他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第3話 「告白」

スクライア一族の発掘調査は2年かけて行われ、俺もユーノも5歳になっていた。殆ど毎日顔を合わせているものだから、俺にとってユーノは親友的なポジションにいた。傍から見れば仲の良い兄妹、或いは姉弟のようなものかもしれない。だが、それもスクライア一族がブラマンシュでの作業を終え、別の世界に移動することになれば必然的に終わりを告げる。

 

「残念ですわね…出発はいつ頃になりますの? 」

 

「一応、調査した場所の原状復帰は原則だからね。まだ暫くの間はいると思うけれど、それでも長くて2か月くらいかな」

 

「その後は別の発掘現場に? 」

 

「いや、それが…長老がね。学校ぐらいは行っておけって言うんだよね」

 

スクライア一族の長老は、ユーノがまだ5歳で現場に出すのはまだ早いこと、魔法学院などで確りと学んで卒業した暁にはちゃんと発掘調査団に加えるつもりであることを伝えたらしい。

 

「確かにわたくしたちの年齢なら、そろそろ学校に通い始めるくらいですわね。それにユーノさんは変身魔法と結界系魔法はとても素晴らしいのですが、攻撃や防御はあまり勉強していませんわよね? 」

 

「防御の方は勉強も始めてるよ。まぁ、確かに攻撃魔法は苦手だけどさ。でもミントだって攻撃魔法も防御魔法も興味ないよね」

 

「ブラマンシュで生活するなら、攻撃も防御も然程必要ありませんわ」

 

「そうかもしれないけどさ」

 

ユーノが首にかけた紅い珠を弄る。あれはレイジングハートだろうか。昨日まではかけていなかった気がするのだが。

 

「ユーノさん、それデバイスですわよね。どうされたのですか? 」

 

「あぁ、昨夜長老がお守りにってくれたんだ。ここで発掘されたコアをレストアして、最新型のデバイスに組み込んでくれたみたい」

 

レイジングハートがブラマンシュで見つかった発掘品だったとは、さすがに少し驚いた。

 

「そうでしたか。大事に使ってあげて下さいませ」

 

「うん、でもまだ『使う』なんていうレベルには程遠いかな。むしろミントに使ってもらった方が良いかもしれないよ」

 

「ダメですわよ、ユーノさん。それはスクライアの長老がユーノさんへの期待も込めて贈られたものなのでしょう? それを使いこなすくらいの意気込みで練習して下さいな」

 

「そっか、そうだよね。うん、頑張るよ」

 

「ええ。諦めずに頑張れば、きっと何だって出来ますわよ」

 

そう言うと、ユーノが少し驚いたような表情で俺のことを見た。

 

「あら、どうかなさいましたか? 」

 

「このデバイス、昨夜レイジングハート…『不屈の心』って名付けたんだ。だからミントが諦めずに頑張れって言ってくれたことが偶然とはいえ、しっくりくるなって思ってさ」

 

「そうでしたか。ではレイジングハートさん、ユーノさんのことよろしくお願いしますわね」

 

冗談めかしてそう言うと、レイジングハートは明滅しながら了解の意を返してきた。サンプリングされていたのは原作通り女性の音声だった。

 

「ミントはデバイスを持たないの? 」

 

「わたくしが使うのは今の所身体強化と念話、後は鬼火と精々ディスガイズくらいですからね。それにこの集落で生活する限り、デバイスを使わないといけないような高度な魔法は必要ないでしょう」

 

実際、亡父のように狩人にでもなるのなら、多少攻撃や防御といった魔法も覚えておいて損は無いだろうが、今は基本的にレンジやオーブン、冷蔵庫や冷凍庫といったものに通電ならぬ通魔をして稼働させる程度だ。今後もこの生活を続けるのならば多彩な魔法を操る必要は無いし、必然的にデバイスも不要ということになる。

 

「本当に勿体ないと思うよ。ミントの魔力ってイザベルさんと同じか、それ以上だと思うんだけどなぁ。学校に通う予定とかは? 」

 

「魔法は兎も角、母さまや族長がわたくしを学校に通わせる気があるのかどうかすら、今は判りませんわね。ここには学校らしき施設はありませんし、わたくしの他に同年代の子供もいませんから」

 

「一度聞いてみたら? 」

 

「そうですわね…」

 

正直今の生活を維持するだけなら、学校には行かなくても必要なことは集落の人達が教えてくれるだろうし、何より俺自身が生きているということだけに満足してしまっていて、積極的に魔法を覚えようとする意欲もそれほど湧かなかった。ぶっちゃけてしまうと、モチベーションが上がらないのだ。

