他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第2話 「魔法」

さて、例の夢は全然醒めないまま既に5年が経過してしまった。

 

最初のうちは、都市伝説バージョンの『ドラ○もん』最終回と同じで、現実世界の私は事故で意識不明になっていて、夢の中でヴァニラとして生活しているだけでそのうち目覚めるだろうと思っていたけれど、慣れと言うものは恐ろしいもので、5年も生活していると、もう私はヴァニラとして生きることに何の違和感もなくなって、恐らく転生してしまったのであろうことも受け入れてしまっていた。尤もさすがに転生のことを他の人に話す気にはなれなかったけれど。

 

今、私は父親であるイグニス・H(アッシュ)と母親であるアリア・H(アッシュ)の一人娘として、普通に生活している。そして今の私の髪は緑色で瞳は赤。容姿はギャラクシーエンジェルのヴァニラ・H(アッシュ)によく似ている。もっともゲーム登場時のヴァニラよりもずっと幼いし、髪型も縦ロールポニーじゃなくて、ストレートのセミロングという違いはあるが。

 

違いと言えば、私が今暮らしているのはトランスバール皇国ではなく、第1管理世界ミッドチルダの首都クラナガンと呼ばれる都市。そして驚いたことに、この世界には当たり前のように魔法が存在するのだ。

因みにこの世界にもナノマシンのようなものはあるらしいのだけど、ゲーム内でヴァニラが使用するナノマシンとはだいぶ趣が異なり、人体の欠損部分を補ったり修復したりするというよりは、枯れた土地などに散布して作物などを収穫できるような土地に復活させる、いわば人工のバクテリアみたいなものだった。

 

ミッドチルダの言葉は最初のうちは話していることは日本語として理解できるのに、文字が読めないっていう不思議な状態だったが、実は話し言葉は翻訳魔法というもので万人が理解できるようになっていたらしい。改めて勉強してみると結構英語に似たものであることが判り、2歳を過ぎたころには完全にマスターしてしまっていた。

 

かつて医学生だった私は魔法世界における医療に興味を持ち、色々と調べてみた。ミッドチルダの医療技術は前世のものと比べても遜色ない、というかむしろそれよりも進んだもので、前の世界では不可能とまで言われていた脳の再生についても基礎理論が存在しているほどであったが、それ以上に私を魅了したのが回復魔法の存在だった。

 

この世界の魔法はプログラムのように確りとした理論に基づいた術式を構築し、そこに術者が精神エネルギー=魔力を注入することで発動する。プログラムが膨大で複雑になるほど高度な術を発動できるが、術者が使用する魔力も大きいものになるため、魔力の少ない人は簡単な魔法しか使用できず、逆に魔力が多い人は高等魔術を行使できることになる。注入する魔力さえ確保できれば、他の人が構築した術式を使用して同じ魔法を行使することも可能になるわけだ。

 

尚、魔力の大小にかかわらず術者の限界を超えた高度な魔術を行使できるように補助をしてくれる「デバイス」と呼ばれるものも存在する。大抵の魔導師は使用しているのだが、さすがにまだ5歳程度の私に購入できるようなものではないし、詳細は本で読んだ程度のことしか知らないけれど。

 

そして私が興味を持った回復魔法は、基本的には患者の代謝機能を高めて自己治癒能力を活性化させるものだ。これは応用次第で病気療養や解毒などにも活用できる。但しゲームなどのように瞬間的に回復させるようなものではなく、患者自身の体力に依存する部分も大きいことや、何より一定以上の医療知識が必要になるため、治癒術師はなり手が少ないのだそうだ。これは、魔力を持つ人は大抵戦闘系の魔法に走ってしまい、医療知識を学ぶよりも戦闘に関わる知識を重視するためらしい。

 

これを知ったとき、私はこの世界で治癒術師を目指すことに決めた。

 

それからは暇さえあれば魔導書や医学書を読み漁った。幸い父親が時空管理局という、この世界の警察組織みたいなところに勤務する魔導師だったこともあって、その手の書物は家にもたくさんあったし、医学書は図書館などで閲覧自体は可能だったから、私は3歳の頃には既に本の虫だった。父親と母親が、そんな私を複雑な面持ちで見ていたことを今でも覚えている。

 

 

 

