他愛もない日常のメロディー   作:こと・まうりーの

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第4話 「決意」

「何だか実感が湧かないよ。ミントと会えなくなるなんて」

 

いよいよスクライアが完全撤退する日、揚陸艇で衛星軌道上に係留してある船に戻るユーノを見送る。

 

「ずっと会えなくなる訳じゃありませんわ。またブラマンシュにも遊びに来て下さいませ」

 

「うん、絶対に来るよ。来年からは学校も始まるし、暫くは難しいかもしれないけど、手紙書くよ」

 

デバイスがあれば管理局のベースを中継した、お手軽なメール通信なども可能なのだが、生憎と俺はまだデバイスを持っていない。と言うより、ブラマンシュでデバイスを使っている人など本当に数える程度しかいないので、ブラマンシュとの通信手段は未だに手紙がメインなのだ。

 

「ミントがデバイスを使うようになったら、レイジングハート宛てにメールをくれると嬉しいな。識別IDはここにメモしておいたから」

 

「判りましたわ。機会があれば連絡しますわね」

 

 

 

この2ヶ月間で、俺が使う魔法のレパートリーが飛躍的に増えたかというと、実はあまり増えてはいない。攻撃と防御については当初全く興味が無く、基本構築式だけ教えて貰う予定だったのだが、実際に始めてみると少し様子が変わってきた。ユーノが言うには、俺には中・長距離における支援射撃の才能があったらしい。

 

折角の才能を活かさないのは勿体ないということで、ユーノは俺に誘導制御型と直射型の射撃魔法を徹底的に練習するように言ったのだが、俺が気にしたのはむしろ、射撃魔法の発射体となる「スフィア」の活用方法だった。

 

スフィアは基本的に術者の周囲に浮かべておき、そこから魔力弾を発射する。大体一つのスフィアから生成出来る魔力弾は30発程度だが、スフィアの数が増えれば増えるほど、同時制御が困難になる。ユーノの場合理論は知っているのだが、攻撃魔法にはあまり適性が無いらしくスフィアの生成は1つが限界だった。

 

俺はこのスフィアを何とか3基同時発動させ、しかもそれぞれを個別に誘導制御し、発射する魔力弾の数を通常の3倍以上に引き上げることに成功した。そして俺は、そのスフィアを「フライヤー」と呼称することにした。目下の目標は、このフライヤーをデバイス無しで左右3基ずつ、合計6基生成し、制御することだ。

 

これは言わば誘導弾から直射弾を発射するようなものであり、破壊力は高いが命中精度に欠ける直射型魔法の欠点をある程度補うことになる。ユーノは画期的な魔法だ、と評してくれたが、残念ながらこれはあくまでもギャラクシーエンジェルでミント・ブラマンシュが使用していたフライヤーを模倣したものにすぎず、他にも某ISやら某MSやらが活躍するアニメを知っている転生者がいれば「ビット」とか「ファンネル」とかの名称で使用している可能性があるものだ。しかも前述の通りまだ3基の同時制御に成功しただけなので、使いこなすにはもっと練習が必要だろう。

 

 

 

「結局、ユーノさんがブラマンシュにいる間に出来たのはフライヤー3基の制御とアクティブ・プロテクション、それから浮遊魔法だけでしたわね」

 

「その間、たった2カ月弱だと言うことを考慮しなよ。僕は十分すぎる成果だと思うよ」

 

「本当なら飛行魔法なども覚えておきたかったのですが」

 

「飛行はバリアジャケットの構築が先だからね。やっぱりデバイスを持ってからでないと危ないよ」

 

浮遊魔法はユーノに教えてもらって、ある程度は出来るようになったが、飛行魔法については矢張りバリアジャケットの構築が先で、しかも万が一のことを考えればその制御はデバイスに任せるべきである。このため、俺はまだ飛行魔法は覚えていなかった。

 

「今度お会いする時には完成型のフライヤーをお見せできるように頑張りますわ」

 

「楽しみにしているよ。あとデバイスもね」

 

そのままユーノは俯いてしまった。お互いにかける言葉が無いまま時間だけが流れる。と、スクライアの長老がそっとユーノの肩に手を置いた。ユーノは小さく頷くと、こちらに向かって微笑んだ。

 

「じゃぁ、もう行くよ。元気でね、ミント」

 

「ユーノさんもお元気で。学校も決まったら連絡しますわね」

 

「うん、じゃぁまたね」

 

こうしてスクライア一族はブラマンシュでの発掘調査を終え、次の現場へと向かって行った。

 

 

 

=====

 

