今年もどうぞよろしくお願いします。。
気がつくと、居間で寝かされていた。母さま、サリカさん、クリスティーナさんが心配そうに覗き込んでいる。
「あ、ミント、気が付いた? 」
「ミントちゃん、大丈夫? 」
口々に声を掛けられる。一瞬夢でも見ていたのかと思ったが、枕元にアンティーク・ドールが一体置かれているのを見て、完全に意識が覚醒した。
「すまんな。まさか開発費の話をした途端気を失うとは思ってもいなかったぞ」
「いえ、こちらこそご迷惑をおかけしました」
色々と驚くようなことが重なって一杯一杯になっていたところにトドメを刺された形だった。停電は既に復旧していて、明るい光の下で見るアンティーク・ドールは普通に可愛らしかった。偶に髪をかき上げてみたり、立ち上がって自立歩行したり、空中を浮遊したりするところを除けば、だが。
「こんな小さな子供を驚かせたら駄目でしょう」
「うむ。正直すまんかった」
クリスティーナさんに窘められて、改めてアルフレッドさんが謝罪してきた。それは日本のプロレスネタなんじゃないかと心の中でツッコミを入れる。
「ところでデバイスのマスター認証はまだしておらんな。わしとしては早くデータを見てみたいんだが、やってみてくれんか? 」
アルフレッドさんがそう言うと、サリカさんとクリスティーナさんがジト目でアルフレッドさんを見つめた。
「お父さん、悪いことしたって思ってないでしょう」
「そうね、誠意が見えないわね」
その様子を見て少し和んだこともあり、何より俺自身がマスター認証をやってみたかったということもあって、アルフレッドさんに助け舟を出した。
「わたくしなら大丈夫ですわ。それにマスター認証にも興味がありますし。是非やらせて下さいませ」
まさか自分のデバイスが動く人形になるなんて思ってもみなかったが、普通に抱いてみると周りからは似合っているとの声がかかる。
「じゃぁ、早速やってみてくれるか。手順はこんな感じだ」
アルフレッドさんが取扱い説明書のようなものを渡してくれたので、それに従う。
「マスター認証、ミント・ブラマンシュ。術式はミッドチルダ式。デバイスの個体名称として、『トリックマスター』を登録」
≪Nice to see you, Miss Blancmanche. "Trick Master" has been registered as my individual name.≫【初めまして、ブラマンシュさん。個体名称『トリックマスター』を登録しました】
トーンの高い女性のような声が響き、リンカーコアが何時にも増して熱く脈を打つような感覚がある。空色の魔力光がトリックマスターをも包み込んだ。
≪Please register the password for setup.≫【セットアップ用のパスワードを登録して下さい】
「パスワード? そんなものが必要なのですか? 簡単に『セットアップ』で良いと思いますわよ」
≪It will be stylistically beautiful if you cast a long password.≫【ここで長々と詠唱するのが物語的にも美しいのです】
「アルフレッドさん、少し不具合があるようですわ」
≪OK, Stand by ready. Setup.≫【スタンバイ完了。セットアップ】
バリアジャケットをイメージするように促され、ギャラクシーエンジェルでミントが着ていた皇国軍の制服をアウターとしてイメージする。内側はブルーのミニワンピースで、足元は膝上丈の黒いソックスに白いブーツ。胸元には大きな青いリボン。薄手の白いグローブに包まれた手には、いつの間にか錫杖形態になったトリックマスターが握られていた。
「やればできるではありませんか」
≪Easy password will cause security trouble.≫【簡単なパスワード設定はセキュリティ事故の危険性が】
「声紋認証もあるのでしょう? 問題ありませんわ」
≪Do not you think it would be very cute if a little girl cast about falteringly?≫【幼女がたどたどしくも詠唱する姿に萌えるのに】
はぁーっと大きくため息を吐く。恐らくトリックマスターが言っているのは「我、使命を受けし者なり」のような文言だったのだろうが、まさかそんな実用的でないものをデバイス側から求められるとは思ってもいなかった。