新暦38年。クラナガンにはいくつか魔法学校もあり、私は今年からそのうちの一つに通っている。

ただ魔法学校とはいってもさすがにいきなり実際の魔法は使わせてくれない。最初の2年はきっちり理論から入るのだそうだ。あいにくと私は3歳の頃には既にこの手の理論はマスターしてしまっていたから、今更復習するのも面倒な話だったが、医大にしても最初から臨床医学を教えてくれる訳では無く、まずは基本的な人格形成から実施するものだし、使い方によっては恐ろしい武器にもなる魔法の使い手を育成するのだから当然といえば当然だろう。

 

そんな私は周りからは「天才」として認識されていたが、明らかに浮いた存在だった。琴としての記憶があったことも周りとの壁を作る原因になっていたかもしれない。話をするクラスメートがいないわけじゃないけれど、どうも周りの方が遠慮してしまっている感じでギクシャクした関係になってしまっている…ただ一人、家の隣に住んでいる、私より1つ年下の遠慮のない親友を除いて。

 

「ヴァニラ、また魔導書なの? 」

 

アリア母さんが苦笑しながら聞いてくる。

 

「うん…でもやっぱり本を読んでるだけだとなんかピンとこないなぁ。ちょっとアリシアちゃんのところに遊びに行ってくるね」

 

「晩御飯までには戻るのよ」

 

 

 

=====

 

うちの隣に住んでいるプレシア・テスタロッサさんとは、今の私の親友、アリシアちゃんと仲良くなったことで知り合った。なんでも伝説的な大魔導師だってアリシアちゃんが自慢げに言っていた。

初めて会ってお話した時に、プレシアさんは私に魔導師としての素質があることを教えてくれた上、折を見て私に魔法のことをいろいろ教えてくれるようになった。

 

「いい? 学校ではまだ座学だけで本格的な実践はしていないかも知れないけれど、魔導師はみんな体内に存在するリンカーコアっていう器官を持っているの。それが大気中の魔力を体内に取り込んだり、放出したりすることによって魔法を行使するのよ。そしてこのリンカーコアの容量は魔導師としての資質にも直結するの」

 

プレシアさんは魔法の基礎から実演を交えて優しく教えてくれる。私の手を取ると、鳩尾よりも少し上のあたりに当てて、何かつぶやく。ちなみにアリシアちゃんはお昼寝中だ。

 

「あ…何か心臓みたいな、でも少し違うようなのが脈を打っているみたいな感じです」

 

「それがリンカーコア。今ちょっと魔力を活性化させる魔法を使ってみたの。その感覚を覚えておいてね。慣れてくると周りにいる人の魔力も感じることができるようになるわ。さて、次は…」

 

<ヴァニラちゃん、聞こえる? >

 

突然プレシアさんの声が頭の中に響く。あれ? 今プレシアさんは特に喋っている様子はなかったけど…あ、そうか。これが本で読んだ「念話」だ。意識を集中させてそれに答える。

 

<はい。これが念話ですか>

 

<そうよ。いきなりで発信までできるなんて、結構勉強しているのね>

 

褒められて、ちょっと照れる。念話というのは、魔導師であればだれでも受信できるものだが、発信については受信先の絞り込みや広域念話などの設定が若干複雑で、最初はデバイスを介在させて実施する方が慣れやすいらしい。

 

「さて、じゃぁ次はランクEくらいの簡単な盾の魔法を使ってみましょうか」

 

教えられた方法で体内の魔力を集中させると、私の前に魔力の盾が浮かび上がった。

 

「それはアクティブ・プロテクション。初級の防御魔法よ」

 

初めて自分で発動させた魔法にちょっと感動した。

 

「あの、回復魔法とかもできるんですか? 」

 

「ええ。でも術式の構築がちょっと複雑になるから、それはもう少し慣れてからにしましょうね」

 

回復魔法も使えそうなことが判って、嬉しくなる私。

 

「今度、あなたの魔力資質を測る端末を用意しておくわ」

 

「はい、お願いします」

 

その数日後には端末の準備ができたらしく、私はプレシアさんと一緒に彼女の研究室に向かった。

 

 

 

ところでアリシアちゃんにはリンカーコアはないそうだ。リンカーコアがなければもちろん魔法を行使することはできないが、そういう人は実はミッドチルダにもたくさんいるのだそうだ。

いや、むしろリンカーコアが無い人の方が多いくらいだろう。だから魔法が使える一部の人達は優遇されるし、将来を嘱望される。

 