実は母さまも族長も、俺のことを学校に通わせるつもりがあったようだ。俺とユーノの様子を見て、子供が少ないブラマンシュで生活するよりも、同年代の子供達と一緒に学校生活を送った方が情操教育にも良いだろうと判断したらしい。

 

ただ、さすがに10を超える近隣世界から取り寄せられた寄宿学校のパンフレットを見た時には若干引いた。とにかく学費が高いのだ。確かにテレパスファーを研究所などに譲ったりすることで得る収入があれば賄えるだろうが、あれはブラマンシュ全体の財産だ。

 

そう言って固辞すると、次に出てきた案は過去にブラマンシュを出て別世界で生活している人の家にホームステイすることだった。実際以前聞いていた「2、3年に一度は行方不明者が出る」と言うのは思った通り子供に対する教育的なお話だったらしいのだが、人がいなくなっているのは事実だった。ただ行方不明ではなく行き先が判った状態で、という但し書きがつく。

 

最初はステイ先の人に迷惑ではないかとも思ったのだが、ブラマンシュ同士はかなりフランクに付き合いがあるようで、他の世界へ商談などで赴く際に偶々ブラマンシュの人が住んでいたりすると、普通に自宅を宿泊場所として提供してくれたりするのだそうだ。さすがに今回のような長期にわたる滞在は前例が無いらしいが、可否については族長が打診してくれることになっていた。

 

そしてスクライア一族がブラマンシュを去ってから2週間程経ったある日、漸くホームステイ先の候補が決まった。

 

「え…でもその方って、ブラマンシュではないのでは…? 」

 

「確かに直接の血縁ではないがの。じゃがちゃんとブラマンシュ姓を名乗っておるし、何より先方が強く希望しておる。どうじゃな? 場所は第1管理世界ミッドチルダの首都、クラナガンじゃ。管理世界随一の都会じゃし、最初は慣れないかもしれんが」

 

その相手は、過去にブラマンシュの男性と結婚したものの事故で旦那さんを亡くしてしまった女性だった。

 

「サリカさんね。お母さんも以前会ったことがあるけれど、優しい人よ」

 

サリカ・ブラマンシュというその女性はクラナガンにある病院で看護師をしている人らしい。仕事が忙しい事もあってずっと面倒を見続ける訳にはいかないそうなのだが、逆に母さまはそのくらいの方が自立心を養うのには丁度良いと考えている様子だった。

 

「尤もミントは実年齢からしたら随分と自立してる方だと思うけど」

 

「矢張り幼少期の念話教育が効いたのかの」

 

母さまと族長がそんな話をしていたが、半分以上は前世の記憶なるモノの所為だと思う。

 

 

 

結局俺の留学先はミッドチルダのクラナガンに決定した。次は学校の選択だが、これについてはあまり迷うことは無かった。

 

「クラナガン・セントラル魔法学院一択ですわね」

 

「どうして? お母さんとしてはこっちのSt.ヒルデ魔法学院の方が、制服が可愛くていいと思うけど」

 

「お母さま、制服の良し悪しで学校を決めないで下さいませ。St.ヒルデ魔法学院は確かに良い学校ではありますが、聖王教会系でベルカ式魔法に重点を置いています。その点クラナガン・セントラル魔法学院はミッド式魔法寄りですわ。わたくしが使う魔法はミッド式ですから、確実にクラナガン・セントラル魔法学院にするべきです」

 

おまけにこの学校は俺がステイする予定になっているサリカさんの家から非常に近かった。一方、St.ヒルデ魔法学院は北部のベルカ自治区寄りにある。サリカさんの自宅から通うとなると、どうしても快速レールで1時間はかかるだろう。そうした点も重要な考慮ポイントになる。

 

他にもクラナガン市街にはいくつかの魔法学院があるのだが、学習レベルや選択コースの豊富さ等を基準に検討したところ、ここに勝る学校はないと思われた。

 

正直ブラマンシュの人間は、基本的に魔力は高いのだが魔法知識に非常に偏りがある。母さまも今「ベルカ式」や「ミッド式」と聞いて、首を傾げるようなレベルだ。それなのに、集落内の魔力燈や電化製品ならぬ魔力化製品などに使う魔力の量、変換技術に関する知識はどれも一級品なのだ。

 

「まぁ、それがブラマンシュでは普通のことですわね」

 

別にそれが悪いとは思わないし、実際俺が2か月ちょっと前までは同じような生活をしていた訳だから責めるつもりは毛頭ないのだが、母さまは少ししょげてしまったようだった。結局母さまを元気付けるのに数十分の時間を要したことを、ここに記しておく。