 

「本当に、勿体ないと思うよ」

 

ユーノはあまり気乗りしない様子の俺を見ると、どことなく寂しそうな笑みを浮かべながらさっき言った言葉をもう一度繰り返した。

 

 

 

その日以来、ユーノはあまりブラマンシュの集落に遊びに来なくなった。偶に来てもどことなく態度がよそよそしく感じられた。

 

「貴方達、喧嘩でもしたの? 」

 

1週間ほど経ったある夜、イザベル母さまが尋ねてきた。

 

「別に喧嘩している訳ではありませんわ。原因も無く、ただ何となくギクシャクしていますの」

 

「ギクシャクすることに原因が無いなんてことは無いわよ。ミントにその気が無くてもユーノ君のことを傷つけちゃったんじゃないかしら? 」

 

そう言われてみて、少し考える。あの時話していたのは、俺がデバイスを持つことにあまり執着していないという内容だった筈だ。それに対してユーノは勿体ないと言った。普通に考えれば魔導師として素晴らしい才能を持っているにも拘らず、全く魔法の勉強をしていない俺が歯痒いといったところなのかもしれないが、どうも最近話をしていた感じでは、それこそが唯一無二の原因であるとは言い切れない気がした。

 

「まずは自分が相手の立場に立って、同じことをされた時にどう思うか考えてみると良いわ。それでもどうしても判らない時は、直接ユーノ君に聞いてみるのも良いかもしれないわよ」

 

「そうですわね…少し考えてみますわ。ありがとうございます」

 

その日はもう休むことにして部屋に戻った俺は布団に潜り込むと暫くの間いろいろと考えてみた。確かに友人として、折角才能があるのだから努力して欲しいと思うことはあるかも知れないが、ユーノだったらそう言うことははっきり言うだろうし、今回のような遠回しな言い方はしないだろう。

 

その時、少しネガティブな考えに思い至った。ユーノの現在の魔力量はA-といったところで、将来的にはAAやAAAくらいには成長するだろう。だが今俺は何の努力をすることもなく、恐らくAAA程度の魔力を保有している。将来的にどの程度まで成長するかは判らないが、Sランクオーバーだって十分考えられるのだ。人によっては十分羨望や妬みの対象になる。

 

(でもユーノは性格的に他人を羨んだり妬んだりすることってあまり無さそうなんだよなぁ)

 

仮に俺がユーノの立場だったとしても、魔法のことでそこまで妬んだり羨んだりすることは無いような気がする。

 

(ん…まてよ? 魔法のことじゃなかったらどうだ? )

 

前世の俺は人生を悲観していなかったか。健康な人達を羨んではいなかったか。

 

(そうだ、俺は普通に生きていけるのに特に目的も無く惰性で生きている人たちを…妬んでいた)

 

ユーノだって人間である以上、絶対に羨んだり妬んだりしないとは限らない。俺は魔法についてはそんなに執着は無かったけれど、生については人一倍執着を持っていたと思う。その時の俺と同じような感覚で、ユーノが魔法に執着しているとしたら。

 

(無いな。無い無い。あのユーノがそこまで他人を妬んだりする筈が無い)

 

でもそうなると、何故最近ユーノが俺を避けるような感じになっていたのかの理由が判らなかった。だんだんと自分の考えに自信が無くなり、休むつもりで布団に潜り込んだにも拘らず延々とうなり続けた挙句、俺は翌日熱を出した。

 

 

 

「ミント、大丈夫? 」

 

イザベル母さまに小さく頷くだけで答える。正直なところ眩暈と頭痛があるだけで、起き上がらずに横になっていればそれほど辛くは無かったのだが、体温計をみる母さまの表情は優れない。恐らくそれなりの熱があるのだろう。

 

「ダリウスさんの所に、お薬を貰いに行ってくるわね。何か食べたいものはある? 」

 

「イヴェットおばさんの、かぼちゃのプリンが食べたいですわ…」

 

「じゃぁ、そっちもお願いしてくるわ。ちょっと時間がかかると思うけど、待っててね」

 

母さまが家を出ていく気配を感じながら、布団をかぶり直す。頭痛も眩暈も熱に因るものだろう。咳は出ていないし、鼻や喉にも違和感はないから風邪ではない筈だ。そんなことを考えているうちに俺はいつの間にか寝てしまっていた。