でも魔法が使えないからといって差別されるわけでもないし、何よりプレシアさんの愛情を一身に受けて明るく元気に育っている私の友人はとても幸せなんだろうな、と思う。

そういえば、私のお母さんにもリンカーコアはないのだそうだ。

 

 

 

結論から言うと、魔力に関しては、私は記憶のチート以上に天才的だったらしい。プレシアさんが測定した私の魔力資質はAA+とのこと。

 

「それなりに大きい魔力だとは思っていたけど、5歳でこの数値だと将来的には相当なランクになりそうね」

 

「それって、すごいことなんですか? 」

 

正直魔力ランクのこととかよく判らない私はプレシアさんに尋ねた。

 

「そうね、末恐ろしいくらい」

 

恐ろしい、というその言葉とは逆に、プレシアさんの笑顔はとても優しかった。

 

「あと、人によっては希少技能(レア・スキル)っていう、特殊な能力が顕現することもあるのだけれど、それには別の検査が必要だから、またの機会にしましょうね」

 

「判りました、ありがとうございます」

 

「素質は十分だし、これからもいろいろ厳しく指導していくわよ」

 

「よろしくお願いします!」

 

私はプレシアさんの頼もしい言葉に感謝しつつ頭を下げた。

 

 

 

=====

 

それから私は頻繁にアリシアちゃんの家に遊びに行き、アリシアちゃんが遊び疲れてお昼寝を始めると、プレシアさんに魔法を教わるようになった。まぁ、プレシアさんがお仕事でいないときはアリシアちゃんと一緒にお昼寝したりしていたけれど。プレシアさんは数年前に旦那さんと離婚して、女手一つでアリシアちゃんを育てていたので、お仕事の際にはうちのお母さんがアリシアちゃんを預かったりして、家族ぐるみでお付き合いするようになっていた。

 

そんなある日の朝。

 

「ヴァニラちゃん、ヴァニラちゃん!」

 

「どうしたの…って、それ猫? 」

 

泣きそうな顔でうちに駆け込んできたアリシアちゃんはひどい怪我を負った大きな猫を抱えていた。プレシアさんは今日お仕事の都合で遅くなるそうで、アリシアちゃんは午後からうちに来ることになっていた。お母さんは買い物に出ている。

 

「たぶん、他の動物に襲われたんだと思う。かわいそうだよ。助けられないかな? 」

 

「ひどい怪我…このままじゃ助からない。でも」

 

私は獣医の知識はないけれど、このまま放置すれば間違いなく目の前の生命の灯は消えてしまうだろう。私は最近になってようやくプレシアさんから教えてもらった初歩の回復魔法を準備する。まだまともに行使したことはないけれど。でも助けられるものなら助けたい。翠色の魔力光が猫の傷口を照らす。だが、身体の表面にある傷は徐々に塞がりつつあるものの、体内の組織にまで達した傷は容易には回復できない。

 

「ダメ、これじゃ追いつかない」

 

猫の怪我は深く、初級回復魔法では効果が薄いようだった。アリシアちゃんは目に涙をいっぱい浮かべて私を見つめている。考えろ、私。ミッド式の魔法は術式の構築次第で強力になる。それと同時に中野琴だった頃に医大で受けた再生医療の講義が頭をよぎる。

 

(骨髄から血管内皮前駆細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞を生成して欠損器官を再生)

 

そして既存の回復魔法で代謝を限界まで促進して体力も回復できるようにすれば!

その瞬間、まるでパズルのピースがはまったような気がした。即座に基本術式を魔法陣として展開し、詠唱を開始する。詠唱が進むにつれて新たな術式が魔法陣に記述されていく。

 

「リコルテ…ハーベスト…デッセ…スーリエ…グエリス…ブレス…レクセプト…大地の豊穣、女神の微笑。傷を癒し生命を繋ぎ止めよ!『リジェネレーション』!!」

 

口をついて出たのは再生を意味する詠唱。さっきよりも強い魔力光が猫を包む。

どのくらい経ったのだろうか、かなりの魔力をつぎ込んだ気がする。ふと見ると、傷口の完全に塞がった猫が、若干弱弱しくもアリシアちゃんの手を舐めていた。後は猫の体力次第だが、術式に体力回復を促進させるものも組み込んであるし、恐らくは大丈夫だろう。