 

 

 

=====

 

「まずは魔導師登録が必要なのですわね。入学が来年で願書の締め切りが今年の秋と。カリキュラムとしては最初の2年が基礎理論、3年に上がる際に改めて魔力測定があって公式に記録が残るのですか」

 

集落の入り口付近にあるベンチに座って、クラナガン・セントラル魔法学院の募集要項を確認する。事前の魔導師登録が必要なら、入学前に一度ミッドチルダに行っておく必要があるだろう。少なくともブラマンシュにはそういった施設は無い。学院の下見も兼ねて、サリカさんに挨拶しに行くのも良いかもしれない。

 

「よぉ、ミント嬢ちゃん。今日は勉強か? 」

 

聞き慣れた声が聞こえ、顔を上げる。

 

「そろそろいらっしゃる頃だと思ってお待ちしていたのですわ。おはようございます、マーカスさん。これ、お願いしますわね」

 

マーカスさんに手紙の束を渡した。巡回にくる管理局員が必要に応じて集落から郵便物を回収し、衛星軌道上のベースに戻ってから発送してくれるのだ。この中にはユーノに宛てた俺の私信も入っている。というかユーノに出す手紙があったので、他に出す手紙がないか集落の人に聞いて回って集めておいたのだ。

 

いつもマーカスさんと一緒にコンビを組んでいるジャンさんの姿はなかったが、一緒に巡回に来たらしい女性も顔見知りだった。

 

「おはようございます、ベアトリスさん。ジャンさんは今日は非番ですか? 」

 

「おはよう、ミントちゃん。彼、今休暇を取って実家に戻っているのよ。なんでも数か月越しの申請がやっと通ったとかで、喜んでたわね」

 

「あら、そうでしたか。それはよかったですわ。でもわたくし達に一言もないなんて、随分と薄情ですわね」

 

「まぁ、そう言うな。大方嫁さんや子供に会えるのがよっぽど嬉しかったんだろうよ」

 

マーカスさんも俺が預けた手紙を簡単にチェックし、デバイスに格納しながら会話に加わってきた。

 

「えっと、確かミッドチルダでしたわね。エルセアだと聞いたことがありますが」

 

「そうね、ミッドチルダの西部地方よ。クラナガンほど都会じゃなくて、アルトセイムほど田舎じゃないっていう感じかしらね」

 

「まぁ、嬢ちゃんはミッドチルダ自体に行ったことがないだろうから、そう言われても想像するのは難しいだろうがよ」

 

「ですがもう少ししたらクラナガンには行く予定ですわよ。来年あちらの魔法学院に入学しますので」

 

「そう、それは楽しみね」

 

「初めての世界間旅行ですから、楽しまなければ損ですわ」

 

そう言うと、マーカスさんが大きな手でわしゃわしゃと頭を撫でてくれた。そしてさっき預けたものとは異なる手紙の束を渡してくれる。

 

「こっちが届いたほうだ。みんなに配っておいてくれるか」

 

「承りましたわ。では巡回のお仕事、頑張ってくださいませ」

 

手を振ってマーカスさん達に別れを告げると、受け取った手紙の宛名を確認して集落内の該当者に配っていく。

 

「あら、ユーノさんからの手紙もありますわね」

 

行き違いになってしまった手紙をポーチにしまうと、俺は引き続き手紙を配って回った。

 

 

 

手紙を配り終えて自宅に戻ると、ユーノから届いた手紙を開封した。どうやら彼はまだ通う学校を決めかねている様子だった。矢張りどこも寄宿学校は料金が高いようだ。ふと、クラナガン・セントラル魔法学院には学生寮もあったことを思い出す。

 

(それに奨学金制度もあった筈ですわね)

 

パンフレットを用意しようとして、ふと自分の思考までお嬢様言葉になっていることに気付き、苦笑する。こうして徐々に女の子になっていくのだろう。それは別にイヤなことではなかった。むしろ相変わらず男性としての意識が根強く残っており、その意識が現在の性別に抵抗感を表すことがイヤだった。

 

(トイレもお風呂もスカートも、もう慣れましたのに)

 

意識してお嬢様言葉で考える。まだ体験したことのない初潮を考えると若干不安はあったが、それはもう少し先のことだろう。軽く頭を振り、改めて魔法学院のパンフレットを読み返した。

 

「やっぱりありますわね、奨学金制度。寮費にも適用されるようですし」

 