 

目が醒めると、やたら汗をかいていた。

 

(シャワー浴びたいな)

 

上半身を起こそうとするとまだ少し眩暈がする。

 

「あ、ミント。無理しないで、まだ寝ていた方がいいよ」

 

何故かユーノの声が聞こえた。

 

「ユーノ…さん? 何故ここに? 」

 

「イザベルさんに呼ばれたんだ。出掛けてる間、ミントの様子を見てて欲しいって」

 

母さまなりに気を利かせてくれたのかも知れない。ユーノとゆっくり話をするにはいい機会だろう。ただ、今は先に汗で濡れた下着やパジャマを着替えたかった。

 

「すみません、ユーノさん。寝汗をかいてしまったので着替えたいのですが、そこのクローゼットの…」

 

「あぁ、ゴメン!じゃぁちょっと部屋を出ているから、終わったら声をかけてよ」

 

着替えを取って貰おうと思ったのに、ユーノはさっさと部屋を出てしまった。何だかいつもと違う様子に釈然としないものを感じたが、熱に浮かされたような状態の頭で深く考えるのも面倒だった。取り敢えず着ているものを脱いで軽く身体を拭き、新しい下着とパジャマに着替えると、少しは落ち着いた気持ちになる。脱いだものはベッドの脇に母さまが置いてくれた洗濯物用のかごに放り込んだ。

 

「ユーノさん、終わりましたわよ」

 

再びベッドに横になると、ユーノを呼んだ。少しバツの悪そうな表情でユーノが部屋に戻ってくる。少しの間気まずい空気が流れた。まだ少し頭がぼーっとしていて考えが纏まらない感じだったが、取り敢えず何か喋ろうと思った。

 

「ゆっくりお話しするのは久しぶりのような気がしますわね」

 

「そうだね」

 

「……」

 

会話が終わってしまった。他の話題を振ってみることにする。

 

「最近、魔法の勉強はどんな感じですの? 」

 

「アクティブ・プロテクションはほぼ完璧にマスターしたよ。今はサークル・プロテクションとスフィア・プロテクションを練習しているところ」

 

「防御系ばかりですわね」

 

「そうだね」

 

「……」

 

他の話題を思い浮かべようとしたが、相変わらず考えが纏まらない。

 

「えっと、ユーノさん、ごめんなさい」

 

特に意図した訳でも無く、謝罪の言葉が口をついて出た。

 

「え…? 何でミントが謝るの? 」

 

「ここ暫く、ユーノさんはわたくしのことを避けていたじゃないですか。あれって、わたくしが何かユーノさんを傷つけるようなことを言ったのでしょう? 」

 

「そんなこと…」

 

「折角大きな魔力を持っているのに、特に魔法に対して執着していないわたくしが歯痒かったのではないですか? 」

 

「そんなこと!」

 

珍しくユーノが声を荒げて否定する。

 

「違うんだよ、ミント。僕は別にそういうつもりは全く無いんだ」

 

改めてユーノを見ると、熱を出している俺以上なのではないかと思う程、真っ赤な顔をしていた。

 

「本当ならこういう状況で言うことじゃないと思うんだけど。僕が『勿体ない』って言ったことを気にしているんだろう? あれは僕の本心じゃない。本当はこう言いたかったんだ。『さよならしたくない』って」

 

少しだけ、ユーノが声を落とした。

 

「ミントもブラマンシュを出て魔法学院に通うなら、また一緒にいられるかもって思ったんだ…」

 

「わたくしだって折角お友達になったユーノさんとお別れするのはさびしいですわ。でもそう言うことでしたらはっきり言って下されば良かったですのに」

 

「普通の友達っていうのとはちょっと違うんだ。何だかいつもミントのことばっかり考えているようになって、会っていないと寂しくて、でもいざ会ってみると上手く話せなくなって。部族の人や管理局の人に聞いてみたら、それは恋だろうって言われたんだけど、ミント、恋って判る? 」

 

頭の中が真っ白になった。熱の所為だけではなく、まともな思考が出来なくなった。

 

「り…りろんはしっていますわ」

 

「うん、僕も色々と話を聞いたり本を読んだりして。まだよく判らないけれど、これが恋愛感情っていうものなのかなって」

 

別に『理論知ってるんだ、凄いな』といった返しを期待していたわけではないが、普通にスルーされたことを少しだけ残念に思う。尤もそんなことを考えている時点で、明らかな現実逃避だった訳だが。

 