 

「ヴァニラちゃん、すごいよ!」

 

嬉しそうに笑うアリシアちゃんをみているとこちらも嬉しくなる。そして、初めて教えられたものではない、独自の回復魔法を構築したこともあって、私自身もちょっと興奮しているところがあった。この世界でも私は他の人の命を救うことができるかもしれない。いや、実際に放っておいたら死に至っていたであろう命をつなぎとめることができた。そしてそれが無性に嬉しい。ゲーム内のヴァニラ・H(アッシュ)も、もしかしたらこんな気持ちで治療していたのかな、と少しだけ思った。

 

ちなみに内臓を含めた欠損部位の再生魔法はもとより、それに伴う代謝促進を体力回復と同時に行うこの魔法がSSランクを超えるもので、現在のミッドチルダには事実上行使可能な魔導師がいないこと、そしてなぜAA+の私が格上の魔法を、しかもデバイスなしで行使することができたのかを知ったのは、ずっと後の話である。

 

結局アリシアちゃんはその猫にリニスという名前を付けて飼うことにしたようだ。大きな猫だと思っていたら、どうやら山猫だったらしい。

 

こうしてテスタロッサさん家に、家族が増えた。

 

 

 

=====

 

年が明けて、新暦39年1月。私の6歳の誕生日はアリシアちゃんとプレシアさんも招待してパーティーをすることになった。

 

「ヴァニラちゃん、はい、プレゼント♪」

 

リニスを抱いたままアリシアちゃんが渡してくれたのは大きなピンク色のぬいぐるみだった。

 

(こっ…これは!)

 

鳥とも動物ともつかないフォルム。幼児が落書きで塗りつぶしたような目。お腹には赤い「Z」の文字。

 

「MA34…なんたら」

 

「え? 何か言った? 」

 

「ううん、ありがとう。これアリシアちゃんの手作り? 」

 

「そうだよ!かわいいでしょう」

 

改めてその物体を見直す私。これ、かわいいかなぁ?

 

「そ、そうだね。かわいいね。ありがとう」

 

これで『あぁ、ヴァニラさん、最高です』とか話し出したら怖かったけど、幸いこれはただのぬいぐるみのようだ。

 

「あと、これは私からね」

 

プレシアさんが緑色の宝石みたいなもので出来たペンジュラムをくれた。

 

「きれい…ありがとうございます」

 

私がペンジュラムを受け取ると、どこからともなく男性のものと思われる声が聞こえてきた。

 

≪Please let me know your name, Miss.≫【貴女のお名前を教えて下さい】

 

その声がペンジュラムから聞こえてくることに気付くまでにたっぷり1分はかかってしまった。

 

「これって、まさかデバイス? 」

 

プレシアさんはにっこり笑ってうなずいた。

 

「まだ組み上げたばかりで名称登録していないの。あなたの好きな名前をつけてあげてね」

 

「ありがとうございます!」

 

改めてお礼をいうと、ペンジュラムに向き直る私。私の初めてのデバイス。緑色の宝石。ぴったりだ。

 

実は私は将来デバイスを持ったら絶対にこれにしよう、と決めていた名前があった。まぁ、晶の影響を受けたとも言うけれど。

 

「私の名前はヴァニラ・H(アッシュ)。そしてあなたの名前はハーベスターよ」

 

≪Thank you for naming me, Miss H. “Harvester”, registered.≫【ありがとうございます、H(アッシュ)さん。『ハーベスター』登録しました。】

 

「名字じゃなくて名前で呼んでくれると嬉しいな」

 

≪All right, Miss Vanilla.≫【了解しました、ヴァニラさん】

 

嬉しくなって文字通り小躍りする私の横で、イグニス父さんがプレシアさんと話をしていた。

 

「わざわざすみません、こんな高価なものを頂いてしまって」

 

「いえ、実は以前いくつかデバイスを作ったときに用意しておいた予備パーツに余剰があったものですから。倉庫に眠らせておくよりは使ってあげた方がいいでしょうし、あまり気になさらないで下さい」

 

「ありがとうございます。それにしても大したものですな。テスタロッサさんが組んだのですか」

 

「ええ。AIを搭載している分、処理速度は若干遅くなるけれど、ヴァニラちゃんほどの素質があれば大丈夫でしょう。ただ、あまり身体がしっかりできていない幼児の場合、デバイスを使った大出力魔法を使い続けることで身体を壊したりする恐れもありますから、段階的なリミッターをかけてはいますけどね」