「なんだかアルフレッドさんがモニターを探すのに苦労した気持ちが判ったような気がしますわ」
「いや、デバイスの性格は別に問題ではなかったよ。待機モードが人形だっていうことが問題だったんだ。ここまで魔力の大きな子供はそうそういないからな」
「あ、そういうことだったのね」
「だったらモニターがミントになるのは必然ね」
「あら、イザベルさんだってまだまだ行けると思いますよ」
サリカさんも母さまも納得したとばかりに軽口を叩き合っているが、俺には状況がよく理解できていなかった。
「見たところ普通の人形だと思うのですが、何か問題が? 」
「強いて言うなら、似合う似合わないの問題ね。ミント、例えばベアトリスさんがいつもこんな人形を抱いていたらどう思う? 」
「それはちょっと痛い…あっ」
確かに20歳を超えてもなお、いつもアンティーク・ドールを抱いているのは傍目に見て随分と痛く映るはずだった。一瞬とはいえ想像してしまったベアトリスさんに心の中で謝っておく。
「その点、ブラマンシュの人は不老みたいなものだから。イザベルさんもミントちゃんも見た目は問題ないよね」
サリカさんはそう言いながら親指を立てた。とりあえず今の段階なら似合っているようなので、先のことは敢えて考えないことにした。サリカさんが言うように母さまも見た目だけなら人形を抱いても様になる容姿だし、エターナルロリータというほどではないにしても、俺も似たようなものだろう。そういう意味では、確かにブラマンシュの人間以外がこのデバイスを使うのは難しいのではないかと思われた。
「さて、一度起動時のデータ確認をしておきたいんだが、構わないかな」
「ありがとうございます。よろしくお願い致しますわね」
アルフレッドさんに人形モードに戻したトリックマスターを手渡す。
「よく使う魔法をインストールしておくなら裏手に試射できるスペースがあるから、食事の後にでも行ってみるか? 」
「そうですわね。もし良かったらお願いしますわ」
その後、クリスティーナさんが晩御飯を作るというのでサリカさん、母さまと一緒にお手伝いをした。気を失っていたために時間感覚が曖昧になってしまっていたが、どうやらまだ18時頃だったらしい。
「ミントちゃんは、随分手馴れているのね」
「料理をするのは好きですので。まだ1人では火を扱わせて貰えていないのですが」
「好きこそものの上手なれって言うしね。でもあまり無理はしないでね」
松葉杖を器用に脇で挟み込み、雑談しつつ玉葱をみじん切りにする。半分に切った玉葱の根の部分を落とさずに横と縦に切れ目を入れると楽にみじん切りに出来るのだ。みじん切りにした玉葱は塩胡椒を軽く振って予め炒めておく。次に豚挽肉をよく捏ね、そこにパン粉、牛乳、卵と、先ほど炒めた玉葱を投入。
と、ここまでくれば誰にでも判る定番メニュー。今夜の晩御飯はハンバーグだった。レシピでは合挽肉を使うように書いてあるものが多いのだが、実は豚のみの方が臭みが少なくて良いのだ。合挽肉を使う場合はナツメグなどで臭いを消すのも一つの手。
「じゃぁ、ミントちゃんはハンバーグが焼けるまでにお父さんを呼んできてくれるかな」
「はい、承りましたわ」
サリカさんに頼まれて、工房にアルフレッドさんを迎えに行った。
「アルフレッドさん、そろそろご飯になりますわ」
「そうか。ちょうど良かったな。たった今微調整が終わったところだ。じゃぁ行くか」
≪I wish if I could enjoy meals with you!≫【私も一緒にご飯を楽しみたいのに】
「わたくしの隣で会話だけ楽しめば良いのですわ。もともと食べる必要もないわけですし」
先程から最新式のデバイスである割にAIがあまりにも成長しすぎているように思っていたので、アルフレッドさんに確認したところ、特別製の環境下に於いて複数のAIを常時起動し、相互学習させることでAIの成長を飛躍的に高めることが出来るのだとの回答があった。
「まぁ、その環境自体は企業秘密だがな」
アルフレッドさんはそう言って笑った。
=====
晩御飯のハンバーグはとても美味しかった。母さまとサリカさんがクリスティーナさんと洗い物をしてくれている間に、俺はアルフレッドさんと一緒に工房の裏にある試射スペースにやってきた。
「トリックマスター、セットアップ」
≪All right, master. Setup.≫【了解。セットアップ】
トランスバール皇国軍の制服を模したバリアジャケットを再び身に纏うと、片手で錫杖形態のトリックマスターを握る。