ユーノは紅潮した顔のまま一拍置いてゆっくりと、しかしはっきりと言った。

 

「つまり、僕はミントのことを女の子として、好きになったみたいなんだ」

 

 

 

=====

 

結局あの後、まともに言葉を交わさないうちに母さまが帰ってきてしまい、ユーノはそそくさとスクライアの方に戻ってしまった。俺はプリンを食べて薬を飲んだ後、ユーノが帰ってしまったことをいいことに、考えることを放棄してそのまま寝てしまったのだが、それが良かったのか夜には熱もすっかり引いていた。

 

(その代り、全然眠れなくなったけど)

 

俺はベッドから抜け出すと、服を着替えて表に出ることにした。母さまはもう寝てしまっている様子だったので、起こさないようにそっとドアを閉じる。

 

ブラマンシュの集落には魔力で灯した街燈があるのだが、集落から1歩外に出るとそこはもう暗闇の世界だった。

 

「ウィル・オー・ウィスプ」

 

ユーノと一緒に学んだ魔法のうち、身体強化と念話を除けば一番良く使っているのが鬼火の魔法だろう。暗い道でも問題なく歩くことが出来るように、俺の数歩先をふわふわと漂うように先導してくれる。攻撃や防御といった魔法の必要性は全く感じなかったが、こうした便利魔法はもう少し覚えても良いかと思う。

 

頻繁に遊びにくる小川の傍まで歩き、道端の石の上に腰を下ろした。ふっと息を吐くと、頭の中の整理を始める。

 

正直ユーノのことを親友と思ってはいたものの、恋愛対象として見たことは無かったし、今でもそれは変わらない。それは俺の意識が男性であることが一番の理由だろう。勿論今のままだとユーノの想いが報われる可能性は全くない。

 

だがユーノはこちらの世界で初めての友人だし、嫌いかと聞かれればそんなことは全くない。下手な回答をして友人関係を壊してしまうのはイヤだった。

 

(友達関係は続けたい。でも恋愛感情はない。男としてみれば、随分身勝手な意見だよな)

 

色々と考える。俺の意識は男性だが、身体は女性。このまま男性の意識を持ち続けていればいずれ男性になれるのかというと、そんなことはありえない。あくまでもミント・ブラマンシュは女性であり、性転換でもしない限り男性になることはないのだ。

 

(転生のことを伝える訳にはいかないからなぁ。いっそ性同一性障害とでも言えばいいのかな)

 

しかし、だからといって性転換してまで男性になりたいかと聞かれれば別にそんなことはない。むしろ女性になりきれれば楽なのに、とも思う。

 

ふと、理不尽な怒りが湧いてきた。ユーノが告白さえしなければずっと友達のままでいることが出来たかも知れないのだ。今のままだとギクシャクした関係のままスクライア一族はブラマンシュを去って、そのまま音信不通になってしまい兼ねない。八つ当たりであることは十分理解した上で、それでも言葉が口をついて出た。

 

「というか、何処までおませさんなんですの!? わたくし達はまだ5歳ですのに」

 

感情を吐露したつもりだったが、自分の口から出た言葉がいつものお嬢様口調だったことに気付き、若干ショックを受ける。何年も使い続けた言葉は癖として身に沁みついているのだ。今度は注意しながら、ゆっくり言葉にしてみる。

 

「俺は、男だった」

 

だが今は違う。ミント・ブラマンシュは女の子だ。

 

「戻りたい、訳じゃない」

 

そもそも男だった俺が持っていたのは病気に侵されたボロボロの身体くらいだ。人生を悲観し、自暴自棄になっていたこともあった。それに比べて今の生活はどうだ。前世と比べたら天国か楽園か。少なくとも今の俺にとって、転生で得たのはメリットだけでデメリットは何処にも無い。その筈だった。

 

「なのに、何で男の意識が捨てられない!」

 

腰を下ろしていた石に拳を叩きつけると、思った以上の痛みが走った。その痛みが、逃避しようとする心を繋ぎ止める。少しだけ冷静になれたような気がした。

 

「痛い、ですわね」

 

今度はわざとお嬢様口調で呟いてみる。男言葉で話すよりもずっと自然で、当たり前のことのように感じた。

 

「ん? 何だ? そこに誰かいるのか? 」

 

少し離れたところから男の声が聞こえてきた。驚いてそちらを見ると、時空管理局の制服を着た男性が2人、ブラマンシュの集落に向かう道を歩いてくるところだった。

 