一瞬ユーノにそのことを伝えようかと考えたが、直ぐに今回俺が出した手紙で、来年からこの学院に通うことに決めた旨を連絡したことを思い出した。

 

「ここで改めてユーノさんにお勧めしたら、わたくしがまるでクラナガン・セントラル魔法学院の回し者みたいではありませんか」

 

ユーノのことだから、きっと自分でもいろいろと調べた上で最良の選択をすることだろう。いくら告白までしたからといって、「ミントが通うから」という理由だけで安易に自分の進路を決めたりはしない筈だ。

 

…たぶん。

 

変な方向にズレてしまった思考を元に戻し、奨学金制度のところを確認する。クラナガン・セントラル魔法学院で採用されているのは基本的に貸与奨学金制度だったが、成績上位者10名に限り給付奨学金となることが記載されていた。貸与奨学金とは言っても無利子であり、返済期間も長いので利用する学生もそれなりにいるようだ。

 

「あら、でもこの審査基準はかなり厳しいですわね」

 

魔力ランクがB以上で、尚且つ入学時の試験で8割以上を得点すること、とあった。魔力ランクは魔導師ランクとは違い、あくまでも個人の純粋な魔力量のみを表す。つまり持って生まれた資質であり、それによって奨学金制度を受けられるかどうかが決まってしまうことについては若干違和感があった。

 

(持って生まれた資質だけで人生が決まってしまうような制度は、あまり好きにはなれませんわね…もっとも使えそうなら活用させて貰いますが)

 

俺にはイザベル母さまと同等かそれ以上の魔力があるという。母さまの魔力量がAAAだと聞いているから、俺の魔力はAAA+前後である可能性が高い。このため最初の条件は難なくクリアしている筈。問題は入学試験の方だった。

 

「まだ少し時間もありますし、ミッドチルダで過去問題集でも探してみましょう」

 

「なぁに、ミント。何の問題集を探すの? 」

 

「ひゃぁぅ!」

 

急にイザベル母さまに声をかけられて、おかしな声を上げてしまった。

 

「もう、お母さま。驚かせないで下さいませ」

 

「あらあら、ごめんなさい。でもちゃんとノックはしたわよ。そろそろお昼ご飯にしようと思って」

 

「もうそんな時間でしたか。ではわたくしも準備を始めますわね」

 

母さまと2人で台所に入ると、昼食のパスタを作り始める。今日はトマトケチャップを使ったボロネーズ風ミートソースにしよう。玉葱、人参、ピーマンを微塵切りにして挽肉と一緒に炒める。味付けは塩胡椒とトマトケチャップのみ。これで意外と美味しいパスタが出来上がるのだ。

 

「でも炒める部分は相変わらずお母さまなのですわね…」

 

「ええ。少なくともミントの身長があと5cm伸びてからでないと、油と火の同時利用は認めませんからね」

 

ただでさえ成長の遅いブラマンシュ。それは多分、あと10年は無理なのではないだろうか。とりあえず油は使わないパスタを茹でる作業は母さまが横に付くことでやらせて貰い、昼食の準備は若干30分で終了。

 

「「今日の糧に感謝を」」

 

手抜きパスタとはいえ、味は上々。余ったミートソースはご飯にかけても美味しいのだ。

 

「で、さっきの話だけど、何の問題集を探すの? 」

 

「クラナガン・セントラル魔法学院の入学試験ですわ。魔力ランクが高くて入試の成績が良いと奨学金が適用されるようですので」

 

「もう、お金が無いわけじゃないんだから、あまりそういうことに気を遣わなくてもいいのに」

 

「ですがブラマンシュのお金は基本的に全員の共有財産ですわ。抑えられる出費は抑えないと」

 

恐らく集落の人達に聞けば全員が気にするな、と言うだろう。だがお金というものはあって困るものではない。万が一に備えて貯蓄しておくことは重要だ。

 

「来週には魔導師登録でミッドチルダに行くのよね…何度も言うけれど、気を付けてね」

 

「大丈夫ですわよ、お母さま。今回は魔導師登録とサリカさんへの挨拶、学院の下見だけですから、とりあえず1週間で戻りますわ」

 

「でも秋にはまたミッドチルダに行って、それからは暫く戻らないんでしょう? お母さん、寂しいわ」

 

冗談とも本気とも取れる口調で母さまが言う。少し顔が紅潮するのを感じながら、俺は照れ隠しに「手紙は書きますわよ」とだけ言っておいた。

 

 

 

=====

 

それは晴天の霹靂だった。

 

「え…亡くなった? ジャンさんが? 」

 