「改めてみると大変そうだな。大丈夫か? 杖をつきながらで」
「術式をいくつかインストールして試射するだけですから、特に問題ありませんわ」
アルフレッドさんに教えてもらいながらトリックマスターのストレージを開く。
「プレインストールされている術式がありますわね」
「ああ、確か砲撃魔法が1つ、探査魔法が1つインストールされていた筈だ」
登録されていたのは「パルセーション・バスター」と「ハイパー・エリア・サーチ」の2つだった。
「エリア・サーチは何となく判りますが、パルセーション・バスターというのはどういう魔法なのですか? 」
「重力振動波で空間に干渉する砲撃だな。相互に撃ち合いをした時に相手の砲撃を捻じ曲げて直進するから優位に立てるし、プロテクションも構成が甘いようなら貫通する。もちろん非殺傷設定可能だぞ」
話だけ聞くと、まるでどこぞの機動戦艦の主砲のようだ。まぁ非殺傷設定が可能とのことなので、ありがたく使わせてもらうことにした。
「では、まずわたくしの持っている術式をインストールしますわね」
順番に「ウィル・オー・ウィスプ」、「ディスガイズ」、「アクティブ・プロテクション」といった、使用頻度の高い魔法をトリックマスターのガイダンスに従ってインストールしていく。
「それからこれも忘れてはいけませんわね。『フライヤー』ですわ」
≪Oh, you are using quite interesting magic, master. But it can be much stronger than as it is. May I compose it a bit?≫【随分と興味深い魔法をお使いですね。構成によっては、より強くなりそうです。少しいじってみても構いませんか? 】
「え? ええ、構いませんわよ」
トリックマスターの突然の申し出に驚きつつも許可を出すと、暫くコアを明滅させた後で作業が完了したと告げられた。どうやら「パルセーション・バスター」に使用されている重力振動波による空間干渉の公式を組み込んだらしい。
≪Its power might be lower than “Pulsation Buster”, The movement of a “Flier” is flexible. It will be more manageable than “Pulsation Buster”.≫【単基での出力は『パルセーション・バスター』よりも低いですが、『フライヤー』はより自在に移動できますし、扱いやすさは『パルセーション・バスター』以上でしょう】
魔法の解説をしている時は随分と真面目なのだな、と場違いな感想を抱いた。
≪And I guess that you are planning to control the plural “Fliers” at the same time, according to its spell. If you can control more than 6 “Fliers”, the volley will be comparable to “Breaker” magic.≫【術式から察すると、貴女は複数『フライヤー』の同時制御を検討していますね。現状では6基の『フライヤー』による一斉射撃は『ブレイカー』系魔法に匹敵します】
「と言われましても、『ブレイカー』系の魔法がどの程度の威力なのか、良く判りませんわね」
「一度、試してみたらどうだ? 折角の試射練習場なんだしな」
アルフレッドさんがそう言ってくれたので、実際に試してみることにした。まずフライヤーを1基生成すると、練習場に設置されたターゲットを目掛けて直射弾を何発か撃ち込んでみる。
「ふむ。威力はAランクと言ったところか。連射性能は恐ろしいほどだな。A+どころじゃない。下手したらAAAはあるぞ。射程はさすがにここだと正確には測れんが」
≪The range of this magic will be A+ in theory.≫【理論上の射程はA+です】
その辺りの基準は良く判らなかったが、魔法としては随分上位に位置するものらしい。計測はアルフレッドさんとトリックマスターに任せて、フライヤーを更に追加で5基生成してみる。デバイス無しだと3基の制御しか出来なかったが、今はあっさりと6基のフライヤーを制御出来た。
「デバイスを使うとこんなにも違うのですわね。何だか今ではフライヤー10基でも制御出来そうな気がしますわ」