「誰かと思ったらミント嬢ちゃんか。どうした? こんな夜中に独りで」

 

見知った顔だった。普段は衛星軌道上のベースに常駐し、定期的に集落の視察に訪れる管理局員だ。視察だけでなく、ブラマンシュと交易している商人の付き添いなどでも訪れることがあり、ベースに複数いる管理局員のメンバーの中でも特に気さくに声をかけてくれる人達だ。

 

「マーカスさん、ジャンさん、こんばんは。お昼寝のしすぎで目が冴えてしまいましたの。今はお散歩中ですわ。お2人こそ、夜更けにどうなさったのですか? 」

 

石に叩きつけ、擦り剥いてしまった手を身体の後ろに隠してにっこりと微笑む。

 

「定時巡回だよ。夜中だってやってるんだぜ。知らなかったか? 」

 

「それは存じ上げませんでしたわ。ご苦労さまです」

 

「まぁ、あれだな。別に危険生物なんかは確認されていないけどよ。あまり夜中に独りで出歩くもんじゃないぜ。イザベルさんだって心配するだろうがよ」

 

苦笑しながら言うマーカスさんに対して返す言葉もない。確かに俺がいないことに母さまが気付いたら、それは心配することだろう。その程度のことに気付けないほどテンパっていたのだ。だが帰らないといけないと思う反面、もう少し考えを纏めたいという気持ちもあった。

 

「マーカスさんとジャンさんは、どうして管理局に入局されたのですか? 」

 

「いきなりだな。うーん、俺の場合はやっぱり収入だな。ミッドチルダにエルセアっていうところがあるんだが、そこに嫁と子供がいるんだよ。管理局は給料も良いし、稼いで仕送りしてやらないと…あたっ!」

 

「アホか、お前。子供に聞かせるような話じゃないだろうがよ」

 

マーカスさんがジャンさんを叩いていた。思わず笑いがこぼれる。

 

「で、どうしたんだ? 急にそんなことを聞くなんて」

 

「魔法を使うお仕事ってどんなものかと思いまして。ほら、ブラマンシュでは別に戦闘に特化した魔法は必要ないでしょう? 」

 

「基本的には平和な世界だしなぁ、ここは。で、魔法に興味が湧いたのか? 」

 

「別にそういう訳では無いのですが。むしろ興味を持っているのはユーノさんですわね」

 

「あぁ、スクライアの坊主か。確かにあいつは結構真剣に魔法の練習をしてたっけか。それで彼氏の行動が気になるってとこか」

 

ジャンさんの言葉に一瞬ドキッとするが、出来るだけ平静を装って答える。

 

「わたくしとユーノさんは良いお友達ですが、彼氏というのは少し違うのではないかと」

 

「ありゃ? 脈なしか。前に相談された時に焚きつけちまって、悪いことしたかな…あたっ!」

 

今度はマーカスさんが拳骨を落としていた。一瞬呆然としてしまったが、どうやら今回の一件はジャンさんが余計なことを言ったのが原因だったらしい。思い返してみれば、確かにユーノは「管理局の人に聞いた」と言っていた。

 

「っつーか、お前は何でいつもそう言うことを子供に吹き込んでんだよ。嬢ちゃんも坊主も、まだ5歳だろうがよ。お前だって同い年くらいの女の子がいるんだろう。もし娘にそんなことを吹き込む輩がいたらどうするんだよ」

 

「うちの娘はまだ2歳っすよ。面倒見の良い兄貴がいるから悪い虫はつかないでしょうが、もしそんな奴がいたら半殺しにして」

 

「よし、ならお前は今からイザベルさんに半殺しにされて来い」

 

「うぼぁー」

 

彼らの漫才じみたやり取りを見ていると、悩んでいた自分がバカバカしく思えてきた。そう、精神年齢は兎も角、肉体的には俺達はまだ5歳なのだ。今から惚れた腫れたで意識しすぎる必要はない。むしろユーノと今まで通りの関係を続けるなら、スクライアが撤収するまでの2か月弱、今まで通りの行動をするしかないだろう。

 

一度恋愛感情を意識してしまったユーノ自身には今まで通りというのはつらいかも知れないが、そこは無理やりにでも付き合ってもらおうと心に決めた。それで友達としての縁が切れてしまうようなことになれば寂しいけれど、それはユーノが普通の女の子と恋をするためのファーストステップとして応援しよう。

 