その話をマーカスさんから聞いたのは、俺がミッドチルダに向かう2日前のことだった。

 

「ああ、あっちで事故に遭ってよ。嫁さんも一緒だったらしいな。本来なら嬢ちゃんに言うようなことじゃないんだろうがよ。丁度ミッドチルダに行くって言っていたから、向こうに着いてから知るよりは最初から言っておいた方がいいと思ってよ」

 

何でも奥さんと一緒に外出していた時に暴走車に撥ねられてしまったのだそうだ。他にも何人も巻き込まれたらしい。

 

馴染みの人が亡くなるということは理屈では分かっていても、どうにも実感が湧かなかった。ジャンさんには随分と良くして貰ったし、今でもその辺りの木陰から「嘘、嘘!それ間違いだから!」とでも言って飛び出してきそうな気がした。

 

「お子さんが…いらっしゃるのでしたわよね」

 

「そうだな。兄貴はもう13歳で、妹を護るために父親と同じ管理局員を目指すんだとよ」

 

「エルセアでしたわね。時間が取れたらぜひお墓参りに行かせて貰いたいですわ。えっと、住所とかご存知です? 」

 

「あぁ、メモに書いてやる。ちょっと待ってな」

 

マーカスさんが書いてくれたメモを見て、俺はそれまでジャンさんの苗字を知らなかったことに気付いた。連絡先として書いてあった名前は生前、二次創作小説でよく見かけたものだった。

 

「ティーダ・ランスター…さんですか」

 

「兄貴の方だな。妹は確かティアナといったか。まだ2歳だそうだがよ」

 

StrikerSのアニメを観たことは無かったが、二次創作小説やWikiなどで得た情報から、ティアナの両親が事故死していたことは知っていた。だが今俺がいるこの世界は物語ではない、現実なのだ。この世界の歴史ですら仕組まれたものだとしたら、あまりにも悪趣味ではないか。

 

だが物語と同じ結末にはならない。既にこの世界には「ミント・ブラマンシュ」という異物が入り込んでいるのだから。

 

(もしこの世界で…わたくしの手の届くところで…回避できる悲劇があるのでしたら、介入だろうがブレイクだろうが、やって見せますわ)

 

確か物語の中ではティーダ・ランスターも、ティアナが10歳の時に殉職してしまう筈だった。

 

(今から8年後…まだ先の話ですわね。でも出来ることなら助けたいですわ)

 

ユーノが同い年であることを考えれば、無印の原作開始は3年ないしは4年後の筈だ。直近の事件はPT事件になるのだろう。狂気に走ってしまっているであろうプレシアや、既に死んでしまっているであろうアリシアを助けることは出来ないかもしれない。それでも自分に何かできることがあるのならやっておきたいと、心から思った。

 

「おい、嬢ちゃん、大丈夫か」

 

マーカスさんの声で我に返る。長時間考え込んでしまったように感じていたが、どうやら一瞬のことだったらしい。

 

「申し訳ございません。少し気分が優れませんので、今日は失礼させて頂きますわね」

 

マーカスさんに別れを告げると、俺は自宅に戻って部屋のベッドに倒れこんだ。

 

(まずはやっぱり勉強ですわね。3、4年後に無印が開始するのであればユーノさんは間違いなく飛び級をするのでしょうし)

 

クラナガン・セントラル魔法学院は初等部5年、中等部3年で構成されるエスカレーター式の学校だ。ユーノが通う学校がどこになるかは判らないが、次元世界の学校は概ね似たような学習スケジュールを採用している。これを3年以内で全て修了し、発掘現場に戻れるということは飛び級以外には考えられない。そしてそのユーノの進級速度についていくためには、こちらも一生懸命勉強する必要がある。

 

「やってやりますわ。ええ、やってやりますとも!」

 

ミッドチルダへの渡航を2日後に控えて、俺は初めてこの世界に転生した意味を見出したように思っていた。例え原作をブレイクしてでも、できる限りハッピーエンドを目指す。そう決意した。

 

 

 

後から考えれば、俺は完全に自分自身が持つ「原作知識」に囚われてしまっていたのだ。この世界が物語ではないと強く思いながらも原作知識に頼ってしまっている矛盾、そしてそれが危険な思い込みであることに、この時俺は未だ気付いていなかった。

 




先日、何かの参考になれば、と思ってモバゲーの「リリカルなのはINNOCENT」の利用者登録をしました。。
結果、ついていけないことが多すぎて、あまりよくわからないです。。
あれは並行世界ものだったのですね。。

誤字・脱字などがありましたら、ぜひご一報下さいませ。。
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