≪It might be possible temporary. But too much multi-task will cause overload on your brain at your age. I do not recommend you to use more than 7 “Fliers”, until you become 10 years old.≫【恐らく一時的な制御は可能ですが、マスターの年齢ではマルチタスクを行う際、脳に負担がかかりすぎます。10歳になるまでは7基以上の制御は推奨しません】
「それは命に関わるようなことですの? 」
≪As you may understand if you lose consciousness during you are fighting.≫【戦闘中に意識を失ったらどうなるかはご想像にお任せします】
「それはつまり実際の影響は意識を失う程度でも間接的に命に関わる可能性もあるということですのね。判りましたわ。気に留めるようにいたします」
ひとまず6基のフライヤーを個別に制御して再構築されたターゲットを囲うように配置させた。
「さぁ、参りますわよ。『フライヤー・ダンス』っ!」
思わず口をついて出たのはミント・ブラマンシュの必殺技。6基のフライヤーはそれこそダンスを踊るかのようにターゲットを周回しながら次々に直射弾を叩き込んでいく。1基のフライヤーから発射出来る直射弾は100発程。通常のスフィアの3倍以上である。これが6基で最大600発程度の直射弾の集中砲火を実現できる筈だったのだが、ターゲットは一瞬で消し飛んでしまった。
「ひ、非殺傷ですわよね? 」
≪Definitely. The target was created with magical energy. It was not blown physically, but damaged in magical method. There was no rubble also.≫【勿論です。ターゲットが魔力を用いて構築されたものであって、物理破壊された訳ではなく魔力ダメージによる破壊です。破片を撒き散らすこともありません】
「それにしても驚いたな。速射性に優れた魔法だというのが良く判ったよ。計測器によるとターゲットが破壊されるまでに要した時間が0.7秒、ちなみに使用弾数は84発だそうだ」
「単基で撃った時よりも威力が上がっているような気がしますわね」
≪You are correct. The separate bullet has each pulse, which I composed just before. And it causes the synergistic effect due to the multi-direction volley.≫【先程付与した振動波が複数方向からの一斉射撃により相乗効果をもたらしています】
トリックマスターの説明によると、重力振動波で空間に干渉するようになったフライヤーからの射撃が対象に対して個別に与える振動がダメージを増大させるのだとか。
「別に対艦砲が欲しい訳ではありませんし、広範囲に展開して複数の対象にダメージを与えるのが有効な使い方ですわね」
≪The flamboyant and high powered fire is a star of sorcerers at Mid-Childa. You do not need to be so shy.≫【派手で高威力の砲撃はミッド式魔法の花形です。それほど控え目になる必要はないかと】
別に俺自身がバトルジャンキーな訳でも大艦巨砲主義な訳でもないのだが、今後の原作介入に備えて高火力の魔法はとても助けになる。フライヤーの強化は望ましい事だ。
≪I am very happy to register “Flier Dance” and proud of it as a device of Mid-Childa style.≫【『フライヤー・ダンス』のような魔法を登録出来るのは、ミッド式デバイスとして光栄であり、誇りでもあります】
むしろトリックマスターの方がよっぽどトリガーハッピーのようだった。
(もしこの世界にフォルテさんがいて、この子をデバイスとして使用していたら、『ハッピートリガー』と名付けて気の合う相棒になったでしょうね)
俺は盛大にため息を吐いた。