ふと脳裏にシュリンプ・ツインテールの少女の笑顔が浮かび、俺は頭を振ってそのイメージを追い払った。ここはアニメの世界ではなく、現実なのだ。これから起きることは予定調和ではなく、俺達が行動することで出来上がる未来なのだから。

 

「すまないな、ミント嬢ちゃん。話が途中で脱線しちまってよ。で、何の話だったっけか? 」

 

「お2人の漫才を見ているうちに忘れてしまいましたわ。沢山笑ったら眠くなってしまいました。もう帰ることにしますわね」

 

「そうかい。なら集落まで送ろう。どうせ通り道だしな」

 

「はい、ありがとうございます」

 

俺はマーカスさんとジャンさんに集落の入り口まで送ってもらうことにした。

 

「そう言えばさっき、『ブラマンシュでは戦闘に特化した魔法は必要ない』って言っていたっけか。確かに平和な世界だがよ、必要ないって言うことは別に覚えてはいけないっていう訳じゃないからな。むしろ基本的な攻撃魔法の構築式は覚えておいた方が良い」

 

歩きながら、いきなりマーカスさんがそんなことを言いだした。ジャンさんも頷きながら続ける。

 

「マーカスさんの言う通りだ。例えば嬢ちゃんが将来的にいい女になって、夜道を歩いている時に痴漢に襲われたりしたら、あたっ!」

 

「お前はもう少し子供と話すときの例えを選べ」

 

「お気遣いありがとうございます。仰りたいことは判りましたわ。万が一に備えて、知っておいて損は無いということですわね」

 

くすくすと笑いながら答えた。

 

「まぁ、そうだな。確かにブラマンシュは平和なところだし、万が一何か事件が起きても基本的には俺達が守るしよ。だが本当に最後の最後で自分を守るのは自分自身だからよ」

 

 

 

2人に集落の入り口まで送って貰い、お休みの挨拶をするとマーカスさんが手を見せろと言ってきた。しぶしぶながら怪我をした手を見せると、そこに治療魔法をかけてくれる。

 

「何か様子がおかしかったからな。これでじきに痛みも引くだろうよ」

 

「いろいろありがとうございます。助かりましたわ。では改めておやすみなさいませ」

 

お礼を告げた後、自宅に戻った。幸い母さまが起きた気配は無かったので、そのまま自室の布団に潜り込む。

 

明日はまたユーノと話をしよう。恋愛のことはあまり深く考えなくていい。

 

少し頭がすっきりしたせいか、俺はすぐに眠りについた。

 

 

 

=====

 

翌日、俺に呼び出されたユーノは何故かここ1週間ほどの様子とは打って変わって、以前と同じような雰囲気だった。どうやら本人が恋愛についてあまりよく判っていないこともあって、告白したことである程度の満足感を得てしまい、気持ちが落ち着いているようだ。

 

「案ずるより産むが易しといいますか…こちらは眠れない夜を過ごしたと言いますのに」

 

「え、そうなの? ゴメン、ミント」

 

「嘘ですわよ。お昼寝のしすぎで眠れなかっただけですわ」

 

「何だ…でも元気になって良かったよ」

 

改めてユーノにお見舞いのお礼を言った。その後、マーカスさんとジャンさんが昨夜言っていたことを思い出す。

 

「ユーノさん、攻撃魔法と防御魔法の基本構築式を教えて頂けます? 」

 

「それは構わないけれど、どういう風の吹き回し? 」

 

「基礎だけ教えて頂ければ、後は自分で発展応用させることが出来ますでしょう? もしまたユーノさんがブラマンシュを訪れることがあったら、盛大な花火でお出迎えするためですわ」

 

「そっか。それは楽しみだな」

 

2か月後にはもうブラマンシュにいないことを思い出したのか、ユーノは少し寂しそうに笑いながら言った。

 

「あ、あと治癒魔法も出来たら教えて頂けると嬉しいのですが」

 

「本当にいきなりだよね。一体どうしたのさ? 」

 

「料理中にちょっとした怪我をしたりすることも想定しているのですわ。治癒魔法を覚えていれば便利でしょう? 」

 

「あぁ、そう言うことなら。僕に教えられることなんてたかが知れているとは思うけどね」

 

ユーノはそう言って、先刻よりは多少明るく笑った。

 




今回はミントが料理をするシーンがありませんでした。。

章管理のやり方が良く判りません。。
第1部と第2部を分けてみようと思ったのですが。。
もう少し調べてみます。。

追記:無事章管理出来るようになりました。。これに伴いサブタイトルの部数表示は削除します。。
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