 

「インテリジェント・デバイスですか。オーバーSランク魔導師にしてデバイスマイスターとしても一流とはさすがですな」

 

まじまじとハーベスターを見つめるお父さん。舞い上がっている私はちょっとだけいじわるしてみる。

 

「だーめ。お父さんには貸してあげないよ」

 

「いやいや、お父さんにはインテリジェント・デバイスよりもストレージ・デバイスの方が向いているよ。処理速度は惜しいからね」

 

そうやってはしゃいでいると、一緒に笑っていたアリシアちゃんが口を開いた。

 

「ねえママ。次の誕生日には、私妹が欲しいな」

 

「「「え”? 」」」

 

一瞬の空白の後、プレシアさんとお父さん、そして私の声がハモった。

 

「あら、そしたらヴァニラがアリシアちゃんの妹になってあげたら? 」

 

お母さんが料理を持って居間に入ってくる。

 

「ちょ、お母さん。それって私に『ヴァニラ・テスタロッサ』になれってこと? っていうか、私の方が年上なんだけど? 」

 

「年上っていっても、半年しか離れてないじゃない。それに今の雰囲気を見ていたらアリシアちゃんの妹って言われても違和感ないわよ? 」

 

笑いながらお母さんが言う。プレシアさんとお父さんもなんだか苦笑してるよ。

 

「うーん、ヴァニラちゃんは大好きだけど、やっぱりいつもはお姉さんかな…でも今、はしゃいでるヴァニラちゃんを見てたら、すっごくかわいくて、こんな妹が欲しいなって思ったの」

 

年甲斐もなく? はしゃいじゃったことをちょっと恥ずかしく感じる。

 

「それに妹がいれば、ママのお手伝いもいーっぱい出来るよ? 」

 

「そうねぇ、さすがに次の誕生日には難しいかもしれないけど、そのうちね」

 

「ホントに!? 約束だよ!」

 

苦笑しながらのプレシアさんの言葉に、本当に花が咲くような笑顔が広がる。

 

「ええ、約束」

 

苦笑はやがて普通の笑顔に変わり、家の中に笑顔があふれる。

きっと今はテスタロッサ家とH(アッシュ)家で、一つの家族なんだ。

笑顔が笑顔を呼んで、私の顔もほころぶ。

 

この幸せな時がいつまでも続きますように。

 

 

 

=====

 

デバイスを貰ってからというもの、私は以前以上に魔法にのめりこんでいた。プレシアさんにも協力して貰って、学校が終わると自宅の庭などで魔法の講習を受ける日々。

 

「ハーベスター、セットアップ」

 

≪Stand by, ready. Barrier jacket deployed.≫【スタンバイ完了。バリアジャケット展開】

 

バリアジャケットを身に纏う。デザインはヘッドギアこそつけていないものの、ゲーム版ヴァニラ・H(アッシュ)の制服姿を模したものになっている。本当ならデバイスの起動にはやたらと長い呪文が必要なのだが、最近ハーベスターは簡単に私の意図を読んでくれるようになった。プレシアさん曰く、私がデバイスにマスターとして認められつつあるのだそうだ。そういえば最近、ハーベスターも私のことを「マスター」と呼んでくれる。

 

「オッケー、じゃぁ次は飛行魔法行ってみようか」

 

≪No, master. Flying is prohibited at Cranagan City.≫【ダメですマスター。クラナガン市街地での飛行魔法は禁じられています】

 

いきなり拒否られた。そういえば街中での飛行魔法の使用は緊急の場合を除いて禁止されているって聞いたことがあるような。

 

「自宅の庭なんだから、ちょっとくらいいいんじゃ…」

 

≪It is for your safety, master Vanilla.≫【マスターヴァニラ、これはあなたの安全のためです】

 

「うー、じゃぁ代わりにブリッツアクション!」

 

≪All right, “Blitz Action”.≫【了解しました。『ブリッツアクション』】

 

瞬時に私の身体は正面に立っていたプレシアさんの隣に移動する。そのまま次の詠唱。

 

「ライトニング・バインド!」

 

稲妻のような翠色の魔力光がプレシアさんに纏わりつき、物理的に拘束する。本来ならAAAランクの魔法だが、ハーベスターのサポートで何とか使えるようになった魔法だ。それでもプレシアさんは笑顔のままあっさりとバインドを解いてしまう。