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翌日、俺は母さまと一緒にアルフレッドさんの車でランスター家に向かっていた。同じエルセアとはいってもメルローズ・デバイス工房からランスター家まではかなり距離があったのでアルフレッドさんが送ってくれることになったのだ。昨夜の雨で道は若干濡れているものの、空は綺麗に晴れていた。
「さすがに店があるから帰りは迎えに来てやれないがな」
「いいえ、送って頂けるだけでも十分助かりましたわ。ありがとうございます」
閑静な住宅街で車を降りると、運転席のアルフレッドさんにお礼を言う。帰りはバスを使って直接快速レールの駅に向かうことになる。追悼式典に参列しないサリカさんは一足先にクラナガンに帰ることになっていた。
「魔導師登録が済んだら公共の練習場が使えるようになる。こまめに練習して、データの提供をよろしく頼むぞ」
「了解しましたわ。次は3か月後でしたわね」
「あぁ、楽しみにしているよ。じゃぁわしはそろそろ帰るから」
「ありがとうございました。お気をつけて」
アルフレッドさんは軽く手を上げてそれに答えると、車を発進させた。俺が入院している間に購入した喪服に身を包んだ母さまがランスター家の呼び鈴を鳴らす。ちなみに俺は喪服ではないが、母さまが一緒に買っておいてくれた黒い服を着ている。
暫くして玄関口に出てきたのは喪服に身を包んだ少年だった。
「ブラマンシュの方ですね。初めまして。ティーダ・ランスターです。今日は態々ありがとうございます。両親も喜んでいることでしょう」
13歳とは思えない確りした挨拶だったが、それが却って痛々しく感じる。ひとまず家に入れて貰い、遺影に向かって手を合わせた。その後ティーダ、母さまと一緒に追悼式典の会場に向かう。ティアナはまだ幼いということもあって、今日は家政婦さんと一緒に留守番なのだそうだ。
道すがら、ブラマンシュでのジャンさんの思い出を話した。とても陽気で、気さくで、集落のみんなから好かれている人だった。マーカスさん、ベアトリスさんといった管理局員の仲間とも良い関係だった。
「わたくしも随分とお世話になりましたわ。本当に残念です」
「そうでしたか。父は慕われていたのですね。ありがとうございます」
ティーダはそう言うと少し寂しそうに微笑んだ。
会場は事故の犠牲者が葬られた墓地だった。式典自体はそれほど大がかりな物ではなく、参列者も数十人と言ったレベルだった。事故の犠牲者はランスター夫妻以外にもおり、その人達の名前が読み上げられて、それぞれ鎮魂の言葉が捧げられていく形式だった。
式典は1時間ほどで終了し、ティーダにも改めて挨拶を済ませたので、そろそろお暇しようかと思っていたところ急に母さまが声をかけてきた。
「ミント、あそこにいる子って、この前の執務官さんじゃない? 」
ふと見ると、確かにそこにはクロノがいた。隣にはリンディ・ハラオウンと思われる、黒いベールをかぶった緑の髪の女性もいて、同じく喪服に身を包んだ親子連れと話をしているようだった。親子は向こうを向いているので顔は見えないが、背格好から子供の方は俺と同じくらいの女の子のようだった。
ふとクロノと目が合ったので会釈をすると軽く手を上げて答えてくれた。一応挨拶しておこうと思い、母さまと一緒にそちらに移動する。
「松葉杖か。以前よりも良くなっているようで何よりだ」
「ありがとうございます。先日は失礼しました。今日はもしかしてジャンさんの? 」
「あぁ、ランスター二等空曹か。そう言えば彼はブラマンシュの駐留部隊にいたんだったな。そちらも勿論挨拶はするつもりだが、どちらかと言うと今日はプライベートでね」
クロノの口調からすると、どうやらランスター夫妻以外の犠牲者に知り合いがいた様子だった。
「ねぇクロノ、こちらのお嬢さん達を紹介してくれないかしら? 」
リンディさん(推定)がクロノに声をかけた。
「あぁ、先日病院で知り合ったんだ。ブラマンシュのイザベルさんとミントさんだよ。こちらがリンディ・ハラオウン、僕の母だ」
「あぁ、貴女があのショッピングモールの。よろしくね、ミントさん」
にこやかに話しかけてきたリンディさん(確定)にも挨拶をする。
「というかクロノさんもリンディさんも、わたくしにはさん付けは不要ですわよ。クロノさんより6つも年下なのですから」
「あら、貴女クロノの6つ下って言うことは、今5歳かしら? 」
不意にさっきまでクロノが話をしていた親子連れの母親と思われる人が声をかけてきたので、「はい」と言いつつ女性の方に向き直る。
