させてしまっていた。空中で砕けた石の破片が降ってくる。
「にゃっ!? 」
「ハーベスター!」
≪“Protection”≫【プロテクション】
咄嗟にアクティブ・プロテクションを展開して破片が落ちてくるのを防いだ。
「石だと危ないかも…」
「そうだね、ボールとかの方がいいかな? 」
「魔力弾に堪えられるボールがあればね…」
3人で相談した結果、暫くの間は空き缶を使って練習することで落ち着いた。
もっとも、空き缶であっても失敗した時の注意は十分にしておかないといけないのは当然だが。
多紀さんと那美さんが名前だけ程度で登場。。
お互い全然違うゲームのキャラですが。。
でも読み返してみるとばらばらでまとまりがない印象。。
今後本編に登場するかどうかは未定です。。
晴れ着のお話が出たところで致命的なダメージ。。
なのはさん7歳なのに、七五三イベントを掲載し忘れました。。
今更なので飛ばしますが、実はやっていたということで。。