 

「詠唱速度はだいぶ上がったけれど、魔力の割に少し強度が弱いわね。もう少し術式をいじってみてもいいかもしれないわ」

 

「ありがとうございます。後で術式を見直してみます」

 

「でもスフィアプロテクションの方はとても良くなったわ。『アブソリュート・フィールド』だったかしら? 」

 

「はい、物理的なものは完全に遮断出来て気密性も高いから、海の中でも30分は持つと思います」

 

「あら、海底探査でもするつもりなの? 」

 

「いえ、移動はできないので探査はちょっと無理かと」

 

プレシアさんが呆れたように笑う。

 

私がスフィアプロテクションを再構成して編み出したアブソリュート・フィールドは防御系魔法の一つだ。外部との物理的干渉を完全に遮断するからプレシアさんにも言った通り、海中でも30分から40分程度は持つ。これは一人の人間がその中で呼吸できる限界だ。酸素供給ができるならもっと長時間の維持が可能だろう。ちなみに魔力遮断性能についてはプレシアさんの攻撃魔法で2回目までは思いっきり罅が入ったものの、何とか防げている。

 

「攻撃系の魔法はまだまだ甘いけれど」

 

「でも争い事をしたいわけじゃないし、攻撃はそんなに強力じゃなくても」

 

「そうね、でも覚えておいて。ミッドチルダの治安はそれなりにいいとはいっても決して安全じゃない。それにあなたほどの魔力があれば、管理局は放ってはおかないでしょう。将来管理局に入局することになれば犯罪者の違法魔導師と戦うこともあるでしょうし、他の世界に行くこともあるかもしれないわ。その時、そういった魔法は必ずあなたを守ってくれる」

 

時空管理局。

先日晴れて肩書から補佐が取れて、執務官になったイグニス父さんが働く職場であり、プレシアさんもアリシアちゃんが生まれる前に一時期所属していたことがあるらしい。さすがにたった6歳の幼女をスカウトしにくることはないみたいだけど、10歳前後の子供が当たり前のように働いているという話も聞く。

 

私の魔力資質はAA+で、しかもこの値は成長とともに高まるのだそうだ。順調にいけば20歳前後でSクラスにも届く可能性があるらしい。学校の方でも3年に上がる時には魔力資質の測定があって公式に記録が残るとのことなので、近いうちにオファーが来るのかもしれない。

まぁ、お父さんと同じ職場で働くのも悪くないかも、と心の中で呟く。

 

≪It is hold water. Master should better to learn how to attack more.≫【プレシア女史の言われることは正論です。マスターはもう少し攻撃についても学ぶべきです】

 

「はいはい、わかりましたよー」

 

ハーベスターに諭されてしまった。

プレシアさんは微笑みながら続ける。

 

「マルチタスクはそれなりにできているみたいだから、最後にプラズマ・シューターの練習をして、今日の練習はおしまいにしましょう」

 

「誘導弾ですか…直射タイプならまだ何とかいけるんだけどなぁ」

 

「はい、我儘いわない。こちらのプロテクションを破ってみてね」

 

プレシアさんがアクティブ・プロテクションを展開する。

 

「じゃぁ行くよ、ハーベスター」

 

≪All right. “Plasma Shooter” is ready.≫【了解です。『プラズマ・シューター』準備完了】

 

私の周りに複数の帯電したスフィアが現れ、プレシアさんに向かって放たれる。が、プレシアさんのプロテクションに届くどころか、あっさりとかわされてしまう。

 

≪Please hold back.≫【コントロールを】

 

「わかってる」

 

かわされてしまったプラズマ・シューターの軌道を制御し、再びプレシアさんに向かわせる。ようやくプレシアさんのプロテクションにいくつかの誘導弾が届いたところで家の中から声がかかった。

 

「ヴァニラちゃん、ママ、ご飯出来たよ~」

 

アリシアちゃんだった。今日はアリシアちゃんが私のお母さんを手伝ってご飯を作ってくれていて、その間にプレシアさんに魔法の練習をしてもらっていたのだ。

 

「ありがとう、アリシア。じゃぁ、今日はここまでね」

 

「はい、ありがとうございました」

 

ちょうど一区切りついたこともあって、私たちは家に入ることにした。

 

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