「だったら、丁度フェイトと同い年ね」
優しそうな表情をした女性だったので、イメージが即座には一致しなかった。
「初めまして、ミントちゃんでいいのかしら? 私はプレシア・テスタロッサ。それからこの子が娘のフェイト・テスタロッサよ」
驚きのあまり思考が停止してしまった俺を軽く押し出しながら、母さまがちゃんと挨拶しなさい、と言った。
「初めまして。ミント・ブラマンシでしゅわ」
2か所も噛んだ。だがこれは仕方がないことだろうと自分で言い聞かせる。フェイトはプレシアの後ろに隠れるようにしてこちらを見ていたが、こちらもプレシアに促されて、おずおずとした感じで前に出てきた。
「フェイト。フェイト・テスタロッサ…」
ぼそりとつぶやくように名乗った後、顔を赤らめながらフェイトは続けた。
「えっと、その、君の人形、かわいいね」
どうやらフェイトはかなりの人見知りで、精一杯の勇気を振り絞って話しかけている様子だった。その姿がとてもいじらしく見えた。それに絆されたおかげか、頭の中では「何故、どうして」が渦巻きながらも、表向きは何とか平静を装うことが出来ていた。
「どうぞ、手に取ってご覧になって下さいませ。動きますのよ」
「えっ、動くの? 」
「ええ。トリックマスター」
≪Nice to see you, everyone.≫【みなさん、初めまして】
空中を浮遊した状態でゴシックドレスの裾をちょんと持ち上げるような仕草で挨拶をする。母さま以外の全員が驚いたようにそれを見ていた。
「トリックマスター。わたくしのパートナーですわ」
人形がデバイスの待機モードであることを説明する。
「インテリジェント・デバイスか。随分と珍しい形状だが」
クロノが引き攣ったような笑顔でそう言った。フェイトは大きな瞳を更に見開いてトリックマスターを凝視している。今のところプレシアがフェイトを疎んじているようには見えず、フェイトに話しかけるときに見せる優しいまなざしにも嘘は無いように思えた。そして何より、フェイトのことを「娘」として紹介している。
これは明らかに俺が知っているストーリーとは異なる。記憶に齟齬が無ければ、この時期プレシアがフェイトのことを構うことは殆ど無く、教育はリニスに任せっきりだった筈だ。そしてクロノやリンディさん達とPT事件前に知り合いだったという話も聞いたことがない。
(むしろ正史じゃない、二次創作小説の世界ですわね)
しかし良く考えてみれば、既にミント・ブラマンシュという異物が入り込んだ世界だ。転生者が他にもいる可能性だってある。かつて俺をこの世界に転生させるきっかけになった人物の顔をふと思い出した。
(そう言えば、アレイスターさんも他の転生者に出会った、と言っていましたわね)
少なくとも、ここにいるプレシア・テスタロッサはPT事件を起こすような人間には見えなかった。
「ミントさん、どうかした? 」
リンディさんの声でふっと我に帰る。咄嗟にそれらしい言い訳を口にした。
「すみません、この事故でジャンさん達以外にも亡くなった方がいらっしゃるのだと、改めて思っていました」
「そうだな。良かったら君も一緒に挨拶してくれるか」
クロノが示した先には墓石があった。そこには「アリア・H」の名が刻まれている。今回の事故で亡くなった、クロノ達の知り合いなのだろう。
「私の親友だったのよ。娘さんが行方不明になって、旦那さんを亡くしてからもずっと気丈に生きてきて、間違った道に進みそうになった私を正してくれた」
プレシア…プレシアさんがそう言う。
「元々僕の父さんが彼女の夫であるH(アッシュ)提督の部下だったんだ。その関係で、彼女とも家族ぐるみで付き合いがあったんだよ。8年前に起こった事故で提督も父さんも他界してしまったけれどね」
「娘さん…行方不明ですか」
その苗字を聞いた時から何となく予想はしていた。だからその答えを聞いた時、思ったほど衝撃は受けなかった。
「ええ。ヴァニラちゃん…ヴァニラ・H(アッシュ)。もう20年以上昔のことよ」
ティーダ回と思わせておいて、何故か気付いたらティーダは空気に。。
まぁフェイトやプレシアが出てきたら空気にもなりますよね。。
ごめんね、ティーダ。。でも君の出番は第5部以降だから。。
それまでこのお話が続くことを祈っていて下さいませ。。
ハーベスターの音声が男性の声をサンプリングしてあるのとは異なり、
トリックマスターの音声は女性の声をサンプリングしてあります。。
少し腐っているようにも見えますが。。